Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.1 ) |
- 日時: 2010/07/28 18:31
- 名前: tamb
- 日時: 2010/07/27 12:07
名前: yo1
蝉時雨
作:yo1
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今年も夏が来た… 巡る時に思い出は色あせ、何時かは忘れてしまう… 忘れられた思い出は、どこに行ってしまうのだろう…
今年も夏が来た… また君に会える季節が来た… 僕は永遠に忘れない、君の事だけは…
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「綾波、麦茶でいいかな?」
シンジの問いに、レイはコクンと頷いた。
和室の中央に置かれた円卓、向かい合わせに座布団が置かれ、窓を背にした方にレイが座っていた。開けた窓から入る風で、少しでも涼しい様にと、シンジが気をつかったのだ。純白のワンピースを着たレイの後ろに、夏の青空が見えている。時折入る風が、レイの美しい蒼い髪を揺らした。
シンジが麦茶を準備して運んでくるのを、レイは微笑みながら眺めている。
「お待たせ」
レイの前に冷えたグラスを置くと、「よいしょ」っと、シンジは自分の座布団に座った。すると、レイがクスクスと笑う。
「ん?どうしたの?」
「碇君、まるでオジサンみたいよ」
「えー!酷いなー 綾波」
レイは、またクスクスと笑う。 シンジは、頬っぺたを膨らますと、怒ったふりをした。
「怒ってる碇君も素敵よ」そう言って、レイは麦茶を一口飲んだ。
「もー!からかわないでよ〜」そう言って、シンジは楽しそうに笑った。
暫く無言で見つめ合う二人。窓は大きく開けてあるのに、とても静かだった。
「綾波…とても綺麗だよ」
シンジが頬を染めて言った。
「ありがとう…碇君…」
レイも頬をピンクに染めて、嬉しそうに目を細めた。
二人一緒に麦茶を一口飲むと、シンジが話し始めた。
「昨日トウジから聞いたんだけど、洞木さんにプロポーズしたらしいよ」
「そう…ヒカリさん、喜んだでしょうね、二人には、幸せになってほしいわ」
「うん、そうだね。トウジの奴、凄く緊張したって言ってよ」
レイがクスリと笑った。
「ケンスケはさ、未だに軍艦とか追いかけてるんだよ」
「そう」
「だからね、いっその事、入隊したらって言ったらね、『趣味は仕事にしたくない』って、言うんだ」
「相田君らしいわね」
「そうだね」
シンジとレイは、視線を合わせると、楽しそうに笑った。
「碇君、笑ったら、相田君に失礼よ、ふふ」
「あはは、綾波だって笑ってるじゃないか」
レイは目じりの笑い涙を拭くと、澄ました表情で「笑ってないわ」と言って、また笑った。
「アスカは、ドイツの研究所で頑張ってるみたいだよ、時々メールくれるんだ」
「そう、惣流さんなら、きっと成功すると思うわ」
「そうだね、アスカは頭がいいから、何時か凄い発見とかして有名になるかもね」
「そうね、楽しみね」
苦しい時期を、共に戦った三人は、かたい絆で結ばれていた。どんなに遠く離れて会えなくとも、心は繋がっている。永遠の絆…
グラスの氷が、カランと音を立てた。
シンジとレイは、時を忘れて、おしゃべりを楽しんだ。
気が付くと、窓から見えていた青空は、夕焼けに変わっていた。
「碇君…もう…時間だわ」
「………」
シンジは、俯いて何も言えなくなった。
「碇君…顔を見せて…わたし、碇君の笑顔が好きよ…」
シンジは、両手を握り締め、気力を振り絞って顔を上げ、この時のために練習してきた、最高の笑顔をレイに見せた。
「…ありがとう…碇君…」
「…綾波…」
レイは、優しく微笑むと、少しかすれた声で言った。
「…碇君…さよなら…」
シンジの肩が震え始め、我慢していた涙が頬を流れ落ちた。
「…さよなら…なんて…悲しいこと…言う…なよ…」
今まで座っていた所にレイの姿は無く、空になったグラスの前に置かれた、小さな写真たての中で、蒼い髪の少女が笑っていた。何時の間に鳴き出したのか、ヒグラシの鳴き声が蝉時雨となり、一人残されたシンジを包んだ。シンジは泣いた、声を上げて泣いた。年に一度だけ…そう、一度だけ会いに来てくれる彼女を思い泣いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.2 ) |
- 日時: 2010/07/28 18:32
- 名前: tamb
- 上の書き込みはyo1さんがフライングで投下した作品をtambが転載したものです。
当該スレは削除してありますが、せっかくなのでレスも転載して晒しておきます(笑)。
-------ここから-------
ごめんなさい ( No.1 )
日時: 2010/07/27 13:47 名前: yo1
ごめんなさい>< ごめんなさい><
間違って、ここに投稿しちゃった;;
8月のお題です・・・
Re: 蝉時雨 ( No.2 )
日時: 2010/07/27 15:46 名前: tamb
> スレは毎月一日前後に立てます。スレが立つのを待って投下して下さい。
って書いてあるじゃねぇか!(爆)
というわけで、要項の該当個所を赤字太字にしてみましたw
作品はスレ立て後に該当スレに移動し、このスレは削除いたします。スレ立ては明日くらい。 そんなことでよろしく。
-------ここまで-------
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.3 ) |
- 日時: 2010/07/30 18:03
- 名前: JUN
-
キス、してください
もしもあなたとの距離が遠いなら、あなたが私のことを見てくれないなら、私があなたの側にいる意味 はない……――
「ねえ、碇くん」 「なに?綾波」 束の間の昼休み、そうレイが声をかけると、シンジは優しく答えた。 「…………」 しかしシンジの思いに反して、なにやらレイは切なげな表情をしている。 「どうしたの?綾波」 「……なんでもない」 言うやいなや立ち去ってしまったレイに、シンジは首を傾げた。
――何かあったのかな?
シンジは心配になった。ややもすればストレスを溜め込みがちになるレイである。何か悩みがあるなら 手伝ってあげたい、とシンジは思った。ましてレイは無二の恋人である。愛しい彼女の悩みは、自分も共 有してあげたかった。 しかし当面の相談はアスカにするのだろう、きっと。昔の仲の悪さからは考えられないほど、今二人は 良好な人間関係を築き上げている。何かあれば、きっと自分にもアクションがある。
その時、シンジの携帯電話が鳴った。
「はい、もしもし」 『もしもし、シンジ君?』 「はい。どうしたんですか、ミサトさん」 『ブッ――ツー、ツー、ツー』 「……切れたし」
悪戯か、だとすればたちが悪い。しかしミサトがそんなことをするとも考えづらいので、きっと充電切 れか何かなのだろう。そう結論付けたシンジが、携帯電話をしまおうとすると、
また電子音が鳴り響いた。
「はい、もしもし」 『もしもし、シンジ君』 「はい。どうしたんですリツコさん、急に。さっきもミサトさんが――」 『ブッ――ツー、ツー、ツー』 「……何なんだよ」 二度目となると、流石に何か作為的なものを疑わざるを得ない。次電話があって同じことになったら怒 ってやろうと軽く心に決めつつ、シンジは自分の席に腰を下ろした。
「ねえ、バカシンジ」 「なんだよ、アスカ」 「何よ、このアタシが話しかけてんのに、その態度。まあいいわ。明日のお弁当、ハンバーグがいい」 「分かった。でも綾波のも作るから、豆腐ハンバーグとかいいかな」 「相変わらずベッタリね〜、鬱陶しいくらい。で、なにそれ、美味しいの?」 「多分ね」 「ま、アンタのことだからまずいもんは作んないでしょ。期待しとくわ」 「はいはい」 「ねえ、碇君」 「どうしたの、委員長」 「今週は週番だから、よろしくね。綾波さんと」 「分かった」 「それじゃ」 「うん」
「なあ、センセ」 「なに、トウジ」 「ケンスケがな、新しいゲーム買ったらしいねん。しにいこうや」 「いいね、また予定空けとくよ」 「分かった。ほなな」 「うん」
「なあ、シンジ」 「なに、ケンスケ」 「今度シンジん家で勉強しようぜ」 「珍しいね、ケンスケが勉強なんて…………あ、そういうことか」 「ミサトさんによろしく言っといてよ」 「あの人結構だらしないよ」 「いいさ、そこがまたいいんじゃないか」 「そんなもんかな」 「そうだよ。だから、よろしくな」 「うん、わかった」
「やあ、シンジくん」 「どうしたの?カヲル君」 「いや、それだけ分かればいいよ。また今度ご飯でも食べに行こう」 「あ、うん……」
なんなんだ、今日は。なんだかんだで自分が接点を持つ全てのヒトと話した気分だ。
そんなことを考えていると、また電子音が鳴り響いた。流石にたまりかねたシンジは通話口に向けて怒 鳴った。
「ああもう!うるさい!!」 『ぴゃっ!?』 「えっ」
通話口から聞こえてきたどこか抜けて聞こえる声は、多分――
「マヤさん?」 『え、ええ。ごめんね、シンジ君』
何だ、マヤさんか。彼女なら大歓迎である。シンジ(作者)にとってレイに続く心のオアシスだったり するのだから。
「すいません。誰かの悪戯と勘違いしまして。何かごようですか?何でも言ってください」
その差はなんだ、と言いたいのは、きっと作者だけではないはずだ。けれどそれは甘んじて受けねばな らぬ。主人公なのだから。
『あ、あのね……シンジ君』 「はい」 『ご、ごめんなさい!』
ガチャッ
――なんだろう、このフられた感じ
いいさ、僕には綾波がいる。あの綺麗な眼を思うだけでどんな辛いことにも耐えられるさ。
そんなことを考えながら後ろを向くと、ちょうどレイが背後に立っていた。嬉しくなったシンジは声をか ける。
「ねえ、綾波――」
言いかけて、シンジの声が止まった。様子がおかしい。唇を軽く噛み締め、シンジが大好きな真紅の眸 は心なしか潤んでいる。
「どうしたの?」 「碇くん。私、もうあなたと、いられない……」
長いまつげに縁取られたレイの大きな眸から、大粒の涙がこぼれ落ちる。思いがけないことに、シンジ は焦った。
「な、何言ってるんだよ綾波!急に」 「だって、私……」 顔を伏せてしまったレイの側に行き、そっとその細い手首を握った。
「どうしたの、綾波。言ってごらん」
「……碇くん、アスカのこと、なんて呼ぶ?」 心持ち顔を上げ、レイが言った。 「え……アスカ、だけど」 「ヒカリさんの、ことは?」 「委員長、だね……」 「葛城三佐は?」 「ミサトさん」 「赤木博士は?」 「リツコさん、かな」 「伊吹ニ尉は?」 「マヤさん」 「渚くんは?」 「カヲル君、って呼ぶね」
大きくしゃくりあげ、レイは最後に言った。
「私の、ことは?」 「……綾波」 「うっ、うっ……」 「だからなんでそこで泣くの?」 「わ、私だけ……あだ名でも、下の名前でもない……うっ」 「へ?」 「他の人は、みんな、違うのに……」 「――それだけ?」
シンジはぽかんと、その場に立ち尽くした。正直慰めてやる気が起きづらいのは何故だろう。
「正直、何が駄目なのか分からないんだけど……」 「うっ、私だけ、他人行儀……私たち、恋人同士なのに…………」 言って崩れ落ちてしまった。流石のシンジも段々良心が痛んでくる。周りの視線が辛い。 「綾波、立って」 膝をついたシンジは、レイの肩を掴んで立ち上がらせる。足に力が入っていないらしく、そのままシン ジの胸に倒れこんだ。その背中を、シンジはぎゅっと抱き締める。 「……あぅ」 「……馬鹿だよ。綾波は。他人行儀なわけないじゃないか。綾波は、僕の一番大事なひとなんだから……」 「でも、でも……」 「あのね……綾波。呼び方なんて、些細なことなんだよ。心配しないで。それに……」 「そ、それに……?」 「――僕は大好きだよ、綾波っていう名前。すごく、綺麗だから……」 「ほ……ほんとう?」 「うん、漢字も綺麗だし。だから僕は、ずっと君の事を綾波って呼んでるんだよ……」 「碇くん……」 「だから、心配しないで。綾波が、一番だから……」 「うっ、いかりく、ごめんなさ――」 「謝らないで、綾波。心配させた僕が悪いんだ。だから…………一つだけ、綾波の言うこと、何でも聞い てあげる……」
レイが胸の中からほんの少しだけ顔を上げ、シンジを見た。紅い眸はうるうると揺れ、動揺を物語って いた。
「だ、だったら……」 「なに?」 「キス、してください……」 「こ、ここで……?」 レイはこく、と首肯した。 「みんなが、見てるけど――」 「みんなが見てる方がいい……碇くんがどこにも行かないように、私以外の女の人、見てほしくないから……」 背中に強い視線を感じる。殺気、と言ってもいい。綾波ファンはアスカファンに並んで多いのだ。今で も時折告白されていると聞く。無論全て断っているとも聞くが。
「誰にも、取られたくないから……!」
「……分かった、キス、するよ。目を閉じて、綾波」
レイがゆっくりと目を閉じて顎を突き出すと、シンジはレイの頭を抱き寄せた。シンジの方が背が高い。 レイはほんの少しだけ背伸びをした。 背後から、あぁ、と脱力したような声が漏れるが、シンジの耳には入っていなかった。どうでもよかっ た。ほんのりと暖かい彼女の唇はしっとりと濡れていて、色気にも似たものを備え始めていた。
「んん……」
レイの口から甘く、押し殺したような声が漏れる。レイが満足して唇を離すまで、シンジはずっと彼女 の頭を抱きかかえつづけた。
「満足、した?」 「……すごく。私、幸せ」 シンジが腕に籠めた力を少し緩めると、レイがまた崩れ落ちそうになった。 「あ、綾波?」 「……ごめんなさい。力が、はいらな……」 「無理しないで、綾波」 シンジは一瞬悪戯っぽく微笑み、レイの膝に腕を回すと、そのまま抱きかかえた。 「きゃっ」 「軽いね、綾波」 お姫様抱っこをされたレイは、顔を真っ赤にした。 「碇くん、恥ずかし……」 「なにが?」 「こ、こんなの……」 シンジは優しくレイを見つめた後、耳元でそっと囁く。 「かわいいよ、綾波…………綾波が言ったんだよ。自分だけを見て欲しいって」 「で、でも……」 「……そうだ、綾波。呼び方が不安って言ったね」 「うん……」 「心配しなくても、いつか綾波のことを名前で呼ぶようになるよ……」 「え……?」 「だって、綾波は……」
少し深めにレイを抱きかかえ、シンジは言った。
「僕の、将来のお嫁さんだからね……」 「ほんとう……?」 「本当だよ」
もう一度だけ口付け、シンジはそのまま言った。
「愛してるよ…………レイ」 「いか――シンジ、大好き…………!」
「もー帰れよあんた等……」
アスカの声は、どこまでも説得力を帯びて、教室に響いた。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.4 ) |
- 日時: 2010/07/30 21:19
- 名前: JUN
- ふと思いついたままの勢いで書いたので微妙は微妙(^^;)
勘弁してくだせえ
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.5 ) |
- 日時: 2010/08/01 23:29
- 名前: JUN
- 「やられたわ」
そう言ったレイの口調は、どこか楽しげですらあった。後頭部に当てられた銃口が、かえってその場の 空気を和らげているようにすら見えた。 辺りを包む蝉時雨が、レイの鼓膜を震わせていた。
蝉時雨
「迂闊だったね」 「そうね」 そう言った後、 「まったく――迂闊だったと言わざるを得ないわ。碇くんに背中を取られるなんて」 「僕も強くなった、ってことじゃない?」 「かもしれないわ。今となっては、あまり――」 ふふ、と押し殺したような笑い声を上げ、 「……関係ないけど」 「そうとも限らない」 「――え?」
レイが疑問の声を上げると、シンジはふっと笑った。
「綾波も知っての通り、今の綾波の運命は、僕が握っている。それ相応のペナルティが、綾波を待ってる。分かるね」 「……ええ」 後頭部に突きつけられたそれを急に意識する。僅かな恐怖を感じた。 「でも、それは綾波にとって歓迎できることじゃない。だから――チャンスをあげる」 「チャンス?」 「そうだ。綾波は、アスカとパートナーを組んでるね」 「……っ、まさか……」 「そう。綾波に――」
背後のシンジはレイの耳元に唇を寄せ、囁いた。
「アスカを、裏切って欲しい」 「な……」 「悪い話じゃない。綾波は最悪の結果を避けられる。僕も――復讐が可能になる」 「復讐?」 「……さっき、カヲル君をロストした」 レイがはっと息を呑む。暫しの沈黙の後、 「そう。アスカが、渚君を……」 「そうだ。だから綾波、これは取引になる。正直、僕一人でアスカをやれる可能性は五分。綾波の協力が あれば、十中八九成功する。だから――」 「断るわ」
シンジの言葉を遮り、レイは言った。
「私には、アスカを裏切ることなんて、できないもの」 「……そっか。残念だよ――とてもね。でも、これでよかったのかもしれないね」 「そうね。正直、碇くんと別の道を選んだ時から、こうなる気がしてた」 「避けられなかった……ってことかな」 「そう、ね」
「最後に……一つだけ教えて」 「なんだい?」 「私はずっと、碇くんの気配には注意を払っていた。渚君ならともかく、碇くんの気配は、絶対に察知す る自信があった。でも、気づいたら碇くんは私の後ろに立っていた。あり得ない、とまでは言わないけれ ど、不自然だわ。どうして……?」 「それは――この、蝉の声だよ」 「蝉?」 「そうだ。この蝉の声が、僕の気配を隠してくれた。木の上で待ち伏せしていても、綾波は気づかなかっ た。綾波がこの木の下に来た瞬間に、背後に飛び降りる。難しいことじゃない。音を立てずに飛び降りる くらいの訓練は受けてるからね」 「……そう、そういうこと」 「他に訊きたいことは?」 「ないわ」 「そう。じゃあ――」 「ええ」
夏の日差しに不釣合いな引き金を引く音が、蝉時雨の中静かに響き渡った。
「ファーストを、ロストしました」 「そう。多分、シンジ君ね……」 落ち着いたマヤの声に、ミサトもコーヒーをすすりながら静かに答えた。 「これで、アスカとシンジ君の一騎打ちね」 「そうね」 リツコは皮肉めいた笑みを浮かべ、ミサトに言った。 「けれど、きっと説得しようとしたでしょうね」 「……多分ね。レイがシンジ君に接触してからロストするまで、不自然なくらい時間があった。シンジ君 のことだから、恐らく――」 「寝返り……かしらね」 「多分、そうでしょうね。渚君を倒したと、アスカから報告があった。シンジ君としてはなんとしてもア スカを倒したいところでしょう。そこでレイに接触。味方につければ、これ以上有効な策はない」 「けれど、レイは受け入れなかった」 「そうね。でも昔のレイなら、恐らく――いえ、ないわね」 「聞かなかったでしょうね」 「そうね。任務の遂行が第一だろうから。今回は友情を取った形」 いつの間にかリツコは煙草に火をつけており、紫煙を吐き出しながらマヤの横に行き、パソコンの画面 に目をやる。 「泣かせる話じゃない。けど、私に言わせれば愚かとしか言いようがないわね。寝返っていれば、最悪の 結果だけは避けられたわ。作戦部長様は、どう考えるのかしら?」 首をこきこきと鳴らしながら、ミサトはアンニュイな笑みを浮かべた。 「悔しいけど、今回ばかりはリツコと同意見ね。折角のチャンス、感情に流されずにいればあるいは、ペ ナルティを避け、巧く渡っても行けた。軍人としてはあり得ないレベルね」 「あなたがそれを言うのかしら」 「うるさいわね。過ぎたことよ」 「さて……あとは」 「そう。アスカか……シンジ君か」 「結果次第で、今日の一杯の味が決まるわね」 「ま、そうなるわね……」
リツコの吐き出した紫煙はいつまでも、天井にわだかまっていた。
「く、く、悔しい……!バカシンジなんかに……」 「悪いねアスカ。今回ばかりは」 「全く、アスカにやられた時は終わったと思ったよ。でも、シンジ君があだ討ちをしてくれたからね」 「碇くん、今回は強かったわ。あの交渉は魅力的だった。腹黒かったけど」 「だってね、ずっと負けっぱなしだったから、たまには鼻をあかしたくなって。結局綾波は乗ってこなか ったけど」 「当たり前でしょ!レイはアンタなんかの取引には乗らないわ」 「うーん、残念だなあ。ま、それでも……分かってるよね」 「分かってるわ」 「分かってるわよ。全く、次は見てなさいよ!」 「アスカもたじたじだね。それじゃ……」
カヲルとシンジは声をそろえて、
「ゴチになりまーっす!」 「くぅぅ……!」
こうして『第三回“NERVチルドレンチーム対抗ゴチバトル”』は碇・渚チームの初勝利となった。
「なんにしようかな。カヲル君は何がいい?」 「そうだね。折角アスカとレイちゃんが奢ってくれるんだから、ちょっと高いものを……」 「ちょっと!ラーメンじゃないの!?」 「うーん、仕方ないな。じゃあいつものラーメン屋でいいよ。シンジ君は?」 「まあ、いいかな。次も勝てば済む話だし」 「負けないわよ!次は」 「私も……負けない」 「綾波に通用する交渉術を身につけておくよ」 「……乗らないわ」 「どうかな?」 シンジはくすくすと笑った。 「まあ、次は正々堂々、ね」 「そうね」
そう言ったとき、シンジの前にネギラーメンが運ばれてきた。
「ふう、おなか一杯だよ」 「私も」 レイを送っていく道すがら、シンジは言った。 「綾波って、意外とよく食べるよね」 「そう?」 「そうだよ。いつもお昼食べてなかったから、小食だと思ってた」 「そうでもないわ」 「まあいいと思うよ。綾波細いし。これ以上痩せたら大変だもんね。体重いくら?」 「……女の子に聞いちゃ駄目」 「あ、ごめんごめん」 シンジはゆっくりとレイの背後に回り、くびれた腰に腕を回した。 「じゃ、量ってみよう」 「え……きゃっ」 急に抱え上げられ、レイは小さく叫んだ。 「わ、軽い」 「お、下ろして……」 レイがばたばたと暴れると、シンジはそっと下ろした。 「ごめんね、怒った?」 「……怒ってないけど、びっくりした」 「そっか。でも本当に軽かったよ。ダイエットなんかしちゃ駄目だからね」 「でも、最近お腹がぷにぷにするの」 「そうは思わなかったけどな」 「碇くんが美味しいものばっかり作るから」 「そう言ってくれると嬉しいな。ぷにぷにってこの辺?」 「……そのへん。あんまり触らないで。恥ずかしいから」 「…………この辺は?」 「やんっ」 レイがじとっとシンジを睨むと、シンジはまた明るく笑った。 「ぷにぷにしてたよ。初めて触ったときより軟らかいね」 「……ばか」 「さ、行こう?もう真っ暗だよ」 腑に落ちない表情ながら、レイはシンジの手を取った。
夜になると、あれほどうるさかった蝉時雨は去り、代わりに河鹿蛙が鳴き始めていた。
「どのくらいぷにぷにしてるか、後でじっくり確かめてあげるから」 「……せくはらおやぢ」 「ひどいな、それ」
シンジの手は初めて握ったあの時と同じで、とても暖かかった。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.6 ) |
- 日時: 2010/08/02 15:07
- 名前: naibao
- 今までロムってましたが、勇気を振り絞って投稿いたします。
生まれて初めて書いたので、いろいろ不安です。アドバイスいただけたら死ぬほど嬉しいです。
並んで歩く 2人を包むのは 2人で使うには少し手狭な折り畳み傘と 重力に逆らうことのない水の音
■■■僕に、降る、雨■■■
彼女は真っ直ぐだった。
いつもどおり、制服で いつもどおり、左手に鞄を提げて いつもどおり、真っ直ぐ正面を見据えて いつもどおり、歩調を保ったまま
凛としていた。 傘もささずに、雨なんてまるで気にかけていないようだ。
それでも、雨は彼女の身体を濡らす。
声をかけるべきではない気がした。 彼女の透明な空気を僕が壊してしまいそうで。
そうしている間にも彼女の身体は容赦なく雨で濡らされていく。 制服の白いカッターシャツが水を含んで、肩から肌の色が透けて見える。
ついに僕は体中の勇気の欠片をかき集めて、やっとこさ彼女の名前を絞り出した。
想像以上に近くに彼女の息遣いを感じて居心地がわるい。 だからといって離れすぎると彼女に雨露がかかってしまう。 少しだけ左側に傘を傾けた。
触れあうかどうか、微妙な距離を保って歩く僕たち。
僕の左側には彼女の右側の輪郭。
蒼銀の毛先から雫が真っ白な首筋に伝い、制服のカッターシャツに吸い込まれていった。
――雨、
ふいに発せられた声にどきりとした。
―――あがったわ
いつのまにか雨音がセミの声へと変わっていた。
蝉時雨がいつもよりも耳にさわる。
彼女の体温が消えた僕の左側がじんわりと熱を持った。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.7 ) |
- 日時: 2010/08/02 23:12
- 名前: naibao
- tambさま
このスレをご覧のみなさま
はじめましてnaibaoと申します。 いつも楽しませていただいている作家さんたちの中に投稿するにあたり 緊張して挨拶が抜けてしまいました。
naibaoと申します。 エヴァと出会ったのは、2年ほど前で、こちらのほとんどのみなさまに比べればにわかです。 一時は熱が覚めた時期もありましたが、破をきっかけに再び盛り上がってしまっています。
こちらの作品はほとんど拝見致しました。 そのうちに自分でも何か書いてみたいという思いが大きくなった矢先(?)にこちらの10周年企画を知りました。
初めての挑戦で試行錯誤しつつなんとか1本書き上げました。 実際やると、ぽんぽん(と言ったら怒られそうですが)素晴らしい作品を生み出される作家さんの凄さを改めて感じました。
10周年(カウントダウン段階ですが)おめでとうございます。 これからも末永くこちらのサイトが続くことを祈りまして挨拶と致します。
ええと、カタイ挨拶になりましたが どうぞよろしくお願いいたします。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.8 ) |
- 日時: 2010/08/03 00:09
- 名前: のの
- はじめまして、nabioさん。
キャリアだけならトップを走る男です。イエーイ! ののといいます。ここ数年は開店休業に近いですが。
まずは投下ありがとうございます。僕がお礼を言うのもなんですけど、やっぱりご新規さんは常連にも嬉しいモノです。
で、肝心の投下SSですが。
うん、いいじゃないですか!味好み(俺好み)です。 雨の中の二人という設定が大好きというのもありますが、文章の佇まいも合っていていいですね。
>想像以上に近くに彼女の息遣いを感じて居心地がわるい。
ココ! こういうさじ加減が大好きなんです。甘酸系です。酢メインの甘酢。
褒めてばっかりですけど、ほんとにいいと思いますよ。 もう少し長い尺のも読んでみたいと思いました。 これからもよろしくです。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.9 ) |
- 日時: 2010/08/03 15:52
- 名前: JUN
- ■naibaoさん
初めまして。とりあえず、
>エヴァと出会ったのは、2年ほど前で
私より早いわけでw私が一年半くらいか前、です。
作品ですが、本当に初めて書いたのかと疑いたくなります。うらやましい。とても。 こういう温度のFFはやっぱりシンジ×レイだからだとも思いますので、その辺踏まえてとても好きです。特に自分はこういうのが描けない人種なので(滝汗) 絶対自分なら肌の色が透けたシャツにドキドキしてしまうシンジを書いてしまうでしょうし。きっとこれが本当のLRSなのだろうな、と。 落ち着いた静謐な文章は、何故か老練さを感じます。シーンとかと合っていてとてもいいかと。
ののさんもおっしゃってますが、長い作品も読んでみたいな、とおねだりだけしておきます(笑)
これからもよろしくお願いします。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.10 ) |
- 日時: 2010/08/03 22:23
- 名前: naibao
- ののさま
甘酸ですか?酢メインですか ありがとうございます。 というか、褒められすぎて少し怖いです。
今思う中学生の恋愛って、結構甘酸っぱいですよね ・・・というか甘酸っぱくあってほしいっていう、願望でしょうか。 もう、私の萌ポイントそこなんです。
そこらへん感じていただいてとてもうれしいです。 こちらこそ、これからもよろしくおねがいします!
