夢の中で

Written by あやきち



ここは第3新東京市立第壱中学校。
思春期なお年頃のBOYS&GIRLSが毎日のようにドラマを繰り広げる神聖なる学び舎である。
そして、今日も一つの恋の物語が生まれる。
今回の主役であるところの碇シンジは前々から想いをはせていた超絶美少女綾波レイを買い物に誘うことにした。
デートだなんて、とてもじゃないがそんなストレートな物言いはできないシャイな少年なのである。
しかし、いくら奥手で小心者なシンジでもきっかけさえあれば行動に出る。
「ふふ、恋はロジックじゃないのよ」、とは担任教師赤木リツコのセリフだ。


きっかけは、レイが料理を始めたいと言い出したことからだった。友人のぐっつぐつラブラブカップルであるヒカリとトウジの姿を見て、かねてから興味を持っていたらしいのだが、あまりのイチャイチャぶりにいまいち踏み切れなかったらしい。そこへアスカが料理を習い始めたと聞き、居ても立ってもいられず料理開始宣言をしたのだ。それを聞いたシンジはあらん限りの勇気を振り絞り、一緒に道具を買いに行く約束をすることに成功。勿論、色々言い訳をしながら、本当に誘う気があるのか疑うような誘い方ではあったのだが、あっさりレイに了承され、少々気が抜けてしまいながらも人生最良の日が来たと喜ぶのであった。
ヒカリとアスカはそれを見ながら呆れていたが。



兎にも角にも、シンジはレイと買い物に行く約束をして家に帰った。成り行きに流されたまま同居を続けている二人の分の食事をあっという間に作り上げ、レイと一緒に食事ぐらいはと、希望と妄想を胸に抱き、待ち合わせ場所へと急ぐシンジはとても幸せだった。
時間よりも20分早く到着。幸い天気も良く、レイを待つのに何の支障もない。

 綾波はきっと時間ぴったりに来るんだろうな

レイの時間の正確さはちょっと異常なくらいだ。授業の延長も許してくれないので先生も困っているくらい融通がきかない。クラスのみんなからは感謝されているけども。

 綾波、どんな格好でくるんだろ? やっぱり、制服なのかな?

都合のいい妄想に浸っているおかげであっさり3分前になった。あとたった3分で、カップヌードルが出来る頃にはレイが来る。そう思うだけでこみ上げてくる笑いを抑えるのに必死になるシンジ。
怪しい。実に怪しい。が本人は気づかない。



時間になった、がレイは来ない。
思わず事故にでもあったんじゃないかと思い、慌てて電話しようとしたがレイだとて人間なのだから遅れることだってあるだろうと思い直し、待つことにする。

 電車でも遅れてるのかな? 環状線が遅れるのは日常茶飯事だしね

しかし、5分待っても、10分待ってもレイは来ない。
30分、1時間とこんなときに限って時計の針は早く進む。
駅前の大時計が6時を示したとき、シンジはレイに電話したがつながらなかった。どうやらマナーモードどころか、完全に電源を切っているようだ。
すれ違いになってはいけないと思い、色々なところに電話をかけながら待つシンジ。
とうとう駅前のデパートが閉まってしまう時間になったがレイは来ない。
心も足取りも重く家に帰ったら、既に次の日になっていた・・・・・・・・・・・

同居人1号であるミサトは『シンちゃんが心配するようなことは何もないわよ』と言って慰めてくれたが、3号は『バッカじゃないの!? そんなの直接レイの家に行けば良かったでしょ!?』と一見冷たかったが、この時間まで起きていたという態度がその心の中を雄弁に語っていた。でも冷静に考えると、3号はいつも夜更かしをしていて、だから毎朝起きれないのだということに気づくが無視することにした。それどころではないのである。2号は、種族こそ違えど、もっともシンジの心中を理解してくれる貴重な同居人であり、友人であるが、既に寝ていた。早寝早起きが彼の生活スタイルだから仕方ない。



