綾波レイは目を覚ました。時間を気にするまでもなく真夜中だとわかった。カーテンの隙間から差し込む月明かりが、部屋の輪郭をうっすらと浮かばせていた。

 どうしてだろうか、こんな時間に目を覚ましたのは久しぶりだった。まさかと思い確認してみると下半身は濡れていないようなのでホッとした。
 この家に暮らすようになり、単なる共同生活とは違う不思議な感覚を持つようになると、真夜中に目覚める事はいつの間にか少なくなっていた。それに気がついた頃はなぜなのかわからなかったが、今ならその理由がはっきりとわかる。

 好きな人の前でオネショ布団を干さなければならないのは、やはり恥ずかしかったと。

 ふたたび眠りにつこうとまぶたを閉じると、ベッドの下からかすかな息づかいを感じた。
「おやすみなさい」
 レイはおこさないようにささやいた。
「クゥーン…」
 するとささやきに反応したのか、のどを鳴らす声が聞こえた。
「クゥーン…」
 ずっとおきていたのだろか、甘えるような泣いているようにも聞こえる声がせつなく響く。きっと、それでおこされたのだろう。
「どうかしたの?」
 今度は聞こえるように声をかけた。
「クゥゥーン…」
 聞こえた音は先ほどとは少し違った響きをもって、返事をしたかのように心に届く。

「おもらししたの?」

 どうしてそうなるのかは理解し難いが、レイはベッドから降りると柔らかな毛なみの下を濡れていないか確認する。すると頬にふれる柔らかな感触。首をからませてきたのだろう、それがあまりにも気持ちよかったので何をしようとしていたのかなんてすっかり忘れて頬をすり寄せる。
 首筋に当てた耳にトクントクンと伝わってきた音は、規則正しくもカチリカチリと時だけを刻む無機質な音とは違い、冷たく淋しくも感じる静かな夜に優しさと温もりをもたらす。

 あたたかい。これが生きているという事だろう。かつては自分が人ではないと思っていた、それでも生きている限り自分は人として生きるのだろう。そして今はその事に何の戸惑いもない。今は…もうどうでもいい、とにかく。

「キモチイイ」

 温もりが広がり安らかな眠りについた、はずだった

 ひんやりとした感触に目覚めたレイは、証拠隠滅に奔走する事となった。


フカシンジ(電波は大切に!)


「さがさないで下さい」
 朝のリビングに、こんな書き置きがあった。

「ど、どうしよう!」

 書き置きを見つけたのはこの家の主夫、碇シンジ。
 シンジの朝は早い。全ての家事を取り仕切っているのだから誰よりも早くおきるのは仕方がない。まあ、仕方がないとはことばの綾で、誰もやらないから仕方がなくだったのだが。

「あっ、あや、あや、あやややや」
 すっかり飼いならされているからか、あわてながらもヤカンを火にかけフライパンを片手に冷蔵庫をあさり始めた。染みついた生活習慣とは恐ろしい。
「……? ちっがーう!」
 そうだ、それ所ではないよなってツッコミはやめておこう。これがお約束ってやつだ。

「あっ、あややじゃない、アスカー!」
 眠れるお姫さまの部屋を目指しドタドタと走る。もちろんフライパンは持ったままだ。

 ガシッ!
「アヒョッ!」
 カッラーン、カランカラン…
 これは痛い、足の小指をぶつけたようだ。
 流石のシンジも、命の次ぎの次ぎの次ぎの次ぎのそのまた次ぎくらいでいっかってくらい大切なフライパンを落とし、ケンケンしながらぶつけた小指を押さえている。某アニメなら真っ赤に腫れあがり「フアヒャホフォーフオー」とかとても書き表せないくらいに痛いのだろう。その場でくるくると回っている、そろそろ目が回る頃だ。
「キモチワルイ…」
 そりゃそうだ…。
 よろよろとしながらも、まっすぐアスカの部屋を目指す。たいした根性だ。バットを持たせたいところだが、生憎近くにあるのはフライパンだけだ。

 ズバンッ!
 シンジが1人コントをやっている間に強制的に目を覚まさせられたお姫さまが寝所のドアを豪快に開けた。目覚めはバッチリだというばかりにキッ、と吊り上がった目が朝日に反射してギラギラと美しい。いつも起こすのに苦労しているシンジには願ったりだろう。

