自分の髪の毛が好きじゃない。
細くて、昼休みにほんの少し居眠りをしただけでも、すぐぼさぼさになって寝癖がつくのに、なかなか取れない。
それは我慢するにしても、色が変だと思う。青髪なんて人間の髪とは思えない。私は人間なのに。
アスカみたいな金髪もいいけど、碇くんや洞木さんみたいな黒髪はすごく素敵に思える。染めてみようか。私に似合うだろうか。
葛城三佐の髪は紫色。やっぱり染めているらしい。最初のうちは何も感じなかったけれど、今は変だと思う。紫の髪なんて。
伊吹二尉は、元は黒髪だったのに、最近少し色を抜いて茶色っぽくした。
――ちょっとイメージ変えようかなと思って。
どうしたんですかと聞くと、そう言って、少し恥ずかしそうに笑った。
前の方が良かったです。そう思ったけれど、口には出さなかった。やってみないとわからないことはあるし、何でも試してみたいときもある。気分転換。
使徒はもう来ない。ネルフという組織も、持っている技術の民間転用に協力するためと、更なる研究のために存続が決まった。生活に当面の不安はなく、死に脅える必要もなくなった。その解放感が彼女をそうさせたのかなと思う。
碇くんの髪は素敵。私も髪を黒くしてみたい。碇くんに近づきたい。
誰かの髪を素敵だと思ったり、自分の髪を不満に思ったりすることなんて、今まではなかった。どうでもいいことには違いない。でもしてみたいと思う。私も解放感に浸っているのかもしれない。
それでも、なかなか決心はつかない。私が伊吹二尉に対して感じたように、前の方が良かったなんて碇くんに思われたら嫌だから。
「アスカ……」
朝の週番の仕事を終え、ホームルームが始まる前に、私はアスカに声をかけた。
彼女は、私が惣流さんとか弐号機パイロットとか呼ぶと怒る。「アスカさん」でもダメで、「アスカ」と呼ばなければならない。人の呼び方一つとってみても色々と難しいなと思う。試しにラングレーさんと呼んでみたことがあるけれど、振り向きもしなかった。自分が呼ばれているとは思わなかったのだろう。
どうして「アスカ」と呼ばなければならないのか、彼女に聞いたことがある。
――アタシの友達は、みんなアタシのことアスカって呼ぶもの。あんたとアタシは友達でしょ? だったらアスカって呼びなさい。わかった?
最初に会った時に彼女が言ったことを、不意に思い出した。
仲良くしましょ――。
「どうしたの? ファースト」
アスカは私をファーストと呼ぶ。私がファーストなら彼女はセカンドのはずで、いつかそう呼んでみたいと思うが、なかなか勇気が出ない。怒られるに決まってるから。
彼女は国語の教科書と端末の画面を交互に睨んでいた目を私に向けた。その端末にはいつも辞書ソフトが立ち上がっている。漢字の勉強をするために。
定期テストも近い。漢字が読めず、問題の意味がわからないばかりに点が取れないのは頭に来る。アスカはいつもそう言っている。
彼女は驚くほど簡単な漢字を間違えたりする。例えば「持つ」と「待つ」を間違えたり、「恋」と「変」を間違えたり。恋愛と変愛ではあまりにも意味が違い過ぎる。
かと思うと、とても難しい漢字をすらすらと書いたりする。顰蹙、薔薇、殲滅、僥倖、魑魅魍魎、蝋燭、鑾、爨炊、鑿壁偸光……。何か根本的に勉強方法が間違っているのではないかと思うけれど、口には出さない。そもそも何の勉強をしているのだろう?
