駅の階段のところでボンヤリと周囲を眺めている蒼銀の髪と紅い瞳を持つ少女。
もう少し年齢が上がれば髪を染めている、と誰もが思いそのことに対して特に何も言わないだろう。
しかし未だ高校生としか見えない少女に対する世間の眼は良くて個性的、年配の人には不良というイメージを持たれる事となる。
その意味では彼女の容姿はかなり目立つモノであり、妙に明るく健康そうな少女の雰囲気とマッチしていなかった。
それもその筈、この少女、綾波レイは別に校則に違反して髪を染めているのでもなければ、カラーコンタクトを入れているわけでもない。
彼女は先天的に色素が乏しいアルビノなのだ。
本人は自分の髪と瞳の色を気にしているのだが、周囲には努めて明るく振舞い、気にしていないように見せている。
高校一年生となったレイは、小学生の頃からの振る舞いによって、ほとんど明るく快活というキャラクターが素の自分に重なってきていた。
無論、精神的に大きなダメージを受ければ昔の暗く他人を拒絶する側面が現れもするが、何かあると思考が連想ゲームを始めて妄想の世界に逝ってしまう事を覗けば、概ね明るく朗らかな美少女と彼女を知っている人間全てが言う事だろう。
では何故彼女はこんな所でボンヤリしているのか?
それは人を待っているのである。
無論ボンヤリとしているのは楽しい記憶に浸って意識が現実から離脱しているためなのだが・・・・・。
今日は土曜日、時刻は午前9時55分。
レイは自分に近寄ってくる存在に全く気がつくことなく佇んでいた。
普段はどちらかといえば時間にルーズなレイが、待ち合わせの時刻より10分も早く来た事を知れば彼女の友人達は驚く事だろう。
レイは普通、良くて5分遅れぐらいであり、場合によっては30分遅れの時もある。
まあ、時間より早く来る事は滅多にないのだと考えて欲しい。
「・・・・レ・・・ん、・・・・・・・レイ・・・・・・レイちゃん!」
レイは自分を呼ぶ声で突如楽しい楽しい心の世界から現実へと引き戻された。
「・・・えっ!?・・・・・は、はい!」
眼を丸くしてビックリ状態のレイは、居眠りを怒られた生徒のように背筋を伸ばし直立不動の体勢を取ってしまった。
「随分楽しい事を考えていたみたいだね?」
クスリと笑いながらレイの顔を覗きこんでいたのは、彼女の待ち人たる碇シンジだった。
「・・・あっ!・・・えっ?・・・・シンちゃん?」
漸く視界に入った相手の顔を認識して声を出すレイの姿は、確かに可愛いものだったが同時に苦笑を浮かべさせるに充分間抜けなものだった。
「そうだよ、待ち合わせ相手の碇シンジだよ。」
クスクスと笑いながら掌をレイの目の前でヒラヒラと動かし、律儀に答えるシンジ。
その様子に自分がどうなっていたのかを知り、ボッと顔を赤くするレイだった。
「う〜、シンちゃん遅〜い!」
責任を転換しようと拗ねた眼で見つめながら声を出すレイ。
「何言っているのさ、まだ待ち合わせの時間まで5分あるよ。でもレイちゃんは何時からここで待っていたの?」
シンジが自分の腕時計を見せながら答える。
確かに時計は9時55分を示していた。
「・・・うっ・・・・、でもシンちゃんが私を待たせた事に変わりないもん。私なんてここで10分も待ってたんだからぁ。待ち合わせの時は女の子を待たせちゃいけないんだからね・・・・・。」
シンジに突っ込まれて、頬を膨らませながら何やら良くわからない理屈で逃げようとするレイ。
実際、彼女がここに来たのは約束の時間の10分ほど前であり、5分程度しか待ってはいない。
倍もサバを読んでいるのだが、シンジには本当かどうかわからなかった。
だがシンジはレイの友人達から、彼女が待ち合わせの時間にルーズな事を聞いていた。
これが実に珍しい事だと知っている。
だからあえてこれ以上時間については突っ込まない。
「はいはい、お待たせしたようですね、お嬢様。申し訳ございません。で? さっきは一体何を考えていたの?かなり意識をすっ飛ばしていたようなんだけど・・・・・・。」
相変わらずにこやかに答えてくるシンジだが、この場合レイよりもかなり上手のようだ。
「えへへへ・・・・・、内緒。」
だがレイも負けじと言葉を濁して誤魔化す事にしたようだ。
本当はシンジが転校してきた初日の事を思い出してニヤニヤしていたのだが・・・・・。
「まあいいんだけど・・・・。でもレイちゃん、あの癖は直したほうがいいよ。かなり怪しいからね。」
呆気なく追求を止めたシンジだが、レイが恥ずかしい思いをしないように注意だけはしておく。
「・・・・う、うん・・・・・・。」
シンジの気持ちがわかるのか、今度は大人しく頷くレイ。
「それにしてもレイちゃん、そのワンピース似合っているね。なかなか可愛いよ。」