 ダダッ…ダッ…ダダンー…ダダッ…ダッ…ダダンー…
 トコトコでもスタスタでもツカツカでもない。もちろんシャナリシャナリは論外だが、どうやったらこんな足音が出るのかは誰にも分からない。世の中知らない方が良い事もある。まあ、ともかくシンジに近寄る姫。
 姫はスポーツが得意だった、朝の練習も欠かせない。今日の練習はテニスだった。ちょうどそこに落ちていた金属製のラケット(フライパン)を拾い、豪快に振る。かけ声はもちろん。

「 I'll be back ! 」

 パッコーンと気持ちの良い音が響いた。サービスエース!
 それに続きバタンとした音もした。スコアボードにシンジと数字が入る。

「まったく! ひとのセリフ取ってるんじゃないわよ!」
 いや、あなたも…。

 いつものように、朝っぱらからドツキ漫才をする葛城家は、やっぱり騒がしかった。

 書き置きを残したのは、この家に新たな家族として迎え入れられた綾波レイ、彼女である。
 いったい全体、どうしてこのような事になったのだろうか?


 昨日、シンジが家に帰るとリビングで白いモコモコとしたものがうごめいていた。

「なっ、何だ!」
 おそるおそる近寄ると「ふあぁ」と、まのぬけた声。
 それはモコモコの後ろでモゾモゾと動く、青い小さいモコモコから聞こえた。いや、小さいからコモコモだ。
「あやなみ?」
 正体見やぶったり!
 そう言って欲しかったのだが、ノリの悪いシンジは普通に声をかけやがった。同居人の1人に「つまらない男」と言われただけの事はある。

「いかりくんおはやう」
 目が覚めたみたいだった。寝起きがイマイチ悪そうなのは…、面倒なのでシンジのせいにしておこう。え〜い、面倒だからアイツのせいにしてやれ、ってノリでOK。

 寝起きのレイは、あ〜た〜らし〜い〜あ〜さがっきった、に間に合わなくて、タンタララン、タンタララン、タンタンタンタンタンタララン、と朝からテンションが下がりそうな主旋律がビアノよりもベースが似合いそうな曲が流れた頃にやっと起きた小学生のようだ。

「朝ごはん…」
 寝ぼけているらしい、寝癖で髪がコモコモだ。誰が何と言おうとコモコモだ!
 がんばって目をあけようと努力をしているようで、うっすらと開いたまぶたの奥で白目と赤いひとみがクルクルと入れ替わっている。
 だが、それもむなしく、かろうじて開いていたまぶたはやがて閉じられ、立った姿勢のまま、ゆっくりと後ろへ倒れていった。

「あーっ!」
 あーっ! そこは、おーい木が倒れるぞー! じゃないか。やっぱりシンジはノリが悪かった。

 あわててシンジが抱きかかえると、レイの体は…

 ケモノ臭かった

「がお〜」

 あの〜レイさん? それ寝言?

「それで、コイツどうするのよ!」
 アスカが怒っているのには、それなりの理由があった。

 その日、帰宅したアスカは、挨拶もせずシンジの横を通りすぎると窓を全開にして深呼吸を始めた。最後に大きく息を吸い込むと、くるりと180度旋回して爆撃準備体制に入った。
 グォーン、ヒューン…バリバリバリバリ。
 クラスター爆弾のようだ。どうやったらこんな音が出るのか…以下略。

「何よ、このニオイ!」
「あれ」
 真っ赤な手形、といっても不良債券ではなく文字通りのものを貼り付けたシンジが指さした先には、プルプルと体をふるわせ水を飛ばすモコモコと、それを顔にうけ「う〜」と、うなっているレイがいた。ニオイが気になったシンジが覗くつもりで、一緒に風呂に入って洗うようにと勧めていたのだが、アスカの攻撃を受けていた間に上がってしまったようだ。残念!