「髪を、黒く染めて見ようかと思うの」
「ふーん……」
アスカが私の顔をじっと見つめる。穴が開くかと思ったころ、やっと目を逸らした。
「……ちょっと想像できないわね。シンジには聞きたくないんだろうから……カヲルにでも聞いてみたら? あいつ、そういうセンス、結構あるわよ」
渚カヲル。私は彼が得意ではない。彼はアスカのことが好きなんだと思うけれど、やたらと碇くんにもちょっかいを出している。ホモだという噂もある。もし本当にホモで、碇くんを狙っているのだとすれば、彼は私の敵、「殲滅」すべき対象となる。
「あ、ヒカリー!」
職員室から戻って来た洞木さんに、アスカが声をかける。
「なあに?」
「ファーストが髪を黒く染めたいって言ってるんだけど、似合うと思う?」
「うーん、難しいけど……」
洞木さんも私の顔をじっと見つめた。今度こそ穴が開くと思った頃、彼女は目を逸らしてため息をついた。
「校則で禁止なのよね。髪を染めるのって」
「え?」
全く予想外だった。私の夢はガラガラと音を立てて崩れ去り、滝のようにあふれ出る涙をこらえることができない。
「あ、で、でも、黒く染めるんなら大丈夫かも」
「ほんと?」
目の前がぱっと明るくなった。
「……あんた、分かりやすいわね。異様に」
「そう?」
「やっぱりシンジにもちゃんと聞いといた方がいいかもよ。あんまりびっくりさせてもあれだし」
「そうしようかな……」
「押し倒されないように気をつけるのよ」
「……どうして知ってるの?」
私と碇くんの大切な思い出。二人だけの秘密。なぜアスカが知っているのだろう。碇くんがばらしたとは思えない。どこかに盗聴器でも仕込んであるのだろうか。考えられる話だ。アスカには加持さんがついているのだから。
「あんたまさか……押し倒されたこと、あんの?」
アスカの目も洞木さんの目もまんまるになっている。
何か焦っているような足音が背後から近づいて来た。碇くんだ。ひび割れそうなほど硬い笑顔を貼りつかせ、精一杯の速度で歩いて来る。競歩状態。どうして走らないのだろう。
「や、やあ。アスカ。おはよう。綾波も委員長もおはよう。いやぁ今日もいい天気だね暑くなりそうだよね今はいっつも夏だけど冬ってどんな感じなのか興味あるよねもちろん春も秋もそうだけど雪だって見てみたいし雪合戦もしたいし雪だるま作りたいしなんだか気象庁の偉い人はそのうち日本にも四季が戻るって言ってるみたいだけど雪が降るまでどのくらいかかるんだろう僕たちが生きてるうちに雪が降るといいね春夏秋は冬を待つ季節っていうしでも日本に四季が戻るっていうことは今どこか四季のある場所から季節が失われるって事だと思うからそれはそれで申し訳ないような気もするんだよねそれにしても日本は元々は四季があったのに今は常夏だって事は地軸がずれてるって事でつまり地球は南極と北極を中心にして回ってないって事なんだよねたぶんそれが元に戻るってちょっと想像できないよね自転軸そのものがずれてつまり自転軸の公転面に対する角度が変わったって言うんなら元に戻るのも納得できなくはないけどこれも結構大変な話だと思うんだよねあははあははは綾波ちょっといいかな」
碇くんは息継ぎもせず、全く意味不明なことを一気に喋り切ると、私を小わきに抱えて脱兎のごとく走りだした。唖然としている洞木さんとアスカの姿が視界の隅に入り、すぐに小さくなっていった。
私を抱えて疾走する碇くんを、廊下でお喋りをしていたみんなが呆然と見送る。私はさりげなくスカートの裾を押さえ、みんなに向かって手を振った。こういう時、どんな顔をしたらいいのかわからない。いろんな事を覚えたつもりだったけど、まだまだ知らないことが沢山あるんだなと思う。
碇くんは私を抱えたまま階段を駆け上がって行く。私の体重は重い方ではないけれど、彼のどこにこんな力があったのだろうかと思う。こういうのを火事場の馬鹿力と言うのかもしれない。でもちょっと素敵。
屋上までたどりつき、碇くんはようやく私を降ろして言った。
「綾波……」
「なに?」
「何度も言ってるようにさ……」
彼は荒い息をつきながら言う。
「あれは事故なんだよ。押し倒したわけじゃないんだ。たまたま一緒に倒れただけなんだよ」
