私は誰でしょう♪

Written by あやきち



第壱中学における話題と流行の発信地、2−A。
街中に名前の知れ渡った問題児集団を詰め込んだクラスで、誰一人として普通の感覚を持った生徒なんぞはいやーしやがらねぇというとんでもないクラスなのだが、それと同時に能力も飛びぬけて高いものを持っていた。いうならば、一芸に秀でた生徒を集めたらそのかわり性格がぶっ飛んでいたという状況だ。本人たちも自覚しているのか、クラスの結束は非常に強く、事あるごとに二人の女王を中心とした高い統率を見せ付けている。
良い面でも悪い面でも。
教師からみたら扱いづらいことこの上ないクラスで、担任教師には、これもまた生徒と同等か、― 或いは年をとっている分より癖の強い者が選ばれていた。葛城ミサト、御歳29歳の自称「セクシーお姉さん先生」。生徒には大人気だが素行が大変よろしくないとして上司に睨まれている教師だ。

今日もまた新しいブームを広めるべく2−A生徒、賑やか担当の霧島マナは頑張っていた。彼女はちょっとしたものから、ど派手なことまで遊びに関するエキスパートで別名「お祭りマナちゃん」と呼ばれている。何故かいつもいつもターゲットになるシンジからしてみればあまり頑張らないで欲しいのだが、既に無駄だと悟っているので何も言わ(え)ずオモチャとしての地位に甘んじる毎日だ。
因みに2−Aの生徒はそれぞれ個人のキャラクターに合わせて一人一つ以上の担当を持っており、シンジの担当は「不幸」だったりするのだが、可哀想などといってはいけない。何せ、彼が不幸であるのには理由があるのだし、「幸運だからこその不幸」でもあるのだから。
その理由とは、女子にもてる、ということだ。理由なんかは知らないけどもシンジは女子にもてる。もっとも、大部分は本気で好きなわけではなくマスコット的存在として持て囃されているだけなのだが、それだけでも学校中の男子の恨みを買うには十分な上に、シンジにはさらに恨みを買うに足る巨大な理由があった。先ほど大部分の女子は本気じゃないと言ったが、それは本気でシンジのことを好きな女子が1名いて、その女子生徒の怒りをかうのが恐ろしくてシンジに手を出せないでいるのだ。そして、そのことが学校中の、いやこの地域全体の若い男性の激しい妬みをかうことになっているのだが、解決方法がないという全く持ってシンジにとっては不幸な話だ。
シンジを好きな女子生徒とは、誰あろう、第壱中学が誇る2大アイドルの一人綾波レイさんその人であった。また余談ではあるが、もう一方のアイドル惣流・アスカ・ラングレーとシンジは幼馴染という関係にある。冷静に考えてみると、寧ろ、よく今まで無事に生きてきたものだと思う。

さて、話を戻して今日のマナさんの遊びは・・・・



廊下を歩く少年に背後から小走りに近寄る。これだけできっと少年は自分の存在に気づくだろうとわかる。
最後の数歩は弾むように、特に音をたてて駆け寄る。

「だ〜れだ♪?」

「マナ?」
「へへへ、あったりー!」
「また新しい遊び?」
「そそ。これもきっと流行るよ〜♪」
「そうかな〜?」
「そうなのっ!」
そして、マナの予言は現実となり、シンジは休み時間ごとに先輩後輩、同級生を問わずこれをやられ、そのたびに、当たっても外れても女子が騒ぎ立て、挙句には授業中の教師にまでやられるという気が休まる暇もない一日を過ごす羽目になってしまった。
さて、それを見ていて面白くないのが綾波さんである。シンジが人気があるのは喜ぶべきことなのだが、こういつもいつも自分以外の女子にちょっかいを出されてはおもしろかろうはずがない。大体、それだけ自分との時間が減るということだ。時間は有限だというのに。
でも、ちょっと自分もやってみたいと思っているところがやっぱり14歳の女の子だ。ミサトやマヤ、それにリツコなんかはそんなレイを見るといじらしくて、抱きしめたくてたまらないらしい。というのも、レイはことシンジのことになると普段は鉄壁とも言えるポーカーフェイスも、砂よりも簡単に崩れ去り、実にわかりやすく考えていることが表に出てしまう状態になってしまうのだ。といっても、親しい間柄の人以外にはやっぱりいつも通りに見えるのだが。
というわけで、昼休みおぺれーしょん実行。
「だ〜れだ♪?」

