リナレイちゃん−夏の日の終焉


Written by NK




楽しい時は無限には続かない。
そう、どんな夢にも終わりがあるように、学生にとって楽しい楽しい夏休みにも終わりは来るのである。
2学期の始業式を後11日後に控えた快晴の日の午後、綾波レイは碇家のリビングで泣きそうな顔をしながら彼氏である碇シンジの前に座っていた。
「ふう・・・・・。つまり夏休みの宿題を全然やっていないと・・・・・・・。」
「ぜ、全然って言うわけじゃないけど・・・・・・・。数学と英語は手をつけていないの・・・・・。」
しょぼんとした様子を見せるレイ。
「で、レイちゃんとしてはどうしたいの?」
ちょっと呆れながらも訊いてみるシンジ。
「その前にシンちゃんは宿題終わったの?」
「ああ、僕は8月の前半に泊りがけで道場にお世話になった時、夜は暇だったからやっちゃったよ。」
そう、シンジはあのみんなで海に行った後、8月に入ると直ぐに前に住んでいた町にある道場へと合宿と称して篭ったのだ。
シンジと毎日でも一緒にいようとしたレイのプランはその段階で瓦解してしまい、海から帰った直後にシンジから予定を聞かされた際、盛大に文句を言ったものだった。
だがシンジからこれだけは譲れないときっぱりと言われてしまい、帰ってきたら一緒に遊ぼうと言われ渋々承諾した。
まあ携帯でメールや話しはできるし、途中の日曜日にレイも遊びに行ってシンジが住んでいた町を案内してもらったりしたので不安になるほど寂しくは無かったが・・・・・・・。
仕方なくレイもこれまで通りマユミやヒカリと一緒に遊んだりして8月前半を乗り切った。
ということで8月16日にシンジが戻ってきてから3日間、レイはシンジを毎日のように連れ出してプールだ、ショッピングだ、花火大会だとこれまでの憂さを晴らすかのように遊び倒した。
そして本日の午前中、今日も遊びに行こうと計画していたレイに母親のレイカからキツイ一言が振り下ろされた。
「レイ、夏休みの宿題は終わったのかしら?」
「へっ?お母さん何を言っているのよ、まだ夏休みは10日もあるのよ。」
「そう、あなたがそう思っているのならお母さんは何も言いませんけどね。」
ニヤリと笑うレイカの表情に何かキナ臭い物を感じるレイ。
「ちょっとお母さん、何でそんな気になる言い方するのよ?」
これまでの経験から母親がこういう表情をする時は何か良からぬ事を考えているに決まっている。
「あら、あなた忘れたの?25日から3日間、ユイのところの別荘に一緒に行くって言っていたこと。まあ私はかまわないのよ。
 あなたが別荘に行っても一日中宿題をやる羽目になってシンジ君と遊べなくなったってね。」

レイは頭を殴られたようなショックを受けた。
そうだった。
シンジも言っていたではないか。
8月前半は修行で一緒に遊べない代わりに、8月の終わりにレイの家族と一緒に遊びに行こうね、と。
という事は、25日以降は宿題をやる時間は無い。
すると今日を入れて5日間で宿題を終わらせないとまずいのだ。

レイは頭の中で素早く助けてくれそうな友人を思い浮かべる。
ヒカリは・・・・・・。
多分既に終えているだろうが、そう簡単には見せてくれないだろう。
彼女はそう言う事に意外と厳しいのだ。却下。

マユミは・・・・・・。
そういえば昨日から家族でどこかに行くといっていた。却下。

マナは・・・・・・・・。
おそらく彼女もやっていないだろう。自分と似たり寄ったりなライバルの事を思い浮かべる。
まあ部活が忙しいだろうが、それ以前に何故かマナに助けてもらうのは嫌だった。却下。

トウジは・・・・・・。
終わっているわけが無い。どうせ間際になってヒカリに泣きつくのが見えている。却下。

ケンスケは・・・・。
終わっていそうだが何となく嫌だった。特に理由は無かったのだが・・・・。却下。

すると頼れるのはシンジしかいない。
最悪シンジが終わっていなくても、一緒に宿題をやるという事で1日中一緒にいる事が出きる。
これは非常に魅力的なプランに感じられた。
善は急げという事で昼食後すぐにシンジの家に宿題一式を持ちこんだレイが訪れて今に至っている。

「大体、シンちゃんがいけないのよ。私を放っておいて2週間も武術の練習なんかに行っちゃったじゃない。本当ならその期間に一緒にやろうと思っていたんだから。それなのに自分は一人でさっさと宿題やっちゃってさ・・・・・・・。」
ちゃっかりと責任を転換し、さらに拗ねて見せるレイ。
この辺はなかなか強かだ。
そして拗ねた表情のまま上目遣いでジイィィィ〜と見つめる。
シンジとしてもこの態度に出られると惚れている弱みで承諾せざるを得なかった。
「はぁ・・・・・・わかったよ。レイちゃんがやるのを見ていてあげるよ。 でも写させはしないからね。」
やむを得ないといった表情で承諾の返事をするシンジ。
その答えを聞いてニパッと表情を綻ばせてニコニコとしているレイ。
こうして5日間、シンジの監督の元でレイは1日の大半を勉強で過ごす事となった。
2日間はレイも真面目に勉強に取り組み、3日目の午前中が終わった時点で何とか英語の宿題は8割方終わっている。だが数学はまだ4割程だ。
昼食をユイ、シンジと共に碇家でご馳走になったレイはかなりストレスが溜まっていた。
何しろ自分の家だと漫画だゲームだと遊び道具が一杯あるため勉強になんかならない、とレイカに言われて親の間で取り決められた約定によってシンジの家で勉強していたのだ。無論お泊りではないが。
したがってシンジとずっと一緒にいる事ができて幸せな反面、以外に厳しいシンジによってせっかく二人でいるのに遊べなかったのだから。

