リナレイちゃん−夏の思い出(後編)


Written by NK




「霧島さん、ケンスケはいつまで埋めておくつもり?」
浮き輪に掴まって浮いているマナに尋ねるシンジ。無論横にはエアーマットに乗ってくつろいでいるレイがいる。レイの乗ったエアーマットはシンジが引っ張っているのだ。
「そうねー、とりあえずお昼ご飯までは確定ね。」
「いいのよシンちゃん、相田君は女子の写真を盗撮しているって噂されてるし。」
「レイちゃん、噂だけで人を判断するのはいけないよ。」
「そうね・・・・ごめんなさい、シンちゃん。」
何やらシンジの前ではやけに素直なレイ。マナはその姿に内心ちょっとムッとしていた。
「それにしてもいいわね〜レイ。碇君に引っ張ってもらって〜。」
「えへへへへ〜、シンちゃん優しいから〜。」
既にデレデレになっているレイだった。
シンジはというとちょっと照れている。
この手の突っ込みは効果がないどころか逆撃をこうむる事に気がつくマナ。今のは結構クリティカルヒットだったようだ。
そこで攻撃の方向性を変えてみる。
「でもレイ、いくら日焼け止めを塗っているからといってずっとマットに乗っていたらまずいんじゃない?」
マナの一言にそれもそうだと考えるレイ。
「そうだね。レイちゃん、やっぱり水の中に入っていたほうがいいんじゃない?」
さらにシンジからの一押しが止めを刺す。
「う〜ん、シンちゃんがそう言うのなら・・・・。じゃあ泳ぎながらマットに掴まっているわ。」
渋々とマットから降りるレイ。
何故ならシンジの顔を間近に見ることができないからである。
いかにレイでも泳いでいるシンジにしがみ付けば洒落にならない事をわかっているので、このマットに寝そべ りながらシンジに引っ張ってもらうというシチュエーションにえらく満足していたのである。
しかしちゃっかりとシンジのすぐ横に陣取ってなるべく身体を近づけようとしている(要するに隣り合ってマットに掴まって浮いている)。
『レ、レイってこんなに積極的だったかしら・・・・・・・?』
そんなレイの様子にマナは内心驚いていた。


そしてさらに少し離れた場所では・・・・・・・。
『うううう・・・・・・・、やっぱりあの二人が相手では中に入れません・・・・・・・。』
心の中で滝のように涙を流しているマユミの姿があった。

そしてシンジはそんな様子を眺めながら、
『うんうん、みんな仲が良くっていいなぁ・・・・・。平和だよねぇ・・・・・・・・。』
等と鋭いのか鈍いのかわからない事を思いながら一人頷いていた。
無論周囲からはバレバレなのに、初々しいやり取りをしている二人も含まれている事は当然であった。





1時間後、お腹を空かせた一同がゾロゾロとパラソルの場所へと戻ってきた。
つまりケンスケは1時間砂に埋められたままだった。
「あ〜腹減ったで〜。」
「さすがに体温が奪われちゃったわね。」
「シンちゃ〜ん、私そんなに焼けてないよね? よーく見てよ〜。」
「大丈夫よレイ! 全然焼けてないわよ!」
「うーん、僕も大丈夫だと思うよ。」
「うううう、全然目立てません・・・・・。」
口々に楽しそうな会話をしながら戻ってくる一行にくらーい視線を向けているケンスケ。
「やっと帰ってきたか〜。 頼むから早くここから出してくれ〜。」
憐れっぽい声を出すケンスケを屈みこんで見下ろすマナ。
「どう、少しは反省した?」
「もう十分反省したよ・・・・・・・。トイレにも行きたいから出してくれ〜。」
「了〜解。じゃあ碇君、お願いね。」
「はいはい、ちょっと荷物に砂が入らないようにしていてね。」
そう言うとシンジは無造作にドカドカと蹴りを入れ始めた。一撃一撃で山盛りに固められた砂を着実に蹴り崩していく。