JUNさま
身に余るほどのお褒めの言葉恐縮です。 というか、「静謐」が読めませんでした(汗 実は、国語が苦手な人間です・・・ こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
うちのシンジくんは肌の色が透けたシャツよりも、レイの首筋を伝う水滴にドキドキしてしまうんです。 きっと性癖の違いです。
本当のLRSもなにも、そこはお好みかと・・・ JUNさんの甘々な二人も、とても好きですよ。
長い作品ですか・・蛇足が多くなる気がしてうまくまとまるかどうか。 何事も挑戦でしょうかね!やってみやす。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.11 ) |
- 日時: 2010/08/07 07:37
- 名前: calu
- ■JUNさん
「キス、してください」は予想通り、問答無用のゲロ甘ですねー。 思い付くまま勢いで書けてしまうのが羨ましい限りです。 「蝉時雨」 >「…………この辺は?」 どこだ!?(爆)
特に最近、JUNさんの文章がなめらかになって来たように思います。 とても読みやすいですよね。まだまだ楽しみにしております。
■naibaoさん こんにちは。はじめまして、caluと申します。
>エヴァと出会ったのは、2年ほど前で、こちらのほとんどのみなさまに比べればにわかです。 わたしは2年未満ですので、naibaoさんの方が先輩だと思います(笑)。
さて、作品の方ですが、いい作品だと思います。 雨の中で、際立つレイの凛然さが良く描写されていると思います。
>彼女の体温が消えた僕の左側がじんわりと熱を持った。 この描写、いいですよね。消えた傘にレイを惜しむシンジ君の心象が浮き上がってくるようです。
タイトルも深くていいですよね。次作も楽しみにしております。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.12 ) |
- 日時: 2010/08/07 18:55
- 名前: JUN
- ■caluさん
どもです。なんか乗ってますな。この勢いならもう一本くらいいけそうで。お題は渡し向きかもしれませんw >どこだ!?(爆) その辺です(爆)ハアハア 次作も読んでいただければ、と
|
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.13 ) |
- 日時: 2010/08/08 19:55
- 名前: 何処
- 【ネルフの夏・日本の夏】
ミーンミンミンミンミンミー… ジャワジャワジャワジャワジャワジャワジャワー…ジー…
『暑い…』
『…』
『レイ…暑くない?』
『…熱いわ…』
『全然そうは見えないけど…』
『…無駄な行動は体力を消耗し、体温を上昇させる…』
『つっまんない女ねあんた…カリガリ君もう一本食べよ…』
『無いわ…私が食べたもの…』
『い、いつの間に…っ!?あ、あんた二本食べちゃったの?』
『ええ…アスカが二本…私が二本…』
『…シンジの分どーする?』
『…あ。』
『あいつ妙な所拘る小さい奴だし…』
『…拗ねるわね…』
『…どーする?』
『…又料理当番ボイコットされてレトルトとインスタントの嵐は嫌よ…』
『…冷奴と素麺と納豆のローテーションもね…』
『それに…』『あれよね…』
『『…ミサトカレーが一番怖い…』』
『…どうする?』
『策は三つね…1つは今からカリガリ君を買って来』『却下』
『…レイ、躊躇無く却下したわね…』
『…で?次の策は?』
『…シンジにカリガリ君買って来てって連絡…』『ぴぽぱぽぴぽ…』『早っ!?』 プルルル、プルルル、プルル…
『…』『…』 『携帯置いてったか…』 『碇君の…ばか…』
『…となれば、最後の手段。上手く誤魔化すしかないわね。』
『…どうやって?』
『…ヒント、こないだの買い物。』
『…あれ?』 『そ。あ・れ。』
『…アスカ…策士だわ…』
『フフン♪』
『ふひ〜、ただいまぁってうわわわわわわっっ!?』
『キャー!』『き、きゃーっ…』
『わわわわわっ!?ご、ごめんって違うあ、アスカあ、綾波な、なんて格好…』
『このエッチバカ変態スケベ何女の子の下着覗いてるのよ馬鹿!』『…ばか。』 『あ、い、いやあのそのあ、アスカご、誤解だ!そ、そう事故だよ事故!』
『碇君の…エッチ。』
『あ、綾波誤解だ!そ、それに大体こ、ここは僕達の家な訳だし…』
『喧しい!乙女の下着姿見といて何よ!?』『碇君…エッチ…』
『あああアスカ!?あああ綾波!?え、冤罪だよそれ!?ぼ、僕は何もわざと…』
『うっさいわねほら!いつまでアタシ達の下着姿見てるのよ!着替え終わるまで買い物でもして来なさいよ気が利かないわね全く!』
『わわわ!?ご、ごめん!あ、で、でも今お金が…』
『あーもー判ったわよ五百円渡すからカリガリ君箱で!』 『碇君…私も…はい五百円…』
『う、うん!じ、じゃい、行ってきますぅ!』
『『…』』
『…行ったわね…』
『…にしてもレイ…あんたも役者ね…』
『…アスカこそ…』
『でもそれ凄いわね…後ろ向いて見て』
『…こう?』
『な!?テ、TバックよそれTバック!!』
『浴衣仕様…アスカだってそのハイレグ…凄いわ…』
『え?そ、そう?水着はおとなしい方だけど…』
『ワンピースよね…背中の凄い…』
『あんたもビキニなんか買って…』
『…ビキニ初めて買ったけど…やっぱりパレオ付けようかな…』
『…着てみない?アタシも着るから。』
『え?い、今から?で、でも碇君が…』
『下着じゃ無いしだーいぢょぶ大丈夫!お買い物のご褒美にサービスしたんなさいよそれくらい!』
『で、でもそのあの…』
『ダアッ!下着姿晒しといて何今更可愛い反応してんのよあんたは!あーもーあーもー燃えってか萌えるわ!強引にでも着替えさせる!てか脱がす!ヘッヘッ、覚悟なさいレイぢゅるっ。』
『や、止めてアスカ目、目が怖い…き、着替えるから、じ、自分で着替えるからそ、その手付きは止めて…』 『ちっ!』
『…今の舌打ち…何?』
『…で?』
『あーカリガリ君美味しいわねー、ねレイ?』
『ええ…美味しいわ…ね?ペンペン。』
『クエックエッ!』
『…時にアスカ、レイ。アタシが聞きたいのはね…何であんたらが水着姿なのかじゃ無くて、シンちゃんが鼻血出して転がってる事でも無くて、それを何故二人揃ってて放置してるかなんだけど…』
『…』『…』『クエッ?』
『…う…うう…て…Tバック…ハイレグ……』
『?アスカも背中は開いてるけど普通の水着だし…レイのも普通のビキニよね?Tバックにハイレグ?』
『…あっついわねーレイ、今夜は素麺と冷奴ね…』
『…明日はレトルトでもいいわ…』
『『?』』
『うーんうーん…白とピンク…うーんうーん…』
『…ミサト、シンジの分ご飯作ったげて。』 『…私達は外食しますから要りません。』
『へ?』『クエ?』
『さ、着替えるわよレイ』『ええアスカ。』
『?何あったのかしらペンペン?』『クワ?』
『『じゃ、行ってきます。』』
『あ、ちょっと二人共?』『クワワッ?』
『『何か?』』
『…い、行ってらっしゃ〜い…あはは…は、早く帰って来なさいね〜…』『ク、クワワ、クエ〜…』
『う…うなじが…肩紐が…わ、わざとぢゃ、わざとぢゃ無いんだぁ…』
プシュ!ピッ!ガチャン!コツコツコツコツ…
『ニンニクラーメンか…タマにはいいわね』
『フカヒレ…食べた事無いわ…』
『…あんた肉嫌いじゃなかった?』
『…コラーゲンを肉とは言わない…』
『成る程。ぢゃ今度アイスヴァイン』『ごめんなさい。』 『早!?返事早!!』
『…シンジ君、一体何やらかしたの?』
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.14 ) |
- 日時: 2010/08/08 21:26
- 名前: JUN
- キスしてくださいvol.2
「眠れないの……」
夜中、そろそろ丑三つ時にさしかかろうかという時、彼女は部屋の扉を開け、そう言った。
「綾波?」
シンジは寝ぼけ眼をこすり、枕もとの明かりをつける。
レイの眼は軽く腫れており、泣いていたことが容易に推察できた。シンジは何も言わず、自分にか かっていた布団を押し上げた。
「おいで、綾波」 「うん……」
蚊の鳴くように小さな声で返事をすると、レイはそのままシンジの腕の中に収まった。その細い身 体を、シンジは布団でそっと包んだ。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」 「うん」
腕の中のレイは、細かく震えていた。蒼銀の髪がシンジの鼻腔をくすぐる。
「碇くんが、消えちゃう夢。待って欲しいって追いかけても、どんどん、どんどん……」 「綾波……」
言葉を詰まらせるレイを、シンジは思い切り抱きすくめた。
「大丈夫だから。どこにも行かないよ。こうしててあげるから、安心してお休み……」 「迷惑かけて、ごめんなさい……」 「迷惑なんかじゃないよ。あんなに辛い目に遭ったんだから、当然だよ」 「ありがとう、碇くん……でも」 レイが寝返りを打ち、シンジと向かい合う。意志の光が、その双眸に見て取れた。 「碇くんは、嫌じゃない?」 「嫌じゃないよ」 「でも、碇くんは男の子で、我慢……してないの?」 「……正直、してるけど。でもいいんだ。それとこれとは別だよ」 「碇くん……」
レイは、暫し黙り込んだ後、
「わたしは……いつでもいいから。碇くんの好きにすれば、いいから……」 「綾波……?」 「我慢して、碇くんが辛い思いするくらいなら、わたし――」 「綾波」 レイの声を、シンジが遮った。 「大丈夫だよ。辛くなんてないから。綾波とこうしていられるだけで、今は幸せだから」 「わたし、初めては絶対に碇くんって決めてるから。好きになった時から、ずっと――」 「ありがとう、綾波……」 でもね、とシンジは言った。 「綾波、怖くない?僕とするの」 「……少し。でも――」 「僕も、怖いんだ。綾波に痛い思いさせるの」 「碇くん……」 「意気地なしだけど、僕のこと、嫌わないでね」 少し冗談めかして言うシンジに、レイもつられてくすりと笑った。
「でも、そうだな。そこまで言ってくれるなら、ちょっとお願いしようかな」 「なに……?」 シンジは自分の唇に人差し指を当てて、 「キス、してもらおうかな」 「キス……」 「違うな。してください、だね。綾波のキスだもん」 「そんなので、いいの…………?」 「綾波のキスは、僕にとってどんな宝石より価値があるよ。だから……」 シンジは微笑み、目を閉じた。 「キスしてください。綾波」 「ん……」 ちゅ、と音を立て、レイがシンジにキスをすると、シンジは嬉しそうに目を細め、レイは真っ赤に なって視線を逸らした。 「かわいいね、綾波」 「そんなこと……ない」 「このパジャマも、すごく似合ってる」
淡いピンク色のパジャマの襟をシンジが人差し指と中指で挟むと、レイは甘えるようにシンジの胸 に頭をこすりつけ、僅かに浮かんだ涙をTシャツで拭った。シンジはその頭をかき撫でる。 「僕も買おうかな、綾波がいるのに、いつまでもTシャツじゃね」 「おそろいが……いい」 「二人で買いに行こうか」 「うん」
「お休み、綾波」 「私が眠るまで、こうしていてくれる?」 「綾波が起きるまで、こうしていてあげる」 「嬉しい……」
レイの呼吸が寝息のそれに変わると、シンジは背中に回した腕を少しだけ緩め、身体の位置を少し ずらして頬にキスをした。
「ずっと一緒だよ、綾波…………」
君を護ると決めたから。もし僕の命と引き換えに君を護れるなら、僕は喜んで、この世からいなくなるから。
世界で一番、僕は君を愛しているから。
おしまい
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.15 ) |
- 日時: 2010/08/08 22:23
- 名前: JUN
- 「暑い……」
「だからってねえアンタ、その格好はいくらなんでもないわ」 「暑いもの……」 「その露出度は流石にないわ。私だって出来ないわよ」 「服は着てるわ」 「全裸じゃなければいいってもんでもないわ。下にちょろっと穿いてるだけじゃない」 「碇くんが帰ってきたら着るわ」 「…………」 もうちょっと乙女の恥じらいってもんをねえ……と言いかけてやめた。暖簾に腕押しと言う奴だ。 半裸の少女の姿を見てみる。うつ伏せなのが救いだろう。嫉妬してしまいそうなほどに滑らかな曲 線を描く背中は、きっとシンジが見たら鼻血を吹くのだろう。それはそれで面白そうな気もした。役 得よ、シンジ。同級生のこんな姿、シンジじゃなきゃ見られないわよ。などと自分のことを棚にあげ て思ってみる。自分もバスタオルだけで部屋をうろついたりすることはあるのだから、あまり人のこ とは言えないだろう。
くす、と笑みがこぼれた。こいつが自分の家で寝ているなんて、少し前ならありえなかったことだ。 和解は無駄ではなかったのかもしれない。こんな無防備な姿は見られなかったから。伸びきったその 姿は、さながら一昔前のたれパ○ダのようだ。まったく、シンジもこんなの彼女にしててよく我慢で きるわね、私が男なら襲ってるわ。などと悪態をつきつつ、壁にかかった時計に目をやった。四時四 十五分。そろそろ帰ってくるわね。シンジは夕飯の買い物に行っている。 「レイ、起きなさい」 「……ぅうん」 肩を掴んで揺らすと、軽く眉根を寄せていやいやをするように首を振ってみせる。まったく、かわ いいわね。 「シンジが帰ってくるわ」 「ん……」 不満げな顔をしながらふらふらと立ち上がり、鞄に入った着替えを取りに玄関へ向かう彼女に、ア スカは軽く顔を火照らせた。ちょっとは隠しなさいよね、結構大きいんだ…… 少し魅了されてしまった自分に喝を入れるようにかるく首を左右に振る。ごっ、と鈍い音がするの でレイのほうを見ると、レイは壁に頭をぶつけていた。 「いたい……」 「……あんたばかぁ?」 レイの側に行って頭を撫でてやる。涙ぐんだ顔が可愛らしい。 「ほら、ホントに帰ってきちゃうから」 「うん……ありがと、アスカ……」 ぐいぐいと後ろからレイを押す。なんだかんだで憎めないのは彼女の得な性質だ。自分も思ったよ り姉御気質なのだろう。
「ほらほら、早く取って着替え――」 「ただいまぁ……」
――うわ、最悪……
気の抜けた声は、その後に自分へと降りかかる出来事への前奏曲にも思えた。
レイの様子を顧みる。レイは上半身に何一つ纏っていない。純白のショーツが、下半身を覆う唯一 のものだ。そのショーツもうっすら浮かべた汗のせいで、ほんのりと透けているのだ。何が、などと 野暮なことを訊いてはならない。乙女の花園である。 半ば強引に背中を押したせいで、レイは胸を突き出すような形になっている。玄関口に置いた荷物 を取りに行っているために、レイとシンジは今、互いの間隔が一メートルと離れていない。 つまり……
見る見るうちにシンジの顔が紅潮する。あ、面白い。 「あ、あやなみ、これは……」 うろたえるシンジ。アスカがフォローを入れようとする。しかし、 「いかりくん、おかえり……」 レイは言うやいなや、シンジの胸にぽすんと顔を埋めた。 「あっ、あや……」 「ちょっと、レイ――」
きゅっ
瞬間、シンジが鼻血を吹いた。
「ほらレイ、だから言ったじゃん」 「ごめんなさい……」 うなだれてしまったレイを見て、アスカはふっとため息を漏らした。どうもこの友人は他人に怒ら れない天性の資質を持っているのかもしれない。 「まあ次こんなことなければいいのよ。ちゃんと家にいるときも服を着なさい」 「はい……」 「う、ん……」 微妙に悩ましい声を上げて、シンジが目を開く。レイを見ると、また顔が紅く染まった。 「あ、綾波……」 「……碇くん、ごめんなさい」 「え、いや……」 「役得だわねえシンジ。愛しのレイちゃんのおっぱいが見られて」 「っ、な、何言うんだよアスカ!」 「あ〜ら、顔真っ赤にしてたじゃない」 シンジがうろたえるのを見て、アスカがけらけらと笑う。 「もう……!」 顔を紅くしたまま台所に向かうシンジに、レイは心配げな表情をする。 「アスカ、碇くんが怒ったわ」 「心配しなくていいわよ。あんなの怒ってるポーズに過ぎないんだから」 「アスカ、今晩ご飯抜き!」 「えっ!?」 台所からかかった急な宣告に、アスカは一変しておろおろし始める。やっぱり葛城家の主はシンジ なのだなと、レイはふと思った。 「ちょ、ちょっとシンジ……」 「綾波、お魚は食べられる?」 「火が通してあれば、大丈夫」 「あの、シンジ君……」 「そっか。卵は?」 「それも、火が通してあれば」 「シンジさん……」 「じゃあ、それで考えてみるよ」 「ありがとう……」 「…………」
自分を無視して話すシンジたちに、ついにアスカは完全に沈黙した。 「碇くん、私もお料理したい」 「ああ、ありがとう。助かるよ」 シンジの元に歩いていったレイ。残されたアスカはさめざめと涙を流した。
「何すればいい?」 「そうだな、ネギ切ってくれるかな。お鍋にするよ。結局卵使わないけど」 「お雑炊になるわ」 「あ、そうだね」
見よう見まねでネギを切ってみる。手つきが少々危なっかしいが、手を切るようでもない。
さくん さくん
「うまいうまい」
かあっ、と頬が熱くなる。目を合わせるのが恥ずかしくて、シンジのほうを見ることができない。 きっと素敵な笑顔で自分を見てくれているはずなのに。先ほどの自分の行動を改めて大胆に思う。人 間眠いと何をするか分からないものだ。
「……碇くん」 「なに?」 「アスカ……いいの?」 「いいんだよ。たまには思い知らせてあげないと」 「でも――」
シンジは急にレイの耳元に口を寄せると、小さな声で言った。 「心配しなくても、ちゃんと反省してるみたいだから食べさせてあげるよ」
くす、と笑ってウインクをしてみせるシンジ。胸がきゅんとなる。
「ひゃっほうっ!」 「あ……」
シンジは苦笑いをした。レイのほうに目配せして、 「聞こえてたみたいだね」 「そうね……」 よかったと思う。優しいシンジこそシンジだ。
「あ、あの、碇くん……」 「なに、今度は」 「さ、さっきのこと、だけど……」 「え、ああ……」
シンジが心持ち顔を背ける。包丁のリズムが少し乱れた。
「いや、ほんとに、ごめん綾波」 「べ、別にいいんだけど、その……」 レイの手が止まる。 「わ、私の胸、どうだった……?」 耳まで真っ赤にしながら、レイは言った。 「え、いや、その……」
「き、綺麗だったと、思うよ、すごく……」
顔が火照る。嬉しいのに、顔を上げることが出来ない。ごまかすように残ったネギを大きく切る。
「あ、ありがと……」
しん、と静まり返る。窓の外から染み入る蝉時雨が、レイの鼓膜を優しく震わせていた。アスカは聞いていたのだろうか。多分、聞こえていたと思う。 野菜を切り終え、平べったいざるにあける。シンジは出汁をとった土鍋を持ち、レイはざるを持っ た。
鍋を持ったシンジが、自分の後ろを通り過ぎる。通り過ぎる瞬間、少しだけレイのほうに顔を寄せ、
「他の男に見せちゃ、だめだからね……」
レイがびっくりして振り返ったとき、シンジは既に、カセットコンロに鍋をセットしていた。アスカは満面の笑みで、カセットコンロに火をつけていた。
おしまい
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.16 ) |
- 日時: 2010/08/09 20:50
- 名前: naibao
- caluさん
>わたしは2年未満ですので、naibaoさんの方が先輩だと思います(笑)。 いやいや、そんなに変わりませんって。 むしろ、LRSにおいてはcaluさんが先輩です。 よろしくおねがいします。
>彼女の体温が消えた僕の左側がじんわりと熱を持った。 このテーマで書こうとしたとき、普段のBGMとしての蝉の声を「蝉時雨」として意識するときってどんな時か、やっぱ感情に揺らぎがあった時かと思いまして。 なんかじわじわ恋らしきものが芽生えて、それが恋だとはまだ気づかないシンジが浮かびました。 それで最後の二文だけ最初にできてそれに向かって書いたつもりです。
何処さん はじめまして、naibaoと申します。 初対面ですが、何かのご縁です!生意気ですが感想残させてください。
やられました。 テンポよく、人物が活き活きとしてて、完成度高いですね。
>てか脱がす!ヘッヘッ、覚悟なさいレイぢゅるっ。 アスカさんは小さいおじさんを飼ってらっしゃるようで、非常に好感が いや、親近感が・・・
これから、お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。
JUNさん どうも、naibaoです。 一気に2本も!?そしてどちらも甘々、バカップル(良い意味です。もちろん)
>何が、などと野暮なことを訊いてはならない。 あい、訊かないことにします。 でも直後にちゃっかり説明されてたり・・・ JUNさんのこういうとこ、好きです。
どうやら私はレイと絡むアスカ萌だということが判明しました。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.17 ) |
- 日時: 2010/08/11 13:48
- 名前: JUN
- ■何処さん
某電波FF作家様を思い出しました。台詞だけの構成はややもすると状況が飲み込めなかったりするのですが、さすがです。
■naibaoさん ありがとうございます。説明せずにはいられませんでしたw >レイと絡むアスカ萌 割と自分もその節があります(笑)ただ、自分の書く文章は登場人物が少なくなりがちなので、シンジとレイだけ、というのが一番多いです。 連載が出来ない一因、かもしれません 
ふと、レイが『碇くんが消えちゃう夢』を見たといって震えているのに >僕は喜んで、この世からいなくなるから。 と言うのはどうなのかと思ってみたりw
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.18 ) |
- 日時: 2010/08/15 08:49
- 名前: calu
- JUNさん
今回もまさかの2本建て。ホントに乗ってますね(笑)。 この問答無用度に、いっときの涼さえ感じてしまいます。というか、私もこんなの書いてみたい(笑)。 まだまだ8月も中旬ですので、あと4作ほどお願いします(爆)。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.19 ) |
- 日時: 2010/08/16 03:31
- 名前: tamb
- ■蝉時雨/yo1
すげえ。yo1さんもこんな話、書けたんだ(失礼)。 他愛もない近況報告の流れで、シンジがどうプロポーズするのかっていう話になるんだと思 い込んで読んでて、ドギモを抜かれた。油断してた。冒頭の二節を重視すべきだった。迂闊だ った。
> 空になったグラスの前に置かれた、小さな写真たての中で
読点はいらんような気もするけど、この一節だけでシンジの狂気を表してしまうというセン ス。蝉時雨の使い方もいい。脱帽。
■キス、してください/JUN
「キスして」でもなく「キスして欲しい」でもなく、「キスしてください」なのはどういう シチュエーションなのだろう、と思って出したお題なんだけど、こういう展開。普通を目指す 彼女としては悪くない。でも最後のアスカのセリフが説得力ありすぎw ある程度以下の距離で、つまり単なるクラスメイトの域を出ないトウジとケンスケを除けば、 彼女の事を綾波と呼ぶのはシンジだけであるという事実に留意したい。逆もまたしかり。シン ジを碇くん(あるいは碇君)と呼ぶのはレイとヒカリだけ。 ついでに書くと、お姫様抱っこをするとパンツが見えてしまう可能性が高いことにも留意し たい(爆)。
■蝉時雨/JUN
これはサバゲーすかね? そしてまた抱っこ(笑)。 全体的にはよくわからんのだけど 、ぷにぷにがよい。ぷにぷに。
■僕に、降る、雨/naibao
改めまして初めまして。キャリア的には三番手か四番手かそれ以下か、とにかくその辺で佇 んでいるtambです。いえーい(棒読み)。
そんなことはともかく。
雰囲気は異常に出てる。
> 想像以上に近くに彼女の息遣いを感じて居心地がわるい。
が
> 彼女の体温が消えた僕の左側がじんわりと熱を持った。
になるという流れは驚嘆に値する。彼女は彼から少し距離を取ったわけで、その感じはまさ に綾波レイだ。雨を気にしないのもそうだし。こういう部分は忘れてはいかんわな。
ぜひストーリーにもトライしてみてくださいませ。期待してます。
○JUNさん > 絶対自分なら肌の色が透けたシャツにドキドキしてしまうシンジを書いてしまうでしょうし。
それはそれで全力でOKかと(笑)。
○naibaoさん > レイの首筋を伝う水滴にドキドキしてしまうんです。
もちろんこれも全力でOK(爆)。
--- 続きはまたあとで〜。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.20 ) |
- 日時: 2010/08/17 02:21
- 名前: tamb
- ■ネルフの夏・日本の夏/何処
アスカとレイの結託具合が実に脅威。下着姿を悠長に晒しつつ会話を交わしているのがなん とも。つか、着替えは自分の部屋でしろと。そしてシンジは完全に下僕と化している(笑)。 シンジがぶっ倒れているのはやはり下着から水着に着替えてる最中に帰宅したからなのであ ろうか!
不意に思ったんだけど、あの世界では蚊とかハエとかどうなんでしょうね。ハワイ並だって いう話だったような気がするから亜熱帯気候(海洋性亜熱帯気候)か。平均気温は24度だって いうから年がら年中くそ暑いわけじゃないんだよな。ハワイはハエとかぶんぶん飛んでるイメ ージはないんだけど、実際はどうなんだろう。沖縄はどうだったかな。 と、以上はタイトルからの連想でした。つまりあの世界で蚊取り線香はどの程度必要なのか って話。
■キスしてくださいvol.2/JUN このセリフをシンジに言わせるっていうアイディアが秀逸。これは思いつかんかった。レイ を神聖視しずぎてる嫌いはあるけど、昼は昼で色々言ってシンジを困らせてるのかなと思うと それはそれでかなり可愛い。 こういうシチュエーションというのは、通常まずあり得ないわけだけど(笑)、個人的な感覚 及び実体験 から考えると、ぎゅっと抱き締めてからキスまでは比較的ハードルがある。 キスしてしまえば全身触り倒す所までは歯止めが利かない。そこから先はまた高いハードルが ある。まあ私の話はどうでもいいとして 、女の子の方に積極性がない場合、つまり自分 は特にしたいわけではないけど彼が望むなら構わないというのはどういうケースなんだろうか。 なんかのインタビューで、男の子の欲望はわかるけど結婚するまではやっぱりダメで、我慢 できないならソープとか行ってOKって意見があったりした。もちろん逆に、ソープとか行かせ るくらいならあたしがって意見もあった。いずれにしても女の子はして欲しいとか思ってない わけだ。インタビューの対象年齢がどのくらいだったかは憶えてないけど(ソープという単語 が実際に出てきてるのかどうかも憶えてない)、キスしてどきどきっていう感覚がないのか、 それとも知らないのか。
■タイトル無し( No.15 )お題:蝉時雨/JUN よくわからんのだが、どうやらレイはパンイチでうだうだしているらしい。果たしてパンイ チ状態を半裸と呼べるのかどうかはやや疑問ではあるが、それはいいだろう。荷物を玄関に置 いているというのも不自然な気がするが、それもいいだろう。問題は、彼女の汗でパンツがほ んのり透けているという部分である。しかも乙女の花園がである。一般にパンツの乙女の花園 部分は布が二重かなんかになってるはずであり、そう簡単に透けるものではない。それでも、 ほんのりとはいえ透けていたということは、レイは滝のような汗を流していたということにな る(他の理由も考えられないことはないが、あまりに不自然かつ不適切なので割愛する)。な らば着替える前にシャワーを浴びていただきたいのである。 そして、この話においてアスカは悪くないのである。一ミリたりとも悪くないのである。 シンジはどうか。シンジも悪くないのである。愛しのレイちゃんが上半身丸出しで突っ立っ ていたら失神するのも当然なのである。 では悪いのは誰か。 レイである。 パンイチでうだうだしてるのが悪いのである。 パンイチがいかんのである。 だが全裸ならいいかといえば、もちろんそんなことはない。 キャミソールなど着用していただくとそれはそれで萌えなんだが、話の趣旨に反する。 では、どうすればいいか。 やはりここは裸エプロンではないだろうか。 あまりの暑さに全裸でうだうだしようとするレイに、アスカが何か着ろという。そこでレイ は、シンジがいつも着用しているエプロンを選択するのである。まあいいかとアスカも許容し、 シンジ帰宅時に玄関でばったり会う。シンジは普通に綾波のエプロン姿可愛いななどと思うの も束の間、レイが後ろを向いた瞬間に失神するのである。 こうなると愛しのレイちゃんのおっぱいが見られないばかりでなく、まったく違う話になっ てしまう危険が高い。そして私が書いてるこの文章はいったい何なのかという疑問を感じつつ、 ファイルを保存するのであった(爆)。ああああ。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.21 ) |
- 日時: 2010/08/17 08:07
- 名前: 何処 ID:LKLxQmzS4aw
- ♪ネッ、ネッ、ネルフの大爆笑〜♪
皆さん今晩は、碇ゲンドウです。 新婚旅行…甘く楽しい時間… それはこの二人にとっても例外ではありません…
【或る新婚さんの場合・レイとシンジ編】
「すいません、このパンフレットのここまでお願いします。」
「あ、はいはい。トランク開けますから荷物はこちらへ…新婚さん?」
「え、ええ、まあ…」「(コクコク)」
「そりゃいい、ここの宿は『子宝の湯』で有名でね。」
「「(カーッ…)」」
「おお、あっついあっつい。」
ブロロロ〜…
「…はい、つきましたよお客さん方。」
「ええと…ここだね、寝留府庵…」
「立派な建物ね…素敵…」
「その…海外じゃなくて御免、四日しか休み取れなくて…それに箱根なんて近場で…本当はもっとこう遠くにしたかったけど、緊急呼び出しに備えて国内じゃなきゃ駄目だって…」
「いい…」
「え?」
「碇君と一緒なら…どこでも…」 「あ…綾波…ってもう碇なんだよね、な、何一緒に名字で呼び合ってるんだろ、あははは…」 「じ…じゃあ…あの…シ…シンジさん…」 「レ…レ…レイ…」
「「…(ぽっ)」」
「あーお客さん、雰囲気盛り上がってるとこ悪いけど、メーター未だ回ってるからさあ。」
「「あ!?ご、御免なさい直ぐ降ります!」」
「あーお客さん達、荷物忘れないでねー。」
「「は、はい!」」
バタン!ブロロロロ〜…
「あ〜家帰ってビールでもかっ喰らって寝ちまいてーな…あ、ギターの弦買わなきゃ。」
「やあ、いらっしゃい。お待ちしていましたよ。私がこの宿の主人の冬月です。」
「あ、ど、どうも、」 「…今日からお世話になります…」
「では此方の宿帳にお名前を…」
「は、はい!え、ええと、碇シンジ、碇レイ…」 「いかり…れい…(ぽっ)」
「はい確かに。ではこちらの中居達が部屋へご案内します。リツコ君、マヤ君、頼んだよ。」
「あら、お若いご夫婦だこと。お荷物お持ちしますわ。」 「さ、ご主人も奥様もどうぞ此方へ…」
「は、はあ。(ご主人って…何だか照れ臭い…)」 「奥様…あたしが…奥様…(ぽっ)」
「じゃあお部屋へ…奥様?どうなさいました?」
「あれ?あ、又!?綾波、帰って来てー、お〜い。」 「…え?あ!な、何碇君?」 「あのさ、この中居さんが部屋に案内してくれるって。さ、いくよほら。」 「あ!は、はい!」
「(クスクス…)ではこちらへ…」
「「(カーーッ)」」
「「うわーっ!!凄い立派な部屋!」」
「ご満足頂けましたか?」
「あ、あの…」「い、いいんですか?その…こ、こんな立派な部屋…」
「実は予約のキャンセルがありましてね、新婚のお二人に当宿からのサービスですわ。」
「「あ、有り難うございます!」」
「あらあら、息もぴったりね。何かありましたらそちらの電話三番でなんなりとお申し付け下さい。ではごゆっくり。」
「…この部屋だけで私達のアパート一世帯より広いわ…」 「…な、何か落ち着かないね、あ、あは、あはははは…」
「ねえ、碇君…いえ、シ、、シンジさん。その…ご免なさい…」 「え?」 「その…も、もう結婚して二ヶ月なのに…つ、つい『碇君』って…」 「あ、いやそれはその、ほ、ほら僕もつい綾な…レイの事『綾波』って呼んじゃうし、あ、余り気にしないでいいんじゃないかな、あ、あはは…」
「駄目!せ、せっかく夫婦になったのにこんな事じゃ駄目!」
「そ、そうかな?」 「…それで…その…少し練習しない?」 「練習?」 「そう、練習。お互い名前できちんと呼べる様に。」「そ、そうだね、じ、じゃあ早速練習するか!」
「…」 「…」 「…」 「…」
「碇君…呼んで…」
「え?あ?ぼ、僕が呼ぶの?」 「そう…呼んで…」 「綾波…」 「違う。『レイ』って呼んで。」 「あ!う、うん!じ、じゃあ…」
「(じーっ)」
「あ、綾波そんな見ないで…ね、ねえ、綾波から先に呼んでくれないかな?」 「…仕方ないわ。じゃあ呼ぶわよ?いか…ご免なさい、(すーっ)シンジさん」 「綾波…あ。」 「碇君…『レイ』よ?」 「御免…じゃ、もう一度。」 「ええ、じゃ呼ぶわよ?『シ、シンジさん…』」 「綾な…ごめん。や、やっぱり僕から言った方が言いやすいかも。御免、次は僕から呼ぶよ?」 「(こっくり)」 「じ、じゃあ呼ぶね…レ、レイ」 「碇君…あ。」
…30分経過…
「駄目なのね…私…」 「そ、そんな事無い!ほ、ほ、ほら、名前じゃなくてもいいんじゃないかな?」 「?」 「え、ええとつまり…『シンジ』じゃなくて『あなた』とか…」
「あ…なた…」
「そ、そうそんな風に…じじじ、じゃあよ、呼んでみるよ?」 「(こくこく)」
「レ、レイ?」 「い、碇く…あ…な…た…」
「レレ、レイっ!」 「あ、あな…あなた…」
「レレレ、レイっ!」 「あ…あなた…」
「レレレレ、レイっ!」 「あなた!」
ガラッ
「はぁ〜、い〜い風呂だったぅわっとぉ!」
「「!?」」
「あ…あり?あの…つかぬ事お訊きしますが…楓の間って…ここぢゃ…ない…わ……ね?」
「ここは椿の間ですけど…」 「楓は…確か隣です…」
「あ、あっちゃ〜、ゴミンゴミン!ま〜た部屋間っ違いちったぁ!あはははは!あ、あたし葛城、今日旦那と泊まり来たんだけどさぁ、ここ広くってな〜んか似た様な部屋多いじゃない?どーも判んなくってさぁ、あはははは!」
「は」「はあ」
「ぢゃ、続き頑張ってね〜ん♪いや、おぢゃましましたー!」 ピシャン!
「え!あの一寸ぉ!?」「(カ〜ッ)」
「な、何か嵐みたいな人だったね…」 「…アスカか霧島さんみたい…」 「うゎ…確かに…」 「アスカと霧島さん足して二で割ったらあんな風かも…」 「怖いから止めてよ綾波…」
「…お茶、入れるわね。」 「お…お風呂入ってくるかな、そ、そうだ綾な…レイも一緒に行こうか、何なら一緒に入る?なーんてあは、あはは、あはははは…」 「…いい…わ…(ぽっ)」
「…は?」
「ふ…夫婦…です…もの…ね…べ、別に…」
「…」 「…」
「(ゴキュ。)い…いいの?」 「…その前に、ここ混浴なんて無いわよ…」
ゴン!
「か、からかわないでよ綾波…」 「クスクス…あ…この部屋家族風呂付いてる…」
「…」「…」「…」「…」
「…せ、折角温泉に来たんだし、や、やっぱりあ、足伸ばせる方がいいかな、だ、大浴場に行くか!」 「そ、そうね碇君、せ、折角の温泉ですものね!」 「ぢ、ぢゃあお、お風呂行ってきます!」 「わ、私もお風呂行って来るわ!」
かぽーん…
「ふう…」 (馬鹿馬鹿馬鹿碇シンジの馬鹿!せ、折角のチャンスに何逃げてるんだ!に、逃げちゃ駄目だろ逃げちゃ!逃げてどうする碇シンジ!だ、大体も、もう結婚してるんだし、あ、当たり前の事じゃないか!そ、それにい、一緒にお風呂だって、な、何回かは入ってる訳だし…未だ見れないけど…)
かぽーん…
「ふう…」 (碇君…私…魅力…無い?…でも…安心した…私…怖かったの…弱虫なのね…逃げちゃ駄目なのに、私…)
ちゃぷん (あ!な、何も今日じゃなくともいいのか!あ、明日明後日と泊まる訳だし…)
ちゃぽん (あ!な、何も今日じゃなくともいいのね!あ、明日明後日と三泊する訳だし…)
「「次回こそ!!」」
「はー、いいお湯だった。さー牛乳〃っと…」 「碇君…お待たせ…」 「あ、綾波もお風呂上がったんだ。そっちのお風呂はど…う…だ…っ……た…」 (あ…あやな…い、いやいや、レ、レイの浴衣姿…それも湯上がりホカホカ状態…有り難う!有給くれた日向課長有り難う!この旅館予約してくれた父さん有り難う!温泉万歳!)