いきなりシンジに服装を誉められて嬉しそうに俯くレイ。
「・・・あ・・ありがとう。」
普段の明るさは何処へやら・・・・・、照れて声が随分小さくなっているレイだった。
『やっぱり女の子って、服装とかを誉めてあげると喜ぶんだなぁ。師範が言ったとおりだね。』
そんなレイの姿を見て心の中で思うシンジ。
どうやらシンジがこんな女心をわかったような台詞を吐いたのは、誰かの入れ知恵らしい・・・・。
まあ再会の時のデリカシーの無さを考えれば当然かもしれない。
『シンジ君、デートの時彼女はきっとお洒落してくるはずだ。まず会ったらどこでもいい、普段とは違って綺麗に見えるところを誉めてあげるんだよ。』
シンジの脳裏に先週会った師範の言葉が蘇る。
『ありがとうございます、加持師範。アドバイスが役に立ちました。』
心の中で感謝しながら、シンジは未だ顔を赤くしてモジモジしているレイを現実に戻すべく声をかけた。
『えへへ・・・・シンちゃん、私の格好を誉めてくれた。ちゃんと私のこと見てくれてるんだ・・・・・・・・。』
嬉しそうにそんな事を思っているレイを見れば、シンジが師範より授けられた技はかなり有効だったようだ。
「レイちゃん、そろそろ行かない?映画が始まっちゃうよ。」
シンジがレイの肩をポンポンと叩いて覚醒を促す。
「・・・っ! そ、そうね。あ〜、シンちゃんまた私のこと見て笑ってたでしょう?」
覚醒したレイはまたもやトリップしていた自分を誤魔化すかのように、シンジを叩くまねをしてその手を握って引っ張った。
「さあ、行きましょ!」
苦笑するシンジの手を握って元気に引っ張っていくレイ。
その姿はちょっとうるさいが仲の良いカップルにしか見えない。
これで付合い出してから2週間しか経っていないとはとても思えない姿である。
まあ、2週間前の再会イベントはかなり衝撃的なものではあったが・・・・・・。
だが無論、これはレイのキャラクターに負う所が大きい。
シンジはどちらかというとあまり騒がないタイプなのだ。
しかし妙に爽やかな印象があり、転校した初日には女の子達からの受けはよかったらしい。
短い黒髪に、黒曜石のように深く落ち着いた瞳。
そしてやや中性的だが整った顔立ちに加え、背の高い引き締まった体つきとあっては無理無いかもしれない。
さらには妙に落ち着いており、男女問わず爽やかな印象を与えるのだ。
そのため、積極的に他人と話すことはないシンジにもかかわらず、女子生徒達からは期待の篭った視線を
送られていた。
それに危機感を持ったのがレイである。
実は転校してくる2日前に、運命の悪戯とも言える出来事からシンジの彼女になったのだ。
したがってこの段階ではデートもしていないし、彼女らしい事も何一つやってはいない。
まあ、キスくらいはしていたが・・・・・・。
シンジは小学校5年生までレイと同じ小学校であり、家も近かった。
そして小さい頃から、その容姿のために苛められていたレイを庇い、助けたのがシンジだった。
その当時もレイは仄かな恋心をシンジに対して抱いていたのだが、彼の引越しに伴って5年間ほど離れていたのだ。
無論、シンジが転校してきた学校やクラスにもシンジの事を覚えている面々がいる。
特にレイ達と同じクラスの霧島マナは、レイにとって要注意人物だった。
マナもシンジ同様格闘技が好きで、彼女自身小さい頃から練習しているためかなりの腕前である。
当然シンジと話しが合うというわけだった。
自分同様、昔のシンジを知っており気安く話し掛ける事が出来る。
そして趣味もそれなりに共通するものがある。
さらにレイにとって悪い事に、マナもシンジに明らかに好意を持った視線を送っている。
そこまで危機感をつのらせる状況になり、連想ゲームが得意のレイとあってはシンジを巻き込んで自爆する事はある意味当然であった。
「ちょっとマナ!私のシンちゃんに色目を使わないでよ!」
その一言で周囲の男子生徒のシンジに向ける視線が険しいものとなる。
「何言ってるのよレイ。どうして碇君があなたのシンちゃんになるのよ?」
ムッとしながらもわざとらしくシンジの腕に自分の腕を絡みつかせるマナ。
さすがに幼馴染ということもあって、シンジも顔をやや赤くしながらも平静を保っている。
というよりマナの行動が意表を突いていたのでかわせなかったのだ。
そんなマナの挑発的行動に対抗すべく、レイも普段からは考えられない素早さでシンジの腕を取ると状況を理解せぬまま爆弾発言を行った。
「だって私はシンちゃんの彼女だもん!シンちゃんがこっちに帰ってきた次の日に偶然会って、その後シンちゃんが私を彼女にしてくれるって言ってくれたもん!」
その言葉を聞いて、やれやれといった表情で天を仰ぎ見るシンジ。