「・・・・こんな足場で微動だにしないなんて・・・・・・・さすがね〜。」
その様子を見ていたマナが感心して呟く。
あっという間にケンスケの上に積まれていた砂は排除された。
「さあ、ケンスケ。もう一人で出てこられるでしょ?」
シンジの言葉にケンスケも身体に力を入れて脱出する。
「ふー、漸く解放されたか・・・・・・・。サンキュー、シンジ。」
そう言いながら身体に付いた砂を払い落とすケンスケ。
「ケンスケも娑婆に戻ってきた事やし、さあ昼飯食いに行こか。」
ケンスケを加えた一行は海の家へと歩いていく。
そしてトウジの最も好きな食事の時間。
海の家に付き物の粉っぽいカレーも、具があまり無いラーメンも関係なく美味しそうに胃袋の中へと収めていくトウジ。その様子に日頃のトウジを見慣れているケンスケやヒカリ達も唖然としている。それはそれは幸せそうに食べていくトウジ。
シンジはその様子にやや呆然となりながらも、炒め具合が甘いチャーハンを黙って咀嚼していた。
その隣ではレイがラーメンを啜っている。
そしてレイと反対側、シンジの左横ではマナがやはりトウジに呆れた視線を送りながらチャーハンを食べていた。
「・・・・・鈴原君、そんなに食べてお腹大丈夫なんですか?」
マユミがカレーを食べる手を止めて不思議そうに尋ねた。
「何言うてんねん。これぐらいでどうなる訳ないやないか。」
そのような事を訊かれるのが心底不思議だという顔で答えるトウジ。
そんなトウジを見ていたヒカリが今度は尋ねる。
「鈴原、それじゃあいつも昼ご飯はこれくらい食べているの?」
「いや、普段はここまで食べんけど今日は泳いだりして身体動かしたからなぁ。」
「じゃ、じゃあさ・・・・・私妹の分もお弁当を作っているんだけど、余った分を持ってきてあげようか?」
顔を赤くしてやや俯きながらも勇気を振り絞って声を掛けたヒカリだったが、非常に呆気ない了承の回答を得る。
「えっ! ほんまかイインチョ! いや〜そう言うことならいくらでも食うさかい頼むで。」
それはそれは嬉しそうに快諾の返事をするトウジに、こちらも嬉しそうに漸くトウジに顔を向けるヒカリ。
「ねえ、レイちゃん。あの二人ってまだ付き合っていなかったの?」
レイの耳に口を寄せて小声で尋ねるシンジ。
どう見てもお互いの気持ちはバレバレであると思っていたのに、ここまで初々しい行動を取られると自信が無くなるのだ。
「う〜ん、どう見てもバレバレなのに当の本人達だけが気が付いてないっていう感じかなぁ・・・・・・?」
レイも小声で返事をする。
その答えに納得したように頷くシンジだった。
「そうよね、二人とも変わっているわよね。」
クスクスと笑いながらマナも小声でシンジに話しかける。
そんな中、控え目な性格が災いしてまたもやシンジの横に座れず、小声での会話に参加できないマユミは寂しさを感じていた。
『・・・ううう・・・・・また碇君の近くにいることができません・・・・・・。綾波さんはともかくマナさんが羨ましいです・・・・。』
トウジの強靱なお腹と食欲を再確認した後、一行は再び海へ。
シンジはトウジ、マナと一緒にかなり沖まで泳いでいったし、レイとヒカリは背の立つところでくつろいでいる。 レイとしてはシンジがマナと一緒に泳ぎに行ってしまったことは気になるし嫌なのだが、さすがに午前中はずっとシンジにマットを引っ張ってもらったこともあり泳ぎたそうなシンジに気を遣って別行動を勧めたのだった。
シンジもレイが気を遣ってくれたことと一緒に行けなくて寂しそうにしている姿を見ているため、泳ぐコースを示した上でトウジも誘って泳ぎに行ったのだ。
そんなこんなでレイはずっとシンジ達の行方を目で追っていた。
「レイ、そんなに碇君の事が心配?」
ヒカリがそんなレイの顔を覗き込んで尋ねる。
