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[563] サイト開設十周年カウントダウン企画・九月
日時: 2010/09/02 05:15
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・ごはんがおいしすぎて
・空の高さは
・Higher

です。
八月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中、十月中には、インフォシークiswebライト
のサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイの幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画も
ありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願いします。

では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.1 )
日時: 2010/09/02 21:05
名前: JUN

 綾波レイは全裸の状態で、その場に立ち尽くしていた。異様な緊張感が辺りを包んでいる。レイの紅い
眸はたった一箇所を見つめ、息をするのを忘れていたことに気づき、深呼吸。
 
大丈夫、きっと大丈夫。そんなはずない、身体には常に気を遣ってきたもの……

レイが数日前から感じていた微かな変調。今までにないその症状。それは最悪の事態を予感させるもの
であった。レイの身体にそんな現象が起こったことはかつてなく、また、あのころからそれだけはない
と信じていたものでもあった。レイは恐れゆえに検査をしなかった。碇くんと折角一緒になれたのに、こ
こでそんな危険を冒したくない。碇くんと一緒にいたい……

しかしレイはついに決意した。その勇気を一時的であれ固めるのに、かなりの時間を要した。その症状
が意味するところは、シンジと共に築いた絆を否定する可能性があったからだ。
すう、ともう一度深呼吸をし、検査機の電源を押す。そして、数秒のラグの後、レイの桜色の唇から解
き放たれた言葉は――

「わたし……もう、だめなの?」

 ――限りない、絶望だった。

 

 昼休みは、学生たちにとって束の間の安息である。トウジはヒカリの手作り弁当を食べ、ケンスケはシ
ンジのおこぼれをつつくのが日課だった。そしてもう一つの日課は、
「綾波、お弁当」
 シンジがいつも通りに弁当を差し出すと、レイは幾分複雑そうな表情をした。怪訝に思ったシンジが首
を傾げる。
「綾波、どうしたの?食べないの?」
「えっ……」
「食欲ないなら、無理しなくていいけど。暑いもんね」
 そう笑って踵を返しかけたシンジの手首を、レイが掴んだ。
「へ?」
「食べる」
「え、いや、いいんだよ?」
「へいき。少し考え事してただけだから」
「あ、そう……」
 少し拍子抜けしたようにシンジが弁当を渡すと、レイは妙に力強く頷いた。

「ご馳走様」
「ん、ありがと」
 受け取ったシンジの表情は柔らかい。その軽さゆえだ。
「今日さ、カレーなんだ。ちょっと季節外れだけど、夏野菜の。綾波もどう?少し元気ないみたいだし。
夏バテしたら辛いもんね。カレーなら食欲も出るんじゃない?」

 一瞬はっと息を呑み、レイはシンジを見据えたまま黙り込んだ。シンジが首を傾げる。
「どうしたの?」
「……………………………………行く」
 不機嫌そうなまま言ったレイ。何か機嫌を損ねることをしたかと、シンジはまた心配になる。
「そ、それじゃあさ、六時に家に来てね」
「…………分かった」
 何か対策を講じないとな、とシンジはなんとなく考えていた。





「……ご馳走様」
「はい、御粗末さまでした」
「ファースト、元気ないわね。しんみりしちゃって」
「あなたには関係ない」
 そんなレイの突っぱねるような声にアスカはむっとした表情になり、言い返す。
「何よ。このアタシが心配してんのよ。ちょっとは愛嬌ってもんを持ちなさい、よ!」
 しゃっっ、とアスカが目にも止まらぬ速さで正面に座るレイの額を弾いた。でこピンと言う奴である。
「痛い……」
「ふん、自業自得よ」
「もう、喧嘩しないでよ……」
 シンジが疲れ切った表情で言うと、ミサトはけらけらと笑った。目の前には早くもえびちゅの空き缶が
転がっている。
「いいじゃないのシンちゃん。喧嘩するほど何とやらって言うじゃない」
「その理屈で言うと、ミサトさんも加持さんと仲がいいことになりますよね」
 シンジがしれっと言い放つと、ミサトは右手に掴んでいたえびちゅ缶を机に叩きつける。がん、と大き
な音を立て、中身がこぼれる。シンジは、思わず身を強張らせた。
「ばっか言うんじゃないわよ!アイツ、久しぶりに会って出会い頭になんていったと思う!?」
「さ、さあ、なんでしょう」
「葛城、太ったか。なめんじゃないわよ!花の二十代に何てこと言ってくれんのよ!」
「は、はあ、大変ですね」
 これは地雷だったな、と内心思う。シンジの目では太ったようにはとても見えないが、毎日見ているか
らそう思うだけなのかもしれない。
「そうよ!大体アイツはむかしっからデリカシーってもんが……」
 ぶつぶつと愚痴をこぼし始めたミサトに、アスカとシンジは目で合図を交わす。絡み酒よ、シンジ。分
かってるよ、アスカ。
 こうなると長い。早急な退避が必要だ。とりあえず、
「あ、綾波。帰ろう?送るから」
 レイを逃げ道とする、シンジはその結論で落ち着いた。助かったな。頑張って、アスカ。


 しかしレイはじっと空になったカレーの皿を見つめている。その中に絶望が垣間見え、シンジは昼間感
じた不安を再び覚えた。
「綾波?」
「…………っ、ごめんなさい」
「いや、まあいいんだけどさ」
 くどくどとこぼし続けるミサトを尻目に、シンジとレイは玄関へ向かった。アスカが涙目になっている
のが、視界の隅にちらりと映った。





 暗くなった夜道を、シンジとレイが肩を並べて歩く。先ほどからシンジが何度も声をかけているのに、
レイは生返事ばかりでどうも要領を得ない。とうとう話題の尽きたシンジは気詰まりになって黙り込んだ。
 砂利とアスファルトの擦れる濁った音が、二人だけの道に響いた。シンジはふと、今日ずっと疑問に思
っていたことを口にした。
「そういえば綾波」
「………………なに?」
「今日ずっと変だけど、どうしたの?お昼も、さっきも」
「…………」
「食欲ないみたいに見えたけど、でもお弁当もカレーも食べてたし。むしろお代わりしてたし」
「…………」
「もし僕の作る食事に不満があるなら、言ってくれたら直すけど」
「……………………ったの」
 ぼそりとレイが何かを口にする。足音に掻き消されんばかりに小さい声に、シンジは思わず聞き返した。
「え、なに?聞こえないよ」

 レイの歩みが止まる。気づかず少し前まで歩いてしまったシンジは振り返って彼女を見た。レイは息を
軽く吸ったかと思うと、普段の彼女からは想像のつかないほど大きな声で、



「………………太ったの!!」



ごはんがおいしすぎて  Written By JUN


「――――へ?」
「……太ったの」
「綾波が?」
「他に誰がいるっていうの?」
「だって、ねえ……」
 正直全くそんな気がしないのである。暗いせいではっきりとは見えないが、少なくともそんな兆候は感
じない。
「……碇くんのせいだわ」
「僕の?」
「碇くんの作るごはんがおいしすぎて、我慢しようと思っても、つい……」
「いや、それほどでも……」
「ほめてない」
「あ、ごめん……」
 レイはかなり打ちひしがれている。が、それと対照的に、シンジは全く危機感を覚えない。シンジが愚
かなのか、レイがそうなのか。
「太ったって、何キロ?」
「…………それを私に訊くのね」
「いや、誰にも言わないし、本人が太ったって言ってもそうでもないこともあるし、何キロ台かだけ」
「…………」

 レイは暫し押し黙った後、蚊の鳴くような声で、

「さんじゅう――」
「うん、ちょっと話し合おうか」
 あんまりだ。標準体重など知らないが、細いことくらい分かる。三十後半で、やっと人並みと言ったところだろう。
「碇くんのごはんを食べ始めてから一ヶ月で、五キロ。こんなのってないわ」
「……あのさあ、綾波」
「なに?」
「太るのとさ、成長って違うと思うんだ」
「背は伸びてないわ」
「いや、だからね……」
 シンジはぽりぽりと頭をかいた。
「綾波、どうしてそんなに気にするのさ」
「だって……」
 乙女心はよく分からない。気に病む必要もないように思う。アスカといいレイといいミサトといい、何
故体重にばかり気を遣うのだろう。細身なシンジは少し複雑な気分になった。
「太った私なんて、碇くんは嫌いになる」
「え?」
「昔、言ってたわ」
「……そんなこと言ったっけ」
「細い綾波が好きだって……」
「………………ああ、そういえば」
 確かにそんなことを言った気がする。けれどそれはレイが痩せすぎていることを気に病んだレイ自身を
シンジが慰めるのに使った文句だ。胸が小さくなることを危惧していたような……
 皮肉だな、と思う。痩せた事を気にしていたレイが、今度は太ったことを気にしているのだ。シンジの
食事によって。ならその悩みを解消するのも、シンジの責任だろう。
「ね、綾波」
「……なに?」
「確かに僕は、細くて綺麗な綾波が好きだよ」
「やっぱり。まるまるした私なんて……」
「でも、もっと綺麗なもの見つけたんだ、最近」
「――え?」
 レイが聞き返すと、シンジはにっこりと笑った。
「なに?」
「それはね……」
 まだどんなに偏って見ても太っているとはいえない身体を、シンジはそっと抱き締める。
「はぅ……」
「僕の作るご飯を、毎日おいしいおいしいって食べてくれる綾波の顔が、世界で一番、綺麗だよ……」
「いかりく……」
「だから、何も心配しないでいいんだよ。お腹一杯食べて、それで僕に、綺麗な顔を沢山見せてよ。ね、
綾波……?」
「でも、太っちゃう……」
「そしたら、痩せられるメニューを、僕が考えてあげる。僕はね、薬とか固形食品でお昼を済ませてた綾
波がちゃんと食べてくれたら、それだけで嬉しいよ。僕のご飯、嫌い?」
 レイはふるふるとかぶりを振った。
「きらいじゃない、大好き。でも、おいしすぎて……」
「嬉しいよ、綾波…………」
 いっそう強くシンジが抱き締めると、レイはまた熱く吐息を漏らした。
「あ……」
「だから……僕のご飯食べてる時みたいに、ほら……」
 前髪をそっとかきあげ、額に口付ける。
「笑って、ごらん?」
 レイはしばし視線を彷徨わせた後、躊躇いがちに、ゆっくりと微笑んだ。太ってもいい、碇くんは、あ
りのままのわたしを見てくれる――

「……明日のお昼は、なにがいい?」
「えっと――」


                  おしまい
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.2 )
日時: 2010/09/02 21:09
名前: JUN


            空の高さはvol.1



肌寒い、とレイは思った。こんなことは初めてだ。レイが思った通りのことを言うと、シンジは笑
った。
「秋、って言うんだよ」
「あき?」
「そうだよ。セカンドインパクト前あった四季だね。僕も初めてだけど、悪くないと思うよ」
 これからもっと寒くなるよ、とシンジは言った。
「もっと?」
「うん、ミサトさんが言ってた。次に冬が来て、川が凍りつくんだって」
 そんなの耐えられない。
「わたしも凍っちゃうわ」
「ん、そうかもね……」
 つないだ手はそのままに、シンジは立ち止まった。
「碇くん?」
「そしたら……僕が暖めてあげる。こうして……」
 ふわり、とシンジがレイを包み込んだ。シンジの匂いに、心が落ち着く。
「あったかい……」
 よかった、とシンジが言い、より一層強くレイを抱き締める。火のそれとは全く違う、人の温もり。碇くんの、温もり……

「そういえばね、綾波」
「なぁに……?」
 答えるレイの声は、どこかふわふわとして捉えどころがない。シンジはくすりと笑った。
「昔の人はね、秋のことを“天高く馬肥ゆる秋”って言ったんだって」
「うまこゆる……?」
「秋ってね、空が澄んでて、涼しくて食欲も出るから、馬とかも太っちゃうんだって」
「天が……高いの?」
「うーん、不思議な言い方だよね。でも空ってさ、曇りがなくて綺麗に見えると、宇宙の果てまで広がってるような気がしない?」
「ん……」
 分かるような、分からないような。碇くんは、たまに難しいことを言う。でも、
「碇くんが言うこと、私にはよく分からないけど、でも――」
 シンジの背に回した腕に力をこめ、レイは言った。
「碇くんに出会ってから、私の世界は変わった。何の色もなかった世界に、色をつけてくれた。空が高くなったのも、きっと碇くんの……」
「綾波……」
 声を詰まらせるレイに、シンジはたまらなく愛しい気持ちになる。
「僕も綾波に会えてよかった。いつだって、君は僕を護ってくれてた。でもね」
 じっとレイを見つめ、シンジは笑った。
「これからは、僕が綾波を護るよ。僕意気地なしだから、ちゃんと護ってあげられないかもしれない
けど……」
「そんなことない。碇くんは言ってくれたもの。私、いつまでだって憶えてる……」
 レイも笑った。美しかった。
「綾波は綾波しかいない、って……」
「そうだった、ね……」
 そっとレイの背中をさする。それだけで熱い篭った息を漏らしてしまうレイが、やはり愛しかった。
「大好きだよ、綾波……」
「わたしも…………大好き」


△▼▲▽


「ねえ、いつ出るのよ?」
「うーん、シンジ君も気障だねえ……」
「……あんたが言うなら、きっとそうなんでしょうね」
「アスカ、君も言うようになったね」
「そお?アンタだって最近結構酷いわよ、カヲル」
「そんなことはいいんだよ、いつ出る?」
「ここが通学路じゃなかったらねえ……」
「自覚がないね。あ、アスカ、見てみなよ」
「え、ちょっと、嘘でしょ……?」
「……逸材だね、シンジ君は」
「あいつら結婚でもしたら、子供の将来が心配だわね……」
「全く、好意に値するよ………………はあ、シンジ君は……………………」
 熱い口付けを交わしつつ抱き合うシンジとレイを眺めながら、二人は鉛より重い溜息を吐いた。



                  おしまい
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.3 )
日時: 2010/09/05 10:55
名前: JUN

「やっと、会えたね……」
 そう言った碇くんの声は、なんだかとても久しぶりだった。


higher vol.1




「いかり、くん……?」
「そうだよ」
 碇くんの笑顔は、昔と全く変わらず、暖かかった。しかしそれはどこか捉えどころがなくて、私の
心を不安定に揺らした。
「ここは……?」
 私が訊くと、碇くんは困ったような表情をした。私の頬を抱き締めたままそっと撫でて言う。
「ここは……なんだろうな、すごくすごく、高い所だよ」
「たかい、ところ」
「うん」
 それだけ言って、碇くんは黙り込んだ。私の――あるかどうかも分からない――後ろ髪を梳いて、
額にキスをした。
「ずっと、待ってたんだ……」
「いかりくん、わたし、どうなったの?」
「どうなったと、思う?」
 逆に碇くんは聞き返した。それは多分、私がその答えを理解していることを、知っていたからだと
思う。確信をこめた視線が、私に向けられた。
「私、死んだの」
「…………」
 それは質問というより、確認だった。碇くんは黙ったまま、私の頭を撫でていた。
「僕はここで、綾波が来るのを待ってた。僕と綾波は、夫婦だったんだよ」
 碇くんの言葉は私のとても深いところに潜り込んで、無くなった記憶をつつく。水墨画のように薄
ぼんやりと、しかし確かに想い出は掘り返されていった。

 私と碇くんは結婚して、一緒の会社に入社して、子供がいて、それから――

「碇くんも、死んだ……」

 憶えてる。とても悲しくて、碇くんの後を追おうとも思ったけど、碇くんはずっと、死んじゃだめ
と言ってくれてたから、私は頑張ってこらえた。子供は自立していて、孫もいた。でも、碇くんだけ
いなくて……

「とても、寂しかったよ……」

 碇くんの腕は、わたしのそれと見紛う程に真っ白だった。もっとも、その腕が本当にあるそれなの
か、私には確信がもてない。そんなに重要なことでもないと思う。今、碇くんに抱かれている。それ
だけは確かなのだから。