その仕草は妙に似合っていたと、その時周りにいた級友達は述べている。
『フウ・・・・・レイちゃんの性格から考えればしょうがないかなぁ・・・・。でも何か、初めから大変な学校生活になりそうだなぁ・・・・・・・。』
両腕を美少女に拘束されつつ、シンジは達観したような表情で事態を受け入れていた。
そのレイの言葉に一瞬怯んだマナはシンジの腕を放し、正面からシンジをジッと見つめる。
普段は臆することなく見つめ返すシンジだが、何故かこの時はマナの視線を受け止める事にかなりのエネルギーを必要とした。
「・・・・・・碇君、レイの言っている事って本当?」
マナの一段低くなった声が妙に静かに耳を打つ。
事ここまで事態が露見してしまった以上、隠す事は得策ではないと考えたシンジは黙って頷いた。
「・・・・・・そう・・・・本当なんだ・・・・・・・・。でも! 私はそんな事じゃ諦めないからね!レイよりも私のほうが胸も大きいし、趣味だって合うんだからっ!ぜーったいに私に振り向かしてみせるわっ!」
いきなり宣戦布告をするマナに呆気に取られるクラスメート達。
シンジを狙っていた女の子達も、この人目を憚らずに宣言する二人と競い合う事はできないようだ。
レイと同じ事件でシンジを知ることになったレイの親友、洞木ヒカリと山岸マユミも呆然と事の成り行きを傍観している。
先程までレイの抜け駆けに怒っていた二人だったが、マナとレイという思いこみの激しい二人の戦いに参加する事は躊躇われた。
レイとマナ。
この二人は1年生だけではなく市立第一高校を代表する美少女なのだが、なかなかにマイペースというか思いこみが激しい事もあって様々な話題を提供しているのだった。
その二人が一人の転校生を巡って言い合いをしている。
気にしている胸の大きさの事を言われたレイがムキになって反論しているのだ。
確かに胸の大きさはマナにアドバンテージがあると多くのクラスメートが認めていたが・・・・・。
しかしレイはスタイルがいいため、相対的に見るとバランスがいいのだ。
ともかくレイは転校生の彼女だと暴露し、転校生も肯定した。
それを聞いたにもかかわらず、マナも略奪宣言をしたのだから話題には事欠かない。
あっという間に学年中にこの話しは広まり、この3人は注目の的となったのだ。
転校して最初の週末、シンジは以前住んでいた所でお世話になった道場の人達に挨拶をしてくる、と言って出かけてしまったため、マナに対して既成事実というアドバンテージを取ろうとしたレイは焦った。
しかし見送りに行った駅で、シンジに
「そんなに僕が信じられないの?」
と穏やかに問い掛けられて俯いてしまう。
そう、自分がシンジの事を信じられないのであれば、彼女だなどと言う事は出来ない。
だが反省すると同時に駄々をこねてこのデートを勝ち取ったレイであった。
この辺は転んでもただでは起きない所であろう。
このデートを楽しみにしていたレイは、珍しく早起きをして時関より早く来たのだからその力の入れようがわかると言うものだ。
かくしてシンジとレイの最初のデートは始まった。
仲良く並んで歩くシンジとレイ。
あれから電車に乗った二人は近くのターミナル駅で降りて、映画館に入るべく移動中なのだった。
「レイちゃん、もう一度確認するけどこれでいいんだね?」
映画館の前で看板を見上げながら訊くシンジ。
そこにはアクションシーンでも話題の海外作品の名前があった。
「うん、だってシンちゃんはこういうの好きでしょ?」
「僕は結構好きだけどね。でもレイちゃんはもっとロマンティックな映画が好きだと聞いたからね。」
確かにレイはアクション映画はイマイチ苦手というか退屈だった。
これはシンジと共通の話題を持っている霧島マナに対抗したいために選んだのだから。
「いいのよ、偶には違った作品を見るのも楽しいから。」
そう言ってレイはシンジを引っ張るように中に入っていく。
シンジもレイが大丈夫というのならいいのだろう、と思いそれ以上は言わなかった。
しかしレイは知らなかったのだ。
これは確かにアクションシーン満載な作品だが、結構怖い作品だということに・・・・・。
次々と襲いかかる魔物を巨大な銃で撃ち倒していく主人公達。
ある時は素手で相手の頭部を破壊する。
だが仲間は次々と魔物によって倒れていく。
ある者は引き裂かれ、またある者は食い殺される。
そして目的地への最後の関門で、守るべき対象である兄妹の妹を敵にさらわれてしまう主人公。
なかなかスリルのある映画なのだが、残念ながらシンジは集中して見る事は出来なかった。
はっきり言って極度の怖がりのレイが引っ切り無しにしがみ付いてくるのだ。
シンジも途中からは慣れてしまい、ああこのシーンは来るな、と思っていると想像通り目を瞑ってしがみ付いて来るレイ。