そして始まった午後の部。
最初からレイはグデッとしてやる気が感じられない。
「ねぇ〜シンちゃ〜ん。ちょっと休んでどっか息抜きに行こう〜よ〜。」
「レイちゃん、このペースだと明後日までに全部終わらないよ。それでもいいの?」
「だって〜、こんなに毎日勉強だけだと飽きちゃうもん。」
机の上に顔を突っ伏して駄々をこねているレイ。
「そんなこと言ったって、終わらなくて泣きを見るのはレイちゃん自身なんだよ?」
そんなレイの駄々を物ともせず穏やかに諭すシンジ。
「何よ〜、シンちゃんは私と一緒に遊びたくないの?」
「何言ってるのさ、あと2日我慢すれば一緒に遊びに行くじゃないか。」
「でもこんなに勉強ばっかりやってたら脳味噌がウニになっちゃうよ〜。」
ボカッ!
足をバタバタさせ始め駄々をこね続けるレイの頭に突然打撃が加えられる。
「いった〜い!何なの〜。」
頭をさすりながら身体を起こし、後ろを振り向くレイ。ちょっと涙目なのがポイントだ。
無意識に自分の魅力を最大限に使う事ができるあたり、末恐ろしさを感じさせる。
と、そこには腰に手を当てて自分を見下ろす母親の姿があった。
「お、お母さん!」
「全く、そろそろ飽きてきている頃だと思って様子を見に来たら案の定・・・・・・。シンジ君に無理言って勉強を見てもらっているというのにその態度は何です?お母さんは恥ずかしいわ。」
「まあまあレイカ、そう怒らないで。」
お盆に冷たい飲み物を乗せたユイが姿を現す。
「ごめんなさいね、ユイ。家のバカ娘が迷惑かけちゃって。」
「あらあら、そんな事無いわよ。シンジもレイちゃんと一緒に居られて嬉しそうだしね。」
クスクスと笑いながらシンジを見るユイ。
「母さんも何お気楽な事言ってるんだよ・・・・・。このスピードじゃあ24日までに終わらせるにはかなり頑張らないといけないんだよ?」
「そうは言ってもずっと勉強ばかりしていても効率が悪くなるのよ。まあそうは言っても外は暑いから散歩という訳にもいかないでしょうけどね。」
ユイのいう事は理に叶っているので黙ってしまうシンジ。
「だから私が来たのよレイ。まあそろそろ飽きっぽいあなたの事だから駄々をこねてシンジ君を困らせているんじゃないかと思ったら想像通りなんですもの。あなたってわかりやすいわね。」
からかうようなレイカの言葉に頬を膨らますレイ。
何か馬鹿にされたようで嫌だった。
しかも何故シンジの前でそんな事を言うのか?自分の駄目駄目度がさらに上がってしまうではないか。


