アスカとカヲルの未来予想図Written by tamb
カヲルに会いたいな――。 深夜一時。パジャマ姿のアスカはベッドの中で雑誌を眺めながらそうつぶやいた。 昼間は学校で会い、放課後を共に過ごし、夕食も一緒に食べた。つまり、ほんの数時間 前まで二人は一緒にいた。 にもかかわらず、彼女はカヲルに会いたいと思った。 この日に限らず、二人はよく一緒に過ごしていた。もちろん学校では毎日会っているし、 少なくとも一日置きには放課後も一緒だった。 一緒に過ごすといっても、ほとんどは何をするでもなく夕食までの時間をカヲルの部屋 で過ごすだけだ。 そのあとは――たまには二人で外食をしたり、本当に時々はアスカが手料理に挑戦した りもするが――ミサトのマンションでみんなで一緒に食事をする。後片付けを終え、少し 休んだらカヲルの背中を見送ることになる。 もっとずっと一緒にいたい、と彼女は思う。 でもアタシたちはまだ子供だから、いっつもベタベタしてばかりじゃなくて、色んなこ とを学んで、お互いを高め合って行かないといけない――。 それはわかっている。でも会いたいものは会いたい。 ごく稀にしかないことだが、何かの都合で二日くらい会えないと機嫌が悪くなる。自分 でもイライラしているのがわかる。学校では会っているのだから二日くらい我慢すればい いのに、自分で自分がコントロールできない。学校で会っているのは会っているうちに入 らないのだ。 そんなときカヲルは、机に頬杖をついて不機嫌にしているアスカにそっと近づき、耳元 でこうささやく。 ブスだよ、アスカ――。 アスカは思わず背筋を伸ばす。こんなことをアスカに言えるのは、全宇宙を見渡しても カヲルしかいない。振り向くと、カヲルと、シンジやレイまでがくすくすと笑っている。 「誰がブスなのよ!」 アスカの腰の入った回し蹴りでカヲルは吹っ飛ぶ。 そんな日の夜、カヲルはいつにも増して優しく、アスカは甘えん坊になる。 どうしてこんなに好きになってしまったのだろう。この、人間なのか使徒なのかもわか らないような少年を――。 リツコは、どこをどう調べても人間だ、と断言している。だがカヲル本人は、僕は現役 の使徒だから、と言って笑う。 しかしそんなこともアスカにとってはどうでもいいことなのかもしれない。好きになっ てしまったのだから。 サードインパクトの後、目標もプライドも矜持も失って半ば自失していたアスカの傍に は、確かにカヲルがいた。だが彼女を見守っていたのはカヲルだけではない。シンジもミ サトもヒカリも、そしてレイもアスカを見ていた。 カヲルが特別な何かをしてくれたわけではないし、他のみんなに比べて特に優しかった ということもなかった。 ただ、携帯の番号を聞かれた。隠す理由はなかったから、教えた。メールアドレスも教 えた。害毒があるとは思えなかったというだけだ。 何日か置きに、当たり障りのない内容の短いメールが来るようになった。 時々、休日に外で会うようになった。 手をつなぐわけでもなかったが、それはデートと言えないこともないのかもしれない。 会話も、弾んだとは言えないかもしれないが、沈黙で気まずくなるようなこともなかっ た。楽しいか楽しくないかと言われれば楽しかったのだろうし、誘われればまた会っても いいとは思った。少なくとも気はまぎれた。 二人を見るシンジやレイの視線が変化し始めたことにも気づいていたが、不快ではなか った。 あんた、アタシとキスしたいとか思う――? 何度目かのデートの別れ際。唐突なアスカの問に対するカヲルの答えは、唐突なキスだ った。 抵抗もせず目を閉じてそれを受け入れ、抱き締められて溶けて行く自分を自覚した。こ れが好きな人とするキスなんだということが良くわかった。いつのころからか気づいてい て、気づかないふりをしていた自分の想いを自覚した。 アタシはカヲルのことが好きなんだ――。 どう考えても理屈が通らない。自分がカヲルを好きになる理由などどこにも見当たらな かった。 だが自分の瞳に光が戻り、元の自分に戻りつつあるのは、やはりカヲルが傍にいたから なのだろうとも思う。いなければ戻れなかったとまでは言わない。だがもっと長い時間が かかったことは確かだろう。力を抜いて、ゆっくり歩いて行けばいいということに気づく まで――。 あんたはアタシのこと、好きなの? 好きだよ。そうじゃなかったらキスなんかしないさ。 どうして好きなの? どうして――? カヲルは不思議そうに言う。 好きになるのに、いちいち理由が必要なのかい? 難しい生き物だね、リリンは――。 男と女は理屈じゃない。確かにそうだと思った。好きになってしまったのなら仕方がな い。メリットやデメリットじゃない。受け止めて、自分の気持ちに正直になるしかないの だ。 カヲルに会いたい――。 彼女はもう一度つぶやき、ため息をついた。会いに行こうか、と思う。だが前に一度、 夜中にカヲルの部屋に行って怒られたことがある。 夜道の一人歩きは危ないよ。何かあったら僕は悲しむことになる。僕を悲しませたいの かい――? 歩いて来たわけじゃなくて自転車で来た、と冗談のように言っても駄目だった。暴漢の 一人や二人なんてことない、と言っても納得してくれなかった。三人だったらどうするの かと。 カヲルの目が真剣なのを見て、アスカは黙り込んだ。不満そうな顔を作りながらも、少 し嬉しかった。 「ミサトさんも言ってたじゃないか。チルドレンとやったんだぜって自慢したい馬鹿がい るんだよ。それに……」カヲルはアスカを抱き寄せて言った。「万が一にも、アスカを僕 以外の誰かにさわらせたくないんだ。アスカは僕のものだからね」 「――バカ!」 アスカは頬を赤らめながらカヲルを張り飛ばす。 結局、会いたいときは連絡すれば迎えに来てくれるという言質をとり、二人は仲直りを した。 だが、いかにアスカとはいえ夜中に突然迎えに来いとは言いにくい。だからまだこの約 束が果たされたことはなかった。 おやすみのメールをして今日は我慢しよう、と彼女は思った。ほんの少し前までは一緒 にいたのだし、朝が来ればまたいつもの笑顔に会えるのだ。大丈夫、我慢できる。今は我 慢して、明日はいつもよりもっと甘えよう。 枕元の携帯を取ってメールを打とうとした時、それが特別なメロディーを鳴らした。カ ヲルからのメールだった。
ピンと来た。胸が躍った。バルコニーに出てみる。街灯の下に、自転車にまたがった人 影が見えた。遠いが、アスカが見間違えることはない。カヲルだった。手を振っている。 彼もこっちを見ているのだ。大きく手を振り返し、彼女はメールを打った。