その度に
「ヒッ!」
とか
「いやっ!」
とか小さい声で悲鳴を上げている。
そう、レイは怖い作品はダメなのだ。
怖いのを我慢して何とか見ようとするのだが、その映像を長く見つめている事は出来なかった。
シンジにしがみつく時は眼に涙を湛え、震えてさえいる。
「レイちゃん、無理しなくいいんだよ。 出ようか?」
そのシンジの言葉を、何度か首を横に振って断ったレイだったが、ついに2/3程進んだところで涙を浮かべて首を縦に振った。
「もう平気?」
シンジが前に座るレイに心配そうに尋ねた。
「・・・・うん・・・・・・・。ごめんねシンちゃん、せっかく映画見ていたのに途中で出てこさせちゃって・・・・・。」
ファミレスに入って注文を終え、ようやく落ち着いたレイはすまなそうに謝った。
「そんな事はどうでもいいよ。でもレイちゃん、あの映画の事本当に知らなかったんだね。」
優しく宥めるシンジにコクリと頷くレイ。
「一昨日マナが友達とこの作品の話しをしているのを聞いたの・・・・・・。結構アクションシーンが凄いって言ってたから、シンちゃんが好きかなぁって思って・・・・。」
「まあ、僕はこの手の作品は平気だし、結構見るけどね。でもレイちゃん、そんなに気を使わなくても良かったのに・・・・・。」
レイがシンジの好きな映画を一緒に見ようとして行ったことなので、どうにも済まなそうに歯切れ悪く答え
るシンジ。
だがレイにはあまりにもジャンルが違いすぎたのだ。
そんな気がして何度か確認したのだが、レイが内容を全く知らずに大丈夫と言っているとはさすがに読めなかったシンジ。
一方、初めてのデートでいきなり失敗と失態を見せてしまったレイは落ち込んでいた。
『・・・もしかしてマナはこうなるとわかっていてわざと私に聞かせたのかしら?』
しかもかなり思考がダークになってきている。
「ごめんね。僕もレイちゃんの好みとか苦手なものとか、ほとんど知らないから・・・・。」
シンジに逆に謝られてしまい、レイは俯いていた顔をハッと上げた。
「しょうがないわよ。私達付合い出してからたった2週間なのよ。そういうのはこれから徐々に知っていけば良いんだから。」
そう言って無理にでも明るく答えるレイ。
シンジの心遣いは嬉しかったが、それに甘えてばかりいるわけにはいかないと気がついたのだ。
シンジはこんなにも自分のことを気遣ってくれる。
様々な事で自分を優先させてくれる。
その事に気がついたから・・・・・・・・。
そんなレイの姿を見てシンジもようやく笑顔を見せた。
「でもこれからはダメな事は事前に教えてね。まあ、今回レイちゃんが怖いものはダメだってわかったけどね。」
「え、えっと・・・・・他は特に無いわ・・・・・・。ダメそうな事があったら今度から先に教えるから・・・・・・。」
二人がやっと普段の姿に戻った頃、頼んでいた料理が運ばれてきた。
シンジはとんかつ定食、レイはカルボラーナだった。
周囲の見た目は普通に、彼らを良く知っているものからは随分静かに食事をする二人。
レイはこれ以上失態を見せたくないのか、普段より作法に気を配って食べている。
だが所詮は付け焼刃、どこかぎこちない動きとなってしまう。
「レイちゃん、僕は普段の明るくって元気なレイちゃんが好きだな。もっといつもみたいに力を抜いてよ。」
食事が終わってホッとしているレイの耳に入ってきたシンジの言葉に、朝からの自分らしくない行動を思い返してはっとするレイ。
シンジにそう言われて考えてみると、明らかに自分をシンジに良く見せようと演技していた事に気がついたのだ。
無論誰でも状況に合わせてその場、その場に合わせた演技をしている。
だが今回のレイの演技はいささか見え見えだったのだ。
シンジが好きなレイらしさがスポイルされてしまい、シンジはレイとデートしているにもかかわらず他の女の子と一緒に遊んでいるような気になっていた。
そう、騒がしいけど明るく屈託の無いレイの笑顔が見たかった。
「そう、そうだよね。やっぱり私らしさって大事だよね!シンちゃんが好きになってくれたのは普段の私なんだもんね!」
嬉しそうに普段の笑顔を取り戻したレイはシンジを見つめた。
「そう、そう。それが僕の知っている、僕の好きなレイちゃんだよ。」
シンジも嬉しそうに見つめ返す。
レイは嬉しかった。
シンジが自分の事をしっかりと見ていてくれる事に・・・・・。
自分は大事に思われていると実感できる事に・・・・・・。
食後の飲み物を飲み終わってようやく普段に戻ったレイ。
そして先程の映画館での事を思い出して顔を赤くする。
怖かったので今までそこまで頭が回らなかったが、何回自分はシンジに抱きついただろう・・・・?