ピンポ〜ン

その時碇家に来客を告げる音が響いた。
「は〜い、今出ますよ〜。」
ユイがパタパタとスリッパの音を響かせて玄関へと向かう。
リビングはクーラーがかかっているため、玄関でのやり取りは聞こえない。
だが直ぐにユイが戻って来た。
「シンジ、貴方にお客さんよ。」
何やらニヤニヤしながらシンジに告げるユイ。
「僕に? ケンスケかな・・・・・・。」
首を傾げながら立ちあがるとリビングから出て行くシンジ。
その際ドアを完全には閉めなかったのだろう。玄関での声が聞こえる。
「あれ、霧島さん。どうしたの?」
マナの名前を聞いてレイの身体がピクリと反応する。
そのわかりやすい反応に、母親のレイカは訪問者がレイにとってどういう人物なのかわかってしまい苦笑していた。
『あらあら、本当にわかりやすい子ねぇ。』
そしてユイに目配せをする。
頷くユイ。その間僅か1秒であった。
「海に行って以来会う機会が無かったからどうしているかな、と思って。」
レイが居るとは思っていないのだろう。何やら楽しそうな声である。
「そうだったね。僕は8月に入って直ぐに以前お世話になっていた道場に篭っちゃったから。」
「えっ?碇君練習に行っていたの?」
「うん、普段はなかなか集中して鍛錬できないからね。久しぶりに密度の濃い練習ができたよ。」
「え〜その話し聞きたいな。ちょっと上がっていい?」
「う〜ん、今日はちょっと時間が無いから・・・・・・・。」
言葉を濁すシンジにユイが声をかけた。
「シンジ、そんな所で立ち話も何だから上がってもらいなさい。」
「わかったよ母さん。」
振り向いてユイの姿を確認したシンジは諦めたように頷くとマナに上がるように促した。
シンジとしては、マナが来る事でレイが遊んでしまい宿題どころではなくなる事が気がかりだった。
だがユイがそう言うのなら、そうならないように留意してくれるだろう。
「あっ、お邪魔します。」
母親であるユイにそう言われて、慌てて頭を下げ再び挨拶をするマナ。
「どうぞ、ちょっと今お友達が来ているけど気にしないでね。そう言えば貴方小学校の時シンジのクラスメートだったかしら?」
「あっ、はい。4年生の時一緒でした。」
「そうそう、確かそうだったわね。貴方可愛いから何となく覚えていたのよ。」
「い、いえ・・・・そんな事・・・・。」
いつもの活発さは何処へやら、やたら大人しいマナ。
「さあ、いらっしゃい。」
ユイとシンジに先導されてリビングに入ったマナが見たものは・・・・・。
「レイ!?何やっているの?」
「むー、マナこそどうしたのよ?」
途端に探り合うような視線を交わす二人。
だがマナの視界にはレイと良く似た大人の女性もいる(まあユイとそっくりとも言う)。
「あれ?ひょっとするとお隣の方はレイのお母さん?」
マナは小学校の時、シンジの家にもレイの家にも遊びに行ったことが無い。
したがってユイやレイカとは授業参観などで会っているのだろうが、接点が少なくよく覚えてはいなかった。
「初めまして、レイの母親の綾波レイカです。宜しくね。」
「あっ、クラスメイトの霧島マナです。宜しくお願いします。」
ぺこりとお辞儀をするマナ。
「さあ、霧島さん座って。」
ニコニコと席を勧めるユイ。
シンジは仕方なく先程までと異なりユイの横へ座った。
「あっ、はい。」
マナもレイカの横に腰を下ろす。
「ごめんなさいね。せっかく遊びに来てくれたのにシンジはちょっと予定が入っちゃってて。」
ユイがニコニコしながら口を開く。
「あっ、いいえ突然お邪魔したんですから。」
恐縮するマナだったが、テーブルの上に置かれた参考書やノート、プリントに目をやる。
「あれ?もしかしてレイ、宿題をやるために碇君の家に来ているの?」
「うっ、そうよ・・・・。マナはもう宿題やったの?」
レイは情けない現場を見られた事でちょっと引き気味だった。
「半分は終わっているけどね。まあ夏休み中には終わると思うわ。それでレイは?」
そう聞いてマナが自分よりは成績が良かった事を思い出すレイ。
「わ、私は・・・・英語は2割ぐらい、数学が半分ちょっと残っているけど後は終わったわよ。」
「へぇ〜、レイって最後の1週間ぐらいで慌てて宿題をやるタイプだと思ってたけど、結構きちんとやる方なのね。」
「あ、当たり前じゃない・・・・・・・。」
どうせシンジに教えてもらいながら無理やりやらされたのだろうと想像しているマナ。
今度はシンジに矛先を向ける。
「碇君は終わったの?」
「うん、僕はもう終わったよ。だからレイちゃんの監督さ。今も飽きたって駄々をこねてたんだよね。」
クスリと笑って実態を暴露するシンジ。
「ちょ、ちょっとシンちゃん!そんな事言わなくても・・・・・。」
レイが慌ててシンジの方に手を伸ばすが口を抑えるには届かない。
「ずるいわね〜レイ。碇君に教えてもらっているんでしょ?」
マナがジト眼でレイを見詰める。
今回ばかりは反論できないレイ。
何より事実であるし、ちょっと前まで駄々をこねてシンジを困らせていたのだ。
「べ、別に答えを写しているわけじゃないわよ・・・・・・。わからない所をシンちゃんに教えてもらっているだけだもん。」
「でもまだ1週間以上あるのにどうしたの?随分やる気があるじゃない。」
「わ、私が早く宿題を終わらせようとしたら変?」
「別に変じゃないけどね。てっきり夏休み終盤に碇君とどこかへ泊りがけで遊びに行こうと考えて宿題を終わらせようとしているんじゃないかと思ってね。」
ジト眼で突っ込んでくるマナに言葉が詰まってしまい返答できないレイ。
「そうなのよ、シンジ君の所とは家族ぐるみの付き合いだから、明後日からちょっと両家族で2泊3日の旅行に行くのよ。だからその前にレイの宿題を終わらせないとね。」
片目を瞑って真相を暴露するレイカ。
「ちょ、ちょっとお母さん!」
今度はレイカの口を押さえるレイ。
このままでは自分の恥ずかしい事がみんな暴露されてしまう。
「へえ〜、いいですね。どちらに行かれるんですか?」
「那須の方にね、家の別荘があるのよ。そこに二家族で泊まりに行くって訳。」
ユイもニコニコとしながら呆気なく予定を教える。
「ふーん、碇君の家ってお金持ちなんだね。」
感心したようにマナはシンジに告げる。
「よくわからないけど、元々母さんの実家の持ち物みたいだよ。」
「そうなんだ、でも別荘なんていいわね〜。」
表面上穏やか且つにこやかに会話をしているマナだったが、内心は荒れ狂っている。
『碇君がお金持ちなのはいいのよっ!でも何でレイまで一緒に別荘に行くのよ!海に行って以来碇君と全然会えなかったっていうのに!!』
『でも家族ぐるみの付き合いで一緒に遊びに行くんだから、私が付いて行くわけにはいかないし・・・・・。  全くレイったらアドバンテージ有りまくりって感じね!』
どうにも収まらないようだ。
しかしマナは、常識は一応持っている。
宿題をやりに押しかけているレイの邪魔をするわけにはいかない。
さらにはシンジとレイの母親まで揃っているのだから。
出されたアイスティーを飲み干すと残念無念だが立ちあがる。
「ご馳走様でした。それじゃあ私は帰りますね。」
「あらあら、お構いもできないでごめんなさい。」
ユイも立ちあがって挨拶をする。
ユイとシンジはマナを見送るために玄関へと向かった。