「?碇君、牛乳溢れ…」 「レレレレ、レイっ!」 「あ、碇く…あなた…」
ガラッ
「はぁ〜い!さっきはゴミンねぇっとぉ!?」
「「!?」」
「あっちゃあゴミンゴミン!まーたやっちったわぁ!あはははは!」
「は」「はあ」
「こり、差し入れの栄養ドリンクね〜!むっふふぅ、効っくわよ〜コレ!ぢゃ、続き頑張ってね〜ん♪」
「え!あの一寸ぉ!?」「(カ〜ッ)」
「が…頑張れってな、何をさ…あ…あはは…」 「(ぽっ)」
「…頑張っちゃおうかな…」 「…(コクリ)」
「レレレレ、レイっ!」 「あ、碇く…あなた…」
『プルルルル、プルルルル、プルルルル…』
「「!?」」
「…電話…内線の…」
「!?〜っっっ!!…はい…」
『お夕飯の支度出来ました〜』
「あ、はい。直ぐ行きます…」
「…くっ…(大丈夫〃、落ち着け碇シンジ、未だ時間はある!お隣や階下に気を遣うあの日々からやっと脱出したんだ!今日こそは!)」
「…(碇に萌える闘志で今日の大な的中日を迎えたのに…私…負けない…)」
「美味しかった…精進料理…」 「お腹一杯…」
「…(気付いてない〃、私がこっそり朝鮮人参の天ぷらを追加した事に…)」
「…(気付いてない〃、僕がこっそり朝鮮人参酒を追加した事に…)」
「お酒…廻ったみたい…暑いわ…(確か…ユイお義母様はこうすればいいって…)」
「ゴクッ…(た…谷間…)」 「(で…霧島さんはこのタイミングで寄りかかれって…)…碇君の匂い…」
「!あああ綾波!?(あ…シャンプーとリンスの香りが石鹸の匂いと混じって…)」 「(後…アスカから伝授された裾はだけね…)あん…足が痺れそう…」
「!(ふ、ふ、ふふふ太もももももっっ!)」 「(仕上げに…洞木さん直伝必殺技“上目遣い”で…)?どうしたの?」
「レレレレレイっっ!ぼぼぼぼ僕はっ、もぅ、むぁう、まうっ!」
ぶしっ
「あ…鼻血…」 「碇君!?」
「…大丈夫?」 「あ…うん…」 「…湯中りね…」 「は…だらしない…」 「そんな事無い!」 「え?わわわ!?な、泣かないで泣かないで!!」 「うくっ、ご免なさい碇君、ご免なさい、ご免なさい…。」 「綾波、大丈夫、大丈夫だから。ほら泣き止んでレ、レイ…」 「あ…あな…た…うっうっ…キ…キス…」 「え?」 「キス…して…キス…して…下さい…あなた…」 「…レイ…」 「…あ…」
「「…」」
『いいのよ…来て…』
「い…いいの?」 「え…」
『今更何言ってるの?ほら』
「な…何か今日は積極的だね…」 「あ、あの、碇く…いえあなた、私何も…」
『あ、いいっ!それ最高!』
「へ?」 「…言って無い…」
『やん!あ、あんあん!凄い!だ、駄目もう駄目!』
「何!?」 「隣の部屋!?」
『葛城声がでかい!』 『だってぇ…あ、そう、そうよ上手…あっそ、それは狡いっ!あん嫌っ!』
「ど、どうやら葛城さんとこも新婚みたいだね、は、はは…」 「そ、そうみたいね…」
『…こうか?』 『あ、それそれそうそこよそこ!じゃあ私も…サービスしちゃうわぁ!』 『ノリノリだなぁ、ならば…』 『え!う、嘘…な、何て事…あん!ひ、酷いっ!ならこうよっ!』 『…そんな物か葛城?』
「…な、何だかお隣、凄い事になってそうだね…」 「(カーッ)え、ええ…」
『相当熱いみたいだな…これなら!』 『凄い、凄いの来てる、凄いの来てるの!』
「…な、何だかな…」 「これなのね…お盛んて言葉の意味…」
『ああっ許して!駄目それ駄目嫌っ死んじゃう死んじゃう!』 『嘘つき。』 『本当に駄目なの駄目っあ嫌っ!こ、これで許してぇ…』
「…」 「…」
『ふう、危ない〃、この俺がそんな手に引っ掛かると?そんな女には…これだ!』 『ああっ!?そ、そんな酷いっ!』
「「(…ごくっ)」」
『どっちが…ほら…行くぞ…』 『あっあっあっ…落ちる落ちる落ちちゃ…っとお!』
「「?」」
『来たーっ!どりゃーロン!ハネマンにドラドラ…やったわこれで怒涛の五万五千点!は〜っはっは大逆転よ大逆転!』 『な、なにぃ?!役満の上に裏ドラ乗っただと!?』
「「麻雀かよ!?」」
♪チャ〜〜〜〜〜〜ッ♪
「無様ね…」 「駄目だなこれは…」 「…ああ。」
《エンディング曲…ミラクルペイント(歌・初音ミク)》
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.22 ) |
- 日時: 2010/08/17 09:54
- 名前: yo1
- 何処さん
始めまして…でしたでしょうか? 【ネルフの夏・日本の夏】拝読させて頂きました。 茹だる様な暑さと、美少女2人の下着と、ガリガリ君が、頭の中をグルグル廻ってます。『もっと読みたい!!』と、私の触覚から電波を送ってますが、届いていますでしょうか?(笑)
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.23 ) |
- 日時: 2010/08/17 10:00
- 名前: yo1
- JUNさん
【キスしてくださいvol.2】読ませて頂きました。 これ程!これ程!萌えさせて頂いて…ハァハァ 「わたし、初めては絶対に碇くんって決めてるから。好きになった時から、ずっと――」 私の残りの命と魂を差し出すので、言われてみたい一言!!アーーーーーッ
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.24 ) |
- 日時: 2010/08/17 15:56
- 名前: JUN
- 蝉時雨vol.3
「綾波、気持ちいい?」 「うん」 レイはシンジの膝の上に横たわったまま言った。蒼銀の髪が剥き出しの膝に触れて少々くすぐった い。柄の部分におなじみの小さな白い綿をつけた耳掻き棒を、もう一度レイの耳の中に入れる。 「んっ……」 レイが小さく身じろぎすると、シンジが危ないよ、と声をかける。レイが動かなくなると、シンジ は小さく声を上げて笑った。 「綾波の耳は綺麗だから、掃除するほどじゃないかも」 「そうなの?」 「そうだよ」 「でも、して」 「いいよ」 レイが目を閉じる。少し低めの体温を膝に感じながら、シンジは柔らかく微笑んだ。
そうして二人だけの時間を過ごすうち、シンジはレイの異変に気づいた。 「綾波……?」 レイは真紅の双眸から、一筋涙をこぼしていた。 「ご、ごめん。痛かったかな」 「平気。そうじゃなくて…………嬉しくて」 「耳掃除が?」 「碇くんと……一緒にいられることが」 「……そっか」
終わったよ、とシンジが声をかけると、レイは少しだけ残念そうにしながら頭を上げ、シンジの肩 に体重を乗せた。
「次は、何して欲しい?」 「ん……」 シンジがレイの頭に手を添える。こうした二人きりの時間を、シンジとレイはとても大事にしてい た。特にレイは一瞬でも多くその時間を共有しようとしていた。 「なにも……しなくていい。碇くんがいれば」 「……そっか」
またレイが目を閉じる。何もしない時間、というのを居心地が悪く感じたことはなかった。シンジ の匂いがする。自分の奥に眠る何かを呼び覚ますようなその匂いが、レイは大好きだった。
「碇くん、アスカとキスしたことがあるって、本当?」 「えっ?あ、いや、その……」 「怒らないから、教えて」 「あ、うん。その、一回だけ」 「そう」 「ごめん……」 「いいの。でももう、わたし以外とはしないで」 「うん、もちろん」 「わたしもう、碇くんがいなきゃ、だめだから……」 少しだけ寂しそうに、レイが溜息とも声ともつかない息を漏らす。 「大丈夫。僕は綾波のためなら、なんでもするよ。それにね」 「ん……?」 「僕も綾波がいなきゃ、だめなんだ……」 少し強引に力をこめ、シンジがレイを抱き寄せると、レイはシンジのほうに倒れこんだ。水色のソ ファが軽くきしみ、レイがシンジに覆いかぶさるような形になる。 「大好きだ、綾波」 その言葉に、レイの顔が紅くなる。付き合い始めて長くなるのに、未だこういったスキンシップに 弱い彼女の初々しさが、シンジは好きだった。 「わたしも……好き」 「うん」
言いようのない幸福感。シンジの匂いとレイの匂いが溶け合う。眠気にも似たそれが、二人を包ん だ。
「僕さ、そんなに頭もよくないし、運動だって得意じゃないけど……でも、綾波を好きな気持ちは、誰にも負けないから」 「嬉しい……」
何もいらないと思った。彼の胸に抱かれてさえいれば、それ以外何もいらなかった。レイは人の温 もりをまるで知らなかった。誰かと触れ合うことは、レイにとって定期的な診察しかなかった。彼に 会うまでは、誰とも関わりを持とうとしかなかった。愛を持った体温は、レイにとってシンジ以外あ り得なかった。今では時折、クラスメートから想いを告げられることもある。しかし、シンジ以外に 魅力を感じることはなかった。当然、全て断った。初めて温もりを教えてくれた彼に勝るものなど、 この世にあるはずがない。二人だけの時間は、そんな彼を独占できる、レイの宝物だった。
「碇くん、重くない?」 「ないよ。綾波は軽いもんね。すごく細い。胸は大きいけど」 「えっち……」 くすくすと笑うシンジに少し悔しくなったレイは、シンジのわき腹を指でつねった。いたた、とシ ンジがわざとらしい声を上げる。
「ほら」 「え……きゃんっ」 胸をつつかれ、レイが高い声を上げる。真っ赤になった顔で、シンジを睨んだ。 「仮にも男の上に乗ってるんだから、このくらい妥協して欲しいな」 「……けだもの」 「褒め言葉だと思っておくよ」 くっくっくとシンジがまた笑う。笑顔が見られただけでまあいいかと思ってしまう辺り、自分も甘 いのかもしれない。
ふう、とシンジが息を吐く。急に訪れた静寂。窓から静かに蝉時雨がしみ込んでいた。とく、とく、 というシンジの鼓動がレイの耳に妙に大きく響いた。
「綾波……」 「なに?」 「今まで、綾波に辛いことばっかりさせてきたけど、これからは僕が、綾波を護るから。だから……」 「うん……」 「頼りないかも、しれないけど――」 「そんなことない。わたしにとっては、碇くんがすべてだから……」 「綾波」 「碇くんだけ私の側にいてくれれば、わたし、すごく幸せだから……」
「……もし、僕がいることが幸せなら、これだけは約束する。絶対、幸せにするよ。綾波。どんなこ とがあっても、君と一緒にいる。離さない……!」 「碇くん……」 背中をきつく抱き締められる。圧迫感で少し苦しい。それがよかった。彼を独占したい。そしてそ れ以上に、彼に独占されたい。世界と彼、もし天秤にかけるのであれば、答えは一つしかなかった。 それくらいに、彼はかけがえのないものだった。 「今日はずっと、こうしてようか」 「うん、そうしたい……」 背中をさすられ、急激に眠気がこみ上げてくる。安らかな眠気の海に落ちていく寸前最後にレイが 見たものは、優しいシンジの笑顔と、そしてレイが何よりも欲している、たった一つの言葉だった。
「愛してるよ、綾波…………」
碇くんがいるから、わたしは生きていける。碇くんがいなくなる時、きっとわたしもいなくなる。 それは褒められたことではないのかもしれない。ひとは自立しなければいけないのだから。
それでも、わたしには彼が必要だから。彼が無くてはならないから。
大好きな彼と、わたしはずっと一緒にいたいから
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.25 ) |
- 日時: 2010/08/17 15:59
- 名前: JUN
- ちょっと辛い話を読んで、衝動で書き上げました。イタい話が読めない上に書けない(汗)
まだ僕は他人を補完する領域には入っていないようです。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.26 ) |
- 日時: 2010/08/17 20:48
- 名前: JUN
- キスしてくださいvol.3
「碇くん、あれ、なに?」 「ん?ああ、あれは金魚すくいって言うんだよ。後でやってみようか」 「今は……だめなの?」 「うん。あんまり早くやるとかさばるからね。帰り際にするくらいでいいんだよ。あったまっちゃう し」 「そう……」 「あ、綾波。あれとかどう?リンゴ飴」 「りんご……あめ?」 「うん。リンゴを飴でコーティングしてあるんだ。甘くて美味しいよ」 「食べてみたい」 「ん、分かった」 シンジが一本の輝くリンゴ飴を手渡すと、レイは目を丸くした。 「きれい……」 「綾波の眼みたいだ」 さらりとシンジがそんなことを言ってのけると、レイは少し紅くなった。 「食べてごらん」 「うん」 かりっ、と丸いそれを齧る。おいしい、とレイが言った。 「よかった」 そっとレイの背中に手を回し、さりげなく近くのベンチに連れて行く。レイが腰を下ろすと、シン ジもその隣に腰掛けた。 「下駄、辛くない?」 「平気」 「痛かったら、すぐ言うんだよ」 「うん」
かりっ、とまた齧る。シンジはその姿を微笑みながら見つめた。
「浴衣、似合うね」 「そう?」 「うん。凄く。こんなところで他の男に見せるのもったいないくらい」 「そんなにほめられると恥ずかしい……」 「こうして見ると、やっぱり綾波は和風美人なんだね。色っぽいよ」 「ん……」 レイは何も言わなくなった。恥ずかしいと、ん、と声を上げて黙り込む。レイ自身は意識していな いが、ちょっとした癖だ。 「あ、綾波」 「え……?」 瞬間、シンジがレイに顔を寄せ、唇の端をぺろりと舐める。思わぬ急接近に、レイは刹那固まった。 「飴、ついてた」 かあっ、と頬を紅潮させ、視線を逸らす。百合をあしらった浴衣の肩に手をかけ、シンジが微笑む。女殺し、とレイが呟いた。 「お祭りは開放的になるからね。僕もちょっとだけ大胆になるよ」 「ん……」 「リンゴ飴の次はなんにしようか。何でも言って」 余裕の笑みが、少し悔しい。こっちはこんなに恥ずかしいのに。どうにかして困らせてやりたくな る。
「じゃ……キス、してください」 「えっ……」 途端に落ち着きを失い、辺りを見回す。人の唇を舐めておいて今更何を動揺しているのか、と心の 中で悪態をつく。碇くんのせいだわ、わたしをいじめるから。 「ここで……?」 「他にどこがあるの?」 いざせんとしてキスするのは恥ずかしいらしい。思わぬ弱みを見つけたレイは内心ほくそ笑んだ。 「早く」 目を閉じて顎を突き出す。レイ自身恥ずかしくないわけではないが、シンジのキスが、レイは好き だった。シンジはしばし躊躇っていたようだが、やがて観念したらしく、レイの頭を優しく抱き寄せ た。 「ふ……」 どれ位の人が、今のわたしたちを見ているのだろう。公衆の面前でキスなんて、バカップルだと思 われているかもしれない。 それでもいい。わたしは幸せだから。
「はぁ……」
頬を紅くリンゴのように染め、レイとシンジが見詰め合う。レイの眼の端には、僅かに涙が溜まっ ていた。
「碇くん、好き……」 「……僕もだよ、綾波」
祭りの喧騒が嘘のように、二人の間は静かだった。ことんとレイがシンジの肩に頭を乗せると、シ ンジは何も言わずに髪を梳く。そんな些細なことが幸せだった。下駄は少し歩きにくいけれど、碇く んと一緒ならどこまででも歩いていけるから。
「綾波の髪、いい匂いがする」 「汗かいてるから……汚いわ」 「そんなことないよ。すごく……」 いい匂い、とシンジが言うとレイはまた、ん……と言って黙り込んだ。
「次は、どうしたい?」 「金魚すくいをして……それから、わたしの家にきて」 「分かった。金魚鉢も買わなきゃ」 「泊まっていって、くれる?」 「もちろん。明日まで一緒にいよう。夜中まで、いっぱいお話しようね」 「やった……」
無邪気な笑顔を輝かせながらレイが思わず呟く。レイらしからぬ台詞に、シンジは驚いた表情をし た。
「あ、碇くん」 「え……?」
ちゅっ
「……お礼。リンゴ飴、ご馳走様」
言ってレイは紅くなった顔を誤魔化すように立ち上がり、数歩先からシンジのほうを振り返る。
「行きましょう……?」 「あ、うん……」
立ち上がりつつ、シンジは思わず呟いた。
「ご馳走様って、それはこっちの台詞じゃあ…………」
二人きりの部屋で我慢が出来るかどうか、シンジは激しく不安に駆られるのだった。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.27 ) |
- 日時: 2010/08/20 02:00
- 名前: ななし
- 目が覚めた
雨の音がした 時間は朝の5時を過ぎたばかり 起きるにはまだ早い 窓から朝日が差し込んでいる すりガラスの窓を静かに開ける 水色の空と白い雲が見えた 雨は降っていない
でも、確かに聞こえる雨音
耳を澄ませ、外の音を意識して聴く
あぁ、これは蝉
蝉の鳴き声
◇蝉時雨 ななし
日が高く昇った昼下がり、レイが辿りついた場所は新箱根湯本駅だった。 レイは誰もいないホームに入る。 3分後に下りから電車がくる。その電車が去って8分後に今度は上りから電車がくる。レイが待っているのは上りの電車の方であった。 大きな屋根が夏の暑さを遮り涼しい風がなびく。 レイはホームの片隅に淋しく置かれたベンチに近寄ると静かに座り本を読み始めた。レイが読んでいる本は後ろ姿の猫と扉の表紙が印象的な文庫だった。 ホームにアナウンスが流れ下りからの電車がやってきた。到着してドアが開くとまばらに人が降りてくる。レイは本を読み続けた、人の流れに興味なく。 再びアナウンスが流れドアが閉まる。電車は去っていく。 静けさがホームに戻った時、レイはふと顔を上げた。視線を感じた。辺りを見渡すと少し離れた場所で赤い髪の少女が仁王立ちでレイ一人を睨んでいた。
レイは彼女を知っている。彼女はかつての戦友、二番目の子 式波・アスカ・ラングレー
アスカはため息をついた。ようやく気づいたのねと呆れた顔。その表情のままレイに声をかけた。それは棘のある言い方だった。
「バカシンジはまだ起きてないわよ」 「……そう」
レイは理解した。彼女はさっきの下りの電車に乗ってきた。自分がこれから向かう場所へ先に訪れていたのだと。
ネルフは全ての使徒を殲滅し、ゼーレと決別、彼らの陰謀を打ち砕き、今の世界を手に入れた。 LCLの赤い世界ではない。全ての人が望んだ、平和な世界。
だが
碇シンジだけ、あの戦いから目が覚めない
「もう起きないわよ」 「世界の平穏と引き換えに一人の少年が犠牲になった」 「至極上のヒーローよね、カッコいい」 「バカがつく、英雄」 「ムカつく」 「エコヒイキ」 「この世界は碇シンジを捉えて離さない」 「離したら世界は滅びるかもしれない」 「それでも」
アスカは自分の中のどす黒い部分をさらけ出すかのように言葉を吐き出す。
「アンタはシンジを求めるの?」
アスカは碇シンジが怖かった。 自分の存在意義を他人に認めさせる為に、そして自分自身の為にアスカはエリートの道を歩んできた。 エヴァに乗る事、使徒を倒し世界を救う事が自分の使命だと思っていた。 しかし、世界を救ったのは自分ではない。 自分より学力も体力も劣る普通の少年。
だから、怖かった。
碇シンジが目覚める事で、自分の役立たずさが浮き彫りになるのではないだろうか。 実際、そう言い咎める者はいない。今もこれからもそうだろう。 これはアスカの心の問題。自己暗示に近いマイナス思考。誰に相談せず、負の感情を自分の中に押し込める。それがアスカの強さであり、弱さであった。 アスカは毎日病院に行き、シンジが目覚めていない事を確認し安堵する。 しかしその安堵は長く続かず、いつの間にかシンジが目覚めた事により自分の立ち位置が崩れる恐怖で心がいっぱいになる。 あの戦いが終わり人々は平和を手にしたが、アスカは平和ではなく恐怖を身に抱えた。その恐怖と戦う毎日だった。
アスカの声は震えていた。その声でレイはアスカと初めて向き合えた感覚を掴む。 ストレートが自慢の彼女の毛先にくるりと跳ねた寝癖。化粧で誤魔化していたがうっすらと目にクマ。よく見ればアスカは疲れきった、ボロボロの姿であることに今、気づいた。
思った事を言葉にし、意見し、堂々たる『大人』な彼女。 それをを羨ましいとか凄いとか思った事はない。彼女は彼女、私は私。そう思っていた。 でも、今の彼女の心は小さく震えている、怖がっている、助けを求めている。
私に彼女を救えるだろうか。 とレイは考えたがすぐに悩むのはやめた。 救えるかは分からないが自分の中にある言葉を彼女に伝える事にする。 自分の思いと言葉と、そして――――
「この世界が本当に碇君が望んだ世界なら決して滅びない」
他人が傷つくくらいなら自分が傷つく方がいい、自分の存在で世界が壊れるならは自身の消滅を選ぶ。 自分を犠牲に、誰かを救おうとする。
彼のその優しさに私は惹かれた。
「私の代わりはいない、碇君の代わりもいない」
そして彼女の代わりもいない これは私の言葉ではなく彼の言葉 彼がここにいれば、必ず紡ぐだろう言葉
「碇君は消えようとした私に手を差し伸べてくれた。だから私はここにいる」
あの日の事を思い出す。 生きる事を諦めた自分に『代わりはいない』と叫び私に手を差し伸べてくれた。 右手にあの日の熱が再び宿る。彼の手の温かさを思い出す。
「だから、次は私の番」
彼が望む世界に私が存在する。 その私が彼の存在を望む。
帰ってきて
もう一度、私を抱きしめて
自分がこの世界で生きている事を感じて欲しい
『――――3番線に電車が参ります、ご乗車ご注意下さい……』
電車が到着した。 レイは手に持っていた文庫本をカバンにしまいベンチから立つと一番近いドアから電車に乗り込み、後ろを振り向いた。振り向くとアスカが自分と対面するようにドアの前に立っている。 アスカの目はレイを睨んでいなかった。眉間の皺が消え、肩の力が抜けているように見えた。
「…………レイ」 「なに?」
アスカは何かを言おうとした、しかし戸惑った。顎を引き何かを考えている。 意を決して話そうと顔を上げた時、電車のドアが閉まった。 アスカが何かを喋っている。しかし電車の分厚いドアで聞こえない。 レイはドアの窓に手を当てアスカの口の動きを凝視する。アスカの言葉を読み取る。アスカの口の動きに自分の口の動きを重ねた。
アスカの言葉を読み取れたレイに胸から何かが湧き上がった。 それはとても暖かで、くすぐったい新しい感情。 その言葉にレイは優しい眼差しでアスカを見つめ頷いた。
2人を違いさせながら電車は動き出す。 しかし、彼女達の心は違えていない。 その感情は2人の心に確かに残っていた。
◇
新箱根湯本駅から5つ目の無人の駅でレイは電車を降りた。駅を出たレイは北へと伸びる田舎道を歩く。 歩く道から見えるのは青々と生えてる一面の稲穂。西の山は何かに抉られたかのように欠けていた、昔のエヴァでの戦闘の名残。 駅が見えなくなり、目的地もまだ見えない中間地点。レイの靴の底が熱くなっていた。アスファルトから伝わる暑さ。レイの額や頬に汗が流れおちる。 レイは立ち止まりカバンから少し大きめのタオルを取り出すと頭を覆うように被った。次に赤い水筒を取り出し水分補給をする。 コップ一杯の水を飲みきり水筒をカバンにしまうとレイはタオルで汗を拭いながら再び歩き始めた。
タオルで軽く外部の音を遮断しても、耳に聞こえる蝉の声。空高く鳴り響く、鳴り響く。
レイが辿りついた場所は病院だった。自動ドアを開けると冷房の風が彼女を出迎える。冷房の風と共に病院独特の匂いが鼻に沁みた。 最初は心地よかった冷気の風だったが、エレベーターを使い3階に登った時には体が冷え鳥肌が立つ。レイは先程まで頭に被せていたタオルを首元へと下ろし腕を擦りながら廊下を歩く。 少し広いロビーへたどり着くと女性が2人話していた。レイは彼女らが誰なのかすぐ分かった。自分の上司である赤木リツコと葛城ミサト。
「レイ」 「赤木博士、葛城二佐」
挨拶をするか迷った時、レイの存在に気づいたリツコから先に声をかけられた。レイは2人の名を呼びぺこりとお辞儀する。
「毎日ご苦労様」 「今日は熱中症対策してきたの?」 「……タオルを」
レイは自分の首にかかっているタオルを2人に見せた。
「結局それにしたんだ」 「日傘の方がいいんじゃないかしら」
レイは首を振り、これでいいと表現した。
数日前、レイはぎらぎら照りつける真夏日に病院まで歩いてきて、倒れた。 医者から熱中症と診断され、点滴を打ちながら1日の入院を余儀なくされる。 見舞いに来て患者になるなんて本末転倒。 レイは同じ事を繰り返さないよう熱中症対策を考え、見舞いに来る際はタオルと冷たい水が入った水筒を用意することに決めた。帽子や日傘も考えた。でも、病院に入った後の冷房の寒さを凌ぐにはタオルが一番ちょうど良かった。
レイが2人にシンジの容態を聞こうと思った時、気づいた。葛城ミサトの目が赤く充血し、目元にクマがある事に。そういえばアスカの目の下にもクマがあったと思い出す。
「じゃ、リツコ。あと宜しく」 「えぇ、貴女も無理しないでね」
またね、レイ。と声をかけレイが来た道を辿っていくミサト。彼女の後姿を見つめるレイとリツコ。 蝉の声が聞こえた。外で聞いた時より、大きく聞こえる。まるでミサトの去り際を見送っているかのように。 エレベータに乗る前にミサトはこちらを見て手を振った。レイはその姿を黙って見つめ、リツコは合わせるように手を振った。 レイはミサトの姿が見えなくなると窓の外へと視線を移した。大きな木からの枝葉が見えた。緑の葉が綺麗に生い茂っている。
「どうしたの?」 「今日は蝉の声がよく聞こえるんです」 「もしかしたら秋が近いのかもしれないわ」 「秋?」 「夏の次の季節」
最後の戦い、そしてサードインパクトで地球の軸はセカンドインパクト前に戻った 暦どおりではないがもうすぐ長かった夏が終わる 涼しくなって周りの色が変わる 緑色が赤や黄色に染まり、葉が散る それが、秋
「蝉達が秋を招く、音」 「そうよ。自分達の命と引き換えに」 「寂しくて、切ない」 「………………」 「だからその先にある知らない季節が尊く感じます」
そのレイの言葉にリツコは目を大きく開き驚いた。そして微笑んだ。彼女の成長を心から喜び、微笑んだ。彼女は生きている、生きることに希望を持っている。生まれたばかりの彼女には決してなかった感情だった。
「赤木さん」
奥の通路から白衣を着た医師がやってきた。リツコは医師の呼びかけに振り向く。
「303号室の子の脳波の変化が見られました」 「変化?」 「はい」
医師が歩いてきた通路の奥、303号室に碇シンジは眠っている。 医師の説明によると今までのシンジの脳波は深い眠り状態であった。が、先程確認したら浅い眠り状態に変化したとの事だった。
「もうすぐ目が覚めるかもしれません」
その言葉にいち早く反応したのはレイだった。
「赤木博士」
リツコは医師に聞いた。病室に入ってもよいかと。医師は『くれぐれも過激な行動ではなく優しく彼を呼びかけてください』と注意を1つして許可してくれた。
「レイ、シンジ君をお願い」
レイは小さく頷くと医師を横切りシンジが眠る病室へと歩いていく。その足取りは今までの中で一番早かった。
病室に入るとまず聞こえたのが心拍数や血圧を表示する規則正しい機械の音。 次に蝉の声。気づけばカーテンが開いていた。空気の入れ替えで看護士が開けていったのだろう。沢山の蝉達が一斉に鳴き立てている、不協和音。 レイはシンジが眠るベットに近づく。 久々に見るシンジは酷くやせ細って白かった。 生きているのか死んでいるのか分からない。 点滴に繋がれた、布団がかかっていない右腕。点滴の雫がぽたりぽたりと落ちる。 レイはシンジの右側に立ち、跪く。そして恐る恐るシンジの右手をそっと握る。 暖かなぬくもり、シンジが生きていることに安堵した。そして涙した。
蝉の鳴き声はレイが聞いた中で今日一番の大合唱。彼の目覚めを促す音になるべく高らかに歌っているのかもしれない。
「碇君」
自分の右手とシンジの右手を繋いだまま、彼女は語りかける。
「もうすぐ夏が終わるの」
シンジは動かない。レイはゆっくりと語る。
「新しい季節がやってきて、紅葉が見られるの。とっても綺麗な景色だって赤木博士が教えてくれた」
伝わる、シンジのぬくもり。右手をぎゅっと握る。自分の今の気持ちを言葉にする。
「その景色、碇君と一緒に見たい」
その声に答えるかのように微かにだがシンジの右手はレイの右手を優しく握り返した。
◇
あれ、今日ですね。丸九周年おめでとうございます!
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.28 ) |
- 日時: 2010/08/21 00:06
- 名前: のの
- Day Tripper!!
出張編第2話
「魔術師」
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 「僕はもしや、変態かなにかだと思われちゃいないか」 もう本当に今更ながらに、愚兄――愚かな私の、ではなく文字通り愚かな兄――の渚カヲルが、昼休みの時間に呟いた。 蝉時雨にもまぎれない程度には大きな声だった。
アスカとマナ以外の女子はお弁当をまだもぐもぐ、他の皆は水筒からお茶を、もしくはパックの牛乳を飲んで食堂につっ かかったお昼ごはんを流し込んでいる最中のこと。
そもそも、そぼろとでんぶでごはんに桜の木を生やした自作のお弁当を自慢もせずに平然と平らげておいて、本当に今 更のことを、とんだ場違いなことを言っていた。
「つうか、それ以外にアンタを表現する術があんの?」 ひと足先にわたしと同じお弁当を平らげたアスカは短いスカートの足を組んでふんぞり返りながら、彼のほうを見もせ ずに言った。反り返りすぎて消化に悪いよ、と洞木さんが言うのもおかまいなし。
「いや、ほら、渚君はハンサムじゃないですか、すごく……」 山岸さんがフォローしながら、いつもの小声でフォローしながらジュウシマツに餌をあげる時くらい微量のごはんを箸 でつまみ、ぱくり。私より細いだけのことはある感じ。
「それを覆い尽くす程の溢れる独自性が邪魔をしてる、というわけだな」 相田君が半年前に購入したビデオカメラについた細かい傷を気にしながらレンズを義兄に向けると、彼は(普通なら) 驚くべき整った笑顔をカメラに向けた。 「俺にそんな顔をするなって。だから変態だって思われるんだぞ」 「おやおや、知っている間柄だと遠慮がないな、相田君」
「それ、加持さんに昔言われたなあ」 碇くんがやや場違いな感慨深さを口にした。今はスイカおじさんの話をしなくても良いと思う。嫉妬深いミサトさんに 聞こえたら、ふてくされるのに決まっているから。
「加持さんて言えばさ、この間軽井沢のアウトレットで見かけたよ」
「つうかなによマナ、あんたアタシを誘わず買い物とか行っていいの?」
「え、駄目っすか。そりゃすいやせんねー」 牛丼弁当(十一枚つづりで2,500円の食券にて購入)を平らげたマナが歯にはさまったスジを取ろうと口をもごも ご。
「ねえちょっと、僕の話を聞いてくれよ」 「なによ」 すでに喧嘩腰なのがアスカの良いところ。この場合は。
「いやね、とにかく変態扱いされて嬉しいわけじゃないよ、僕だって。だからここは、変態よりはまず変人、変人から 更に奇人、奇術師、魔術師の類と呼ばれるようになりたいモノじゃないか」
「そないな考えやから、いらんこと言われるんやと思うけどなあ……」 鈴原君のつぶやきはあまりに正しいので、思わずその場に沈黙が沈み込んできた。
マナに至っては最近彼女だけに大流行中の百人一首のかるたをめ くり出している始末。女の子は興味のない男子には冷たいのね。
「しかしそれは、本当の魔術の類を君らが見たことないから思うだけさ」
「A・Tフィールドって魔術的だったけどなあ……」 碇くんが今度は身も蓋もない感慨を。未来のお嫁さんとしては少し恥ずかしい。
「レイ、あんたが照れるとこじゃないでしょーが」 アスカのつっこみは手が出るから困る。今も肩を叩かれました。痛いのです。
「まあまあ、喧嘩をやめて、皆も二人を止めてくれ。僕のために争わないでよ、これ以上」
「……はあ、まあ」
「ほいでさー、まあいいからそんなにゆーなら魔術を見せてもらうっきゃないよねえ?」 一生懸命百人一首を暗記中のマナが、とても興味深そうに死んだ眼でぐるりと見渡した。
「……うん、まあ」
「そう、ねえ」
「多少は、その、ねえ?」
「でもなんか、最終的に、ねえ、面白いかどうかが鍵って言うか……ねえ?」
「ねえねえ言ってるねえ。おっと、僕のはわざじゃないぞーう」
がばりと立ち上がって両手を広げて「セーフ!」のポーズ。
「……う、うざい」
「手足の長さを無駄遣いしてるわね」
「うるさいのう、ワシ眠いんやで?」
「ふふ、それなら爆睡団長のトウジ君、君をも驚かせる魔術を疲労してしんぜよう!」 愚兄はその腕を伸ばして、煽るマナの手からかるたを奪った。
「あにすんのよー」
「まあまあ、見ているがいいっ」 掌に乗せたまま、ポケットから渋茶色に名作忍者漫画の主人公のほっぺたみたいなぐるぐる巻きが描かれた風呂敷をひ ろげてかるたに被せた。
眉をハの字に寄せて、気難しそうな顔で右手を風呂敷の上で右に左に指まで滑らかに動かしながらぶつぶつと呟いている。
完全にアレな使徒だ。ちがった、今はいちおう人、人間。
「そおーれ、チチンプイプイ!」
でもやっぱり完全にアレだよな、という顔をした皆と眼が合った。みんな顔中に「めんどくせえ」と貼ってある。
風呂敷を大げさに取り払い、かるたを目の前の机に静かに伏せて戻す。
「さあどうぞ、霧島マナさん」
「ほほう、どれどれ」
ベタ好きのマナがなんだかんだ、にやにやしながら一枚めくった。
「あ、渋いわ最初から」
そしてもう一枚。
「ありゃ!?」
さらにもう一枚。
「うそ!」
残りのすべてをひっくり返して……97枚、すべて同じ柄。
「ふははは、驚いたかい!?これが秘術『スベ・テ・セミーマル』さ!!」
「解説しよう!!『スベ・テ・セミーマル』とはかざした手のごべは!!!」
あ、喉を。
「どおおおおしてくれるのよおおおおおお!!!」
悶絶する愚兄に散らばる蝉丸法師とマナの足が降り注いだ。
そんな、夏の終わりのワンシーン。
「綾波、きれいなシメじゃないよ、別に……」
碇くん、無遠慮な指摘。
じゃあ……夏らしい蝉時雨。どうかしら?
------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 |
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.29 ) |
- 日時: 2010/08/21 11:42
- 名前: naibao
- キス、してください
少女が頬を染めて言う。 少年は少女の肩を引き寄せ、片方の手でゆっくりと頬をなでる。 ついに、2人の距離は――
■■■君に、降る、雨■■■
実験からの帰り道 休憩室のモニターに映っていた情景を思い出していた。
セカンドインパクト前のドラマのワンシーン。10代の若い男女が雪の降るなか佇んで いる。
キス、してください。
少女の言葉をうけて少年が近づき2つの影が1つになる。少年も少女も満ち足りた表情 を浮かべていた。
――なぜ、 わたしはこんなにもあのシーンを気にするのだろう。これまで何度もそういったドラマ を同じ場所で目にしていたはずなのに、こうして後になってから思い出すということは なかった。
思考を巡らせるうちに、鞄を提げていない右の手のひらが熱を持っていることに気づく 。――いつの間にか、雨が私を包んでいた。
夕立とは少し趣が違う、穏やかな雨。 傘も持っていないしすでに十分に濡れてしまっている。雨宿りをするのも、走って帰る のも今更だと感じた。――それに、こうして雨の中に居ることが心地よかった。
雨の中は静かだった。小さな雨粒とともに私が少しずつ周囲に溶け込んでいくような、 そんな不思議な感覚。 ただ、私の右の手のひらの感覚だけが例外で、熱く、強く感じられる。 あのときの――使徒の火粒子砲を全身で受け止めた後の、泣き出しそうな彼の笑顔とと もに、彼の手のひらの感覚が蘇ってくる。 あの作戦以降、ふとした時にこの感覚が右手からじんわりと浮かんでくるのだ。
突然、意識を外側から刺激される。 彼が傘を差しのべていた。
傘の中はたくさんの音で溢れていた。
雨粒が傘を控え目に叩く音 一歩進めるごとに跳ねる水の音 私の右側を歩く少し不規則な息遣い
雨の中にいるときには感じられなかった、音。
歩調を早めたくなるような、でも、ゆっくり味わっていたいような。そんな不思議な感覚。
少しずつ少しずつ、雨脚は弱まっていく。しかし、私の耳に響く雨音は少しずつ少しずつ 、大きくなっていく。
雨が止み、雲の切れ間から光が射した。
傘から出ても、なお、雨音が聞こえる。
キス、してください。
またあのシーンが浮かぶ。
■■■了■■■
なんか『狙いすぎ』の感が否めないので、最後の一文を削除します。 削除文は以下。
『彼の体温が消えた私の右側が、じんわりと熱を持った。』
あと、細かいところの修正も行いました。
8月23日午前0時40分追記 naibao
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.30 ) |
- 日時: 2010/08/21 15:31
- 名前: JUN
- キスしてくださいvol.4
「どうしよう、これ……」 シンジは呆然として呟いた。手の打ちようがないとはこのことだ。身動きが取れない。取ろうと思 えば取れるのだろうが、それをするにはいささか度胸が必要だった。起こしてしまう。それに、起こ した後の対策を考えていない。今の彼女の状態からして、妙な事態に陥るかもしれない。既に妙な事 態に陥ってはいるのだが、それとこれとは別である。だが、このままいつまでもこうしているのはさ らに問題がある。よし、起こそう。
「あのぉ……」 「んん……」 「あの、すいません……」 「うぅん……」 「起きてよ」 「むにゅ……」 「起きてください、綾波……」
酔いつぶれた綾波レイは、いつまで経っても起きない。
発端は些細なことだった。レイを家に招待したシンジは「適当に座ってて。冷蔵庫にあるもの、何 でも飲んでいいよ」と言って、自らは風呂の掃除をしていた。夜勤明けのミサトは、NERVか家かい ずれかでシャワーを浴びる。どちらにでも対応できるよう早めに風呂桶を綺麗にしておくのがシンジ の習慣だった。
アスカもミサトもいないから、からかわれることもなく色々な話が出来る。もしかしたらキスくら い出来るかもしれない。ミサトはいつ帰るか分からないが、それでも話をする時間くらいあるだろう。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、シンジが風呂桶をこすっていると、ふと思うことがあった。冷蔵庫 にジュースってあったっけ……?