レイのことを考えていたらいつの間にか朝になっていた。1時間と寝ていないだろう。
朝、だるい体を引きずるように無理矢理動かし朝食を作り、学校に向かった。もし、学校にレイが来ていないなら、家に行って見よう。
そう決心してスニーカーの紐を結んだ。
3歩目に紐が切れてすっ転んだ。
それだけでは済まず、学校に着くまでに散々な目に遭った。犬に咆えられる、痴漢に間違われる、出会い頭に人にぶつかる、などなど。学校に着いたときには、ぱっと見ただけでどんな悲惨な目に遭ったかはっきり想像できるくらいにボロボロだった。そのうち、左頬にくっきりついた手形をつけたのは、斜め後ろで手を腰に当ててポーズを取りながら呆れ返っている美少女だろう。何故ポーズをとっているかといえば、美しくあるためには常に他人の目を意識しないといけないそうだ。

 「・・・・・・・・・大丈夫かシンジ?」
 「う、うん。それよりも綾波はっ? 綾波は来てるっ?」
 「え? ああ、来てるよ。いつも通り文庫本読んでるぜ」
 「ありがとっ!!」
 「でもいつもと様子が・・・っておい!」

レイが来ているのを知った途端、元気になりダッシュで教室に向かうシンジ。後に残されたのはさっぱり事情の飲み込めないケンスケと、あきれまくりのアスカだけだった。アスカは『もう付き合ってらんないわ、まったく』というような顔をしてるし、ケンスケはケンスケで事情を聞きたいのだが、今アスカに話しかければ無言でビンタどころかコークスクリューが来ることがわかっているので、腑に落ちないままシンジの後姿を見送るだけだった。


挨拶すらも耳に入らないまま、いつものシンジには似合わない乱暴な仕草で勢いよく教室のドアを開けると、窓際の一番前の席にいつも通りレイが座っている。文庫本を手に持っているのも見慣れた景色だ。それを確認するとシンジは力が抜けてしゃがみこんでしまった。
但し、よくよくその表情を観察すればわかるが、様子が少しおかしい。目線を辿ってみても文庫には行き着かない。何かに期待してそわそわしている感じだ。早く言えば喜んで笑っているように見える。

 「あ、あやなみぃぃ」
 「碇くん? どうしたの?」

さすがにシンジの声には反応したものの、何故シンジがボロボロなのかも、泣きそうになっているのかもわからず、きょとんとした様子だ。こんな表情滅多に見られるものじゃないといつの間にか湧いて出たケンスケはしっかり写真を撮っている。恐らく高く売れるだろうとほくそえんでいたが、無情にもアスカの手により大枚はたいて買った最新のデジカメは床に叩きつけられた。大儲けどころか大赤字だ。

 「綾波が無事で良かったよ」
 「私が無事? 何を言っているの?」

どうやらレイは本気でシンジが何を言っているのかわからない様子だ。

 「いや、だって昨日いくら待っても綾波は待ち合わせ場所に来ないし、電話はつながらないし・・・
  何か事故でも遭ったのかと思って心配したんだよ?」
 「え? 昨日?」
 「うん」

そういうとレイは突然周囲を見渡し、携帯を取り出した。電源が切れている。というよりも電池がなくなっていた。どうやらシンジと買い物に行く約束をしてから、あれこれとお買い物について想いを巡らせているうちに一日経ってしまっていたらしい。たまたま運悪く日直がトウジで、見回りの教師もミサトであったためそのまま一晩放置されてしまったのだ。とはいえ、昨日の午後から今の今までずっと妄想していたとは。それを言ったら、安心して胸を撫で下ろしたシンジ以外のみんなはおもいっきりこけた。
レイは、「何もないところで転べるなんて不思議」なんて思ったりもしたが、今はそれどころではない。シンジとの楽しいお買い物のチャンスを逃してしまったのだ。そう思った途端、悲しくなってきた。涙が止まらない。