残されたレイカはレイの方を向くとからかい始める。
「レイ、あの霧島さんって子、シンジ君を好きみたいね?」
ギクッと身体を震わせるレイ。
「それに挨拶もきちんとできて、なかなか良くできたお嬢さんみたいじゃない。」
またピクッと身体を震わせるレイ。
「宿題も自分できちんとやっているし。」
さらに続く母親の追及。
「な、何を言いたいのよ・・・・お母さん。」
ノロノロと顔を母親に向けるレイ。
「あんまりシンジ君に甘えて、迷惑ばかりかけていると愛想を尽かされちゃうわよ。」
グサリと胸に突き刺さる母親の言葉。
パクパクと口を開け閉めしているレイ。
「わかるわね、この後も真面目に自分から宿題ぐらいやりなさいよ。」
「・・・・・はい・・・・・・。」
この母親の言葉に全く反論できないレイ。
しょぼんと俯いているとシンジ達が戻ってきた。
「さて、勉強の邪魔しちゃったわね。私達は退散するから頑張るのよ。」
レイカはそう言うとユイに目配せしてリビングを出ていく。
母親の目論見通り、その後の2日間レイは真面目に宿題をやり何とか間に合ったのであった。



マナ襲来から3日後、1台の国産中型セダンが東北自動車道を走っていた。
運転席には隣に止まったら絶対に目を合わせたくないサングラスに髭面の強持て男が座っている。
そして助手席には茶色がかったショートカットの美人、後部座席にはやはり茶色がかった髪を肩まで伸ばし色素の薄い灰色がかった瞳を持つ、助手席の女性にそっくりな女性が座っている。
そしてその横には蒼銀のシャギーのかかったショートカットに紅い瞳の少女、黒髪に黒曜石のような深い色合いの瞳を持った少年が並んで座っている。
既にお分かりのように運転しているのは碇ゲンドウ、助手席にいるのはその妻碇ユイ、後部左側に座っているのは綾波レイカ、真中に綾波レイ、右側に碇シンジである。
「でも残念ねレイカ。勇吾さん急な仕事が入っちゃって・・・・・。」
助手席から首を捻って後ろのレイカに話しかけるユイ。
「いつもの事よ。まったく仕事仕事って私の事なんか放っておいてさ。」
ちょっと拗ねているレイカ。だが年齢と言うものを考えてもらいたいものだ。
最も既に40歳を超えているのに、童顔なのか30歳ですと言っても充分通用するユイとレイカなので世間一般から言えば可愛いと言えるかもしれない。
『全くお母さんったら歳を考えなさいよ!』
表面上面白く無さそうな顔をして、心の中で突っ込みを入れるレイ。

「まあ仕方が無いじゃない。勇吾さんの仕事には休日関係ないもねぇ。でも男の人って妻の事を少し甘く見ているところもあるわよね。」
そう言いながらジトっと運転している隣のゲンドウを見るユイ。
『・・・何だ、何が言いたいんだユイ!』
服の下に冷や汗をダラダラと流しながら、表面上は無関心を装うゲンドウ。
『全く・・・・母さんったら昨日の夫婦喧嘩をまだ引きずっているんだな。』
そんな両親の様子を見てシンジはやれやれといった表情をする。
昨日、ゲンドウとユイは珍しく喧嘩をしていた。
発端は大した事ではなかったのだが、相変わらず言葉が足りないゲンドウといざとなったらポンポンと言葉が飛び出すユイの間では言葉のキャッチボールという行為が困難だった。
戦況は泥沼化していき、冷静に観察(傍観とも言う)していたシンジから見れば、どちらが悪いとかいうレベルではなく、お互いもっと相手の言う事をよく聞いてやれよ、というものであった。
まあシンジの中でも、良い悪い以前にゲンドウがもう少しきちんと言葉を喋ればいいんだ、という事は動かしがたい事実ではあるのだが・・・・・。
喧嘩の原因は後部座席に自分とシンジが座ると言ったユイに対し、ゲンドウがユイに隣に座って欲しくて文句を付けたという些細な事なのだ・・・・・・・・。
それが最後の方は、
「じゃあ貴方は息子のシンジが助手席に座るのが嫌なんですか!?」
とか
「シンジは貴方と私の愛の結晶なんですよ!シンジが嫌だって言うのなら私のことも愛していないんですね!」
などといったユイの最後通告のような言葉まで飛び出し、ゲンドウが
「そういう事ではない。」
の一点張りになってしまう。
さすがにここまで来ると黙って見ているわけにもいかず、シンジが仲裁に入り自らが後ろに座るという事で事態の収拾を図った。
内心、何でこんな事を自分がしなければならないんだ、とぼやきながら・・・・・・。
そこへレイカから旦那の勇吾がドタキャンとなったという連絡が入り、シンジが後ろでレイと隣り合って座るという事態を予想したユイが上機嫌になって手打ちとなったのだ。
全くバカらしい話しだ、とシンジは思っていたが口には出さなかった。