ない、とシンジは思った。ビールだけだ。でもまあよい。紅茶かコーヒーでも淹れよう。紅茶がい いかな。僕らの思い出の飲み物だから。初めて淹れたときはちょっと苦かったけど、今は大分上手に なっているから。
シャワーで風呂桶に付いた洗剤を流しつつ、シンジはこの後のことに想いを馳せた。からかわれる 相手がいるせいで、なかなか二人きりになれなかった。キスも数えるほどしかしていない。今日はち ょっと勇気を出して、積極的になってみよう。
「ごめんね綾波、待っ…………た?」 「ふにゅ……いかりくん…………」
顔を色っぽく紅潮させたレイは、シンジの胸に顔を埋め、安らかな眠りについた。
「確かに何でも飲んでいいって言ったけどさあ……」
テーブルの上に置かれたビールの空き缶を眺めつつ、シンジは呟いた。レイはシンジの首っ玉に抱 きついたまま離れない。時折んっ、などと高い声を上げる度に、シンジの心臓が止まりそうになる。
――無防備だよう……綾波ぃ
「起きてよぉ、綾波……」
この上なく情けない声をシンジが上げる。この情けなさの理由は多々あるが、一番はやはり色々と 立てていた算段がご破算になってしまったことだろう。キスしようとすれば不可能ではないが、意識 がなければ意味がないと思う。
「いかりくん、ねこがほしいっていってた……」 「へ?」 「ぺっとがほしいって……」
寝言なのか判別しかねる。うわ言のようにふわふわと、レイは何の脈絡もなく呟いた。そういえば 昔クラスでそんなことを言った気がするな。犬派か猫派かで分かれて……
「そ、それがどうかしたの?」 「いかりくんがねこほしいなら、わたし、いかりくんのねこになる……」 「はい?」 「いかりくんのぺっとになる……」 「えと、綾波さん?」 「にゃん……」 「…………」
昔こんな話を書いた気がするが、気のせいである。別物である。レイはうっすらと目を開け、とろんとした表情でシンジを見て、みゃん、ともう一声鳴く。
……どうしよう、萌える
新しい性癖への扉が開きそうになる。襲い掛かってしまいそうで、シンジは妙に危機感を覚えた。 レイはさらにきつくシンジに抱きつき、シンジは息苦しさを覚えた。酔ったレイの恐ろしさを肌で 感じる。缶ビール一本でこうもとろとろになるレイがかわいくもあり、怖くもあった。
「いかりくん、きす、して……」 「へ?」 「きす、きす……」 「え、いや、ちょっと」 「してくれないの……?いかりくん、わたしときすするの、やなの……?」 「いや、そうじゃなくて」 「おねがい、きす、してください……いかりくん…………」
酔ったレイは積極的らしい。色々な一面を発見して、シンジは戸惑いと喜びを感じる。キスしよう にも、レイはシンジに抱きついている。その体勢からキスするのは不可能だ。
「じゃ、じゃあ一回離れてよ。近すぎて出来ないから」 「や、はなれない。いかりくんは、わたしのものだもの……」 「どこにも行かないから。ね?一回離れてよ。キスできないよ?」 「ん……」
いかにも渋々、レイが距離を取る。シャツをしっかり握っている辺り、離れたくないと言った感じ だ。 「目、閉じて」 「…………はい……」 なんだかんだで計画は達成できるらしい。結果オーライだ。意識もあるのだから、ポリシーにも反 さない。
「好きだ、綾波……」
折れそうに細い身体をそっと抱き締め、ゆっくりキス。アルコールの影響か、うっすら開けた口か ら漏れる吐息は荒い。重ねた唇からは、アルコールの匂いとレイ自身の果実のような甘い香り、ほん のりと汗の匂いも混ざって扇情的な香りがした。
「はぅ……」
そんな匂いと、レイの甘い声に誘われ、シンジの掌がレイの胸元に伸びる。唇を離したレイがうっすらと微笑んで、その手を取った。 「綾波、いい……?」 「碇くんだから、いい……」 「綾波…………!」
まさにシンジがレイを押し倒そう、そう思って肩に手をかけたその時――
「たっだいま〜!シンちゃん、おふ……ろ…………」
時が、止まった――――
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.31 ) |
- 日時: 2010/08/23 22:28
- 名前: JUN
- 蝉時雨vol.4
「ただいま」 シンジがそう言って扉を開く。見ると、明らかにミサトやアスカよりサイズの小さい運動靴がある。 「綾波、来てるの?」 靴を脱ぎ、買い物袋を玄関の脇に置いて居間のドアを開けると、綾波レイは確かにそこにいた。ソファに腰を下ろして、視線は心持ち下向き。どこか冷たい雰囲気を醸している。 そんなレイの様子に、シンジは不安になる。何かしただろうか、ここのところ機嫌を損ねるようなことはしてない筈だけど。 「綾波、いらっしゃい」 「…………」 レイは答えない。嫌な予感がするが、本当に思い当たらないのだ。お弁当は手抜かりなく作っているし、肉だって取っている。週末にはデートにだって行っている。シンジ自身、レイとのそういった行動をとても楽しみにしているのだ。 「ぼ、僕、財布を置いてくるね」 沈黙を守るレイにいたたまれなくなったシンジは、逃げるようにして自分の部屋に向かう。葛城家の家計は基本的にシンジが切り盛りしているので、財布は自室に置いてあるのだ。下手においておくとミサトのビール代に消えてしまう。
部屋に着いたシンジは一つため息をつく。黙り込んだレイほど怖いものはない。アスカは手が出るが、レイは空気で人を殺すクチである。転びそうになった他の女の子を支えただけで、シンジは半日食事が喉を通らなくなった。レイの放った無言の圧力によるものである。 引き戸を開けたシンジは、部屋の中の違和感に気づいた。妙に片付いている。基本的にシンジは部屋を綺麗に保っているが、それでも最低限の生活感は出る。そういったものがない。つまり、誰かが部屋を片付けたのだ。
財布をいつもの引き出しにしまおうとした時、シンジは“それ”に気づいた。
「な、な、な、なんでこれが…………!?」
机の中央にぽんと、やけに丁寧に、これ見よがしに、それは安置されていた。
――ケンスケから譲り受けた、シンジ秘蔵のエ○本である。
背中から一気に嫌な汗が噴き出す。ここにこれがあるということは、つまりそういうことである。レイの放つ無言の圧力の正体、それは明らかにこれだった。部屋中が片付けられ、ただこれだけが机の上に置かれている。異様な雰囲気が、そのブツからは放たれていた。それがレイ自身の怒りであると気づけないほど、シンジは愚かな生物ではなかった。
何で見つかっているんだろう。確かにベッドの下に…………
いそいそとそれを仕舞い、引き戸の元へと戻る。戸を開けるのが怖かった。他の女の子が触れるだけで機嫌を損ねるレイが、シンジのそれを見て冷静でいられるはずがない。 だが、このままでいい筈もない。決心して戸を開け居間を見ると、レイは先ほどと同じように座っていた。 恐る恐るレイの横に座り、そっと声をかける。
「ね、ねえ、綾波……」
そんな猫なで声に、レイはぷいと顔を背ける。かなり怒ってる、シンジは思った。 果てしない沈黙。ただ窓から蝉時雨が流れ込むのみだ。 「その、僕の部屋の、あ、アレのことなんだけど……」 「…………」 「ぼ、僕だって、綾波に悪いと思うんだけどさ、ほら、僕も男だし、変に溜め込んで綾波に変なことしちゃったら、それは結局綾波を裏切ることになるわけで、あの、えっと――」 「私に黙ってあんなの見てるのは裏切りじゃないのね。碇くんにとっては」 「う……それは、その――」 「私以外の人のほうがいいのね。ごめんなさい。巨乳じゃなくて」 「そ、そうじゃないんだよ。そうじゃなくて、僕は――」 「不潔」
シンジの言葉を待たず、レイは立ち上がった。 「え、どこ行くんだよ、綾波」 そんなシンジの声に耳を貸さず、レイは玄関へと歩いていく。 「ま、待ってよ綾波!」 「さよなら」 「あ……」
ぷしゅ、と音を立てて閉まった扉を、シンジはいつまでも見つめていた。
次の日、シンジはケンスケに断り、その本を捨てた。食べてくれるか不安だったが、弁当も別に作った。レイの好物を選んで。カボチャの煮っ転がし、ポテトサラダ、鰆の西京味噌焼き、そしてレイがお弁当以外にもよくせがんで作らされた、砂糖を沢山入れた甘い甘い玉子焼き。
学校に来てから、レイは一言も口を利いてくれない。当然覚悟はしていたが、やはり辛かった。レイの声が聞けない学校生活がこれほどまでに苦痛だとは思ってもみなかった。自分のしたことがいかにレイの心を傷つけたのかを痛感させられた。 「あの、綾波、これ……」
昼休み、一緒に買いに行った弁当箱を差し出す。レイは暫しそれを見つめ、鞄から何かを取り出した。それを見て、シンジは絶望した。 その手には、コンビニ弁当が握られていた。
震えながらシンジの手が下がり、ほんとにごめん、とだけ言って踵を返す。レイの怒りは、自分が思っていたよりずっと深かった。普段、シンジのちょっとした悪戯を微笑みながら赦してくれるレイが、これほどまでに怒っている。
二人分の弁当を食べながら、シンジは深い溜息を吐いた。昨日まで一緒に二人で食べていたのに。 正直、コトを甘く見ていたのだ。どんなに拗ねていても、謝ってキスをすれば、レイは必ず許してくれていた。次の日はいつもレイのリクエストした弁当を持って行って二人で食べるのが常だった。
次の日から、来る日も来る日も、シンジは二つ弁当箱を持っていった。その度、シンジは二人分の弁当を食べていた。
そんな毎日を一週間も繰り返したある日、シンジはまた弁当箱を手渡した。やはり、レイの好物を詰めて。レイはまた暫しそれを見つめ、ゆっくりとそれを受け取った。 シンジの顔が歓喜に満ち溢れる。瞳を輝かせ、 「あ、あの、食べ終わったら僕の机の上に置いといてくれたら、洗っておくから。美味しくなかったら、残していいよ」 レイは、こく、と頷いた。
昼休みが終わると、レイが無言で空になった弁当箱を渡す。その軽さに、シンジはまた笑った。許してもらえたからではない。レイに少しでもその兆候が見えたからだ。 レイが自分の席へと戻るのを見届けた後、シンジが弁当箱を仕舞おうとすると、その中からかさ、と乾いた音がする。不思議に思ったシンジは、弁当箱を包んでいたバンダナをほどいた。小さな紙が入っている。ノートの切れ端のようだった。
『午後八時、私の家』
パソコンの明朝体のように綺麗な字で、それだけが書かれていた。レイの作ってくれた挽回のチャンスだった。
「お邪魔、します……」
レイのアパート。サードインパクトの後改装が加えられ、小奇麗なマンションになっていた。二人で選んだ家具の恩恵でレイの自身の部屋も小洒落た空気を醸している。
「座ってて」 「は、はい」
シンジがソファに腰を下ろすと、マグカップに入った紅茶が置かれる。 「あ、ありがと」 夜になって、あたりは昼間以上に静かだ。蝉時雨すらない。 「その、あの、綾波、本当に、ごめん。僕が馬鹿で、その、綾波のこと傷つけて……」 「…………」 「今更何言っても言い訳なんだけど、僕は馬鹿だからさ、その、こうして二人きりでいる時に綾波に酷いことしちゃうのが怖くて……奇麗事、なんだけど…………」 「……碇くん。わたし、魅力、ない…………?」 消え入るように小さな声で、レイは言った。 「そ、そんなことない。綾波は、すごく魅力的だよ。どんな人より、ずっと……」 「ほんとう……?」 「……うん。それは、自信を持って言える。綾波よりかわいい人なんて、いないよ」 「…………」
レイが黙り込む。また沈黙が、二人を包んだ。 その時間がどれくらいか、シンジには分からなかった。とてつもなく長くもあり、ほんの一瞬だったのかもしれない。 そんな中、ずずっ、とレイが音を立てる。半ば反射的にシンジがそちらを見た。
レイが、泣いていた。
「あ、綾波、ホントにごめん。許されないことなんだけど、その――」 「違うの」 「え……」
シンジの言葉を遮り、レイが言った。
「私、怖かったの。碇くんが、私以外を見るようになるのが。碇くんが、もう私に飽きちゃったんじゃないかって。私――」 「綾波!」
言葉を紡ぐレイをシンジは思い切り抱きすくめた。
「ごめんよ、本当に、ごめん。綾波が不安になるようなこと、もうしないから。飽きるなんて、あるはずがない。綾波は、僕の宝物だから……」 「碇くん…………!」
「あの本は捨てたよ。大丈夫だから。僕が好きなのは、綾波だけだから……」 「えっちな本、もう読まない……?」 「うん、読まないよ」 「うれしい……でも、碇くん」 「なに?」 レイは微笑んで、自分のブラウスのボタンに目をやる。 「碇くんが我慢できなくなったら、私があのくらい、いつでも見せてあげるから……私、碇くんになら、何だって出来るから……」 「綾波…………」 そっとシンジがレイの胸元に手を伸ばす。レイと視線が錯綜する。レイはシンジの唇にちゅ、と口付け、その手を取った。 「いい……?」 レイは小さく首肯し、 「だって、碇くんだもの…………」
おしまい
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.32 ) |
- 日時: 2010/08/23 22:29
- 名前: JUN
- ちょっと(かなり?)無理があるなあ……
caluさんの要求には答えましたw
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.33 ) |
- 日時: 2010/08/26 05:16
- 名前: tamb
- ■或る新婚さんの場合・レイとシンジ編/何処
> 皆さん今晩は、碇ゲンドウです。
さりげないが、ゲンドウの声で脳内再生すると異常な違和感がw
> 「おお、あっついあっつい。」
完全なセクハラである。
なんというか非常に反応に困るというか、書きたいことはあるっちゃああるんだけど、あま りにも個人的体験暴露なので避けさせて頂きます(笑)。 しかしこの話、あまりにもドハマリなエンディング曲にトドメを刺された感じ(笑)。
■蝉時雨vol.3/JUN 本人たちにとっては幸せ一杯の時間なのであろうが、もしこの状況を見ている者がいるとす れば間違いなく踏み潰したくなるであろう(笑)。このちちくりあいは完璧なバカップルである。 わき腹をつねられてくすぐったがらずに痛がることができるシンジは完璧であり、胸をつんつ くされただけで高い声を上げることのできるレイもまた完璧である。 しかし蝉時雨があまりに意味がない(笑)。
とあるFFを思い出したが、この流れで紹介していいものかどうか、そのFFの内容的に微妙な ので、それは来月にでも。
■キスしてくださいvol.3/JUN 子供の頃、りんご飴なるものを見て食べたいなと思ったが、果たせなかった。それはなぜか と言えば、食べ方が判らなかったからだったりする。あたりに食べてる人はいなかったように 思う。りんごの周囲を飴が取り巻いているのは明らかで、飴というからにはそれなりに硬いは ずだ。それを舐めまくってりんごにたどり着くのは至難の業で、いったい何時間かかるのかと 思っていた。そうか齧るのか。記憶の中のりんご飴の飴の部分は結構分厚かったように思うの だが、そうでもなかったのだろうか。機会があったら食べてみよう。 駅のコンコースの隅とかで、抱き合ったまま固まっているカップルがたまにいる。固まった まま微動だにせず、別にいちゃついてるわけではないのでバカップルではないと思うのだが、 あれはどのような精神によるものなのだろうか。家に帰るべき時間が迫っていて、でも帰りた くなくて、ということなのかもしれないが、周囲にその姿を晒しているわけで、それについて はどう思っているのであろうか。要するにそんなことは眼中なしということなのであろう。そ の意味ではいちゃついてなくてもバカップルである。 作中のシンジとレイも、周囲のことなど眼中なしという点で紛う事なきバカップルである。 飴がついてたといって唇の端をぺろりと舐める? 公衆の面前で、キスして下さいだ? お前 ら、たいがいにしやがれ。いや、しなくていい。我慢もしなくていい。明日もそのまま突っ走 れ。たぶん明後日も(笑)。俺はもう知らん。
■蝉時雨/ななし 夏の終わりと共にシンジが目覚めてゆくというシーン、そしてシンジに語りかけるレイの言 葉ががあまりに美しい。 ◇で区切って前半と後半。それぞれが素晴らしい。 例えば前半、アスカが何て言ったのかを書かないのがいい。普通に考えれば「ありがとう」、 あるいは「ダンケ」かもしれないけど、アスカがこのような意味でこの種の言葉を口にするシ ーンはあっただろうか。レイがありがとうといわれるシーンも、破以外であっただろうか。だ から心の触れ合いが暖かいと思う。 後半、シンジが目覚めるシーンがないのがいい。この直後なのか、あるいはもう少し後なの か、恐らくシンジは目覚める。その時、レイとアスカの関係がほんの少しだけ変わっているこ とに気づけたらいいと思う。 この企画、最終的に何作集まるかはわからないけど、間違いなくベストワン候補。凄かった。 出来れば十話くらいの連載で読みたかった(笑)。
--- 本日はここまで!
 |
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.34 ) |
- 日時: 2010/08/26 06:47
- 名前: 何処
- 【突撃!シンジの晩御飯!】
「…赤木博士。」 「何?」 「…これは…何ですか?」
ベッドの上、パジャマに包まれた上半身を起こした蒼髪の少女がその掌に乗った茶色の小瓶を赤い瞳に映す。
「正露丸。由緒正しい下痢止めの薬。その殺菌作用は虫歯のう喰孔へ詰める事で歯肉内の膿疱炎症を鎮められる事からも証明済み。」
金髪美女の解説に少女は瓶の蓋を開け、中の錠剤を数錠左掌に載せた
「…不思議な匂い…」 「ヨード臭は我慢なさい。さ、お水よ。」
少女は小瓶をシーツの上に置き、受け止ったコップの水で茶色の錠剤を咽下。空のコップと小瓶を片付けた美女は興味深げに少女へ質問した。
「大体何だって傷んだヨーグルトなんか食べたの?」 「傷んでいたとは知りませんでした。朝購入した物ですし、賞味期限内でしたので。なのに…普段はこんな…」 「…昨日の第三新東京大規模停電忘れた?」 「…あ。」 「本部の自家発電でジオフロントは何とか助かったけど…」 「はい。実験後、帰宅する為駅に行ったら列車まで止まってて…駅で二時間…」 「当然、冷蔵庫も冷房も止まってた訳よ。あの猛暑で六時間、買い物袋に入れっぱなしなら傷んで不思議じゃないわね。」 「…はい。」
「ま、薬を飲んだら今日は大人しく休んでなさい、水分はまめに摂取する事。後、冷蔵庫の中の食品も危ないわ、早めに処分するの。いいわね?」 「…はい。」
以前と違い防音のしっかりした新居。だが空調の音に紛れ微かに外の音が聞こえてくる。
(音?いえ…声…これは声…蝉の鳴き声…波の様に寄せて帰る…遠く…近く…止まずに続く…大きく…小さく…一瞬の制止…そして又…)
少女は呟く。
「そう…時雨…蝉時雨…」
…空調音に混じり静かな寝息が聞こえて来るまで、さほど時間はかからなかった…
数刻後。
来客を告げるチャイムの音が少女を眠りの園から呼び起こす。 現世へ意識を浮上させた少女が時刻を見れば既に17時を過ぎている。ベッドからゆっくり起き出し、パジャマ姿のまま少女は玄関を開けた。
「ハーイファースト!お見舞いに来てあげたわよ!」 「セカンド?」 「ん〜?未だ大分顔色悪いわね!あんたちゃんとご飯食べてる?」 「え、ええ。どうぞ上がって。」 「おっじゃましまーす♪」
彼女はスーパーのレジ袋を掲げ高らかに宣言する。
「食中り後でもプディングくらいなら食べられるでしょ?一緒に食べましょ!多めに買って来たから冷蔵庫仕舞うわね。」 「あ…有り…難う…」 「シンジは?見舞い来なかった?」 「未だ松代…明日までかかると赤木博…リツコさんが言ってた…」 「あの馬鹿…」 「でも…実験だから…」 「そんな事よりファーストの体の方が大切じゃない!バカシンジめ、帰って来たらシメる!」
そして彼女が冷蔵庫を開けた時、事件は起きた。
「な、何よこれ〜!?ちょっとあんた!冷蔵庫の中納豆とヨーグルトとキムチしか入って無いじゃなぁい!?!!」 「発酵食品は身体に良い…」 「あんたその発酵食品でお腹壊したんでしょ!?うわキムチの匂い凄!!」 「セカンドも食べてみる?キムチも納豆も美味しいわ。」 「じょ、冗談止めてよ、これどう考えても異臭よ異臭!」 「納豆は今一寸発酵が進んでアンモニア臭が出てるけど問題は無い…キムチも酸味が強くなってるけど乳酸発酵だから安全だし…」
「発酵にも程が有るわ√!!!」
さて次の日
「…て訳よ、あの娘あのままじゃ駄目だわ!」 「ふうん…」 「…シンジ、話聞いてた?」 「あ、うん。大変だったねアスカ…」 「…つっっまんない反応返すな馬鹿シンジ!」 「え?」 「大体あんたねぇ、愛しの彼女が体調崩したってのに見舞いにも行かないなんて何考えてるのよ!」 「え?だ、だって只の食中り…は?待った。一寸待った。ええと、か、彼女って誰の…え?あ、綾波が?」 「他に誰がいるのよ!」 「何で綾波が僕の彼女なのさ!?」 「何よあんたファーストが嫌いな訳!?」 「そんな事言って無いだろ!?」 「大体あんたは…!!」 「酷っ!?それ言うならアスカこそ…!!」 「…!!!?」 「…!!!!」
「ま〜た始まったよ。高校生になっても相変わらず仲のよろしい事。」 「何や又夫婦喧嘩かいな…イインチョ、止めへんのか?」 「無理よ…碇君、大変ね…」
「…と言う訳で、我々は今綾波宅の前に来ております。」
しゃもじをマイク代わりに持ったアスカが明後日の方向に何やら話し掛けている。 旗を持たされ傍らに立つ少年はため息をつきながら何事か呟いている…
「…何で僕まで…」 「あんたの彼女の事なんだから当然でしょ?」 「だから彼女じゃ無いのに…」
「碇君?セカンド?何してるの?」 「綾波!?あ、あのいやこれは…」 「ハーイファースト!見舞いに来なかった薄情な彼氏引き摺って来たげたわよ!」
「アアアスカぁ!?」 「…何を言うのよ…」
「で、あんた何処行ってたの?」 「買い出し…夕食の…お弁当にしたの…上がって。外は暑いわ。」
そして…
「え?」 「…これは…」 「牛丼弁当。牛野屋の。」 「(ね、ねえシンジ、ファーストってお肉嫌いじゃなかった?)」 「(の筈だけど…好き嫌い克服したのかな?)」
「あ、綾波、その…お弁当の中、見ても良いかな?」 「?良いけれど?」 「どれど…な、何よこれ〜!?!!」
「に…肉が無い…」 「肉抜き汁ダクダクだから…」
「「…うわ…」」
「…なんだかねぇ…」 「綾波…栄養のバランス考えた方が…」 「考えてる…」 「そ、そうなの?」 「そうは見えないけど…」 「足りないのはタンパク質とカルシウム、ビタミン群…で、これにネギと鰹節を混ぜた納豆を…」
「「ひっ!!」」
「…頂きます。」
少女食事中…
「…ご馳走様。」 「は…はあ…」 「…?碇君、セカンドは?」 「廊下…アスカは納豆苦手なんだよ…アスカぁ、終わったよぉ」 「…ほ、本当?本当に終わった?」 「…美味しいのに…納豆…」
さてその夜、コンフォート17の一室…
「…で?」 「だーかーらーこの娘を明日から預かるの!!あんな生活してたらこの娘マトモな女に育たないわ!」
「?碇君…私、そんなおかしい生活なの?」 「こ、個性的な生活なんじゃないかな?」
「えー?ま、アスカが自分の部屋へ泊める位なら別に構わないけど…でも牛丼に納豆美味しいじゃない?キムチと生卵も入れると完璧っ!?痛った〜〜…な、何も殴らなくてもいいじゃないアスカぁ…あ痛ぁ…」 「味覚崩壊したあんたの意見は聞いてない!そこ!何感心してメモなんか取ってる!!」
「綾波…さ、流石に納豆とキムチは…」 「…美味しいのに…」
「…これが私達四人の共同生活の始まり…」 「成る程ねぇ…」 「それにしても綾波さん、その…牛丼に…納豆?」 「ええ。」 「なんか戦自の野戦食思い出すわぁ…レトルトのパックにスプーン突っ込んで…半煮えなのに当たると泣けたわ〜…」 「霧島さん…唐揚げ食べる?」 「え?いいの?」 「駄目…山岸さん、食べないと駄目。見た所貴女の摂取カロリーは未だ所要量に足りない。」 「…カロリーバーと野菜ジュースの綾波さんが言っても…」 「大丈夫…カロリー的な問題は無い…それに…」 「「それに?」」 「今週の食事当番は碇君…だから楽しみは取っておくの…」 「ははぁ、納得。」 「愛しの彼氏の手料理かぁ、いいなぁ綾波さん。」 「ち、違うわ、な、何を言うのよ!い、い、碇君と私は未だ…」 「「ふぅん…未だ…ね…」」
「あ。」
「…でもその『碇君』の手料理…一度ご相伴に預りたい物ですねぇ山岸さん?」 「え?あ、あたしに振らないでマナーっ、そ、それは確かに興味は…」 「…食べてみる?」
「ミサトさん…明日の夕食、お客様を呼びたいのですが…」 「あらぁめっづらしー!?レイがお客様呼びたいだなんて!!オールオッケーよぉん、どぉんどん呼びなすゎぁいい!」 「え?良いのですか?」 「勿論無論当然よ!ね、ね、ね、誰呼んだの誰?高校の友達?女の子?それとも男の子?そぉれぇとぉむをぉ…彼氏?」
ガチャン!
「おーお、動揺しとる動揺しとる。ほーんとシンちゃんたらわっかり易いんだからぁ♪」 「?ミサトさん…私の高校、女子高ですけど…」
ガシャガシャン!
「碇君…今日はどうしたのかしら…」 「プクククッ!あ〜シンジ君〜?明日の夕食はご馳走にしてねぇ♪レイのお・と・も・だ・ちが来るからぁ♪手出しちゃ駄目よぉ♪」
ガシャン!
「クックックックッ…」 「?」 「あ〜いいお風呂だった!レイも入っちゃ…何笑ってるのよミサト?」 「クックッ…え〜?べぇっつぅにぃ〜…プッ…ククッ、クッククックククククッ…」 「?ね、レイ何あれ?」 「さあ…?」
「…と言う訳で、我々は今葛城作戦部長宅前に来ております。」 「なんやごっつうええ匂いがここまで漂っとりますなぁ。」
しゃもじをマイク代わりに持ったヒカリと旗を持ったトウジがデジカメを構えたケンスケに何やら話し掛けている。 その様子を見ながら顔に縦線を引いたネルフ作戦部長が、そっぽを向いてる碧眼の少女に小声で尋ねる。
「ね、ねえアスカ…これは何事?」 「…ファーストが女子高の友達連れて来るって聞いて…」
ちらりと傍らの銀髪に視線を送る。
「女子高生はいいねぇ…男子学生の心を潤す希望の存在…そう思わないかい?」
「…このややこしいのが更に話をややこしくしたのよ…」
「ゔ…」
改めて辺りを見遣り、ネルフ作戦部長は然り気無く居並ぶオペレーター三人組に絶句した。
「ちょ、一寸あんた逹まで!?」 「ええ、レイちゃんのお誘いですもの、断る訳無いですよ。」 「そうそう」 「右に同じ」 「た、確かにレイには“どぉんどん呼びなすゎぁいい!”とは言ったけど…あ!?ちょ、一寸リツコ、あんたはともかく他は聞いてないわよ〜!?」 「当然ね。話してないもの。」 「リツコー!?さては謀ったわねー!」
クスクス笑う金髪の傍らに立つ無精髭はため息をつきながら何事か呟いている…
「…何で俺まで…」 「あら、リョウちゃんの彼女の家の事なんだから当然でしょ?」 「だからってなぁ…」
同時刻、ジオフロント内ネルフ本部執務室。
「…なあ碇、お前は行かんのか?」 「…ああ…」 「全く…仕方無い奴だ…」 「…司令が本部を空ける訳にはいきませんよ冬月先生。先生こそ行かないのですか?」 「…眩しくてな…」 「…そうですか…」 「…料理か…ユイ君の悪戯思い出すな。」 「ロシアン筍…」 「一皿だけ灰汁抜きせず炊いた筍…」 「…酷かった…」 「残さず全部食ったのは誰だ?」 「…」
…さて、その後葛城宅で何が起こり、何が変わり、終わり、始まったかは規約と紙面の都合により全てを記す事は出来ない。 故に後日談として幾つかの会話を記すに止め、後は皆の想像にお任せする。
「ミサト…」「リツコ…」
「だからレイは猫耳だって!」 「バニーよバニー!アスカが猫耳でレイがバニーよ!」 「リッちゃん、葛城、迷う事は無い。」 「リョウちゃん!?」「加持君!?」 「二人に両方着せればいいじゃないか。なあシンジ君。」 「ぼ、僕に振らないで下さいよ!?ミサトさんもリツコさんも何か言って下さい!」
「「グッジョブ!!」」
「へ?」「…頭痛い…」「こ、この酔っ払い共…」
「歌はいいねえ…」 「え?」 「歌は心を癒してくれる…リリンの生み出した文化の極みだよ。そう思わないかい?山岸マユミさん。」 「あ、あの…」 「誰彼構わず口説くの止めいこの変態バイのナルシスト!」
「綾波…」「碇君…」 「…止めてよトウジ、ケンスケ…」 「止めなさいよ二人共!は…恥ずかしい…」 「本っ当、あんたらぶわっっかじゃない!?」
「はぁ…『碇君』か…いかり…しんじ…シンジ君…キャーキャー―ッ!!」
「なあシゲル、マヤちゃん最近綺麗になったな。」 「そそそうか?べべべ別に変わった様には…」 (…判りやすい奴…)
「…司令、副司令、これ…お弁当です。良かったらどうぞ…」
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.35 ) |
- 日時: 2010/08/28 05:09
- 名前: tamb
- ■Day Tripper!! 出張編第2話「魔術師」/のの
レスに困るほど難解かつ盛り上がりにも盛り下がりにも欠けるだらだらした平板な話で誤変 換なのかどうなのか判断に困るなでもやっぱり誤変換なのだろう的なアレも散見されつつだが そこがいい! というような話。いや、誤変換はアレだけど、話がクライマックスとか迎えた らDay Tripper!!じゃないとは思うのよね。このだらだらした感じが好き。マナが可愛い(こ ういうのに可愛さを感じるお年頃)けどキスはしたくないな(爆)。
本日はコレだけ。少しずつでも書く。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.36 ) |
- 日時: 2010/08/28 09:19
- 名前: ななし
- 皆様の作品、とても楽しく読みました。面白かったです。
拙い感想ですいません。でも、1つ1つの話がレイやシンジ、他のキャラを捉えていて新しいストーリー生まれ素晴らしかったです。頑張ろうと身を引き締めました。
引き締まったのは、贅肉だけでした。あぁ、駄目だ。修行してきます。
tambさん
1111111ヒット企画以来お久しぶりです。改めまして9周年おめでとうございます。 お読み頂きありがとうございます。感想の言葉に恐縮と感動してます。
蝉時雨のお題は書いていて楽しかったです。仕事等で夏を堪能できない自分の白い肌がほんのちょっと茶色く色づいたかもしれない、気のせいだけどそんな感じに。
>出来れば10話くらいの連載で読みたかった(笑)
いろんな意味でラストなお話ですいません(笑)基本は破をイメージしてます。破のラストがこんなんだったらいいなと妄想+お題です。
お忙しい中感想ありがとうございました。気の利いた言葉が浮かびませんが無理なさらず体調崩さず日々楽しんでください。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.37 ) |
- 日時: 2010/08/28 10:28
- 名前: 何処
- 【突撃!シンジの晩御飯!会話のみVer(一部加筆修正)】
「…赤木博士。」 「何?」 「…これは…何ですか?」 「正露丸。由緒正しい下痢止めの薬。その殺菌作用は虫歯のう喰孔へ詰める事で歯肉内の膿疱炎症を鎮められる事からも証明済み。」 「…不思議な匂い…」 「ヨード臭は我慢なさい。さ、お水よ。」
「…大体何だって傷んだヨーグルトなんか食べたの?」 「傷んでいたとは知りませんでした。朝購入した物ですし、賞味期限内でしたので。なのに…普段はこんな…」 「…昨日の第三新東京大規模停電忘れた?」 「…あ。」 「本部の自家発電でジオフロントは何とか助かったけど…」 「はい。実験後、帰宅する為駅に行ったら列車まで止まってて…駅で二時間…」 「当然、冷蔵庫も冷房も止まってた訳よ。あの猛暑で六時間、買い物袋に入れっぱなしなら傷んで不思議じゃないわね。」 「…はい。」
「ま、薬を飲んだら今日は大人しく休んでなさい、水分はまめに摂取する事。後、冷蔵庫の中の食品も危ないわ、早めに処分するの。いいわね?」 「…はい。」 「さて、私は帰るけど。次はちゃんと『リツコ』って呼んでね。じゃ、ゆっくり休むのよ。」 「はい…」 「あ、そうそう、シンジ君は明日には帰って来る予定よ、楽しみに待ってなさい。」 「…」
プシッ!シュカッ!プシュン! カッカッカッ…
ゴー――………ジーワジーワ……ミーンミンミ……ジャワジャワ……
(音?いえ…声…これは声…蝉の鳴き声…波の様に寄せて帰る…遠く…近く…止まずに続く…大きく…小さく…一瞬の制止…そして又…)
「そう…時雨…蝉時雨…」
♪ぴんぽーん♪
「ん…あ、もうこんな時間…」
♪ぴんぽーん♪
「お客様…誰?…はーい…」
プシッ!シュカッ!
「ハーイファースト!お見舞いに来てあげたわよ!」 「セカンド?」 「ん〜?未だ大分顔色悪いわね!あんたちゃんとご飯食べてる?」 「え、ええ。どうぞ上がって。」 「おっじゃましまーす♪」
「食中り後でもプディングくらいなら食べられるでしょ?一緒に食べましょ!多めに買って来たから冷蔵庫仕舞うわね。」 「あ…有り…難う…」 「シンジは?見舞い来なかった?」 「未だ松代…明日までかかると赤木博…リツコさんが言ってた…」 「あの馬鹿…」 「でも…実験だから…」 「そんな事よりファーストの体の方が大切じゃない!バカシンジめ、帰って来たらシメる!」
「ご馳走様。美味しかった…」 「でしょ!最近ヒカリとはまってて。あ、これ仕舞っとくわね。」 「セカンド…あ、有難う…」
「いいのよ別に…ってな、何よこれ〜!?ちょっとあんた!冷蔵庫の中納豆とヨーグルトとキムチしか入って無いじゃなぁい!?!!」 「発酵食品は身体に良い…」 「あんたその発酵食品でお腹壊したんでしょ!?うわキムチの匂い凄!!」 「セカンドも食べてみる?キムチも納豆も美味しいわ。」 「じょ、冗談止めてよ、これどう考えても異臭よ異臭!」 「納豆は今一寸発酵が進んでアンモニア臭が出てるけど問題は無い…キムチも酸味が強くなってるけど乳酸発酵だから安全だし…」
「発酵にも程が有るわ√!!!」
「…て訳よ、あの娘あのままじゃ駄目だわ!」 「ふうん…」 「…シンジ、話聞いてた?」 「あ、うん。大変だったねアスカ…」 「…つっっまんない反応返すな馬鹿シンジ!」 「え?」 「大体あんたねぇ、愛しの彼女が体調崩したってのに見舞いにも行かないなんて何考えてるのよ!」 「え?だ、だって只の食中り…は?待った。一寸待った。ええと、か、彼女って誰の…え?あ、綾波が?」 「他に誰がいるのよ!」 「何で綾波が僕の彼女なのさ!?」 「何よあんたファーストが嫌いな訳!?」 「そんな事言って無いだろ!?」 「大体あんたは…!!」 「酷っ!?それ言うならアスカこそ…!!」 「…!!!?」 「…!!!!」
「ま〜た始まったよ。高校生になっても相変わらず仲のよろしい事。」 「何や又夫婦喧嘩かいな…イインチョ、止めへんのか?」 「無理よ…碇君、大変ね…」
「…と言う訳で、我々は今綾波宅の前に来ております。」 「…何で僕まで…」 「あんたの彼女の事なんだから当然でしょ?」 「だから彼女じゃ無いのに…」
「碇君?セカンド?何してるの?」 「綾波!?あ、あのいやこれは…」 「ハーイファースト!見舞いに来なかった薄情な彼氏引き摺って来たげたわよ!」
「アアアスカぁ!?」 「…何を言うのよ…」
「で、あんた何処行ってたの?」 「買い出し…夕食の…お弁当にしたの…上がって。外は暑いわ。」
「え?」 「…これは…」 「牛丼弁当。牛野屋の。」 「(ね、ねえシンジ、ファーストってお肉嫌いじゃなかった?)」 「(の筈だけど…好き嫌い克服したのかな?)」
「あ、綾波、その…お弁当の中、見ても良いかな?」 「?良いけれど?」 「どれど…な、何よこれ〜!?!!」
「に…肉が無い…」 「肉抜き汁ダクダクだから…」
「「…うわ…」」
「…なんだかねぇ…」 「綾波…栄養のバランス考えた方が…」 「考えてる…」 「そ、そうなの?」 「そうは見えないけど…」 「足りないのはタンパク質とカルシウム、ビタミン群…で、これにネギと鰹節を混ぜた納豆を…」
「「ひっ!!」」
「…頂きます。」
「…ご馳走様。」
「は…はあ…」 「…?碇君、セカンドは?」 「廊下…アスカは納豆苦手なんだよ…アスカぁ、終わったよぉ」 「…ほ、本当?本当に終わった?」 「…美味しいのに…納豆…」
「…で?」 「だーかーらーこの娘を明日から預かるの!!あんな生活してたらこの娘マトモな女に育たないわ!」
「?碇君…私、そんなおかしい生活なの?」 「こ、個性的な生活なんじゃないかな?」
「えー?ま、アスカが自分の部屋へ泊める位なら別に構わないけど…でも牛丼に納豆美味しいじゃない?キムチと生卵も入れると完璧っ!?痛った〜〜…な、何も殴らなくてもいいじゃないアスカぁ…あ痛ぁ…」 「味覚崩壊したあんたの意見は聞いてない!そこ!何感心してメモなんか取ってる!!」
「綾波…さ、流石に納豆とキムチは…」 「…美味しいのに…」
「…これが私達四人の共同生活の始まり…」 「成る程ねぇ…」 「それにしても綾波さん、その…牛丼に…納豆?」 「ええ。」 「なんか戦自の野戦食思い出すわぁ…レトルトのパックにスプーン突っ込んで…半煮えなのに当たると泣けたわ〜…」 「霧島さん…唐揚げ食べる?」 「え?いいの?」 「駄目…山岸さん、食べないと駄目。見た所貴女の摂取カロリーは未だ所要量に足りない。」 「…カロリーバーと野菜ジュースの綾波さんが言っても…」 「大丈夫…カロリー的な問題は無い…それに…」 「「それに?」」 「今週の食事当番は碇君…だから楽しみは取っておくの…」 「ははぁ、納得。」 「愛しの彼氏の手料理かぁ、いいなぁ綾波さん。」 「ち、違うわ、な、何を言うのよ!い、い、碇君と私は未だ…」 「「ふぅん…未だ…ね…」」
「あ。」
「…でもその『碇君』の手料理…一度ご相伴に預りたい物ですねぇ山岸さん?」 「え?あ、あたしに振らないでマナーっ、そ、それは確かに興味は…」 「…食べてみる?」
「ミサトさん…明日の夕食、お客様を呼びたいのですが…」 「あらぁめっづらしー!?レイがお客様呼びたいだなんて!!オールオッケーよぉん、どぉんどん呼びなすゎぁいい!」 「え?良いのですか?」 「勿論無論当然よ!ね、ね、ね、誰呼んだの誰?高校の友達?女の子?それとも男の子?そぉれぇとぉむをぉ…彼氏?」
ガチャン!
「おーお、動揺しとる動揺しとる。ほーんとシンちゃんたらわっかり易いんだからぁ♪」 「?ミサトさん…私の高校、女子高ですけど…」
ガシャガシャン!
「碇君…今日はどうしたのかしら…」 「プクククッ!あ〜シンジ君〜?明日の夕食はご馳走にしてねぇ♪レイのお・と・も・だ・ちが来るからぁ♪手出しちゃ駄目よぉ♪」
ガシャン!
「クックックックッ…」 「?」 「あ〜いいお風呂だった!レイも入っちゃ…何笑ってるのよミサト?」 「クックッ…え〜?べぇっつぅにぃ〜…プッ…ククッ、クッククックククククッ…」 「?ね、レイ何あれ?」 「さあ…?」
「…と言う訳で、我々は今葛城作戦部長宅前に来ております。」 「なんやごっつうええ匂いがここまで漂っとりますなぁ。」
「ね、ねえアスカ…これは何事?」 「…ファーストが女子高の友達連れて来るって聞いて…」
「女子高生はいいねぇ…男子学生の心を潤す希望の存在…そう思わないかい?」
「…このややこしいのが更に話をややこしくしたのよ…」 「ゔ…!?ちょ、一寸あんた逹まで!?」
「ええ、レイちゃんのお誘いですもの、断る訳無いですよ。」 「そうそう」 「右に同じ」
「た、確かにレイには“どぉんどん呼びなすゎぁいい!”とは言ったけど…あ!?ちょ、一寸リツコ、あんたはともかく他は聞いてないわよ〜!?」 「当然ね。話してないもの。」 「リツコー!?さては謀ったわねー!」 「…何で俺まで…」 「あら、リョウちゃんの彼女の家の事なんだから当然でしょ?」 「だからってなぁ…」
「…なあ碇、お前は行かんのか?」 「…ああ…」 「全く…仕方無い奴だ…」 「…司令が本部を空ける訳にはいきませんよ冬月先生。先生こそ行かないのですか?」 「…眩しくてな…」 「…そうですか…」 「…料理か…ユイ君の悪戯思い出すな。」 「ロシアン筍…」 「一皿だけ灰汁抜きせず炊いた筍…」 「…酷かった…」 「残さず全部食ったのは誰だ?」 「…」
「ミサト…」「リツコ…」
「だからレイは猫耳だって!」 「バニーよバニー!アスカが猫耳でレイがバニーよ!」 「リッちゃん、葛城、迷う事は無い。」 「リョウちゃん!?」「加持君!?」 「二人に両方着せればいいじゃないか。なあシンジ君。」 「ぼ、僕に振らないで下さいよ!?ミサトさんもリツコさんも何か言って下さい!」
「「グッジョブ!!」」
「へ?」「…頭痛い…」「こ、この酔っ払い共…」
「歌はいいねえ…」 「え?」 「歌は心を癒してくれる…リリンの生み出した文化の極みだよ。そう思わないかい?山岸マユミさん。」 「あ、あの…」 「誰彼構わず口説くの止めいこの変態バイのナルシスト!」
「綾波…」「碇君…」 「…止めてよトウジ、ケンスケ…」 「止めなさいよ二人共!は…恥ずかしい…」 「本っ当、あんたらぶわっっかじゃない!?」
「はぁ…『碇君』か…いかり…しんじ…シンジ君…キャーキャー―ッ!!」
「なあシゲル、マヤちゃん最近綺麗になったな。」 「そそそうか?べべべ別に変わった様には…」 (…判りやすい奴…)
「…司令、副司令、これ…お弁当です。良かったらどうぞ…」
【後書き】 会話のみにしてみました。 さてどこまで通用するか。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.38 ) |
- 日時: 2010/08/29 13:12
- 名前: calu
- 何処さん
こんにちは、caluです。 最初の方の作品で『ネルフの夏・日本の夏』、読ませていただきました。面白かったです。 レイですが、アスカとシンちゃんの前とでは面白いくらいに人が変わりますが、キャラの特徴が凄く前 に出ていますよね。 読んでて無性に食べたくなったので、いまガリガリ君を食べながら書いてます。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.39 ) |
- 日時: 2010/08/30 01:05
- 名前: calu
- それは意識の中に出来た小さな染みのようなものだった。
頭のなかの幾層もの扉の向こうで、それは風船のようにゆったりと膨らんでは、小さくなっていく。 少しして、その中に呼吸にも似た規則性を感じはじめたとき、それは自分の近くにまで迫っている音だと気が付いた。
…………みず、のおと。
陽炎のように微かに湧いた声にならない声。それでも幾つかの扉を開いた先で、少しずつ明るさを取り戻すことのでき た視界がゆっくりと開けていった。 拙げに焦点を探す古いカメラのように、少女の産まれたばかりの視界の向こうで、ただの白っぽい塊だったものは徐々 にその輪郭を露にし、少女自身の手であることを理解した。白魚に例えて差し支えのない指が、鼓膜を打つ存在感にピク リと反応した。 そして、その白さをより強調していたのは、緋色の澱に染め抜かれた空、そして海だった―――。
―――!