急いでパジャマの上だけ脱ぎ、ブラをつけた。もう一度パジャマを着て、その上からそ のままジーンズとトレーナーを着る。学生鞄と制服をバッグに放り込んだ。カヲルの部屋 に置いてある替えの下着は、確かまだあったはずだ。 ダッフルコートを着て、ミサトやシンジを起こさないよう静かに部屋を出る。電話の横 のメモに『カヲルの部屋に行きます。朝ごはんはいらない』と書き、ダイニングテーブル に置こうとして、先に置いてあるメモ用紙に気づいた。それにはこう書いてあった。 『綾波の部屋に行きます。朝ごはんはアスカと何とかして下さい。シンジ』 シンジが出て行ったことに、アスカは全く気づかなかった。バカシンジもやるわね、と 彼女は思う。明日の朝、ミサトの呆然としている姿が目に浮かぶようだった。自分のメモ に「ミサト、ゴメンネ」と書き加え、アスカは静かにマンションを出た。 カヲルはマンションのエントランスで待っていた。 「来てやったわよ。あんまりさみしそうだったから」 「ありがとう。嬉しいよ」カヲルは笑顔で言う。「でも大丈夫かな。こんな夜中に出て来 ても」 「平気よ。シンジもファーストのところに行ってるみたいだし」 「へえ」カヲルはアスカのキスに応え、自転車の方に引きずられながら言った。「なかな かやるね、シンジ君も」 「シンジとファーストのことはいいから。早く行きましょ。夜が明けるわよ」 バッグを自転車のカゴに入れながらアスカが言った。 「制服とか、明日の学校の支度はしてきた?」 「バッチリよ。ぬかりはないわ」 「完璧だね。じゃあ行こうか」 アスカがカヲルの身体に腕を回し、自転車は走りだした。 「そういえばマナちゃんがね……」 片手でハンドルを握り、もう片方の手は風から守るようにアスカの手に触れながらカヲ ルが言う。カヲルの背中に耳を付けているから、彼女にはその声が良く聞こえた。 「シンジ君にちょっかいを出してるみたいなんだよ」 「マナが? 全然そんなふうには見えないけど」 「僕もそう思う。でもシンジ君はそう言うんだ」 「シンジの奴、自意識過剰なんじゃないの?」 「そうかもしれない」カヲルは苦笑した。「でもレイちゃんはちょっとご機嫌斜めみたい なんだ」 「へえ、ファーストがね……。マナって、ちょっとファーストに似てるところ、あるもん ね」 「そうかな」 「声とかね。ちょっと似てるわ。で、シンジはどうなの? マナと」 「別にどうってこともないみたいだけど、漫画とかCDとか貸し借りしてるみたいだよ」 「それだけでファーストはご機嫌斜めなの?」 「そうみたいだね」 「あの娘も意外と嫉妬深いのね」 「アスカは?」 「え?」 「アスカは、僕がマナちゃんとCDとか貸し借りしてても平気かい?」 アスカはその場面を想像してみた。そして、カヲルに掴まっている腕に力を込め、頬を 背中に強く押し付けながら言った。 「ダメ」 「でも、もう今頃は仲直りしてるんじゃないの?」 カヲルの部屋につき、ジーンズとトレーナーを脱いでパジャマ姿に変身しながらアスカ が言う。カヲルはキッチンで紅茶をいれながら答えた。 「そうだね。泊まりに行ってるんだからね。要するにあの二人のことは心配するだけ時間 の無駄――」 彼はそう言いながらアスカの方を振り向き、動きを止めた。 「じゃーん。かわいいでしょ、このパジャマ。ファーストとお揃いで買って来たの」 「ああ、かわいいけど……異様に早いね。着替えるのが」 「だって、家から着て来たから」 「ああ、なるほどね。パジャマの上から服を着てたのか」 「そうよ。悪い? もしかして着替えショーでも見たかった?」 「いやいや」カヲルは少し顔を赤らめ、あわてたように話題を変えた。「さあ、紅茶が入 ったよ」 「ありがと」 アスカはカヲルのいれる甘いレモンティーが好きだった。この部屋でこうしているだけ で優しい気持ちになれる。 「ねえ、さっきの話の続きだけど」 「うん?」 「内緒にしないでちゃんと言ってくれれば、CDくらい貸してもいいわよ。マナでもヒカ リでも」 カヲルの肩に頭を預けながらアスカが言った。 「ああ、そのことか」カヲルは紅茶を一口飲んで言った。「じゃあそうさせてもらおうか な」 アスカの胸がチクリと痛んだ。 「やっぱりダメ。ううん、貸すのはいいけど、渡すのはアタシのいるところでして」 「そう言うと思ったよ」カヲルは優しく笑った。「大丈夫だよ。今のところそんな予定は ないしね」 ベッドにもたれ、何を話すでもないお喋りを続けるうちに、アスカは急激に眠気が襲っ てくるのを覚えた。時計を見るともう二時近い。 「カヲル、眠くなってきた」 カヲルも時計を見て言った。 「もう二時か。そろそろ寝ないと、明日学校に遅刻するね」 「カヲルも早く着替えれば?」 アスカはずるずるとベッドに這い上がりながら言う。 「ああ。今着替えるよ」 「その前に」 彼女は目を閉じ、軽く口唇を突き出した。 ベッドの中で、パジャマの下に手を入れて器用にブラを外した。それを枕の下に隠して 目を閉じる。まるでバスタオルのような、厚いタオル地のシーツが心地よかった。 すぐにカヲルが隣に入って来た。部屋の明かりは消され、ベッドサイドの読書灯だけが 灯されている。 アスカはカヲルの腕を引っ張って腕枕にし、鼻先を胸にこすりつける。優しく頭をなで られながら、今日はえっちは無しかなと思う。 カヲルに抱かれるのは月に二回か三回程度だった。アスカに不満はなかった。もちろん カヲルに抱かれるのは嫌いではないが、会うたびに抱かれたいとも思わない。隣にいてく っついていればそれだけで幸せだったし、会うたびに抱かれていたらそれこそ身が持たな いとも思う。それに、抱っこして欲しいなと思うときは必ずカヲルから触れて来た。まる でアスカの気持ちがわかるみたいに。 だから今までアスカの方から誘うことはなかったし、今日もそうするつもりはなかった。 さわって欲しいなと少しだけ思うけれど、もう一度キスしてもらえれば、抱き締められな がら眠るだけでも十分だった。 だが、アスカが半ば予期し半ば期待していた通り、アスカの頭や背中をなでるカヲルの 手に込められた愛情が少しずつその質を変化させ始めた。アスカは敏感にそれを感じ取り、 自然と身体が暖かくなった。 再び鼻先をカヲルの胸にこすりつけ、少し甘えた声を出してみる。 腕枕をしていたカヲルの左手がアスカの肩を抱き、右手が頬をなでた。アスカはその動 きに導かれるように顔を上げる。頬と頬が触れ合い、口唇が重なった。何も考えられなく なるほど甘いキスだった。 やがて口唇が離れると、アスカはもう切ない吐息を漏らしてしまった。 背中をなでていたカヲルの手が下がって来て、パジャマの上からお尻を包み込んだ。胸 に触れてくると思っていたアスカは予想を裏切られ、少しだけ身体が跳ねた。カヲルの手 はお尻の丸みを確かめるように滑り、指先がショーツのラインをたどる。彼女は恥ずかし さに頬を熱くした。 カヲルは再びアスカに頬を寄せ、口づけた。小鳥のような小さなキスを繰り返しながら 大腿をそっと、それからまたお尻に向かってなで上げる。指先がお尻の間をたどると、ア スカは思わずお尻をすぼめそうになったが、絡めた足に力を入れてこらえた。 カヲルは、服の上からさわったり、服の下に手を差し入れたりするのが好きだった。ア スカが理由を聞くと、洋服はリリンの生み出した偉大な文化だ、などとわかったようなわ からないようなことを言ったりする。 学校の帰りにカヲルの部屋に寄ったとき、部屋に上がるなり抱きすくめられたことがあ る。そのまま壁に押しつけられ、貪るように口唇を吸われた。制服のスカートに手を突っ 込むなりショーツの中に指を差し入れてきた。荒々しく揺さぶられ、かき回され、アスカ は戸惑いと驚きと羞恥に抵抗することもこらえることもできず、数分と持たずに駆け上が ってしまった。座り込みそうになるのを支えられながら服を脱がされ、生まれたままの姿 でベッドに押し倒された。アスカはカヲルにしがみつきながら、何度も叫び声をあげてし まった。 今のカヲルはいつも通り過剰なほど優しく、あの時のように乱暴ではない。いつものよ うに服の上から優しくなでられ、少しずつ脱がされて、ゆっくりと感じて行くのだろうと アスカは思っていた。 だから、お尻をなでられながらパジャマのズボンを降ろされた時、思わず息を呑んでカ ヲルを見上げた。 「だって、レイちゃんとお揃いで買ったばっかりなんだろう?」 「……なんでお揃いだと脱がすの?」 「いや、なんとなくね」 カヲルが彼女の心を読んだかのように言った。 