「私も、寂しかった。碇くんがいなくて。でも――」
「これからは、一緒にいるからね、綾波……」
「どれ、くらい?」
「分からない。でも、永遠じゃない」
「なんで……?」
 私が死んだのだとしたら、ここはきっと天国というやつなのだろう。いっそ地獄でも構わない。碇
くんがここにいるなら、そこが私の理想郷だ。
 でもその理想郷すら、永遠じゃなくて。
「人は……生まれ変わるんだ。新しいヒトとして。僕も……綾波も」
「…………」
「だから、いずれまた、ここを離れなきゃいけない。僕の方が先にここに来た。だから、僕の方が先にここを離れると思う」
「いや……」
 私は力の限り碇くんにしがみついた。しかしその手ごたえはあまりに小さく、かえって私を不安に
する。碇くんのいない世界で独りきり。耐えられないと思った。
「でもその時が来るまでは、ずっと一緒だよ、綾波」
「…………」
 答えられなかった。永遠じゃない。生まれ変わるということは、恐らく記憶もなくなる。もう一度
碇くんに逢える確証もない。仮に逢ったとしても、私が気づける保証もない。
「目を閉じて」
 私の沈黙をどう受け取ったか、碇くんは言った。私は言われたとおりにした。

 そっと、碇くんの唇と私のそれが触れ合った。曖昧な感覚ではあったけれど、それでも嬉しかった。
飽きることはなかった。碇くんが旅立つその時まで、私はこうしていたい。










 そして、一瞬の永遠が過ぎた。





















 碇くんが、そっと私を放す。寂しそうな、切なそうな、そんな表情を湛えて。
「もう、行かなきゃ……」
 眸の奥から涙がこぼれる。碇くんが教えてくれた嬉しい涙とは程遠くて、胸の奥が痛くて――
「まだ、行って欲しくない……少ししか、経ってない…………」
「ごめん、綾波……」
 碇くんが私を抱きすくめる。でもその腕はどんどん色を失って、感覚はぼやけていた。
「生まれ変わったら、今度こそ誰にも邪魔されない幸せな生活をしよう。エヴァなんてない、平和な
世界で。お店をしてもいい。僕の料理、みんなに食べてもらって。綾波みたいにかわいい子がウエイ
トレスさんをすれば、きっと一杯のお客が来るよ。たまには休暇をとって、二人で旅行に行こう。温
泉とか、外国とか。混浴とか入って、美味しいもの沢山食べて、それから、それから――」
 不意に、碇くんの声が詰まる。私がここに来てはじめて見せた、碇くんの涙だった。
「いかり、くん……」
 もう、碇くんの腕はほとんど色を失っていた。私の身体を――魂を――抱く力は弱くて、自ずとこ
れから起こることへの予感を感じさせた。
「次、生まれてくるときは、名前も、顔も、国籍すら違うかもしれないけど、綾波がもう一回、僕と
一緒になりたいと思ってくれるなら、きっと、逢えると思うから、だから――」
「わかってる……」
 そっと抱き締め返す。もう、感触はほとんどなかった。
「わたし、いつまでだって待ってるもの…………」
「ありがとう、綾波――」

 そして、碇くんはいなくなった。










 そして、永遠の一瞬が過ぎた。


















 私の身体もぼやけてきた。永い永い時間が、ようやく過ぎたのだと思った。碇くんの一年後に、私
はここにきた。だから碇くんがここからいなくなってから、一年しか経っていない。
 でもその一年は、私にとって碇くんとの百年より永い一年だった。

 でもそれも、もうすぐ終わる。

 あの時の碇くんの言葉は、今でもはっきり憶えている。二人でお店をしたい。温泉にだって行きた
い。私の初めては次も、碇くんにもらって欲しい。
 体が透ける。怖くはなかった。喜びだけだった。私が消えるその瞬間まで、私は碇くんのこと想っ
てる。

 ――今、行くから…………!

 そして、レイはいなくなった。
























「お母さん、新しい家庭教師の人ってどんなひと?」
「大学生だって。イケメンらしいわよ?」
「顔はどうでもいい。興味ないもの」
「またまた、リンも年頃なんだから、彼氏の一人くらい居てもいいんじゃない?」
「恋人なんて、作る気しない。どうしてか、分からないけど……」
「…………そう。まあいいわ。家庭教師の人、リンの一つ上なんだって」
「一つ!?大丈夫なのそれ?」
「飛び級で、もうすぐ大学卒業すんのよ。すごいじゃない」
「ちょっと待って。それ、日本人?」
「そうよ。でも国籍はアメリカ。色々複雑らしいわ」
「ふぅん。でさ、名前はなんていうの?」
「えっと、確か、あれ、なんていったっけ」
「ちょっと、しっかりしてよ」
「ええっと…………そう!」
 母さんはぱちんと手をたたき、
「六分儀――」

 変わった名前だな、とその時私はそんなことしか思わなかった。


            おしまい
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.4 )
日時: 2010/09/07 02:32
名前: 何処 ID:omyb-w4BvGU

「しっかし…」

玄関を開けた私の目前には朱金の髪を靡かせる女がいる。

ハイヒール分高い視線からその蒼い瞳を見開き、しげしげと私を眺める彼女は世間一般から見て美女と言って間違い無い。

数年振りに再会したその美女は開口一番こう言ってのけた。



「…肥えたわね…」




【幸せのかたち】




相変わらず遠慮無い直接的な物言い。私は変わらぬ友人に微笑んだ。

「…五ヶ月…未だこれから大きくなる…」

「いゃいゃ、アタシん時はそんなにならなかった。」


真顔で否定する彼女に昔の記憶が重なる。


「…悪阻酷かったものね…」

「酷かった。確かに酷かった。」

「ご飯は匂いで駄目、肉も魚も脂身が駄目、野菜も生以外駄目、味噌も醤油もバターもチーズもマヨネーズもケチャップも…」

「ウップ、言わないでよレイ、思い出しちゃうじゃない…。」

「…って立ち話もあれね、入って。」



彼女を招き入れ、四重の鍵をロック、ダイニングのソファーに腰を据えた彼女はお茶の用意をしている私に嘆息混じりの感想を述べた。


「…ここの治安は未だ悪いのね…」

「日本と較べたら駄目よ、セキュリティは入ってるし、ここら辺はこの国では普通よりマシな方。それに来年は日本に戻る予定…」

「でもねぇ…」

「仕方無いわ。シンジさんの都合だから。」

「ま、レイがそれで良いなら構わないけど…しっかしあんた、今ん所は悪阻の心配無さそうね…」

「ええ、それどころかご飯が美味しすぎてつい…」

「家の可愛い阿呆娘と同じ台詞言わないでよ…」

「ライちゃん、大きくなったでしょ?」

「四つ。こないだ帰国したら『おかーたん、ライチェはねー、もーおむちゅいらないのよえっへん』って…」


「か…っ…可愛い…」


栗色の髪に黒い瞳の幼女が母親そっくりなポーズで宣言する姿を思い描き、私はその可愛いらしさに感動した。


「全く四つで漸くだからねぇ。なぁにがおむちゅいらないのよだか…」


その口調と裏腹に碧眼を輝かせ溢れる感情丸判りな彼女の微笑みに、私もなんだか可笑しくて吊られて笑っていた。


「クスクス…」

「でも…もー女の子最高!いいわぁ、ベビーシッターの娘もライセにメロメロなの!『ライチェちゃん、お花の絵書いてくれたんですよ!“お花あげたいけど、摘んだら痛そうだから絵をあげる”って!』な〜んて…」

「可愛い!ライちゃん可愛い!シンジさん、ライちゃんの話になるといつも言うのよ、何で話してくれなかったのかって。」

「まーねー、シンジには悪い事したと思うわー。あたしもまさか離婚してから懐妊に気付くとは思わなかったわよ。大体同じ相手に三回も離婚てどれだけあたしもシンジも馬鹿だったんだか…」

「仕方無いわ。あれはシンジさんが悪い。貴女と結婚したらいきなり月基地に一年とか、反省したかと思えば今度は南極に一年、挙げ句は静止軌道で火星探索船建造でしょ?」

「何よ、あんたもシンジに含む所有る訳?」

「大有り。大体二月前から先週まで私を置いて南極よ!?全く碇君は…」

「プッ!レイ、あんた感情的になると『碇君』になる癖未だ直らないの?」

「え?あ!私又言っちゃった!?」



――――――――――――――――――――――――



「あら、もうこんな時間。アタシこれから国連本部に顔ださなきゃいけないのよね。」


暫しの歓談の後、壁の時計を見て彼女は腰を上げた。


「?何、もう行くの?もうじきシンジさん帰って来るわよ?」

「あのね、元妻が現妻と仲良く元旦那迎えるってのはどーなのよ?」

「?何か問題ある?」

「あんたは良くても世間体って物もあるのよ。」

「?良く解らない。人の数だけ幸せのかたちはある…」

「人の数だけ幸せのかたちは…か。それの解らない連中の多い事…」

「?解らない?」

「…片親って事は不幸だって言い寄ってくる馬鹿や再婚して家庭を大切にしろってお節介焼きや英才教育を薦めに来る自称教育専門家やら…」


仕事と家庭を両立させ、女の魅力を忘れず自信と愛情と優しさとユーモアに溢れた彼女の陰りのある表情は事態の深刻さを物語っていた。


「それはおかしい。貴女は家庭を大切にしてるし経済的にも家庭的にも問題は無い筈。」

「…なんだけどね…私母親には向いてないらしいから…」


…時々アスカが解らないのは、こう言う突拍子も無い事を平気で言う所だ。
私の知る限り、彼女の母親としての有り様は完璧だと思う。
思わず私は聞き返した。


「?どこが?」


私は余程意外そうな顔をしていたのだろう。苦笑しながら彼女は説明した。


「未だ日本じゃ今の私は世間一般からすれば育児放棄してるって言われても仕方無いの。週に3日は家に帰れないし、年に数回は月単位で出張や講演、会議に研究…育児の大半はベビーシッターと施設頼り。言いたい人には言わせてるけど色々有るのよ…」

「?それはおかしい。私は父も母もいないけれど決して不幸ではなかった。不遇かも知れなかったけれど、私は幸せだった。」

「レイ…」

「自信を持ってアスカ、貴女は私の知る限り最高の母親よ。」


…暫く彼女は泣いていた。
携帯が鳴るまで。


「え、時間!?やっばー遅刻しちゃう!」


慌てて彼女が化粧を直し、部屋を出る時には既に迎えのリムジンがこのアパートメント前に止まっていた。


「今日は有り難うレイ、何だか順番が逆になっちゃったけど、おめでとう。母親仲間が増えて嬉しいわ。」

「次はライちゃんも連れて来てね、碇・アスカ・ツェッペリンさん。」

「…あんたさ、何で“碇”姓にしなかったの?」


「…“綾波”は私の名前…私は綾波レイであって、碇レイになるつもりは無いわ。」


そう、これは私の矜持。


これは私だけの絆。


そしてこれは



私の唯一つの我儘。


私は私。誰の人形でも無く、誰の道具でも無く、他の誰でも無い。

それを教えてくれたのは貴女よ、アスカ。


そんな私の思いを知ってか知らずか、彼女は私の返答をごくあっさり流した。


「あ、そ。じゃ、お邪魔したわね。あんた逹も早く日本に帰って来なさいよ、ライセと待ってるわ。」

「アスカ、あのね…ここだけの話…実はこの子…女の子。」

「イヤッハー!!おめでとうレイ!ライセに妹が出来たって報告しなきゃ!」

「…名前はね、実は…」


【終わり】
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.5 )
日時: 2010/09/16 05:07
名前: tamb

■ごはんがおいしすぎて/JUN

 通常投稿、あるいは通常投下であれば、タイトルの後出しと共に緊迫感のあるいい書き出し
ということになるのであろうが、お題に「ごはんがおいしすぎて」があるだけに、ああ太った
のねと誰もが思ってしまう書き出しと化してしまうのである(笑)。実に小説は難しき(この場
合の「実に」は「げに」と読むのです)。ちなみに

> 綾波レイは全裸の状態で

 が既にネタっぽくなっている事に注目。どうすればネタっぽくならないのかは難しいけど。

 話としてはど真ん中ストレートで、ちゃんとしてるというか書けてる。新婚妻が張り切って
料理作りまくって、あげく旦那が太ったと文句を言うような話、ではない。ついでに禁煙を強
要したりすれば完璧。これで太るなと言う方がどうかしてる。

> 太ってもいい、碇くんは、ありのままのわたしを見てくれる――

 限度はある(爆)。まぁ三十何キロなら問題はないけれども。

 なんか前にも体重の話があったな。何センチで何キロなんて、私に対する挑戦ですかー! 
みたいな十四歳微乳美少女処女の乙女ちっくな反応があったような気が(笑)。


■空の高さはvol.1/JUN

 バカップルである(笑)。
 他に特になんだということはないけれど(笑)、こういうのは見つけた瞬間に「なにやってん
だよお前らー」と普通に出て行ければいいんだけど、あ、とか思って引っ込むと出て行くタイ
ミングがないんだよな。で、後ろから人が来て「なにやってんの」「いやあいつらが」「あ」
ということになって後ろに次々と人が溜まってゆくと(笑)。
 そしてタイトルがvol.1ということはvol.2があると?


■higher vol.1/JUN

 higherでこう来たか! とびっくり。

> そして、一瞬の永遠が過ぎた。
> そして、永遠の一瞬が過ぎた。

 同じ時間でも二人でいると短く一人でいると長い、ということを表そうとしたのであれば、
なかなか美しい。

 でも、エヴァなんだからこの手の話ならガフの部屋ってフレーズはあっても良かったかな。
ショートショートだし。ついでにスズメのさえずりなんて言葉もあったりすると。なくてもい
いけど。

 そして、なぜこの歳になるまで出会えなかったのかが問題になる(笑)。

 さらにタイトルがvol.1ということは以下略


■幸せのかたち/何処

 これもなかなか難しい話だが、シンジはアスカと結婚離婚を三回繰り返してレイと結婚した
のか? バカか?(爆) しかしこれは形を変えた一夫多妻制とも読める(笑)。

 子の親であるというのは難しい。女性は子供を産むと妻ではなく母親になってしまう、とい
うのは日本人だかアジア人だかにありがちなケースらしいけど(妻を貫くのがアメリカ人だっ
たかもしれん。よく憶えてない)、よき母でありよき妻であり、そしてよき社会人(なんて書
くと母親は社会人じゃないみたいだけど、でもなんて呼んだらいいのかわからん。企業人じゃ
ないだろうし)であり続けることは、やはり困難ではあるけれども不可能ではないとは思う。
 さてシンジ君はよき夫でありよき父であった(ある)のだろうか、とこういう読み方をどう
してもしてしまう。

> 「…名前はね、実は…」

 アスカ?

 さて今回のエンディングテーマ。よく探してくる(笑)。今回、曲はあんまり好みではなかっ
たけれど、CGはやや素人っぽい部分があるとはいえかなりちゃんとしてる。なんか安くていい
ソフトかフリーウェアがあるんだろうけど、脅威だ。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.6 )
日時: 2010/09/17 14:07
名前: のの

悪ふざけ!悪ふざけ!悪ふざけ!

叫ぼうか!叫んだら!叫ぶとき!

そうそうそうだ、和を以って、尊しと成す!


Day Tripper!!