闖入者のように少女の意識へと分け入った音が弾けた。それは少女の中にリズムを形成した波の音を意識の外に押しや ると、少女の頭の中を攪拌した。
……ひと…の、こえ?
身体はピクリとも動かない。薄っすらと開かれた深紅の瞳は、暗色がかった紅色を貼りつかせた海と粟立つ波に向けら れていた。それでもシャワーのように降り注ぐ声が意識の中で固有の波長を構成するにつれ、少女はその理由を理解でき ないままに熱くなり始めた身体を感じていた。そして、少女の両肩を掴んでいる誰かの手があることを。少女の視界の中 で、二度三度、海が揺れた。 血の通い始めた身体が僅かながらの自由を少女に与えた。仰臥する少女に覆いかぶさるようにして、呼びかけ続けてい る少年。顔を向けることが叶った蒼銀の髪の少女は、その花弁のような口を微かに開いた。
「…い…り、くん」
あまねく世界を覆う暗雲が薙がれ、少女の前で輪郭を露にした黒髪の少年。全ての感情を滴り落とすように少女を抱き しめると嗚咽を漏らし始めた。 少女の胸の中で、弾けだしたイメージが膨らみを見せたのは、その少年の感覚、そして匂い。俄かに持ち上がった安堵 感は、ふたたび少女の意識を朧に翳らせつつあった。意識を深淵に沈ませる前に、もう一度だけ少年の名を口にしようと したとき、温かく柔らかな何かが遠慮がちに少女の唇に触れ、やがてそうなることが定まっていたかのように、しっとり と重ね合わされた。
………流れこんで、くる……。
至上にも思える安息の下、意識を深い邂逅へと沈めはじめた少女。 その白磁のような光沢を湛える頬に伝わる一筋の涙。 幼気な微笑で飾られていたその顔は美しかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
La tercera T - キスして、ください - written by calu
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第3新東京市立第壱中学校。蒼茫と広がる空の下、歓声と嬌声が時折り山間に木霊していた。燦々と降り注ぐ午後の日 差しを浴びながら校内のプールでの授業を楽しんでいるのは、3−Aの女子生徒達だった。咎めるように響く教師のホイ ッスルの音を掻い潜るようにじゃれ合う少女達。校庭に面したプールサイドで、ひと際大きな水音があがった。
「――あ…ん」
濡れそぼった頭を上げると陽射しの中でプラチナブルーが零れるような煌めきを放った。虚を突かれた表情の向こうに は、プールの中から悪戯っぽい笑みを投げ掛ける赤毛の少女がいた。
「目、覚めたでしょ?」 「……もおっ、アスカったら」 「だって、何度声掛けても反応しないんだモン」 「え? 何度もって…?」 「ふーんだ。どうせバカシンジの事でも考えてたんでしょ」 「…な、何を言うのよ」 「当たりね。ところで、そこから早く離脱したほうがいいわよ。バカなオトコどもの視線の餌食になってるわよ」
え? とレイがあげた声に重なるように、校庭の方からクシャミが高らかに響いた。ゆっくり顔を校庭に向けたレイに 反応するように、校庭からプールに釘付けとなっていた一団がどよめいた。
――おおっ、綾波がこっち向いたぞ! ――か、かわいい……。 ――なんで…あれが全部碇のもんなんだ? 得心せん! ――レイちゃん……。 ――ハァハァ。 ――あ綾波の胸…綾波の太もも…ああ綾波のふくらはぎ(壊)〜。 ――お前、成長しないよな……。 「ほらね。男って、バカでスケベばっかなのよ」 「碇くんはバカでスケベじゃないわ」 「そーかしら。アンタのこと、一番熱い目で見てんじゃないの?」
いま一度視線を校庭に戻したレイとモロに視線が合ったシンジは、忽ちの内に顔を茹で上げると運動場の方に顔を背け てしまった。
「…………」 「でしょ?」 「……いつもの碇くんだわ」 「そんじゃ、バカシンジいつもアンタをそんな目で見てるってことね」 「そんなこと、無い、と思う」 「相変わらずおめでたいわね。知らないわよ。今夜のオカズになったって」 「……おかず?」
体育座りをしながら小首を傾げたレイに、フッと頬を緩めると、アスカは懸垂の要領で勢いよくプールの中から身体を 持ちあげた。水着から弾け出た水で焼けたプールサイドに一瞬の染みを作りつつ、校庭に面したフェンス際まで泰然とした 物腰で歩を進めると、両手を腰に据えたいつものポーズで運動場を睥睨した。 とたんにその欲望同様に黒い塊となっていた男子達から、おおおおーと歓声混じりのどよめきが地鳴りとなって校庭に 走った。校庭にいる男子達からは見上げるような高低差のあるプール故、その肢体を望むアングルがこれまた効いた。二 年の時から発動して久しい下僕の会のメンバー達は、一様に鼻から血煙りの花を咲かせてもんどり打った。鬼神のダッシ ュで校舎に駆けていったケンスケは、カメラを取りに行ったのだろう。トウジに至っては、惣流性格は直らへんけど、ほ んまええボデーや、ええのーええのーと、いまや可変型となった鼻の下を極限まで伸ばしている。
「ちょっと、何? あの男子ども」 「鈴原のいやらしい目つき、サードインパクト前より酷くなってない!?」
騒然とした校庭の様子に、他の女子生徒達も集まってきた。鈴原という名を聞き、どうしたの? とやって来たヒカリ も顔を激しくモディファイさせたトウジに瞬間沸騰機よろしく激しくキレた。
やれやれだわ。みーんな一年前と何にも変ってないんだわ、と一人孤高の女王の如くこの一年でより女性らしくなった 肢体を晒していたアスカだったが、校庭からやんわりとした視線を向けている一人の少年に気付くと、途端に全身を凝固 させた。
「……アスカ?」 「な、なによ? レイ」 「どうかした? 顔が赤いわ」 「う、うっさいわねー。プールから上がって暑いからよ!」 「そう」 「…レイ、ちょっと」
人が変ったように、モジッと手で胸などを隠すようにして、ツツツとレイの隣に座り込んだアスカは、レイに倣って体 育座りの体勢に落ち着かせた。
「何?」 「あさってのお祭り、どうすんの? バカシンジと何か話した?」 「うん」 「何時に行くの?」 「時間はまだ話してないわ」 「そう。なら、一緒に行かない? アタシもカヲルと行く事になってんだけど…」 「渚君、と?」 「そう。カヲルとよ。って、何度も言わせないでよ、もお!」 「…ごめんなさい」 「い、いや、別に、そんな素直に謝られると何だかチョーシ狂うんだけどぉ…まあ、いいわ。…いずれにしても時間は今 晩決めちゃわない? アタシんとこでさ、って言ってもお隣だもんね」 「問題無いわ。……それより、アスカ」 「な、何よ?」 「早くプールに入った方がいいと、思う。まだ顔が赤いもの」
∞ ∞ ∞
蒼く高い空にたゆたうちぎれ雲。降りそそぐ陽射しに、白く薄められていく午後。呼応するように幾重にも広がった蝉 時雨が夏色をいっそう濃いものにしている。 5時限目の終わりを告げるスクールベルが鳴り終わったとき、3−Aの教室の窓辺に座っている少女は、その髪を陽に 梳かれながら、静かに校庭を眺めていた。そんないつものひと時にブレイクが掛けられたのは、クラスメートの話題に登 場した言葉が、今瞬間レイの頭の中を占めていたそれと一致したからだ。
――ねえねえ、朋子。週末のお祭り石川君と一緒ってホント? ――へへへー、ホント。 ――えーっ、いっつの間にー!? ――二週間ほど前。勇気出してコクッたんだ。 ――あー悔しい。あたし唾つけようと思ってたのにぃ。 ――だめよ。もう遅いわ。この夏祭りでキメようと思ってんだから。 ――え!? もうそんなとこまでいっちゃってんの? ――何考えてんのよ…キスよ、キ・ス。かわいい浴衣まで揃えて準備万端なんだから。 ――そう言いながら、どーせお泊まりセット持参で行くんでしょ? でも、いいなー。ね、ね、余ったら分けてねっ。 ――何言ってんのよ…あんた。
少女たちが交わす会話の大半をレイは理解できない。それでも、その心に滴るように印象を深くした言葉たち。
(……お祭り……ゆかた? きす?)
……浴衣。木綿で作ったひとえの着物。入浴後や夏季に着るモノ。……だから、おふろに入ってからそれを着て夏祭り に行くのね。 ……キス。接吻。口づけ。恋人若しくは好意を持った者同士が唇を使用して行う愛情表現。……それが夏祭りにどう関 係しているのだろう。……解らない。……夏祭りでキメるって何? 何か重要なことでも決定するのだろうか……浴衣を 着て……でもどうして、キス…なの?
「――ねえねえ綾波さん」
意識を戻したレイの横に立っているのは、今の今まで夏祭りを話題に花を咲かせていたクラスメート達だった。
「何?」 「綾波さんも週末のお祭りは当然行くわよね?」 「ええ」 「やっぱ…碇くんと一緒?」 「うん」
小さくキャッと反応した二人の少女に、レイは? を咲かせて小首を傾げた。 やっぱりー、ほら朋子言った通りでしょ? だめよアキ最後まで諦めちゃ。
「綾波さんね、あたし達もあさって行くんだけどぉ……その、会場でね、少しだけ碇くん借りちゃっても…い――」
ダメ! と意外にも強い口調で拒絶の言葉を発したレイに少し後ずさった二人。
「……碇くんとは、ずっと、一緒だもの」 「ご、ごめんね。綾波さん。い、今言ったこと気にしないでね」
ほらあ朋子、綾波さん怒らせちゃったじゃないー。何よ、アキの願いを叶えてあげようと思ってあたしは、などと言葉 を曳きながら、レイの少し濃くなった紅い視線から逃げるように自分たちの席に二人は戻っていった。 二人の背中に視線を向けていたレイは、二人を睨み据えている訳ではなかった。浴衣とキスの因果関係について聞くに 聞けない胸の内を知るものは学び舎の中には誰一人としていなかった。
∞ ∞ ∞
コンフォート17。その敷地内の樹木が長い影を曳きだした夕間暮れに近いひととき。置き忘れられ大地の澱となった 熱気が、間延びしたチャイムの音を従え、東の空に顔を覗かせはじめた宵闇に吸い込まれていく。 「綾波、良く来たね。さ、上がってよ」 「うん」
インターフォンの音に、エプロンで手を拭いながらパタパタと小走りに出迎える主夫モードのシンジが、満面の笑みで レイを出迎える。そんなシンジにとろけるような微笑で応えるレイ。
「ごはん、もう少ししたら出来るから、お茶でも飲んで待っててよ」 「うん。…碇くん、アスカは?」 「何か、さっきからずっと電話してるよ。多分カヲルくんとだと思うんだけど」 「……そう。アスカ、今日は明後日のお祭りの打ち合わせをしたいって言ってた」 「日本の祭りって初めてだからかな? なんだかアスカ張りきってるんだ」
破顔一笑のシンジ。緊張気味にレイの手を取り、ダイニングへと導く姿はまるで新婚愛妻家の主夫のそれ。サードイン パクトを乗り越えて、牛歩的ではあるものの着実に育みを見せている二人の関係。何かを確認するかのように、どちらか らともなく手を繋ぎ始めたのはごく最近になってからのことだった。 (……碇くんの手。……温かい) (……安心…する) (……胸の中が満たされていく……これは)
シンジの手を握る毎に、レイの内奥に溢れ出てくるシーン。それは、過去の記憶にリンクされているものも少なくなか った。
……初めて触れた時は、何も感じなかった。 ……2度目は、少し気持ち悪かった。 ……3度目は、暖かかった。スーツを通して碇くんの体温が伝わって来た。
シンジの手を握るレイの中に広がる小宇宙。 非常用ハッチから月明かりと共に笑顔を零した少年の頬は涙で濡れている。その少年に半身を預け、夜空にたゆたう月 への暗夜行。ふたりで歩いていこう、いっしょに生きようと言ってくれた言葉。レイにとって、それは鍵になった。
……4度目は、嬉しかった。私を心配してくれる碇くんの手が。
夜を徹した起動実験明けに、ひょっこりアパートに現れた少年。心配そうに私を見つめる瞳。労わりの声を残し早々に 辞する様子を見せた少年にかけた自分らしくない言葉。そのとき…私は何を思ったのだろう……。 いつかの食事の後で碇司令に買って貰ったリーフティーとティーサーバー。慣れない作業に火傷を負った私に、隣の部 屋から様子を窺っていたのだろう、その少年は慌てて飛んできた。手の上を奔る水。チラと目を向けた直ぐ隣には、見た 事もないくらいに心配そうな表情を貼りつけた少年がいた。私は……嬉しかったのだろう、と思う。
……5度目。初号機から還って来た少年と散策した庭園。
……もう…一度、触れてもいい?
柔かい陽射しが降りたつ中、何かを確かめるように握られたふたりの手。 自分から口にするとは思えない願い。5度目…この時、私はどう思ったのだろう……。
そしてその数日後、……私は消えた。第16使徒アルミサエルとの戦いで。
記憶の引き出しには存在しないそのときの出来事。碇くんは、使徒からの浸食を受ける私を助けるために出動したという。 だが零号機との生体融合を進めた使徒は、私の想いのままに、碇くんとの融合を求めて初号機に襲いかかった。
『あれは私の心? 碇くんといっしょになりたい』
記録の中でのみ確認することができる、私が遺した言葉。
私は、碇くんを助けるために、ATフィールドを反転し使徒との生体融合を一気に進めた。そして、躊躇なく引かれた 自爆シークエンスのレバー……。
……そのとき。……そのとき私は、どんな想いだったの? ……何を、考えていたの? ……そして……怖くは、無かったの?
……だって、私は3人目。……その事は知ってるけど………覚えてはいない。
……もし同じ状況にあったとしたら、私にも出来る? ……私は、怖い。……碇くんと、離れることが。……もう話せない事が。……二度と触れ合えない事が。……笑顔を見 れない事が。 ……それら全ての想いを超えて、碇くんを護り切り、そして消えていった二人目の私。 ……そんな二人目の私が、孤独な戦いの中で希求していたモノ……絆。
……碇くんと、どんな……どれほどの……絆、があったの?
シンジの手を握るレイの手に力が籠められたのに、えっとレイを振り返ったシンジ。それまでいつも通りフワフワとシ ンジの後を付いてきていたレイが、足を止め顔をやや俯かせている。
「どうしたの、綾波?」 「……………」 「あ、あや――」
俄かに心配そうな表情を浮かべ、レイの顔を覗き込むように伺うシンジ。 シンジのレイを気遣う表情。記憶の中と同じ顔だ、とレイは思った。
「……なんでも、ない」
レイの心象をよそに、シンジに向けられたレイのやや憂えた表情を息がかかるほど間近で見るにあたっては、シンジは 思春期の少年として標準的な反応を示していた。
「ちょっとぉ、廊下でべたべたしないでくれる?」
!
踊るように飛び上がったシンジが振り返った先には、惣流・アスカ・ラングレーが携帯端末を片手に呆れ顔を添えて立 っていた。
「な、何だよそれ。何言ってんだよ、アスカ」 「あーら、見たままの事を言ったまでよ。相変わらず仲のおよろしい事で」 「…な、何を言うのよ」 「ま、取り敢えずコッチの話は終わったんでぇ、早いとこゴハン食べながら明後日の打ち合わせしましょ」携帯端末をビ シッとシンジの目の前にかざすアスカ。「それと…スープの寸胴もうじき吹くわよ、バカシンジ」
うわわわわー、と第10使徒を受け止めに行くかのようなダッシュを見せキッチンに消えたシンジ。直後、間欠泉が吹 きあがるような音にシンジの奇声が隣室に木霊した。 「……レイ」 「な、なに?」 「……あんた、また気にしてんじゃないでしょうね?」 「…………そんなこと、ない」
再び顔を俯かせたレイを覗きこむような素振りを見せたアスカ。フッと溜め息を漏らすと、拗ねた妹の手を曳く姉のよ うな表情を浮かべた。
「ま、いーわ。さ、ごはんごはん。あの様子じゃもう少し掛りそうだけど、行きましょ」 「……うん」
ダイニングに入るや、ポタージュスープの甘い香りが鼻腔を突いた。焦げた臭いを予想していたアスカの視線の先では、 いままさしくパン粉の衣から溶き卵を滲ませた豚肉が油の中に流し込まれようとしていた。
ヴィーナーシュニッツエル!
アスカの絶対境界線はいともあっさり突破した。シンジィ、解ってるぅ! と俄かに冷蔵庫の中を掻き回し始めたアスカ。 若しかしてまたサワーでも探しているのだろうか。嫌な予感を振り払いつつ、手を止めずに首だけ回して、自分の背中に 視線を落とすレイを優しげに見遣ったシンジ。
「綾波にはさ、白身のお魚を揚げてあげるからね。これだったら大丈夫だよね」 「うん」 「シンジィ、ところで今日ミサトは、真っすぐ帰ってくんの?」 「うん、だと思うよ。特に連絡ないから。それより、綾波もアスカも座ってよ。スープ出来たからさ」
あーい、と子供のようにどっかとダイニングの椅子に腰を落としたアスカの手には、雑誌と一緒に何やらアルコール飲 料っぽい缶が握られている。
「アスカ」 「なによバカシンジ」 「それ、お酒だよね」 「折角のカツレツなんだもん。これが無いとね。でもノンアルコールよ」
何をおっさんみたいな事を、とブツブツ呟きながら、さっそくチューハイ缶らしきプルタブを引いて雑誌を開いたアスカ の前に、シンジはじゃがいものポタージュスープをサーブした。
「はい。僕はメインの準備を済ませちゃうんで先に食べててよ、綾波」
ニコッと笑顔を添えてスープ皿をレイのランチョンマットにコトリと載せたが、レイの紅い視線はアスカが頁を繰り始 めた雑誌の表紙から動こうとはしない。
「…綾波?」 「……浴衣」 「浴衣?」
紅い視線の先では、情報誌の表紙を浴衣姿にしっとりとした笑顔を浮かべた女性が飾っている。
……綾波どうしたんだろう、こんなに真剣な表情で。…浴衣に興味があるのかな? どこかで気に入った浴衣を見つけ たのかな? でも…綾波に浴衣って…似合いそうだ。見てみたい…気がする。
「…あっ、あの綾波さ――」 「アスカ」 「ん、なあにー、レイ?」雑誌の記事に大方の意識を吸われているせいか、もひとつ反応の薄いアスカ。 「浴衣だと…どうしてキス、なの?」 「「は…あ?」」 「浴衣だと…どうしてキス、なの?」 「ちょ、ちょっと、あんた、何言ってんのよ。なんで浴衣とキ、キスが関係あんのよ。わっけ解んないこと言わないでよ」
何故か少し頬を染めたアスカは、チューハイ缶をぐいとあおった。
「…キス、キスは? …キスしたことある、アスカ?」
瞬時に凍り付いたシンジの向かいで、激しくむせるアスカ。だ、大丈夫、と辛うじて声をかけたシンジに意味有り気な 一瞥を送ったアスカに、その心は永久凍土の中へと押し込まれたような気がした。
「バッ、バカなこと聞かないでよ! あたしだってキスの一つや二つ」
湧き立つように持ち上がったのは甘酸っぱい果実のようなイメージだった。張り詰めた空気の中、スープの甘い香りに 重なった。
「……する時間なんてある筈無かったじゃない! ま、大事にとっとくわよ。あたしのファーストキスは」
…そう、とレイは静かにシンジに視線を移した。途端に顔を引き攣らせ、ええっ! ぼ僕!? とウニを踏んづけたよ うに仰け反ったシンジ。真っ直ぐ向けられるレイのどこまでも清冽な紅に、身体は徐々に硬直度を増していった。必死に 作った皮相な笑顔は、まるで引き攣った茶坊主そのものであった。 「……ぼぼ僕は……」
逃げ道を求めるように、目だけを向けた視界の中で、アスカはその表情に冷厳さを滲ませた。
「……ぼ…ぼ僕は……」
突如、その場を二つに裂くように鳴り響いたチャイムの音。一瞬のチャンスを逃がすアスカではなかった。
「…レイ、悪いけど出てくれる? たぶんミサトだわ。またお酒かなんか抱えてると思うから」 「…う…ん」
スッと立ち上がると、レイは名残惜しげな一瞥をシンジに落として、ダイニングを後にした。
レイが廊下の向こうに消えるまで、セールスマンのような笑顔を貼りつけていたアスカ。はあー、と吸った息を全部吐 き出すように上半身をテーブルの天板に沈めると、底光りする目から深碧の視線をいまだ解凍中のシンジに差し込んだ。
「……あんた」 「え? な何、アスカ」 「ダメだからね。余計なこと言っちゃあ」 「う、うん。……でも、あの目でジッと見られると――」 「あんたバァカー!? 何でもかんでもバカ正直に言えばいいってもんじゃないわよ。このお子様がっ!」 「……うん」 「それに…アレは事故みたいなモンよ。あたしもフツーじゃ無かったし、あんたもそうだったでしょ?」 「ぼ、僕は………アスカ、そうだったんだ……」 「そ。だから、あれは胸の中……」 「え、何?」 「…何でも無いわよ。忘れるのよ」
だからあんた……お子様、なのよ……。
想定外とも言えるレイの問い。その本意は何だったのだろう? どこかで耳にしたのであろう『浴衣』そして『キス』 という二つの言葉。その経緯を知らないが故に、明快に答えてあげる事は出来なかったが、大方明後日の祭りについて話 し込んでいるクラスメートから仕入れたものなんだろうと、少し冷静になった今はそう思う。それが、どういう心象の展 開があって『キスしたことある?』になったのかについては、自分の理解は及ばないけれど……。
(……レイ、やっぱり気にしているのかな……) (……そして、そのことと関係があるのかもしれない――)
「……そ、それとさ、アスカ」
遊離しかけていた意識が、クローズしたばかりの弱々しい声に引き戻される。焦点を合わせた先には、路頭にさまよう 子供さながらの表情を浮かべるシンジがいた。
「何よ」 「じ、実はさ……」 「だから何よ、聞こえないっての」 「だ、だからさ……………」 「え!? …………って?」 「そ、それで……………」 「あ、あんたって」
両手でテーブルの天板が外れるほどの勢いで叩き、身を起こしたアスカ。仔犬のようにシンジは小さな鳴き声と共に身 体を跳ね上がらせた。
「さいってい!!」 「どしたのー? 誰が最低って?」 「ミ「ミサト」さん!」
いつからいたのか、ダイニングの入り口ではミサトがにこやかな表情を浮かべて立っている。にこやかなのは、両手に 提げた一升瓶によるものか。ミサトの陰にちょんと佇むレイもワインのボトルを愛しげに胸に抱いていた。
「やーだ、シンちゃんたら、まったアスカに怒られるような事したのー?」 「ええ!? な何を、ミサトさん。や、止めてくださいよ……あ綾波が誤解するじゃないですか」 「へへー。シンちゃんの場合、誤解でないことも多分にあるもんね。まっ、お話はここまでにして、ゴハンにしましょ。 いい匂いもしてる事だしぃ」
チラとレイを見遣ったシンジの視線の先で、ワインのボトルを花束のように抱えて小首を傾げるレイがいた。
「あ、綾波もご飯にしようね」 「うん」 「シンちゃん、すっごおーい。岩牡蠣がてんこ盛り!」 「ちょっと、ミサト、うっさいわよ」 「いーじゃない、アスカ。少しくらい騒いだって。こんな妙齢の美女がこき使われて疲弊しきって辿り着いた我が家なのよー」 「ミサトさんお気に入りの仙台産です。あっ、ビールでいいですか?」 「何てたって、岩牡蠣なのよ。白ワインにするわ。こんな日もあろうかと思って取ってたヤツがあんのよー。ロワールの サンセール。へっへー。いい塩梅に冷えてる筈なのよねー」 「ミサトの冷蔵庫ってアルコールばっか」 「なによ。そう言いながらアスカも飲んでんじゃないのよ」 「はいはい。ミサトさんもアスカもその辺りにして」
ミサトの岩牡蠣のだんじり盛りオンザロックに続いて、フライドポテトの山を添えたメインをサーブされると流石の アスカも大人しくなった。感涙を眦に滲ませながら食を進める二人を傍らに、向かい合った席で同じプレートを静かにい ただくシンジとレイ。
あ、綾波、固くないかな? うん。 あ、綾波、口に合うかな? うん。 あ、綾波、美味しいかな? うん、美味しい、碇くん……。
とろけるような笑顔で応えるレイを前に、シンジもとろけた。
(あ、綾波、かわいい、や。ずっと、こうしていたい。綾波さえよければ。ずっとずっと、一緒にいて、いろんな時間を 一緒に過ごして。そう、普通の時間なんだ。出来れば穏やかな時間を。そして、いつか……。いつの日にか――)
「シンちゃーん、パンも頂戴ー」 はいはい。 「シンジぃ、ザワークラウトも!」 はいはい、のはいです。
僕も、ずっとずっと主夫なんだらうか、と考えていたシンジの頭上に思わぬ言葉が降りかかってきた。
「え? 浴衣?」 「そ。浴衣よ、ゆ・か・た。キョーミあるでしょ?」
既に満杯となった殻入れに牡蠣の殻をバランスよく積み上げながら、嬉しそうにミサトは続けた。 「リツコがね。準備してくれてるみたいなのよ。記念すべき第一回第3新東京市でのお祭りだからって。やっと手に掴ん だ平和な日常を祝して、旧世紀に日本の至る所でやっていたようにお祭りを楽しみましょう、てね。ネルフ職員全員に供 与されることになってんだけど、嘗てパイロットだったあなたたちの分も、当然あるわ」 「ホント、ミサト!? 一度着てみたかったのよねー。ま、アタシみたいなナイスバディには概して似合わないらしいか ら、あんまり期待はできないけどねー」話す内容とは裏腹に爛々とした双眸には覆いきれない興味と生気が溢れている。 「アスカ、そんな事無いっしょー。渚君の分もあるんだしぃ」
耳まで赤く染め、ミサトっ! と叫んだアスカを横目に、いつも通りひとり静かに妄想ワールドという湖に入水してい くシンジ。
……綾波…浴衣に興味を持ってたみたいだから、良かった。 ……でも、綾波の浴衣姿……どんなだろう……早く見てみたいや……。
「……碇くん」 「…………な、な何、綾波?」 「碇くんも…浴衣、着る?」 「う、うん」 「…だったら、わたしも」 「うん。浴衣を着て一緒に行こうよ。お祭りに」 「…うん。そしたら…キ」 「え、何?」 「……なんでも、ない」
祭りを明後日に控え、前夜祭さながらに盛り上がる葛城家。各々の想いを抱いた夜は静かに更け、いつも通り酒の肴と なった碇シンジの叫び声やら嬌声は、いっそう深くなった闇の底に吸い込まれていった。
∞ ∞ ∞
「そう、それは良かったわね」
ネルフ本部技術局一課赤木博士執務室。もはやこの部屋における生活音を構成する一つとなって久しいコーヒーメーカ ーの音がこぽこぽと部屋の中を散歩している。コーヒーだけはお気に入りの豆を買ってきて、自分で点てることはこの部 屋の主によるセカンドインパクト前からの金科玉条といえよう。サーバーからたちこめる芳ばしいアロマに、ミサトはゆ っくりと弛緩していく身体の感覚を楽しんだ。
「特にレイがね、嬉しそうにしてたわ。なんかクラスメートから浴衣の事を聞いたみたいで、興味があったんだって」 「ふふ。あの子がね……」低く唸りを上げる機器のなかで目を細めたリツコ。「それを聞くと、いやが上にもモチベーシ ョンが上がるわね。可愛いのを準備してあげなくちゃね」 「それにしても碇司令もいいとこあるわよねー。今回のお祭りの実質的な主催者はウチだもんね」 「色々と思うところがあったんじゃないの。当の本人は多くは語ろうとしないけど」 「でも、全職員に浴衣なんか配っちゃったりして」 「あら、浴衣着たいっていったの司令よ」 「げげ」
どう考えても想像できない。どんな顔して着るのだろう。色はやはり例の士官服と同じで暗ーい色なのだろうか。そし て…あのサングラスはどうするんだろう。怖いもの見たさという言葉もあるが、あまり夜出逢いたくないなぁ、などと俄 かに軽く意識を遊離させるミサト。 まあ、でも……。
「……平和になったってことよね」 「そう。取り敢えず、表向きは、ね。その為に、その維持の為に、ネルフも私達も嘗てと変わらない身分のまま、ここに 存在しているんだもの」 「そう、ね。国連直轄組織として存続が許された私達。まあ色んな思惑やら駆引きがあったんだろうけど、ネルフが有す るテクノロジーが私たちを救ってくれたようなものよね」 「そう。進歩の停滞とリスクを天秤にかけた結果が今。でも、リスクの回避にコストを考慮に入れない日本官僚国家だけ の判断だったら、私達はとうに地上から抹殺されていた」 「実利をチョイスした国際社会に感謝すべきか…」 「今はまだ何とも言えないわ。単なるテクノロジーの民間転用、第七世代有機コンピューターによる都市運用事例の転用、 といった表層的な事だけで無いのは確かね。国際社会は…もっと狡猾だもの。先の判決で首謀者としてオフィシャルに認 定されたゼーレの下部組織が地下で息を潜めている事実も動機の一つと言えるでしょうね」 「有事の際のカウンターメジャーを持たない国連が出来ることは……毒を制する毒を飼っておく事、か」 「そう、だからこそ掌の自由だけを与えることにした。とかく理解の及ばない相手は、常に檻の中に入れて監視したがる ものだもの。人間って生き物は」 「確かにね…日常生活は兎も角として、移動には相当の制限が付いているものね。第3新東京市から出るのだってそうそ う許可が降りないほどのね。……でも」ミサトは大きく伸びをしてレカロのハイバックに背中を預けた。「生きてるんだ もん。浮上するチャンスはあるわ。やっぱ感謝しなくちゃね、生体工学の泰斗たる赤木リツコ博士にね」 「あら、ミサト、大事なひとを忘れてるわ。第七世代有機コンピューターと人格移植OSについての解析を進め、先のブ リュッセル大法廷においてネルフの汚名を濯ぐに十分な客観的な挙証を実施してくれたひとを」 「……マキ」 「そう、マキ。長門マキよ。彼女のマギシステムの基礎理論を記した論文は、マギに多角的側面からとれる価値を与え、 ネルフにとって将来の道標の一つを作ってくれたわ」
∞ ∞ ∞
コンフォート17。ミサトがシンジとアスカとの共同生活を送る葛城家の隣にある2LDKが現在のレイの住まいだっ た。嘗て居住していた建設職員用団地6号棟がサードインパクトにより瓦解したときには、総務局からはジオフロント内 の社宅に住まわせる案も出たのだが、シンジから離れようとしないレイの様子を見るに堪えなくなり、ミサトが司令に直 接交渉したところ、アッサリ承認されたのだった。 家具付き物件だけに、生活感とは無縁なほどにモデルルーム然とした部屋。食器の姿も殆ど見られないダイニングボー ドには、それでもお揃いのお茶碗がふたつ並べられ、入居当初より洋食器・和食器共にその数は徐々に増えてきたのは、 頻繁にこの部屋に通う少年によるものである事は想像に難くない。 寝室には、キングサイズのベッドの他に南欧調に淡い水色で塗りこめられたワードローブが置かれているだけで、それ 以外に家具らしい家具を目にすることない。 その寝室で、レイは、制服姿のままベッドの上にぺたんと座り込み、一心にアスカから借りた情報誌に目を走らせていた。
(……だめ、やはり載っていない) (……夏祭りに浴衣、…キス)
聞き間違えなのだろうか。それとも、彼女たちは言葉で遊んでいたのだろうか?