「一緒に倒れることを押し倒すって言うのではないの?」
「全然違うよ」
碇くんは大きくため息をつく。
「偶然じゃなくて、ちゃんと目的を持って倒すことを押し倒すって言うんだよ。あの時、僕は綾波をどうこうしたいとかは思ってなかったんだ。あ、い、いや、もちろんそれは、その、いま僕が綾波を押し倒したいと思っているかどうかとはあんまり関係なくて、つ、つまりその、僕たちは中三で、受験もあるし、その、えーとつまり、高校に合格したら、父さんや母さんには内緒で素敵なペンションにでも行って、そ、それなりの状況をセッティングした上で――」
碇くんの目が泳いでいる。全然関係のない話をしているような気もする。
私にとっては、押し倒すの厳密な定義なんてどうでもいいことだった。あの時、私は碇くんに押し倒された。それは私にとっては事実だったから。
今の私にとって大事なのは、髪を黒くして似合うかどうか。
「だ、だから僕は、夜ベッドの中で綾波のことを考えて、なんて、いいいいけないことだと思うんだ。だ、だから我慢しようと思うんだけど、その、やっぱり僕も男だし、どうしようもない時もあって、そ、それで、ケンスケはその手の本を色々回してくれるんだけど、やっぱり本の中の知らない大人の人なんていまいちだし、じゃあ綾波以外の誰かのことを考えてなんて、その誰かに失礼だし、それは綾波や、それに僕自身に対する裏切りだし、それならいっそ綾波の方がって思うし、ケンスケの撮ってくれた写真もあるし、綾波なら許してくれるような気もするし、それはすごく自分勝手なのかもしれないけど、結局僕は心の中で必死になって綾波に謝りながらも――」
「碇くん」
「……え?」
「髪を、黒くしようかなと思うの」
「……」
「どうかな……」
「……」
碇くんがじっと私を見つめる。今度は私が視線を泳がせる番だった。彼に見つめられて平静ではいられない。時々ちらりと視線を合わせては、あわてて逸らす。無意味に足踏みしたり、制服の裾を気にしてみたりする。碇くんの視線は他の人とは違う。他のみんなはただ穴を開けるだけだけれど、碇くんのそれは、強力な上に火までつける。だんだん顔が熱くなってきて、もう発火寸前で、おでこのあたりにはもう完全に穴が開いたと思った頃、碇くんはやっと視線を逸らして呟いた。
「そうだなぁ……」
私はおでこに手を当てて、穴が開いていないかどうか確認した。まだ開いてはいなかった。危ないところだった。あと一秒見つめられていたら、完全に穴が開いて、火もついていたと思う。彼にATフィールドは通用しない。これからは、いつ火がついたり穴が開いたりしてもいいように、ペットボトルに水と、大きめのバンソーコーを持ち歩こうと思う。バンソーコーよりも包帯の方がいいかもしれない。包帯とバンソーコー。彼はどっちが好みだろうか。包帯姿は見慣れているはずだから、バンソーコーの方が新鮮でいいだろうか。それとも包帯の方が見慣れている分だけ安心感があるし、包帯少女の私らしくて好みだろうか。あらかじめ聞いておくのは変だから、両方持ち歩いていて、穴が開いたときに直接聞いてみよう。……早く開けてくれないかな。
「……にしてもらったらどうかな」
「え?」
バンソーコーと包帯のことを考えていて、碇くんの言葉を聞き漏らしてしまった。
「マヤさんって、そういうの得意だと思うんだ。それとも母さんの方がいいかな。リツコさんでもいいけど……。誰か暇そうな人に頼んでみようよ」
「そ、そうね……」
私は話が見えないまま、曖昧にうなずいた。
「でもさ」
また碇くんが私を見つめながら、私の方に手を伸ばしてくる。
「この髪、僕は好きだけどな……」
細い指先が髪に触れ、そっと梳いた。
「空色でさ、可愛いと思うよ」
足が震え、私は思わず目を閉じる。髪の毛の一本一本から伝わってくる感覚に、私の身体はふわりと宙に浮いた。碇くんの指先は魔法の力を持っている。この不思議な感覚はなんだろう。身体が熱くなって、心臓がどきどきして、呼吸は浅く早くなっているのに、すごく安心する。
目を閉じていても、彼の視線を感じる。碇くんは私を見つめながら、何度か髪を梳いた。その度に身体からどんどん力が抜けて行き、自分がどこにいるのかわからなくなる。