「……バカ」 アスカは顔を赤らめ、彼の背中に爪を立てる。カヲルはいとおしそうに微笑んだ。 彼女の身体は、確かに反応を始めていた。 カヲルはアスカの足からパジャマを抜き取り、そのまま丁寧にお尻をなで、隙間にゆっ くりと指を這わせた。中指が優しく、でも少し強引に奥の方まで伸ばされると、お尻が細 かく震えた。アスカはそれが恥ずかしくてたまらなかった。そっと往復されると、お尻が 勝手にすぼまるのをこらえられなかった。 「……っ」 声を漏らしてしまいそうな口唇を塞いで欲しくて、カヲルの口唇を求める。キスの隙間 からアスカの湿った吐息が漏れた。 カヲルはアスカを仰向けにし、毛布をはぎ取った。そして、パジャマのボタンを外しは じめた。 いつもならまずパジャマの下に手を差し入れてくる。胸にさわられる前に裸にされるの は初めてかもしれない。そう思うと恥ずかしさが募った。十分にほぐされ感じてしまって から裸になるのなら、そう恥ずかしくはない。その頃にはもう恥ずかしいと思う余裕もな くなっているからだ。だが今はまだ恥ずかしかった。 カヲルがパジャマの前をはだけると、アスカは思わず両腕で自分の肩を抱くようにして 胸を隠し、膝を閉じて身体を縮めた。 自分のことを見て欲しいとは思う。だが見つめられると恥ずかしかった。 「隠したらだめだよ」 カヲルは耳元でそうささやきながら右手でアスカの腕を外し、腕枕をした左手の指を絡 めた。 「っ……うん……」 アスカは一瞬息を詰まらせてから頷いた。胸を見つめられ指を絡めただけで感じてしま う自分が、少しだけ嬉しかった。 「ん……」 アスカは目を閉じ、またキスをねだった。 ついばむようなキスを交わしながら、カヲルの手はアスカの左腕をたどって胸に向かっ た。優しく裾野をさまよったあと、五本の指を一杯に広げ、胸を包むようにした。指先だ けが裾野に触れ、手のひらは浮かせたままだ。そして、指先を少しずつゆっくりとすぼま せて頂上に向かって登らせて行く。柔らかな胸の形が変わらないほどの、羽根でなでるよ うなタッチだ。 切ないさざ波が打ち寄せる。アスカはキスから逃れ、微かに首を反らせて声をこらえた。 だが指先が先端を捕らえた瞬間、ぴくんと身体が震え、声が漏れるのをこらえることはで きなかった。 「……っあ!」 もう硬く膨らんだそこを軽く転がされ、息を詰まらせる。 次いで胸をすっぽりと包み込まれた。 「あ……ん……」 彼女は安心したような甘い吐息を漏らした。 キスを交わしながらゆっくりと胸を揉まれていると、ショーツに包まれた大切な部分が 熱くなってくる。柔らかな蜜があふれ出し、ショーツを熱く濡らして行くのがはっきりと わかった。また恥ずかしくなった。 「このパンツも、ね……」 アスカは恥ずかしさをごまかすように、パジャマと同じ淡いピンク色のチェックのショ ーツに触れながら言う。 「ファーストと一緒に買ったの」 「やっぱりお揃い?」 「うん」 「じゃあ、せっかくだからよく見たいけど、でも……」 「……」 「明かりをつけるわけにもいかない、かな……?」 カヲルはそう言って、悪戯っぽく笑った。 アスカはそんなカヲルを睨みつけたが、胸を少し強めに揉み込まれ、息を呑んで目を閉 じた。 「ねえ……」 目を閉じたまま、アスカは胸に触れているカヲルの手を押さえた。 「ファーストも、きっと今頃、シンジにさわってもらってる……」 「そうかもね……」 ファーストもきっと、シンジにさわられて……。 アタシと同じように、アタシとお揃いのパンツを――。 そう思うと、余計に身体が熱くなった。 「ね、カヲルも脱いでよ……」 アスカはそう言ってカヲルのパジャマのボタンを片手で器用に外した。カヲルはそうさ れながら、パジャマのズボンを蹴り脱ぐ。アスカのパジャマも完全に取り去った。 トランクス一枚になったカヲルが、再びアスカに覆いかぶさってくる。素肌と素肌が重 なり、口唇が触れ合う。二人の呼吸は乱れ、身体が熱くなった。 「ねえ……カヲル……」 キスから逃れたアスカが、甘いため息を漏らしながらささやく。 「……なんだい?」 「裸で抱き合ってするキスって、どうしてこんなにすごいの?」 「……どうしてだろうね。わからないけど、でも……」手のひら全体で、そっとアスカの 胸をさすりながらカヲルは言った。「アスカがどんどん柔らかくなって行くのは、良くわ かるよ」 「……バカ」 胸の先端をそっと弾かれ、アスカはそう言ったきり黙り込んだ。 「ん……くぅ……は……」 口唇や頬、それに耳やうなじにキスの雨を降らされ、左右の胸の膨らみを交互に、そし て同時に十分以上もゆるゆると揉まれ続けた。産毛に触れるように優しくなでられ、押し 潰すように少し強めに掴まれ、揺さぶられ、先端を軽くつままれ優しく転がされて、アス カはすっかり溶けてしまった。大切な部分からあふれ出した蜜で、ショーツはそのままシ ャワーでも浴びたかのようにびしょびしょに濡れてしまっている。 最初は感じているのをごまかすかのようにわざとばたつかせていた足も、今は彼女の意 志とは関係なく切なげに揺れている。身体中が痺れたようになって、うまく力が入らなか った。 薄く目を開くとカヲルが見つめている。感じている顔を隠すように、アスカはまたキス をねだった。 それに応えていたカヲルの口唇が、やがて頬からうなじを伝い、鎖骨を這い、そのまま 膨らみに向かう。胸を包み込んでいた手がほんの少しだけ動いて場所をあけた。カヲルの 口唇がゆっくりと膨らみを登って行き、それにつれてアスカの呼吸も乱れる。 アスカが胸の先端に暖かな吐息を感じた次の瞬間、カヲルはそれをそっと口に含んだ。 「んっ!」 アスカは息を詰まらせる。硬く膨らんでいるそこを舌先で転がされ、ぴくんと身体を跳 ねさせてしまう。 「アスカ、感じる?」 カヲルが顔を上げ、ささやくように言う。整った顔を快感に切なく歪ませ、彼女はほん の少しだけ頷いた。感じないわけがない。 さわられる度に、彼女はどんどん感じやすくなった。彼女の身体は、今ではもうすっか りカヲルの手に馴染んでしまっていた。 女の子の身体は、好きな人にさわられると感じるようにできている。アスカはそれを知 っていた。 例えば体育の授業で着替えているとき、気配を絶ったレイが背後に忍び寄っていること がある。レイはいきなり後ろから手を回して抱きすくめ、突然の事に棒立ちになるアスカ の柔らかな膨らみをそっと揉みながらこう言う。 「アスカのおっぱい、また少し大きくなった」 「ちょっと! やめてよ変態! かわんないわよ!」 「でも、柔らかくはなってる」 「アタシの胸は前から柔らかいわよ! そういうあんたはどうなのよ!」 アスカは身をよじってレイの手から逃れると、レイの胸を掴む。 「あんたは……少し大きくなったみたいね……」 「ほんとに?」レイは笑顔を見せる。「アスカと同じくらい、柔らかい?」 「大丈夫よ。ばっちり柔らかいわ」 「ありがとう」 「お礼を言われる筋合いはないわ。事実だもん」 レイが通ってきた過去を思い、アスカは優しい気持ちになる。レイがこんなことを気に するようになったのが嬉しかった。 戯れに、手の動きをいつもカヲルにされているような動きにしてみる。再び手を伸ばし たレイの動きも微妙に変化した。互いの目線を絡ませてまさぐりあいながら、レイはシン ジにこんな風にされてるのかな、と思う。急に恥ずかしくなり、レイの手を振り払う。も ちろん感じたりはしていない。どんなに優しくさわられても少しくすぐったいだけだ。レ イはカヲルとは違うのだ。