レイは情報誌より切った視線を前方の何も無い空間に躍らせ、当時のクラスメート達の会話を思い出してみた。
(……いいえ…ふざけているような様子では無かった)
むしろ……ひたむきに、相手と何か…何かを……作ろうと――。 レイの霞の中を浮遊する意識を呼び戻すようにチャイムの音が鳴り響いた。アスカだわ、とベッドから身軽に身を躍ら せつつ、その意識はいまだ思考の淵を抜け出せないでいた。
「届いたわよ、レイ! 見て見て、浴衣よ!」 「これが…浴衣、というものなのね」
宝物を手に入れた子供のように顔を輝かせるふたりの少女。零れる笑顔には幼さが見え隠れしている。
「ええと、こっちがレイので、こっちがあたしのらしいわ」 「碇くんのは?」 「はいはい。心配しなくてもバカシンジのもちゃんとあるわよ。もーあんたって、何かと言うと次には碇くん碇くんなん だからね」 「…ごめんなさい」 「い、いや、だから、そんな素直に謝られると、やっぱチョーシ狂うんで、って……いいの、いちいち謝らなくて! ファーストは――」 「……………」 「…あ、…レ……」 「……………」 「…………ご、ごめん」
ぽとりと落とした視線の先、レイの浴衣に添えられた手が生地の感触を確かめるようにそっと動いている。 「……アスカ」 「……な、なに?」 「…わたし、変?」 「…ちょっ、な何言ってんのよ――」 「前のわたしと、違う? いまの私? ……」 「……レイ」 「……わたし、二人目と言われてた私の記憶は持ってるけれど、…でも、どんな風に感じてたか、どんな風に気持ちが反 応してたか、は解らないの……ごめんなさい」 「…やめて、レイ」 「でも、アスカも今の私を通して、二人目の私を見ていると、思う。そしてそれは…碇くんも同じ」 「…もう止めて……レイ」 「……みんなに……碇くんに、とって、二人目の私が、……綾波…レイ、なの、だと思う」 「止めてって言ってるでしょ!」
弾けたようにびくりと動いたレイの両肩をかき抱いたアスカ。その胸の中で蒼銀の髪が小刻みに震え始めた。
「……わたし時々……自分が解らなくなる……わたし、は…碇くんと一緒に居て、いいの? 碇くんの優しさを、受け止 めて、いいの? わたしへの優しさ、は…以前の私のものでは……無い…の? ……」
何て温かい涙を流すんだろうとアスカは思った。切なさの分だけ重みを増したアスカのシャツに、レイを抱く腕に想い の丈だけ気持ちを篭めたアスカ。
「……ばか言うのは止めて…レイはレイよ。あたしと…勿論シンジとも、これまで育ててきた繋がりは永遠にあんたのも んよ。それはあたし達自身が、一番良く知ってることだもん」 「……う…ん」
サードインパクトというターニングポイントを乗り越えた人類が、新しく構成された世界を手にしてから早や数ヶ月。 アスカの胸の中にいまだ鮮烈な影を落として佇む一人の少女がいた。 綾波レイ。冷厳なまでの冷静沈着さ。与えられた命令の遂行にあたっては自らの命を賭する事も厭わず、一切の人間ら しさを排除した日常を歩む先を見渡す双眸は、出会った当初より深い紅色のガラス玉を彷彿とさせた。そんな少女が、同 僚でもある一人の少年との間にいつしか芽生えさせていた絆。そして、時を重ねるにつれ、その表情に僅かではあるが変 化を見せてきた少女。本当に短い時間ではあったけれど、周りから微笑ましいと感じる姿さえ見せるようになっていた二 人は、息もつけない日常の中で、時間を惜しむように寄り添っていたように思う。そして、その少女はあの日の戦いで、 その想いのままに少年を護り、光の中にその姿を消していった。
刹那、レイの存在を確かめるように、アスカはレイを抱く腕に力を籠めた。
そして、いまアスカの腕の中で幼子のように身体を震わせている三人目と言われるレイ。二人目と同じ容姿にバックア ップされた記憶を持つ少女の心は、まるで出来たてのマシュマロ、のようだった。防護の知恵さえ持たないほどに純粋な 心は余りにも傷つき易く、モノクロの記憶と身体の奥底より湧き出すシンジへの想いとの狭間で懊悩を反芻しているのだ と思う。
(……ううん、レイ。あんたもそれと理解出来る日がきっと来る。あんた自身が周りとの関わり合いの中で育てた絆なん だもん。魂はひとつ。あんたはあんた、なんだもん……)
唯一人、その少女の心を救うことが出来る少年。その顔を思い浮かべたとき、アスカの脳裏にあるアイデアが天悠の如 く閃いた。 (……バカシンジのケジメでもあるわね)
∞ ∞ ∞
「あ、れえ? ……上手く着れないなあ……」 「シンジ君、こんな感じでどうかな?」 え? と振り返ったシンジの視界に飛び込んできたのは、その綿麻の風合いも涼しげに腕を組み佇むカヲル。やや暗げ な色調に、見る角度によって浮き上がる細かい格子が品良く映えていた。……それにしても、
カヲル君、カッコいいや。良く似合ってる。アスカが見たらどんな顔するんだろう。
「さ、シンジ君も早く着てしまおうよ。直に二人も戻ってくるからね。と、言ってる内に帰ってきたようだね」
えっ? 何も聞こえなかったけど、と応えたシンジに続いて廊下でエアロックの開放音が鳴った。どかどかと踵に踏み しだかれたフローリングが軽い悲鳴をあげた。 「――たっだいまー。あーお腹すいたー。シンジぃ、何かないー?」 「ああ、おかえり、アスカ」涼しげな笑顔の傍で、もたつくシンジはパンツ一丁だ。
キャアーッ、バカバカ変態、色魔、変質者。レディの前で何てカッコしてんのよ! と慌てて廊下に飛び出したアスカ だが、真っ赤に茹であがった理由の半分は、シンジの裸体に非ず。
「ご、ごめん……」
シンジの言葉に隠れるように、アスカは辛うじて届く声でカヲルを呼んだ。
「どうしたんだい?」
穏やかで慈しむような笑顔を正面から受け止めきれず、知れず視線を泳がせてしまったアスカ。
「…い、いや、バカシンジに話すことがあるから、悪いけど隣の部屋に行っててよ、カヲル」 「僕が一緒じゃダメなのかい?」 「レイにも関係することなのよ。あんたに聞かせるにはビミョーな部分も有るってわけ」
ふーん、と言って覗き込むようにアスカに急速接近した深紅の瞳に、思い出したように暴れだしたアスカの鼓動。ちょ、 ちょっと何を、という言葉をふわりとかわして、カヲルは左の掌をアスカの頬にぴとっとあてた。薄っすら朱に染まった 頬が見る見るトマト色に変わった。
「……君は優しいね」 「な、なにを…そ、そんなんじゃあないわよ。あたしは、ただ、折角みんな元に戻ったんだから、あの子にも当然持って るものを取り戻して欲しいだけ。毎日メソメソされたんじゃあ、こっちが堪ったもんじゃないわ!」
フンッと朱に染まった顔を逸らせた赤毛の少女を凝視したまま、ふっと脱力させた笑顔は男性のものとは思えない。
「アスカ」 「…なによ?」 「ところで似合ってる? 僕の浴衣姿?」 「……ま、まあまあね……何とか合格って感じだわ」
それは良かった、と少し両手を広げる所作をしてカヲルはアスカの脇をするりと抜けて玄関へと歩を進めた。
(……別に外に出なくてもいいのに)
ま、いっかとリビングににゅっと顔を出したアスカはいつもの顔を取り戻している。果たしてリビングにいたシンジは いまだに何やらごそごそやっていた。相変わらずのどんくささに罵倒する言葉が喉元までせり上がったがグッと押し戻す。 そんな事を言いに来たんじゃない……。
「シンジ」 「え、あ、あれ? アスカ…カヲル君と出掛けたんじゃなかったの?」 「カヲルは散歩に行ったわ。そして、あたしはあんたに話があんのよ」 「え? ぼ僕に、アスカが?」
どうしたんだろう、何なんだろう。見る見る不安に顔の陰影を濃くしたシンジ。 「単刀直入に、聞くわ。あんた、今のレイのこと、どう思ってんの?」 「ええ!? イキナリ何聞くんだよ…それに、『今の』って何さ」 「聞き方が少し悪かったわね。ぶっちゃけ……」
気圧され少し後ずさるシンジに、ずいとその分間合いを詰めるアスカ。
「あんた、今のレイを、その…自爆する前のレイと、同じだと思ってる?」 「え?」 「どう…なのよ?」 「な、なんで…そ、そんな」 「ちゃんと、答えて」 「……あ、当たり前じゃないか」 「本当にそう思っている? 実際、今のレイはさ、以前の…二人目と言われるレイと反応とか雰囲気とか違うなって思う こと無い? 命令一筋、ニコリともしないスーパー朴念仁から一転、ほんわかーって感じで、よく泣いてるし、気だって 何だかチョー弱だしね。…その、シンジは、ホントに平気なの? 以前のレイと同じ態度で接することが出来てる?」 「……正直言うとね」
一瞬浮かんだ切なげな表情をアスカは見逃さなかった。胸の前に泳がせていた掌をキュッと握り締めたアスカ。
「……戸惑うこともあったよ。予想したことと全く逆の反応を示すこともあるからね。でも、何ていうんだろ…それでも 一緒に居るとさ綾波が以前から持ってる独特の『感じ』、何て言ったらいいんだろ…調律されて心が落ち着いていくよう な感じっていうのかな……ああ綾波だなぁって思うんだ。それに、笑ったときに出てくる、ふわっとした雰囲気なんかは さ、間違いなく綾波だよ。それに…」
匂い、と言いかけて崖っぷちでシンジは辛うじて踏みとどまった。先日もアスカには『さいっていっ』と罵倒されたば かりだ。続く言葉を聞くまでも無いといった風情で、そう、と呟くとアスカは腕を組んだまま人差し指をあごに当て沈思 黙考に浸る気配を見せた。
「レイね、不安がってるのよ」 「え?」 「……偶にね、自分が誰だか解らなくなるんだって。シンジの優しさは、今の自分ではなくて、二人目の自分に対しての ものじゃないのって、思い込んでるのよ」 「そんな……綾波は綾波じゃないか!」 「……絆」 「……え?」 「…その手にあるのに見えてないんだと、思う。だから、あんたとの絆は二人目とのものなんだって…あの子は思ってん だと、思う」 「……そんな」
綾波…と呟いて顔を俯かせてしまったシンジ。そんなシンジにつられるように沈下する気持ちを感じたアスカだったが、 俄かに決然とした色を顔に刻ませるや、静かにシンジに向き直った。この世にこの少年唯ひとりなのだ。
「あんたが思い出させるのよ」 「え? …でもどうやって」 「いい方法が、あんのよ」
シンジに据えられた強い蒼に間合いを詰められ、反射的に後ずさったシンジ。が、ちょっと聞きなさいよ、と耳を引っ 張られ、そのままその方法とやらをシンジは流し込まれた。
「ええ!? そうなの?」 「このアタシが言ってんの! 間違いないわ」 「で、でも……そんなの」 「どんだけ四方山話を積んだところで現状は変わんないわ。あんた…レイがこのまま苦しんでってもいいって言うの?」 「そ、そんなことは……」 「なら決定ね。それに、これは同時にあんた自身のけじめ、でもあんのよ」 「へ? …けじめ?」 「そう。あんた、あたしにずっと最低男って言われたくないでしょ?」 「いやあの、それは…でも」
びしっとシンジの目前に突きだした手でシンジの言葉を遮ったアスカ。頬を緩めて湛えた女神のような表情はシンジか ら見えてはいなかった。
「頼んだわよ。それとさっきの話だけど、大事なのはその時間絶対にレイから離れない事よ。これは忘れちゃダメよ、バ カシンジ」
∞ ∞ ∞
控えめなノックの音に続いて、すーと引かれたドア。カヲルが足を踏み入れた部屋の奥に位置するベッドの上に、果た してレイはいた。制服姿のまま、身体を丸め浴衣を大切そうに胸に抱き、静かな寝息を立てていた。陶磁器のような白い 頬に涙の跡を残して。
「……綾波レイ」
空気も揺れない溜め息を吐いたカヲルは、静かに傍らの椅子に腰を落とした。
「まだ構成されて間もないけれど、この世界は……今は、君にとって、少し辛いかもしれないね」 「でも、安心しているといい……ここではシンジ君が傍にいるからね」 「少しずつ…そう、少しずつ覚醒していけばいい」
払暁があまねく世界から陰影を薄めていくように。陽春に、凍て付いた大地が少しずつその内包した生命に脈動を通わ せていくように。
「魂はひとつ…そこに刻まれたものが消えることは無いからね」
ただ、みんな思い出せないだけなんだ。 そして、それを思い出すために懸命に生きている。 いつか来るその日を信じて。
「人を愛すること……その尊さを教えてくれたのも、君だったね」 「その意味を、誰よりもよく知っている」
……君は……本当に変わらないね……。
……ねえ、リリス。
∞ ∞ ∞
角を曲がると、会場へと続く参道の両側に色とりどりの露店が並んでいた。わあ、と感嘆の声をあげたアスカがレイの 手を曳き小走りで駆けだした。
「ちょ、ちょっと、アスカ。下駄なんだからさ。気を付けてよ」 「うっさいわねー。解ってるわよ。あっ、あれ何? レイ、行こっ」
カラコロと小気味の良い音を残し、次々に露店をひやかす姿はまるで仲の良い姉妹にも見える。ドイツで育ったアスカ は当然の事、レイにしたって中学に編入するまでネルフから一歩も外の世界に出た事が無かったのだから、二人の少女に とっては目にするもの全てが新しく、物見遊山となるのも仕方が無かった。かく考えるシンジも、嘗て世話になっていた 先生のところで、地元の祭りや縁日に数えるほどしか行った記憶が無く、興味が先に湧き立つのだった。カヲル君はどう なんだろう? としんがりで雪駄に砂利を噛ませているカヲルを見返ったところで、進行方向から耳を引っ張るようなア スカの声が飛んできた。 シンジぃ、たいへんたいへん、と呼ばれた射的屋の露店には、初号機のぬいぐるみが『特賞』のタグをぶら提げ棚の上 に鎮座していた。何で弐号機が無いのよ、と店主に詰め寄りつつもコルクの弾を買ったアスカは、一般人が見れば驚くく らい手慣れた銃捌きで、テーブルを使わずに立射の体勢を組み立てていく。背筋が凛と伸びた姿は美しい。が、それ以上 にその少女の健康的な肢体をしおらしげに包む淡い紅に染めぬかれた浴衣が赤毛の少女の美麗さを際立たせていた。淡く 縁取られたヒマワリの柄にマッチした少女の可憐さと、堂に入った射撃体勢が与えるミスマッチさが理由も無くアスカら しいとシンジは感じた。 スッとアスカから横に逸らせた視線の先には、祈るように両手を胸の前で組み、上気した顔をアスカに向けているレイ がいる。その清冽な中にも温かみのある表情が滲む横顔からズームアウトすると露わになった浴衣姿。ネルフで誰がチョ イスしたのかは解らないが、その浴衣は途轍もなくレイのイメージに合致していた。インディゴに染められた生地に淡い カスミソウが見目良く咲いている。 ネルフの団扇を手にいつになくはしゃいでいるように見えるレイに、こんな日常を持つことを夢想していた嘗ての日々 に想いを馳せた。普通の生活の営みに喜怒哀楽を重ね、時を過ごしていく。サードインパクトを越えてこの手に掴んだこ の世界で。 失いたくない、手放したくない。一方で、アスカから聞くにいたったレイが抱えているという不安要素。四六時中いっ しょに過ごしている今の生活の中、気付いてあげる事が出来なかった自分に憤懣する側ら、何が何でも解決するんだと鈍 く光った銃身の先で沈黙を守るどこかひょうきんな初号機に誓いを立てたシンジ。何が何でも今宵の遠大な計画を――。
「……なに?」
レイに見惚れつつ意識を遊離させていたシンジは、現実世界で焦点の合ったレイの顔を直近で見るに至り、大きく心臓 を踊らせた。 「…い、いや…綾波の浴衣姿があまりにも、その…キレイだったんで」 「……あ、ありがと」
顔を再びアスカに戻したレイの頬は、空にたゆたう露店の裸電球からの光に邪魔されてはいたが、やんわり朱に染まっ ていた。シンジは、千の勇気を振り絞り、レイの白い手にソッと自らの右手を伸ばした。 「何よこれ!? ぜんっぜん当たんないじゃないのよ! ナットクいかないわ…あたしインダクションモードは得意だっ たのにぃ! カヲル、行くわよ。…ん? シンジ、あんた何やってんの?」
トリプルアクセルを舞うように飛び上がったシンジは、摘発されたチカンの如くアスカに両手を突きだし無実を主張し た。隣ではレイがそんなシンジの様子に目を瞬かせている。……シンジ、あんたまたレイにいかがわしい事を、と詰め寄 るアスカに激しくどもっては億万の言い訳を千手観音よろしく身振り手振りでふり絞ったその時、空気が弾ける間の抜け た音が頭上で弾けた。
「渚君、すごいわ」
続いたレイの声に振り返ったアスカ、そして首を伸ばしたシンジ。スラリとした立射の体勢を崩さないカヲルが構える ライフルの銃身の延長線上では初号機の縫いぐるみが倒れていた。
(な、渚君が当てたの? たった一発で? やっぱり渚君ってすごいや。…それに、カッコいいや)
「ふーん、カヲル。最後に撃ったくせにえらい美味しいとこもってくわね」
落ち着いた所作で立射の姿勢を解くと、アスカの皮相な笑みを掻き消す位に柔かな笑顔を添えて、カヲルはライフルを テーブルに戻した。 「アスカが弾筋を見せてくれたからね。ただ、残念ながら結果は伴わなかったけどね」 「え? なんで……あ」
確かに初号機は倒れてはいるが、棚から落ちてはいない。途端、窄めるように肩を落とすアスカ。
「残った一発だったんだし、まあ仕方が無いよ。リベンジしたいんだったら、お祭りが終わったあとにもう一度寄ればい い。もうそろそろ行かないと駄目だからね」
…ま、あんたにしては上出来だったけどね、と呟きつつも名残惜しそうな視線を向けるアスカの目の前を射的屋の店主 が重そうな腰を上げ、陳列棚へと歩み寄る。そして、初号機を立て直すのかと思いきや、のっしのっしとアスカに近づき、 ホレと手に持った初号機を差し出した。
「え?」 「特賞だよ。おめでとう」 「で、でも…倒れただけ、だし」 「ありゃ、完璧な射的だったよ。しかも立射たあ恐れ入った。落ちんかったのはワシの立てた位置に問題があったんじゃろ」 「で、でも……」
いいっていいって、また帰りに寄っとくんな、商品豪華にしとっからさ、と声を弾ませた主人は徐にハートマークに秘 密と殴り書きされたダンボールから目にも鮮やかな赤に染められた機体のぬいぐるみを取り出した。初号機が鎮座してい た場所に埋め込むように真紅のそれを据えると、とり囲むようにドドンと置かれた『量産型』のタグを吊るしたややグロ テスクな白い縫いぐるみに、アスカは卒倒しそうになった。 帰路、カヲルの耳を曳いたアスカがケリをつけるべく再びこの射的屋を訪れた事は言うまでも無い。
∞ ∞ ∞
「あの子たち遅いわねー、何やってんのかしら」 「どうせ物珍しさに、途中露店で捕まってんのよ。いいじゃない、何か急いでるわけじゃないんだもの」 「まーそれはそうなんだけどぉ、何か物足んないのよねぇ。シンちゃんがいないと」 「ミサト…あなた、またシンジ君を酒肴にしてるわけじゃないでしょうね」 「へっへー。たまにちょっちだけねー」
夜を薄める月の下、広場の中央に屹立する見事なやぐらを見つけては、感嘆の声が其処彼処から聞こえてくる。太鼓の 音が震わせるのは来訪者達の五臓六腑のみにあらず、今の平穏な瞬間に喜びを沁み込ませる各人の心であったかも知れな い。そんな太鼓の音に呼ばれるように広場を抜けていく夜風を感じながら、来場者の為の休憩所として設けられたテント の下では、人類が勝ち得た平和への乾杯発声を名目に、ミサトは痛飲していた。 「ところで今日、加持君は?」 「ああ、あいつはアレよ、本日のメインイベントのお手伝い、よ」 「ふふ、張り切ってんのね」 「基本的に遊ぶのが好きだかんね。大人のカッコしてるけど中身はコドモよ。今になって反動が出てんのよ」
いまやミサト専用となった200リットルもの氷水を張った桶から、本日十二本目となる『えびちゅ』の缶を引っ張り 上げるミサト。シャンパングラスに指を絡ませるリツコは、ヴィンテージ・ブリュットの湧き立つ気泡に穏やかな視線を 落としている。
「来たわよ。あの子たち」 「え、どこどこ? あっ、シンちゃーん!!」
こっちこっちと手招きする既に大虎の佇まいを見せる保護責任者に、他人の振りをしたかったがそれも叶わなかった。 あっさり拿捕されるや、シンジは蟷螂に捕らえられた蝶々のようにテントの中にアッサリと引きずり込まれた。
「シンちゃーん、駆けつけ三杯駆けつけ三杯」 「ミ、ミサトさん。もう完全に出来上がってんじゃないですか」 「まーまー、お話は後から後から、先ずはグッと、ねっ?」 「ちょ、ミミサトさん、これお酒じゃないですか。だめですよ、ぼ僕たちはまだ中学生なんだから」 「えー、いいじゃないーちょっち位ならあー」
少し目を据わらせたミサトから視線を逸らさず、冬眠前の熊に出会った要領でミサトとの間合いを徐々に開けていくシ ンジ。目の端に捕らえたアスカがキューとシャンパングラスを空けているのを見て眩暈を覚えた。カヲル君、だめだよだ めだよ止めなきゃ。僕たち明け方まで間違いなく肴に、と向き直った先ではカヲルが至高の微笑を添えてシャンパングラ スを高々と掲げていた。軽い脳震盪を乗り越えて、太鼓が震わす夜気の中、シンジはレイの姿を求めた。
「あ、あれ…綾波、何処いったんだろう? トイレ…かな?」
今の今まで一緒にいた少女。それも夜目にも映えるプラチナブルーの髪が印象的な少女を見つけ出すまでには、さほど 時間を必要とはしなかった。しかし、その少女は一人では無く、ネルフ関係者が集まる反対側のゲストコーナーで、同じ く浴衣姿も艶やかな少女たちの輪の中にいた。
「…綾波さん、綺麗」 「とってもかわいいわー、ちょっと反則よお」 「……神様は不公平だと思う」 「やっぱ碇君にアタックしても無駄かぁ」
二年生の時に比べると、雰囲気は柔かくなったものの、概して口数は少なくその整った容姿もあり近寄りがたい存在だ ったのだろう。……こんばんわ、と突然声をかけてきたレイに対し、一様に驚きを露わにしたものの、一瞬後にはクラス メートである少女達の言葉は洪水となってレイに押し寄せることとなった。
「綾波さん、やっぱ今日は碇君と一緒なの?」 「…うん」 「じゃあさ、今日は最後まで二人で、いるの?」 「…うん」 「そしたら…今晩、キメちゃうんだ…」 「…うん」 「ね、ね、若しかして…初めて?」 「…うん」 「…ちゃんと、持ってる?」 「…うん」
ゲストコーナーから吹き出した絹を裂いたような少女達の嬌声に、ネルフ関係者をはじめ、中でもおじさん達の視線が 集まる。 色とりどりに咲き乱れるお花畑の中にいるようなレイの表情は柔らかだったが、数メートル離れたところで別グループ の集団に紛れて間諜よろしく地獄耳をそばだてていたシンジは、先ほどから漏れ聞こえてくる内容に凍り付いていた。 相槌を打つレイも恐らくは殆どを理解してはいないだろう。だが、しかし、それにしてもその内容はキワド過ぎた。週 明け学校で見えるであろうシチュエーションに天地も覚束ない程の眩暈を覚えた。 ……綾波ぃ…それは、とてもとてもマズイよお。
目前のクラスメート達と交わした会話の内容は殆ど理解することは出来なかったが、肯定的に受け流すことで彼女達と の間の雰囲気がいつになく暖かなものに変わったとレイは感じた。
(……チャンス、だわ)
先日より頭の縁に澱のようにこびり付いて離れないコトバ達。『浴衣』と『キス』そして何かを『キメる』ということ。 今なら聞くことが出来る。正しい解答を手に入れる事が出来る、とレイは思った。 わずか数メートル後方で懊悩にもんどり打つ少年の心象など露知らず、ただクラスメートに問いかけるタイミングを計 る自分に何かしら違和感を感じてはいるものの、今はその答えだけを欲していた。
「あ、いけない。あたし、そろそろ行かなくちゃ」 「ホントだ。もうこんな時間。……うっうっ、悲しいけどあたしはこの先一人なのね」 「なに大げさな事言ってんのよ、アキ。まだ十時まで二時間近くあるのよ。頑張って!」 「うん。朋子もね。トンビに油揚げ持ってかれないように注意してよ」 「そんなヘタは打たないわ。何としてでも、今日をふたりにとって忘れることの出来ない日にするの。……この思い出を あたし達の絆にするの」 「いいなー。でも別の意味でも気を付けてよ。最後に傷つくのは女の子の方なんだから……」
胸の前で可愛くガッツポーズを作る少女の脇に控えるお泊まりセットの紙袋を横目にもう一人の少女は心底羨ましそう な表情を滲ませている。
「あら、綾波さん。もういっちゃうの?」 「…ええ、みんなが待ってるから」 「うー残念、もう少しお話ししたかったのにぃ」 「なに野暮なこと言ってんのよ。碇君を待たしてんのよ」 「それじゃ、綾波さん。頑張ってねぇ! 明日……どんなだったか聞かせてね!」
ばかねーアキったら、良かったってアテられるに決まってんじゃないのよー。でも碇君だったら優しくしてくれそうよ ね…。
再び吹き上がった嬌声に、幾多の?を咲かせつつ、俄かに騒がしくなったミサトやアスカたちの集うコーナーへと足を 向けたレイ。その顔には少ない表情の中にも少しばかりの困惑を湛える色が見て取れた。
「……アスカ」
既に宴たけなわの様相を呈するネルフ組の中心にあって、その赤毛の少女は一升瓶をなみなみとカヲルの前の片口に注 いでいる最中だった。レイの声にんー? と見返ったアスカの頬は、見事な紅葉色に染め上げられていた。レイの姿を見 つけるや、にへらーと破顔させ、新しいぐい飲みをレイの前に差し出した。
「……わたし、いらない」 「なんでよ!? このアタシが注いだげるってのにぃ」 「だって、お酒臭くなるもの」 「ダイジョーブよお。問題ないわ」 「問題ある、と思う……それより、アスカ。解ったわ」 「何が?」 「浴衣だと、どうしてキスになるか」
はあ? と要領を得ないアスカに、ちょっとと耳打ちするように顔を寄せたレイ。いつも通りアスカに酒臭さは感じら れ無い。
「どう?」 「そう言えば……あんたこないだ、そんなこと言ってたわね。ま、いっじゃない、解ったんなら…それで、レイはどうし たいの?」 「わたしは……良く解らない………」 「ふーん。……でも、あんたがずっと思い悩んでいることから解放されるキッカケになるかも知れないわね」 「……わたしは」 「…レイ、よっく考えて。今のあんたには何が足りないのか」 「……………」 「レイ」 「……少しお散歩してくる」
背中に繰り返されたアスカの声を振り切ってテントを出ると、やぐらを中心に据えられた会場は浴衣姿の人で溢れかえ っていた。家族連れにカップル達が、誂えたようなそれぞれの幸福をそのシルエットに纏っている。刹那、レイの胸にチ クリとしたものが走った。 そうだ、碇くん、碇くんはどこに行ってしまったんだろう……碇くんは……。 深き紅の瞳を人波の間にさ迷わせ、意識を月夜にしだれる追憶に彷徨わせ、レイは歩く。見つめることで、触れ合うこ とで、この上ない安寧を少女に齎すことのできる唯ひとりの少年を求めて。いまは、ただ会いたい。その少年とそれほど 多くはない言葉を交わしたい。そして、その温かみを感じたかった。そんな少女の想いも虚しく、その双眸はいたずらに 人垣を縫わせるだけで少年の影さえ捕まえることは出来ない。ゆっくりと滲み始める視界。眦に暖かく溢れるものを止め る事は出来なかった。
どうしてこんなに涙が零れるのだろう。どうして胸がこれほど苦しいのだろう。……どうして、これほどにあの少年を 求めてしまうのだろう。 三人目のわたし。赤い海から還ってきた時、号泣する少年の腕の中で目を醒ましたわたし。本当に長い長い夢の中を彷 徨い、この世界に漂着したわたしは、片時でさえその少年と離れることが出来ない心をこの身体に宿していた。そんな心 を通して魂が、体中の細胞を巻き込んで、叫んでいる。 いっしょになりたい。それは二人目だったわたしの最期の言葉。だが、その二人目のわたしは、血を流すほどにその少 年を希求する自分の心に気付いても、自らの意思で消えていった。少年を守るために。そう、まるで少年を次の世に生か すために。でも……。
(……どうして、そんなことが)
…それは、
(……どうして、そんな)
…あなた自身が、
(……どうして)
…一番解っているのよ。
そう、わたしは解っている。
絆。
それがあるから、
あなたとわたしがこの世界で巡り逢えた、
互いに絶対的な存在となり得た証だったから。
それが、あるから、あなたは月夜の誓いに殉じることが出来た。
でも、わたしには、それが…無い。自分の絆が…見えない。今の碇くんが持つ綾波レイとの絆は……。
これまで怖くて言葉に出来ないことだった。認めてしまえば、総てが泡となって飛び去ってしまうのではと思った。 満たされていたものがいつの間にか気泡となり弾けて消えた。ぽっかり穴の開いた胸を塞ぐようにに両手に抱えた縫い ぐるみを添えてレイは必死になって少年のことを思い出そうとした。とめどなく溢れる涙に淡く咲いたカスミソウが滲ん で輪郭を喪った。
∞ ∞ ∞
「なんやセンセ、そないなとこで何寝転んどるんやー?」 「碇、行こうぜ。そろそろ始まっちゃうぜ」 「え? な何?」 「何って…冷たいヤツだな…青葉さんのライブに決まってるじゃないか」
口の中で小さく反復したシンジ。確かにそんなことを聞いた覚えはあるが、それ以上に気に掛かることを思い出した。 慌てて簡易ベンチの狭間に仰臥させていた身体を起こすや、滝のようなギターリフが頭上を流れ、どっと湧いた歓声が後 に続いた。
「ヤバ、始まってもたで。シンジ、行くで」 「う、うん」……でも、といった様子でぐるりと辺りを見回す。「あ、綾波は?」 「え、綾波? 今日見てないぞ」 「でも、さっきまでソコにいたんだけど……」 「センセな、そもそもセンセが知らんのにワイらが知ってるわけないやないかー。四六時中、一緒に居るくせして、シッ カリしてや」 「…う、うん」 「ライブ会場で碇を待ってんじゃないのか?」 「いや…そういうのは苦手だと思うから……ちょっと探してくるよ。悪いけど先に行っててよ」 「かまへんでー。せやけど三曲しかせえへんらしいから、あんまり遅なったら終わってまうでー」 「うん」それまでに、見つけないとダメなんだ。
じゃあ後でな、と二人が会場に小走りで向かった後、もう一度ネルフ関係者が集うコーナーに視線を向けるが、頼みと するアスカの姿は無かった。せめて手がかりだけでもとソロリと近づくも、忽ちのうちに虜囚となった。
「あら、シンちゃんたら、どこ行ってたのよー」 「シンジ君、いい度胸だわ。このコンディションのミサトに自ら近づいてくるなんてね」 「い、いや。そうじゃなくて、あ綾波、どこ行ったか知りませんか?」 「んー、レイ? どったの? いなくなったの?」 「ちょっと目を離した隙に……ア、アスカは、知りませんか?」 「そう言えば、いつのまにかアスカと渚君がいなくなってるわねぇ」 「どっかにシケこんだんじゃないのー、けしからんわあー、まっだ子供のくせにー……それよりもシンちゃん」
シンジの背中を何かがぬらりと這いあがった気がした。ゾクリと感じる間もなく激しく相好を崩したミサトが視界の中 で大写しとなった。
「オネエサンぜーんぶ解ってるんだからね! ……今日、ちゃんとキメるのよ」
ほぼ蒼白だったに違いない顔色。声を上擦らせながら、なな何をですか? と返したのが不味かった。
「シンちゃーん。何よその反応!? レイあんなに健気なのにぃ」 「シンジ君、レイの保護者として容認出来ないわ、その反応。可及的速やかに責任を取ってもらうことを要求するわ」 「せせせせ責任って?」 「んなこたあ決まってるじゃないのー、シンちゃん、何てったって無理やりレイの初めて――」 「わーーーーーーーー!!」 ラミエルの過粒子砲以来の悲鳴を上げたシンジは、一目散に駈け出した。誰か誰か、助けてよ助けてよ。 人いきれから逃げ出すように参道の奥へとシンジは走り続けた。背中を追いかける演奏の音も徐々に遠くなり、参道の 両端に茂る深い林に架けられた提灯の灯がゆるりと流れた夜風に瞬いたところで、シンジは脚を止めた。顔を上げたシン ジの視界に、穏やかな微笑を湛える少年の髪が瞬く灯火にプラチナの輝きを洩らした。
「……カヲル君」
腕を組んで背中を凛と伸ばした浴衣姿がさまになっていた。その整った顔貌に印象的な深い緋色の瞳は、時に綾波レイ とそのイメージを重ねる。
「どうしたんだい、シンジ君? こんなところで」 「…いや、綾波を探してたら…その、ここまで来ちゃって」 「レイちゃん、いなくなったのかい? そういう僕もアスカを探してるんだけどね」 「えっ? アスカもいなくなったの?」 「案外、ふたりして探検でもしているのかもしれないね。仲がいいからね」 「う、うん。でも、時間があまり、その、ないから」
ふっ、と笑顔を深くしたカヲルの深紅の双眸がシンジに差し込む。
「そうだね。あの演奏が終わるまでに探しださないと、ね。レイちゃん、他の男と一緒だったら大変な事になるからね」 「…そ、そうなんだ」どっと不安げな表情をシンジは噴出させた。 「脅かすようなこと言ってごめんよ。でも、それは君にも言えることなんだ」
え? 瞬間シンジは理解できなかったが、一拍置いてシンジの後方を見据えるカヲルの視線を追ったシンジは静かに息 を呑んだ。
「君も、もう少し自分の置かれている立場を自覚した方がいいと思うよ。演奏が終わったタイミングで他の女の子と一緒 だったら、やはり大変な事になるからね」 「で、でも…どうしたら」 「走るのさ」
刹那、眩しい笑顔を浮かべるやカヲルは脱兎の如く駆けだした。え、あ!? と洩らしたシンジも後に続く。後方から 複数の駈け出した音がシンジの鼓膜を突いた。
(…綾波……どこ? どこにいるんだ?)
∞ ∞ ∞
奥参道から更に階段を登ったさして広くもない広場のベンチにレイはひとりで座っていた。何故か奥参道の最果てに位 置するその広場にも、ぽつりぽつりと人が集まってきていた。あるものはカップルで、あるものは一人散歩を楽しむよう に。単独で行動する男は、忙しなく視線を辺りに巡らせているような気がしたが、レイの前を通る男はほぼ例外なく粘つ いた視線をレイに注ぎ、その都度レイは気弱な表情を俯かせなければならなかった。それでもレイはベンチを立つことが 出来ず、流れてくる音楽を聞くともなしに聞いていた。
(……身体が動かない) (……碇くんに会いたい…会いたい) (……でも…どんな顔をしたらいいか……解らない…わたし…)
「彼女、ひとり?」
顔を上げたレイの眦に溜まった雫がつっと頬をつたった。
「か、彼女、泣いてるの? 何かあったの?」
涙を流したレイを見てギョッとした男は、いかにも背の高い大学生風の優男だった。レイの容貌と涙を流してソコにい るシチュエーションを都合良く解釈した男は、イケル、と思ったのか、ストンと薄い尻をレイの隣に落とした。刹那、レ イのベンチの背後の林がザワッと鳴った。
(……この人、誰?) (……知らない)
手慣れた様子でレイの容貌を褒め称え、聞きもしない個人情報を露呈しつつ、ベンチの上でのレイとの距離を男は姑息 に詰めていった。ふたたび俯いたレイの肩に腕を伸ばそうとした時、派手に砂利を蹴る音がふたりの耳朶を打った。 次にレイの耳に入って来たのは、優男の悲鳴だった。ベンチの後から男の右手を捩じり上げていたのは、夜目にも白い 手だった。
「レイ、時間が無いわ。行くわよ」
ひいーひいーと右腕を擦っていた男が精一杯の三白眼を向けた先に、凛と佇む赤毛の少女。
「……アスカ」
清冽な蒼に見据えられるだけで、男は本能的に戦闘を諦めたが、アスカの女王然とした美麗なる風貌に、生来のスケコ マシ気質を発露させた。全く脈絡無く跳びかかるようにアスカにアプローチを開始した男は、果たしてモロにアスカの回 し蹴りを喰らう事となった。失神する刹那、チラと浴衣の裾から垣間見た縞々が優男の網膜を焼き、冥土への至上なる土 産となった。
「レイ、走るわよ」
アスカにぎゅっと握られた手に曳かれたレイは、夜気の中に浴衣姿を躍らせた。続いてベンチの後方から林をかき分け るように飛び出してきたヒトの気配。疑問符を浮かべる暇もなく、レイはただアスカの手の温もりに心を寄せていた。
∞ ∞ ∞
射られたように天空に据わった月の下、参道を挟む雑木林が漆黒の壁のように後方に流れていく。シンジの前方に見え る浴衣の背は先ほどから徐々に遠くなっている。雪駄とは思えないカヲルの脚の早さに、シンジは喘いだ。
「シンジ君、こっちだよ。早く」 「ま、待って、カヲル君」
曲がり角に姿を消したカヲルに、焦ったシンジが栓無くも右手を伸ばす。曲がり角の手前で縺れた脚がたたらを踏んだ が、意思の力で踏ん張り速度を維持したまま横道へと身体を進入させた。
!
突如、目の前いっぱいに広がった群青の色彩に心臓が跳ね上がった。次の瞬間、驚く暇なく顔を上げた人影に抱きつく ような体勢でぶつかっていったシンジは、首を竦めて身を固くした相手を庇うように、咄嗟に右の掌をその後頭部に回し た。シンジの左の肩口にすっぽり収まったショートカットに、ところどころに湛えられたプラチナブルーの煌めきに、倒 れ伏せる瞬間、パニックに勝る想いがシンジの中から吹き出した。辛うじて右肩を四分の一ほど回転させた動きにより、 シンジは右側の二の腕をしたたか地面に打ち付けることになったが、結果としてその少女への衝撃を最小限に抑える事に 成功した。巻き上げられた砂塵がゆっくりと夜気の中で攪拌されていく。
「……っ」 「く、くっ……あ、綾波…だ、大丈夫?」 「………う…ん」 「け、けがは無かった!? ご、ごめんよ…ごめんよ…」 レイを抱くように深く回した右腕はそのままに、今にも泣きだしそうな声のシンジ。その腕の中では、徐々に薄まる驚 きが胸の鼓動に変わっていくレイがいた。レイの髪に額を押しつけているシンジにはレイの様子は解らない。
「………碇、くん」 「あ…ご、ごめんっ」
慌てて立ち上がったシンジの顔に曳かれるように、身体を起こして視線を上げたレイ。やや見開かれた瞳に憂いの色が 広がった。
「…碇くん、右肘、血が出てる」
え? と視線を提げたシンジ。が、実際は、まだ右腕は痺れる感覚が先行し怪我の程は解らない。当然の転び方をして いるのだから仕方は無い。それよりも、見た目に少女が怪我をしなかった事実に、小さく溜め息を洩らした。
「た、大したこと無いよ。擦りむいただけだよ」照れたような笑顔を浮かべ、シンジは左手をレイに差し出した。握り返 すレイの身体をグイと引っ張り起こしたが、久しく忘れていたその軽さに改めて驚いた。「…それより、ホントにゴメン。 浴衣汚れちゃったかな?」 「大丈夫。なんとも、ない」……碇くんが、庇ってくれたもの。「それより、そのままだといけない。碇くんの肘…」
言うが早いか、そのままシンジの手を曳き側道を少し上った谷側のベンチにシンジを座らせると、道を挟んで反対側に 据え付けられた水飲み場で腰を屈めた。ビッという音に続いて蛇口を捻る音が、離れた会場から流れてくる音楽に割り込 んだ。 「碇くん…少し沁みるかもしれない」やや上目遣いにチラとシンジの顔を覗き見たレイは遠慮気味にシンジの右手を取る と右肘の患部を軽く叩く様にして付着した土を水を吸ったハンカチで取り除いていった。 シンジの目の前で微かに揺れる蒼銀の髪。ほのかに香る甘い匂い、そして俄かに上昇を始めた心拍数に、シンジは痛み を感じる暇さえ許されなかった。
(……こうして二人でいると苦しくない) (……胸の中もいつのまにか何かで満たされているような気が、する) (……どうして?) (……どうして?) (…………解らない) (……でも…いつか…いつか離ればなれになるときが来たら) (……いつか……)
想像しただけで胸が押し潰されそうだった。再び眦が熱くなってきた。 とても、目の前の少年の存在無しに、生きていけるとは思えない。 「綾波…見てごらん。とても綺麗だよ」
シンジの声が、通り過ぎる夜風のようにレイの鼓膜を振るわせた。のろのろとシンジの肘にハンカチを巻く手を止め、 レイはシンジの視線を闇夜に追った。 二人が腰掛けるベンチは、数百メートル離れた祭りの会場を俯瞰するように一望できる高台となった広場に位置していた。
…………あ。
大地に瞬く幾多もの灯火。まるで星空を大地に敷きつめたその様は、湖面に姿を映し出した天の川のようにも思えた。
「…カヲル君、どこに行っちゃったんだろう」 「……え?」 「…い、いや。僕の前を、その、走っていたから」 「……わたしは……アスカに連れてこられたの。……時間が無いって」 「…そ、そうなんだ」 「……でも、あそこで待っててって言って、山側の脇道に入っていったわ。渚君は見なかった」
刹那、夜風が山裾から下界を撫でるように吹きあがり、シンジとレイの前髪を揺らせた。
――…なさん、如何でしたかネルフの秘蔵っ子バンド『Fourth Impact』の演奏は楽しんでいただ けましたか?