 ひとしきり体をふるわせたモコモコは、シャンプーの残り香が気になったようでクンクンと体のニオイを嗅きだした。そのうちに今までいなかったアスカのニオイを嗅ぎ分けたらしく、キョロキョロと辺を見渡すとアスカを見つけたとたん走りよって飛びかかった。ピョーンと。

「ちょっ、ちょっと! キャー」
 逃げようとしたところを後ろから飛びつかれ無惨にも潰された。
 ゲフッと出た声がとても不様だったが、どっこい生きてた。幸いにもド根性アスカ!にはならずに済んだようだ。

 アスカとシンジの会話にもどる。

「これだけ大きい犬だし、首輪がついているから飼い犬だと思うんだけど…」
「じゃあ、警察に届けなさいよ!」
「警察って、落とし物じゃないんだから。飼い主見つけたってお礼の一割もらえないよ」
足だけもらっても仕方がないわね」
 さり気なく恐ろしい事を言う。ニワトリだったら貰うのだろうか?
「ちょっと、アンタ聞いてるの!」
 騒ぎの張本人は、ブラッシングもして、モコモコからフカフカになった犬の毛に顔を埋めてウットリとしている。まったくいい気なものだ。
「いいニオイで気持ちいい」
 目をトロンとさせ本当に気持ちよさそうだ。
 この部分だけ読むと、トルエンでも喰らっているようにも見えるが絶対にそうではない。ついでにニオイフェチでもない。でもフカフカフェチは否定できない。

 アスカは、ちょっとさわってみたいという誘惑に負けそうになったが、ここで甘やかしたらボス猿としての威厳がないウッキー、ウイッキー、TGIF、これはThank God It's Fridayの略で金曜日の挨拶です。

「Have a nice weekend !」

 それだけ言って、にこやかに手を振りながら部屋に戻っていった。

 2人きりになりようやく落ち着いたところで、シンジはどうしてこういつも騒動がおきるのかと溜息をつく。ちゃっかり自分の事は棚に上げていたりするが。
 それからしばらくは綾波レイの幸せそうな顔を萌え〜と、眺めていたが、今までのドタバタで忘れていた当たり前の事が気になり出して話しかけた。

「ねえ、綾波?」
「ん〜」フカフカ
「その犬、どこで拾ってきたの?」
「わからない」フワフワ
「わからないって、何で?」
「学校の帰りに……、着いてきたの」ホワホワ
「それって…、もしかして帰りに迷子にでもなって、着いてきたら家に帰れたってこと?」

どうしてわかっちゃったの?!
 レイはキョトンとして、いかにも不思議そうだとシンジを見つめる。ふと見せるそんな仕種が、いつも騒動をおこす原因となるレイが憎めない理由だろう。

「べつに超能力でもあるってわけじゃないんだから、そんな不思議そうにしなくても…」
 シンジには、レイが迷子になり、エーン、エーンと泣いている所に偶然やってきた犬に慰められ、そのまま家に送って貰ったようすが手に取るように分かった。
 どうやら、この犬のおまわりさんは、かなり優秀なようだ。

「何か引っ掛かる言い方だったからまさかと思いながら冗談充填率75%くらいで聞いてみただけだったのにそのまさかだったとはなんで当たったのかこっちが不思議に思いたいよそれにしても父ちゃん情けなくて涙が出てくらー
 棒読みだがシンジにしてはボケてくれたので良しとしておこう。

「そう、よかったわね」
 しかし、せっかくの答えはあっさりとスルーされた。

「きっとそいつは…」(綾波の匂いを嗅いでそれだけでも羨ましいのに家にまで無理矢理上がり込んであんな事やこんな事をしようとしたにちがいないああ綾波の胸綾波の唇綾波のふくらはぎ…)
 シンジの妄想はビッグバン後の宇宙のように果てしなく広がっているのでこれにて割愛。

 レイは犬の頭を撫でながら少し首を傾げて話しかけた。
「帰りたいの?」

 聞こえたのだろうか、耳をピクピクと動かしたが返事はなかった。
(うわっ、帰る気なんてないんだ。やっぱり綾波の匂いを嗅いでそれだけでも羨ましいのに家にまで無理矢理上がり込んであんな事やこんな事をしようとしたに違いない…)