泣きながらシンジにしがみ付いた自分。
さっきまでと違い普段のレイに戻った今、レイは反撃に出ようとしていた。
「シンちゃん、さっきの映画なんだけど・・・・・・」
チシャネコ笑いを浮かべながら話し始めたレイに思わず身構えるシンジ。
確かに彼は普段のレイが好きだったが、今のような笑みを浮かべたレイは厄介な事を知っていた。
「何かな、レイちゃん・・・・・。」
「えへへへ・・・・・、私に何回もしがみ付かれて嬉しかった?」
「なっ、何を言うんだよ!」
「え〜、だってシンちゃん私がしがみ付く度に抱きしめてくれたじゃない。男の子ってこういうの嬉しいって聞いたよ?
で、シンちゃんはどうだった?」
「そ、それはノーコメント。」
シンジはレイの視線を外して政治家のような答えを返した。
「ぶー、ずるいよシンちゃん。ねえ、答えてよ。嬉しかった?」
ちょっと頬を膨らませたレイだが、あくまで答えが聞きたいのか追求を止めない。
「シンちゃんってば。」
レイはシンジの顔を覗きこむように見つめると答えを迫る。
「う、うん・・・・・・、そりゃあ好きな娘に頼られるのは嬉しいさ。」
ボソボソと答えるシンジ。
何となく顔が赤いのは、自分で言っていて恥ずかしいのだろう。
シンジの答えを聞いてにぱっと破顔するレイ。
「よかった、私も嬉しかったんだ。シンちゃんがしがみ付く度に優しく抱きしめてくれたから・・・・・・。」
何やらこちらも顔を赤くして俯き加減に口を開くレイ。
この二人、初々しいのか、周囲を全く見ていないバカップルなのか、判断に困るところではある。
まあレイは基本的に後者なのであろう・・・・・・・・。
だが、そんな二人をジッと見つめている眼があった。
それは同じ店内の3個離れたのボックス席にある3対の眼。
「ちっ、レイったら見ているこっちが恥ずかしいわ。」
「でも碇君、優しいですね。」
「あの映画をまさかレイが見に行くとは思わなかったわ。でもレイにはかえって良かったみたいね・・・・・・。」
3者3様の表情で口を開く3人。
上から霧島マナ、山岸マユミ、洞木ヒカリである。
マナはレイがシンジといい雰囲気なので忌々しそうに、マユミはシンジの優しい態度に羨ましそうに、ヒカリはレイの思いもかけない
選択に驚きながら、それぞれの感想を口にしたのだ。
3人はたまたま一緒になって駅に向かう途中(ヒカリとマユミは本屋、マナはゲームセンターの帰り)、映画館から出てきて涙を浮かべているレイと、それを慰めるように一緒に歩くシンジを見かけて尾行して来たのだ。
最初は映画館でシンジがレイに不埒な事をしたのでは、と疑ったマユミとヒカリも、マナに二人の見ていた映画を教えられ誤解を解いていた。
レイがあの手の映画を苦手としている事を良く知っていたのだ。
そしてその後の二人の会話とレイのすまなそうな表情から、何が起きたのかをほぼ正確に察していた。
「でもあの映画を選んだのって、会話からするとレイみたいね。」
「そうですね、綾波さんが碇君に何度も謝ってましたものね。」
「どうせ碇君がアクション映画を好きだと聞いて、内容も良く知らずに一緒に行ったのよ。でもかえっていい雰囲気になっちゃったじゃない・・・・・。」
もうお分かりだろう、この台詞は上からヒカリ、マユミ、マナである。
その時シンジが立ち上がってこちらに歩いてきた。
さっと身を潜める3人。
レイはボックスから見えないため、こちらには気がついていないはずである。
そしてシンジは3人の席の横を通る時、にっこりと3人に微笑んだ。
「盗み聞きは趣味が良くないよ。」
そう、シンジは自分たちに向けられた視線にとっくに気がついていたのだ。
ばれていた事に気がついた3人がばつの悪そうな顔をする。
「できれば今日の事でレイちゃんをからかったりしないで上げてね。彼女、さっきの事で結構落ち込んでいたから。」
小声でそれだけ言うとシンジはスッと動き出してトイレへと向かっていった。
シンジがトイレに入ると3人はホッと体の力を抜く。
「さすが碇君、気がついていたか。と言うよりはバレバレか・・・・・・。」
シンジの実力を良く知っているマナが溜息をつきながら呟いた。
「碇君ってそんなに実力があるんですか?」
マユミが不思議そうに尋ねた。
「実際に手合わせした事が無いからはっきりとはわからないけど、彼は動きに隙が無いから・・・・。それにレイを刃物を持った男から守ったんでしょ?そういう状況でとっさに身体が動くっていうのは凄いわね。」
マナからそう言われると、あのレイを助けたシーンを見ているヒカリ達も納得した。
あの時、周囲のほかの人間は誰も動く事ができなかったのだ。