出張版第3話


「Higher!!」



 スティックの砂糖を入れてかき混ぜた紅茶にポーションミルクを垂らした時のように教室に同級生たち
の声が渦巻いていた。6限目の授業が終わってから先生が来るまでの数分間。必殺のビームを撃たずに決
着をつけようとする変身ヒーローを彷彿とさせるぜ、と相田君が呟いた。わたしにはよく分からない。

「どういう意味?」
 わたしが訊ねると、相田君は肩を竦めて「綾波にはわかんないよ」と、確信に満ちた諦観を吐き出した。
そういうものかしら、とわたしはなんとなく腑に落ちて、対角線上の、騒々しい教室の中でも一際騒々し
いはずの塊が、今日に限っては静寂を保っている様子を窺った。この騒々しい声も、スラップスティック
がお似合いの集団の異変をかき消さんとするためのように見えなくもない。わたしは日誌を書き終えてそ
の塊に足を運んだ。

「では昨日、調子こいた私渚カヲルの『スベ・テ・セミーマル』がもたらした災禍を償うべく、これより
反転の儀を執り行います。皆さん、くれぐれも本日家賃を振り込むために早退するという偉業を成した霧
島様には「渚カヲルは自腹で買ってきた」と吹聴していただき、私の庶民性と気配りを流布していただけ
ればと思います」

 最終的には顰蹙を買う言い回しにも、皆黙って見守っている。さっき言ったようにマナは早退している
し、アスカは体育で跳び箱を飛んだ際に足を挫いて病院に寄っている。クラスの女王様と騎士がいないと
あれば、昨日の不思議は素直にもう一度見てみたいものよ、という好奇心を優先させた山岸さんの提案に
より、不肖の義兄の愚兄が、表情に一切の波風を立てずに百人一首(だった一人一首×100)を両手に
包み込んだ。

「ハァー、フゥー、ハァー……」

「なんや、エロ本記事にある呼吸みたいやなあ……」
 もう一人の本能の奴隷関西人が益体もない冗談で委員長に睨まれた。無様ね、という赤木博士の言葉が
頭の中で再生された。ちらりと見ると、碇くんも同じことを考えているらしい顔をしている。わたしには
わかるんです、不思議と。フフフ、ウフフフフ。

「ハイヤーーーーッ!」

 閉じた眼を大げさなほどに見開いてカルタの束を握りこむ。すると百枚分の紙を握りこむ手がどんどん
縮こまり、最終的に指を組めるまでになっていった。

「「「「「おおおおおお!?」」」」」

「んんん…………ハーーーイアーーー!!!」

 力いっぱい握りこんだ両手を大きく掲げ、同時に百枚のかるたが天井を舞った。騒いでいた皆も集まっ
て百枚分のかるたを拾うと、芥子色の着物を着たおじいさんは一人に戻り、確かに色とりどりのかるたに戻っていた。

「ふはは、見たかい僕の奇術を!これが秘奥義『デウス・エクス・マキナ』さ!!」
「今度はかっこいい名前なんだな、名前は……おーすげ、ほんとに戻ってるんじゃね?」
 実はわたしたちの中で最も冷静な相田君がカメラをぶらさないよう気をつけながらファインダーから視
線を外して覗き込んだ。

「でも、元に戻りきらないのもあったりして」
 碇くんは拾い上げながら、首をかしげて笑っている。それとなくこっそり優しくないご意見に、愚兄は
露骨に肩を落とした。
「そんなはずないよ、完璧さ。シンジ君、君は僕を信じてくれないのかい?」
「そ、そういうわけじゃないよ、カヲル君」
「そんなに近づかないで」
 わたしは素早く彼に近づけまいと手を振る。

「碇くんの言うとおりだわ、あなたのことだから実は戻りきってないかもしれない」
「そんなはずがあるもんか。大体元に戻した事についてもっと賞賛してしかるべきじゃないのかな」
「わたしには確かめようもないわ、知らないから。だから永久に疑わしいの」
 渚カヲルは大げさに顔に手を当て、困惑と悲哀を同居させたわざとらしい顔を作った。

「あの……全部合ってましたよ、綾波さん」
 極細ポッキーのような声だったので聞き逃すところだったけど、うっかり耳に飛び込んできた声にびっ
くりしたと同時に、大きな口をこれでもかと横に広げた渚カヲルが眼に入った。

「山岸さん、わかるの?」
 碇くんの質問に遠慮しながら頷く。
「いま全部チェックしましたけど、確かにどれも戻ってました」
「この僅かな時間でこれだけの量をか。山岸、バッチリ収めさせてもらったぜ」
「いやぁ、恥ずかしいです……」
 わいわいわい、と山岸さんを絶賛する風が吹いた。

「いやいやいや、世の中は厳しいね。人の上に立つ英雄は常に俗人に打ち倒されるということか」
「握りつぶされたじゃない、あなた」

「はぁ……いやあ…………風が寒いねぇ……」
 吹いてもいない風を感じた彼は、そそくさと席に戻っていった。肩をすぼませすぎてお箸みたいな後ろ
姿に、誰かが呟いた。

「いや〜、平和だねえ」
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.7 )
日時: 2010/09/17 14:08
名前: のの

 ヤバヤバです。賭けても良いです。

 じゃばじゃばとお酢、かけてもいいです?

 中華には必須、欠かせないです。

 これが夢です。「あなたに必ず食べさせます」。



Day Tripper!!

出張版第4話

「おいしいご飯、その秘訣」



 碇くんには敵わないけど、これでも自炊はきちんとする方だ。
 まだまだ残暑が厳しいので、暑気払いの意味でマーボーナスを作ろうと思い立ったわた
しはご飯を研いで、スーパーに出掛けた。歩いて12分の大型スーパーか、歩いて五分の
個人経営のスーパーか。面倒臭いので近場で済ませる事にしようと思ってサンダルに足を
入れた。台所へ出るだけでも十分暑いので、ドアを開けたら吹き込む熱風は予測できてい
た。実際には熱風とまでは言えない風だったので、まあいいかなと思って階段を下りる。
わたしはよくよく四階に縁のある人間らしく、エレベーターのないアパートの最上階はま
たしても四階だった。おかげで毎日階段の上り下りを強いられている。
 オートロックの入り口をくぐると目の前は公園で、学校帰りの子供たちが遊んでいる。
本当はわたしも皆と遊ぶ予定だったけど、あいにく皆都合が悪くて解散となった。わたし
たちは受験生の身なので、そろそろいよいよ本腰を入れなくてはならない。いつもはふざ
けてばかりいるけど、真面目に考えなければならない時もある。真面目に考えた結果、山
岸さんは市内の看護学科がある女子高、相田君は工業系の専門学校へと進路を決めている。
困った事に、わたしたちは中学でバラバラになってしまう。だから真面目にふざけている
んだ、と思うと夕陽が目に染みた。

 そういえば金曜日は特売日だったことを思い出して進路変更、大型スーパーまで足を伸
ばしてみる事にした。
 携帯電話を開けてみると、気づかない間にメールが入っていた。マナからだった。写真
が添付されていて、開いてみると「ぱちんこ」の文字がひと文字電気が消えていて「ぱん
こ」になっている写真だった。わざわざ丁寧に(使いかけの)パン粉を手にして、行くた
びに見かける部屋着に着替えたマナが看板を指さしている。なんだか気が抜ける。それが
ちょうど良かった。

 スーパーは思っていたより混雑していた。やっぱり特売の力はすごい。しかも飲み物も
大安売りらしくて、レジ近くには色々な種類のペットボトルが並んでいて、二桁で売られ
ているものもあった。
 わたしは、なんとなく気勢をそがれてしまった買い物欲を取り戻そうと茄子を選び、精
肉コーナーへ足を運んだ。未だに得意な分野ではないけれど、ひき肉なら平気。ずらりと
ピンク色が並んでいるのはそれでもあまり気分のいいものではなかった。素早く一番小さ
いサイズの挽肉を選んで立ち去ろうとした。

「あれ、レイ?」
 後ろから声をかけられたので振り返ると、洞木さんが立っていた。わたしと違う点があ
るとすれば、彼女は制服姿だったこと。彼女が鞄の紐を掛け直す仕草に力が入っていたの
を見つけて、わたしは納得した。
「勉強?」
「うん。こんな時間になっちゃったけど」
 わたしにとってはこんな時間、というほど遅くない。それでも彼女にとっては遅くなっ
てしまったのなら、それは彼女が家に帰った後も仕事がある事を意味していることだと理
解し、わたしはひどく曖昧に頷いた。家で誰かの世話を焼く、という感覚はわからない。

「一人暮らしだと大変ね、全部自分でやらなきゃいけないんだから」
「いくらでも手を抜けるもの……きっと、そっちの方が大変」
「まあ、そうかなあ……さすがにお姉ちゃんも色々やってくれるから楽よ。私は、今日は
買い物だけ」
 役割分担、という感覚もわからない。

「……なに作るの?」
「麻婆豆腐だって。ノゾミがいるから、うちのは辛くないのよ、全然」
 どこでも考えることは似たようなものなのかな、と少し笑ってから言った。
「うちは、麻婆茄子」
 わたししかいない家だけど、と口の中で皮肉が出てきそうだったので言葉少なに言うと、
いいわねえ、と彼女は言った。
「山椒を少しだけ入れると、本格的よ」
「そうなの?」
「うん、本場っぽい感じ。行ったことないけど」
 以前、仕事で二時間だけ碇司令に同行して行った上海のことを思い出す。別になにも食
べなかったから、わたしも同じだ。
「……別に、いい。どのみち、使い切れないから」
 それきり、並んで物色するわたしたちの会話は極端に減ってしまった。なんとかしたい
と思うけれど、その気になれない。わたしと彼女では、何を言っても多勢に無勢というか、
帰った家に誰がいるか、という話になってしまいそうだった。

最後に、なんとなく1リットルのパイナップルジュースをかごに入れてみた。洞木さん
は気遣ってくれたのか、いいなあ、と言ってその隣のりんごジュースを籠に入れた。結
構重くなるよね。そうね。やっぱり短いセンテンス。
洞木さんの鞄はいかにも重そうだった。受験勉強用の参考書が入ってるのかな、と思っ
た時、頭の後ろで閃きが起きて思わず声に出していた。

「鈴原君と勉強してたの?」
「え、えぇ!?」
 あ、やっぱり。
「な、なんで?」
「それは承認した、ということでいいの?」
「うぁー…………まだ、皆には言わないでよ?」
「もちろん。口はかたいから大丈夫」
 二人きりで話したことは、なんとなく皆には言いづらい。
「鈴原が……やっぱり皆と同じ学校行けるだけの努力するって言うから、協力することに
なっちゃって……」
「それは協力を要請されたの?それとも申し出たの?」
 後学のために是非知りたいの、とまではさすがに言えない。今日のわたしはミステリア
スなんです。
「う、うーん……まあそんな細部は、いいじゃない!」
 と言ってレジに並んでしまった洞木さんを慌てて追いかけようとしたけど、なにしろ混
雑しているので先に入られてしまい、別のレジに並んで会計を済ませた。一足早く袋詰め
をせっせと行う洞木さんの隣に籠を置く。
「ねえ、どうなの?」
「だから、そんな細かいところ、憶えてないよ」
「嘘ね」
 ディティールこそ萌え、もとい肝要なところなのだから気になるのは当然のこと。
「最初に言ったのは……私から、だけど」
 やるなお主!
 今度是非詳細を聞かせてね、という話を一方的にして、ちっとも首を振らない洞木さん
と別れた。夕陽はすっかり自己主張を弱めて、青い空が暗さをもち始めていた。
「……帰らなくちゃ」
 誰も待っていない家路を急ぎたくなかった。友達と話していた私でなくなってしまう。
気がつけば下を向いて歩いていた。家の目の前の公園から子供の声は聞こえなくなってい
た。誰もいない公園なんて一番見たくないものだと思って、意図的に眼を伏せ続けている
と、ブランコを漕ぐ音だけは聞こえていた。おかしいなと思った瞬間だった。
「おーい、レイー!」
 今度こそ声をかけられてびっくりして、公園を振り向くと、ブランコを凄い角度になる
まで漕いでいるマナと、柵に腰をかけている「無駄に足の長い男」渚カヲルのシルエット
を見つけた。
 思わず小走りに寄ると、立ち漕ぎのブランコを飛び出したマナが両手の親指を立てて、
「遊びにきました!いただきます!」
「お腹空いたよ、妹よ」
「……なにがどうなってるの?」
「いや、マナから連絡を受けてね、外食に飽きたからたまにはレイの家でご飯を食べよう
という話になったんだよ」
 「いつでもどこでも解説役」渚カヲルが肩を竦めながら寄ってきた。大きなビニール袋
を下げている。
「レイのご飯はおいしいからねえ……今日の晩御飯は?」
「……麻婆茄子。一人分の」
「なるほどね……じゃあ良し!」
「なんでそうなるの」
「そりゃ呑むに決まってるからじゃないか。いつからそんなに回転の悪い妹になってしま
ったんだい。なんてことだ、残念至極だ。ちなみに僕は麻婆茄子より味噌炒めが好きだ。
あれにお酢をかけて食べると、他にはお酒しか要らなくなる」
 がしゃりとビニール袋を軽く上げてみせる。よく見るとビールとワインが満載だった。
「……でも、ご飯の準備しちゃったわ」
「シメにいただきやすよお、大丈夫っすよ」
 すでにヨッパライにしか聞こえないマナはわたしのポケットを勝手にまさぐって鍵を出
し、さっさとアパートに向かってしまった。苦笑を浮かべた渚カヲルに、思わず訊ねた。
「いきなり、なに?」
「さあ……まあ正直僕もいきなり呼ばれた身でね。いや、呼ばれた瞬間酒屋が頭に浮かん
だ自分を否定はしないが」
 彼はまた肩を竦めた。彼もマナの後を追って歩き出すので、突然騒乱確定になった戸惑
いを処理するのに精一杯のわたしは一歩遅れて歩く格好になった。
 下げかけた顔を上げると、暖かそうな赤い眼がわたしを見つめていた。
「いつもはすぐにメールを返すのに返さなかった、帰り際に淋しそうな顔をした女の子で
もいたんじゃないかな」
 何度かまばたきをして、早くも外階段を小走りで駆け上がっているマナを見上げた。
「……味噌炒めでいいのね」
「話がわかる妹を持って幸せだよ。
ま、固いことを言うところが玉に瑕だけど、と言い、彼がわたしの肩を叩いた。
 四階に辿り着いたマナの呼ぶ声が聞こえて、柵から顔を出して四階を見上げると、同じ
く顔を出していたマナと目があった。彼女は満面の笑みで親指を立てて見せたので、わた
しの眼はまた夕陽に沁みてしまった。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.8 )
日時: 2010/09/17 14:26
名前: のの

やっぱりちゃんとkns書かないとね。

■JUNさんの2つ

・ごはんがおいしすぎて

まずね、JUNさんは最近飛躍的にうまくなった。腹立つくらい文章が上手になっていますよ(笑)
んで、まあこう、ツボを抑えた話になっております。僕にはこれくらいの甘さが限界だったりします。

ちなみにtambさんが言う「昔した体重の話」は、僕が短編を投下した時の話だったと思う。
160センチで42kg、というレイの設定に「痩せすぎでは」という声をいただいた。
いや「なめとんのか」みたいに言われた気がする(爆)

・空の高さは
バカ二人(爆)

・higher
うむ、意外。
こういう超訳で脳内補完があまり必要ないのは良くできてる証だと思います。
ただ(自戒も込みで)三点リーダーが多いかも。

■何処さん
えー、副題は『種馬野郎とその妻たち』でいいでしょうか(爆)
いや、失礼仕り候、冗談です(^^;

アスカとレイの二人が喋るだけの話ってあんまりなかったりしますね。
そういう意味で実は貴重な話だと思いました。

■自分語り
どっちもDay Tripper!!で納めてしまいました。
後者は様子違うやんけ、というのはまあ、いいじゃないか。
後者は前置き四行でなんとなく韻を踏んだ。
話と関係あるかというと、実に微妙に関係ない。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.9 )
日時: 2010/09/20 00:23
名前: ななし

伊吹マヤは1通の手紙を読んでいた。

《赤木リツコ博士江》

差出人は綾波レイ。零号機パイロットであり1番目の子供。
その手紙を読みながら彼女はため息をついた。

「今日はついてないよな。予定してた食事会だったのに」

青葉シゲルがマヤに声をかけた。マヤは青葉が差し出した紙コップを「ありがとうです」と言いながら受け取った。中には熱いコーヒーが入っていた。

「仕方ないですよ、仕事ですから」

今日はレイが主催する食事会の日。呼ばれていたのは赤木リツコ、葛城ミサト、碇ゲンドウ、そして碇シンジと式波・アスカ・ラングレーの5名。
しかしエヴァ3号機の起動実験日が運悪く食事会と日時が被ってしまう。
リツコとミサト、パイロットに選ばれたアスカは今、松代でその実験を行っている最中である。
リツコ宛て食事会の招待状が何故マヤの手元にあるかと言うと……

「代わりに行ってもいいってこの手紙渡されましたけど、場違いですよね」
「そんな事はないと思うな」
「でも……」

レイとシンジ、そしてゲンドウと食事する風景を思い浮かべてマヤは再び思う。

「いえ、やっぱ場違いですよ」

マヤは苦笑いをしながらコーヒーを飲んだ。
司令部のドアが開き日向が入ってきた。青葉は日向に声をかけ松代の起動実験の状況を聞いた。起動実験は今のところ問題なく進んでいるとのことだった。

「赤木博士達が松代の実験に行ったのならやっぱり食事会は3人?」
「葛城さんがギリギリ帰ってくるって言ってました。実験次第ですけど」
「間に合うといいですね」



マヤが口にした願い、それは青葉と日向の願いでもあった。
しかし、それは叶わぬ願いとなる。




◇ 命の選択を  ななし



数十分後、ネルフ本部発令所は大騒ぎになった。
3号機起動実験中の松代で事故が起きたのだ。
事故の原因を確かめるべく司令部は総員挙げて調査する。
所内にアラームがいくつも鳴り響きモニターにランプが点灯していく。