 そろそろヤバそうなので誰か止めて。

「駄目です。自我境界がループ上に固定されています!」
「なぜ?! 帰りたくないのシンジ君!」

 だって、今、変な電波受けてるから…。

 そして、シンジの妄想の数が円周率をほぼ割り切った桁の数と等しくなった頃。

「まあ、今日一日くらい良いわよ。レイだってお気に入りみたいだし」

 夕食を取りながら一応家主であるミサトに理由を話すとあっさりと許可が出た。今日がたまたま給料日でいつもより飲めるビールの量が多いのが機嫌を良くしていたのも理由の一端だろうが、どうせ世話をするのは私じゃないし、と思っているのが最大の理由だ。

「一日って! たった一日で飼い主が見つかるワケないじゃない! それに足だけもらってもしょうがないのよ!」
 目を吊り上げて反論するアスカ。シンジはアスカが、ウサギの足ならお守りくらいにはなるのに全く使えないわねー、と言っていたのを聞き、ウサギだったら立派な食材になるじゃないかと思っていた。しかしそれを言ったら、シンジのくせに生意気よ、となって命がない事は体で憶えているので決して口にする事はないだろう。ここには青い猫型ロボットは、いないのだから。

「だいじょうぶよ〜ん。その番号が書いてある首輪って、市に登録されてる犬だからすぐに見つかるわ。野良じゃなければ血統書もある良犬かもしれないし〜、ちゃんしたお礼も、もらえるかもよん」
 結局は、それが目的か…。

「そうですか。よかったなお前。足取られなくてすむかもね」
 そう言って目線を移すと、どこから出したのか犬の着ぐるみを着たレイが、ペンペンと並んで大人しくドッグフードを食べている犬の隣で仲良く食事をしていた。
(並んで食事をしているが、小型のテーブルを出して正座してシンジ達と同じ食事をしているので、別段変な所はない。レイが一緒にドッグフードを食べてるって思った人はモニターの前で正座して反省する事。作家さんだったら反省文の代わりに新作を書いて発表!)
「そうね〜、よかったわねシンちゃん」
 そう言うミサトもうれしそうだ(エビチュがいっぱい!)アスカは少し機嫌が悪い(もしかしたら美味しかったかも、このまま帰すのはちょっと惜しいわねぇ)レイはちょっと淋しそうだった(私のフカフカ…)シンジはというと(綾波の切ない顔ハアハア)だったりする。
「レイ、そんなに淋しがらないで。そうだ、今日はシンちゃんに一緒に寝てもらったら? 特別に、お姉さん許しちゃうわん」
「ミ、ミサトさん、なに(嬉しい事)言ってるんですか!」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」
 がはは、と笑うミサトに真っ赤になって怒るアスカはウッキー、スーイスーイスーダラダッダーそりゃ植木。
 シンジは別の意味で真っ赤になっている(綾波の匂いを嗅いであんな事やこんな事をああ綾波の胸綾波の唇綾波のふくらはぎ…)
 きょとんとしているが冷静だったのはレイ(いかりくんはフカフカじゃないのに?)
 他2匹は(君も大変だね)(誰のせいだよ…)

「じゃあ、レイをお願いね。シンちゃん」
 食事を食べ終わっていたミサトはしっかりとビールも飲み干したタイミングでそう言って、逃げるように自分の部屋へと消えていった。
 大騒ぎになった食卓の下には空になった皿を前足で突つき、おかわりを催促しているフカフカがいた。

 オイ、あまり食べると丸まる太ってアスカの餌食に…。


 当日の朝に戻る。(やっぱり猫型ロボットはいた? それとも某マッドの仕業なのか?)

「きっと家出したんだよ、どうしようアスカ」

 火にかけていたヤカンの笛が沸騰を知らせた音で目を覚ましたシンジは、懲りもせずまたオロオロとしていた。フライパンを持っているのはデフォルトだ。
 早くおこされたせいで眠気が残るアスカは、リビングのソファーでうたた寝をしていたところをまたもやおこされムスッとしている。

「うっとうしいわね! お腹すいた、朝ごはんまだ?!」
 アスカがキッ、とにらめつけると、条件反射なのか慌てていたシンジは落ち着きを取り戻しキッチンに向かった。
 本当に慣れとは恐ろしいものだ、飼い馴らすとはこういう事だろう。それにしてもシンジもたいしたものだ、腹を空かせた猛獣の前で冷静でいられるのだから。エサを与えれば大人しくなる事を幾度の危機から学び取ったのだろう。

 はて? 人間が猛獣に飼い馴らされているとは、これ如何に?

