星の降る夜
2001.11.16(日記よりサルベージ)

「ねぇ、1万5千個だってよ」

 アスカが新聞を見ながら、洗い物をしているシンジに言う。

「え、何が?」
「なに言ってんのよ、バカシンジ。しし座流星群に決まってるでしょ」
「あ」
「見に行くんでしょ?」
「いつだっけ?」
「次の日曜の深夜よ。月曜の早朝」
「月曜日、学校だよ」
「あんたバカぁ? 一生に一度あるかないかの大イベントよ。学校なんか休めばいいのよ」
「いいのかなぁ」
「ファーストなんか完全にその気よ」

 レイは視線を宙に彷徨わせ、心ここにあらずといった感じである。

「流れ星…お願い事、するの…」
「綾波?」
「……」

 シンジが声をかけても反応がない。既に気持ちは大流星雨か。

「見に行きましょ」
「そうだね」
「どっか遠くの空気のきれいな所がいいわ。加持さんに連れてってもらお。どこがいいかしら」
「なんの話?」

 風呂から上がったミサトが、ビールのプルトップを開けながら言う。

「しし座流星群よ。ミサトも行くんでしょ」
「あななたたち、月曜は学校でしょ。遠くへは行けないわよ」
「ええぇ〜、そんなぁ〜。いいじゃん、一日くらいぃ」

 アスカが泣きつく。

「大丈夫、この辺でも良く見えるわ。空気はきれいだし、当日は灯火管制するってリツコが言ってたから」
「ふうん。じゃあ我慢しようかな」
「灯火管制、ですか?」

 シンジが耳を疑う。

「そう。明かりを消さない家があったら電気止めるって」
「…本気ですか」
「いいんじゃないの? 大イベントだもの」

 そんなのありか。呆れ果てるシンジであった。

「流れ星…お願い事…」

 そしてレイは全く人の話を聞いていないのである。


 そして、ミサトが加持と共にいずこへかと消えた当日。

「二人とも、その格好は…」

 レイとアスカはこれでもかとばかりの厚着である。7枚は着ているのではないだろうか。一番上はなぜかお揃いの半纏である。謎である。

「日本の冬は初めてなのよ。アンタもそうでしょ。備えあれば憂い無しよ」
「それにしても…」
「ぱんつも毛糸なの」
「ファースト! それは内緒って言ったでしょ!」
「それじゃまるでD型装備だよ…」
「なんですって!」
「い、いや、なんでもないです」

 連れ立ってマンションの屋上に登る三人。銀マットを敷いて横になり、ひたすら待つ。

「来ないわね」
「そんなにすぐには来ないよ。待たなきゃ」
「そうね」
「お願い…するの…」
「…」
「…」
「…来ないわね」
「だから待たなきゃ」
「お願い事…」
「…」
「…」
「シンジ、なんか温かいものが飲みたい」
「わかったよ。ポットに紅茶でもいれてくるから」
「お願い事…」
「アンタは他に言う事ないの!?」

 シンジが部屋からポットと紙コップを持って、屋上に戻る。

「暖かいわ…」
「おいしいわね」

 紅茶で身体を温めながら、ひたすらに待つ。

「シンジぃ、来ないわよ。このまま来なかったら、あのなんとかアッシャっていう学者、坊主ね」
「だから…」
「いえ、来るわ…」

 レイがポツリと、しかし確信のこもった声で言った。
 空を見上げる。

 すーっと流れ星が一つ、二つ。

「あ…」

 そして、本当の雨のように、星が降りはじめた。

 言葉を失い、ただただ空を見上げる。

 子供たちは何を願うのか…


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