逃げてもいい
2002.9.18(日記よりサルベージ)

 唐突だが、女子プロレスのことを書こうと思う。

 最近、新人が育たないらしい。有望だと思われていても、急に引退したりいつの間にかいなくなったりする。デビュー前に辞めてしまう娘も多いだろう。
 最近はやや事情が違うようだが、デビュー前や直後くらいの娘がプロレスを辞めたいと思ったときは、逃げるという手段をとるのが普通だった。一部の例外を除けば、中学校を出てすぐに団体入りして寮生活に入る彼女たちにとって、社長や先輩レスラーに「辞めます」などと言えるものではない。説得されてしまうのも怖いだろう。
 もちろんどこか行くあてがあるわけもなく、実家に戻ることになる(中には本当に行方不明になって、雑誌上で情報提供を求めていたこともあったが)。
 大抵は先輩レスラーが電話をかけてきて、辞めちゃうの? という話になる。無理に連れ戻すことはまずない。本人にやる気がなければどうしようもないのである。

 辛いから逃げる。辛いことに耐えたとして、その先に何も見えないのならば、耐えることに意味はない。ならば逃げて正解である。

 実家に戻った彼女たちの何人かは、もう一度団体に戻ったりする。会社の人や先輩に、すいませんでしたと頭を下げて。プロレス団体の上下関係は厳しく、出戻りは新人からやり直しである。かつての後輩や同期が先輩になり、その人たちの身の回りの世話をしなければならない。それでも彼女たちは帰ってきた。プロレスが辛くて逃げたけれど、プロレスをしないでいることはもっと辛かったと言って。

 だから逃げてはいけない、などと言うつもりはさらさらない。先に何があるか分からないから逃げないというのであれば、それは単なる現状維持であり、保守的に過ぎる。そこにいることで自滅すると思うなら、ためらいなく逃げるべきだと思う。逃げると言うと現実逃避のように聞こえるならば、戦略的撤退と言い直すことも出来る。バンザイアタックに意味はない。
 新しい可能性に向かって進むことも、そこに留まる人からは逃げているようにしか見えないかもしれないが、それは挑戦でもある。そこに留まることも、可能性を追うために今は敢えて一歩下がることも、同じくらい勇気がいると思う。
 どうすればいいかは熟慮して自分で決めるしかないが、人生はそのものがボーナスだと思えば失うものは何もない。駄目だったら戻ってきて最初からやり直せばそれでいい。

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