『でも母さんとレイカさんってよく似ているよなぁ。』
特に夫に対するリアクションがね、と思い改めて自分の母親とレイの母親を眺める。
二人は親戚なのだがそれほど近いわけではない。
にもかかわらず二人はその容姿が非常に似ていた。
そしてレイカとレイの親子も顔立ちはそっくりなのだ。
この3人、遠目で見れば三つ子とかクローンです、と言っても通用しそうだ。
そしてユイとレイカは性格も良く似ているのである。
『もしレイちゃんと結婚したら、母さんが2人になるっていうことか・・・・・。』
ちょっと恐ろしい事を想像してブルっと体を振るわせるシンジ。
そんなシンジに目を向けるレイ。
「シンちゃん、どうしたの?」
「いや、別に何でも無いよ。」
さすがに考えていた事を口に出すわけにはいかずシンジは誤魔化した。
「ならいいけど、さっきからシンちゃん静かだから・・・・。」
それは構ってくれというレイからのサインなのだが、さすがにシンジもそこまでは頭が回らなかった。
「ずっと座っていたから少し身体を動かしたいなって思っていただけさ。」
そのシンジの言葉に、ユイが頷く。
「そうね、そろそろ休憩が欲しいわね。」
それはゲンドウにとって次のサービスエリアに入れという命令だった。
ゲンドウは黙って車をサービスエリアに入れるべく進入車線へと車を向ける。

「ふあー、ずっと座っていると楽だけど身体がコチコチになっちゃうね。」
そう言いながらラジオ体操宜しく身体を動かしているシンジ。
横ではレイが同じように身体を動かしている。
ユイとレイカは両腕を上げて伸びをしている。
「うーん、父さんお疲れ様。」
そしてゲンドウにねぎらいの言葉をかけた。
「フッ、問題無い。」
いつもの一言を言っただけのゲンドウだったが、内心嬉しくて仕方なかった。
『シンジ、立派になったな。』
だが考えている事はちょっとずれているようだ。
そして5人はぞろぞろと休憩を取るために施設の中へと移動した。
夏休みももうすぐ終わりということで家族連れが多い。
お茶のペットボトルや食べ物を買っている女性陣の横でシンジはゲンドウに話しかけていた。
「父さん、距離にするとあとどれぐらいなの?」
「・・・・距離で言えばちょうど1/3ぐらいだな。」
「じゃあ後1時間ぐらいだね。」
「・・・・ああ。」
とりあえず終了してしまう会話。
どう見ても普通の人間が聞いていたら仲が悪いと思ってしまうだろう。
ゲンドウの容貌がそれに拍車をかけている。
これでスーツでも着ていたら暴力団員に間違えられそうだ。
だがゲンドウの仕事は正反対のものである。

警察庁刑事局長。
これがゲンドウの肩書きだった。
全国の刑事警察の頂点、犯罪捜査を行う刑事達を統括する大元締め、それがゲンドウなのだ。
その威圧的な態度で相手を震え上がらせるゲンドウも、家では奥さんのユイに頭が上がらない恐妻家。
しかしその手腕と言うか能力は飛びぬけており、その事だけはシンジも密かに尊敬していた。
まあ日ごろの態度はどう贔屓目に見ても尊敬の対象にならなかったが・・・・・・・。
従って運転は何時も超安全運転。
何しろ刑事局長が道交法違反で捕まっていては示しが付かない。
ちなみにレイの父親の勇吾は監察医務院に勤めている。
昨日も都内で大きな事故があって、手が足りないという事で行政解剖の執刀医として出勤しているのだ。
ユイはかつて科学警察研究所に勤務していた優秀な技官だったが、シンジの出産と共に退職し専業主婦。
レイカは大手企業の秘書課に勤務していたが、やはりレイの出産と共に退職して専業主婦になっている。
凄まじく忙しいゲンドウがようやく取れた纏まった休みなのである。
休憩を終えて車は再び走り始める。
午後になると山間部特有の雷雨が発生するかもしれないため、昼前には向こうに到着していなければいけない。

