最近のNERVと学校。
使徒の攻撃もめったに無い。
要するに平和・・・。
そんな平和の中でしばし普通の中学生として過ごすチルドレン。
この話はそんな中のチルドレンのお話。

・・・アスカ、全編あわせてもほとんど出ないけどね(汗)




「おはよう、綾波」

学校の階段。
先を上っている綾波を見つけたシンジがとっさに綾波の肩に手をかけて挨拶。

「いっ、碇君・・・(ぽっ)」

当然綾波としてはうれしいかぎり。
もちろん朝っぱらからシンジの犯罪とも言えるまぶしい笑顔を目に出来たからで、そんな彼女の頬は微妙に朱色に染まる。

・・・・が。

そんなまぶしい笑顔に見とれていた綾波の視点が急速に変わりだした。
これは別に自分を取り巻く周りの環境が急変したとか、長期的に見た結果、というわけではない。
文字通り、視点が急変したのである。


『ポキっ♪!!』





第一話 「なんじゃそりゃ〜!!」





「ピーポーーピーポーー」

今日もどっかで鳴り響いているであろうあんまり良いものとは感じられないサイレンの音。

「・・・いっ・・・痛い・・・(ぐすっ)」

その中で苦痛に顔をゆがめ、必死に痛みをこらえている蒼銀の髪を持ついたいけな少女。
その少女の意識をなんとか繋ぎ止めているのは彼女の手に握られた一人の少年のぬくもり。

「綾波・・・」

が・・・その手の持ち主の少年は顔面に血の気が感じられない。
こっちも・・・というより顔色だけ見ればこちらの方が重症患者のように見える・・・。

「(綾波が落ちたのは僕のせいだ・・・僕があんなところで声をかけなければ・・・)」

とことん自分の中で自分を責め続ける少年。



そう・・・綾波は階段から落ちたのだった。
もちろんシンジのまぶしすぎる笑顔に見とれていたからであり、その責任は彼女自身にあったといえる。
しかし、周りからは単純にそうは見えなかった。

『シンジが肩に手をかけたから落ちた。』

シンジにとっては冤罪もいいとこなのだが、そうとしか見えなかった光景であったのは事実である。
まぁ、シンジ自身もそう思っているので無理は無いのだが・・・。



「もうすぐ着くから頑張れ!」

そんな中救急隊員の声が車内に響く。
白に赤のラインが入った車はNERV専用の病院に滑り込んでいった・・・。





「み・・・右足複雑骨折・・・?」

一層少年の顔から血の気が引き、思考能力が70%ほど低下した。
どのくらいかっていうと訳のわからないの存在に気づかないほどである。

「そう、全治半年」
「は、半年!」
「そのあいだは松葉杖・・・いえ車椅子が絶対に欠かせないわね」

白衣の金髪黒眉毛博士からの言葉にシンジは愕然と肩を落とし、リツコの部屋を出る。





『シュン・・・』

純白の清潔という言葉が良く似合う病室にシンジは足を踏み入れた。
病室中央のベッドには右足に巻かれた包帯がなんとも痛々しい少女。
このまま動かないでいるのなら見事な絵画に収まっていただろう。

シンジは恐る恐るベットに歩み寄った。
そしてベッドまであと1メートルに迫った位置。

「・・・綾波・・・本当にごめん!!」

深々と頭を下げる。
微妙に震えている体がその必死さをあらわしていた・・・。

「・・・碇君」

彼が悪くないことは誰よりも綾波本人が一番良く知っている。
落ちたのは自業自得。
当然の報い、といったところ。

「(顔をあげて碇君・・・・悪いのは私)」

そう声を掛けてあげたいのは自分の深層心理。

が・・・・。

綾波の脳裏にはこの時すでに彼女の欲望をそのまま写し取ったようなはっきりと言えば世間受けはあまりしないような計画がその構想を固めていた。

「(彼の側にいつでもいたい・・・)」

そう思う心が彼女を溶かす・・・。


責任・・・取って」

少女から放たれた冷酷な言葉・・・。
シンジはその言葉に耳を疑った。
はたして彼女がそんなことばを言うような少女であっただろうか?
動揺と困惑がシンジの中を一気に支配しようとしていた。

「・・・責任

そんな今にもトリップを起こして自我を失いそうな少年に彼女は念を押すように呟いた。

「(そ・・・そうだよな・・・。人の足をひどく骨折させといて謝るだけで許してもらうなんて虫が良すぎるよな・・・)」

どこかへ飛んでいってしまいそうな意識を自分の身体にくくりつけた言葉は、同時に彼自身の自分を責める意識を強固にしてしまったのは言うまでも無い。
事実、自分のしてしまった(正確には違うのだが・・・)ことに責任を感じ、シンジは半分涙目になっている。


「(逃げちゃ駄目だ・・・逃げちゃ駄目だ・・・逃げちゃ駄目だ!!)」

頭を下げた姿勢で目に浮かびかけている涙を『ぐいっ』とぬぐうと真っ直ぐに少女を見つめた。


「わかった・・・責任・・・とるよ」
『キラーン』

シンジの男としての?言葉を聞いた瞬間、漫画でよく書かれそうな効果音を発し少女の目が怪しい光を放ったのを涙で視界不明瞭になっているシンジが気づくはず無し。

「じゃあ・・・・」

少女から発せられる言葉にシンジはごくっとつばを飲んだ。


「その・・・・・・・・・・治るまで・・・面倒見て・・・下さい
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」
「面倒・・・見てくださいっ」

シンジが再び謎の大迷宮にその真意を探るべく突入せざる負えなくなったのはなんとも痛ましい話。

「・・・め・・・面倒を見る?」
『・・・こく』

綾波の顔はすでにまっかっか。
顔から湯気が吹き出してるという言葉が良く似合う。
シンジの顔は困惑の表情。
言うならば『意味不明』の四字熟語を顔面に両面テープではりつけた、というところだろうか?