「ファーストったら一人占めするつもりね!」
 常時チルドレンは監視されているのだから、保安部に問い合わせれば所在くらいはすぐに分かる。犬料理を思い浮かべヨダレを拭いながら腰をあげると、パタン。乱暴に玄関の扉が開き、ハアハアと息を切らせたお騒がせコンビが帰ってきた。ちなみにコンビ名はまだない。

「アンタ! こんな朝っぱらからドコほっつき歩いてたの!」
 パッパパッ……………、ドオーン、ズゴゴゴーン!
 アスカの轟く雷鳴もマイペースなレイには届かない。きっと避雷針でも装備しているのだろう。
「あやなみ〜」
 シンジはハンカチの代わりに台拭きを口にくわえ、ホロホロと涙を流していた。言っておくが、台拭きは毎日こまめに洗っていて今朝はまだ未使用だ。例のフカフカの白犬君はというと、咽が乾いていたらしく凄い勢いでペチャペチャと水を飲んでいた。こちらもレイに負けずマイペースだった。

 走ってきたのだろう、まだゼエゼエと言っていたレイは呼吸を整えながら一言。

ウンチ

 豪快にすっころぶアスカ、フカフカ、おまけにペンペン。シンジは料理をしている。
 寝ていたペンギンでさえタイミングを逃さなかったのに。シンジには後で楽屋でダメ出しをしておこう。冒頭の1人コントは地だったんかい!

 朝早くに顔をなめられておこされたレイは、のどが乾いているのだろうと水を用意してみたが、少し飲んだところで玄関の扉をカリカリと引っかき出したので散歩に連れていったらしい。それで心配するといけないだろうと書き置きをしたそうだ。そして散歩の途中で糞をしたのであわてて帰ってきたと言うワケだった。
 とはもちろん言い訳で、本当は、オネショ布団をこっそり屋上に干したために寝られなくなったので時間潰しに仕方なく散歩に出かけたのだった。でも糞をしたのは事実だったので、後始末をしたのは誰だったかは言うまでもない。

 アスカの怒りは臨界点を突破した。

「紛らわしいのよ! アンタ馬鹿ぁ〜?!」
 パッパパッ……、ドオーン、ズゴゴゴーン! だから、どうやったらこのような音が出るのかと…。
 レイは2度目の雷もさらりと躱し、水を飲み終えたフカフカにドッグフードを与えていた。雷を避けるのは間違いなくティーダより上手い。ちなみにレイの髪は昨日と同じコモコモだったが雷が落ちたせいじゃない。
「アンタも、いつまで待たせんのよ!」
 パッパパッ、ドオーン、ズゴゴゴーン!
 今度は光ってから音が聞こえるまでの時間が無に等しい。スーイスーイスーダ…コホン、もとい、至近距離なのでとても危険だ。

 美味しそうにドッグフードを食べる様子に空腹感を刺激された雷は、レイ専用避雷針であるシンジに落ちたのだった。

 シンジの頭はコントっぽくアフロになってる。もしアスカがこうなったら、ドリフの雷様コントで左側にいる人みたいになるのだろう、ツノだって何時も着けているし。そうなると太った緑は誰に頼もうか、ウクレレの代わりにギターで良いとしてロンゲ辺り?


「ありがとうございました。さあシンジ、あなたもお礼しなさい」

 お別れするのを分かっているのだろう、淋しそうにクウーンと鼻を鳴らしレイにすり寄る。レイも(感触だけが)名残惜しいのだろう、ずっと頭を撫でていた。

 飼い主はすぐに見つかった。隣町に住む二十歳くらいの女性で、5日前に公園の芝生で放して遊ばせていたところ、女子高生を追いかけて行ってしまったので探していたそうだ。
 たいていの犬だったら腹さえ空けば帰ってくるだろうが、極度の女好きのせいで女子校の近くなんかだとリードを引いてもなかなか言う事を聞かないそうで、それで帰らなかったのだろう。