車内は賑やかであった。
無論ゲンドウは寡黙である。
シンジとレイもこのメンバーではいちゃいちゃする事はできない。
そんな事をすれば母親にからかわれる事がわかりきっているのだから・・・・・・。
原因は二人の母親達。
日頃の鬱憤を晴らすかのように色々な話題で盛り上がっていた。
シンジもレイも偶に相槌を打っているが、基本的には聞き役に徹している。
まあ、シンジは格闘技以外はそれ程興味が無いし、レイはまだまだお子様である。
熟女二人の会話に入りこめるわけが無い。
『成るほど、父さんが家で寡黙な訳がわかったような気がするよ。でもだから母さんは物足りないんだろうな。』
元々話好きのユイだが、ゲンドウは論外としてシンジもあまり話しが好きな方でもなく興味の範囲も狭い。
ユイとしてはもっと色々家族の中で話をしたいのだろう。
自分が中学生になってからはあまり母さんと昔のように話すことも少なくなったからな、等と思うシンジだった。
『ああ、だからレイちゃんが遊びに来ると嬉しそうに話しているのかな?』
何やら16歳とは思えない深い思考をしているシンジ。
もう少し母さんと話すようにしよう、と考える高校生は少し特異かもしれない。
一方レイの方はと言うと、母親達のおかげでシンジに甘えられなくて不満だった。
シンジは何か考え事をしているようだし、母親達の話題には入れない。
退屈なのである。
でも自分の母親がいつもより嬉しそうに話し続けている事には気がついていた。
だがその理由となるとさっぱりわからない。
実の娘をよくからかってくる困った母親だと思っていたが、予想外に子供っぽいのかもしれない等と考えていた。
専業主婦であるレイカはほとんど1日中家にいる。
レイは学校に行っているので思いもしなかったが、レイカとて退屈なのである。
よって高校生となって親とあまり話したがらない娘とのコミュニケーションの手段としてからかっているのだ。
そうでもしないと直ぐに自室へと篭ってしまうから。
『全く、話し相手がいるからって五月蝿いわね。あ〜あ、早く着かないかしら・・・・・。』

眠そうな表情のレイ。
まだまだ親の心子知らずといった所か・・・・・・・・。





「到着〜!」
「やれやれ昼前に着いたわね。」
「とりあえず足を伸ばさないと。」
女性陣はどやどやと別荘のドアを開けて入って行く。
シンジは表情を変えずに(僅かに疲れたように見えるが)佇んでいるゲンドウに近づく。
「父さん、お疲れ様。家に入って一休みしたら?」
「・・・シンジ・・・・問題無い。」
「でも今日レイカさんと話している母さんを見ていて思ったよ。母さん1日中家に一人でいる事が多いから寂しかったんだね。」
別荘を眺めながらポツリというシンジの横顔を思わず見詰めるゲンドウ。
『・・・・シンジ、お前は成長したんだな・・・・・。』
心の中でそう呟き、息子の成長を喜んでいたゲンドウだったが口に出したのは一言だった。
「・・・・ああ・・・・。」
「これからは学校から帰ったらもう少し母さんと話してみるよ。」
「・・・・そうだな・・・・・。」
これでお互い誤解無く意思疎通ができるのだから大したものである。
男親と息子の関係などこれで良いのかもしれない。
「シンちゃ〜ん、荷物運ぶの手伝ってよ〜。」
レイから声をかけられたシンジは慌てて車のトランクへと走っていく。
そしてシンジ、レイ、ゲンドウで荷物を運び終えると、ようやく全員がリビングで寛ぐ。
「久しぶりに来たけど、やっぱり良い眺めねぇ。」
レイカが窓から外を見て感嘆の声を上げる。
「本当は紅葉の時期に来るともっと綺麗なんだけど。」
残念そうに言うユイ。
「まあ私達だけでは来るの大変だものね。」
「そうね。来るだけなら何とか成るけど、車が無いと来ても身動き取れないからねぇ。」
この会話は暗にゲンドウに紅葉の時期に連れて来いという要望だった。
「・・・・・・・・。」
仕事柄そんな確約はできないため黙っているゲンドウ。
仕方なくシンジが助け舟を出す。
「母さん、昼はどうするの?」
「そうねぇ、着いたばかりで作るの面倒だから食べに行くとして・・・・・・・何処が良いかしら?」
「どっちみち車で行かないと駄目だものね。」
「お母さん、買出しにも行かないといけないんでしょ?」
「それもあったわね。」
「やっぱり一度街中に行かないと駄目なんじゃない?」
「でもお米やお肉、お酒は持ってきたから野菜かしらね?」
「とにかく30分ほど休んだら出発しましょう。」
「山女とか岩魚みたいな川魚のおいしいのが食べたいなぁ。」
「あら、それいいわねシンジ。みんなもそれでいいかしら?」
さすがに山の中に来て海の幸を食べようと言う者もおらず、お昼のメニューは決まったようだ。
昼食兼買出しのため、ゲンドウは再び運転席へと座った。
だが碇一家、思いのほか家族の仲は良いようである。
『でも僕が免許とって車買ったら、絶対一緒に連れて行けって五月蝿いだろうな。』
シンジ君、その推察は概ね正しいよ。

『うーん、どうすればお母さんたちの目を逃れてシンちゃんと一緒に遊べるかしら?下手に見られると後々までからかわれるしね。』
一方レイの頭を占めている最大の関心事はこれだった。
レイちゃん、君ももう少しお母さんの事を考えてあげようね。