「でも碇君の腕を見てみたいわね。レイから盗る前に一度手合わせしてみたいな〜。」
そんな事を言いながらあさっての方向を見るマナ。
するとシンジがトイレから戻ってきたが、今度は軽く目配せしただけで何も言わなかった。
そして自分たちの席に戻ると、立ちあがったレイと一緒にマナ達の席の前を通らないようにレジの方に歩いて行く。
さすがに3人は後を追う気が無くなっていた。
「でもレイったらいいわねぇ、碇君ってかなり当たりよ。」
ヒカリが溜息をつきながら呟いた。
「そうですよね、何か落ち着いていて、それでも頼りになりそうで・・・・・。
綾波さんが羨ましいですね。」
「ヒカリ〜、いいのかなぁ、そんなこと言って?鈴原に言っちゃうぞ。」
マナがにやりと笑ってヒカリをからかう。
「なっ、何を言うのよマナ。
私は鈴原とは何でも無いわよ!」
「はいはい、そう言う事にしておきましょう。でもレイじゃないけど素直が一番だと思うけどな〜。」
結局3人はそれから暫く話をして店を出たのだった。
ファミレスを出た二人は、ウインドウショッピングを楽しみながら駅へと向かった。
駅ビルに入っているデパートに行くためだ。
すっかりといつもの調子に戻ったレイは、シンジの横で嬉しそうに歩いている。
「そう言えば、今日はレイカおばさんには何て言って出てきたの?」
ふと思い出したかのように尋ねるシンジ。
「えっ? 別にそのまま本当の事を言ってきたけど?」
キョトンとした表情で答えるレイ。
その答えを聞いて、自分の母親にもしっかりと情報が流れていた事に気がつくシンジ。
そう言えば母親のユイがやたらと格好とか話題のスポットの話しをしていた事を思い出す。
あれは事前に知っていたユイがシンジを誘導しようとしていたのだろう。
帰ったら色々訊かれるなぁ、と思いながらも表情には出さないで歩くシンジ。
「どうしたの、シンちゃん?」
レイが覗きこむように尋ねる。
「いや、別に大した事じゃないよ。女の子が成長した姿は母親を見ろって言うからね。レイちゃんは大きくなったらレイカさんのように美人になるんだろうなって・・・・。」
その言葉に顔を赤らめて嬉しそうにするレイ。
将来も美人になるといわれて嬉しいのだ。
「でもシンちゃんのお母さん、ユイおば様だって美人じゃない。」
そう、遠い血縁関係にあるユイとレイカはその容貌が似ているのだ。
「でも男の子は父親に似るって言うからねぇ。僕は父さんに似るって言うのはちょっと嫌だな・・・・・・。」
そう言われるとシンジの父、ゲンドウは髭を生やしたかなり強持ての男である。
その容貌に似合わずやさしい人ではあるが・・・・・・・。
そう言われてちょっと引くレイ。
シンジの将来を想像しようとしてできなかったのだ。
「でもシンちゃんはユイおば様似だから大丈夫よ、きっと・・・・・。」
レイとしてもそう言うのがやっとだった。
「まあ、僕は髭を生やす気は無いけどね。」
そんな事を話しながら二人は駅ビルでペットコーナーを見たり、屋上でぶらぶらしたりして帰途についた。
レイも映画館でさんざんしがみ付いたせいか、あれからは適度に距離を取っている。
そして家の近くまで帰ってきたシンジとレイは近くの公園に寄っていた。
見晴らしの良い高台にある公園には、何故か人影がなく二人きりだった。
木陰に移動した二人はそっとお互いを抱きしめ合う。
「レイちゃん、今日はいろいろ歩き回ったけど疲れなかった?」
「大丈夫、シンちゃんと一緒だから・・・・・・・。」
レイはシンジの胸に頬を押し付けるようにして答えた。
シンジに身を委ねるレイの体は柔らかく、その髪からはレイの使うシャンプーの香りがシンジの鼻をくすぐる。
そしてレイはシンジの鍛えられた身体から、助けられた時にも感じたシンジの温もりを感じていた。
そして二人の瞳は見つめ合い、その顔が徐々に近づいていく。
再会した日から数えて何度目かのキス。
これまでのそれは、未だに大人のキスではなく互いの唇を触れ合わせるだけのものだった。
しかし今日はシンジがそっと舌でレイの唇をなぞる。
そのいつもと違う口撃に思わず目を見開いてしまうレイ。
そしてシンジの舌はレイの閉じられた歯を軽くノックしてくる。
その初めての感覚に成す術なく再び眼を閉じて、口を開いてシンジの舌を受け入れてしまうレイだった。
だがシンジとてそれほど経験があるわけではなく、本などで覚えた知識に過ぎない。
軽くお互いの舌を絡み合わせた後に離れる二人。
レイは何となくトロンとした眼をしている。
一方、シンジは思いもかけずに行ったディープキスの余韻を味わいながら、レイがどう思ったのかがわからずにちょっとビクビクしていた。