「被害状況は?」
「不明です!仮説ケイジが爆心地の模様。地上管理施設の倒壊を確認!」
「救助、及び第3部隊を直ちに派遣。戦自が介入する前に全て処置しろ」
「了解!」
「事故現場南西に未確認移動物体を発見。パターンオレンジ、使徒とは確認できません」
「第一種戦闘配置」

碇司令の声が聞こえた。確か司令は外出中の筈――――冬月や青葉達の考えを裏切るように碇ゲンドウはその場に現れた。

「碇――」
「総員、第一種戦闘配置だ。修復中の零号機は待機。初号機はダミープラグに換装後、直ちに出撃させろ」

総司令の席にゲンドウは座った。いつもと変わらない姿勢で戦闘準備を指示する。

「第一種戦闘配置っ!」

一人のオペレーターが無線を通して全フロアに指令を通達する。
ゲンドウの指示通り初号機にダミープラグが換装が行われた。碇シンジが到着した連絡を受けた日向は直ぐに彼に搭乗命令を下す。
そんな中、宇宙衛星の画像がマヤと青葉と日向のモニターに届いた。
最初に赤い空と高圧線が映し出された。直ぐに画像が切り替わり山間の民家沿いの道を行く戦車と装甲車が走る姿が映る。再び映像が切り替わり、山並みに生える夕日の中、こちらに向かって歩いている巨大物体の映像で画面が固定された。

「これ……」

伊吹マヤは驚きの声を上げた。巨大物体の形はあまりにもアレに似ていたから。

「監視対象物は佐久防衛線を突破。現在千曲川を沿り南下中」
「到着も時間の問題か……」

冬月は苦い顔で呟いた。




電源車が群集している背後に初号機はしゃがみ待機している。初号機に搭乗しているシンジは全ての事態を把握できていなかった。

「あの、すいません……ミサトさんやアスカたちは?」
「現在、全力を挙げて救出作業中だ。心配ない」
「でも……」

ミサト、リツコ、アスカが無事である報告はまだ入っていない。青葉はシンジの心配を和らげようと「大丈夫」の言葉を繰り返した。
そんなやり取りに日向が割り込む。

「作戦系統に問題はない。今は碇指令が直接指揮を取っているよ」
「――父さんが」

意外な言葉にシンジは目をパチクリさせる。
青葉は初号機に通じるマイクを一度切ると日向に「すまん」と礼を言う。日向もマイクを切ると「対したことじゃない」と労う。そして、2人は同時にマイクをスイッチを入れた。

「遠見付近で目標を捉えました。主モニターに回します」

主モニターに目標が映し出される。司令部はどよめいた。

零号機や初号機に似た形をした巨人

松代からやってきた巨人の正体はエヴァ3号機だった。

「やはりこれか……」
「活動停止信号を発信。エントリープラグを強制射出」

ゲンドウの指示に素早く対応するマヤ。キーボードを打ち活動停止信号を目標へと送る。3号機の背中パーツが破壊されハッチが吹き飛んだ。しかし、そこからエントリープラグは射出されない。3号機は歩き続ける。

「だめです、停止信号及びプラグ排出コード認識しません!」
「エントリープラグ周辺にコアらしき侵食部位を確認」

破壊された背中パッチから見えるエントリープラグの先端を筆頭に次々出てくる画面、そうして最後に出てきた画面は青葉が一番見たくなかった画面でもあった。

「分析パターン出ました……青です」
「エヴァンゲリオン三号機は現時刻をもって破棄。監視対象物を第9使徒と識別する」

ゲンドウの言葉、それは悲劇が始まる告知

オペレーター達はマニュアル通りアナウンスをする。

「目標接近」
「地対地迎撃戦、用意」
「阻止部隊、攻撃開始」

下を向いて考えていたシンジはオペレーター達の声で目線をあげた。
自分の足元で戦車隊が一斉に攻撃を開始している。シンジは攻撃している先を見た。

「――これが、これが使徒!?」
「そうだ、目標だ」

シンジは驚愕した。だってこれは、どう見たって――――

「――目標ってこれはエヴァじゃないか!」

夕日をバックに歩く3号機、砲撃が命中するが全く効いていない。

――――もうすぐ、3号機と初号機が接触する

「目標は接近中だ。シンジ、お前が倒すんだ」
「でも、目標って言ったって」

田んぼの中をゆっくりと着実にこちらに向かって歩いていく3号機。

「……アスカが乗ってるんじゃないの?」

司令部にはアスカが救助された報告はまだ入ってこない。
起動実験の最中に起こった事故、エントリープラグは射出されていない現状、あの中にアスカが乗っている可能性が極めて高い。
シンジは自分の呟きに誰も否定をしてくれない事に動揺した。


「……アスカが」

司令部のモニターに映し出されたのは高圧線越しに対峙する2体のエヴァの姿。
夕日が綺麗で今からそれを背景に戦場が起きるとは信じられない、美しい光景だった。
初号機はパレットガンを構えたまま、ただただ立つ。
3号機は初号機の様子を伺うようにゆらりゆらりと動いている。
シンジはこの接近でトリガーを引くことを躊躇っていた。
シンジは待った、アスカの安否の報告を。願わくばアスカは救助されあの3号機に乗っていない事を。

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!

突然3号機が大きく吼えた。

それは戦闘の合図

3号機は吼えながら四つん這いに沈み込んで空高くジャンプした。体を大きく捻りながら初号機目掛け飛ぶ。
初号機はライフルを盾にし身構えた。三号機は落下しながら初号機目掛け両脚スクリューキック、その攻撃は盾にしたライフルに当たった。ライフルは折れ曲がり初号機は山へ吹っ飛ぶ。
3号機は体を捻り田んぼの中に四つん這いで着地した。

その姿は獣そのものであった

初号機の頭が山に突き刺さる。衝撃でモニターが揺らき一時的にブラックアウトした。モニターはすぐに起動し、映像は地上を映し出す。その時、シンジの目に映ったのは3号機のとある部分だった。

「……エントリープラグ」

3号機の背中――粘着状のモノに覆われたプラグがはっきりと見えた。

(やっぱり乗っているんだ!)

シンジは怖くなった。レバーが引けない。恐怖が身体を支配した。

3号機は口を大きく開け右腕を振りまわした。そして、手前にギュンと伸ばす。3号機本来の起動にはない稼動能力。使徒により生まれた新しい能力は初号機を捕らえ、首を捕らえた。初号機はそれに対抗する為に起き上がろうとする。しかし、3号機は左腕も伸ばし両腕で初号機を首を絞めその行動を阻止する。
山の坂道に初号機の頭部が再び激突した。山腹に倒れこんでいる初号機に跨り首を絞め続ける3号機。初号機の首に針状の跡が生まれる。シンジの首にも手跡が浮かび、いくつもの気泡が沸き立った。
自分の生命の危機にシンジは恐怖を跳ね除け一気にレバーを押し込む。
渾身の力で3号機の腕を引き離す初号機。
その時、3号機に異変が生まれた。
バキンッと背中の拘束具が剥がれる。剥がれた所から生えてきたのは第2の両腕。第2の両腕は蠢きながら、そして勢いをつけて初号機の首を押さえ込んだ。
初号機の両腕は元からある第1の両腕に押さえられ、生えた第2の腕に首を絞められる。再び初号機の首に針状の跡が浮かび上がった。

「装甲部顎椎付近に侵食発生!」

絞められて首の跡部分が変化し赤い部分が増えていくシンジ。その姿が主モニターに写った。

「第6200層までの汚染を確認!」
「やはり侵食タイプか……やっかいだな」
「初号機A.T.フィールド不安定」
「生命維持に支障発生」

マヤのモニターに表示されていた初号機の神経接続が次々と途切れていく。全ての神経接続が途切れるのも時間の問題。

「これ以上はパイロットが危険です!!」
「いかん!神経接続を28%にカットだ!」
「待て」
「しかし碇!このままではお前の息子が死ぬぞ!」

ゲンドウは冬月の言葉に答えなかった。巨大スクリーンに映し出される自分の息子の苦しい表情を見つめながら彼は問いかけた。

「――シンジ、何故戦わない?」

シンジは父親の言葉に反応し、苦しさの中で自分の答えを述べた。

「だって……アスカが乗ってるんだよ、父さん!」
「構わん、そいつは使徒だ。我々の敵だ」
「でも……出来ないよ!人殺しなんて出来ないよ!!」

シンジの首の跡はどんどん赤く染まっていく。初号機の首も針状の侵食部がどんどん広がる。
今まで冷静だったゲンドウは初めて声を荒げた。

「お前が死ぬぞ!」
「いいよ!アスカを殺すよりは!!」

息子の覚悟に父は決意した。

「構わん。パイロットと初号機の――――」
「だめ」

ゲンドウの指示を否定する声が聞こえた。
何処から、誰が、声を?オペレーター達は辺りを見回した。

「死ぬのは駄目……」

冬月は驚いていた。この声に聞き覚えがある。そうこの声は――――

「死んじゃ駄目……」
「マヤちゃん!36番ゲートの外部音声を初号機に!」
「え?」
「レイちゃんの声をシンジ君に、早く!!」

声の主とその場所をいち早く捕らえた青葉は指示する。
発令所の下方、36番ゲートにいるレイは主モニターを見つめながら声を出していた。
小さくてか細い声の彼女が目に涙を浮かべ必死に訴えている。叫ぼうとしている。

――――レイの声がシンジを救うかもしれない

伊吹は意を決しコンソールへ向き直るとキーボードを打ちレイの声を初号機へ繋いだ。
それに合わせるかのようにレイは叫んだ。

「――――碇君、死んじゃ駄目っ!生きてっ!!」







「おはよう、アスカ」
『おはようじゃないわよ、もう昼間よ』
「ごめんね、仕事でちょっち遅くなったわ」
『どうせ、寝坊したんでしょ』
「バレバレ?」
『バレバレよ』

ガラス越しに挟まれた部屋でアスカとミサトが対話をしている。
ミサト右手にギブスを嵌めて包帯で固定されていた。ミサトの右手は松代の事故で負傷したもので全治1ヶ月のもの。
アスカは白いパジャマ姿でベットに座りながらガラスの向こうのミサトに話しかけていた。アスカの姿で一番痛々しかったのは包帯に巻かれていた左目だった。

『私の左目って、治るのかしら』
「えぇ、今は一時的に視力低下してるけど治療受ければ」
『この施設からも?』
「もちろん」

使徒に侵食されたアスカは部屋に隔離されていた。
リツコの話によれば侵食の影響は検査の結果0に等しく問題ないとの事だった。
しかし、毎日続く検査とテスト――リツコや他の医師は口にしなかったが使徒の侵食を受けて生き残った彼女は『実験サンプル』と言う呼び名が相応しい扱いを受けていた。
アスカはその事を肌で感じていたが黙って耐えていた。
検査の解析データに異常がなければ普段の生活に戻れる、再びエヴァに乗れると信じて。
ミサトは部屋の片隅に置かれた机を見た。そこには綺麗なコスモスの花が花瓶に生けられていた。ミサトは直ぐに分かった。

「シンジ君、来たみたいね」
『……泣きながら謝ってきて、それがウザくて、まったくガラス越しじゃなかったら一発蹴り入れてたわ』
「そっか」
『……泣く必要なんてないのに』

何故ならあれは『戦い』だったから


あの時、レイの声を聞いたシンジは死ぬ事を止めて生きる選択をした。
初号機は3号機の攻撃に耐えながら自身の右手を犠牲にして3号機の背中からエントリープラグを引き抜いた。そのエントリープラグを守りながら3号機の攻撃を耐えきり、戦自の一斉砲撃で体制が崩れた時、初号機は3号機に襲い掛かりプログ・ナイフでコアを破壊、鎮圧した。
アスカは3号機に取り込まれていた時の事をミサトから一部始終聞いた時、女の声でやる気を出したなんて全く情けない奴だと思った。
だけど、その声がなければ今の私はいない。
こうしてミサトと話している自分はいない。
心の奥底ではアスカはシンジに感謝していた。

「アスカ、これ一緒に食べよっか」

ミサトは紙袋をアスカに見せた。その紙袋が何なのか直ぐに分からなかったが、ミサトは風呂敷に包まれたモノを取り出すとなんとなくそれが『お弁当』であることが分かった。

『病院食も飽きたし、いいわね』

アスカはミサトが持ってきたお弁当を食べる事にした。
ミサトはアスカの部屋に入る事ができなかったので弁当の中身の半分を別の容器に移し替えると専属の看護士に運んでもらった。
アスカは防護服を着た看護士が運んだ食事を見た。歪なおにぎり2つと沢庵2切れ、それから紙コップに入った味噌汁。

『カッコ悪いおにぎりね』
「沢庵は美味しいわよ」
『それ、市販でしょ?』
「細かい事は気にしない」

細かい事ねぇ……と思いながらアスカは味噌汁をすすった。

『これ、しょっぱい!』
「まぁ、初めての料理だし仕方ないわよ」
『…………ミサトが作ったのじゃないの?』
「レイが持たせてくれたの。食べて欲しいって」

ミサトは親指に付いた米粒を丁寧に食しながら言葉を続けた。

「あの時流れたお食事会を今日やるんだけど、気にしてね」
『……知ってる』

今日見舞いに来たシンジは泣きながらあの時の事を謝り今日の予定を話してくれた。

[父さんと予定が合うのが今日しかなくて……ごめん]

なんで謝るのよ、私はそもそもそういう集まりは苦手だからいいの。謝られたら変な気持ちになるじゃない!とっとと食事会でもハイキングでもデートでも行きなさいっつうの!

そう言いながらアスカはシンジを部屋から追い出した。

『ミサトは行かないの?』
「私は仕事あるし、アスカ一人は寂しいでしょ」
『寂しくないわ』
「強がり言っちゃって、こういう時くらい甘えなさい」

ミサトはしょっぱい味噌汁をすする。

「ここから出られたら今度こそみんなで食事会開きましょ」

回復祝いになるかしら?とミサトは続けて言った。
その言葉にアスカは顔を背けて口を尖らしたが直ぐに表情を緩め小さく頷いたのだった。
しょっぱい味噌汁を一気にすすり食事を終えたアスカは考えた。

『……この味であの親子仲直りできるのかしら』
「できるわよ、レイがいるから。それにシンジ君なら『おいしい』って言いながら食べきると思うわよ。おいしすぎるっていっぱい食べてきて、苦しくて寝込んで。でも笑顔なんでしょうね」

シンジのその姿が直ぐに思い浮かぶ事ができたアスカは「そうね」と笑い、その笑い顔にミサトもつられて笑った。笑っているミサトを見つめ、アスカはミサトと目が合う。
2人はお互いの顔を見合わせて、また笑ったのだった。




お題:ごはんがおいしくて


何かお題の方向性を間違えた小説の気がします。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.10 )
日時: 2010/09/20 17:20
名前: JUN

 中学三年生になると、私も少しずつ高校受験を考えるようになった。私は勉強が得意なほうだし、
分野によっては大卒のセカンドを抜くことも可能だったりする。優等生なのだ、ふふん。
 碇くんは苦手でない、という程度。しかし音楽や家庭科、特に家庭科はクラスの中で群を抜いてい
て、張り合えるのは洞木さんくらい。本人はあまり嬉しそうではなかったけれど、碇くんの作るご飯
はおいしい。それでいいと思う。でも、男の子が料理上手を褒められるのは複雑なのかもしれない。
私も、凛としてて格好なんて言われると、少し複雑。それこそ碇くんに言って欲しい。でも、きっと
他の女の子がそんなことを碇くんに言っていたら嫉妬してしまうだろう。……言わないでいい。
 話がそれた。つまり受験の話。優等生な私は(セカンドの皮肉もあながち的外れはなかった)碇く
んに勉強を教えることになった。葛城さんとの話し合いの末手に入れた至高のポジションだ。

 碇くんに勉強を教えて、同じ高校に行って、ついでに私も――

「何かを教わってしまうの…………(ぽぽぽんっ)」
「あの……綾波さん?早く教えて欲しいっていうか」


 ……いけない。またトリップしていたようだ。


ごはんがおいしすぎてvol.2



毎日こんな調子だから、進行はよくない。時間はたっぷりあるという私たちの間にある共通の慢心も
少なからず影響しているのだろう。でも努力はしてるのだ。
「えっと、だからx軸とy軸の切片を出すわけで……」
「二つを同時に出そうとしてはいけない。まずy切片を出して、そこからさっき出した傾きを利用し
て……」
「あ、そうか。傾きが2でy切片が−6だから、x切片は……3か」
「そう。三角形の底辺の長さがそれで求められるから……」
「あ!分かったよ綾波、そういうことか」
 そう、こんな感じで巧く進むのだ。……最初の方は。