 「碇くんとのお買い物が・・・」
 「あ、それは、今日行けばいいと思うんだけど・・・」
 「いいの?」

少し冷静になって考えればわかることなのだが、レイにとっては思いも寄らなかったようだ。そんなレイがたまらなく可愛く思えた。

 「うん。何だったら学校さぼって今から行こっか?」

極度のプレッシャーから解放された安心感と睡眠不足と疲労、そしてレイの涙がシンジを大胆にさせたのだろう。普段のシンジからは想像も出来ない言葉が思わず出てしまった。
そう口に出した途端、レイは急に元気になり、嬉しくてたまらないといった感じで微笑んだ。これにまた2−Aは震撼した。あの綾波レイが笑うとは。しかも笑った顔がむっちゃ可愛い。いや、普段も可愛いんだけど、笑うとまったく雰囲気が変わって見えるから不思議だ。
なんてことをこの少年も思ったのか、また無意識に大胆なことを口走った。

 「やっぱり、綾波は笑った顔が一番可愛いよ」
 「・・・何を言うのよ」

とか言いながらも、頭の中は
『碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた、碇くんが可愛いって言ってくれた・・・・・・』
てな感じになっている。

 「本当だよ。だから、泣かないで笑っていてほしいな」
 「・・・バカ」

もう、こんなことまで言われた日にはレイの思考回路はショート寸前。もとから周囲の人間なんて気にするタイプじゃなかったけど、もう完全にシンジ以外はアウトオブ眼中。

 「あのね、碇くん。ひとつお願いがあるの・・・いい?」
 「う、うん。何でも言ってよ」
 「あのね、もう簡単に泣かないようにおまじないして欲しいの」
 「おまじない? 何をすればいいの?」
 「ん、まぶたに、キスをして欲しいの」
 「え? それは・・・・」
 「駄目、なの?」
 「わかったよ」

ほんの一瞬、『ここは教室だ』、と理性が警告したが、片想いのこんな可愛い女の子に上目遣いで、なおかつ潤んだ瞳でみつめられては思春期の男子中学生に勝ち目なんかはない。シンジはおずおずと、これはおまじないなんだと自分に言い聞かせ、できるだけ周囲のことを考えないようにそっと、触れたか触れないかくらいの小鳥がさえずるようなキスをした。教室は早朝からのラブシーンにやんややんやの大喝采。レイはほんの少し不満そうだったが何も言わず、かわりにシンジの手を引いて校舎の外へ導いてく。教室の扉のすぐ外では、リツコが出席簿のシンジとレイの欄に早退と記しながら二人を優しいまなざしで見送っていた。
デパートが開くまでに時間があるので、まずはレイの部屋に立ち寄り買い物リストを作成することにした。さすがに朝から堂々と制服姿で行くわけにも行かないし着替えもしなくてはならない。
レイは学校から三つ目、シンジの使っている駅の隣駅から歩いて10分の1DKマンションの一室に一人で住んでいる。知ってはいたが、実際にレイの家に来るのは初めてだ。しかも部屋に上がるなんて。胸がドキドキする。
レイの部屋はとてもシンプルで必要最低限の家具しか置いてなくて、広く感じる。

 「あのね、碇くん。シャワー浴びたいから少し部屋で待ってて」
 「う、うん」

心臓がバクバクいっている。しかし、ドキドキしているのはレイも同じだ。シンジが部屋にいる。あまつさえシンジを待たせてシャワーを浴びるのだ。冷静でいられるわけがない。
しかし、レイがシャワーを浴びて風呂場から出てきたときにはシンジはベッドにもたれかかって静かにに眠っていた。無理もない、昨日はレイが心配で殆ど眠っていないのだから。レイはそのことを知らなかったが、起こそうと声をかけようとしてやめた。シンジの寝顔がとても可愛くて、そのまま見ていたくなったからだ。髪の毛をいじったり、ほっぺをつついてみたりしたけれど、よほど深く眠っているのか起きる気配はない。ちょっとドキドキしながら、レイはシンジにキスをした。そして、シンジを見ていたらレイも眠くなってきてそのまま隣で眠ってしまった。
音を立てるものもない1DKの室内には見る人の心を優しくする魔法のような効果をもった、幸せそうな、あどけない少年と少女の寝顔が並んでいる。


結局買い物は次の日になった。




並んで眠っている二人の写真がリツコの机の引き出しにしまってあるのは、誰も知らない、リツコだけの秘密。













あとがき

使用したお題


2−Aはお題として内包していない気がする(爆)





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