さわる方とさわられる方、お互いが愛し合っていなければ感じ たりはしない。 確かにアスカはレイを愛している。だがその愛は、やはりカヲルに対するそれとは違う ものなのだ。 「はぁっ、あっ!」 片方の胸を揉みしだかれながらもう片方の胸を強く吸われ、アスカは我に返った。あえ ぎながら背中を反らせ、首をよじる。 いつもより感じているような気がする。まだ胸を愛されているだけなのに。 胸をなでていたカヲルの手がゆっくりと下り始め、アスカの体温がまた上がった。 身体のラインをたどる指の動きに連れてアスカの平らなお腹が波打つ。指先がおへそに 触れ、くすぐるように周辺をさまよう。 すぐに、偶然のようにショーツに触れた。アスカの身体がぴくんと跳ねる。ショーツの 上からさするようにお腹をなでる指は、だが何度か近づくようなそぶりを見せては離れる ことを繰り返したあと、かすめるようにして内腿に動いた。 指先を大腿の外側に回しながらなで下ろし、内側に滑らせてそっとなで上げる。ショー ツのラインを軽くたどるようにしながら上って行き、またウエストをさまよう。 アスカは膝を閉じることも開くこともできず、細い声で切れ切れにあえぎながら必死に カヲルの動きを受け止めていた。 ショーツの上からお腹をなでたり、ウエストを滑っていた指先が、さりげなくショーツ のゴムをくぐった。 「……!」 アスカの身体がぎくりと強ばる。指先はまだ疎らで細い柔毛をくすぐり、穏やかに膨ら んだ丘をそっと探る。 「ぅ……ん……ぁ」 だがカヲルは、入って来たときと同じようにさりげなく、ショーツの中から出て行って しまった。 「あぁ……」 無邪気な子供のような手の動きに翻弄され、アスカは切ない声を漏らした。 カヲルの指先は再び大腿に滑る。少し汗ばんではいてもなめらかさを失わない大腿を何 度もなで、さする。指先で膝を丸くたどり、また大腿をなで上げ、なで下ろす。内腿に回 り、そっとなで上げる。 「ふぁ……んぅ……」 痺れるような、くすぐったいような快感が疾り、足が震えた。いくら焦らされて敏感に なっているといっても、腿がこんなに感じるなんて信じられなかった。 やがて、内腿に回されたカヲルの手が明らかにアスカを目指してゆっくりと這い上がり 始めた。彼女にはそれがはっきりとわかった。 指先が近づき、アスカはカヲルの肩を掴んでいる手に力を込めた。 カヲルの中指は、そのまま真っすぐに、アスカの大切な部分に触れた。 「っあ!」 ショーツ越しとはいえ、その衝撃は大きかった。 カヲルの指先がショーツに浮き出た細い線をそっとたどる。 「あ……んぁああ……あ……」 アスカは緩みそうになる口唇を噛み締め、切ない快感にあえぐ。もどかしいほどの優し さでさわられているのに、アスカの身体は敏感に震える。そして、身体が震えるたびに熱 い蜜があふれ、ショーツを甘く濡らした。 カヲルの指は、微かな幼い線を道標にして彼女の最も敏感な部分に向かってゆっくりと 進んで行く。アスカは身を硬くし、口唇を噛み締め、固く目を閉じて耐えることしかでき ない。 そしてカヲルの指先が、彼女の可憐な芽に達した。 「んんっ!」 ショーツ越しの微妙な感覚に、身構えてはいても声をこらえることはできなかった。ア スカはすぐに来るはずの更に大きな快感を受け止めようと、カヲルの肩を握り締めた。 だが彼の中指は、アスカの上に軽く乗ったまま動こうとしなかった。 それでも疾り続けるさざ波の中で、彼女は薄く目を開いた。いつもと同じアルカイック スマイルを浮かべたカヲルがいた。 微笑みを返そうと思ったその瞬間、カヲルの手のひらが、彼女の柔らかな部分全体を、 ふんわりと包み込んだ。 「あーっ!」 アスカは高い声をあげて背中を反らせ、息を詰まらせた。身体に力が入らないのに、足 が勝手に突っ張った。 「ふぁ、く……んん――っあ!」 カヲルの手は柔らかなアスカをなで、指先を滑らせ、そっと掴んで揺さぶり、優しく握 り、揉みしだいた。その動きに合わせ、アスカは呼吸もままならないままに声を漏らす。 彼の愛し方はあくまでも優しいものだったが、アスカは急激に上昇していった。 ぴんと伸ばしたつま先も、カヲルの足に絡みつき締め付ける膝も、彼女の意志とは関係 なく細かく震えた。 彼の肩を掴んでいた手を必死に離し、シーツをぎゅっと握り締める。爪を立ててしまい そうだったからだ。 もう、とにかく一度いってしまおう、と彼女は思った。このまま我慢しても、もう何分 も持たないことはわかっていた。抱き締められ、ショーツの上からなでられただけで達し てしまうのは少し悔しいけれど、でもアスカをこんなにしたのは、間違いなくカヲルだっ た。 「あっあっあっああっああああっ!」 アスカの声が、追い詰められたような短いものに変わる。カヲルの手の動きが大きく激 しくなって行く。 だが、アスカが最後の一歩を踏み出そうとしたその瞬間、カヲルは彼女の身体からすっ と離れた。 だめ、やめちゃだめ、やめないで――! そう叫ぶこともできず、アスカは全身を硬直させた。息を止め奥歯を噛み、まぶたを固 く閉じて必死に立ち止まった。さわられてもいないのに、それまでの勢いだけで、背中を 押された勢いで、ひとりで達してしまうのは嫌だった。せめて抱き締められていきたかっ た。だからアスカは懸命にこらえた。 身体の中で暴力的なまでに大きくうねり続ける波に耐えているアスカに、カヲルが再び 重なってきた。 「――っあ!」 アスカは短く声をもらし、カヲルにしがみついた。 もう離さない。爪だって立ててやる。だって、カヲルが悪いんだから――。 カヲルは貪るようにアスカの口唇を深く吸い、胸を強く揉みしだき、全身をなで回した。 だがその動きは、アスカを頂点に導くものではなかった。 硬く強ばったアスカの身体が、カヲルの手で丁寧にほぐされて行く。 「あ……ああぁ……」 力が抜けて行く。達してもいないのに絶頂の余韻の中を漂っているようだった。再びカ ヲルに導かれれば、もっとずっと高いところまで上っていってしまうのはわかっていた。 だが、いかせてと懇願することなどできようはずもない。彼女はどうしようもなく漂うし かなかった。 カヲルは、全身に熱をためこんでしまっているアスカをうつ伏せにさせた。そして、身 動きもできず、されるがままの彼女の背中に重なった。 「ぁ……」 ショーツ越しに、ぴったりとお尻にあてがわれたカヲルを感じる。彼はいつのまにかト ランクスを脱いでいた。アスカはその存在感に小さな声を漏らした。 カヲル、こんなになってる――。 自分が気持ち良くなりたいのと同じくらい、カヲルにも感じて欲しいと思う。だが、抱 き締められてすぐにカヲルに手を伸ばすのは恥ずかしい。迷いながらキスを続けているう ちに、すぐに夢中になってしまい、自分がどうしたいのかわからなくなる。触れられてし まえば、ただシーツを掴み、彼にしがみつくだけで精一杯になってしまう。 こんなに感じさせられてばかりなのは少し悔しい。カヲルにも感じて欲しい。 触れてみたい。キスだってしてみたい。 手を伸ばしてみよう、と思う。だが、しびれたようになっている手は自由に動かすこと ができなかった。 何とか手を伸ばそうとしているアスカのうなじに、カヲルはそっと口づけた。背筋に沿 って口唇を這わせて行く。アスカは枕に顔を押しつけて声をこらえた。 口唇がウエストに届き、カヲルは顔を上げた。両手がショーツのゴムにかかり、そのま まお尻をなでるようにしながらするすると下ろされた。足首からも抜けて行く。 裸にされた――。 身体中をうねり続ける波間に漂いながら、アスカはそれを何か遠いことのように感じて いた。 