 そしてこの犬の名は、もうおわかりだろうが"シンジ"
 市役所に問い合わせようと首輪の登録番号を確認したアスカが、名前も書いてあったのを発見してまたもや大騒ぎになった。ミサトはこれを知っていてからかっていたのだ。

「シンジってぴったりの名前ね」
 クスクスと笑うアスカ。
「何がぴったりなんだよ…」
 反論してみせるが、思い当たる節が多過ぎて尻窄みになっている。

「バウ」
 突然アスカに飛びかかるフカフカシンジ。
「キャー!」
 むきになるシンジに気を取られていたアスカは、フカフカシンジの突進に気付いていなかった。
 あまり聞けないアスカの悲鳴を昨日と今日で2回も聞いたシンジは、その声にその表情、良いねえ、とニヤリ笑いながらその様子を眺めていた。

「こら、やめなさいシンジ」
 飼い主の女性は、突然飛びかかったフカフカシンジを取り押さえ謝った。
「ごめんなさい。この子、気に入った娘には飛びかかっちゃうの。まあいつもの事だけど」
 本当にそのようで、飼い主にジャレつく彼は良い気なものでカクカクと腰をふってとても機嫌が良さそうだ。

「びっくりした、流石はバカシンジってとこね」
「なんだよ、もう…」(綾波だけじゃなくアスカにまであんな事やこんな事をしようとしたにちがいないああアスカの胸アスカの唇アスカのふくらはぎ…)
「なによ、誰もアンタの事だなんて言ってないじゃない」
(てやんでい! そんなこたー『分かってるんでい』コンチキショウめ、なにを勘違いしてやがるんでい!)
 楽しい妄想の邪魔をされたからか、シンジは何故か江戸っ子口調でキレていた。

「こらっ!」
 声のした方を振り向くと、今度はレイに飛びかかっていたフカフカシンジ。即座にターゲットを変える所は流石だ。
 顔をペロペロとなめられくすぐったそうに笑うレイがシンジにはとても官能的に見えた。ああっ、その表情も良いよ〜、と。

「ふん、デレデレしちゃってバッカじゃない。やっぱりバカシンジはバカシンジよ!」
 アスカもソッチの趣味あるの? とは聞けないシンジだった。
「きーめた。アンタがバカシンジなら、あいつはフカシンジね」
「勝手にしてよ…」(それにしたって何で僕がバカなのにアイツはフカなんだよ。フカだよフカ鱶ってサメでしょ。そっちの方が何だか男らしいしカッコイイじゃないか。どうせ僕なんか犬以下なんだ一生アスカ様の奴隷なんだ…)

 だからバカシンジって言われるんだってば…。

「バカシンジ! お手!」
 ピッキーン!
 その言葉にシンジが反応した!
(いいの? 僕は犬になってもいいの? 奴隷じゃないの? 僕はここにいてもいいんだー!)
「アッスカちゃ〜ん」
 体脂肪率がとても少なそうなマンガの主人公のように裸になりアスカに飛びかかるシンジ。服はどうやって脱いだのかは詮索してはいけない。
 その後シンジがどうなったかは、書くとすれば隔離はまちがいなしなのでやめておく。決して手抜きではない。誰が何と言おうと手抜きではないってばさ。だって手抜きならこんな言い訳書かないもん、それこそ面倒ってもんだ。

 そのとき、レイは何か悟っていた…。

「今わかったわ、私は何も悪くはなかった。いつも洗って干して誤魔化してきたたけど、碇くんがそんな私を望んだはずだから、そう願ったせいだから」
 何やら、おねしょをしてしまうのをシンジのせいにしているようだが…、ちょっと様子を見てみよう。

 フカシンジを撫でながらレイが見つめる先には、素っ裸になっているシンジがいた。
「碇君、ちっちゃい…」
 そう呟くと、フカシンジがフン、と鼻を鳴らす。いささか抗議をしているようにも聞こえる。
「ごめんなさい、あなたもシンジだったわね。いえ、あなたが碇君
「バウ!」(ギクッ!)
「やっぱりそうだったのね。そろそろ、観念したら…?」
 フカシンジの目を覗き込み、その額におでこをコツンと付けると、フフフ、自然と笑いが込み上げるレイ。
「キャインキャイン!」(助けてー!)
「なんで私がおねしょしたり大ボケな性格になってるのかしら? あとで説明してもらうわよ!」

 かつてシンジと一つに溶けあったレイはシンジのピーがあんなに小さくないと知っていた。故にばれた、別人だと。

 そして、考えてみると迷子になった自分をあっさりと家に届けたのは不自然だったし、お風呂に入った時には湯舟で溺れそうになったり、妙に身体をすりよせてきたりと思い当たる節があった。極め付けは「碇君」と呼ぶと何故かシッポを振っていた。それで、カマをかけてみたところビンゴ!
 つまり、フカシンジこそが本当の碇シンジだったのだ!