「ありがとう綾波。お陰で分かったよ」
 碇くんが微笑みながら言う。顔が紅潮しているのが自分でも分かる。褒められると嬉しい。でもち
ょっと恥ずかしい。

 そんな恥ずかしさを誤魔化すために、私がいつもすること。
「じゃ……ご褒美」
 目を閉じて、顎を突き出す。葛城さんから教わった、おねだりのポーズ。碇くんはこうするといつ
もお願いを聞いてくれる。
 躊躇う時間がしばし続いた後、碇くんはその細い腕で優しく私を抱き寄せてくれた。

「んぅ……」

 優しく触れ合うだけのキス。しっとりと濡れていたのは碇くんの唇か私のか、それとも両方か、そ
んなことは分からない。どうでもいいとも思う。受験勉強のことは今となっては忘却の彼方。さっき
まで解いていた一次関数も、次に解く連立方程式のことも、どうでもよくなる。
 キスをするとき、私が目を瞑らないことはない。視界を遮った方が、より沢山碇くんを感じること
が出来るから。
 部屋の中で二人きり。葛城さんは暫く帰ってこない。だからこうして唇を重ねる時、私はほんの少
しだけ不安になる。碇くんとそうなるのが嫌なんじゃない。ただ、僅かに怖いだけ。
 でも、碇くんが望むなら、私はいつでもいい。――それは私の願いでもあるのだから。そのために
碇くんが辛くなるくらいなら、碇くんの好きにして欲しかった。

 碇くんが唇を離す。それが終わってから、私も目を開く。碇くんは切なげに眸を潤ませて私を見て
いた。多分、私も同じような顔をしているのだろう。
「綾波」
 碇くんはそっと微笑んで、私の名を呼んだ。私の肩に回した腕はそのままに。
「いかりくん……」
 腕に力を込める。碇くんが苦しくない程度に。どこにも行かないように。
「大好き、だよ」
 耳元でそんなことを囁かれると、私はいよいよどうしようもなくなる。家庭教師のことなんか忘れ
て、碇くんの肩口に顔を埋める。碇くんの匂い、碇くんの温もり、碇くんの――
「大好き、碇くん…………!」
 碇くんがくすりと私の耳元で笑い、
「ごはんに、しよっか」
「うんっ……」


 碇くんが料理を作ってくれる。未来のお嫁さんたる私としてはちょっと悔しい。でも碇くんの方が
上手なのだから、私はお手伝いをするだけ。その内私も作れるようになりたい。お味噌汁は作れる。それでも碇くんのお味噌汁の方がおいしいし、私もわざわざしょっぱいお味噌汁を食べようとは思わ
ない。
「なんにしよう。炒飯、とかでいいかな」
「うん」

 私の意見を確認すると、碇くんは早くも卵を溶き始める。流石に手際がいい。あれよあれよという
間に、美味しそうな炒飯が出来上がった。そこらの中華料理屋で食べるよりよっぽど美味しいだろう。
贔屓目なしでそう思う。

「……いただきます」
「召し上がれ」
 卵で黄金色に輝く炒飯をスプーンですくって一口。碇くんは微笑みながら私が食べるのを見ている。
「美味しい」
「よかった」
 碇くんは嬉しそうに笑って、自分の分を食べ始める。何も言わなかったけれど、ゆっくりと咀嚼す
るその表情は満足げだ。
 無言の食事。でも暖かいその雰囲気は、私が知らなかった新しいもの。――碇くんが教えてくれたこと。
 そんな暖かい時間は、一秒でも多く共有していたい。そのためにいつか二人だけで暮らせる時を、
私はずっと待っている。


 食事が終わると、私は碇くんの隣に座る。碇くんは何も言わずに髪を梳いてくれた。

「甘えんぼさんだね、綾波は」
「ん……」



 また、黙り込む。頭の中がどんどん霞んでいって、何も考えられなくなる。碇くんの匂いがすぐ側
にあって、ここで永遠にこうしていられたら、どんなに素敵なことだろう。

 時計を見てみる。四時半。いつの間にそんなに時間が過ぎていたのだろうかと、少し驚く。碇くん
は気づいているのだろうか。――言わないでおこう。

 そんな静かな空間を、扉の開く音が無粋にも破壊した。


「ただいまあ」




 ぴく、と碇くんの方が動き、玄関の方を顧みる。どうやら少しうとうとしていたらしい。
「あ、おかえりなさいミサトさん」
「ん、ただいま。あれ、遅い昼食ね」
「え、あ、もうこんな時間ですか。済みません、お風呂入れます」
「んーん、大丈夫よ。相変わらずラブラブねえ。二人でうたた寝、ってとこかしら?」
「え、いや、別にそんなでも……」



 碇くんが慌てながら否定する。気持ちは分かるけど、少し不愉快。だから、
「あの、ちょっとうとうとしちゃって、その――――いたたたたたたたたた!!ちょ、綾波……」
「誤解じゃないです」

 わき腹をつねると、碇くんは泣きそうな顔をする。でも私はやめない。からかわれるのは恥ずかし
いけど、決して嫌なわけじゃない。
 葛城さんはくすくすと笑って、私のほうを見る。微笑ましいような、見守るような、そんな表情を
湛えていた。
「ほんと、いいカップルよ、あなたたち。仲良くやんなさい」
「え、あ……はい」
「………………はい」

 葛城さんは満足げに微笑むと、シャワーへ向かう。私たちのほうを一度だけ振り返って、
「そういえば一日中ここにいたらしいけど、勉強は進んだ?」

「……………………」
「………………………………あ」

「あんたら、ねぇ…………」

 葛城さんの額に青筋が浮かんだ。あ、怒られる。








「いーい?一応は家庭教師って名目で来てんだから、そこちゃんとしてもらうわよ」
「……はい」
「いちゃつくなとは言いません。けど、今日一日かかって解いた問題がたったの三問じゃあ、お話にならないわ」
「……はい」
「今後その職務をまっとうできないなら、マヤちゃんに来てもらうわよ。あの子、学歴高いんだから」
「…………それは駄目です」
「じゃ、ちゃんとやること。分かったわね?」
「……はい」
「シンジ君も、分かったわね?」
「はい。済みません」
「はい、よろしい」
 そこで収めておけばよかったと、私はつくづく思う。
「……でも、あれは碇くんがいけないと思うわ」
 私の言葉に、碇くんはむっとした様子で言葉を返した。
「なんでだよ」
「碇くんの作るごはんがおいしすぎるせいで、あんなことになる」
「そんなのないだろ。綾波が誘惑するからいけないんだ!」
「誘惑したって、碇くん最後までしてくれないじゃない!」
「僕なりに我慢してるんだよ!あんなに可愛い綾波見せられて、僕が何もしないとでも思ってる
の!?」
「思ってないわ!押し倒されたって、碇くんが相手ならいいと思ってるのに」
「そんなこといわれるといよいよ我慢できなくなっちゃって――」

「いー加減にしなさい!!」

 葛城さんの鶴の一声に、私たちは我に返った。

「あんたらの痴話喧嘩なんて聞かされるこっちの身にもなりなさい!このバカップルが!黙って勉
強!嫌ならレイは帰りなさい!!」



 しゅん、そんな形容が今の私ほど相応しい女の子はいないだろう。しおしおと碇くんの部屋に入っ
て仲直り。
「……ごめんね綾波。ついむきになって」
「私のほうこそ、ごめんなさい……」
「僕、明日から真面目に勉強するから」
「私も、明日から真面目に教えるから」

 ふんわりと、碇くんは私を抱き締めてくれた。仲直りのしるし。

「明日から、よろしくお願いします、先生」
「……はい」


 何かを教わってしまうのも、そう遠い話ではないかもしれない――


  おしまい




 あとがきという名の言い訳

意味不明です。今まで書いた中でも中々群を抜くぞw
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.11 )
日時: 2010/09/21 03:32
名前: naibao

■JUNさん

通りすがりにとりあえずJUNさんの感想だけ…
ひとつひとつの感想じゃなく全体のだけですすみません。
お久し振りです、naibaoです。

とりあえず、ですよ。
あまいあまいあまいあまいあまいあまいあまいあまいあまいあまい、やっぱりあまいです。
解ってたけど甘かった。
でもこの甘さがJUNさんの良さだと思っています。何度も言っちゃいますが。

あとみなさん書かれてますが、最近文章の組み立てが変わったような印象を受けます。
相変わらずの創作欲、羨ましい限りです。


それと、綾波さん30kg台ですって?一言物申す!

14歳の平均身長が155cmくらいのはず、
で、JUNさんとこの綾波さんは小柄設定が多い気がするので仮に150cmとします。
んで、増量体重が38kgと仮定。
BMI(体重÷身長÷身長)は…16.89
ちなみに標準体型は22(これとは別の美容体型はも少し低い値のはず。


何年か前パリコレだかミラノだかのスーパーモデルに痩せすぎ規制かかった時が
BMI18未満アウトだったはずなんで

綾波さんがんばれ!
JUNさんとこのシンジくん超がんばれ!
『ごはんが異常に美味しすぎて』って言ってもらえるくらい頑張って!

いやいや、待てよ?セカンドインパクトで重力加速度が変わって…
そもそも、創作物に現実社会の数字を出すのがナンセンス…
とかいろいろ電波まで出てくる始末です。

と、14歳美少女処女保健係が物申させていただきました。
ともあれ、次作も楽しみにしてます。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.12 )
日時: 2010/09/21 23:22
名前: JUN

■naibaoさん
どうもです。いや、細すぎたなと自分も思いましたがw
まあ僕のBMIが17だったりするので(^^:)
文章の組み立て方はあまり意識していませんが、みなさん仰るのでそうかもしれませんね。何はともあれ、精進あるのみです。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.13 )
日時: 2010/09/29 19:16
名前: JUN

■ののさん
めちゃくちゃ今更ですが、感想どうもです
文章が上手くなったと仰っていただけるのは、やはりとても嬉しいです。ありがとうございます。
higherの教訓は活かしたいです。少し儚げな印象の話を書くと…が多くなりがちですね。気をつけます。

ののさんの書くカヲルとマナが好きです。カヲルは貞と庵で性格かなり違うので使い分けが楽しい。これは庵な気がします。なんとなくですが。
マナは最近鋼鉄をやったので、そろそろ登場してもらおうかなー
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.14 )
日時: 2010/09/29 20:28
名前: クロミツ

One Step Higher



「シンジ、おかわりっ!」
 朝っぱらから快調にご飯を平らげていたアスカの手が、ぶっきらぼうにお茶碗を突き出した。
 僕がご飯をよそうのももどかしく、素早くお茶碗をもぎ取ると「ありがとう」もいわずに箸を動かす。かきこんでる
わけでもないのに、そのスピードは見てて感心するくらいだ。
「ごちそうさま」
 こちらは少食の綾波が、自分の食器を片付けて席を立った。彼女がお茶碗一杯分を食べ終える間に、早くもアスカは
三杯目を平らげた。
「アスカ、そろそろ学校にいかないと遅刻するわ」
「え〜っ!もうそんな時間?…しかたないわね、今朝はこれだけで我慢するわ」
 我慢する…だって?
「ひょっとして…まだ食べるつもりだったんだ?」
「悪い?」
 ジロリと僕を睨みながら、コップになみなみ注いだ牛乳を一気に飲み干し、ぷはぁっと息を吐いた。
「悪くはないけどさ、ちょっと朝から食べ過ぎじゃない?」
「普通よ、こんくらい。てか、あんたやレイが食べなさ過ぎなのっ!」
「そうかなぁ。これでも中学の時よりずいぶん食べるようになったけど」
 今朝だって二杯食べたし…と云いかけた言葉を断ち切るように、アスカは乱暴にコップを置いた。
「アンタとチンタラ話してたら遅刻しちゃうわっ!あ〜やだやだ、食の細い男って」
 まるで僕の責任みたいな台詞だけど、遅れそうなのは誰かさんがなかなか起きないからだろと反論したくなる。
しかし時計をみると、あと一本リニアを逃したらアウトな時間。確かに言い争ってる余裕はない。
「いいシンジ、洗い物は30秒以内に終わらせなさいよ!」
 無理…せめて3分。
「碇くん、こっちは全部終わったから、アスカの食器を取って」
 流しに立っていた綾波が振り向いた。いつの間にか、後片付けを済ませてくれたようだ。
「あ、ありがとう。じゃあ僕は、弁当の準備をしておくから」
 といっても盛り付けは既に終わっているので、弁当箱の蓋を閉めて文字どおり包むだけ。
 家を出る前に、まだ寝ているであろうミサトさんの部屋に向かって『行ってきます』と一声だけ掛けた。

 使徒との戦いから三年が経ち、僕たちは揃って同じ高校に進学した。学校は第三新都心の隣町にあり、中学の時よ
りも通学に時間が掛かる。おかげで、朝7時台のリニアの時刻表はすっかり暗記してしまった。
 駅を降りてから、学校まで歩いて10分ほど。でも時間ギリギリなので改札を抜けてすぐ、三人ともダッシュをかけ
た。高校生になってグンと背が伸びたアスカのコンパスは長い。そして速い。僕も彼女と同じくらいに伸びたけど、
体力と運動神経が決定的に違う。おまけに綾波はどんどん後ろへと差が広がるから、諦めてアスカだけ先に行かせた。
 立ち止まって息を整えている間に、綾波が追いついてきた。
「大丈夫?」
「…ええ、ごめんなさい」
 綾波は数回、深呼吸をしてから答えた。肩で息をするほどじゃないけど、けっこう呼吸が乱れている。
「綾波があやまることないよ。学校まであと少しだから、歩いても間に合うさ」
「私はもう大丈夫だけど…でも、そうね、歩きましょう」
 僕を見上げて、綾波が柔らかく微笑む。ふわりと香気が漂うような笑顔に、つい見惚れた。
 ちょっと、ゆっくり歩き過ぎたかもしれない。二人で校門をくぐるのと同時に、始業のチャイムが鳴った。慌て
て玄関に入ると、下駄箱の前で腰に手を当てたアスカが仁王立ちしていた。
「あんたたち、のんびりし過ぎ」