だがお尻にカヲルの吐息を感じ、彼女は我に返った。 「ちょっと!」アスカは上体を反らせ、片手でお尻を隠しながら叫んだ。「そんなとこ見 たらコロスわよ!」 「それは困るなぁ……」 カヲルは微笑みながらそう言うと、アスカの腰に手を添えて仰向けにした。アスカは視 線を感じ、両手で押さえながら膝を閉じた。びしょびしょになってしまっているのを見ら れるのは、あまりに恥ずかしかった。 「見ちゃダメ!」 「暗くて見えないよ」 カヲルはそっと膝に口づけた。アスカの身体から一瞬力が抜ける。そのまま膝を割ると、 カヲルの口唇は内腿を這い上がり始めた。 「あ、まって! あっ」 カヲルが何をしようとしているか、自分が何をされるのか、アスカにははっきりとわか った。 頭を押さえようと、あわてて伸ばした手をカヲルに握り締められた。少しだけ冷めてい た体温が急激に上昇しはじめる。カヲルの口唇は、ゆっくりと、だが確実に、アスカに近 づいて来る。 「あ、ま、あ、ぁ……」 言葉にならない声が漏れる。目を固く閉じ、カヲルの指に指を絡ませ、握り締めた。 そして、熱い吐息を感じた次の瞬間、カヲルの舌先がアスカを舐め上げた。 「ふあああっ!」 温かな感覚が走った直後、電撃のような快感がアスカの身体を突き抜けた。彼女は高い 声をあげ、背中を大きく反らせた。 「ああーっ! あ、お願い、だめ、だめ、んああっ!」 二度三度と舐め上げられ、舌先で敏感な芽を転がされ、彼女は押し寄せる大きな波にも みくちゃにされながら必死にこらえた。なぜこらえているのか、何がだめなのか、彼女自 身にも良くわからなかった。 以前にもキスをされて達してしまったことはある。それを恥ずかしく思うのは確かだっ た。だが、嫌ではなかった。こんなに必死になって我慢しなくても、快感に身を任せて駆 け上がってしまえばいいと、薄れそうな意識の片隅で思う。だが今はいきたくなかった。 今はいきたいのではなく、抱き締めて欲しかった。抱き締められて、彼の腕に包まれてい きたかった。 「カヲル、お願い……んっ……帰って来て、あ、帰って、来てっ、ああっ!」 アスカは手を伸ばし、あえぎながら懇願した。 カヲルが顔を上げる。口唇が離れて脱力したアスカの上を滑り、ぴったりと身体を合わ せると、優しく抱きすくめながら耳元に口唇を寄せて言った。 「ただいま」 アスカは固く閉じていた目をそっと開き、キスでカヲルの口唇をきれいにしようとした。 だが、逆に口唇を強く吸われた。お帰りも言えなかった。 「ん……ぅん……は……」 合わせた口唇の間から声が漏れる。力の抜けていた身体がまた震えはじめ、アスカはカ ヲルの背中にしがみついた。そうすることでまた快感が増した。身体中が、そしてカヲル の胸に押し潰された二つの柔らかな膨らみが、痺れたように熱かった。 もう我慢しない、このままキスだけでいってしまってもいい、と彼女は思った。 舌と舌が触れ合ったとき、カヲルの手が内腿の間に差し込まれた。足を絡め合っている から膝を閉じることもできない。 アスカが再び腕に力を込める。手のひらはなめらかな内腿を真っすぐになで上げ、一気 にアスカを包み込んだ。 「――っ!」 まるで身体全体を握り締められたような感覚に、アスカは身体を硬直させた。 「アスカ、かわいいよ……大好きだ……」 口づけを解いたカヲルが耳元でささやく。そんなセリフがひどく恥ずかしかった。 アスカを包み込んだ手が、彼女の潤った柔らかな部分を優しく揺さぶりはじめる。 「ああっ!」 高い声が漏れる。 中指が、とめどなくあふれ出る柔らかな蜜を乗せ、細い線をたどって繊細な唇を押し開 いて行く。 そして、ためらうことなく愛らしい芽を捉え、弾いた。 「あ――っ! あ――っ!」 腰が勝手に揺れ、アスカは叫びにも似た悲鳴をあげた。 中指は敏感に膨らんだ真珠を容赦なく転がし、押し潰し、手のひらは全体を大きく揺さ ぶった。 「あーっ、んっ、あっ! だめ! ああっ! ふああああっ!」 言葉にできない圧倒的な何かが込み上げて来る。 アスカは足を数度ばたつかせた直後、全身をつま先まで突っ張らせ、渾身の力でカヲル にしがみつく。 そして彼女は、一気に上り詰めた。 「あっ! んっ! ――っ! ん――っ! ――っ!!」 息を詰まらせ、声にならない悲鳴をあげながら、彼女は春風に吹かれる小鳥の羽根のよ うに絶頂の嵐の中を舞った。 「あっ、ん、あ、ぅんっ!」 びくんっ、びくんっ、と何度も大きく身体を震わせながら、その度にアスカはあえいだ。 最後に長く身体を震わせたあと、アスカは大きく息をついて脱力した。カヲルの背中に 回していた腕がぱたりとシーツの上に落ちる。 「はぁ……あ……ぁ……」 まだ小さく身体を震わせながら、アスカは切ない余韻の波間を漂う。そんな彼女をカヲ ルはしっかりと抱き締め続けていた。 アスカを震わせている波の間隔が徐々に間遠になり、アスカはゆっくりと帰ってくる。 「アスカ……大丈夫?」 小さなキスをした後、カヲルがそう言った。 こんなにしたのは誰よ――! 心の中でそう毒づき、彼女はカヲルを睨んだ。 「……大丈夫じゃない」 カヲルはそれを聞いて微笑んだ。 「何がおかしいのよ」 「ごめんごめん。でも、アスカがあんまりかわいいから」 「かわいいとどうして――あんっ!」 まだ包み込まれていた柔らかな部分を軽く揺さぶられ、アスカは悲鳴をあげた。 「ちょっと! やめてよ!」 アスカは快感に耐え、そう言ってカヲルの手を引きはがした。 「感じすぎる?」 アスカはその声を無視しようとして怒ったような顔を作り、すぐに照れ笑いを浮かべて カヲルの背中に掴まった。 「……ね、カヲル。前から聞きたいと思ってたんだけど……」 アスカがカヲルの胸に顔を埋め、くぐもった声で言う。前から聞こうと思っていて、恥 ずかしくて聞けなかったこと。今なら聞けると思った。 確かに女の子の身体は、好きな人にさわられると感じるようにできているのだろう。で あるにしても、あまりにも感じすぎるように思うのだ。アスカがどうされると感じてしま うのか、カヲルがそれを知っているのが不思議でならなかった。 「なんだい?」 「その……どうやって覚えたの?」 「何を?」 「ええと……やり方っていうか……技っていうか……」 「ああ」カヲルは小さく笑った。「女の子の愛し方だよね。教わったんだ。……副司令に ね」 「……」 「ごめん。冗談だよ」 「……コロスわよ」 「加持さんがね、前に話してくれたことがあったんだ」 「加持さんが……?」 「ああ。どこをどうさわると感じるかなんて、女の子によっても違うし、その子の体調に よっても変わるんだから、そんなに重要じゃないって。大事なのは身体全体を使って女の 子を感じること、それから、どんな気持ちで愛するかってことだって」 「……」 「相手を思いやる気持ちがあって、自分勝手にならなければ、女の子はちゃんと気持ち良 くなってくれるって、そう言ってた」 「……」 「その時はよくわからなかったけど、アスカと……こうなって、なんとなくわかるように なったよ」 「……カヲルは、加持さんといっつもそんな話をしてるの?」 「まさか」カヲルは照れたように言った。「その時だけだよ。シンジ君と一緒だったんだ けど、彼が急に、キスってどういうときにすればいいんですかって聞いてね。それがきっ かけでそんな話になったんだけど」 アスカは吹き出した。シンジの思い詰めた顔が目に浮かぶようだった。 そして彼女は、カヲルにさわってみよう、と思った。絡めた大腿に押し当てられている カヲルを強く意識した。