彼女の友達

Written by tamb

 リツコに定期検診を受けた後の帰り道、レイはそれを見つけた。それは自分に見つけられたがっていたのではないかとレイは思った。そう思わせるほどに、それは切なそうな目で彼女を見つめていたのである。

「迷子になったの?」
「わに」
「一人で寂しいの?」
「わにわに」
「うちに、来る?」
「わに!」
「うちにはペンペンっていうペンギンがいるけど、食べたりしない?」
「わ……」じゅるじゅるだらだら
「……」
「……」
「我慢……できないの?」
「わわわわにわに」
「我慢する?」
「わにわにわに」
「そう。じゃ、ついてらっしゃい」
「わにわにー♪」



「ただいまー」
「わにわにー」
「おかえり。って何よ! それは!」
「わにさんよ。見ればわかるでしょ。ほら、アスカちゃんよ。ご挨拶して」
「わにわにわにわにわにに」
「……」
「わにさんがよろしくお願いしますって言ってるわよ。アスカもご挨拶しなさい」
「あ、こちらこそよろしく……ってなんでアタシがワニごときに挨拶しないといけないのよ!」
「挨拶は基本よ」
「どうしたの、アスカ。あ、綾波。お帰り」
「バカファーストがこともあろうにワニを連れて帰って来たのよ! シンジも何とか言ってよ!」
「綾波……そのワニ、どうするつもり?」
「一緒に暮らすの」
「わにわに」
「……」
「……駄目、なの?」うるうる
「しょうがないなぁ」
「ちょっと! ワニなんか飼うつもりなの!?」
「しょうがないよ。こいつももうその気になってるし」
「わにわにわにわにわにに」
「あ、これはご丁寧に。こちらこそよろしく」
「挨拶するなー!」
「いや、挨拶は基本だし」
「これ以上ワニなんかどーすんのよ! ちょっとみんな出て来なさい!」
 ぞろぞろ
「はい、順番に並んで! 端から番号!」
「わん」
「にゃお」
「ぱお」
「くまくま」
「ぱーんだ」
「きりんきりん」
「さい」
「しろくまー」
「ぽんぽこ」
「もー」
「ぶ」
「こんこん」
「ひつじー」
「やぎやぎ」
「まぐまぐ」
「まんぼお」
「しろながすー」
「せいうち」
「みじんこ」
「ぞーりむしー」
「さーもん」
「いるか」
「みとこんどりあー」
「めっせんじゃーあーるえぬえー」
「てんとーむし」
「げじげじ」
「くわがた」
「ゆにこーん」
「らいおん」
「ひょう」
「しまうま」
「こんどるー」
「こけこっこー」
「ほー」
「かをるー」
「ちょっとカヲル! なんであんたが並んでんのよ!」
「ははは。ごめんごめん。冗談だよ」
「冗談言ってる場合じゃないの! 明日の帰り、あんみつおごんなさいよ!」
「はいはい」
「あの、次、いいかな」
「はい次!」
「し、しんじー」
「れい」
「あんたたちねぇ……」わなわな
「ご、ごめん。ほら、だからやめた方がいいって言ったじゃないか。綾波」
「わたし、何も言ってないわ」
「あ、あやなみぃ」
「じゃかましゃあアホンダラ! ファーストとバカシンジは一週間連続食事当番! おやつ抜き!」
「そんなぁ……」
「はい続き!」
「だ、だいこん」
「にんじん」
「たまねぎ」
「じゃがいも」
「ひまわり」
「とうもろこし」
「いそぎんちゃく」
「うみうし」
「ひとで」
「うに」
「くり」
「かえで」
「ぶぶ」
「ぽこぽん」
「さくら」
「めいぷる」
「ちょっと待った! 誰か代返飛ばした奴がいるわね?」
「……」
「ペンペンとかめさんはどこよ! もう昼行性動物の門限は過ぎてるわよ!」
「ぽ……ぽんぽこぽこぽん……」
「一緒にお出掛けかぁ。しょうがないな、あの二人は」
「また釣り堀かしら」
「まぐ……」
「大丈夫よ。いくらあの二人でもあなたを食べたりはしないわ」
「門限守らないと夜行性のみんなとすれ違いになるでしょって、何回言ったらわかるのかしら。あいつら、一週間外出禁止で便所掃除ね。……ってそんなことはいいのよ! 今でもこんなにいるのよ! これ以上はもう部屋に入り切らないのよ! 食費だってかかるのよ!」
「ぱおおぱおおおぱおお」
「気持ちは嬉しいけど、象牙の取引は禁止されてるの。それにあんたのちーちゃな牙じゃ闇で売ってもいくらにもなんないわ」
「ぱお……」
「だ、だいこんだいこん……」
「あんたの葉っぱなんて食べたくないわ」