「…う、うん……そうなんだ……時間は無かったんだ」
――残念ですが、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうようです。
「……え?」
――では、本日最後の曲です。
「あ、綾波と一緒にいる必要があったんだ……き今日最後の曲が終わっちゃうまでに」
――……Focus……。
「……どうして?」
――……Sylvia…。
ベンチに優しくスポットライトのような灯を落とす街灯の下、小首を傾げたレイの髪が夜風に梳かれた。プラチナブルー が夜風に浚われた。
伝えるために……まごころを。ずっとずっと一緒に…二度と離さないために。その契りを確かめるために。
「……い、いや。その……」
「……わたし……碇くんのそばにいたい」
雷に打たれたようにシンジは顔を弾かせた。
「……でも、……解らないの」 「…そ」 「……わたしの中の記憶だけで、碇くんの傍にいてもいいのかが………解らない、の」 「…そんな」 「……でも、それでも…碇くんと離ればなれになると、考えただけで、わたし……」
ぽろりと白く輝く頬に零れる一筋の雫。銀の雫がベンチの上にはじけた時、シンジの右手はレイのそれに重なっていた。 「あ、綾波……ぼ、ぼくは…ぼくは……」
俯かせた緋色の瞳がふたたびシンジの双眸に絡んだ。街灯が瞬き、レリックから紡がれた旋律が夜風に乗ってシンジに 百年分の勇気を与えた。
「あ、綾波と、一緒に……生きたい……」
断末魔のように街灯が光の飛沫を振りまいた直後、その世界はやって来た。一切の人口の光が排された世界。天空に貼 りついた月が意地悪に思えるほど小さく感じられた。下界は航空機から見下ろした黒い森さながらに、ところどころから 湧きあがった奇声嬌声が漂っている。
――…ーい。サプライズと感じる方もそうでない方もお楽しみターイム!
「……碇…くん?」
――特にカップルになり切れないそこのアナタ。今宵はこの暗闇に乗じ…いや味方につけて。
「…あ、綾波?」
――積まれてきた想いを告白するのも、突発的な恋を楽しむのも……今日は、フリーです…。
辺りに人造の構造物も無いだけに、一寸先も見えない程の暗さだった。
――『Fourth Impact』の魔法が途絶えた今、漆黒から回復するまでの、およそ五分間…どうか…。
重なり合った二人の手は、邪魔立てする漆黒を除けるように互いの腕を求め、身体を求めた。ぎこちない腕に包まれた レイの髪がシンジの頬をくすぐる。鼻腔をくすぐるレイの甘い香り。そして、心を潤すのは月夜に気付いたあの感覚だっ た。抱きしめてしまいたい欲求を薄氷の理性で押し留める腕がシンジの頭の中でぎりぎりと音を立てた。
「……綾波…いきなりこんな事して、ご、ごめん」
いまだ緩いシンジの腕の中、身じろぎする様に首を横に振ったレイ。
「で、でも…話しておかないといけない事があるんだ。あ、綾波には…嫌われるかもしれないけど」 「……碇、くん?」 「……サードインパクトが終わって、さ…紅い海から還って来た時なんだけど、覚えてるよね、綾波?」 「…うん」 「ぼくは、目が覚めるまで、本当に長い長い夢を見ていたような気がしたんだ。でも、サードインパクト直前までのこと はよく覚えてて……浜辺で目を覚ましてさ、真っ先に頭の中に出てきたのがさ……あ、綾波のこと、だったんだ」 「………」 「でも、目は覚めてんのに身体は殆ど動かなくて、それでも必死に肘をつっかえ身体を起こしてさ…辺りを見渡したら、 綾波がすぐ近くに倒れてて」 「………」 「そ、それで、慌てて綾波を起こそうとしたんだけど、身体は冷たくて、脈も感じられなくて、パニックになりかけたん だけどさ……綾波のことをずっと呼び続けてるうちに少し目を開いてくれて……嬉しくて頭の中が真っ白になって、それ で………それで…気がついたら…その、キ、キスしてたんだ……綾波、に」
目を丸くして口許を隠すように手を寄せたレイに、シンジは罪悪感に羞恥心を重ねた。
「本当にご、ごめんよ。で、でも…」 「…………」 「け、決していい加減な、その、気持じゃ無くて…」 「…………」 「二度とどこにも行ってほしくなくて…離れたくなくて……繋ぎとめていたくて…そ、その何というか…証、そう証が欲 しかったんだ」 「…………」 「な、何言ってんだろね……最低、だよね、僕って…綾波に嫌われても…仕方がないんだ……」 「……碇…くん」
不安いっぱいの表情に、精一杯に伸ばした背に誠意の文字を貼り付けたシンジ。その目前で淡く灯った深紅の瞳が、そ の潤いを深くした。
「……嫌いになる筈、ない」
刹那の間をおいて、レイはシンジの腕の中深く抱きしめられるのを感じた。夜気でさえ入る余地が無い程の一体感。身 体の全ての部位が、その定めを思い出したかのように限りなくその距離をゼロに近づけていく。
離れたくない。離したくない。現し世の身を超えるほどに求め合う魂に刻まれし記憶。ただ希求するは魂の安息。
(……そして、わたしが望むもの)
レイの胸の中に満ち満ちた温かなそれは、シンジの匂いであり温かさだった。それをレイの胸に繋ぎとめておくもの――。
炸裂音が大地を揺るがした。 反射的に身を固くした腕の中で、レイの吐息を頬に感じたシンジ。
託宣に天を仰いだ子供のように天空に向けられた四つの眸。
杳として知れない夜空に咲いた大輪の花。
霧散する灯を惜しむようにその目に焼き付けるふたりの影が、刹那その距離を縮めた。
「……碇くん…………あの、あのね――」
The End
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.40 ) |
- 日時: 2010/08/30 19:38
- 名前: JUN
- ■caluさん
ついに来た、という感じです。いやはや、流石。 相変わらずの語彙、ところどころに見られるコミカルなテイスト、やはりcaluさんです。 甘さはこの位がやはり理想ではないかと思います。素晴らしい。 本来抱くべき感想なのか分かりませんが、本来TV版、旧劇、新劇におけるレイと、自分達 二次創作を書く人間との間にある綾波との齟齬を考えさせられました。 たとえ二次創作であれ、そこにあるのが綾波と考えられるものと考えられないものがあり ますが、この作品にある“二人目”のレイも今のレイも間違いなく綾波レイであり、しか し性格としてはある程度違っているわけです。 これはどうしたことだろうと思わずにはいられない、そんな作品でした。ゲロ甘でもきち んと綾波レイ“してる”作品は作れるはず、と思ってます。というか、思ってなければ書 いてません(^^;)しかし今の僕の作品にオリジナルの匂いはあまり感じない。それは事実 です。であるならば、オリジナルとの齟齬をいかに埋めるかというのを、重大なものとし て改めて捉えるきっかけになりました。 素晴らしい作品、ありがとうございました。この作品は個人的にかなり好きです。このク オリティでゲロ甘されたらどうなるんだろうと、ふと思ってしまいました。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.41 ) |
- 日時: 2010/08/31 06:44
- 名前: tamb
- ■君に、降る、雨/naibao
なぜそのシーンが浮かぶのかレイ自身にもわからない、という漂うような不安感が秀逸。 部屋に帰ってシャワーを浴びて、着替えを済ませた後の彼女のため息が聞こえるような気が する。どうすればいいのか、どうしたいのか、彼女にもわからない。 削除された一文は切なさに繋がるので、あった方がいいかどうかは微妙なところ。 文頭禁則文字には注意を。
■キスしてくださいvol.4/JUN 古今東西、酒に酔ったレイ(酔っぱレイと称する)を扱った作品は数多い。甘えんぼになる、 大胆になる、脱ぐ、寝る、などというパターンが主流であり、マシンガントークになるという のもあったような気がする。だが酒豪であり全く酔わないというパターンは記憶にない。いや、 潰れたシンジを介抱するという話はあったかな? それはそれとしてこの話。新しい性癖への扉ってのは笑った。が、それが「ペット」を受け ているのか「にゃん」を受けているのかで大きく意味合いがことなる。異なるが、まぁどうで もいいかと思われる(笑)。
> その体勢からキスするのは不可能だ。
なんかこんな話を前に書いたような気もするが(爆)、まずおでことか頭頂部あたりにキスし て、そこから口唇を徐々にずらしてゆけば、一旦離れずとも可能なのではないだろうか(笑)。
> 「綾波、いい……?」 > 「碇くんだから、いい……」 > 「綾波…………!」
レイが「いい」というのをどの程度認識しているかという問題もあるが、ミサトさんが帰っ てくるってわかってんのに押し倒したらダメだよシンジ君。逆にいえばこの段階でミサトさん が帰ってきてくれて良かった(笑)。
■蝉時雨vol.4/JUN エロ本ネタを。 まずは友人の話。ある日学校から帰ってみると、ベッドの下に隠してあったエロ本がベッド の上にずらりと並べてあったのだそうだ。笑ってしまったと言ってた。 もうひとつ、もう紀元前かと思うほど昔の、私の話。当時つき合ってた女の子が遊びに来て、 エロ本持ってるかと聞くので持ってると答えると見せろと言われたので見せた。ぱらぱらとめ くりながら泣きそうな顔になってたような気がする。その時はキスしたんじゃなかったかなぁ。 いずれにしろ、そういう見たくないものを見たいという心理はわからん。じゃあさせてくれた りしてくれるかって言うとそういうわけにもいかないんだし。旦那や彼氏の携帯メール見るっ てのも同じだよな。このレイだって、捨て台詞なんて言うために待ってないでそのまま帰れば いいんだよな。 ま、それはそれとして 。
> ごめんなさい。巨乳じゃなくて
この捨て台詞は良い(笑)。
> いつでも見せてあげるから……
だから見せるだけじゃ済まないんだってばよw
■突撃!シンジの晩御飯!&会話のみVer/何処 古今東西、納豆の食べ方には驚異的なほど数多くのバリエーションがあり、私はマヨネーズ や砂糖くらいでは驚かない。砂糖だぜ? ネギや鰹節など完全に普通。いや、これは普通だろ。 ツユダクでなければ問題ないと思うが。いやマジで。卵も普通。納豆キムチってのも普通にあ るわな。食った事ないけど。ツユダクじゃなければいけるんじゃないかなぁ。
> 発酵にも程が有るわ√!!!
この√はなんじゃらほい。
会話のみでも特に問題なし。展開が早すぎてわかりにくいことに変わりはない(爆)。 そしてマユミとマナが出てくるとDay Tripper!!かと思ってしまうという罠w
---------- 本日ここまで!
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.42 ) |
- 日時: 2010/09/03 21:52
- 名前: tamb
- ■La tercera T - キスして、ください - /calu
『彷徨う虹』の外伝的位置付けかと思いながら読んでいるとマキさんキタコレ。だがミキち ゃんが出てこない。そしてマキさんも名前だけであった。うーむ。
作中のレイの言葉を借りるまでもなく、このレイは二人目とも、そして三人目ともかなり異 なる。だがそれでもこのレイをあのレイだと思わせる何かというのがやはりあって……ってい う話はもういいよな。ただ、シンジがレイを好きで、君はあの時の綾波で綾波は綾波だ、とい うスタンスと、君はあの時の綾波ではないのかもしれないけどでもそんなことは関係なく僕は 今の綾波が好きだ、というスタンスを深く追求すると、レイをレイたらしめる要素はどこにあ るのか、という話になる。レイはなぜレイなのか。それは実はシンジでもアスカでもミサトで も同じことで、シンジはなぜシンジなのかという問は常にそこにある。それに対する回答は、 シンジだから、という以外にない。だったら、君は綾波だから綾波なんだ、でもいいんじゃな いかと最近は思う。問題は本人にそれをどう納得させるかという部分にある。
レイがシンジにキスされて目を覚ましたのなら、まさにお姫様と王子様だけど、やっぱりレ イなんだろうなと思う。シンジにキスされて目を覚ますような奴、他に誰かいるか?
ラストのセリフの乙女具合がじつに素晴らしい。
> 「綾波さん、やっぱ今日は碇君と一緒なの?」 (大幅に中略) > 「…うん」
わけもわからずうなずくなーw
Focusはあんまり通ってないのでSylviaはピンと来なかった。聞いたら思い出したけど。
アスカとカヲルのその後が地味に気になる。やっぱ以下略。
ラストのレイのセリフのあとに続くセリフは、申し訳ないけどやっぱり「キメてね」なんだ ろうと思われる(爆)。まじですまぬ。
作品はこちら。と書きたくなるような作品でございました。長いw
----- 追いついた!
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.43 ) |
- 日時: 2010/09/04 17:39
- 名前: calu
■何処さん
♪ネッ、ネッ、ネルフの大爆笑〜♪ 【或る新婚さんの場合・レイとシンジ編】
軽快なリズムと台詞のラリーが新しいエンタテイメントを創りだして…。 途中、何回とも無く吹いてしまいました。エンディングテーマ含め、バランスが いいですよね。
>…あ、ギターの弦買わなきゃ。 ギター弾き作家さんの友情出演ですか(笑)。
>「…」 >「…」 >「…」 >「…」
>「碇君…呼んで…」 おいっ!!(爆)
>「キス…して…キス…して…下さい…あなた…」 うおおーっ。これは壊れます。これにはtambさんだって絶対に冷静でいられない筈。下記参照(笑)。
http://tamb.cube-web.net/cgi-bin/bbs4c/read.cgi?no=392
おかわりお願いします(^^;;)。
■JUNさん
蝉時雨vol.3
でたっ! JUNさんの十八番! でも、
>ちょっと辛い話を読んで、衝動で書き上げました。 だったんですね。どうりで問答無用度が半端じゃないというか、解除されているような  かく言う私も、FF書くキッカケになったのは、とあるイタモノなんですよね…。
キスしてくださいvol.3
>シンジがレイに顔を寄せ、唇の端をぺろりと舐める。 会社だったら間違いなくスピークアップの解雇もんだぁ(なんのこっちゃ)
>「お祭りは開放的になるからね。僕もちょっとだけ大胆になるよ」 シンちゃん、殆どスケコマシじゃあないですか(^^;;)。
有難うございました。楽しく読ませて頂きました。
■ななしさん
◇蝉時雨
良かったです。 炎天下の中、病院へ向かう空高く鳴り響く蝉の声に、明かされた次なる季節の訪れに、シンジの目覚め への予感が高まります。そして、ラストシーン。シンジのベッド脇で紡がれるレイの言葉に感動しました。 直情であるが故に飾らない言葉の美しさ。これこそレイによるものだ、と。
引き続き他の月のお題でも読ませて頂ければと思います。
----------------------------------------------------------------------------------------------
まだまだ追いついておりませんが、みなさまの入魂の作品、引き続きじっくり拝読させていただこうかと 思います。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.44 ) |
- 日時: 2010/09/06 00:09
- 名前: calu
- ■ののさん
Day Tripper!! 出張編第2話 「魔術師」
ストーリーはまったりと流れていきますが、ぐいぐい引き込まれる軽妙な筆致は流石です。 ののさん=シリアスのイメージを持ってただけに新しい発見でした。
>「え、駄目っすか。そりゃすいやせんねー」 マナについては、私の中では真っ白の状態だったのですが、このセンテンスで瞬時にしてイメージ完成(笑)。 拙作にもいつか出演して頂こうかしら、と(笑)。
その他、アナクロっぽい表現とかもあって、ホントにののさんあの年齢なの?と聞きたくなりました 
次回、出張編第3話を楽しみにしております。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.45 ) |
- 日時: 2010/09/07 12:23
- 名前: ななし
- caluさん
初めまして、「ななし」と名乗っているものです。蝉時雨をお読み頂きありがとうございます。
私の中のレイはテレビシリーズ等の全作品を通してシンプルで無駄のない言葉を放つ子だと思ってます。それは無関心ではなく無知であるからで、純粋で信じるものを一点で見据えているレイだから生まれる言葉。彼女の心を考える度に新たな一面を知り、レイ、そしてエヴァがどんどん好きになっている最近です。 シンジが目覚める鍵は文中にいくつか散りばめています。レイの言葉は最後から2つ目の鍵。
お題を上手く生かしきれる作品を書けるか否か、最近の悩みです。そんな悩みと戦いながらきまぐれんに趣味没頭します。おそまつ。
◇La tercera | - キスして、ください - caluさん
caluさんのお話は晴れの日の下流の川をイメージします。おだやかで、キレイ。 caluさんオリジナルの設定が入っているようで、そのせいなのかお話の子供達は15歳なのだろうか16歳なのだろうかと少々気になりました。 レイとシンジは互いを思う気持ちで少しずつ歩み寄っているんだけどちょっとそれがじれったくて、そのじれったさをアスカやカヲルが前に進めと後ろ押ししてくれる。シンジの勇気は周りのみんなが与える幸せで生まれたものであると自分は思いました。 執筆お疲れ様でした。とても優しくてみんなが生き生きとしたお話でした。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.46 ) |
- 日時: 2010/09/07 19:19
- 名前: tomo
- 突然に、理不尽に、不可解に。
ただその気持ちだけが僕の心を支配する。
あらがうことも、なぜと理由を問うこともできないまま。
不意に沸き起こったその感情は徐々に、しかし確実に僕のすべてを変えていく。
まるでそうなることが当然だったかのように。
僕にとっての唯一の救いなのは。
僕の心を淡く染めあげるその思いの正体を知ってることだけだった。
そう。
斜陽によってすべてが赤く染め上げられた世界の中で。
沁みいるようなひぐらしの鳴き声に包まれて。
僕は、彼女に恋をした。
Title : ひぐらしの鳴く中で written by tomo
扉を開けた僕の目に最初に飛び込んできたのは、まばゆいくらいの赤。
窓から差し込む斜陽が、机もイスも黒板も、教室の中のすべての物を赤く染め上げていた。
誰もいない教室。赤く染まった夕暮れの世界。
何と言えばいいのだろう。
僕はしばらく扉を開けたその姿勢のまま、教室の中をただ見つめている。
何とも言えない寂寥感が僕を否応なくひきつける。
それはずいぶんと長い時間だっただろう。
だから、僕は彼女の存在にそれまで気付かなかったことに驚いた。
驚いて、そして、気付かなかった理由に思い当たって。 かわりに僕の頭に一つの疑問が生じてくる。 「……まだ帰らなかったのか?」
教室の一番奥の窓際に腰掛ける彼女にかけた僕の言葉は、ひどく間抜けに聞こえたかもしれない。
けれど、それ以外に僕には彼女にかける言葉が見当たらなかった。
「……………………」
赤く彩られた窓の外の景色に視線を向けながら、彼女はただそこに座っていた。
僕の言葉に返事はなく、返事をする気配すら感じられなかった。
「……………」
そんな彼女の態度を見て、僕はそれ以上声をかけるのをやめた。
誰にだって他人から何も言ってほしくない瞬間がある。
きっと、彼女にとってはそれが今のこのときなだけ。
それなら僕は彼女を無視すべきなのだろう。
無視することがやさしさの表れだとは思いたくはないが。
僕は黙って自分の席に向かい、机の中から一冊の文庫本を取り出した。
この一冊のために再び教室に戻ってくるのはいささかためらわれたが、こうやって現実に手にしてしまえば、案外簡単なものだった。
ここ最近、頻繁に目にしている青色のブックカバーを一瞬だけ見つめ、僕はその本を手にしたカバンの中へとしまいいれた。
それで僕の目的は果たされた。
つまりは、もうこの教室にとどまる理由がなくなったわけだ。 なのになぜか僕の足はドアへと向かおうとはしなっかった。
僕は一瞬だけためらい、振り向いて後方へと視線を向ける。
そこにあるのは先ほどと変わらぬ姿勢でたたずむ彼女の姿。
もともと朱色を帯びた彼女の髪は、夕陽に染められさらに深い憂いを秘めた朱色へと変わっていて。
窓の外へと向けられた蒼い瞳は、この赤き世界でいったい何を見ているのか。 再び僕が見つめた彼女の姿は、普段とは全く別の存在にすら思えた。
たとえるなら。
普段の彼女は太陽のようなもの。
まばゆくて、きらめいていて、近づきすぎれば眩しくて見つめていられない。
それでいてその光は人をひきつける。
対して。
今、僕が目にしている彼女は、まるで夕暮れの斜陽。
今まさに、はかなく消えゆくがごとく、じっと見つめていなければすぐにでも沈んでしまいそうな、そんな最後の灯。 そう、まさに今この瞬間とまったく同じ雰囲気を彼女はまとっていたのだ。
同化してしまって、見つけることが出来ないほどに。
「……何があったんだよ?」
彼女に近づいて、僕は一言そう告げる。
彼女に変化はない。
あいかわらず、僕の存在など気にはかけていないのだろう。
「……とりあえず、話すだけでも気分は変わると思うけど?」
僕は気にせず彼女へと近づく
もう彼女に係わると決めたのだから。
「……何かあったんだろ?」
近づけば近づくほど、彼女の拒絶があからさまに目に見てとれるようになる。
そんなこと関係ないけれど。
「……返事ぐらいしてくれてもいいんじゃないか。惣流」
手を伸ばせば届くほどに近づいて、僕は歩みをとめる。
そのときようやく彼女が僕の方に顔を向ける。
僕の視線と彼女の視線が交錯して絡み合う。
彼女の蒼い瞳は、それまで見たことないような光を携えていた。
「……あんたには関係ないわ、如月」
ややあって、彼女は一言そう告げる。
そして視線を僕から外した。
少し違うが、あらかじめ予想してた範疇の答えが帰ってきて、僕は少しだけ笑いたくなった。
「あのな、惣流」
僕は言い含めるように言葉を紡ぐ。
「僕がそうだと思えば、世の中のすべてのことは僕に関係あることになるんだよ」
言っている内容が尊大なだけに、せめて口調は慇懃に。
それがこういうことをいうときの鉄則だと、僕は教わっていた。
「…………」
再び彼女は僕へと視線を向ける。
僕への尊大さへの不満なのか、彼女の瞳にいらだちが宿っている。
「なんでもないからほっといて」
しかし、それすらも一瞬のこと。
そう言い放った彼女は、またすぐに視線を外してしまう。
「……僕の知っている惣流・アスカ・ラングレーという人間は……」
彼女の態度に構わず僕は続ける。
「邪魔だと思った人間には、容赦なく邪魔だと言い切れる人間だ。それに……」
ほんの少しだけ早くなる口調。
一呼吸置いて僕はその先を述べる。
「さっきからのお前の態度は、言葉とは裏腹にほっといてくれとはいっていない」
最後まで言い切って、僕は語るのをやめる。
沁みいるようなひぐらしの鳴き声が、一段と大きく聞こえてくる。 やがて。
彼女は、一瞬だけ自嘲気味に笑って、また、僕に視線を向けた。
「……さすが、プロファイラーはなんでもお見通しなのね」
どうやら、僕は彼女の関心の中に入り込むことができたようだった。
「別に、こんなことちょっと察しのいい奴ならすぐにわかるさ」
「……そう?」
「そうだよ。第一、プロファイラーは僕の親父であって、僕はただの高校生だ」
「……そう、そうだったわね」
スッと彼女が立ち上がり、一つ大きな伸びをする。
それはしばらく動かすことを忘れていた関節が一つ一つの動きを思い出しているかのような動作だった。
きっと彼女はずいぶんと長い間この場所にいたのだろう。
「で、察しがいいプロファイラーの卵は、あたしに何があったとおもっているわけ?」
しばらく体を動かした後、彼女は僕に尋ねてくる。
明らかに僕を試している口調。
「質問を質問で返すなよ」
「答えないなら、あたしも何も言わないわよ?」
たぶんそれは事実なのだろう。
何というか、どこまでいっても、彼女は一筋縄ではいかない人物なようだ。
「…………」
「……答えられないわけ?」
「……ちょっとは考えさせろ」
「……はいはい」
言って彼女は笑みを見せている。
何が楽しいのかわからないが、ま、笑えるというのは悪いことじゃない。
そんなことを頭の片隅で思いつつ、僕は最近の彼女の行動を思い出しながら、原因を探ってみる。
……………………………………
誰もしゃべらない教室にひぐらしの鳴き声だけがこだまする。
しばしの時間が経過して。
僕は口を開いた。
「……先に言っておくが、正式なプロファイラーでも人の心を読むなんて芸当はできないぞ」
「先に泣き言から言うなんて、かっこ悪いわよ?」
そういう問題ではないのだが。
「プロファイラーは、状況から統計的に相手の性質を読むに過ぎないんだから」
「……はいはい。それで?」
あくまで先を促す彼女。
「……たぶん、大元の原因は、碇と綾波だろ?」
「…………どうして?」
誰だって自分の心をしられるのは嫌悪感が伴うはず。それなのに平静でいられるのは彼女強さの証とみるべきか。
「それまでお前らは三人で下校していた。なのにここ最近は、碇と綾波が二人で帰ることが多い気がする。お前と碇は一緒に住んでいるにも関わらず、だ」
もちろん、これはあくまで僕が見かけた範囲の話だが。
「それに、お前、最近の昼飯は学食だろ? 今までは弁当持参だったのに」
彼女のそれまでの弁当はたぶん碇が作ってきたもののはずだ。確証は全くないが、碇の料理上手は有名だし、彼女に弁当を自分で作るイメージはない。
「ま、後は雰囲気だな。碇と綾波がの雰囲気は、これまでと微妙に違う。こればっかりはうまく言葉にできないけどな」
「……それで?」
「あいつら二人付き合うことになったんだろ?」
この結論については、僕の中で確信があった。
いつも身近にいる二人が付き合っているかどうかを見抜くぐらいの力なら、今の僕にもある。
「……だから?」
対して、ここから先の結論には全く自信がなかった。 できればここまででやめておきたかったが、それは彼女が許してくれないだろう。
「……親友だった二人が付き合って、惣流、お前、さびしいんじゃないか?」
あらためて口にすると、その結論はひどく馬鹿げているように感じられた。 さびしいなんて、普段の彼女からすれば、およそ縁遠い感情だ。
ただ、一方で、さっきまで見た彼女の印象からは、「さびしい」という感情を真っ先に思い浮かべるし、統計的にも、彼女のような立場におかれた女性がさびしいと思うことはよくありうることでもある。 とはいえ、何らかの結論に確信が持てるほど、僕は彼女のことをしらない。
プロファイリング的にいえば、対象の情報が決定的に不足しているのだ。
「………………」
彼女は黙っていた。
沈黙が肯定を意味することもある。
この沈黙は肯定なのか、それとも、否定か。
鼓動が早くなるのがわかった。
「……たいしたものね」
体感的にはひどく長く感じられた時間が経過して、彼女は口を開く。
「……何が?」
「……妄想もここまでくれば本物ってことよ」
いって彼女は笑った。 それは今までに見たことのない種類の笑顔だった。
「……妄想じゃなくて統計的見地から導き出される推論」
「そう卑下しなくてもいいわよ。当たっているところもあるし」
「碇と綾波が付き合っているってとこだろ」
「そう。それに関してはほめてあげるわ」
「別にそんなのうれしくもなんともない」
思っていることと微妙に違うことをつぶやきながら、僕もまだまだだなと改めて自覚する。
相変わらず彼女は笑みを浮かべている。 何がそんなに楽しいのかわからないが、その笑みは、僕を妙にひきつけた。
彼女の笑みをこんなに間近でこんなにはっきりと見たのは、たぶん、はじめてだったろう。
「さて」
ひとしきり笑ったあと彼女はクルリと踵を返す。
思わず、どこに行くと口走りそうになってやめる。
どうやら彼女はようやく帰ることにしたようだ。
自分の席に戻り、カバンを携えて。 不意に彼女はこちらを振り返った。
「ねえ、最後に聞いていい?」
「……なんだよ」
ふわふわとまだ浮ついた気持ちを引きずって。
俺はぶっきらぼうに答えてしまう。
「仮に……仮に、あたしがさびしがっていたとして、あんたはあたしになんていうつもりだったわけ?」
彼女の問いを耳にして、俺は改めて思い直すことになる。
さっきまでの彼女の行動の意味を。
同時に、今ここで、答えるべき答えについて考える。
それは意外と早く見つけることができた。
「……決まってんだろ」
「何?」
「別にさびしがったっていい。お前にはさびしがる権利がある。二人はお前の大事な親友だから」
「……それだけ?」
「ああ」
「なんだか拍子抜けするくらいあっさりね」
言葉とは裏腹に、彼女に落胆する様子は見られなかった。
かわりにすっと彼女が近づいてくる。
「……!?」
不意に自分のパーソナルスペースを侵されて、思わず緊張してしまう。
今や、彼女の唇は、望めば触れることができるくらい近くにあった。
「…………」 俺自身の動揺が彼女に伝わっているのかどうか。
彼女はゆっくりと唇を動かす。
あ
り
が
と
う それは音を伴わない彼女の心の声。
俺がその声の意味を認識できたとき、彼女は一瞬だけほほ笑んだ。
それをみて、僕の中の何かがはじける音がした。
突然に、理不尽に、不可解に。
それは僕の心を支配する。
自分自身ではどうしようもないその感情は、確実に僕のすべてを変えていった。
はかなく消えゆく刹那の輝きに照らされて。
遠くなりつつあるひぐらしの鳴き声を惜しみながら。
僕は、彼女に恋をした。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.47 ) |
- 日時: 2010/09/14 08:06
- 名前: calu
- ■naibaoさん - 君に、降る、雨
穏やかなタッチで描かれたレイの心象。 その心に咲き始めた自我に、自らの反応に揺れ始める描写がとても美しいと感じました。
また、別の月でも読ませて頂く事が出来ればと思います。
■JUNさん - キスしてくださいvol.4
面白かったです。JUNさんの作品の中に酔っぱレイが出てくるのは初めてではないでしょうか? 拙作にも一度出演いただいたのですが、酔わせるとグッと可愛さが滲み出るんですよねー(笑)。 有難うございました。また、次回の酔っぱレイを楽しみにしております(笑)。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.48 ) |
- 日時: 2010/09/16 05:06
- 名前: tamb
- ■ひぐらしの鳴く中で/tomo
こういうサイトなんで、まぁレイとシンジだろうという先入観でまず読む。で、
> 「……まだ帰らなかったのか?」
のセリフでシンジではないとわかる。女の子はアスカで、男はオリキャラだ。ショートショ ートでオリキャラとはまた随分な、と思うけれども、この話は例えばケンスケでは成立しない。 それは如月とアスカ及びシンジの距離感にある。アスカは、如月が自分やシンジと親しかった りした上でこういう行動を取ったりしたら許さないと思う。ありがとうと言った後で張り手を かましているはずだ。実際、私は張り手をかますと思った。だが彼女がそうしなかったのは、 やはり彼女にとって彼が他人だったからなんだと思う。彼女がそう思っているからこそ、彼の 恋は理不尽なものと言えるのではないだろうか。
如月君はtomoさんの連載(絶賛中断中)に出てくる誰かのご子息かなと最初は思ったのだけ れど、あっちはプロファイルではなくてカウンセリングでした。確認済み(笑)。
どうでもいいし関係ない話だけれど、プロファイリングではなくてプロファクティングでは なかろうかと思ったあなたは(もちろん私も)雪風おたく(笑)。プロファクトあるいはプロフ ァクティングで検索してもヒットするのはほぼ雪風がらみ。Profactingでも事情はそう変わら ない。これは神林長平の造語なのだろうか? ついでに書くとプロファクティングというのは行動予測の事のようなので、いわゆるプロフ ァイリングとは意味合いが異なるような気がする。よくわからんけど。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.49 ) |
- 日時: 2010/09/29 21:52
- 名前: tomo
- tambさん感想ありがとうございます。
そして,オリキャラという禁断の手法を使ってしまいましたことを改めてお詫び申し上げます。 あ,如月くんは,連載に出てくる誰かの子供じゃないですけど,関係者ではあります。そういう設定にしています。
正式名称はプロファイリングであってます。これは主にFBIで使われている捜査手法の一つです。 プロファクティングという言葉は知りませんでした(すいません)。多分,造語だと思います。
張り手については,正直,意外な感想でした。私の中でアスカはこういうときに張り手をかますというキャラクターじゃなかったです。つまり,tambさんがおっしゃるほど考えてのことではないのです(爆)。 でも,言われてみれば,確かに張り手をかましそうですよね。 うーん,どうなんだろう?
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.50 ) |
- 日時: 2010/10/18 22:56
- 名前: 何処
- 【蝉時雨】
ジャワジャワジャワジャワジャワジャワ…ジー… ミーンミンミンミンミンミンミンミー…
「あ…暑い…」
「センセ…暑い暑い言わんといてえな…余計暑くなりおる…」
「トウジ…ジャージが余計暑苦しいよ…」
「着とる分にはこっちの方がマシなんや…」
「全然そうは見えないよ…」
「ケンスケ日本語の使い方おかしい…」
「…なぁ、ちょいゲーセン寄って涼んでかんか…」
「パス…小遣いピンチなんだよ…」
「同じく…」
「何や二人揃うて辛気臭いのう…」
「それにトウジ、今日は妹迎え行くんじゃないのか?」
「…あかん、忘れとった…今日おとんが一月ぶりに帰って来るよって買い物付き合って夕飯作らないかんねん。」
「…トウジ、料理なんか出来た?」
「うんにゃ。なに、飯さえ炊いて後は惣菜買って並べりゃ格好は付くわな。それにアレも中学入ってから味噌汁ぐらいは作れるよってに。」 「レトルトとかもあるしな…飽きるけど。」
「ああ…成る程…」
「にしてもセンセ、良う料理出来るわな〜。」 「それも中学から。おまけに人の分まで弁当作って来るなんて男子碇一人だよ。」
「あ、うん。四歳から預けられてた先で色々教わったから…」
「「あ…」」
「?」
「そっか…センセも色々あったんやな。」 「大変だったな碇…」
「あ、いや別に大変じゃなかったかな、うん。」
「ん?トウジ、中学ならそっちだろ?」 「あ、そうや。んならセンセ、ケンスケ、又来週〜」
「…又昔のお笑いネタか…」 「…見た事無いと判らないよね…面白かったけど…」
「さてと、俺も現像頼まなきゃ。やっぱフィルムはいいぜ〜。」 「…女の子?兵器?」 「風景。最近嵌まっててさ、じゃ碇又な!」
「ああ、じゃ又…」
ジャワジャワジャワ…
「暑…あ、未だ冷蔵庫にカリガリ君…どうせアスカと綾波が全部食べてるな…はぁ。」
ミーンミンミンミー…
「大体おかしいよ、何で僕が男だからってアスカや綾波にアイス奢らなきゃいけないんだよ。なら二人共女の子なんだし料理くら…」
ジャワジャワジャワ…
「思い出しちゃったよ、夏休み最初の一週間。最初の三日がレトルトとインスタントと冷凍食品、次の三日が納豆と素麺と冷奴のローテーション、おまけに最後は…」
ミンミンミンミー…
「…考えて見れば家主があれだもんなぁ…男の癖にとか女だからなんて差別はいけないようん…でもカレーを不味く作れるってこれもう才能だよね…」
ジャ“キー―――ン…ゴゴゴ…”…
「あ、RF04…珍し…ケンスケの病気移ってるなー…」
「…シンジ君?」
「え?」
「やっぱり…違う人かと思ったわ。」
「…先生…」
「久し振りね、シンジ君。」
…ミーンミンミンミンミンミー…
カラン♪
「いらっしゃいませ〜」
「シンジ君何にする?」
「あ、じゃアイスココアを…」
「すいません、アイスココアとアイスコーヒー、ガムシロップ抜きで。」
「その…お久し振りです…」
「本当大きくなったわね…」
「あの…帰ると何度も言って帰らなくて先生にはご迷惑おかけしました…」
「いいのよ。私こそ謝らないと。」
「え?」
「…君にお父様からお手紙が届いた時…私直ぐに貴方へ渡さなかったの。」
「え?」
「手紙を受け取って直ぐに君のお父様をお呼び立てしてお会いしたの。本人が来ないと言えばそれまで、貴方が帰ると言ったら引き留めない。そう君のお父様は言われたわ。君に手紙を渡したのはその後なの。」
「…知らなかった…」
「時間ある?今日は君のお父様にご挨拶しに来たの」
「…それで喪服なんですね…」
ミーンミンミンミンミンミンミー―…
「…一緒に入られたの…仲の良いご夫婦だったのね…」
「…別のお墓にしようかとも思ったんですが…この方が喜ぶかなって…」
「そう…君のお父様とは一度しか会わなかったけど…優しい目をされていたわ。」
「優しい目?」
「ええ…」
「僕は一度も…父さんの目を見た事が…」
「え?」
「ずっとサングラスを掛けてて…」
「?眼鏡なんか掛けてなかったわよ?」
「え?」
「とっても背が高くて、お髭を顎に生やされてて、そう、お顔の周りをこう…」 「え、ええ、父さんは確かにそんな顔で…」
「背広をとっても格好良く着こなされて…」
「せ、先生!?背広ってもしかして焦げ茶色の?」
「ええ、そうよ?」
「父さんの遺品に一着だけ焦げ茶色の背広が…誰もその服を着た父さんを見た事が…あ!」
「どうしたの?」
「…何で忘れてたんだ…焦げ茶色のスーツ…僕と最後に出掛けた日…後は一人で行けって…父さんはもう父さんを止めて悪い人になるからって…」
「そう…私の前には君のお父様としていらっしゃったのね…」
「そ…そんな、そんな、何で、何で今更思い出すんだよ!遅いよ!遅いんだよ!」
「シンジ君?」
「いつもそうだ!アスカの時もトウジの時も綾波の時だって!何でいつも僕は遅いんだ!」
「シンジ君!」
「何で…何で僕は…トウジの足も、アスカの目も、綾波の事だってそう!みんな僕が、僕がっっ!」
パチン!