いつもより熱くなっているような気がした。 今ならさわれる。キスだって怖くない。こんなに思いっきり感じさせられた今なら。だ って、アタシをこんなにしたのはカヲルなんだから。全部カヲルが悪いんだから。カヲル にも感じて欲しいから。身体全体でカヲルを感じたいから――。 アスカは腕をほどいてカヲルの肩を押し、仰向けにさせる。上に乗って口唇を奪った。 目を合わせると、戸惑ったような顔をしているカヲルがおかしかった。 うなじに口づけ、それだけが存在を主張している乳首をそっと吸った。そうしながら、 おずおずと手を下に伸ばす。心臓が破裂しそうだった。さわられているわけでもないのに、 また熱い蜜があふれてくる。 今まで、こんなふうにしてカヲルに触れたことはなかった。スキンを付けるときに、手 伝うような感じで手を添えるだけだった。それはカヲルに触れるというよりも手に触れて いるだけに近く、もちろん握ったこともなかった。 自分がされていたように舌で乳首を転がし、これも自分がされていたのと同じように指 先で内腿をなで、上に這わせて行く。緊張に舌先が震える。 「……アスカ?」 カヲルの声を無視し、アスカは一気に指を滑らせた。緊張に耐えられなかった。 指先が、柔らかなクルミのような場所に触れた。 これって……! アスカの頭は真っ白になった。カヲルが小さく震えたことにも気づかなかった。それで も少しだけそれをなでた後、更に指を上に動かした。 そこにカヲルがいた。 「あ……」 思わず声が漏れた。 それは思っていたよりも遥かに大きく、熱かった。 自失していたのはわずかの間だけだった。アスカは気を取り直し、目を閉じたまま手探 りでそっとそれを握った。 硬い――! 骨でも入っているのかとすら思えた。こんなに大きくて硬いものが自分の中に入るとは、 とても信じられなかった。 でも驚いてばかりはいられない。どうすればいいのか少しだけ考え、軽く握った手をそ っと上下に動かした。 「――っ!」 カヲルが小さく呻き、身体を強ばらせた。 感じてるんだ――。 それがアスカに、ほんの僅かな余裕をもたらした。彼女は覚悟を決めた。 ――行くわよ、アスカ! 手の動きはそのままに、胸にキスしていた口唇を下にずらせて行く。 カヲルが息を呑んだ。 「……どうしたの?」 アスカの肩をつかみ、戸惑ったようにカヲルが言う。 「……したいの」 アスカはかすれた声でそう言った。目は見れなかった。 カヲルは彼女の肩から手を放した。 彼女は再び下りはじめる。思っていたよりずっと早くそれが頬に触れ、思わず立ち止ま った。 ためらいがなかったと言えば、それは嘘だった。だがここで止まったら二度とできなく なる。だからアスカは固く目を閉じ、そのまま口唇を滑らせ、キスをした。そして、思い 切って口に含んだ。さすがに目を開いて正視することはできなかった。 「うっ」 カヲルが声を漏らし、その身体がびくっと跳ねた。口の中で、含むだけで精一杯だった カヲルが脈を打った。それとシンクロするように彼女はまたあふれさせた。 アスカはおずおずと舌を伸ばし、彼をそっとなめた。 次の瞬間、カヲルはアスカの腕をつかみ、そっと、だが力強くアスカの身体を引き上げ た。 「どうして――」 口唇を清めるかのような荒々しいキスを受けた後、アスカは抗議の声をあげた。 「感じすぎるんだ。アスカにあんなことされたら」 「カヲルだって――」 「今度にしよう。その時までに覚悟を決めておくよ」 アスカを遮り、悪戯っぽい口調でカヲルが言う。 「ずるい」 「本当のことを言うとね――」カヲルはあっさりと身体を入れ替え、アスカを組み敷いた。 「もう我慢できないんだ」 カヲルが、熱く柔らかな蜜で甘く満たされたアスカの繊細で複雑な綻びを丁寧に割り開 いた。 「あ! ああっ!」 アスカが小さな叫び声をあげた。 さっきまで彼女の口に含まれていた部分が彼女に吸い込まれる。 そしてカヲルは、アスカと視線を絡ませあいながら、深く腰を沈めた。 「あっ! はああああぁぁぁっ!」 アスカは思わずカヲルにしがみつく。 二人の身体は隙間なく密着した。 自分の中にいるカヲルの圧倒的な存在感に、彼女は震えた。 カヲルはアスカの奥深くまで入ったままじっと動かなかった。それでも、痺れるような 快感が断続的にアスカの身体を疾った。ひとつになっただけで、ただそれだけでアスカは 寸前にまで高まっていた。 「――アスカは、今日は大丈夫な日だ。だから……」 カヲルはそう言って言葉を切った。 彼が口にしなかった言葉は、改めて言われるまでもなく彼女にはわかった。 カヲルがスキンをしなかったことに、ようやく気づいた。 カヲルが……アタシの中で――! それがアスカの体温をさらに高め、感じやすい彼女の身体をもっと敏感にした。 なぜカヲルが知っているのか不思議だったが、確かに安全日だった。だがそれは、計算 の上では、ということに過ぎない。 もし赤ちゃんができたら……。 産もう、と彼女は思った。それは甘えに過ぎないということはわかっていた。まだ子供 の自分たちには、子供を育てることなどできはしない。だがカヲルの子供なら産みたいと、 彼女は心の底からそう思った。 カヲルがゆっくりと動き出す。 身体全体を疾るその感覚は、あまりにも甘美だった。自分の中にカヲルがいて、二人は 確かにひとつになっている。二人を遮るものは何もない。自分がカヲルで満たされている。 その事実がアスカを途方もなく高めていた。そして彼女は、身体の奥底から沸き上がる 快感に我を忘れた。 自分の中でカヲルが動く。身体の中にいるカヲルがアスカをかき乱す。自由自在にかき 回される。突き入れられて全身を震わせ、引き抜かれてあえぎ、奥深くで揺らされて息を 詰まらせる。 「あっあっあっああっああああっ!」 アスカの口唇から切なく高い声が漏れる。呼吸も満足にできない。足を指先までぴんと 突っ張らせ、ふくらはぎを細かく痙攣させた。 カヲルを包み込んでいるアスカが、びくっ、びくっ、と彼を強く締め付ける度に、自分 の中のカヲルが大きくなったような気がして、アスカは大きな声をあげた。 首の下に回されたカヲルの左手が肩をつかむ。右手は胸を、すくい上げるように包み込 み、揉みしだく。 「はあっ、あ、あああっ!」 カヲルはリズミカルに動きながら、右手をアスカの頭のてっぺんから大腿に、膝を引き 寄せてつま先まで何度も滑らせ、そして柔らかな両方の胸の膨らみを自由自在になで回し、 揉みしだいた。アスカの身体を浮かせるようにして背中をすっとなでおろし、お尻を掴ん で隙間の奥深くまで指を這わせた。頬からうなじに、そして口唇にキスの雨を降らせた。 背中を丸めて舌先で胸の先端を転がし、音を立てて強く吸った。 上半身を起こしたカヲルがアスカの大腿を抱いて動くと、彼女の柔らかな胸が激しく揺 れた。アスカはシーツをぎゅっと握り、背中を反らせ、いやいやをするように首を激しく 左右に振った。それに合わせて、海のように広がった豊かな亜麻色の髪が踊る。 身体の中と外から送り込まれる圧倒的な快感に翻弄され、自分がどこにいるのかすらわ からなくなりそうだった。ただ、自分はカヲルと共にいる。確かなのはそれだけだった。 「カヲ、ル……アタシ……もう……っ!」 両手を回して身体を密着させ、動き続けながらカヲルがアスカの耳元で言う。 「アスカ……我慢しないで……」 「あ、いやぁ、あ、ふあぁっ!」 「アスカ、大好きだ」 その声と同時に、アスカは思いっきり駆け上がった。 「あ、だめ、いや、あ、ああ、あああっ! あ――っ!!」 