「えっ!? ・・・・そんな事は無いけど・・・・・・。」
「大丈夫よ、碇君はレイのこと凄く大事に思っているみたいだし。レイももっと碇君の事信用しなきゃ駄目じゃない。」
「うん・・・・・、シンちゃんのことは信用しているけど・・・・シンちゃん誰にでも優しいから・・・・・・・。それは悪い事じゃないんだけど、私にだけ優しくして欲しいなって思うこともあるの・・・・・・・。」
「ふーん、レイって意外に独占欲が強いのね。 じゃあ碇君にそう言ってみれば?」
「駄目よ! 私は強くって優しいシンちゃんが大好きなんだから・・・・・・。」
「優しいのはわかっているし、マナが言うにはかなりの腕前みたいだから強いんじゃない?」
「・・・・・そういう表面的な強さじゃないわ・・・・・・・。」
レイはそう言うとちょっと遠い目をして空を見上げた。
「じゃあ何なの?」
「ずっと小さいとき・・・・・私を庇い助けることでシンちゃんは周りの子供達から浮いた存在になっちゃったのよ・・・・・。ヒカリは私がちっちゃい頃苛められてたこと知らなかったっけ? シンちゃんは私と一緒に他の子達に意地悪されたり無視されたりしたの。でもシンちゃんは私を見捨てないでくれたわ。最初は今みたいに腕前も強くなんて無かった。でもいつも私を守ってくれたの。もし逆の立場だったら私にはそんな勇気無い。だって虐められっ子を庇うことで自分も非道い目に合うのよ。周囲から無視されたり排除される事に普通は耐えられない。例え今の私でも無理。でもシンちゃんは私を見捨てなかった・・・・・。」
思い出したくない過去。
だが悪い思い出だけではなかった。
シンジが助けてくれたという、シンジだけが家族以外の唯一の絆となってくれた大事な思い出もあったから。
今なら過去のこととして受け止められる。
そんなレイを見詰めるヒカリの顔は優しげだった。
そしてシンジの強さの本質を知ったような気がした。
「そうなんだ・・・・・・。でも碇君って本当に強いのね。よかったじゃない、あんな恥ずかしい思いをしたけど碇君と想い想われる仲になれたんだから。」
最後はクスクスと笑いながらサラリとあの事件のことをからかうヒカリ。
「ちょ、ちょっとヒカリ! あの事は言わないでよ〜。」
情けない表情で口止めをしようとするレイ。
「わかってるわよレイ。他人には言わないから安心して。ちょっとレイが羨ましくってからかっただけだから。」
片目を瞑っておどけるヒカリに安心したように笑いかけるレイ。
そしてレイが再びシンジを探して沖に眼を向けると、シンジ達はこちらに向かって泳いでいた。
「あら、碇君達帰ってくるわよ。よかったわね〜レイ。」
「もうヒカリったら! そんなにからかわないでよっ!」
顔を赤くしながらレイは抗議の眼差しをヒカリに送る。
「何言っているのよ、レイも少しは泳ぎなさいよ。ほらっ、迎えに行きましょう。」
そう言うとヒカリはゆっくりと泳ぎ始める。
「あっ、待ってよヒカリ。」
レイも慌てて後を追うように泳ぎ始める。
この時二人はマユミが側にいないことに気が付かなかった・・・・・・・。
ゆっくりと顔を上げながら平泳ぎを始めた二人だったが、レイがヒカリに近づくと先程のお返しとばかりからかい始める。
「何よ〜ヒカリ。本当はあなたが鈴原君を迎えに行きたかったんじゃないの〜?」
ニヤニヤと笑いながら話しかける。
「そっ! そんなこと無いわよっ!」
「駄目よ〜。ちゃーんと顔に書いてあるわよ。」
「な、何言ってるのよ!」
顔を赤くして狼狽するヒカリ。
「わかるってば。だって私もシンちゃんを迎えに行きたかったしね。」
片目を瞑ってクスクスと笑うレイに、先程のお返しをされたのだとヒカリは気が付いた。
「何よ〜、さっきのお返しっていうわけ?」
悔しそうにそう告げるヒカリに対して朗らかにレイは答えた。