またか、と思い苦笑しながらマナに答えるシンジだったが、
「またマナぁ? 2回も・・・!!」
「・・・・・・」
手を握ったまま振り返った先にいたのは、マナの声を真似してみたレイだった。
咄嗟に椅子を蹴りながら立ち上がったシンジの顔が驚愕のショックでひきつり、可哀想なくらいにあおざめる。
そんなシンジを、ちょっと顎を引いてきゅっと下唇を噛みながら上目遣いで真正面からみつめぼそっと口をひらくレイ。
「私はマナじゃないわ」
「あ、あ、あ、」
「あ?」
「あや、なみ・・・・・さん?」
「私は、」
「あ、あの」
「・・・・マナじゃないわ」
目の端には大粒の涙がにじみ出ているし、肩が震えている。このままでは確実に泣き出してしまい、宥めるのに午後の授業がまるまるつぶれてしまうだろう。今のうちに何とかせねばとシンジは思ったがどう慰めてよいものやら・・・。謝ったら謝ったで余計泣き出しそうな気もする。しかし、なんとかしないと綾波レイファンクラブのメンバーと、アスカを始めとする友人たちによりレイを泣かせたとして裁きの鉄槌をくだされることになってしまう。それだけは何としても避けたい。
頭の中でシミュレーションしてみる。

1.ひたすら謝る
2.「びっくりしたぁ、マナにそっくり。綾波は器用だね」と笑って誤魔化す
3.逃げる

3は論外だが、1と2どちらを選んでも大差ない気がする。
考えているうちにレイのほうから口をひらいてきた。
「どうして?」
「・・・・」
「碇くんならわかってくれると思ったのに・・・・」
「ご、ごめん!本当に似てたし、それに綾波はそーゆーことしないと思ってたからっ!」
なし崩し的に1を選択。
「あ、あの本当にごめん。お願いだからそんな顔しないでよ」
「・・・・・・」
レイが俯いたまま顔を見せないので、レイがどんな表情なのかわからないシンジは肩が小刻みに揺れているのを見て大慌てだ。周囲にいる友人たちが何も言わず、必死で笑いを堪えていることにも気づかない。
「何でもいうこと聞くからさ、ね、あやなみぃ」
なんかもう、シンジのほうが泣きそうだ。
「・あ・・てる・・くれたら許してあげる」
「え?」
「毎日『愛してるよ、レイ』って言ってくれたら許してあげる」
顔を上げたレイは飛びっきりの笑顔だった。
それをきっかけにクラス中大爆笑の渦だ。
よーするにレイの策略だったわけで、それにしっかりシンジがはまってしまったというわけで、周りからみたらさぞかし面白い見世物だったろう。よく笑いを堪えていたものである。厳密に言えば筋書きを書いた脚本家はマナで、レイはそれに従い演技してみせただけだ。つまり、今日マナが思いついた遊びは「だ〜れだ?」ではなく、こっちが本命だったのである。

「え、あ、いやそれは・・・」
困りきってしどろもどろになるシンジ。それもそうだろう、レイはシンジに対して隠すことなくラヴラヴパワー全開だが二人は付き合っているわけではないのだ。シンジからしてみればちゃんと告白して付き合っているわけでもないのに「愛してる」というのも、また名前で呼ぶのにも抵抗がある。第一、周囲の目が恥ずかしい。
その周囲、2−Aのクラスメートからしてみれば何を今更といった感じで、シンジのじれったさに半分呆れながらも好意の目でもって温かく二人を見守っているのだ。時々、― 週に一回くらいの割合でこんなふうに楽しませてもらっているが。
「駄目、なの?」 紅い瞳が潤んで、とっても・・・・生唾もんだ。シンジがこんな攻撃に耐えられるはずもないのだが、それでも必死に最後の抵抗をしてみた。
「あ、あの、だって、その、ほら、僕たち付き合ってるわけじゃ、ないし・・・・」
そう言った瞬間、業を煮やしたアスカさまのラリアットがもろに無防備な延髄に炸裂、後頭部が激しい衝撃に襲われ目の前が真っ白に光った。
「あんたね〜レイのことが嫌いなの!?」
「そんなわけないだろ!! 好きに決まってるじゃないか!!」
何気に復活が早い。「手加減したつもりはないのに」、と密かにアスカさまは悔しがっているが今はそれどころではない。
「だってさ、レイ。良かったわね、やっと『好き』だって言ってくれたわよ」
「・・・あ!!」
「・・・バカ」
今度は本当に涙が出てきた。嬉しいはずなのに。
ずっと、ずっと求めていた言葉だったが、いざ実際に公衆の面前で言われると、何故だかいたたまれないような気持ちになって、顔が熱くなるのを感じる。今までに感じたことのない未知の感情にレイは驚く。
そんなレイの心中とは裏腹に、「顔を真っ赤に染めたレイ」シンジでさえ初めて見た表情にクラス一同思わず言葉を失い凝視してしまった。それがますます、レイを混乱させる。そして遂に。レイの中で何かが弾け飛んだらしい。