川魚料理に舌鼓を打ち、買い物を終えて別荘に帰りついたのは4時ちょっと前。
すでに頭上には発達した雨雲が太陽を隠すように覆っている。
「やっぱり一雨来るわね。」
空を一瞥してポツリと呟くユイ。
「そういえば貴女雷が苦手じゃなかったっけ?」
レイカが思い出したようにレイに小声で尋ねる。
「な、何言ってるのよ。そんなの、へ、平気に決まってるじゃない。」
やや声に震えを混じらせて強がるレイ。
「クスッ、ならいいんだけど。」
ニヤリと笑みを浮かべるとレイカはダイニングへと向かう。
「ゲンドウさん、邪魔にならないようにリビングで大人しくしていてくださいね。シンジ、レイちゃんと一緒に二階にでも行っていなさい。母さん達は夕食の支度をするから。」
要は邪魔するなという事だろう。
まあレイと一緒にいてあげなさいという事らしい。
「わかったよ。行こうレイちゃん。」
遠くでゴロゴロという音が聞こえてきたため、僅かに緊張しているレイは黙ってシンジに従い階段を上がる。
「ゲンドウさん、貴方は上に行っちゃ駄目よ。」
シンジを眼だけで追っておいたゲンドウにすかさず楔を打ち込むユイ。
どうやらお見通しのようだ。
「ウッ・・・・・問題無い。」
大人しく新聞を読み始めるゲンドウ。
「へえ、二階にも二部屋あるんだ・・・・・。」
「うん、こっちはベッドが三つあって僕達家族用の寝室に使ってる。で、こっちが客間。」
扉を開けるとそこは8畳程の和室だった。
「押入れに布団が入っているから、それを使ってね。」
「わかったわ。」
実際に開けて見せた押入れから座布団を引き出すシンジ。
「はい、レイちゃん。」
勧められ、腰を下ろすレイ。
窓を開け網戸にしてからシンジも腰を下ろす。
ゴロゴロゴロ・・・・・
また遠くで雷の音がする。
その音にピクッと反応するレイ。
「ねえレイちゃん、・・・・・・ひょっとして雷苦手なの?」
じっと見詰めながら尋ねるシンジ。
「・・・・・・・・・。」
恥ずかしいのか俯いて黙っている。
「レイちゃん、別に雷が苦手だからって恥ずかしい事無いんだよ。誰にでも苦手は有るんだから。」
「・・・・・・・・苦手よ。」
ポツリと小さな声で呟くレイ。
「ここは雷が激しいところだったから誘って悪い事しちゃったかな?」
シンジは済まなそうな表情をしながらレイの顔を覗き込んだ。
「そんな事無いわ。シンちゃんと一緒に来る事ができて嬉しいもの。」
パッと顔を上げてシンジの心配を否定するレイ。
その勢いに押されるかのようにシンジは身体を引く。
「それならいいんだけど・・・・・・・。でももうすぐ雷雨が来るよ。」
「大丈夫よ。だってシンちゃんが傍にいてくれるんでしょ?」
ニコリと笑って正面から顔を近づけるレイ。
そのあまりの近さにシンジは顔を赤らめる。
「う、うん。それはもちろん。」
「じゃあ大丈夫・・・・・。私の事守ってね、シンちゃん。」
そう言うとレイはファサッとシンジの胸に顔を寄せ抱きついた。
「レ、レイちゃん!」
肩に手を乗せたものの、あまりに無防備なレイに動揺を激しくするシンジ。
「・・・・お願い、・・・・・・・しばらくこうして抱きしめていて。」
だがレイの縋るような口調での懇願にハッとなり、そのまま腕をレイの身体に廻して優しく抱きしめる。
「・・・・・・ありがとう、シンちゃん。 御免ね、私怖がりで。でもこうしてもらうと落ち着くの。」
だが、実はレイはそんなに雷が怖いわけではない。
確かにこの辺の雷は強烈で激しいため、怖くないと言えば嘘になるものの一人で充分耐えられる。
レイにとってこの状況はオフィシャルな口実を持ってシンジに抱きつくちょうどいい機会だったのだ。



ピカッ・・・・・・ゴロゴロゴロ
パタパタと雨が落ちる音がし始め、雷も近くなってきたようだ。
数分でバケツを引っくり返したような激しい雨が降り始める。
網戸にしている窓の上には屋根が大きく張り出しており、雨が入ってくる恐れは無い。
やがて段々と近づいてくる雷の音も激しくなり、どうやら落雷しているようだ。
光る度に、音がする度にレイの身体がピクッと強張るのが密着した体から伝わってくる。
シンジも激しくなる雷を前に、レイの不安を和らげようと抱きしめる腕に力を入れた。
ギュッ
その込められた力を感じて安心したのか、レイの体から緊張が抜けていく。
『うふふふふ・・・・・・・・、シンちゃ〜ん・・・ゴロゴロゴロ・・・・。』
まあ内心はこんな事を考えているのだが・・・・・・・。



ピッシャーン!

