「綾波、コーヒーできたよ」

碇君が呼んでる。

私が側に近づくと、コーヒーの入ったカップが出てきたの。

「三番テーブルだからね」



それだけ?



碇君はたったそれだけ言って、私から離れて行った。

…なにか悲しい。

私と碇君の絆はそんなモノなの?

聞きたい。

でも、なんて言えばいいかわからない・・・。

モヤモヤした気持ちが大きくなってくる。

――嫌。

こんな気持ちのままでいるのは嫌。

今日は折角の日曜日なのに…。

弐号機パイロット達……………お邪魔虫もいないのに…。

私の気持ちが顔に出ていたのか、碇君が声をかけてくれた。

「どうしたの綾波?難しい顔してるよ」

碇君が心配してくれている。

顔に出ているからわかるわ。

嬉しい。

やっぱり碇君は優しい。

その優しさを、私だけに向けてくれればいいのに…。

でもいいの。

今日の碇君は私だけのものだから。

そう考えるだけで、胸がドキドキしてきたわ。

この気持ちがいつまでも続けばいいのに…。



……それなのに……



「綾波、コーヒー冷めちゃうから早く持って行ってくれないかな」

…………

…なに、このさっきとは違うモヤモヤした気持ちは?

碇君は私のこと嫌いなの?

「あ・や・な・み」

「…命令なら従うわ」

碇君…怖いわ。

碇君は店のことになると妥協しないから。

特に接客については厳しいの…。

私は碇君の視線を背中に感じながら、ゆっくり慎重に零さないようにコーヒーを持っていく。





「…お待たせしました。ごゆっくりどうぞ…」











〜 You & I 〜

LRS編
                      
― 甘い日 ―











…ふぅ…。

自然と溜め息が出てしまう。

私の目の前では、男の人と女の人が楽しそうに会話をしている。

いつも思うけど、この人達はなにを考えているの?

日曜日。

晴れ。

カップル。

これだけ条件が揃っているのに、どうしてここにいるの?

どうして他の所に行かないの?

あなた達がいなくなれば、私と碇君の二人でけになれるのに…。

でも、こんなことを碇君に知られると嫌われるから、これは私だけの内緒。

嫌われるのはイヤだから。

私には碇君しかいないもの。

…弐号機パイロットが羨ましい。

彼女は言いたいことを言えるから。

……そう…私、嫉妬しているのね。






「あの…お勘定お願いできますか?」




ハッとして私が視線を向けると、男の人が困ったような顔で私を見ていた。

お客さんに迷惑をかけたみたい。

「…ごめんなさい」

私はまた碇君に怒られると思ってシュンとなる。

すると、男の人が慌てたように声をかけてきた。

「あ、いえ、そんなに気にしないでください」


クス


慌て方が碇君に似てる。

そう思うだけで、私の気持ちは軽くなっていた。

もう一度男の人をみると、顔を赤くして私の顔を見たまま固まっている。

…………私、また何かしたの?




「…ありがとうございました」




結局男の人は、お金を払って出て行くまで顔を赤くしたままだった。

…不思議。

そんなことを考えながら元の位置に戻ると、思わぬものを見てしまったの。

1組のカップル。

その男の人がパフェをスプーンに乗せて、女の人に食べさせていた。

男の人は恥ずかしそうにしているけど、女の人はとても嬉しそう…。

………


昔の私なら、なにも感じなかったかもしれない。

でも、碇君に出会って……碇君のおかげで私は変わった。

だからわかる。

これが、碇君やみんなが守りたかったモノ。



――幸せ。



それが、どれだけ大切なものなのか私は知っている。



だって、私も今が幸せだから…。


















「綾波、お疲れさま」

「…碇君もお疲れさま」

店も閉店になって誰もいなくなった店内で、私達は労いの言葉をかけ合った。

もう時刻は6時過ぎ…。

お邪魔虫達が来るまで1時間。

二人だけの時間はほとんどないのね…。

ちょっと悲しい。

その時、私の周りに甘い匂いが漂ってきた。

「綾波こっちにおいで」

呼ばれるままに、私は碇君のいるカウンター席に座る。

「今日はありがとう。綾波がいてくれて、本当に助かったよ」

笑顔で碇君はそんなことを言う。

私は、碇君の顔を正面から見ることが出来ずに顔を伏せた。

嬉しい。

それだけで、今日の疲れはなにも感じなくなった。

でも、碇君の優しさはそれで終わりじゃなかったの。

「綾波、はいどうぞ」

なにかと思って、チラッと碇君を見た。

すると、その手にはスプーンに乗ったパフェが、私に向けられていた。

「今日のお客さんがこうやってるのを見てさ…その…綾波にもしてあげたいなって思って…」

「…いかり…くん…」

「綾波はイヤだったかな?」

ぶんぶんぶんぶん

私は必死に首を左右に振って否定したの。

「よかった。じゃあ、はい…ア〜ン」

碇君は微笑みながら、私の口元にスプーンを持ってきた。

…視界が滲む。

そう…嬉しいときにも涙は出るの。

でも、そうすると碇君が困るから、私は涙を堪えたまま口を開いた。




…おいしい…。




いつもより甘くて。

いつもより幸せ。

その気持ちが消えないように、私は次の一口を碇君に催促した。

―――で、結局すべてを食べてしまったの。

名残惜しいけど、コレ以上はダメ。

だって、タイムオーバーだったから。

「そうだ綾波。この事は、みんなには内緒にしといてくれないかな。その、見つかると後が恐いからさ…」

私はそれでもよかったけど…。

碇君は気づいてないみたい。

さっきからずっと窓に張り付いて、私達を見ていた人達のことを…。

だから私は教えてあげるの。

これも愛情。

「…碇君…あそこ…」

「え?うわーっ!?い、いつからそこに!」

「いつからじゃないわよっ!アタシにはそんな事してくれなかったくせに!」

「シンちゃん、そこを動いちゃダメよん」

弐号機パイロットを先頭に、なだれ込むように店内に入ってきた。

そして、みんなで碇君を囲んでなにか言ってるわ。

碇君かわいそう…。

でも、障害が大きいほど愛は育つものだから…………本にそう書いてたもの…。

だから、がんばって乗り越えて欲しいの…。

それが私の願い。




碇君



あなたはなにを望むの―――







THE END




あとがき

今回は相互記念ということで、番外編を書かせていただきました。

内容のリクエストをもらっていたので頑張ってみたんですが、これが限界でした。

かなり違う気もしますが…。

リクエストをもらって書くのは難しいですね。

まあ、クローの腕が悪かったってことで納得してください。

では…。