「いや〜ん、もう、碇くんってば、恥ずかしいなぁ〜。こんなみんなの前で告っちゃうなんて、わたしテレちゃうじゃない!あ、勿論返事はOKよ!わたしだって碇くんのこと、だいだいだいだいだいだいだ〜〜〜〜〜い好きなんだから!!あ、心配ないと思うけど念のため言っておくけど浮気なんかしちゃ駄目よ?わたし怒っちゃうからね?わかった?」

突然の変化に呆然とするクラス一同。
そこに現れたのは一部始終をちゃっかり見物していた暇人、ではなく、「聞いて驚け見て驚け、三歩下がって手を叩け」、生徒を管理する立場から事の成り行きを見守っていた愛の教師、葛城ミサトとその親友赤木リツコであった。
リツコの見立てによると、これは今まで経験したことのない極度の恥ずかしさから逃避するために新しい人格ができたのよ、とのこと。
「恐らく、普段からこうしてアスカやマナのようにオープンに振舞いたい願望が、無意識のうちに心の奥底にあったのね。不憫な子だわ」
とレイを抱きしめ涙にくれている。
「いや、今までも十分オープンだった気がするけど」、と思うが口には出さない一同。改造されたくないし・・・・・。



この日以来、レイは極度に恥ずかしい目に遭うと人格が変わる、二重人格になってしまった。因みに名前は「綾波れい」
約束どおり「愛してるよ、綾波」、と言うだけでもう一人のほうが出てくる。で、今度は「愛してるよ、れい」と言わなくてはならない。おかげでシンジの苦労は今までの3倍だけど、ケンスケなんかからみれば幸せ以外のなにものでもない毎日だ。

















おまけ

「だ〜れだ?♪」

その柔らかい手からはほんのりハンドクリームの匂いがする。
「委員長まで・・・」
「えへへ、ごめんね。みんながやってるの見てたらなんかやってみたくなっちゃって」
そう言って、悪戯っぽくちょろっと舌を出す仕草が普段のヒカリさんとギャップがあってドキドキするほど可愛く見える。ちょっとトウジが羨ましい。



「だ〜れだ?」

地獄の底から響いてくるような声と共に、手が伸びてきたが目隠しではなく、首を思いっきり絞められた。
「ぐ、ぐえ・・・・」
「あたしのお弁当に、ハンバーグ入れてないの、だ〜れだ?」
何故か、中学校入学時からずっとレイの分と一緒にアスカの分のお弁当も作らされている。おかずには細心の注意を払っているのだが・・・彼女のお気に召さないとお仕置きを受けるはめになってしまう。そして何故かアスカによるお仕置きだけはレイも許容しているので誰も助けてくれない。



「だ、誰でしょう?」

幽霊でも出そうな、そんな暗くどんよりとした雰囲気の声がしたかと思うと、ひんやりとした手が目を隠した。
「あ、あの・・・・」
「私は、一体誰なんでしょう?」
マユミさんはマナのキャラクターに押され影が薄いことにいっつも悩んでいる。2−Aの中で自分だけは普通だと思っているが、シンジから見ても十分変わっていると思う。







あとがきっぽいもの

使用したお題は



因みに、授業中に悪戯をしてきた先生はミサト、リツコ、マヤ、カエデの4人。サツキと根府川の先生は真面目に授業してましたw



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