「そうよ、だっていっつも私がからかわれてばっかりだし・・・・・。偶にはお返ししておかないと。」
そう言って再びクスクスと笑うレイに、いつもと立場が逆転してしまったヒカリもクスクスと笑い始める。
「今回はレイの勝ちね。あっ、ほら碇君達が手を振ってるわ。」
そう言われて前を向くと、手を振っているシンジとマナが見える。
話しているうちに彼我の距離はかなり接近していたのだ。
「お帰り、シンちゃん!」
「鈴原疲れてない?」
ようやく手が触れあえる距離になった第一声はこれだった。
「お待たせレイちゃん。」
「いや〜思ったより疲れたわ。」
まだかなり余裕がありそうなシンジと、傍目でも疲れたように見えるトウジ。
「ちょっと〜、私には一言もないの?」
少し拗ねたようなマナ。
「え〜、だってマナは今までシンちゃんと一緒にいたんだからいいじゃない。」
「そういう問題じゃないでしょ。」
「でもマナもまだまだ余裕ありそうね。さすがに日頃鍛えているだけあるわ。」
ヒカリが仲裁するかのように声をかける。
「まあ私も少し疲れたけどね。あれ? マユミは一緒じゃないの?」
「そう言えばケンスケも姿が見えないけど・・・・?」
「そういえばケンスケのヤツはどないしたんや?」
「マユミはちょっと疲れたとか言って浜辺に戻ったんじゃなかったっけ?そうよねヒカリ?」
「うん。ほらあそこでこっちを見ているわ。」
ヒカリが指さしている方向には、浜辺で座っているマユミの姿があった。
「本当だ。・・・・・・・でも彼女大丈夫かな・・・?」
ちょっと心配そうにシンジが呟くのをレイは聞き逃さなかった。
「なあにシンちゃん?何か心配事でもあるの?」
「いや、あんな所にずっと座っていたらまずいと思ってね。」
「ほなら一度戻ったらええんやないか? ケンスケのヤツはどうせ写真撮影やろうけど。」
トウジの提案に揃って浜辺へと戻り始めた一同。




その頃マユミは・・・・・・・・。
先程からずっとシンジ達やヒカリ達を眺めていたのだが、何やら体調が悪いと言うことを自覚していた。フラフラするし気分が悪いのだ。
『何かまずいみたいですね。パラソルに戻った方がいいかもしれません。』
そう思って立とうとしたのだが、身体が言うことを利かない。
『あれっ? 私どうしたんでしょう・・・・・・。』
俯いてしまい呼吸も速くなっているマユミであった。
「山岸さん、大丈夫?」
突然掛けられた声に驚きながらも、弱々しく顔を上げて声の主を見るマユミ。
「ちょっとマユミ? どこか具合でも悪いの?」
心配そうにマナが尋ねる。
「何か・・・・苦しくって・・・・・・。」
声も弱々しい。
「山岸さん、立てる?」
シンジの問いかけに首を横に振ることで答えるマユミ。
「シンちゃん、マユミどうしたの?」
レイも心配そうである。
「霧島さん、とりあえず山岸さんをパラソルまで運ぼう。 おそらく日射病だと思う。」
「そうね。じゃあ碇君、私は左側を支えるから右側をお願いね。」
頷くとシンジはマユミを立ち上がらせて右腕を自分の肩に廻させた。
マナもすかさず左腕を取って支える。
『うう・・・・、苦しいけど碇君と肌が触れ合うなんて幸せです・・・・・。』
何やら苦しそうなのだが嬉しそうな複雑な表情のマユミである。
『マユミの奴、碇君に支えられて嬉しそうね。まあこの場合やむを得ないわね。』
シンジはさすがにそこまでマユミを見ていなかったが、マナはしっかりと観察していた。
マユミは二人に支えながらパラソルの下へと運ばれ、シートの上に仰向けに寝かされた。
「体温が高く、皮膚が乾いて汗が止まっている。さらに瞳孔が収縮気味で顔色はピンク色。しかし脈拍は大きくて速い・・・・。」
「完全な日射病ね。」
シンジがマユミの状態を皆に説明すると、マナが結論付けるように纏めた。
