今年に入って、碇くんと同じ部屋ですごすようになった

これを、世間では"同居する"というらしいの

そんなことよりも、私は碇くんといつも一緒にいることができて幸せ

朝ご飯も、お昼ご飯も、晩ご飯もずっと一緒に食べることができて幸せ

でも

"同居する"ようになってから、困っていることがあるの

それは・・・

今年だけで、6回も目覚し時計を買い換えた・・・

私は知らなかった・・・

彼の寝起きが、こんなに悪かったなんて

それと・・・寝相も・・・(ポッ


時を告げる歯車

数ヶ月前、"子供たち"は"大人たち"の醜く、そして愚かな争いに、『運命』を弄ばれた

ある子供は無を望み、ある子供は自を失い、ある子供は全を拒絶し、ある子供は体を無くし、ある子供は死を好んだ

そんな彼らに、明るい未来など有り得ない


そう思われた


しかし

"大人たち"は、"子供たち"の全てをバックアップし、幸せを促した

やがて"子供たち"に春が訪れた

それはとても青々しく、とてつもなく美しい春だった


いや


過去形にすべきではあるまい

そして、その春を一塊にするのは失礼だろう


きっと、こう訂正すべきだ


「それらはとても青々しく、とてつもなく美しいものである」

そして、この物語は、そんな美しい日々の中の平凡な日常の物語である


「ねぇ、碇くん」


最近、綾波は普通に話し掛けてくる

二人で暮らしているんだから、そうじゃないと困るんだけど


「なに?」


この会話がもう日課になっている

いわば、僕らの挨拶のようなものかな


「今日の晩ご飯は何?」


いつもはこれが朝ご飯だったり、お昼ご飯だったり、おやつだったりする

今は6時半だから、「晩ご飯」なわけだけど

11時ごろになると「お昼ご飯」で、朝起きてくると「朝ご飯何?」に変わるんだ

昔の綾波もどこか神秘的でよかった

けど、こんな綾波も僕は好き

あ、おやつを忘れてたよ

おやつはいつも3時過ぎぐらいになると「おやつ何?」って聞かれるんだ

って、そんなことはどうでもいいよね


「今日はね・・・」


今日の晩ご飯は、フランス料理のフルコースみたいなものにするつもり


「今日の晩ご飯は・・・君だよ。」


そっと口づけ

いつも普通のキスはするけど、こんな風にしたのは初めてだ

ちょっとドキドキしたな・・・


「・・・・・・・・・・・・・・バカ。」


彼女は、こんなことをはにかみながら言った

僕はそのことばに笑みで応えた

僕にはこんな彼女すら愛しいわけで

どれだけ不器用で

どれだけ料理が下手で

どれだけ人付き合いが下手でも

僕は、そんな全てを含めて彼女のことが好き


・・・今は関係ないよね


「今日の晩ご飯は、食べてみてのお楽しみさ。」


こんなことを言ってみる

すると彼女は、"・・・ケチ"なんて言うのさ

きっとね


「・・・・・・"ケチ"・・なんて言うとでも思ったの?
ふふっ」


・・・全く・・・してやられたよ



二人の時間は、いつもこんなふうに過ぎ去っていく


彼女の表情も、比較的豊かになってきた


彼の人付き合いも、比較的うまくなってきた


彼らの恋愛も、比較的様になってきた



・・・そんなことはどうでもよくて


とにかく、今彼女たちは幸せです


「「いただきまーーす」」


バカシンジは、ファーストのためにフランス料理のフルコースを作った

2人とも、とても嬉しそうだった

2人とも、とても美味しそうだった

2人とも、とても幸せそうだった

2人とも・・・

その中に私はいない

私はいない


「アスカ・・・今ごろどうしてるかな?」


仕方ないこと

私は負けたんだから

レイは帰ってきた

私やシンジのもとへ

シンジに手を引かれて

それも


朝に・・・


「彼女のことだから、カヲル君とうまくやってるわよ。」


そのときには、もう勝敗はわかっていた

"私の負け"だった

私には、全くとりつく島も無かった

でも、私は諦めたくなかった

認めたくなかった

私が負けたことを


「そうだよね。そういえば、呼べばよかったね。みんなを。」


だから悪足掻きをした

二人の恋路の邪魔をした

いっぱい酷いことをした

でも

あのバカシンジは・・・


「それはダメ。だって、ヒカリさんが可哀想だわ。みんないるのに鈴原君だけいないのよ。悲しすぎる。」


笑って許してくれた

ちっとも怒らなかった

私は、怒って欲しかったのかもしれない

私は、構って欲しかったのかもしれない

でも

彼は、笑っていた

その笑顔がまた、私を笑っているみたいで・・・

むかついた


「トウジ・・・そうだね。」


もうあんたなんて知らない

2人で幸せになりなさいよ

結婚式にだって行ってあげるわよ

なんだったらスピーチだってしてあげるわよ

そのかわり・・・

私の結婚式ではアンタがスピーチしなさいよね

なによ、私にだっていい人ぐらいいるわ

喜びなさい

アンタが昔好きだった人よ


「しん・・碇くん。これ、美味しいね」


さて

私もそろそろ帰るわよ

アンタのストーカーなんて飽きたわ

私だって二人ですてきな時間を過ごしてやるわよ

うまくやりなさいよ

あの子を泣かしたら承知しないからね

じゃあ・・・


「うん、ありがとう」






さよなら

Kaz.Ueda


お祝い

「綾波レイの幸せ」3周年及び、「ことばの綾」1周年、おめでとうざいます
これからも10年、100年と頑張って続けちゃって下さい







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