◇◆◇◆

 放課後、僕と綾波が帰り支度をしていると、教室の入り口にアスカが姿を見せた。二年になって彼女だけ隣のクラス
になったのである。長身、美貌、美脚の三拍子揃った彼女が金髪を靡かせて入ってくる姿はモデルのようで、自然とク
ラス中の注目を集める。アスカが僕たちの前までくると、その視線は僕に突き刺さる。主に男子生徒の羨望の眼差しが。
「ねえレイ、ガレット食べに行かない?ほら、ちょっと前にオープンした店があるでしょ、あのメニューのサーモンと
しめじを載せたやつ、気になってたのよねぇ」 
 と、まず綾波を誘ってから、いかにもついでみたいにこちらを一瞥する。
「シンジ、あんたも来るのよ。ちょっと持ち合わせが心もとないから」
 …財布替わりか、僕は。
 綾波とアスカは、初めてあった頃からは考えられないくらい仲が良い。にしても、僕に対する態度とずいぶん違う。
「でも私、夕食が入らなくなっちゃうから…」
「デザートのガレットだけでいいじゃない。クレープみたいなもんだし」
「あの〜、ひょっとしてアスカ、お昼足りてなかった?」
 彼女の弁当だけ少なくしたつもりはない。むしろ逆。二学期の前に買い換えた弁当箱は、僕のより大きいくらいだ。
「最近、ごはんが美味しいのよねぇ。ほら、食欲の秋っていうじゃない」
「いくら美味しいからってさぁ…。」
 今は九月、暦のうえでは秋でも、年じゅう夏みたいな暑さだから、食欲とはあんまり関係ない気がする。『天高く馬
肥ゆる秋』って諺も昔の話。春夏秋冬、一年通して空の高さは変わらない。
 夏休みの終わり頃から、急激にアスカは食べるようになった。本人が言うようにご飯が美味し過ぎてとか、成長期と
いう理由ならいいけど、過食症ぎみじゃないかとちょっと心配になる。
「ぐちぐちうるさいわねぇ。こんなに沢山食べてあげてんのが不満なの?料理人なら喜ぶべきでしょ」
「沢山にもほどがあるってこと。だいたい、僕は料理人じゃ無い」
「あら、召使いだっけ?それとも小間使いに昇格してあげようかしら?」
「どこが昇格だよっ」
「アスカ、食べ過ぎも身体に良くないのよ。程々にしたら?」
 睨み合いになりそうな雰囲気をとりなすように、綾波がやんわりと口を挟んだ。
「レイまでそんなこと…。あんたこそ、もっと食べればいいのに」
「体重だって、この間お風呂で計ってた目盛を見たら…」
「こっ、こらぁーっ!気軽にばらしてんじゃないわよっ!」
 アスカが慌てて綾波の口をふさいだので、トップシークレットの流出は免れた。まあ、まったく興味ないといったら
嘘になるけど、命を引き換えにしてまで知りたい情報じゃない。
「まっ、中学の時からぜーんぜん体形が変わらないレイより重いのは当たりでしょ。特に胸の重量が…」
「……胸のことは云わないで」
 綾波が拗ねたような上目遣いでアスカを睨む。…え、ひょっとして、密かに気にしてたとか?
「なに?碇くん」
 アスカを見上げていた視線がそのまま僕の方にスライドした。何で分かるんだろうと冷や汗掻きつつ、とりあえず
笑ってごまかす。
「その点、シンジはいーわよね。ボサーッと生きてても図体だけはでかくなれたんだから」
「身長は関係ないだろ」
「アスカ、今のは云い過ぎ」
 綾波がたしなめると、はいはいと両手を開いて肩をすくめた。
「まあ、そんな話はどーでもいいのよ。行く?行かない?」
「悪いけど、この後、定期健診だから…」
「あ、そーだっけ?」
 使徒と戦っていた三年前と違い、今は訓練も緊急の呼び出しもない。先月、チルドレンの体調管理で健康診断を受
けたけど、ネルフに行くこと自体久しぶりだった。ただ、綾波だけは月一回、リツコさんの検診を受けている。
「しかたないけど、あたし一人で行くか。…あ、やっぱシンジは来なくていいわ、あんたと二人なんてツマンないし」
 ずいぶんな云われ様だ。アスカの高飛車な口調は昔からだけど、ここ最近やけにキツい気がする。
「7時には帰るから、晩ごはんちゃんと用意しときなさい。あと、牛乳切らさないでよ」
「…はいはい」
 云いたいことだけ云うと、アスカは来たときと同じように、颯爽と出て行った。
「ふぅ…じゃあ綾波、駅まで送ってくよ」
「ええ」
 その返事が心なしか嬉しそうに聴こえたのは、そうであって欲しいと思う僕の願望だろうか。
 もうアスカはいないのに、なぜか二人で教室を出るまで、男子生徒の視線はずうっと僕に刺さったままだった。
 
◇◆◇◆

 下校しながら、今晩の夕飯のメニューを考える。食材は冷蔵庫にあるものでほぼ足りるけど、牛乳だけは買ってお
かなくちゃいけない。牛乳目当てだけでスーパーに行くのもあれなので、ついでに買っておくべきものを頭の中でリ
ストアップする。それにしても、掃除、洗濯、御飯の支度…。綾波が手伝ってくれるとはいえ、なんで学業以外で
毎日こんなに働かなくちゃいけないんだろ?
「…本当にアスカ、僕のこと小間使い程度にしか思ってんじゃないかなぁ」
 ため息まじりに愚痴をこぼすと、隣で綾波が小首を傾げた。
「そうかも」
 あっさり肯定されると、ちょっと傷つく。
「……ひどいや、綾波まで」
「ごめんなさい」
 言葉とは裏腹に、楽しそうに口許を押さえる。大口を開けたりしないけど、綾波は本当によく笑うようになった。
「…あのね、内緒だけど…」
 秘密の小箱を見せるような一拍の間をとって、綾波が言葉を続ける。
「アスカったら、碇くんに身長を抜かれたのが悔しいみたい」
「……え?」
 あまりに唐突な話だったので、つい立ち止まってしまった。
 確かに春までは、僕よりもアスカの方が若干背が高かった。でも、先月のネルフの健康診断でアスカの身長が176cm、
僕が176.6cmと僅差で逆転した。綾波の話では、結果を知ったアスカはけっこう憤慨してたらしい。
「彼女、負けず嫌いだから。あんまり悪く思わないであげて」
 静かな紅い瞳が僕を見上げる。人を落ち着かせる赤というのがあるなら、この色だろう。
「でも、何で綾波が知ってるの?アスカが話したから?」
「違うわ。だけど、見ていたら何となく分かるもの」
 見ててもさっぱり気付かなかった。綾波が鋭いのか、単に僕が鈍いのか。
 しかし、知ってしまえば他愛もない理由。他愛無さすぎて、怒る気にもなれない。
「だから、内緒の話。本人には云わないでね」
 念を押すように、人差し指を唇に当てて微笑む。綾波にしてはやや芝居がかった仕種は、本気で僕が話すとは思っ
てない証拠だ。
「それに、碇くんのこと考えてない訳じゃないの。一人で行くって云い出したのも、私を送って行き易いようにって、
気を使ってくれたんだわ」
「そうかなぁ…ちょっと良いほうに捉え過ぎじゃない?」
「いいえ。だって、今朝もちゃんと待ってくれてたでしょ、玄関で」
「……あ!」
「アスカのクラスは私たちとは別だから、先に行けばよかったのに。本当は、寝坊して悪かったって思ってるのよ」
 云われてみれば、確かに。普段の態度が態度だから、客観的に指摘されるまで思い当たらなかった。
 それにしても、綾波は鋭い。そういえば出会ってまだ間もない頃、僕が父さんとの関係で悩んでいたときにアドバ
イスしてくれたことがあった。超然としているように見えて、他人の気持ちには昔から敏感だったのかもしれない。
 ただ以前の綾波は、透明で、硬質で、繊細な硝子細工のように触れることを躊躇わせる空気を纏っていた。平たく
いえば、とっつき辛かった。でも今は、落ち着いついた雰囲気はそのままに、とても柔らかく接してくれる。考えて
みれば当たり前で、成長したなんてえらそうに云えないけど、三年も経ってれば変化はあるはずだ。
「…アスカも、もうちょっと分かりやすく気を廻してくれればいいのに…」
「彼女はああいう性格だから。でも、まだ高校生だし、きっと歳をとれば、自然に円くなるわよ」
「歳をとって大人しいアスカって、なんだか想像つかないな」
「そうね」
 ふたり顔を見合わせて笑った。もちろん本気じゃない。
「歩きましょう」
 綾波に促され、並んで歩く。以前感じてた彼女との距離は、肩が触れ合うくらいまで縮まった。
 このままずっと、一緒に居れたらいいと、切に願う。

 …ずっと。


「どうしたの?」
 ターミナルの階段前で脚を止めた僕に、綾波が不思議そうに声を掛けた。
「…綾波、いま、身長いくつだっけ?」
「アスカが云ったでしょ、中学の頃から変わってないって。数字が知りたい?」
「いや、別に……そ、そうだったよね……」
 中学生で成長が止まる人なんてざらにいる。女の子なら特に。
 だから、馬鹿なことを気にするのは、それ以上に馬鹿げている。でも…
「…碇くん?」
 なんで、綾波だけ毎月、検診が必要なんだろう?
 以前、同じ疑問を持ったとき、リツコさんに尋ねたことがあった。
「形式的なものだから心配いらないわ。一応、義務付けられてるのよ。あの子の身体、普通とはちょっと違うから…」
 自嘲混じりに苦笑したリツコさんにそれ以上は訊くことが出来ず、心配いらないという言葉で納得した。
 その時は。

「どうかした?」
 何でもないよと、笑えばよかったのに。僕の口をついたのは、別の言葉だった。
「……あの、前に検診を受けた後、リツコさん、何か云ってなかった?」
「いいえ、特には。平常通りだって」
「だったら…うん、別に、良いんだけど…」
 本当だろうか?本当だと信じたい。だけど、『普通とは違う身体』その意味を、僕は知っている。
「……いつまで、続くのかな……」
 不用意に洩らした僕の言葉を、彼女は聴き逃さなかった。
「それは、検診のこと?……それとも、私の身体のこと?」
 本当に、綾波は鋭い。迂闊な自分が嫌になるほどに。
 慌てて打ち消そうとする言葉が頭の中で空転するだけで、何も云い出せず、ただ押し黙るしか出来なかった。
「赤城博士が私に嘘を云う理由がないわ。そういった話は、ちゃんと伝える人だし」
「べ、別に疑っている訳じゃないけど…なんていうか、初めてこの街に来た頃は色々あって、あり過ぎたくらいで、
でも使徒との戦いが終わって、エヴァに乗って出撃することも無くなって、ずっと順調に来れたから…
…その、順調過ぎて、ちょっとばかり、不安になったというか……」
 悪い方向ばかりに考えてひとりで落ち込む僕を、綾波は静かな瞳で見つめた。
「…確かに、ちょっと順調過ぎるかも」  
 そう言葉を切って俯いた視線に、青色の前髪が被さった。
「三年なんて、昔は、途方もなく長く感じた。私は、私の役割を果たすことが総て…他には、なにも無かったから」
「……………」
「でもね、過ぎてみると、あっという間だった。色々あったのは最初だけ。後はずっと、楽しかった」
 綾波の身体が、僕に預けるように傾く。彼女の額が、肩に触れた。
「私がこんなに笑えるようになったのも、碇くんのおかげ…
…だから、碇くんが居てくれれば、五十年でも百年でも、生きていける」
 一瞬のぬくもりの余韻を残して、彼女の身体が離れた。
 綾波の背中が、トントントンッと階段を軽やかに上がってゆく。
「それに、百年も経てば、これくらい成長しているかも」  
 僕が見上げるほどの高さまで昇ると、くるりと振り向いた。
「…でも、碇くんを見下ろすのって、何か落ち着かないから…」
 タンッと、猫のような身軽さで跳び降りる。淡い青色の髪が跳ね、目前に舞い降りた。
「私は、この高さが好き」
 彼女の身長に、階段一歩分プラスした高さ。それでもまだ、僕の方が高い。
 わずかに視線を下げると、悪戯っぽい真紅の瞳とぶつかった。
「ね、このくらいなら、来年には伸びそうじゃない?」
 彼女にしては芝居がかった動作は、きっと、僕を気遣ってのこと。心遣いが嬉しくもあり、男として若干情けない。
でも、それで本当に元気が湧いてきたのだから、呆れるぐらい単純だ。これじゃあアスカに、ぼんやり生きてきたと
云われても仕方ない。中身は、まるで成長していないのだから。
「…じゃあ僕はこれ以上、成長しないほうがいいのかな?アスカを怒らせないためにも」
「もっと大きくなっても構わないわ。アスカには、私から謝っておく」
 こんな冗談しか云えなくても、ちゃんと返してくれる。綾波は僕なんかより、ずっと大きい。
 一人で溜め込んでいた空気を思い切り吐き出して、脚を踏みしめて一段、昇った。右隣に立った僕を、彼女は笑顔
で迎えてくれる。本当の意味で同じ高さに立てるには、まだ、時間が掛かるけど。
「ご免、変な事で立ち止まったりして。早く行かないと、リツコさん待っているよね」
 ことさら元気な声を出すと、綾波は笑顔のまま、頭を振った。
「時間はまだ、あるから…ゆっくり歩きましょう」
 華奢な右腕が僕の左腕に寄り添い、背中を押すように歩き出した。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 こんな長文、何年ぶりだろう…
 錆び付いた指先を動かすのに苦労しました。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.15 )
日時: 2010/10/02 08:15
名前: Seven Sisters

う〜む、相変わらずの清涼飲料水のごとき爽やかな文体。
そしてゴタゴタしすぎない綺麗な地文。
クロミツさんは、やはりお世辞抜きにうまいです。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.16 )
日時: 2010/10/02 20:07
名前: calu

■クロミツさん - One Step Higher -

優しさがリズム良く流れるストーリーを楽しませて頂きました。有難うございました。
とくに階段のシーンが良かったです。

>「私は、この高さが好き」

瑞々しく描かれたレイに、過ぎ去った三年にあったであろう物語に想像が膨らみます。
正直申しまして、続きを読ませていただきたいですー
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.17 )
日時: 2010/10/03 21:44
名前: tamb

( No.6 )
■Day Tripper!! 出張版第3話 「Higher!!」/のの

 平和だ(笑)。しかしこれのお題がHigherであるということの意味がw
 いいか? 「お題に沿って」書くんだぜ?(笑)


( No.7 )
■Day Tripper!! 出張版第4話 「おいしいご飯、その秘訣」/のの

>  ヤバヤバです。賭けても良いです。
>  じゃばじゃばとお酢、かけてもいいです?

 お酢はかけちゃダメだしダジャレもダメ。ちなみに「かけちゃだめだし」といれて変換
したら「かけちゃダメ出し」と出た。

 Day Tripper!!のまた別の一面。これもまたよし。誰だってセンチになる事はあるし誰
かを気遣う事もある。
 中学生が酒を飲むのは避けた方がいい。普通課である必要はないと思うけど、高校もで
きるなら行った方がいいな。


( No.9 )
■命の選択を/ななし

 私はその頃の事情は知らないけれど、旧劇場版の後のFFっていうのはこういうのだった
のかもしれないと思う。方向性として圧倒的に正しいFF。
 こういう話を読むと、私は最終的には救いがないのではないか、と想像する癖がある。
例えば足の指が結晶化(で正しいかどうかはともかく)を始めているのにアスカもミサト
も気づいている、とか。物語としてどちらがどうとか言う気はないけれど、そんなことが
なくて良かったと思う。
 そしてお題の方向性は間違っていないです。


( No.10 )
■ごはんがおいしすぎてvol.2/JUN 

 Day Tripper!!かとおもたw

 ミサトも第二東京大学を(たぶん)卒業。本編がどう設定されているのかにもよるけど、
ミサトの学歴も最高位に近い。家庭教師はミサトでもいい。というか、そうすべきだw

 面白かったけどそれ以上ではない、とあえて書く理由はJUNさんにはわかるはず。
 期待してる。頑張れ。

> 葛城さんの鶴の一声に

 一応指摘しとくと、こういうのは「鶴の一声」とはいわない。辞書引くべし。

 関係のない話。
 家庭教師、というと岡村靖幸を思い出す。彼の音楽は大好きということはなかったけれ
ど、音楽性そのものは好きだったし衝撃的な楽曲も数多くあった。余りある才能が彼自身
を押し潰してしまったのだろう。復活して欲しいと願う。でも、家庭教師というのがどん
な楽曲だったのかは思い出せない。


( No.14 )
■One Step Higher/クロミツ

 とてつもなく上手い。上手いという表現はよろしくないかもしれないが、それは技術的
な意味ではもちろんないということは斟酌していただきたい。要するに素晴らしい。わか
ってはいた事だけど、甘く見てたかもしれん。というかだな、長く書いてなかった人にい
きなりこんなの書かれると困るんだよ(笑)。「淡い青色の髪が跳ね、目前に舞い降りた。」
なんて、普通書けるか?

 アスカでかい(笑)。さすがドイツの血を引く少女。

 そう、「変な事で立ち止まっ」てる暇はない。50年100年なんてあっという間だから。
ゆっくりでいいから歩き続けないとね。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.18 )
日時: 2010/10/04 01:36
名前: ななし

>>17
□ tambさん

お読み頂きありがとうございます。そして感想ありがとうございます。お忙しい中お疲れ様です。
お題の方向性が間違ってなくてよかったとほっとしました。
救いがあるようにも見えますが、実際まだ不安要素がある。先の幸せは……そうですね、今後妄想力次第。無理だったら読者のイメージに委ねます、はい。基本幸せです。

>方向性としては圧倒的に正しいFF

元々原作準拠な思考があるのでその為にまっすぐなのかなと。FFは書き始めて1年しか経ってないので自分の文体の特徴が分からない部分があります。把握できてる良い部分を伸ばし学習し自分を磨き長くFFを書きたいものです。


メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.19 )
日時: 2010/10/17 08:48
名前: 何処 ID:05PT5KJnZDE

「イインチョおかわり!」

鈴原は空になった丼を私に最高の笑顔で差し出した。



【もっと高く…】



「鈴原君、もうあたし委員長じゃないんだから…」

苦笑しながら丼を受け取り、艶々に輝く御飯をよそう。

「あ!いやスマンスマン、でもな、どーも碇みたいに“洞木さん”って呼ぶのも何や他所〃しいし、惣流風に“ヒカリ”って呼ぶのは何や抵抗あるねん。」

…心臓が止まるかと思った。

鈴原に“洞木”なんて呼ばれたら綾波さんみたいに顔を赤く染めて“何?鈴原君”なんて…
ましてや“ヒカリ”なんて呼ばれたら…

駄目!絶対駄目!“トウジ”なんて言えないし“トウジさん”なんて無理!絶対恥ずかしくて呼べっこ無い!

