彼女のお気に入り(なのか?)
2002.6.10(日記よりサルベージ)

「碇くん……なに、してるの?」
「これ? ウォシュレット付けてるんだ。ミサトさんがさ、なんかで当てたらしいんだよ」
「うぉしゅれっと?」
「うん。えーと、つ、つまりその、か、紙で拭くんじゃなくて、お湯で洗うんだよね……」
「……」
「こ、ここを押すとお湯が出てきて、えーとその、たぶん男と女だと微妙に使い方が違うと思うんだけど、つつつまり、あの、使ってみれば分かると思うんだけど、あれだったらミサトさんかアスカに聞いてみれば……」
「……」
「……」
「……」
「あ、も、もしかして、トイレ使う?」
「……」
「……」
「……」
「ご、ごめん。もう終わったから」
「……使ってみる」
「あ、う、うん」

ぱたん。かしゃ。

「ふう」

ぴんぽん。

「はぁい。あ、加持さん。いらっしゃい」
「よ。おじゃまするよ」
「どうしたんですか、今日は」
「葛城が食事当番なんだろ。たまには食べに来いってうるさくてな」
「そうですか」
「あれ、一人かい?」
「綾波が来てます。今、お手洗いに入ってますけど」
「アスカは?」
「委員長の所です。今日はたぶん帰りませんよ」
「どうして?」
「ミサトさんが当番ですから」
「……そんなに酷いのか」
「そんなことないです。前に比べれば格段の進歩ですよ」
「前に比べれば、か」

「ひゃはははははは」

「な、なんだ!?」
「あ、綾波?」
「今の、レイちゃんの声か?」
「……たぶん」
「どうしたんだ? いったい」
「……ウォシュレットを…つけて…」
「…く、くすぐったかった、のか?」
「た、たぶん」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
か、加持さん
どうした?
こーやって聞き耳を立ててるのって、すごくいけない事なんじゃないかって
そ、そうだな。 ……あー、シンジ君、最近学校は」
ごー
「ひゃはははははは」
「……」
「……」
「……」
「……」

かしゃ。ぱたん。じゃー。ふきふき。

「よ、よお、レイちゃん。おじゃましてるよ」
「こ、こんにちは」
(…綾波、ほっぺが赤くなってるよ)
「……」
「ん、うん……」
「……」
(綾波の咳払いって、けっこう可愛いな……)
「……」
「……」
「……」
(ウォシュレット、外した方がいいかな)
「え、シンジ君、何か言ったかい?」
「いえ、なんでもないです」
「……」
「……」
「……」
「……」

 気まずい沈黙は、ミサトが帰宅するまで続いた。

 数日後。

たーららららー、たららー、たーらららーらー
ぴっ

「はい、碇です」
「……」
「綾波? どうしたの?」
「あの……お願いがあるの……」
「なに?」
……
「え?」
ごにょごにょ
「なに? 聞こえないよ」
「あ、あの、ウォシュレット、付けに来て……」

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