ひょっとしたらレイは怒るかもしれないな、などと思いながら。
「あ、あの・・・・・レイちゃん?」
中々帰って来ないレイにおずおずと声をかけるシンジ。
「あっ・・・・・シンちゃん・・・・。」
ようやく気がついてシンジの方を見るレイ。
その様子にシンジは安堵していた。
どうやらレイは怒っていないようである。
自分が受け入れられたことにホッとしていると言う事なのだが・・・・・・。
「さあ、遅くなるから帰ろう。」
そう言ってレイを促すシンジに対し、もう少し余韻に浸っていたかったレイはちょっと残念そうな表情をしたが、確実に深くなっていく
自分たちの絆を感じて柔らかな微笑を浮かべていた。
<碇シンジ宅>
「ただいま〜。」
靴を脱いでリビングに入ると、そこにはいるだけでうっとうしい父ゲンドウが何故か座っていた。
勤務先が休みなのだから別にリビングにいる事自体は変ではないのだが、新聞も読まずにただ座っているのは珍しい。
そして横にはニコニコと笑顔の母ユイが座っている。
「おかえり、シンジ。」
「・・・・・・・・。」
声をかけるユイと押し黙ってプレッシャーのみを発散するゲンドウ。
シンジは小さい頃父親を苦手としていたが、武術で体を鍛え精神的に落ち着いてきた中学生ぐらいからゲンドウの無言のプレッシャーを弾き返すようになっていた。
そしてゲンドウがそんなシンジの成長を寂しく感じたりしているのは、ユイしか知らない内緒だったりする。
そんな何か言いたそうな両親を尻目に、冷蔵庫から冷たいお茶を出して一気に飲み干すシンジ。
そのまま再び両親の前を通り、2階の自室に向かおうとしたシンジだったが、父親と母親からの無言の圧力を感じとって渋々と両親の対面のソファーに腰を下ろした。
「・・・・何処に行っていた・・・・?」
唐突に疑問を投げかけるゲンドウ。
「○○だけど。」
自宅最寄のターミナル駅の名を告げるシンジ。
父親の扱い方を心得ているシンジは、簡潔かつ意味不明瞭な質問に対してこれまた簡潔かつ最低限の答えを返した。
「・・・・私の訊きたいことはそんな事ではない・・・・・。」
再びボソリと口を開くゲンドウ。
「父さんの質問からは、あれ以上答えようが無いと思うけどな。」
「・・・フッ・・・・シンジ、お前には失望した・・・・・。」
「僕には父さんが何を言いたいのかわからないよ。」
眼鏡を指で押し上げ、無意味に迫力を増すゲンドウ。
その圧力を正面から涼しい顔で受け止めているシンジ。
その実り無い睨み合いはユイの溜息によって終止符を打った。
「・・・ふう、あなた、それじゃあ真意が相手に伝わりませんよ・・・。」
シンジがゲンドウの真意をしっかりと把握している事を承知で嗜めるユイであった。
確かにゲンドウの足りない言葉では、慣れていない人には意味がわからないから・・・・・。
「・・・むっ、何を言うユイ。」
「いつも話は相手に意味がわかるようにしなさいって言っているじゃありませんか!
何処に行ったのかと訊かれて、行った場所を答えるのは当たり前です!」
「・・・・・・・フッ、問題無い。」
スパーン!
そう言って誤魔化そうとしたゲンドウの頭を丸めた新聞紙で叩くユイ。
「ふう、父さんは相変わらずだね・・・・・。で、何を訊きたいの?」
目の前で繰り広げられた夫婦漫才に呆れながら、渋々話を元に戻すシンジだった。
「シンジ、今日はレイちゃんとデートだったわね?」
いきなりストレートな質問を浴びせ掛けるユイ。しかも確認。
「うん、まあね・・・・。」
父親をあしらえる程成長したシンジでも、母親のユイにはまだまだ勝つ事は難しかった。
「何をしてきたの?」
「別に大した事はしていないよ。
映画を見て、食事をして、デパートでブラブラして帰ってきただけさ。」
「そう、レイちゃん喜んでいた?」
「レイちゃんが怖い系にあれほど弱いとは思わなかったから映画は失敗だったけど、後は概ね喜んでいたと思うよ。」
「ちゃんとお洒落していたレイちゃんを誉めてあげた?」
「そうだね、着ていたワンピースが似合っていて可愛いね、と言ったら喜んでいたよ。」
その答えを聞いたユイは、シンジがきちんと誉めた事に安堵していたが、同時に自分の息子がそこまで気が付くタイプではないと正確に洞察していた。
とすれば、誰かの入れ知恵に違いない。
「ならいいわ、楽しかったようねシンジ。」
「それはそうだよ、彼女とデートして楽しくないわけ無いだろう?」
それ以上、ニコニコと笑顔のユイは質問をしてこなかったので、シンジは立ちあがり自室へ向かおうとドアを開けた。
「・・・シンジ、早く孫を「バキッ」・・・・・・。」