「面倒って・・・ど・・・どうやって・・・?」
「・・・そ・・・その・・・御飯食べさせてもらったり・・・学校行くの手伝ってもらったり・・・お・・・・・お風呂・・・・入るの手伝ってもらったり・・・それから・・・
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(滝汗)」」


片方の滝汗の主はもちろんシンジ。
より一層複雑怪奇、脱出不可能の迷宮に己のみを突き落とされた感じは否めないのだが、そんな事を気にできるほど今現在シンジの脳は活動を行っていなかった。
で、もう一方の滝汗はと言うと二人のやり取りをニヤニヤ笑いながらモニターで見ていた葛城ミサト。

「なっ・・・なに言ってるのよ、レイ・・・」

少々顔面がひきつり気味。
口元がひくひくいってしまってる・・・。


「・・・何って彼女のなりのプロポーズでしょ」

モニターを一人鑑賞していたミサトの部屋に診断を下した赤木リツコが入ってきた。

「リ、リツコ〜〜」
「あなたこそ何をそんなに慌ててるのよ?」

ミサトの隣にコーヒー片手に冷静沈着に座る。

「・・・・・・・・・・・・そう言えばそうね〜。誰もそんなこと認めるはずないものね〜」

そんな冷静沈着なリツコの姿を見て『誰もそんなの本気に思わないわね』と冷静な決断を下し、ついさっきの慌てっぷりをあはははははと軽く笑い飛ばすミサト。

・・・・・が。

「・・・・なに言ってるの? 願ったりの条件じゃない。ま、レイよく言ったわってことよ」


「・・・・・・・はっ?


どうやらミサトもマッドサイエンティストの手により大迷宮の入り口に突き落とされてしまったようだ。

「な・・・何言ってるの?リツコ。・・・・冗談きついんだから〜あはははは」

ミサト・・・・顔が笑ってない。
リツコが鉄仮面女であればミサトはおかしいのだがどこか不気味に感じる福笑いといったところ。

「・・・・・ん、そういえばミサトはこの特務機関NERVの真の目的を知らなかったのね」

ネコのかわいいロゴがはいったマグカップをテーブルに置き、リツコは思い出したように『ぽんっ』と手を叩いた。

「・・・・し、真の目的?!」

いきなりの急展開&真面目な話にミサトの顔は緊迫の表情に変化を遂げるのだった・・・。





「な、なんのよ?真の目的って?!」

「(全くだ。・・・リッちゃんは何を言っているんだ?)」

そんな二人の会話を草葉の陰で聞いていた人物(病院のどこに草葉の陰があるのか? という質問はうけつけません)
加持リョウジ。

「(さっきのレイの告白とNERVの真の目的。・・・全く関係ないじゃないか・・・?)」

彼は二重スパイとして探りまわり、NERVの秘密を知っていた。
・・・・ちなみにここで『ミサトよりは』という注釈をつけねばいけないだろう。


「そう、真の目的よ」
「だ、だからその真の目的ってなんなのよ!!」

いつになく機嫌のよさそうなリツコに、しびれを切らしたミサトがパイプイスから立ち上がる。

「そう慌てなくたって今言うわよ」

ふぅーとため息をつき、コーヒーを一口飲むとリツコはミサトと向かい合う形で座りなおした。
いつもより真剣なリツコの視線にミサトは『ごくり』とつばを飲んだ・・・。





「・・・・・花嫁探しよ」





「「(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんですかそれは??!!)」」



加持とミサトの心の中。

「(この人大丈夫? 前から思っていたんだけど頭おかしいんじゃない?)」

という思いが激しく回っていた。

「な、なによ?その花嫁探しって?」
「・・・言葉のまんまよ。NERVの真の目的はシンジ君の花嫁探しが目的な訳。ようは碇司令の子思う心が故に作られた組織なのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ミサト、完全に沈黙。

「それで造られたのがあの子。綾波レイ。碇司令の好みと長年調べ上げたシンジ君の好みによって作られたまさにシンジ君の花嫁になるべく生まれてきた子なのよ」

今まで謎といわれてきた出生の秘密を語るリツコの表情は非常にやりきれないものなのだが・・・・・内容が内容なだけに。。。

「それでもシンジ君が奥手だったから関係は進まなかった・・・。レイ自身も奥手のようだしね・・・」

もうすでになにをしゃべろうとも笑い話か気の狂った人の話にしか聞こえない・・・。


「それが、いま上手くいこうとしているのよ?
これでシンジ君がレイの家に泊りがけで面倒をみることになって急接近。
シンジ君も中学生で奥手と言えど所詮は男の子。
夜のか弱いレイの表情に一発K.O。元から気のあるレイがそれを拒むはず無し。
こうしてレイはめでたく妊娠。今度は本当に責任を取らないといけない状態に持ち込まれ結婚。
こうしてNERVと碇司令の役目は終わりを告げるのよ」


「(・・・・もう帰って寝よう)」

本編とは関係ないのだがふらふらとした足取りで加持は行方をくらまし、姿を見せることは無くなったと言う・・・。
所詮彼も井の中の蛙であったわけだ・・・。



「さてと・・・わたしはシンジ君に伝えてくるわ。『ちゃんと責任取りなさい』って」

いたずら子猫のように微妙に微笑むリツコの笑顔。
ミサトにはその不気味極まりない笑顔をただただ見送ることしか出来なかった・・・。



続く・・・・?





Written by :Neko丸