「…はい、特盛にしておいたわ。」

うっかり御飯を盛りすぎたのをごまかして鈴原に丼を渡す。

「うはぁ!?イインチョオオキに!…ってイインチョ、自分食べとらんやん?」
「あ、いいの鈴原、あたしそんなに…」


…何でこのタイミングで私のお腹が鳴るの?


全身が熱い。耳まで熱い。今の私は正しく茹でダコ状態。碇君にお弁当渡された綾波さん並みに。


「あ…イインチョ、どうもワシ食いきれそうにないんで半分喰ってくれんか?」
「え?で、でも…」
「ええからホレ。」

鈴原が私の手ごとお茶碗を引き寄せ、丼から御飯を移す。その手が熱くて力強くて…

「…あー、お兄ちゃん、ヒカリお姉さん?私も御飯食べてんねんけど…」

「え?」「あ、な、何や居たんかい!?」

ゴン!

「ガクぅッ。そらないでお兄ちゃん…」

「な、何言ってるのよ鈴原!さ、最初からヤヨイちゃん居たじゃない!も、もうやだな鈴原ったら!」
「え、あ!そ、そうやそうや、な、何ワシ惚けとるねん。はははは…」
「ば、馬鹿ね鈴原ったら、あはは…」
「そ、そやな、ま、全く馬鹿やな、あはは…」

「「あははははは。」」

…ごめんなさい。私もすっかり忘れてました…

「…で、お兄ちゃん。いつまでヒカリお姉さんの手握っとるの?」

「「?」」

私と鈴原は弾かれたみたいに離れ、自分の座布団の上に腰を据え直した。

「ほ、ほらこのお味噌汁はヤヨイちゃんお手製よ!?」「ん?あ、そ、そうやな、こら出汁が効いて少しからいのがええな、御飯がようけ進みよる。」

必死になって話題を振る私。返す鈴原。

…碇君と綾波さんの事言えないわ…

「…何や新婚家庭にお邪魔した小姑の気分や…」

「ウグッ!」
「や、ヤヨイちゃんな、何言い出してるの!?」

慌てる私ににっこり微笑み、“御飯冷めちゃうで”と彼女は言い、食事を再開した。

…その通り。早く食べちゃおう。

少女に促された私はむせる鈴原にお茶を渡し、自分の食事を再開した。

鈴原の家に晩御飯を作りに来たのはもう何回目だろう?
私が進学した疎開先の女子高から再び第三新東京の共学校へ編入したのが初夏。
綾波さんや碇君との再会は驚きだった。
遺伝子治療のせいで綾波さんは髪が根元から栗色に変わりつつあり、碇君はクラスで二番目に背が高くなっていた。

少し遅れて越して来た鈴原との再会。

疎開先を離れた時はもう会えないと思っていた。
私は笑顔で鈴原と別れ…
電車が第三新東京に着くまで泣いた。そして数ヶ月後…

目の前に現れた鈴原に、私は只泣き続けた…嬉しくて。

もうあの再会から2ヶ月、私は毎週週末に鈴原の家に通い夕飯を作る様になっていた。

「さあてご馳走様でした。ヒカリお姉さん、後片付けはウチらがやるさかい。ほれお兄ちゃん、いつまでも咳き込んどらんと食器カタさんかい!」
「ゲホゲホ…お、おう判っゲホ!」
「あ、私が」「ええからええから、ヒカリお姉さんは座っててえな。」

慌てる私を押し留め二人は空の食器を手に台所へ。

「チーン!あ、鼻から米粒。」
「うわ嫌やわ!何やっとんねんお兄ちゃんは!きったないなあもう!ほれとっととんなもんほかってんか!」

仲睦まじい兄妹がお皿を洗いながら漫才のような会話を交す。
姉妹しか知らない私に二人の会話はいつも新鮮に聞こえる。
少し乱暴で遠慮の無い、それでいて愛情溢れたやり取りを聞いていると、いつも私はあの中学時代を思い出す。

昔の碇君とアスカの子供じみたやり取り…今思うとあれは兄妹の会話だったのかも知れない。
そんな事を思って私は台所のやり取りやテレビから流れて来るお笑い芸人の甲高い声を聞いていた。

「じゃ、あたしこれで…」
「あ?なんやもう行くんか?」

…そう、もう帰らないといけない。これ以上居たら私帰れない。帰りたくない気持ちに負けてしまう。

「あのなお兄ちゃん、あまり遅うなってヒカリお姉さんの親御さんに心配掛けたらアカンやん。」

…うちのコダマお姉ちゃんと印象がだぶるのよね…
ノゾミと同い年でこれだけしっかりしてるなんて…はぁ。

「おお、そない時間かいな。気い付けて帰れや!」

「うん。じゃヤヨイちゃん又ね。」

鈴原に返事をして席を立とうとすると、ヤヨイちゃんに肩を掴まれた。

「お兄ちゃん何惚けとるねん!折角ヒカリお姉さんがうちらの為に晩御飯作りにわざわざ来てくれてるんや、感謝込めてお見送りぐらいせんかい!」

「ん〜、そやな〜」

「あ、いいのよヤヨイちゃん、そんな気を使わなくても…」

「あかんあかん!何言うとるねんヒカリお姉さん。いっつも美味しい御飯作ってもろうて只返す訳いかへん!」

「え…でも…」

「大丈夫や、ここの無駄にでっかいのに送らせるさかいに。ほれお兄ちゃん、ちゃーんとヒカリ姉おさんエスコートするんやで!義足だからちゅうて怠けるんやない!」

「ちょ、一寸ヤヨイちゃん!?」

…私の顔が青くなる。
だが二人は平気な顔だ。

「あ、ええからええから。これがうちらのコミュニケーションやけん。大体うちより早く走れて義足もへったくれも無いわ!」

「あぁ、お兄ちゃんは悲しいわぁ。なんでこない家の妹は口ばかり達者になりよったんか…」

大袈裟に嘆くフリをする鈴原に思わず私は吹き出した。

「アホいうとらんと早う送り行かんかい!」

ヤヨイちゃんの声が響いた。

「おー、ちょい着替えてくるわ。」

鈴原が二階へ着替えに上り、私は鞄を手に立ち上がる。するとヤヨイちゃんが私に話しかけてきた。

「しっかし妹から見てもヒカリお姉さん、正直趣味悪いわ〜。ほんまあんなんでかまへんの?」

「え?ええ?えええ!?ななな何言ってるのヤヨイちゃん!?」

…碇君か私は。

「照れんでええ照れんでええ、ま、どーか一つ長ーい目で見たってえな。あんなんでもうちのお兄ちゃんやさかい。」

「あ…あんなんってヤヨイちゃん…」

「あんなんやから仕方無いわ。あ〜あ、うちも綾波お姉さんみたいに碇お兄さんみたいな彼氏欲しいわほんま…うちの中学ろくなのおらへんねん。相田の兄ちゃんは海外やし。」

相田君は海外の専門学校で撮影や放送の技術を学んでいる。

「ああ、うちもヒカリお姉さんみたいな家庭的なええ女とか嫁に欲しいわホンマに。」

「ヤヤヤヤヨイちゃん!?」

「ま、冗談はさておき、ええ女にならんと男も寄らんしな…綾波お姉さんみたいに謎めいた美人やアスカお姉さんみたいなげーのー人ぽい雰囲気の美人ならなんぼでも男寄って来るやろうし、なら選り取り見取りやな〜、一丁そこらへんのトコ狙うて…」

アスカは一度ドイツに帰り、今は第二新東京大学の院生だ。週に二日講義とゼミに第三新東京からリニアで通っている。

「アホ、おまいが綾波みたいになれる訳あるかい。ましてや惣流みたいなじゃじゃ馬になったらわしゃ死んだ母ちゃんに顔向けできんわ。」

「げ!お兄ちゃん居たんか!?でもま、確かにあの二人は目指すだけ無駄やし、やっぱヒカリお姉さんみたく家庭的なトコをアピールせんとあかんなぁ…はよ彼氏作りたいわぁ。」

「何い!?彼氏ぃ!あかんあかん!んな奴兄ちゃんがパチキ咬ましておっぱらったる!」

「あ、あかん。先にこのお兄ちゃんどーにかせんと。なんとかしてーなヒカリお姉さん。」

私は返事に困って笑顔で固まっていた。


「お邪魔しました〜」
「ヒカリお姉さん又ね!ほれお兄ちゃんさっさと行かんかい!」
「お、おう。じゃ行こか。」
「う、うん…」

二人夜道を無言で歩く。
ふと空を見上げ私は思わず感嘆した。

「うわぁ…凄い星空…」
「…そやな…」

星空を見上げ、蒼く輝く星に私はアスカの瞳を思う。

アスカとの再会…
碇君と綾波さんに連れられて彼女と再会した私は目を疑った。
アスカは変わった。大人になった。
以前の子供が背伸びしている印象は無くなり、何と言うか…同性の私にまで“女”を意識させる程に魅力的になっていた。
私が思うにアスカは“少女”を卒業したのだろう。

紫色になった瞳の左目とケロイドの残る右腕を「私の勲章だから」と隠す事無くジーンズに半袖で歩く彼女は格好良かった。

綾波さんの隣で堂々としていた碇君も大人だった…相変わらず素直だけど。

綾波さんは…

何と言うか、人間らしくなった。美しい人形が魂を得た神話を思い出す。

あの神話の星座ってあったかしら…

そんな事を思い星を眺めていると、鈴原が肩にジャンパーを掛けてくれた。

「…ありがと…」

「なあイインチョ、わしな、この義足になってホンマ良かった思うねん。」

「え?」

「…わしな、馬鹿やから自分の目でしか物事計って見れんねん。やからこう、足無うなって初めて色んな物の見方知った気がするんや。」

「鈴原…」

「それにわしゃ恵まれとる。今付けとる義足、タダで貰うた上に世界初なんや。良う解らんのやが自律成長型義足ゆうて人間の成長に合わせて長さとか自動的に調整してくれるんやが、わしらの歳ならホンマは年に何回かは義足を成長に合わせて交換せなあかんねん。」

鈴原は義足を叩く。

「おまけにエヴァンゲリオンの技術流用したゆうて特別な訓練せんとも使えおる。普通の足如く感覚も有るし関節もこう動かせる。」

片足立ちで義足を動かす鈴原。
確かに歩いている姿は健常者と変わらないし、半ズボンを穿いてもよく見ないと義足とは判らない。

「わしな、役に立っとるらしいわ。わしの使うとるこの義足の使用記録の情報で開発が順調に進んどるらしゅうてな、じきにこの義足市販されるちゅう話やねん。」

誇らしげな鈴原の横顔。

「それに足だけやのうて腕や指にも応用できる技術やさかい、義手や義指も体の成長に合わせて買い換える必要が少のうなるし、性能も触る感触やらまで解るようになりおる。ワシの足が色んな人の手やら足やらになるんや。どや?凄い思わんか?」

その視線は遥か先、高みを追っている。

「…でな、イインチョ。」
「え?あ!は、はい!な、何鈴原?」

「その…もうちょい自分、しっかりせんとあかんなぁ思うねん。で…自分、もう少し自信もったら…イインチョの事ヒカリ呼んでええか?」

…意識が遠くなりそう…

「は…はい…トウ…ジ…さん…」

「え?あ…その…いや…あ…うん…」


「…」「…」



「「…」」



***



その夜、帰り道で私は空に輝く沢山のお星様にお願いしてた。
今夜の事、夢じゃありませんようにって…

目標も出来た。
“ヒカリ”って呼ばれる日に“トウジさん”って咬まないで返事出来るようになる事。

志が低いけど、手の届く場所から先ずは一歩。
頑張るわよヒカリ!

家に帰り二つのお弁当箱を洗いながらそんな事を考えていて、私はふと嫌な事まで思い出してしまった…


今日も予定以上に食べちゃった…
…来週のお弁当…カロリー押さえないといけないわよね…


体重計が怖い洞木ヒカリ17才でありました。


ED【bpm】歌・初音ミク
http://www.youtube.com/watch?v=iWjKFmO-5es&sns=em
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.20 )
日時: 2010/10/25 21:31
名前: tamb

■ななしさん
 本来FFは原作準拠であるべきなので、姿勢としては正しいかと思います。もちろんバリエー
ションが多岐に渡るのも悪いことではないですが。
 文体の特徴なんてのは、自分ではわからないものです。たぶん。
 私の場合は最初に書いたときにとある作家に似てると気づいたという部分があって、それは
ほとんど数センテンス書いた時点で意識しました。恐らく他人が読んでも似てるとは思わない
だろうという意識もあって基本的にそこから脱却しようとしておらず、文体そのものに迷いは
ないです。それがいいことなのかどうかは難しいですが、そんなことに悩む暇に書いたほうが
いいというのが私の現状です


■もっと高く…/何処
( No.19 )

 トウジの妹が関西弁というのは当然そうあってしかるべきで、なんで気づかなかったのかと
思う。女の子の関西弁って結構かわいかったりするんだよな。ヤヨイちゃんはちょっとじゃり
ン子チエっぽいけど(笑)。

 ヒカリと呼ばれることを夢見る少女に萌える。でも、どう呼ばれようと彼女は彼女なんだと
も思う。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.21 )
日時: 2010/10/31 02:06
名前: ななし

□tambさん

そういえば文の特徴は誰かに似ていると言われた事がない事に気づいたので気にしない事にします(笑)
描写うんぬん似ていても作者が紡ぐ物語は意識して書かない限り似る事はないし、結末は一致することはないと自分は思ってます。人の数だけ可能性の物語がある。


自分の中の物語を形にし、キャラクターを「生かし」たいなら絵や文字を綴る。それしか他者に語る方法がない。


物語を「か」くに必要なのは紙とペン、そして想像力を形にする勇気なのかもしれない

「悩む前に書く」

悩むのは後からでも出来る(笑)
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.22 )
日時: 2010/10/31 23:10
名前: 何処 ID:4SyGgU9qKQc

父さん

僕はやはり父さんの息子だった。
あの赤い海が消えてもう五年が過ぎた。
僕は貴方と同じ道を歩もうとしている…

『何故だ!父さんは成功したんだ!なのに何故僕に出来ない!』

LCL水槽に拳を打ち付ける。

『諦めない…諦めるもんか…』

傍らに立つ金髪の少女は僕の白衣の裾を握りその蒼い眼で僕を見上げていた。



【彼方へ】



僕が彼女と再会するにはそれから八年を要した

『碇博士…ついに…』

『ああ…』

LCLに浮かぶ彼女はあの時そのままの姿…涙に霞む視界、懸命に眼を凝らし僕は彼女を見る。

『おめでとうございます、碇博士!』

隣に立つ助手も涙声だ。見ればその蒼い瞳も涙に濡れている。

『馬鹿、泣くのは俺だろうが!なんでお前が泣くんだよ!』

ショートカットの金髪を僕はくしゃくしゃに撫でる。
『だ、だって…。』

あの傍らにいた少女は今や僕の欠かせぬ研究のパートナーだ。涙を拭き彼女は改めた口調で私に告げた。

『では碇博士…彼女を目覚めさせて下さい。記憶転写は既に』

Beeep!Beeep!Beeep!Beeep!

『何!?一体何が起きたの!?』

『どう言う事だ!』

『碇博士!あ、あれを!?』

『そんな…』

僕の目の前で少女はLCLと化して行く。あの日の母の様に。

イカリクン・・・イカリクン・・・イカリクン・・・

『嘘…』

『綾波!?綾波ー!』

綾波は…消えてしまった。僕は…やはり人を愛するべきでは無いのか?

…こうして綾波レイの肉体再構成は失敗した。再度の実験でも人工合成した遺伝子から製作した肉体はLCLから出ると肉片と化した。
ATフィールドが脆弱なのか…やはりオリジナルの細胞から遺伝子を…だが何処に?

