夏への扉



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0908


保健室から帰ってきたシンジは普通だった。
普通といってもレイと出会う前のシンジとは明らかな変化があったが。
そして、その日はそれ以上何事もなく終わった。


彼は扉を開けたのだ。
「外側の世界」への扉を。
彼女のいる世界へと繋がる扉を探し出すために・・・・
秋の訪れを告げる涼風とともに旅立ったのだ




結果、

彼は誰がどう見ても完全無欠正真証明276%、

疑いようのない変な人になってしまったのだ!!(N2爆)




後世、天学史上に残る超絶変人「碇シンジ」の誕生である。

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0310


翌日

なんかもういい加減辞めようかしら? などと考えながらも長年の習慣でついつい碇家に足を運んでしまうアスカ。リヴィングのドアを開けるとそこには髭が二人いた。突っ込む気力もないくらい脱力したアスカは助けを求めるように首だけを動かしユイを見たが、「アスカちゃんも一緒に朝ご飯食べる?」と笑顔で聞かれてしまう有様。そんな彼女に話しかけたのは珍しくゲンドウだった。
「どうしたのかねアスカ君。元気がないようだが?」
何気に本編ではまともな大人であることを匂わすゲンドウ。だがむしろアスカのダメージは大きくなるばかり。それでも、気力を奮い起こして聞き返したのはSALならではであろう。
「あの、気にならないんですか?」
「何がだね?」
なんかもうここら辺で方にのしかかる重みが激しい怒りとなって燃え始める。それでもなんとかぐっと堪えてシンジを見るが、見た途端燃え始めた怒りもあっという間に鎮火してしまう。
「・・・・・・・シンジですよ」
「シンジがどうかしたかね?」
「カイゼル髭生やして、パイプくわえて、ダブルのスーツを着ているのが少し気になるんですけど?」
本音を言えば『少し』どころか、問答無用で開発中の新技「ASUKA STRIKES」を叩き込んでやりたいくらい気になる、というよりも気に入らないのだが。SP(スキルポイント)が1しかない状態ではいかんともしがたい。
「似合うと思うが?」
だが、ゲンドウのこたえによりSP回復MAX。
「ど」
「ど?」
「どこの世界にカイゼル髭生やして、パイプ咥えてダブルのスーツ着てる中学生がいるんですかっ!!!!!!」
アスカの咆哮により(技名「ASUKA HOWLING」)リヴィングが滅茶苦茶になるが、碇家の面々は何事もなかったかのように平然としている。
ゲンドウはお得意のゲンドウポーズを取ると、これまたお得意のセリフを言うのであった。
曰く、「問題ない」、と。

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0316


取り合えず付け髭をむしりとり制服に着替えさせた時には既に遅刻ギリギリの時間となっていた。全く動じず涼しい顔をしたシンジを見ながらイライラするアスカは試しに一言「転校生」とつぶやいてみる。効果は激烈だった。動き出した機械のように、顔つきまで別人となったように見えるシンジはとてつもない、アスカにも真似できないような素晴らしい、というよりも恐ろしい速度で家を飛び出した。後に残されるのはあっけにとられ固まったままのアスカと、碇夫妻だけだった。

家〜学校間のタイムを大幅に更新してシンジは教室まで駆け上る。一人で現れたシンジに教室から眺めていたいつもの面々は驚きを隠せなかった。シンジ・アスカと仲が良く事情も知っている友人たちですら二人が一緒に登校しないことに驚くのだから、ましてや一般生徒の驚きようといったら言うまでもなく、もっともそのうち半分(男子だが)は喜びも含まれているように見える。それくらい誰にとってもシンジとアスカのツーショットは自然であり当たり前のことだった。昔から何をするにしても二人はセットで、スパルタ式で我侭なアスカに対してシンジが喜んでいたかどうかは兎も角としてアスカは必ずシンジの世話を焼いてきた。だからこそ、二人が付き合っているという憶測が容易に生じるのだ。
普段から余程その構図が浸透していたのか、たった一度、今日初めて二人が一緒に登校していないところを見たくらいで自分にもチャンスが生まれたのでは、と思う男子。アスカが自分の人気を保つために色々工作をしていたので仕方ない面もあるが、やはり単純すぎると言えるだろう。女子は明からに白けているのがわかる。一方、二人に近い親しい友人たちは心配していた。およそこの後に起こるのはお子様にはお見せできない暴力シーンだろう。心から冥福を祈りたい。