 セカンドインパクトでちょっと変わった力を得たシンジはその後のどさくさにダミーの自分を作って、そちらにレイ、アスカ、ミサトの世話などの面倒事を押しつけておいて、犬である事を良い事に、自分好みのお姉さん達とイーチャイチャしていたという訳だ!
 だからといって、レイのおねしょ癖は、シンジのせいではなかったりするのだが。

「クヲーン、ワウワウォーッン」(誰か、僕に優しくしてよ…)

 まあ、自業自得だ諦めてくれ…。

 それからは学校の帰りに3人揃って寄り道をする事が多くなった。もちろんフカシンジに会うためだった。

「シンジ、お手」
 すっかりレイに懐いたフカシンジはレイの言う事なら良く聞いた。なついていると気に入っただけとは違うらしくアスカにはジャレつくだけで、何か命令をする度に飛びつかれ顔をなめられていた。この違いは主従関係と友達の差だろう、顔だけじゃなくアスカ自身もなめられていた。(ちょっと読み間違えると、とてつもなくいやらしいのは気がついただろうか?)
 それでもアスカも楽しいらしく、やめろって言っている割に何度もちょっかいを出しては顔をぬぐうハメになっていた。

「シンジ、あ、ああん」
 まあ、聞かなかった事にしておこう…。

「シンジ、ちんちん」
「馬鹿ファースト! 何やらしてんのよ」
「ま、負けた…」

 人間に戻った後、残念ながらシンジのナニはそのままだったらしい。

「Thankyou ! Let's suit again. Have a nice day !」


ネタ解説

>某アニメなら真っ赤に腫れあがり「フアヒャホフォーフオー」
トムジェリのトムさん。

>バットを持たせたい
運動会などでお馴染みの競技。

>ダダッ…ダッ…ダダンー…ダダッ…ダッ…ダダンー…
ターミネーターのイメージ。

>ド根性アスカ
ド根性ガエル、主人公ヒロシが転んだ所にいたカエルがTシャツに張り付く。

>あ〜た〜らし〜い〜あ〜さがっきった
ラジオ体操が始まる前の曲。

>タンタララン、タンタララン、タンタンタンタンタンタララン
ラジオ体操第2。

>ウイッキー(さん)
アントン・ウイッキーさん、スリランカ人、昔ズームイン朝でウイッキーさんのワンポイント英会話を担当していた。

>冗談充填率75%
宇宙戦艦ヤマトより。「波動エネルギー充填率100%!」とか。

>父ちゃん情けなくて涙が出てくらー
あばれはっちゃくの主人公の父のセリフ。

>円周率をほぼ割り切った桁
実は、小数点の時点で既にほぼ割り切れていたりする。π≒ゆとり教育では3で、そうでなくても一般的に3.14。つまりどうでも良い、気にした方が負け。

>ウサギの足ならお守り
西欧ではそうらしい。

>シンジのくせに生意気よ 青い猫型ロボット
ドラえもんより。

>ウッキー、スーイスーイスーダラダッダーそりゃ植木
植木等さんのスーダラ節。

>雷を避けるのは間違い無くティーダより上手い
スクエアエニックスの前身スクエアの人気ゲームシリーズFFXの主人公ティーダ。ゲーム中で雷を200回連続で避けるイベントがある。

>ドリフの雷様コントで左側にいる人。
雷様コントの仲本さん。仲本さんは赤い雷様で、故いかりや長介さんが中央で黒だった。緑は右の高木ブーさん。もう見られないのは残念。

>体脂肪率がとても少なそうなマンガの主人公
ふっじこちゃ〜ん。








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