固く閉じたまぶたの裏を眩い光が閃いた。アスカは息を詰まらせ、びくびくっと全身を 大きく震わせた。カヲルがしっかりと抱きとめていてくれなければ、どこかへ吹き飛んで しまうのではないかとさえ思った。 「あっあっあっあっああああぁん――っ! ――っ! あーっ! あーっ! ん――っ! ん――っ! ――っ!!」 たて続けに三度、彼女は上り詰めた。 最後の絶頂は信じられないほど長く続いた。アスカは力いっぱいカヲルにしがみつき、 震えながらその背中に爪を立てて絶頂を受け止めた。 やがて最後の長い硬直が解け、アスカはゆっくりと帰って来た。時折り身体を震わせて はいるが、乱れた呼吸は徐々に正常なものに戻りつつあった。 髪を優しく撫でられながら、意識が薄れるほどの濃密な余韻の中で彼女は考えていた。 敏感になっている彼女の内部は、カヲルのどんな僅かな動きにも反応した。たとえ激しい 絶頂の中にあっても、失神さえしなければ自分の中のカヲルの動きはわかっているはずだ った。 カヲルは特有の脈動をしていない。 そして、アスカの中で硬度を失う気配もなかった。 それはつまり、こういうことだ。 カヲルはまだ終わっていない――。 彼は顔を上げ、アスカに優しいキスをする。そして再び動き出した。 そこからは続けざまだった。 仰向けのまま膝を抱えるような姿勢になり、上から押し潰されるように突き入れられて。 ぺったりとうつぶせになって、背後から左手で胸を掴まれ、右手で敏感な芽をかき回さ れながら、腰をお尻に叩きつけるように激しく動かれて。 上になっても、全身が燃えたようになって自分から動くこともできず、下から両方の胸 を掴まれ揉みしだかれ、激しく突き上げられて。 うつぶせの状態で膝を立て、お尻を突き出すような格好で腰を掴まれて。 上半身を起こしたカヲルの前に座らされ、しっかりと抱き締められ、優しく背中をなで られながら揺さぶられて。 仰向けになって、高く上げて揃えた膝を抱えられ、ゆっくりと動きながら大腿をなでら れて。 そのまま伸ばした手がお腹をなで、胸をさすり、強く掴まれ、かき回すように揉み込ま れ、先端を転がされて。そしてまた激しく突き入れられて。 その度にアスカの全身を絶頂が貫く。 背中を反らせ、カヲルの胸にすがり、切ない声を漏らし、高く叫び、身体を震わせ、つ ま先までぴんと突っ張らせ、涙さえ流しながら、アスカは何度も駆け上がった。快感に切 なく歪ませた顔を優しい瞳に見つめられながら、アスカは何度も何度も宙を舞った。 何度上り詰めたのかもわからなくなった頃、ふと気づくとカヲルが動きを止めていた。 「アスカ……」上になったカヲルが、アスカの涙を吸い、いつになく余裕のない声で言っ た。「一緒に……いこう……」 「……!」 彼の言葉にアスカの身体がぴくんと跳ねる。無言でしがみつくことでそれに答えた。 好きよ、カヲル――! 心の中でそう叫んだ。 そしてカヲルは、真っすぐに動き始めた。 「んんっ! く、ぅ……ふぁっ!」 全身を突っ張らせ、足指を固く握る。カヲルを強く締め付ける。少しでも気を緩めれば すぐにでも駆け上がってしまうところまで、もうアスカは追い詰められていた。それでも 彼女は歯を食いしばり、カヲルの胸にすがりついて耐えた。もう一人ではいきたくなかっ た。カヲルと一緒に、大好きなカヲルと手を繋いで一緒にいきたかった。だが彼女の限界 はもうすぐそこだった。 「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ああ、ああああっ!」 呼吸さえ満足にできない中、直前の切ない悲鳴が絶え間なくこぼれる。 そして、変化を加えながらもリズミカルにアスカの中をかき乱していたカヲルの動きが、 不意に乱れた。 「アスカっ!」 カヲルは呻くようにそう言うと、アスカの背中を浮かせて右手を差し込んだ。 力いっぱい抱きすくめられて、身動きもできなかった。もうどうしようもなかった。 「あーっ! あーっ! あーっ!!」 アスカが切羽詰まったような声で叫び、渾身の力でカヲルにしがみついた。 カヲルはアスカの奥深くで小刻みに動いたあと、強く締めつける彼女に逆らって大きく 激しく突き動かす。そして、思いっきり深いところに打ち込んだ。 「ふああっ!」 その瞬間、アスカは限りなく透明な閃光に包まれ、最後の階段を一気に駆け上がった。 全く同時に、カヲルが激しく弾けるようにアスカの中に迸らせた。 「ああっ! はああ――――っ!!」 叩きつけるような熱い奔流を身体の奥底に浴びせられ、アスカはさらに高いところへ舞 い上がった。 カヲルはアスカを抱きすくめたまま、強く密着させた腰を更に押し付けるようにしなが ら何度も何度も彼女の中に注ぎ込む。 「――っ! ――っ! ん――っ!!」 少しも降りることを許されず、アスカはその度に信じられないほど高いところへ上り続 けた。 吹き飛ばされそうなほどの絶頂の嵐の中、二人は息を詰まらせたまま固く抱き合ってい た。互いの身体は完全にシンクロし、全く同じリズムで震え続けた。 やがてカヲルの放出が止まった。アスカは息を止め、身体を硬直させたまま細かく震え 続けている。カヲルもアスカを離さなかった。 「――あっ、あ、はあぁ……」 永遠に続くかと思われた絶頂が過ぎ、彼女は大きく息をついて脱力した。 「はぁ、はぁ、はぁ、ああ……」 アスカは荒い息をつき、まだ小刻みに身体を震わせながら、そのまま溶けてしまいそう なほどの甘い余韻の中に浮かんでいた。軽くかけられたカヲルの体重が心地よかった。自 由に動かない腕で彼の背中をさすり、頬に触れた。 「カヲル……キスして……」 カヲルが顔を上げる。二人は、長く深い口づけを交わした。 固く抱き合い、ひとつになったまま髪を、そして身体を優しくなでられて、余韻がもっ と甘く、深いものになった。 少しだけ失神していたのかもしれない。気がつくと、カヲルがアスカの中から出て行こ うとするところだった。 「あ……」 引き抜かれ、その切なさに小さな声を漏らした。カヲルはアスカの隣で横になり、その 髪をそっとなでている。 カヲルが見てる――。 身体が熱い。頬も耳もまだ真っ赤だろう。自分がどんなに乱れたかを思い出すと恥ずか しかった。どうしようもなく何度も何度も駆け上がる姿を、きっと見られたはずだ。 彼女はカヲルの目を見ないようにまぶたを閉じ、またキスをせがんだ。 「ねえ、アスカ……」長いキスのあと、カヲルが小さな声で言った。「僕のこと、好きか い?」 ――そんなことも言われないとわかんないの? 彼女はそう言おうとした。だが口からこぼれたのはそんな言葉ではなかった。 「好きよ、カヲル」 自分らしくない、とアスカは思う。でも今なら素直に言える。だから、心の中で叫んだ 言葉をそのまま口にした。 「好きよ、大好き」 「僕もだよ、アスカ。大好きだ。アスカのこと、大好きだ」 何度も言わせたことのある、聞き慣れたはずのセリフが、涙が出るほど嬉しかった。 もう一度キスを交わし、アスカはまだ身体の中に残る心地よい余韻に身を任せ、カヲル の胸の中で目を閉じた。 だがカヲルは、アスカの耳元でこう囁いた。 「ちょっと待ってて」 「どこにいくの……」 自分でも信じられないほど甘えた声だった。 「すぐ帰ってくるよ」 カヲルは小さくキスをしてベッドから離れた。 止めようと伸ばした手も届かず、目線だけで彼を追った。早く帰ってきてとそれだけを 願った。一秒でも独りではいたくなかった。 すぐに戻ってきた。アスカは甘えるようなため息を漏らし、抱きしめてもらおうと手を 伸ばした。 