この二人、炎天下で運動することも多かったのでよく知っているのである。
「じゃあ救急車を呼ばなくて良いのか?」
いつの間にか戻ってきていたケンスケが心配そうに尋ねた。
「大丈夫、この程度なら頭と胸と脇をぬれタオルで冷やしながら日陰で休んでいればすぐ元気になるわ。」
手慣れた様子でタオルを準備しているマナ。
そこへレイとヒカリが小さなバケツを持って戻ってきた。
「シンちゃん、海の家の人に頼んで氷と水をもらってきたわ。」
「ご苦労様、洞木さん、レイちゃん。」
そう言ってバケツを受け取るとシンジはタオルを氷水につけて軽く絞り、マナに手渡した。
マナは先程言った場所に手際よくぬれタオルを掛けていく。
「さすがやな。霧島もシンジも手慣れているみたいや。」
感心したように言うトウジにシンジは苦笑した。
「まあ炎天下で鍛錬することもあるからね。」
「でもワシらだけやったらどうしていいかわからんかったからなぁ。」
「霧島さん、マユミどう?」
「体温も下がってきたみたいだから大丈夫よ。」
そう言われてみればマユミの呼吸もゆっくりしてきたみたいだった。
「ほうか、安心したらなんか腹減ったなぁ・・・・・・。」
「鈴原! こんな時になに呑気な事言っているのよ!」
「いや、もう大丈夫みたいだからトウジも何か食べに行ってきなよ。あんまりみんなで見詰めていてもしょうがないし、ここは女の子同士の方がいいと思うから。ケンスケも一緒に行こうよ。」
そう言ってケンスケも連れて男性陣は海の家へと向かう。
彼らが離れるとヒカリがポツリと呟いた。
「・・・・碇君、気を利かせたのかしら?」
「そうみたいね。マユミだってこんな姿をあまり見られたくないだろうし・・・・・・・。」
「シンちゃん・・・・・・。」
「フフ・・・・。レイは一緒に行きたかったみたいね?」
「何言ってるのよ! そんなこと無いわよ。マユミは大事な友達なんだから心配して当然じゃない。」
ちょっと拗ねたようにレイが答えるのは、僅かではあったが一緒に行きたいと思っていた心の裡を言い当てられたからだった。
「・・・・あの・・・あの、・・・・皆さんごめんなさい・・・・・・・。」
未だ眼を閉じてはいたが、マユミも少しは元気になったようで看病してくれた友達に面倒を掛けた謝罪を告げる。
「何言ってるのよマユミ。気にしないでゆっくり休みなさいよ。」
「そうそう、困ったときはお互い様なんだから。」
恐縮するマユミを明るく励ますヒカリとレイ。
「そうよ、今は回復することだけ考えていればいいのよ。」
マナの声はいつもと変わらないが、マユミには優しいように感じられた。
『みんな優しいんですね・・・・・。でも碇君に支えてもらえました。不幸中の幸いってこう言う事を言うんでしょうか?』
マユミはヒカリやレイ、マナに感謝すると同時に、思いもかけずシンジに支えられ顔を間近で見た事に興奮していた。
顔を両腕で覆っているためマユミの表情は見えない。苦しそうな表情をしながらも、どこか幸せそうなマユミであった。
「でも鈴原君っていっつも食べてない?」
マユミが大丈夫と判断して退屈になったマナがヒカリをからかい始めた。
「えっ?そ、そんな事ないわよ。」
「でも今回、着替えた後もトウモロコシ食べてたし、相田君を埋めた直後もヤキソバ食べていたし、お昼もいっぱい食べてたし、今も何か食べるんでしょう?やっぱり食べ過ぎじゃない?」
ご丁寧にも覚えていたのか、トウジの今日の行動を列挙して見せるレイ。
「レ、レイ! なんで貴方はそんな事はよく覚えているのよ?」
「だって良く食べるなぁ、って思ってたから・・・・・。って何よヒカリ、"そんな事は"っていうのは?」
「そのまんまの意味よ。その記憶力を勉強に使えばもっとテストで点数取れるじゃない。」