そう言いかけたゲンドウの頭を拳骨で殴って沈黙させたユイは、シンジの方に透き通るような笑顔を向けて言った。
「シンジ、避妊はちゃんとするのよ。」
その一言にピクッと動きを止めるシンジ。
「まだ僕達には早いよ。」
そう言ってドアを閉めようとしたシンジにユイはさらに一言。
「最初の時は優しくしてあげるのよ。」
クスクスを笑いながら言うユイを見ずにドアを閉めたシンジは急いで2階へ上がると、自分の椅子に腰を下ろした。
「・・・全く、母さんのからかい方はいつもキツイよな。でもいつかは僕もレイちゃんと・・・・・・・・・。」
何やら想像して顔を赤らめるシンジ。
彼も健全な男子高校生であるからやむを得まい・・・・・・・。
<綾波レイ宅>
「ただいま〜。」
靴を脱いでリビングに入ると、そこには何やら嬉しそうな表情の母、レイカが座っていた。
レイの父親、綾波勇吾は仕事に行っており母親が一人でリビングにいる事自体は変ではないのだが、その表情は天然系のレイに警戒感を抱かせるに充分怪しかった。
「おかえり、レイ。」
「ただいま、お母さん。」
とりあえず返事をして少し離れた位置に座るレイ。
「シンジ君とのデートは楽しかった?」
「うん、とっても!」
レイは母親の質問に嬉しそうに答える。
こういう時、レイは嘘をつくことができない。というよりは必ず表情に出てしまうのだ。
そして今日何をしていたのかを訊かれ、シンジと同じ事を答えるレイ。
最も映画館でどうなったかは無論内緒だったが・・・・・。
「そう、シンジ君優しいのね。」
ニコニコとシンジを誉めるレイカ。
「うん、可愛いって言ってくれたし、失敗しても優しく慰めてくれたし・・・・・。」
思い出して少しトリップしているレイだった。
「こらっ!その妄想癖を直しなさいって何回も言っているでしょう?端で見ているとかなり怪しいのよ。」
そんなレイを叱るレイカ。
「ムッ、そ、そんな事無いもん・・・・・・・。」
口を尖らせて拗ねたような表情をするレイ。
「あんまりそんな事していると、シンジ君に嫌われるわよ。」
「そっ。そんな事無いもん!シンちゃんはありのままの私を好きだって言ってくれたもん!」
シンジにも注意された事を棚に上げて言い返すレイ。
「あらあら、そんな事まで言ってくれたの・・・・・。と言う事は、あなた何か失敗したのね?」
その母親の追及にぐっと言葉を詰まらせるレイ。
どうやら薮蛇だったようだ。
「た、大した事じゃないわよ・・・・・・・・。」
俯きながらも答えるレイ。
『あらあら、本当にわかり易い子ねぇ・・・・。』
内心そう思いながらも娘を解放する事にしたレイカだった。
「まあ、あまり苛めないでおきましょう。夕飯まで少し時間があるから少し休んできなさい。」
その言葉を聞いて2階に上がろうとしたレイの背中に母親の最後の一言が炸裂した。
「そうそう、楽しむのもいいけどちゃんと避妊するのよ。」
ズルッとこけるレイ。
「な、なな・・・・・、何を言うのよ!」
赤くなってしどろもどろに言い返すレイ。
だが勝敗はすでに決していた。
「レイは体形がまだまだお子様なんだから、シンジ君に頼んで大きくしてもらうといいわよ。」
コロコロと笑いながらとんでもない事を言うレイカだった。
「お子様なんかじゃないわっ!それに娘にそんな事をけしかける母親がいるなんて思わなかったわよ!」
何とかそれだけ言うと、レイは真っ赤なまま2階へと足早に上がっていった。
そんな娘を見送ると、レイカは笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
「ユイ、このまま上手く行きそうよ・・・・・。」
どうやらシンジの母親のユイと共謀して何か企んでいるようだった。
「まったくお母さんったら・・・・・・・・・。あんな事娘に言うなんて、何て非常識なのかしら・・・・・・。」
自分の部屋で何やら怒っているレイ。
その通りだよ、レイちゃん。
「えへへへ・・・・・・・・、でもシンちゃんに優しくいろんな事をやってもらえれば大きくなるかな・・・・・。」
だがその後、またもや怪しげな妄想に突入したのか表情が緩み始める。
「イヤッ、シンちゃん・・・・・そんな事恥ずかしい・・・・・・・・。」
訂正、かなり逝ってしまっているようだ・・・・・・・・・・・・。
何やらクネクネと身体を捩り、にへら〜としている姿は相当怪しい。
お母さんの言うとおり、その癖は直したほうがいいぞ・・・・・・・・。
せめて人前ではやらないようにね・・・・・・・。
この後、レイのトリップは食事を告げる母親の声に遮られるまで続いたのだった。