そして、遅刻直前のタイミングでアスカとヒカリが走ってきたのが見えた瞬間一般生徒も悟らざる得なかった。そして2−Aの大半は胃の痛みに顔をしかめ、今日一日が平穏に過ぎるようにと虚しい祈りを捧げるのだった。

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0401


ドアをガラっと乱暴に開けて赤鬼が入ってきた。鬼はそのままズカズカと一直線にシンジのところへ向かう。相当怒っているようだ。
「シ〜ン〜ジ〜。よぉ〜くも毎朝毎朝起こしに行ってあげたアタシを置き去りにして学校に来れたものねぇ〜」
周囲の目があるためいきなり殴ったりはしないが目のふちがひくひくと震え顔がひきつり、青い瞳には「殺」と「怨」という文字が書き込まれていた。ケンスケなどは今日がシンジの命日だと覚悟を決めたくらいである。

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0405


驚く。
そう、驚くに値することだった。大仰に驚愕という言葉を使ってもいい。何故なら記憶にある限りシンジがアスカと、別の見方をすればアスカがシンジと一緒に登校しない日はなかったからだし、またアスカがここまで周囲の目を気にせず怒っていることもなかったからだ。アスカが怒っているときは、例えそれがどの程度怒っているのかわからなくても、周囲の目を把握し優雅さを失っていなかった。アスカは「怒ってるわよ」というポーズで上手く周囲をコントロールしてきたのである。そう、それはあたかも怒っている演技をしているだけと言ってもいいのかもしれなかった。
新学期が始まり、毎日が未知の恐怖との戦いで2−A一同精神の限界が迫ってきている。もうそろそろ「阿びょばぼぼぼびべぼろぺぺぺぴょーーん」とか叫んで教室から飛び出す生徒がいたとしても不思議ではない。常識という言葉により2−Aを守る最後の砦「いいんちょ 洞木」の変化が一番のダメージだったとはいえ、碇シンジの変身、学園のアイドル惣流・アスカ・ラングレーの怒り・・・・これで明日にでも鈴原トウジがきちんと制服を着てきたり、渚カヲルがナルシスホモじゃなくっていたり(実際にはホモでもなんでもないが)、相田ケンスケが改心して一切の裏での活動を停止しちゃったりなんかして、あまつさえ「図書委員」・・・・・・・山岸マユミ(?)が妄想家からリアリストになったとしたら・・・それは恐らく世界崩壊・・・・は流石に言い過ぎでも何かしら大きな災いを予感させる警鐘にはなりえる。

かくして2−A一同は昨日よりもさらにごっついプレッシャーを抱えて一日を過ごすはめになったのだ。
救いを見出せるものは何もない現実の中で、明日こそはという願いを前に、明日はさらにという不安が虎牢関のように聳え立ったから・・・・。

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0413


「授業始まるよ?」
「は?」
「授業始まるから、席に着いたら?」
アスカの怒りなどどこ吹く風。マイペースなシンジ。アスカは今にも血管が2,3本ぶちぎれてSAL化する寸前だ。
「あ、それともう、明日から迎えに来なくていいから」
「え?」
この発言に耳を疑ったのはアスカ一人ではなかった。アスカが口を開こうとしたとき、丁度日向が入ってくる。そのタイミングの良さ(悪さ)にアスカは何とか怒りを飲み込むが、それでも殺気を日向に叩きつけることは抑えられなかったため、日向は訳もわからず怯えるはめとなった。
一旦、話すきっかけを失った場合、中々、またすぐ話しかけるということは難しい。
アスカの場合も例外ではなく、授業中に多少なりとも冷静になった頭であれこれ考え始めてしまったためさっきまでの勢いや怒りはどこかにいってしまい、そのまま昼休みまで持ち越すはめになってしまった。おかげで休み時間ごとにかなり気まずい空気が教室を支配していた。

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