カヲルはそんなアスカを見て微笑みながら、固く絞った熱いタオルで彼女の身体を優し く拭った。 そんなことしなくていいから――。 すぐにカヲルが傍に来た。身体の下にバスタオルを敷き、毛布をかけ、抱き締めてくれ た。 アスカは安心して、カヲルの腕の中で丸くなった。 背中や髪を優しくなでられながら、甘く溶けてしまいそうな幸福感に包まれ、彼女は眠 りの世界に入っていった。 起きて、アスカ――。 そんな声が聞こえたような気がして、アスカは身じろぎした。 「アスカ、起きて」 今度ははっきりと聞こえた。 「もう少し寝かせてよ……」 「起きるんだ、アスカ。遅刻するよ」 彼女はその声で自分が今どこにいるのかを思い出し、ゆっくりと目を開いた。カヲルが いた。首を巡らせて時計を見る。この場所から学校までの距離を考えると、確かに遅刻ギ リギリだった。 「なんでもっと早く起こさないのよ!」 アスカはそう叫びながら一気に上半身を起こす。カヲルの困ったような視線に気づき、 あわてて毛布で胸を隠した。 「無理だよ。僕だって――」 カヲルがどんな言葉を飲み込んだのかに気づき、アスカは思わず頬を赤らめた。 「とにかく、今は喧嘩してる場合じゃない」カヲルは引きつったアルカイックスマイルを 張り付かせて言った。「五分でシャワーを済ませるんだ。朝ごはんを食べてる時間はない よ」 「……あとできっちりカタはつけるわよ!」 アスカはもう一度時計を睨み、毛布を身体に巻き付けてベッドから降りた。 「あっ!」 突然アスカは戸惑ったような声をあげた。 「どうしたの?」 「なんでもない」 アスカは無理やり作った笑顔をカヲルに向け、毛布をひきずってバスルームに駆け込ん だ。 膝をきつく閉じて手早く髪の毛をまとめた。なるべく膝を閉じたまま脱衣所からバスル ームに入り、床にしゃがみこんだ。そしてゆっくりと膝を開いた。 これが、カヲルの――。 カヲルがアスカの中に残した命のかけらが、アスカからこぼれていた。 なんか……すごい……。 できることなら全部自分の中に残しておきたかった。だがそうもいかない。もしこのま まにして、授業中に当てられて立った時にでもこぼれ出したら大変なことになる。 気を取り直し、立ち上がってシャワーを浴びはじめた時、カヲルがバスルームに入って 来た。 「なんで入ってくんのよ変態!」 アスカは動揺を悟られないように怒鳴りつけた。 「時間がないんだ」カヲルは冗談とも本気ともつかない表情で言いながら、スポンジにボ ディソープをつけた。「ほら、まっすぐ立って」 カヲルはそう言うと、アスカの背中を洗い始めた。 「自分でできるわよ!」 「時間がないんだ。じっとしてて」 「……」 対応に困って棒立ちになっているアスカを尻目に、カヲルは背中からお尻を、そして気 づいているかのように、丁寧に内腿を洗い終えた。 「……悪いけど、前の方は自分でやってくれるかい?」 その声に上ずったものを感じ、アスカは我に返った。振り向いてスポンジを受け取った とき、カヲルの姿が目に入った。それは数時間前と同じようになっていた。 アスカはあわてて目をそらし、叫んだ。 「――変態! 時間がないのよ!」 「しょうがないんだ」カヲルはうろたえたように言う。「自分じゃコントロールできない こともあるんだよ」 アスカは手早く身体を洗い、ボディソープを流すのもそこそこにバスルームを飛び出し た。 脱衣所には新しいバスタオルが用意してあった。毛布も片付けられている。気が利くに も程があると思いながら身体の滴を拭い、バスタオルを身体に巻いた。部屋に戻り、ショ ーツを履こうとして少し考える。バッグから小物入れを出し、トイレに入ってナプキンを 付けた。まだカヲルが残っているような気がした。 トイレから出ると、カヲルはもうバスルームから出て制服を着はじめていた。アスカも 手早く制服を着て歯を磨き、髪をとかした。カヲルも歯磨きを終えた。 二人はばたばたと玄関に走り、急いで靴を履いた。そして、どちらからともなく抱き合 うと、小さくキスをした。見つめ合い、赤くなった。 「時間がない!」 我に返ったカヲルが叫び、アスカの手を取ると自転車置き場に向かって走り出した。 疾走する自転車の後ろに横座りし、カヲルの身体にしっかりと掴まって広い背中に頬を 押し付け、アスカは――寝不足なことも手伝って――半ば夢見心地だった。学校なんか行 かないで、このまま海にでも行きたいなと思う。海岸でカヲルにひざ枕をしてあげて、海 風に吹かれながら昼寝をしたら、どんなに気持ちがいいだろう。 「今の、シンジ君とレイちゃんじゃないかな」 不意にカヲルが言った。 「どこに?」 「そこの道を学校の方に行ったんだ。ちょっと待って」 カヲルはスピードを上げ、交差点を曲がった。 少し先を走る自転車の後ろに座っている空色の髪の少女は、確かにレイだった。 「追いついて」 「わかってる。……けどシンジ君も速いな」 シンジも遅刻はしたくないのだろう、かなりの速さで走っていた。 アスカと同じように、シンジにしっかり掴まっていたレイがアスカたちに気づいた。シ ンジの背中をつついて、何か話しかけている。 シンジが振り向いて二人を認め、少しスピードを緩めた。 「おはよう、ファースト」 アスカがレイに声をかける。しっかりとシンジに掴まったその姿がとてもかわいいと思 う。 「お、おはよう」 レイが答える。その声は、何とか動揺を隠そうとしているもののように思えた。 風に揺れる空色の髪はいつものようにさらさらだが、目が少し腫れぼったい。明らかに 寝不足だった。 アスカは横目でシンジを見た。引きつったような笑顔でカヲルと挨拶を交わしている。 カヲルの表情は見えないが、どんな顔をしているかは見なくてもわかる。 ゆっくりと前に視線を戻すと、レイもカヲルからアスカに視線を戻したところだった。 二人の少女はまじまじと見つめ合い、次の瞬間、全く同時に真っ赤になってうつむいた。 無言の少年少女たちと渦巻く妄想を乗せた二台の自転車は、ひたすら学校への道を爆走 した。 翌々日の朝――。 教室に入ったカヲルは、とてつもなく不機嫌な様子でほおづえをついて座っているアス カを発見した。 思わず立ち止まり、無意識のうちにポケットに手を入れながら考えた。自分に粗相があ ったのだろうか……。 だが少なくともここ数日間、してはならないことはしていないし、しなければならない ことは全てしているように思えた。彼女の気に障るようなことは何もないはずだった。 だからカヲルは、笑顔を浮かべながらゆっくりとアスカに近寄った。原因がカヲルには ないにしても、こういう時のアスカを放っておくと後々大変なことになると、彼は経験上 知っていた。 「ご機嫌斜めかい、アスカ?」 振り向いたアスカの笑顔を見て、カヲルはアルカイックスマイルを凍りつかせた。久し ぶりに見る邪悪な笑顔だった。 「ご機嫌斜めかですって? そんなことないわ。ご機嫌麗しいわよ。ただね……」 アスカはゆっくりと立ち上がった。 「生理痛なだけよ!」 アスカの腰の入った回し蹴りが炸裂した。カヲルはいつものように、アスカの打撃を巧 みに急所からずらして受けながら、自分から吹っ飛んだ。 宙を飛ぶカヲルの視界の片隅に、同じようにレイの平手打ちを食らって吹っ飛ぶシンジ の姿が入った。 お互い、自分で選んだ道とはいえ――。 床に頭を打ち付けないよう、きれいな受け身を取りながらカヲルは思った。 将来、苦労するんだろうな。やっぱり――。
end
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