膝から力が抜けて、身体が甘くなって、もう訳が分からなくなりそうで、碇くんに許しを請うために手を伸ばした時、まるで邪魔するようにチャイムが鳴った。
きーんこーん。
「ホームルームがはじまるよ。教室に戻らなくちゃ」
碇くんはそう言って私の手を取った。
本当は許してなんか欲しくなかった。ずっと髪に触れていて欲しかったのに、どうしてチャイムなんか鳴るのだろう。チャイムのいじわる。
碇くんに手を引かれて走りながら、私はそんなことを思った。
今日の食事当番は私で、ネルフに行く用事もなかったから、碇くんと一緒に買い物を済ませて家に帰った。
食事当番と言っても、私はまだ碇くんに教わりながらでないと何もできないし、司令――お父さんは順番に入っていない。だから実質的にはお母さんと碇くんで作っているのに、碇くんは私の当番のときも見ているから、すごく大変だと思う。だから碇くんが当番のときも手伝うようにしている。勉強にもなるから。
碇くんと一緒にキッチンに立つのは楽しいけれど、早く上手になって、自分一人で料理ができるようになりたい。そして碇くんに、私の作った料理を「美味しい」と言って欲しいと思う。
お母さんが食事当番のときも、なるべく手伝うようにしている。少しずつ色んな事を教えてくれるし、聞けば丁寧に教えてくれる。やり方も、碇くんとは少しだけれど違っていて、やっぱり勉強になる。
お母さんはとても優しい。
あなたの存在に責任を感じている、とポツリと漏らしたのを聞いたことがある。それからにっこりと笑って、私の娘だっていうことよ、と言った。
私はお母さんの娘だ、と思う。私が作られた理由なんて、もう私の中ではどうでもいいことだった。
過去は消せないけれど、とお母さんは言う。
でもそれは、これから幸せになることの障害にはならないのよ――。
私のお母さんは碇くんのお母さんで、お父さんの妻だ。それなら碇ユイのはずなのに、戸籍上は綾波ユイになっている。それが少し不思議で、みんなで食事を終えた後、お母さんに聞いてみたことがある。一緒に住むようになってすぐの頃だった。
「私は一度消えているから」
「……」
「戸籍は抹消されてるのね。やっぱりそのままだと色々不都合だから、復活させたもらったんだけど」
「……」
「調べてみたら、レイの戸籍もしっかりしてないのね。この人が何を考えていたのか知らないけれど」
お母さんがお父さんを横目でちらりと見ながら言う。お父さんは動揺を隠しながらお茶をすする。
「戸籍をどう復活させるかなんて、どうにでもできる状況だったの。どさくさにまぎれて。リツコちゃんも手伝ってくれたし」
司令が激しく咳き込んだ。お茶が肺に入ったのだろうか。
「だからレイの名字をもらって、綾波ユイにしたの。母親が娘の名字をもらうっていうのも悪くないなと思って。それにね」
お母さんは私と碇くんの顔を交互に見ながら、本当に嬉しそうに言った。
「私が碇姓に戻って、レイを養子縁組かなんかで碇レイにすると、色々とややこしいのよね。レイとシンジが結婚するとき」
私は頬が赤くなるのを自覚した。碇くんと結婚。ずーっと一緒。
数秒後、碇くんが少しあわてたように言った。
「かか、母さん。ぼ、僕たちはまだ結婚なんて、その」
「あら。あなたたち、結婚するんじゃないの?」
「い、いや、その……まだ中学生だし……」
「シンジ、男の子は自分の行動には責任を持たないといけないわ」
「せ、責任て……」
「私は初号機だったのよ。シンジとはシンクロしてたんだし、何でも知ってるわ。もちろんレイのこともね」
「……」
「だからシンジ、私が黙っているうちに、捨てるものは捨てた方がいいわね」
「……?」
「あ、ケンスケ君の撮った秘蔵の生写真はキープしててもいいわよ。特別に許してあげる」
「!」
碇くんは顔面蒼白になった。別にいけないことはしていないのに、と私は思う。お母さんも怒ってはいない。でも、相田君の撮った秘蔵の生写真って、なんだろう。
その日の話はそれで終わったけれど、翌日になって碇くんはおびただしい量の本をゴミに出した。古雑誌だと彼は言ったけれど、彼の部屋のどこにこんなに沢山の本が置いてあったのだろうか。