閃光と同時に落雷の激しい音が響き渡る。
「キャッ!」
レイの身体に再び力が入る。
それに応えるかのように強められるシンジの抱擁。
「大丈夫だよレイちゃん。僕が傍にいるから。」
「・・・・・・・うん。」

激しい夕立の中、部屋の中で抱き合っている二人。

想像以上に激しい雷も、この機会を与えてくれた事に感謝してしまうレイだった。

『・・・・暖かい・・・・。シンちゃん、離れたくない・・・・・・・私ずっとシンちゃんと居たい・・・・・・。』
『・・・・僕は・・・・レイちゃんを離したくないのか?・・・・・・そう、一緒にいたいんだ・・・・・・。』
もはや外の激しい雨も、雷さえも意識から締め出してお互いの温もりを感じている二人。
シンジもレイも、いつもより強く、とても身近にお互いを感じていた。
『レイちゃんの身体って柔かいな・・・・・。それにいい臭いだし・・・・・。』
『シンちゃんの胸って逞しいわ・・・・・・。それにシンちゃんの臭いがする・・・・・・。』
もっともいつからか頭の中はこんな事しか考えていないようになっているが・・・・・・。
この時、二人には完全に時間の感覚が無くなっていた。
どれぐらいそうしていたのだろう・・・・・・・・・・。
何時でも終わりは唐突にやって来る。
不意にガラッと扉が開かれる。
そしてゲンドウの顔がヌッと現れた。
その音にハッとして抱擁をといて離れる二人。
だがその姿はしっかりとゲンドウに見られていた。
「・・・・・フッ、お邪魔だったようだな・・・・。」
サングラスをクイッと指で上げるとニヤリと笑いながら口を開く。
それは悪意がほとんど無い(わけでもないが)とはいえ、かなり嫌な光景であった。
ゲンドウの不気味さ120%爆発といったところか・・・・・・。
「な、な、な、何を言ってるんだよ父さん!これは・・・・・その・・・・・・・。」
「そ、そ、そうですよ叔父様!私が雷が怖くって思わず抱きついただけです!」
「・・・・夕立ならとっくに上がっているぞ・・・・・。」
「「へっ?」」
ゲンドウの言葉に窓から外を見ると、言葉通り黒い雲は通りすぎて夕焼けが空を真っ赤に染めていた。
「・・・・フッ、雨が上がった事にも気がつかないとはな・・・・・・。」
再びゲンドウのニヤリ笑いが炸裂する。
「ほ、本当なんだよ!この辺は雷が激しいからレイちゃんが怖がって・・・・・・。」
「そ、そうなんです。別にいかがわしい事をしていたわけじゃあ・・・・・・。」
相当に狼狽しながら弁解する二人。
だが首から上が真っ赤な事と、視線をさ迷わせゲンドウと目を合わせようとしない様子を見る限り説得力など全然無い(被疑者の取調べの基本)。
そう、そんな事では刑事部長たるゲンドウを誤魔化せるはずも無かったのだ。
まあ、なかなか二人の息が合っている事から仲の良さが伺えるが・・・・・・・・。
「・・・・フッ、問題無い・・・・。」
容疑者の隠している事実を看破したゲンドウは、そう言い残すとクルリと向きを変えて階下へと下りていってしまった。
その後姿を呆然と見送った二人だったが、ようやくシンジは動揺も収まり頭が働くようになってきた。
頭の中はこの後の事を考えるだけで精一杯だが。
「・・・・父さん、絶対に母さんやレイカさんに言うだろうな・・・・。」
シンジのその言葉に今後の展開を予想したレイが青ざめる。
「からかわれるよねぇ・・・・・・・。」
落ち込んだようなシンジの言葉にコクリと頷く事しかできないレイ。
「・・・・・はぁ、とにかく食事だから下に行こう・・・・・・。」
「・・・・・シンちゃん、私恥ずかしい・・・・・・・。」
「でも早く行かないと何を言われるかわからないよ。」
「そ、それもそうね・・・・・・。」
二人は赤い顔をしながら仲良くダイニングへと向かう。
無論夕食の話題は想像通り抱き合っていた二人の事であった。
そう、二人の予想したようにユイもレイカもそれはそれは楽しそうに自分の子供をからかっている。
そして無言だがどこか嬉しそうなゲンドウ。
こうして別荘での夜は過ぎていった。





(後書き)

年も明けたというのに未だに夏の話を書いているとは季節はずれも良いところですね・・・・。
今回はレイとシンジの甘甘な話にしようと思っていたのですが、何故かゲンドウ、ユイ、レイカ(オリキャラになるのか?)が目立っています。
やっぱりまずいかなぁ・・・・・。でもシンジといい雰囲気になってるから許してくれるよね、綾波さん?
では後編でまたお会いしましょう。





綾吉 :てな訳でNKさんからの投稿第4弾です!
レイ  :・・・・・・
綾吉 :ん? どしたの?
レイ  :わたしはこんな馬鹿じゃないわ・・・
綾吉 :でも宿題とかやりそうにも見えないけど・・・
レイ  :わたしには必要ないもの
綾吉 :そ、そう・・・・で、でも今回凄いラヴラヴじゃないか?
レイ  :足りないわ
綾吉 :え?
レイ  :プール、ショッピング、花火大会・・・・何故?
綾吉 :何故、と聞かれても・・・
レイ  :各1話づつで合計3話、書いてくれるように"お願い"、しないと(ニヤリ)
綾吉 :・・・・・頑張って・・・・
レイ  :貴方も最近新作がアップされてないんだけど?
綾吉 :(ギクっ)・・・そそ、それは・・・
レイ  :早くね
綾吉 :・・・・すいません・・・アギャっ



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