「あ〜ヒカリ、言ってはいけない事を〜! ふん、どうせ私は成績悪いですよーだ!」
ヒカリの反撃に拗ねてしまうレイ。
「クスクス、胸も小さいわよね。少なくとも私よりは。」
横から参戦したマナが止めを刺す。
「グッ! マ、マナ・・・・・それを言うなんて酷い!」
拗ねるのを通り越してドヨ〜ンとした雰囲気を纏ってしまうレイ。
レイに胸の大きさと成績のことは言わないほうが無難である。
何故ならその2点はレイが非常に気にしている事であり、突っ込まれると拗ねてしまうから・・・・・。
まあ胸の事がダメージが大きい事はすでに言うまでもないだろう(ドカッ!バキッ!)・・・・・・・・・・・・・・・。
レイはそれ程成績が良くない。平均よりは下である。記憶力は結構良いのだが、あまり真面目に勉強しないためだ。まあ自業自得であろう。
「あっ、御免ねレイ。そんなに落ち込まないでよ。」
暗くなったレイにマナが慌てて謝る。
そう、これまではこうなってしまったレイが回復するのに時間が掛かった。
しかし今は・・・・・・・・。
「グスッ・・・・・いいもん、シンちゃんに優しく慰めてもらうんだもん。」
マナに多大なダメージを与える一言と共に海の家の方に小走りで向かっていく。
泣きまねをしつつもニヤリと笑うレイ。
「あっ!何よレイ〜。碇君の所に行く口実に利用するなんてずるいわよ!」
慌てたマナも追いかけていってしまった。
「何よ二人とも〜。マユミの事を放っておいて行っちゃうなんて無責任ね。」
一人残されたヒカリはちょっとお冠だった。
「・・・すみません・・・・・洞木さんも鈴原君の所に行きたいんでしょう? 私は大丈夫ですから行ってください。」
大分楽になったのだろう、呼吸も静かになり、汗をかき始めたマユミが眼を開けて呟いた。
「ナ、何言ってるのよ! 大丈夫、私はここにいるから心配しないで。」
さすがにここでマユミを一人残して行く事など、責任感の強いヒカリにはできない。
そう、例え心の中でトウジの所に行きたいと思っていても。
「ありがとうございます・・・・・。」
マユミはようやく少し笑うことができた。
「でもさ、マユミ。本当のところはどうなの? やっぱり碇君の事好きなの?」
レイもマナもいなくなってしまったのを幸いに、ヒカリはマユミがシンジの事をどう思っているのかを尋ねた。
「・・・私も自分で自分の事が良くわからないんです・・・・・・。でも多分好きなんだと思います。碇君が綾波さんやマナさんと一緒にいる姿を見ると胸が苦しくって・・・・・・・。」
それはやはり好きってことなんだろうな、とヒカリは思った。
「そうなんだ。でも碇君にはレイがいるからね・・・・・・。あの二人お似合いなんだもん。碇君、レイの事相当大事に思っているみたいだし。」
だが口から出たのは別の台詞。
早い段階で諦められれば心に残る疵も少ないから・・・・・・・。
「ええ、わかっています。それぐらい私にもわかるから・・・・・・。」
そう言ってマユミは寂しく微笑んだ。
友人であるレイから碇シンジを奪い取る事なんてできない。
自分の魅力では無理だろうと思っていたし、親友と思っているレイの彼氏を好きになってはいけないと強く自分に言い聞かせていた。
そこまで話すとマユミは口を閉ざし、かなり楽になったのか上半身を起こしてシートの上に座る。
「マユミ、もう大丈夫なの?何か飲みたくない?」
心配そうに尋ねるヒカリにコクリと頷くと、マユミは喉が渇いている事に気がついた。
「あの、何か飲み物ありますか?」
「じゃあ私買ってくるわ。ちょっと待っててね。」
そう言い残すとヒカリは海の家に向かって走っていった。
マユミは黙ってパラソルの下で海を眺める。
「そう、私が好きになってはいけなかったんですよね。」