「あ…」
「落ち着きなさい。」
「あ…せ…先生…」
「シンジ君…自分を責めるのは君の悪い癖よ…」
「う…で、でも、でも、僕は、僕は!ツッ!?」
「…辛いならお泣きなさい。昔みたいに。この胸で泣き疲れて眠った君を私は覚えている。今もこの胸は貴方が帰る場所よ。さ、お泣きなさい。」
「う…あ…せ…先生っっっ!」
「大丈夫…私は君の帰る場所、安心して…」
「う…うあ…ぁ…先…生…先生…っ…うっ…えっ…」 「覚えていて。世界が君をいらないと言ってもこの私が君を必要とする。だから…頼りなさい…」
「う、うあ…あ…あぁ…」
ジージージージャワジャワジャワジャワ……
「す…すいませんでした。取り乱しちゃって…」
「落ち着いた?」
「その…服汚しちゃってすいません。」
「いいのよ。服は汚れたら洗えばいいし、人間も悲しければ泣けばいいの。」
「か…格好悪いな…」
「いいえ、君が変わらず綺麗な心なので嬉しかったわ。」
「…捨て子とか訳有り子とか言われて泣いてると先生は只黙って僕を抱きしめてくれましたよね…」
「ええ。」
「…ここから何度か僕は逃げ出しました。でも先生の所へ帰ろうと自分で決めたのはトウジ…友人をこの手で握り潰した時だけです…」
「!?」
「使徒に汚染された機体を破壊して…その機体には…戦わない僕の機体を父さんは…自動戦闘に切り替えて…制御出来なくなって…でもエヴァの感覚が…す、すいません、少し待って…」
「辛かったのね、苦しかったのねシンジ君。話して…色々な事。」
「はい…」
※※※
「エヴァンゲリオンは自律型兵器に分類されるそうで、僕らパイロットは実はエヴァの暴走を抑える為の安全弁…本当は一度動き出せばパイロットなんて必要無かったらしいです。つまり僕らは車の鍵みたいな物でした。」
「そんな…」
「で、パイロットに綾波って娘がいまして…最初綾波と話した時、先生と似てるなって…無駄な台詞無く淡々と話す所とか…」
「無愛想って事ね。」
「あ?い、いえ違いますよ!?そ、それでその、ある時綾波と父さんが話してる姿を見まして…」
「?それで?」
「その…嫉妬したんです。僕と話そうとしない父親と綾波は普通に話して…先生とも上手く話せなかった自分と綾波を比較して…」
「そう…」
「でも違った。綾波には父さんしかいなかった…僕には先生も父さんもミサトさんもいた…僕は話そうとすらしなかった…父さんが僕を息子じゃ無くパイロットとして扱ったのも今なら解る気がします。僕は…本当に子供でした。」
「ミサトさん…ああ、あのお美しい方ね、写真を拝見したわ。でも君は立派よ、中々人は自分を割り切って客観的に見れないわ。でもシンジ君、その綾波さんの事…」
「…好きでした…只、恋愛感情ではなかったと思います。僕にとって初めて同じ年代の異性として意識した相手だったんです。そう言う意味で当時の僕にとっての恋愛対象は…もう一人のパイロットでした。でも僕らは只相手を求めるだけで相手の求めに手を差し伸べる事を知らなかった…」
「恋はそんな物よ。」
「そうでしょうか?求めながら彼女は僕を拒絶し傷付け、僕は彼女を欲しながら…自分しか見ていなかった」
「だから言うのよ…恋は盲目だって…」
「恋…あ…その…先生…」
「何?」
「…先生だったんです…僕の初恋は…」
「え?」
「あの頃は判りませんでしたけど…僕が先生の元を離れた理由…今なら判ります。僕が先生に恋していたからなんです。」
「シンジ君…」
「第三に来る時、『もし何かあったら何時でもここに帰って来なさい。』と言ってくれましたよね…だけどそれは先生を拘束させる…やっと僕から解放された先生にまた依存する事が僕は怖かった…」
「そう…そうだったのね…」
「はい…それで先生…お願いがあるんですが…」
「何?」
「その…僕とキスして下さい。」
「え?」
「僕はもう好きな人がいます。初恋を思い出にする為に…僕の心に区切りを付けさせて下さい。お願いします。」
「…ええ、いいわ…」
「先生…」
「…いい事シンジ君、こう言う時は名前で呼ぶのよ。これが貴方への最後のレッスン…」
「…はい………さん…」
「ん…」
「…本当に背伸びたわね…」
「…はい…」
「身体も大きくなったわ…大人に近付いてるのね…」
「…その…パイロットの一人、先生と同じ『レイ』って名前なんです。偶然なんですけど…」
「…そう…」
「今まで僕は彼女を姓で呼んでました…これで僕はやっと彼女を名前で呼ぶ事が出来ます…先生、貴女は僕の初恋の人でした。い…今更ですけど、じゅ…十年も僕を育ててくれて…あ…有難うごさいました!」
「…泣かないで…私こそ有難うシンジ君、貴方と過ごした十年…幸せだったわ…そして…おめでとう、シンジ君…もう貴方は子供じゃ無い…」
「先生!」
「幸せにね…」
ミーンミーンミンミンミンミンミンミンミンミー――…
「ふひ〜、ただいまぁってうわわわわわわっっ!?」
「キャー!」「き、きゃーっ…」
※※※
「…ど、どうしよう、未だ二人の下着が目に…お、落ち着け碇シンジ、落ち…ん?なんか僕ひょっとして又上手く使われてない?」
ガーッ
パピポピパピ〜ン♪ 「いらっしゃいませ〜、パミマへようこそ〜♪」
「ええとカリガリ君カリガリ君…あ、苺味発見。」
「ありがとうございましたー♪」
ガーッ
パピポピパピ〜ン♪
「…一本貰っちゃお。」
ミーンミンミンミーン…
「ただいまー…ってあれ?二人共どこ…」
「ジャー――ン!」「じ、じゃーん…」
「うわわわわわわっっ!?」 タラッ 「あああテッシュテッシュ…」 ズテ『ゴン!』
「きゅ〜…」
「うーむ…刺激が強すぎたみたいね」 「碇君…大丈夫?」
プルルル、プルルル…
「あら?シンジの携帯?ってレイ止めなさいって…」 Pi『あ、やっと繋がった!おい碇!あの美人一体誰だよおい!きっちり聞かせて貰うからな!』
「…碇君…」「…シンジ…」
「「最っ低」」
「う、う〜ん…し、白…ピンク…」
「ばっ!」「馬鹿…」
『おい碇!聞いてるんだろおい!』
…スチャ
「其処ら辺の話…良ーく聞かせて欲しいわね…」
『ゲッ!?な、何でアスカが!?…い、いや惣流これはだなつまりあの…い、碇すまん!pi』
「ち、ちょっとまちなさい相田!ちっ切りやがった!イッヒタピオカパン!」
「碇君…馬鹿…」
ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、ツクツクミーョン、ツクツクミーョン、ツクツクミーョンミーョンミーョンミー――ン…
「ふひぃ〜、たっっどわぃむわぁ〜〜つっっかれとゎぁ〜…ってあれ?どったのシンちゃん?」
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.51 ) |
- 日時: 2010/10/25 21:32
- 名前: tamb
- ■蝉時雨/何処
( No.50 )
なんだかいわゆるいい話系かと思いながら読み進め、こりゃレイもアスカも死んでるかなと 覚悟したら落ちがあった(笑)。それでこそ何処さん(なのか?)。 「先生」が女性であるという発想はなかった。 パンツ見せるだけでカリガリ君おごって貰えるならそれはそれで悪くない……のかどうかは レイとアスカに聞いてみないとわからんな(笑)。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.52 ) |
- 日時: 2010/11/13 08:02
- 名前: tamb
*****BLUE MIDNIGHT*****
僕は綾波が好きだ。 それとわからないくらいに小さな笑顔、凛とした横顔、空色の髪、動揺して揺れる赤い瞳、 かすかに染めた頬。そのまま消えてしまいそうな後姿。
僕は綾波に欲情する。 制服、プラグスーツ、体操服、水着。 肌の白さ、胸のふくらみ、柔らかさ、白い下着。濡れた髪。……裸。 僕は綾波が好きだ。綾波のことが頭から離れない。 僕は綾波に欲情する。彼女に触れたい。抱き締めて、口づけて、裸にして、頭のてっぺんか ら爪先まで彼女の全てに触れたい。綾波の声が聞きたい。その声で僕の名を呼んで欲しい。 綾波、綾波、綾波――綾波、僕は君を……。
僕は低くうめき、やがて固く閉じていた目を開いた。部屋の中は暗い。ため息をひとつ落と し、ベッドの脇に置いてある読書灯のスイッチを入れる。欲望に重く濡れたティッシュを思い 切りゴミ箱に叩き込み、頭を抱えた。 僕は綾波が好きだ。好きだと思う。だがそれは、単にたまたま近くにいる可愛い女の子に欲 情するのとどう違うのか。単なる欲望の捌け口を探してるのとどう違うのか。机の引出しの奥 に隠してある写真集とどう違うのか――。 わからない。僕には違いがわからない。わからないなら同じだということだ。 僕には綾波を愛する資格がない。まして、愛される価値なんてかけらもない。僕のような人 間が生きていることそのものが間違っているとすら思う。 ミサトさんもアスカも僕のことを知っている。何をしているのか知っている。知っていて、 知らない振りをして嗤っている。嗤っているのがばれて、僕が逃げたら困るからだ。エヴァに 乗れるのは、僕と綾波とアスカしかいない。明らかにされているのは僕たち三人だけだ。もし 噂されているようにアメリカにもう一人パイロットがいるなら、そしてその子が戦力になるメ ドが立ったら、僕は即座にお払い箱になるだろう。僕みたいな人間のクズに守ってもらうくら いなら死んだ方がマシだと思う人がいても不思議ではない。むしろそれが当然だ。僕はそんな 人間だ。クズだ。死んだ方がマシだ。
でも僕はエヴァを降りない。どうして? 初号機に乗れるのは僕しかいないからだ。僕が初 号機を降りたら人類が滅びるかもしれない。 だから何だって言うんだ? そんなの僕の責任じゃない。僕じゃなくても動かせるエヴァを 作ればいいだけじゃないか。ミサトさんでもリツコさんでも父さんでも、人類を守るという高 い志を持った人が乗れるエヴァを。そうでなければ、エヴァに乗れる僕以外の誰かを探してく ればいい。アメリカにいるなら連れてくればいい。 でも僕はエヴァを降りない。それはきっと、嫌われるのがいやだからだろう。弱虫だと、卑 怯者だと罵倒されるのがいやだからだろう。僕が弱虫で卑怯者なのは事実なのに、事実を突き つけられるのが嫌なんだ。 もうここにはいたくない。僕は火傷しそうなほど熱いシャワーを浴びながら思う。家出なん かできるはずはない。それができるならエヴァから降りている。朝になれば二人のために朝食 も作らなければならない。それはわかっている。それは嫌じゃない。ただ、少しの間だけでも ミサトさんやアスカと同じ空気を吸いたくなかった。それだけだ。 僕は服を着て、眠っているのか聞き耳を立てているのかわからないアスカやミサトさんの気 を引かないように静かに部屋を出た。
とたんに蝉の声が耳を打った。夜中だというのに熱気は衰えることを知らず、汗が吹き出た。 こんな暑さの中、僕はどこに行こうとしているのだろう。どこにも行くところなんてない。 行くべきところがないならどこに行ってもかまわないということだ。僕はあてもなく歩き出し た。
やがてどこを歩いているのかわからなくなった。ミサトさんの部屋から学校とネルフとスー パーを往復するだけで、この街のことなど知らないに等しかった。だが、街の隅々まで知って いるからどうということもない。僕は歩き続けた。 いいかげん歩き疲れ、見つけた公園のベンチに座り込んだ。そしてまた頭を抱え込んだ。 こんなことをしていったい何になるというのか。自己満足にすらなりはしない。嫌悪感がつ のるだけだ。 こんな僕が守るべき人類っていったい何なのだろう。 そうじゃない。僕は人類を守りたいわけじゃない。 そうだ。僕がエヴァを降りないのは、僕が守りたいのは……。 だがそれは正しいことなのか? 個々が正しいと思って行動したことが全体としてみれば間 違っていたということは歴史上に数多くある。逆でもそうだ。全体としては正しいとしか思え ないのに、行動する個人の立場になれば間違っているとしか思えない行動。 僕が綾波を守るためにエヴァに乗るのは正しい事なのか? でもそんなことは問題じゃない。 どんな立場から見ても明らかに正しい真実がひとつあるからだ。
僕が彼女を欲望の対象とすることを、彼女は望んではいない。
その事実がある以上、僕の罪は消えたりしない。 罪を犯した者は罰を受ける必要がある。だが僕はどうすればいい? 彼女に向かって、あな たを欲望の対象にした僕を罰して下さいとでも言えというのか。僕を殺してください、僕のこ の薄汚れた器官を切り落として下さいとでも。 言えるはずがない。できるわけがない。
絶望感に閉じようとした僕の目に、見慣れたような懐かしいようなものが映った。紺色のソ ックスに白いスニーカー。信じられなかった。こんな、どこかすらわからないような所に彼女 がいるはずがない。綾波レイが。でも僕には顔を上げて確かめる勇気がなかった。
「ここに来れば、あなたに会えるような気がしたの」
それは綾波レイの声だった。僕はゆっくりと顔を上げる。そこには彼女がいた。僕が欲望の 対象にしている綾波レイが。 彼女は僕の左側に座った。手のひらふたつ分のその距離は、絶望的なほど遠い。
「……テストか何かだったの?」
もっと気のきいたことを言いたかったけれど、僕はようやくそれだけを言った。綾波の顔は 見れなかった。
「いいえ、そうではないわ」
じゃあ何なのだろう。わざわざ僕に会いに来たというのか。僕は彼女の言葉の続きを待った けれど、彼女は何も言わなかった。だから僕も何も言わなかった。僕は彼女と話をできるよう な人間ではない。
「あなたに、触れてもいい?」
だが彼女は、唐突にそう言ってベンチの上に置いていた僕の左手に手を重ねてきた。僕の返 事を待たず。
「……触らない方がいいよ」僕は絞り出すように答えた。右手ではないだけまだしもかもしれ ない。だが同じことだ。「僕は汚れているんだ」 「汚れているの?」 「そうだよ」
彼女は手のひらふたつ分の距離を何のためらいもなく詰め、僕の左手を取るとスカートに強 くこすりつけた。
「そっちも」
彼女はそう言うと、動かない僕の右手を取り、同じようにした。 スカート越しに、彼女の脚に触れている。心臓が破裂しそうになる。手をどけるべきだと思 う。でもできなかった。ただ力を抜いて、彼女にされるがままになっていた。
「きれいになった」仕上げのように両手でこすったあと、彼女は静かに言った。「シャワー、 毎日浴びた方がいいわ」
いつもと少しだけ声が違うような気がした。僕は驚いて彼女を見た。いつもと同じように表 情は薄い。だがその目は、まるで悪戯を見つかった女の子のように、恥ずかしそうに笑ってい た。 彼女は気づいているのか。それとも僕の「汚れている」というセリフにまるで子供のように 反応しただけなのか。
「私が、もし汚れていたら」
僕の左肩にことりと頭を預け、彼女は静かにそう言った。 綾波が汚れる? それはどういう意味なのだろう。僕が何をしても彼女が汚れるわけがない。 ――じゃあ、僕ではない他の誰かだったら? 身体がかっと熱くなった。 ふざけるな。誰にも汚させやしない。僕が、絶対にさせない。この命に換えても。 僕は大きく息を吐いた。酷い矛盾だ。 僕は既に彼女を穢している。彼女はそれを知らないだけだ。そしてそれは恐らく、彼女にと っては何の関係も関心もないことだ。望むも望まないもない。
「碇くん、きれいにしてくれる?」
僕にはできないよ、綾波。僕は綾波を穢すだけだ。僕は最低の人間なんだ……。 言えるはずのないセリフを、僕は胸の中でただ繰り返した。
いつしか彼女の呼吸が眠っている人のそれに変わっていた。
「こんなとこで寝たら風邪をひくよ」
僕は握られたままだった手をほどき、彼女の肩を揺すった。
「帰ろう。送って行くよ」 「ん……」
彼女は吐息ともため息ともつかない息を漏らし、もう一度僕の手を取って立ち上がった。 僕はここがどこだかわからない。だから綾波についていくしかない。送って行くというには あまりにも情けない状況だったが、他に選択肢はなかった。 僕たちはずっと無言だった。綾波も喋らなかったし、僕には喋ることがなかった。話をする 資格すらなかった。 ただ、手だけはずっと繋いでいた。とても暖かだった。
黙って歩いていると蝉の声が耳につく。ヒグラシの鳴き声が多いように思う。夜明けが近い のかもしれない。 子供の頃は、十二月や一月に蝉の声はしなかったような気がする。確かに八月や九月はうる さかったけれど、それでも今ほどではなかったように思う。いつのまにか、一年中いつでも蝉 の声が聞こえるようになって、それが普通で、あまり気にしたことはなかった。 蝉はなぜ鳴くのだろうか。自分の存在を訴えるためだ。僕はここにいる、僕を見てよと叫ん でいるのだ。 でも僕には、ヒグラシの声は泣いているように聞こえた。
「じゃあ、おやすみ」
綾波の部屋の前で、僕は彼女の目を見ずに言った。返事を待たず、逃げるように背を向けて 歩き出す。ドアの閉じる音は聞こえない。きっとそれは蝉時雨にかき消されているからだろう。
これからどこに行くか。考えるまでもない。部屋に帰るしかない。僕の居場所ではないけれ ど、そこにいることを許された場所。他人の言うことを聞き、唯々諾々と従う日常。僕には僕 自身の命さえコントロールできないけれど、結局ここでしか生きられない。ここで生きていく しかない。
「シンジ君、気は済んだかい?」
不意に聞こえた、聞きなれた声にうつむいていた顔を上げると、そこには煙草をくゆらせた 声の持ち主が、愛車――確かロータスエランといった――に背中を預け当然のように立ってい た。
「加持さん? どうして?」 「葛城に頼まれてな。どうだい? コーヒーでも?」
加持さんはあるがなしかの容量しかないトランクを開け、氷の詰まったクーラーボックスか ら缶コーヒーを放った。僕は危うくそれを受け止める。
「釣りにでも行こうと思ってたんだ。朝早くから起きては見たものの、なんとなく気が乗らな くてな。そこに葛城から電話だよ」 「……ミサトさん、何て言ってました?」 「気が済んだ頃に連れて帰ってきてくれとさ」 「そうですか……」
大人の打算、という言葉が頭に浮かんだ。今の時点でネルフが僕を失うことはプラスにはな らない。代わりのパイロットを連れてくるまでは。でもここで駄々をこねても何にもならない。 ここで生きていくしかないのだから。
「……僕の居場所、どうしてわかったんですか?」 「葛城に聞いた。葛城は……杉一尉か長門二尉に聞いたんだろう。前例のない話だがな」
作戦課長が、同居しているチルドレンの所在を諜報二課に確認する。 その重さを噛み締め、僕は言葉もなく車に乗った。 一人になんかなれないし、なるべきでもないんだ――。
走り出してすぐ、心地の良い排気音を携帯の着信音が破った。
「葛城だ」
加持さんは小さく舌打ちをしてから携帯を取った。
「おれだ。……わめくな。聞こえる。……サードとファーストをロスト? ばかな。レイちゃ んはともかく、シンジ君はここにいるぜ。……ああ、おれの隣だ」 「綾波ならさっき送って行きましたよ」 「部屋に入るのを確認したか?」 「はい」 「レイちゃんはシンジ君が部屋まで送ったと言っている。部屋に入るのを確認したそうだ。香 取一尉に連絡するといい。……シンジ君を乗せたのはついさっきだ。連絡をもらって最初に見 つけたときは、レイちゃんと一緒だったんでな」
加持さんが僕をちらりと見た。
「デートの邪魔をするような野暮な真似はできないんでね。トラッキングはおれの仕事じゃな い。レイちゃんのアパートの前で待っていればいずれ二人で来る。そんなのはわかりきったこ とだろう?」
加持さんはそこで言葉を切り、少しの間だけ沈黙した。
「ちょっと待て。二課が二人をロストした時刻はわかるか? ……そうか。じゃあおれが二人 を見かけたより後だな。……シンジ君、プライベートなことを聞くが、君たちは公園のベンチ からどこかに移動したかい?」 「……いいえ。まっすぐ綾波の部屋に戻りました」 「本当だな?」 「はい」 「二課はおとなしく座ってる君たちをロストしたってことか……」
A.T.フィールド……か、と加持さんは呟いた。
「わかった。葛城、後で連絡する。シンジ君、コーヒーをこぼすなよ。こぼしたら怒るぜ?」
最後のセリフは僕に言ったと気づく間もなく、加持さんは携帯をしまうなり手足をめまぐる しく動かした。強烈な減速と共に視界がぐるりと回った。直後には逆方向に走り出していた。
「どこに行くんですか?」 「レイちゃんの部屋だ」 「何をしに行くんですか?」 「君を送りにだ。他に何がある?」 「……ミサトさんに怒られませんか?」 「かまうものか。女は男を怒るのが仕事だ。させておけばいい」 「僕は綾波の部屋に行って何をすればいいんですか?」
加持さんは呆れたような横顔で言った。
「デートの続きだ。そんなことまで言わせるなよ。それともデートの手順まで教えて欲しいの かい?」
できれば教えて欲しい。 僕はそう思ったが口には出さなかった。
「賭けてもいいが、レイちゃんは君が帰ってくるのを待ってるぜ」 「……それはないです」 「どうしてそう思う?」 「見てればわかります」 「当事者にはわからないこともある。恋ってのは特にそういうものだ」 「……僕が綾波に恋をしているって言うんですか?」 「違うのかい?」 「……よく、わかりません」 「言った通りだろう? 当事者にはわからないものさ」
うまく誤魔化されたような気がする。でも僕には拒否するという選択肢はなかった。綾波に 会いたいという気持ちは間違いなくあった。もし本当に彼女が待っていてくれるのなら。いや、 待っていてくれなくても。
対向車線をもの凄いスピードで車が走ってきた。見たことのある車だった。プジョー、と言 っただろうか。そして、やはりどこかで見たことのある人が血相を変えて運転していた。助手 席に座っている女の人がこちらを指差す。
「もう見つかったか」
加持さんがそう言うなり、携帯が鳴った。 切っとくべきだったな、そう呟き、やれやれといった感じで携帯を取った。
「はい、加持。……わめくなって。聞こえるよ。そういうところ、君のお姉さんにそっくりだ。 いや、嫌いじゃないぜ。どうだい、今度デートでも?」
直後、加持さんは顔をしかめ、携帯から耳を離した。
「聞こえるって。悪かったよ。……いや、必ずしも冗談じゃないんだがな。あーわかった。黙 る。黙るから叫ばないでくれ。鼓膜が破れる。……ああ、シンジ君はここにいるよ。……どこ に連れて行くかって?」
加持さんは横目で僕を見てウインクをした。
「それは秘密だ。トラッキングはお手の物だろう? じゃあ、次に電話する時はデートの打ち 合わせといきたいもんだ」
まだ何か叫びつづける携帯の向こうを無視し、加持さんは電話を切った。 振り向くと、プジョーは僕たちの後ろにぴったりとつけていた。運転している人は憤怒の表 情をあらわにしているし、助手席の女の人は顔を真っ赤にしている。僕は加持さんに代わって プジョーの二人に頭を下げた。
「こんなところでカーチェイスをしていても仕方がないな」
加持さんはミラーを見てプジョーが少し車間距離を取ったのを確認し、軽く減速した。
「レイちゃんにはもう香取一尉がついてるだろうし、撒いても意味がない。……さあシンジ君、 うまくやれよ」 「……何をですか?」 「蝉だよ」 「セミ?」
加持さんはウィンドウを下ろした。
「蝉時雨だ。聞こえるだろう?」
決して静かとはいえない排気音に紛れることなく、降り続ける蝉時雨がはっきりと聞こえた。
「黙っていては伝わらないこともある。言葉にするっていうのは、それなりに大事なことなん だよ」 「……」 「もっとも、言葉にしなくても伝わるっていうのも素敵なことだけどな」 「どっちなんですか」 「いずれにせよ、伝えるべきことは伝えなきゃならん」 「……」 「蝉は、伝えるべきことを伝えるために鳴いている。フェロモンかなんかで済めばいいのかも しれんが、そうもいかないからあんなに大声で鳴いてるんだぜ」 「……」 「知らんけどな」 「……いい加減ですね」 「蝉の生き方に深い関心はないからな」
加持さんのロータスは静かに減速し、そして止まった。
「ここから先は一人だ。伝えてこい。おれは待ってないからな」
僕は黙って車を降りた。ゆっくりと綾波の部屋に向かって歩きながら、僕は迷っていた。 僕は本当に綾波を好きなのかどうか。もしも僕のこの気持ちが好きだという気持ちだとして、 それを伝えるべきなのかどうか。もし迷惑なのだとしたら、伝えない方がいい。僕がエヴァか ら降りない限り、綾波を避けて生きてゆくことは出来ない。だとしたら、胸のうちに秘めてい た方がいいこともある。何でも闇雲に伝えればいいってもんじゃない。 逡巡を重ねつつも足は自動的に動き、僕は綾波の部屋の前にいた。
やるしかない。 本当にそうか。 本当にやるしかないのか。 自分ひとりで生きてるわけじゃない。相手の気持ちも考えなければ。 帰った方がいい。待ってなんかいない。寝てるに決まってる。 本当にそうか。 本当に帰ってもいいのか――。
結局僕は、もし寝ていたら起こさない程度の強さでノックすることにした。つまらない妥協 だけれど、自分に言い訳はできる。
僕は決心してドアを叩いた。その音は、枯葉がドアにあたったよりも小さなものだった。こ れでは部屋の中で耳を澄ませていても聞こえないだろう。 もう帰ろう。僕の決意なんてこんなものだ。 そう思った僕の耳に、小さく足音が聞こえた。テンポが速い。走っている。僕が息を呑んだ 次の瞬間、足音よりもはるかに重い音がした。何かを落としたような音だ。 やがて、ドアがゆっくりと開いた。
「転んじゃった……」
お尻をさすりながら綾波が言った。微かだが、はっきりと照れ笑いだった。 もう何も考えなかった。僕は彼女を抱き締め、その口唇に僕の口唇を合わせた。 なぜ今までわからなかったのだろう。それほど簡単なことだった。 綾波を守りたい。幸せにしたい。彼女を幸せにするのは僕だ。他の誰かじゃダメだ。僕が幸 せにする。僕にしか彼女を幸せにすることはできない。僕が幸せにするのは綾波だ。他の誰で もない。綾波じゃなきゃダメなんだ。僕は綾波が好きだ――。 驚きに強張っていた彼女の身体から少しずつ力が抜けてゆく。吐息が甘くなる。下ろされて いた腕が僕の背中を回り、肩に掴まった。膝が震えている。それは僕も同じだった。
「立っていられない……」
綾波は僕の口唇から逃れ、小さな声でそう言った。
「心臓がすごくどきどきして、苦しい。でも、幸せな気持ち……」
彼女が僕に気持ちを伝えている。言葉にして、はっきりと伝えている。 だから僕も言えばいい。余計な言葉はいらない。ただ一言、伝えるべきこと、伝えたいこと を言えばいい。 だから僕は、僕の胸に顔を埋めている彼女の頬に手を添え、その濡れた瞳をまっすぐに見て 言った。
「綾波、好きだ」
そしてまた口唇を合わせた。 僕のその言葉は、降りしきる蝉時雨にかき消されることなく伝わったはずだ。
綾波レイの部屋を監視するのに適したポイントは二箇所ある。ドア側と窓側の二箇所だ。い ずれも向こうからは見えにくく、こちらからは見やすい。駐車スペースになっていて、車が置 いてあっても目立つことはない。都合よくあったというよりも、そのような場所を作ったと言 うべきだろう。 ガードという目的を考えるならドア側がまずは常道だ。加持はそのポイントに向けて車を走 らせた。 そこには、加持のロータスを追っていたプジョーと、銀色のセダンが止まっていた。その隣 に男が二人と女が一人。女の方はまだ女の子といった方が的確かもしれない。
「目と耳は切ってある」
男の一人が車から降りた加持にそう言った。
「ご配慮感謝します、香取一尉。ですが、よろしいのですか?」 「問題ないさ。現時点ではロストしているわけじゃない。前例はないが権限はある。報告書を 提出する必要はあるだろうがな。だがいずれにしろ」
香取は二人の男女にあごをしゃくり、苦笑しながら言った。 二人の男女――杉と長門は、レイの部屋のドアの方をぽかんと口を開けて見ていた。
「プライバシーの保護という観点からは、あまり意味はなかったかもしれんな」
加持は二人の目線をたどる。そこには、部屋から漏れ出る明かりでシルエットになった、固 く抱き締め合うシンジとレイの姿があった。加持も思わず苦笑した。シンジ君、少しは考えた 方がいいぞ。自分の置かれた立場というものをな。
「いいなあ……」
長門がぽつりと呟いた。
「若者の特権ですかな。加持一尉」 「我々には、彼らに未来を残す義務がある。子供たちを見ていると本当にそう思います。特に あの不器用な二人を見ているとね」 「全くだ。張り倒したくなることも多いがね」
二人は小さな声で笑った。
「加持一尉、何もかもが終わったら飲みに行きたいものだな」 「そのためには生き延びないといけませんね」 「その通りだ」
自分の命よりも子供たちの命が優先する。だがそのために自分に何ができるのか。決意と疑 問につかのま揺れた香取の瞳から、まだひとつになったままのシルエットに目を移しながら加 持は言った。
「見守ることです。大人にできることは他にはないと相場は決まっています」 「違いない」 「いいなあ……」
もう一度そう言った長門ミキの声は、本当に羨ましそうだった。
だがその声は蝉時雨にかき消され、シンジとレイの耳には届かない。
---------- caluさんの「彷徨う虹」より設定の一部を無許可で拝借し、香取、杉、長門の各氏に同じく 無許可で登場願いました。記して感謝いたします。 設定の確認のため作品を読み返し、そこに「蝉時雨」という言葉があることに戦慄しました。 あまりに戦慄したので「蝉時雨が降る」というフレーズをパクらせて頂きました。考えてみれ ば確かに蝉時雨っていうのは降るものなのですが。 タイトルは山下達郎のアルバム「MELODIES」に収録されている同名の楽曲から。
さぼり倒している各スレでのレスは週明けにでも。
 |
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.53 ) |
- 日時: 2010/11/17 10:01
- 名前: ななし
- >>52
BLUE-MIDNIGHT
tambさん、お疲れ様です。お話を堪能しました。
理性と本能が入り混じる思い、現実は手を繋ぐこともできずに、加持達の後ろ押しでようやく行動する事ができたシンジがとてもシンジで人間らしかったです。誤字はない。 人は好きな異性に対して一度は妄想する事に共感してます。レイがシンジに性を抱くよりリアルな展開かと。 なんと言うか『ギリギリ』の描写にチャレンジした作品じゃないかなと思いました。
見守る事も大切だけど、子供が子供らしく生きる為には大人が大人にならなきゃならない。優しさと甘さだけじゃ人は生きてけないし成長しない。 物語には無用の言葉であると知りつつも口にしたかった、すいません。
一線を越えそうなラストは読者の想像で醍醐味を味わうのが乙。 自分は大人の都合に翻弄される彼等は子供であることをもっと楽しめと思ってるので一線は越えられない派で。
タイトルから色々連想したけどTHE MODSが近いのかなと思いました。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.54 ) |
- 日時: 2010/11/17 10:07
- 名前: ななし
あ、山下達郎だった。小説の余韻に浸ってたので言葉最後まで読んでませんでした。すいません。気をつけます。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.55 ) |
- 日時: 2010/11/18 01:00
- 名前: calu
■tambさん - BLUE MIDNIGHT -
久方ぶりのtambさんの作品。予告を拝見して以来、身悶えしながら(笑)お待ちしていたのですが、 その甲斐(?)あってか、登場するレイは天使の如くのPurityをその身に纏って――。 同じく純真を絵に描いたようなシンジに対して、真っ直ぐに幼い自我を発露させるシーンには、ジーン ときてしまいます。そして、そんなレイに対し愚直なまでに罪悪感を感じるシンジ。 そんな二人だからこそ、大人達は、見守らなければ、二人の時間を守らなければ、と感じる一方、大人 である自分を実感するのかも知れないですね。
さて、期せずして出演させていただいた二課ガード作業班の三名。tambさんの作品に出演させていただく なんて百年早いとマキさんに叱られそうです(笑)が、香取一尉をここまで描いていただき正直感激して おります。そして…、
>「見守ることです。大人にできることは他にはないと相場は決まっています」 >「違いない」 >「いいなあ……」
> もう一度そう言った長門ミキの声は、本当に羨ましそうだった。
この合いの手、紛うこと無き長門ミキ、でした。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.56 ) |
- 日時: 2010/11/18 06:35
- 名前: tamb
- ■BLUE MIDNIGHT
書いた直後は「どーだコラ」、アップ直前の読み返しでは「ま、こんなもんだろ」、で今は 「もうちょっと何とか……」と、いつも通り気分が移り変わっております。tambです 。 当初は公園でレイとシンジが遭遇して、レイがそれらしいことを言うんだけど蝉時雨にかき 消されて聞こえない、という話の予定でしたが書いてるうちに展開しました。
■ななしさん ありがとうございます。レイとシンジは実際には手を繋いでますが、これは明らかに繋いで ない方が良かったですね。ここはほとんど最後の方で追加した部分で、手くらい繋がせてあげ ようと思ってしまったのが敗因でしょうか。もっとも、レイは手を離さないだろうと思ったと いうのも事実ですが。 子供は、結局は自分の力で大人にならなければなりません。子供に未来を残すのは大人の役 割です。だから大人は大人でなくちゃいけない。そういう事だと思ってます。 一線は、私も越えられない方向を支持します。まだ早い(笑)。 THE MODSは昔よく聞いてました。やっぱりツーパンクスなんですが。久し振りにまた聞きた くなった。が、テープしかないかもしれん(爆)。
■caluさん ありがとうございます。そして香取、杉、長門の三氏にも感謝の言葉を。 ミキちゃんのセリフは、絶対こうだろと思って書きました。caluさんに認めていただいて嬉 しいです。 あとあれです。ルノーの色を決めてください(爆)。記述はなかった、はず。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.57 ) |
- 日時: 2010/11/18 12:45
- 名前: calu
- tambさん
はい、プジョーですよね。 色はシルバーメタリックでっす。本当は赤色にしたかったらしいですが、 尾行するとき目立つだろ、と課長から諭され、その色にしたらしいです。 今、最終校正中の伝えたいVでも色についての記述が出てくるシーンがあります。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.58 ) |
- 日時: 2010/11/22 02:02
- 名前: tamb
- > はい、プジョーですよね。
はい、ルノーじゃなくてプジョーです。よくわかりましたね。ってわかるか 。
> 尾行するとき目立つだろ
カローラとかサニーとかそういうのを推奨(笑)。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.59 ) |
- 日時: 2010/11/22 23:44
- 名前: ななし
- >>56 tambさん
レイがシンジの手を重ねなかったら、この物語はそこで終わりで 繋いだ手が離れたら、シンジはいくら加持の後ろ押しがあっても 彼女の部屋をノックすらできなかった
と、自分はそう読み取ってます。
手を繋ぐと言う事は相手を受け入れる心理的な行動の1つです。 ある意味、キスよりも純粋で尊い行動かもしれません。 手のぬくもりは人を受け入れ、傷を浄化する優しさを持っています。 唇から伝わる思いとはまた違った「愛」がそこにあるのです。
レイがシンジを手を繋ぐ事で彼の全てを受け入れる事を示した その思いこそがシンジに思いを伝える一番の勇気ではないでしょうか?
>レイとシンジは実際には手を繋いでますが、これは明らかに繋いでない方が良かったですね。
だから、そんなことはないんじゃないかな?と。 勝敗は人それぞれなんですけど、負けたと思ったら次は勝てばいいんです。物語と作者はそうやって成長します。
あのシンジ達が一線越えそうになったら加持さん達は見守るんじゃなく止めろって言いたかったんです(笑)子供が子供らしく、大人が大人にってのはそういう意味です。すいません。
|
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.60 ) |
- 日時: 2010/11/23 06:36
- 名前: tamb
- > 繋いだ手が離れたら、シンジはいくら加持の後ろ押しがあっても
> 彼女の部屋をノックすらできなかった
なるほど、そうかもしれません。物語が作者を越える典型的な例ですな。 もっとも、私が推敲段階で「レイは手を離さないだろうと思った」と思った、というのが、 レイにとってもシンジにとってもシンジにとっても重要だったのかもしれませんが。なんちて。
> 見守るんじゃなく止めろって
それでもやっぱり子供たちは自分たちの力で大人になるんですよ(笑)。
|