「だいこんこんこ」
「身長縮むわよ。大根おろしなんてしたら」
「だいこんこ」
「たくあんもいらないっての! あんたを切り刻むなんてまっぴらよ!」
「じゃががじゃがじゃがじゃがじゃがが」
「フライドポテトもいりません!」
「くまくまま」
「熊の胆なんて取ったらあんたが死んじゃうでしょ!」
「まぐぐまぐまぐま」
「だから刺し身になんかにしたらあんたが死んじゃうでしょっての! そんなに死にたいの!?」
「ぶぶぶぶーぶぶーぶー」
「しつこい! ポークジンジャーもいらない! もっと命を大切にしなさい! みんな仲間でしょ!」
「こけこここけこけ」
「あ、卵はいただいてます。……じゃなくて! 問題なのはアタシたちの食費じゃなくてあんたたちの食費なの!」
「アスカ、食費くらいなんとかなるわ」
「ならないわよ! それともなに? こいつらが素晴らしい芸でも覚えてサーカスでバイトでもしてくれるってーの?」
「……」
「ま、あんたたちにそんな甲斐性はないわよね」
「……」
「アスカ、かわいそうだよ。みんな凹んじゃったじゃないか」
「とにかく! 目が覚めたら大根が添い寝してたなんて生活はもううんざりなのよ!」
「アスカ、だいこんさんに愛されてるのね。その愛を受け止めてあげて」
「断る!」
「でもアスカ、こないだ頭なでてあげてたじゃないか」
「ななな何かの見まちがいじゃないのかしら? おほほほほ」
「ただいまー。何をもめてるの? あら、新しいお友達?」
「わにわにわにわにわにに」
「こちらこそよろしくね」
「ミサト! 仲良く会話してる場合じゃないの! どーすんのよ! もう部屋は一杯よ!」
「にゃん」
「わに?」
「ほらそこ! ワニの背中で爪を研がない! あーもぉゾウリムシは分裂を控えめに!」
「ひとで」
「星だったときの思い出話はもういいから! いい子にしてればまた星空に遊びに行けるわよ!」
「こんどるー」
「いくらあんたでも宇宙は飛べません!」
「しろながすー」
「海水浴はこないだ行ったでしょ!」
「もー」
「闘牛ごっこはファーストにしてもらいなさい!」
「……確かにそろそろ限界かもしれないね」
「何のんきなこと言ってんのよ! バカシンジ! そろそろじゃないの! もうとっくに越えてるのよ!」
「だいじょーぶ。作戦部長のあたしがちゃんと考えてあるわ。一種の動物園を開くのよ。その名も綾波動物ランド。場所はネルフ跡地。承認も取れたわ」
「はぁ?」
「それ、いいアイディアかもしれませんね」
「みんなを檻の中に閉じ込めるのはイヤです」
「心配ないわ。檻の中に入れたんじゃそんじょそこらの動物園と一緒でしょ。綾波動物ランドはライオンから羊、シマウマ、鯨やミジンコに至るまですべての動物が完全放し飼い、いわば野放し状態になってるのが特徴よ」
「客に危害とか加えない? この子たち、こう見えてみんな人見知りよ?」
「知ったこっちゃないわ。見学者の自己責任よ」
「大丈夫。みんなお友達よ。仲良くできるわよね?」
「わにわに」
「わん」
「にゃお」
「ぱお」
「くまくま」
「ぱーんだ」
「きりんきりん」
「さい」
「しろくまー」
「ぽんぽ」
「全員で返事するなー!!」

 綾波動物ランドはこうしてオープンした。
 牛や豚などの家畜からライオン、トラといった猛獣、ハゲタカ等の猛禽類、マグロ、イルカなどの海洋生物はもとより、植物、昆虫、更にはミジンコ、ゾウリムシなどの微生物、細菌類、タバコモザイクウイルス、コイヘルペス等のウイルス、果ては一角獣等の仮想生物、ミトコンドリアやゴルジ体等の細胞内小器官という生物と言っていいかどうかすら判然としない物体までもと人が気軽に触れ合えるという脅威の動物園である。すべてレイが連れて帰って来たのである。ミトコンやウイルスをどーやって連れて帰って来たのかは謎に包まれているが、恐らくA.T.フィールドの不思議な作用なのであろう。

 今日も第三新東京市は平和である。

end

後書き
ちっとも萌えじゃないという突っ込みは却下させて頂きます(笑)。

使用させていただいたお題
 ・「我侭」 / レイクナバ
 ・レイと動物のエピソード / Gigu






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