「グスッ・・・・初めて好きになった男の子でしたのに・・・・・・・・ヒック。」
ジワッと溢れ出た涙が静かにマユミの頬を流れ落ちる。
一滴、二滴、シートの上に零れ落ちる涙。
マユミはヒカリがが席を外してくれた事に感謝した。
すすり泣くマユミの寂しい呟きを聞く者はいなかったから・・・・・・・・。
「・・・・でも・・・・でも、私が心の中でずっとお慕いしているのなら問題ありませんよね。碇君にご迷惑は掛けませんから。」
どうやら開き直ったようである。
さすがにレイの親友だけはある。
立ち直りは速いのかもしれない。
ヒカリが帰ってきた時、既にマユミは普段の様子に戻っていた。
マユミの初恋はこうして地下への潜伏という形で続くことになる。。




4時過ぎ、マユミも回復したため一同は撤収の準備を終えて帰途についていた。
あれから結局誰も海に入らなかったため、マユミの回復を待ってさっさとシャワーを浴びて着替えたのだ。
「いやあ、今回はいろいろと事件があったよなぁ。」
ケンスケが電車を待っているホームで振り返るように呟く。
「まあ、みんな怪我もなかったし無事終わったんだから良いんじゃない?」
シンジがもういいじゃないか、という口調で言った。
「まあそうだけどな。無事これ名馬って言うしな。」
「ふ〜ん・・・・・・。相田君がそれを言うとはねぇ・・・・・・・。」
そんなケンスケにジト目を向けるマナ。
「な、何だよ霧島?」
「まあいいけどねー。デジカメはしっかりとチェックさせてもらうからね。」
「あっ! ははは・・・・・・・・。」
乾いた笑いをしながら藪蛇だった事を悟るケンスケ。
「相田君、カメラこれ1台じゃないんでしょ?」
レイがポツリと呟いた。
「な、何を言っているんだ・・・・・綾波?」
ズバリと言い当てられて声が震えているケンスケ。
「だっていつも何台も持ち歩いているじゃない。」
レイの追求は止まない。
「だ、だって綾波だって見ていたろ?俺が海で使っていたのはお前達に取り上げられた1台だけだって。」
「まあそうなんだけどね〜。」
確かにその通りなのだが何となくジト眼を向けるレイ。
「相田君。ちょっとこっち向いて。」
その時マナから声が掛かる。
「な、何だよ霧島?」
ギギギギ、と壊れたカラクリ人形のように振り向くケンスケ。
「本っ当にあれ1台だけ?」
まるで容疑者を取り調べるかのような鋭い視線をケンスケに向けるマナ。
「あ、当たり前じゃないか・・・・・・・。」
僅かに動揺しながらも何とか誤魔化そうとするケンスケ。
「私の眼を見て。外しちゃ駄目よ。本当にあれ1台だけでしょうね?」
ジーーーーーーーーー
ケンスケの心を抉るかのような冷たい視線が注がれる。
『外しちゃ駄目だ、外しちゃ駄目だ、外しちゃ駄目だ・・・・・・・・・・・・・・・・・。』
心に必死に言い聞かせようとしたケンスケだったが、マナの視線に遂に居た堪れなくなってしまう。
フッと視線を外してしまうケンスケであった。
「相田君!私から眼をそらさないで!」
「はっ、はいいっ!」
マナの一喝で再びマナとの睨めっこが始まってしまう。
段々と冷や汗が出てきてソワソワとし始めるケンスケ。
そこにレイがポンとケンスケの肩に手を置く。
「相田君、そろそろ素直に話しちゃって楽になったらどう?」
何故か非常に優しい声音で語り掛けるレイ。
まるで刑事モノの取り調べシーンのようだ、と見ていた面々は思った。
その一言でガックリと肩を落とすケンスケ。
「・・・・・・すみません、嘘ついていました。・・・・・・後一台あります・・・・・。」
とうとう自白してしまう。
「そう、やっぱりね。」
マナは呆れたように言うとスッと手を出した。
「じゃあ証拠物件を提出してくれる?」
その一言に観念したかのように鞄から1台のカメラを取り出した。
