「碇くん……なに、してるの?」
「これ? ウォシュレット付けてるんだ。ミサトさんがさ、なんかで当てたらしいんだよ」
「うぉしゅれっと?」
「うん。えーと、つ、つまりその、か、紙で拭くんじゃなくて、お湯で洗うんだよね……」
「……」
「こ、ここを押すとお湯が出てきて、えーとその、たぶん男と女だと微妙に使い方が違うと思うんだけど、つつつまり、あの、使ってみれば分かると思うんだけど、あれだったらミサトさんかアスカに聞いてみれば……」
「……」
「……」
「……」
「あ、も、もしかして、トイレ使う?」
「……」
「……」
「……」
「ご、ごめん。もう終わったから」
「……使ってみる」
「あ、う、うん」
ぱたん。かしゃ。
「ふう」
ぴんぽん。
「はぁい。あ、加持さん。いらっしゃい」
「よ。おじゃまするよ」
「どうしたんですか、今日は」
「葛城が食事当番なんだろ。たまには食べに来いってうるさくてな」
「そうですか」
「あれ、一人かい?」
「綾波が来てます。今、お手洗いに入ってますけど」
「アスカは?」
「委員長の所です。今日はたぶん帰りませんよ」
「どうして?」
「ミサトさんが当番ですから」
「……そんなに酷いのか」
「そんなことないです。前に比べれば格段の進歩ですよ」
「前に比べれば、か」
「ひゃはははははは」
「な、なんだ!?」
「あ、綾波?」
「今の、レイちゃんの声か?」
「……たぶん」
「どうしたんだ? いったい」
「……ウォシュレットを…つけて…」
「…く、くすぐったかった、のか?」
「た、たぶん」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「か、加持さん」
「どうした?」
「こーやって聞き耳を立ててるのって、すごくいけない事なんじゃないかって」
「そ、そうだな。 ……あー、シンジ君、最近学校は」
ごー
「ひゃはははははは」
「……」
「……」
「……」
「……」
かしゃ。ぱたん。じゃー。ふきふき。
「よ、よお、レイちゃん。おじゃましてるよ」
「こ、こんにちは」
(…綾波、ほっぺが赤くなってるよ)
「……」
「ん、うん……」
「……」
(綾波の咳払いって、けっこう可愛いな……)
「……」
「……」
「……」
(ウォシュレット、外した方がいいかな)
「え、シンジ君、何か言ったかい?」
「いえ、なんでもないです」
「……」
「……」
「……」
「……」
気まずい沈黙は、ミサトが帰宅するまで続いた。
数日後。
たーららららー、たららー、たーらららーらー
ぴっ
「はい、碇です」
「……」
「綾波? どうしたの?」
「あの……お願いがあるの……」
「なに?」
「……」
「え?」
「ごにょごにょ」
「なに? 聞こえないよ」
「あ、あの、ウォシュレット、付けに来て……」