彼は早口で何か言いながら、怒涛のように脂汗を流していた。いつもより暑くないのに。
お父さんとお母さんが一緒に帰ってきて、碇くんに手伝ってもらいながら作ったご飯を、みんなで揃って食べた。
ご飯を食べながら、お母さんは私たちに学校での出来事を聞いたり、ネルフでのことを話したりする。お父さんはだいたい黙っているけれど、しっかり聞いているのは分かる。
家族で揃って食べるご飯は美味しいと思う。もう私一人では食事なんてできないかもしれない。淋しくて、味気なくて。
洗い物をみんなでして――お父さんは何回もお皿を割ってから仲間外れになってしまったけれど――きちんと拭いて食器棚にしまい、おせんべをつまみながらお茶を飲んでいるとき、碇くんが急に言った。
「ねえ母さん。綾波がさ、髪を黒くしようかなって言ってるんだ」
お父さんがちらりとお母さんの顔を見て、それから私を見て急に激しく咳き込んだ。口元を押さえながら席を立つ。
「お父さん、大丈夫?」
私がそう言うと、問題ない、と聞き取りにくい声で言って、書斎に歩いて行く。本当に大丈夫だろうか。お父さんにも長生きして欲しいから、健康には気を使って欲しい。
お父さんの背中を見送ってから、碇くんが先を続ける。
「綾波の写真かなんかをコンピュータに取り込んでさ、試しに髪を黒くして、似合うかどうか見てみたいんだ。マヤさんにでも頼もうかなって思ってるんだけど、どうかな」
昼間、碇くんが言っていたのはこの事だったのだろうか。素敵なアイディアのように思える。聞き逃していなければ、すぐにでも本部に行ったのに、と思う。
「……マヤちゃんの手を煩わせることもないわ。ちょっと待ってて」
お母さんはそう言うと、お父さんの書斎に消えた。
「どうしたんだろう。今からお母さんがやるのかな」
「……」
わからない。だから私は、黙ったまま首をかしげた。
お母さんがアルバムを持って戻って来た。お父さんは引きこもったままだ。
アルバムのページを繰っていたお母さんは、これなんかどお、と言ってページに貼り付けてある写真を指さした。
「十四の頃のお母さんよ」
そこには私がいた。
碇くんが口をあんぐりと開けて写真を見つめる。しばらくたってから、ぼそっとつぶやいた。
「考えてみれば当たり前だけど……すごいや……。綾波だよ……」
考えるまでもなかった。私の身体はお母さんから作られたのだから。
写真の少女と今のお母さんを交互に見て、お母さんみたいな素敵な大人になれたらいいなと思う。そのためにはしっかりと生きなければいけない。これもお母さんに教わったこと。
「綾波……やめた方がいいよ……」
「どうして?」
「確かに似合うけど、これじゃほとんど母さんだよ。いくら外見だけでも、母親とキス……あ、いや、その……」
お母さんが笑いながら言う。
「レイ、そのままの方がいいみたいね」
「はい」
しどろもどろになっている碇くんを見ながら、私はそう答えた。
だって、髪の毛の色なんてどうでもいいことだから。碇くんが気に入ってくれるのなら。
お風呂上がり、鏡の前で髪をとかしながら思う。
瞳の色が変かもしれない。
紅い瞳なんて――。
あとがき
はじめまして。tambと申します。
綾波天国開設記念兼一万ヒット記念(意味が分からん)ということで投稿させて頂きました。こういう話ならいくらでも書けます。ネタと時間があれば。つまりそんなには書けないんですが(なんだそれは)。
読んだ方はお分かりかと思いますが、これは天然系レイちゃんの話で、タッチさんの作品に続いてまさに何だかなって展開です(^^;)。しかもネタがカブってるし。
それはそれとしまして、ユイさんがこうして復活しているという設定で私が書くのは、公式にはこれが初めてです(だよな)。実は避けてたんですが、書いてみるとこの手の話なら割と使える設定だということがわかったので、何かに行き詰まったらまたこの設定で書くかもしれません。その時はよろしくお願いします。
しかしこの設定、LRS的にはやや厳しいものがあるのですよね。それに対する対処法もいくつか考えてはいますが、場合によってはイタモノに……。