「フィルムはもう抜き取っているんでしょ?」
マナの容赦ない追求が成される。
ケンスケはガックリとしながらフィルムケースを一つ取り出して渡した。
「じゃあこのフィルムは現像して私達でチェックしてから相田君に返すわね。デジカメのデータも同じよ。それで問題ないわよね?」
ニコリと笑みを浮かべながら(しかし眼は全然笑っていない)そう告げると、マナは自分のバックにそれらを仕舞い込む。
「あっ、そうそう。現像代と写真代は相田君に払ってもらうからね♪」
ニコニコとしながら話すマナに逆らう事は、ケンスケにはできなかった。
「・・・・はい、全てはそのように・・・・・・・。」
肩を落としてしょぼんとしているケンスケに満足したのか、マナとレイの追及もようやく終わりを告げる。
「霧島さんって結構迫力あるんだね。」
「ええ、マナさんは強い人ですから。」
そんな3人を眺めていたシンジが小声でマユミに話しかけた。
『お願いです。そんなに優しくしないでください。これ以上優しくされたら私、貴方の事を忘れられなくなってしまいます・・・・・・。』
表面上いつも通りに返答したマユミだったが、内心ではそんな悲しいことを考えていた。
「おっ、電車が来たみたいやで。」
トウジの声に振り向くと、果たして彼らの待っていた電車の姿が見えた。
こうして色々あったが海水浴は無事終了したのだった。
シンジ獲得戦線に1名の脱落者を出して・・・・・・・。




『クククク・・・・・。こんな事もあろうかともう1台あるのさ。没収された奴は残念だけど、全部パアなわけじゃないから良しとするか。』 他の面々の視線が無くなった瞬間、俯いたケンスケは心の中でニヤリと笑みを浮かべた。
相田ケンスケ、なかなか役者で強かな男である・・・・・・・・・・・・。






(後書き)

海水浴編終了です。後編はちょっと短かったですね。
私自身は1年で4〜6回ぐらい海に行きますが、目的が海水浴ではないので(海には入って泳ぎますけどね)最近どんな水着が流行なのかさっぱりわかりません。
特に高校生の頃何をやっていたかなんて記憶の彼方に埋没してしまって・・・・・・。
まあ車で行けるようになればもっと色々選択肢が増えるんでしょうけどね。
でもケンスケもなかなか役者ですし、トウジも曲者って感じになってしまいました。
今回はちょっとレイが目立たないかなぁ。
レイちゃん、勘弁してね!

NKさんへの感想はこちら


綾吉 :NKさんの「リナレイちゃん−夏の思い出後編」を公開で〜す
レイ  :サボり魔、怠け者、ろくでなし
綾吉 :グハァ! 何故っ!?
レイ  :だって、後編と前編一緒に送られてきた筈・・・
綾吉 :それはそうだが、意図的に間隔を空けたんだよ。NKさんにも断って
レイ  :管理人に言われて、嫌だと言える投稿作家さんは少ないわ
綾吉 :ゲハァ! そ、それはそうだけど、今回は断じて怠けた訳ではないんですよ〜
レイ  :どうだか?・・・まあいいわ。それより今回出番が減ったわ
綾吉 :それは僕のせいではないし・・・・
レイ  :しかも目立ってないし、碇くんとラヴラブファイヤーじゃないわ
綾吉 :(ラヴラヴファイヤーって・・・)でも、ほら、シンジはレイさん一筋だし、ライバルも減ったし
レイ  :霧島マナ、鋼鉄娘、次回殲滅ね
綾吉 :・・・もしかして胸のこと、気にしてる?

只今、グロテスクで残虐なシーンが流れております。

レイ  :殲滅完了。次回、次回はお正月よね。振袖ね・・・・
綾吉 :・・・・・そ、それは、NKさん次第、なんですが・・・
レイ  :皆さん、NKさんが続きを書くようにメールを送ってください
綾吉 :お願いしま〜す♪
レイ  :綾吉は殲滅
綾吉 :イヤァァァァァァーーーーーーーーー!!!!