◇◇◇

あの赤い世界、僕は護られる事から抜け出し、追い求めた存在に拒絶され、それでも生きて…世界は甦ってしまった。

未だに僕の悪夢に現れるLCLの中に無数に浮かんだ綾波、エヴァを…僕を求めたあの巨大な存在を。
僕は怯えた。あの時綾波は恐怖の存在だった。あの赤い世界で僕を見詰める水平線彼方の綾波も、僕と一つになった綾波も、僕は恐れていた。

だから、僕は一つになる事を拒絶したのかも知れない。

そして甦った世界、その中へ帰還した僕は孤独だった。
そして漸く気付いたんだ…綾波への恐れは、愛情の裏返しだったって事に。

アスカ…君の言う通りだったよ。僕は君に逃げていたんだ。

…もう…逃げない…

そして、僕は狂気に身を委ねた…父親と同じ様に。

だが結果はこれだ。漸く僕はレイを手に入れ…又失った。


◇◇◇


あの日からもう十年…


『…アスカ、弐号機の残骸から君の母親の記憶のサルベージは終わった。クローニング体も完全な状態だ。目覚めた時には君が求めたママが待っている…君への贖罪だ、受け取ってくれ。』

冷凍睡眠装置のカプセルに僕は語りかける。

『…そして、僕は僕を求めた、在りの儘の僕を必要としてくれた彼女を呼び戻す…』

傍らのLCL水槽を見上げ、僕の頭上を漂う無数の少女達を眺める。

『…エントリープラグの中にまさか君がいたなんてね…例え脳の一部だって、君には違い無い。』

ふと微笑み、僕は又カプセルを見る。

『ねえアスカ…君は今度こそ幸せになるんだ…そして僕も彼女を取り戻す…今度こそ。』

霜の降りたカプセルに僕は語り続ける。

『アスカ…僕は今漸く君が解る。君の強さ、弱さ、そして狡さと嫉妬深さの訳が。』

特殊樹脂の透明カバーを擦り霜を落とす。そこに眠る少女の肌は純白。
手袋を外し、そっと指先をその肌に這わせる様にカバーをなぞる。

『君は僕の鏡像だった…だから惹かれ、反発し、憎んだんだ。』

張り付くのも構わず僕は掌を押し付ける。

『ごめん…ごめんよアスカ、僕は君にこんな…』
『こんな事、娘は望んで無いわ。』

背後から掛けられた声は…

『…キヨコさん、貴女は呼んでいませ』『黙って』

彼女の手には銀色の45口径、僕は黙った。

『…』

『…碇博士、私は、私の肉体は確かにキョウコ・惣流・ツェッペリンのクローニング体です。でも私は、私の心はキヨコ・六分儀です!』

『ああ、知っている。だから君はこうしてここにいる。アスカの母親となるのは君の予備のクローニング体だ。キョウコ博士の記憶を』

『違います!私が言いたいのはそんな事じゃありません!』

彼女は…泣いていた。

『判りませんか…貴方はもう五十を過ぎているんですよ?もう綾波さんと結ばれはしない!貴方は、貴方はもう…』

彼女から視線を逸らし、LCL水槽を仰ぎ見て僕は語る。

『…この年になって俺はやっと父親の…父さんの願いが解る。』

『…え?』

『「有り難う」…只その一言を伝えたかったんだ…』
『そんな…』

『その銃を仕舞ってくれ。彼女が怖がる。』

僕はプラントに浮かぶ少女から視線を外さす告げた。。

『…条件があります…』

『…何だい?』

『条件は二つ…キョウコの復活はこの娘の、アスカの意識が回復した後、本人の意思で決めさせて下さい。』

『…もう一つは?』

『お願いを聞いて下さるんですか?どちらか一つだけでは私は許しません。二つとも聞いて頂けなければプラントごと爆破しますよ。』

『爆破?まさか…いや、君なら簡単か。判った。言う通りにしよう。』

『もう一つは…この娘達には家族が必要です。貴方が父親になって下さい。』

『ああ、それは当然そのつも』『母親も要りますわ。私みたいな母親が。』



鳩が豆鉄砲喰らった表情とは今の僕の顔を言うのだろう。

『…何?』

ギリギリ軋みながら振り返り、何とか絞り出した声は我ながら間抜けで

『ち、一寸まてキヨコ君、ききき君はぼぼぼぼ僕の娘みたいな物でただだ大体歳の差を』
『相変わらず興奮なさると“ボク”なんですね、碇博士。』

…成る程、アスカの母親だ…

『あ、いや、しかしだな、君はこんな僕みたいな過去の遺物と言うか昔の思い出に生きるような』

『シャラーップ!』

『は、はい…』

『碇博士…』

俯いた彼女は低い声で僕に告げる。拳銃の安全装置を解除しながら…勘弁してくれ…

『…私が何故貴方の研究に手を貸したか判ってます?只の探究心だとでも?判りますか?私もあの娘もファザコンなんですよ?』

『あ…う…』

『それにこのままじゃ私ウエディングドレスを三十路過ぎて着なくちゃいけないんです!誰かの過保護な愛情のお蔭で。』

顔を上げ、キッとぼくを睨むアスカ似の表情は固い。

『し、しかしだな…』

『責任、取って、下さい。私の命と、私の恋心と、私の人生の。』

『い、いや、だがな、』
『駄目?“おにいちゃん”』

『ぐっ!』

『パパって呼ばせないで“おにいちゃん”なんて、まるで私ブラコンじゃないですか。この責任も、どうして下さるんです?』

『い、いやだから…』

『だから?』

『あ、あのな、つまり…』

◇◇◇


『し ん じ。』

『い か り 君。』

『碇博士、起きれます?。』


…枕元の眼鏡を手探りで取り上げ、横になったまま僕は視界を確保し、声を掛けた女性陣に挨拶する。

『ああ、おはようアスカ君、レイ君、キョウコ君。』
『あのね…おはようって』
『もうお昼よ、碇君』
『アスカちゃんもレイちゃんも、碇博士は今朝までお仕事だったんですからね、もう少し寝かせて…』

『駄目よママ!キヨコお母さんが帰って来るまでにこのバカ』
『アスカ。』

…キヨコもそうだかキョウコ君も怒ると怖いな…

『…言い直しなさい。』

『…はい。つ、つまりキヨコお母さんが入院先から帰って来るまでにきちんとした生活習慣を碇シンジさんに身につけて頂きたいと』

『グート!』

苦笑しながらやり取りを聞く僕に綾波は耳打ちした。

『碇君、私をこの世界に呼び戻してくれて有り難う。』

僕もお返しに耳打ちする。

『幸せかい?』

『あーっ!?何こそこそ話してんのよあんたは!』

『…内緒。』

『ムキー!ムカつくわねこの女!』『こらっ!アスカ何ですその言葉使いは!』『キャー―ッッ!?マ、ママごめんなさ〜い!』

追い掛けっこする二人を綾波と僕は微笑んで眺める。又綾波が僕に耳打ちした。

『さっきの答え、幸せよ、とっても。もうじき家族も増えるし。ね?碇おとうさん。』

『綾波…有り難う。』

《よくやったな…シンジ》

『『『え?』』』

キョウコさん以外の動きが止まる。

『父さん!?』『『碇司令!?』』

僕らは顔を合わせた。

『今…』『碇司令の声…』『聞こえたわ…』

『…?三人共どうしたの?』

ふと込み上げる何かが、僕の目を焼いた。

有り難う…父さん、それに有り難うみんな、有り難う…

未だだよ、父さん、これからなんだ。

もっと高く…僕は君達をもっと高く連れて行きたい。
今よりも、もっと幸せの彼方へ。

僕の濡れた頬を僅かに空いた窓から来た風が優しく撫でた。


●曜サスペンス劇場風ED
【RIP=RELEASE】歌・巡音ルカ
http://www.youtube.com/watch?v=4SyGgU9qKQc&sns=em
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.23 )
日時: 2010/11/18 06:36
名前: tamb

■彼方へ/何処
( No.22 )

 普通に難しい。冒頭に出てくる金髪の少女はキヨコかなと思ったけど、よくわからん。
 中盤までの狂気は鬼気迫るものがあるので、それで押し通した方が良かったんじゃないだろ
うか。サイズ的に。要するにこのシンジを許すのは難しいと感じたのだった。

 巡音ルカは悪くない。いろいろあるんですなー。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.24 )
日時: 2010/11/26 23:10
名前: tamb


*****青くどこまでも高い空に*****

 おれはネルフでメカニックをやってたんだ、と男は語りはじめた。

 エンジニアじゃない、メカニックだ。そこは間違えてくれるなよ。

 子供の頃から機械いじりが好きでね、それで自動車整備工場に就職したんだよ。それなりに
充実した日々だったが、そこへセカンドインパクトだ。一週間後には東京に何とかって爆弾ま
で投下されちまって、会社は消えたよ。文字通り消えたんだ。
 当然おれも失業者の仲間入りだ。命があっただけ儲けもんだとは思ったけどな。
 それからいろんな仕事をしたよ。生きるためにな。街には失業者があふれていたし、仕事を
選んでる余裕なんてあるわけはない。文句なんか言おうもんなら嫌なら辞めろって即クビだよ。
そういう時代だったんだ。
 車の絶対数が減ってたし、車をいじる仕事なんか夢のまた夢だった。でも夢は捨てたくなか
ったからな、暇を見つけてはハロワに通ってたよ。たとえ可能性がゼロでも、人は希望がない
と生きてはいけない。そうだろう? 失意の日々でも無理して希望を見つけてたんだ。ハロワ
に通うことで逃げていたのかもしれないけどな。自分の人生を正面から見つめることから。
 そこにゲヒルンってとこから声がかかったんだ。有頂天になったね。応募したんじゃない、
声がかかったんだぜ。腕のいいメカニックが欲しいってね。見てる奴は見てる、神様はいるん
だって思ったよ。守秘義務に関する誓約書みたいなものを書かされたけど、そんなのはどうで
も良かった。ろくすっぽ読みもせずサインしたさ。機械がいじれるなら何でも良かったんだよ。

 後でわかったんだが、腕のいいメカニックじゃなくて勘のいいメカニックを探してたらしい。
冷静に考えればおれより優れたメカニックなんて掃いて捨てるほどいる。腕でおれが選ばれた
とは考えにくい。だが勘は確かにいいと自分でも思う。学校のどうでもいい試験なんてほとん
ど勘で乗り切ったようなもんだ。失業してる時にボランティアやってて、結果的に勘が冴えて
人の命を助け、新聞に載ったこともあった。どこからかそういう情報を手に入れたんだろうな、
奴らは。

 おれが入ってしばらくして、ゲヒルンはネルフって名前に変わった。ゲヒルンにしてもネル
フにしても、それは会社じゃなかった。組織だったんだ。ゲヒルンに至っては非公開組織だ。
 そしておれがいじるのは車じゃなかった。正確にいえば機械ですらなかった。汎用人型決戦
兵器、人造人間エヴァンゲリオンってやつだ。いったいなんなんだと思ったよ。そりゃ誰でも
そう思うだろう。
 要するに、使徒とかいう敵が攻めてくるからエヴァで戦うってことらしかった。正気とは思
えなかったね。素人を騙す大規模なドッキリ企画かと思ったよ。まあそうじゃなかったんだが
な。奴らは正気で、しかも本気だった。そういう奴らが一番手に負えないんだがな。
 その使徒って敵が使うA.T.フィールドとかいうバリアみたいなのに対抗するには純然たる機
械、つまり戦車みたいなのじゃダメで、NN系の兵器でもダメで、エヴァでやるしかないって話
だった。そのエヴァの肝心の動作原理がはっきりしないってのが何とも情けなかったけど、お
れたちはとにかくやった。やるしかなかったからな。勘がいい奴を探してるっていうのはこう
いうことかって、その時にようやくわかったよ。よくわからんものを何とかしないといけない
んだからな。ある程度以上のところは勘でやるしかない。

 実際に使徒って奴が攻めて来てからというもの、おれたちはほとんど寝る暇もなかったな。
修理に次ぐ修理、改修に次ぐ改修だ。
 おれたちもそうだが、生体部品を担当してるチームも悲惨だった。スペアパーツなんかほと
んどないんだよ。どうするかっていうと、詳しくはもっと難しいのかもしれんけど、要するに
抗生物質入りの軟膏を擦り込んで、傷口を縫って、包帯を巻くんだよ。あとは自然治癒にまか
せるんだ。さすがにおれたちも笑ったけど、生体部品班の奴らも半笑いだったよ。あいつらは
基本的に医者なんだが、まさかこんなでっかいのを治療することになるとは夢にも思っていな
かっただろう。
 例えば傷口の大きさだって半端じゃない。エヴァにエヴァの傷を縫わせるってアイディアも
でたけど、おれたちにエヴァの操縦はできないし、パイロットの子供たちに傷は縫えない。結
局、おれたち機械班がマニピュレーターを作ったよ。エヴァ手術用のね。そのうちにでっかい
注射器やメスや鉗子が出来てきて、そっちはようやく何とかなった。現場を見ると漫画かと思
うけどな。

 戦闘後のエヴァの装甲を調べてみると、もの凄い負荷がかかってるのがわかった。これは使
徒の攻撃だけによるもんじゃないなって意見でおれたちは一致した。エヴァの持つ本来のパワ
ーを、何らかの理由で封じ込める必要があったんだ。意味がわからなかった。課長に聞いてみ
たが、それを知らせる権限は与えられていないと来たもんだ。自分も知らされていないんだな
ってピンと来たよ。
 それでおれたちは赤木博士に直接交渉したよ。理由を教えてくれ、そうでないとまともな修
理はできないってな。博士は、おれたちがエヴァの装甲が単なる装甲じゃないってことを見抜
いたのに驚いたようだった。全てを明かすことはできないけれど、と前置きしてから博士は言
った。全パワーを開放するとセカンドインパクトの再来、つまりサードインパクトが起こりか
ねないってな。
 全く新しい合金が必要だった。それは開発局の連中に任せるとして、おれたちは応急的な処
置を考える必要があった。結局、さして固くないが粘りのある金属を内側に、そこそこ固くそ
こそこ粘る金属を中間に、そしてひたすら固い金属を外側にするっていう三弾構えを考えた。
間にはカーボンナノチューブシートを向きを変えながら分厚く巻き付ける。カーボンナノチュ
ーブは引っ張り強度ならダイヤモンド以上だからな。それを計1万2千枚重ねるんだ。
 課長に打診したが、前例がないとか何とか言って書類を受け取ろうともしない。こいつは本
当に無能なんだよ。おそらくどっかの役所から天下ってきたんだろうな。事なかれ主義って奴
だ。
 で、またも赤木博士に交渉したよ。何も言わずに受け取ってくれた。それから24時間後には
ゴーサインがでたんだ。燃えたね。やってやるって思ったよ。零号機の色が変わったのにはそ
んな経緯があったんだよな。
 赤木リツコにしても、葛城ミサトも加持リョウジも一流大学を出た本物のエリートで、おれ
たちはどう逆立ちしたってああいう場所には行けないけど(街のお巡りさんが警察庁長官にな
れないみたいなもんだ。そもそも採用区分が違うんだからな)、話のわかる奴はいるもんだっ
て思ったよ。同じエリートでも課長とは人間の出来が違う。

 もちろん、おれたちのモチベーションには子供たちの存在があった。本当なら前線にはおれ
たちみたいな大人が立つべきで、子供たちは後方支援に回るかせめて安全な基地の中でなんか
の遠隔操作をしてればいいんだと思う。子供たちに守ってもらおうなんて問題外だ。だがそう
はいかなかった。使徒にはエヴァでなければ歯が立たず、エヴァは子供たちが直接乗り込まな
いと動かなかったんだからな。だからおれたちにできるのはエヴァの強化だけだった。

 パイロットの子供たちってのはとんでもないエリート中のエリートで、アスカちゃんはまだ
ほんのガキの頃からパイロットになるための英才教育を受けてたって話だし、レイちゃんはパ
イロットになるために生まれて来たみたいな良くわからない噂もあった。シンジ君に至っては
なんたって司令の息子だ。そもそも生まれが違う。
 だが可愛かったね。まだ中学二年だ。
 おれたちの大半はレイ派とアスカ派に分かれ、ごく少数が中間派だった。ミサト派、リツコ
派、マヤ派なんてのもいたな。少ないとは言えない女性スタッフの多くはシンジ派だった。あ
あいうちょっと気弱な感じの男の子に、女の子は保護欲を刺激されるんだろう。

 余談になるが、おれたち男のスタッフと女性スタッフで付き合ってる奴はいなかった。考え
てみれば当たり前のことなんだが、そもそも女の勘ってのはやたら鋭い。そして女性スタッフ
ってのはおれたちと同様に勘のいい奴が選抜されてる。つまりそもそも勘のいい中から更に選
抜されてるわけで、その勘の凄まじさはほとんど超能力の域にまで達しているのではないかと
思えたよ。それが勘のいいおれたちにはわかるわけだ。女たちも男たちがわかっているという
ことにもの凄い勘で気づいている。一切の隠し事は不可能だ。付き合いが始まっちまえば別な
んだろうが、あの娘はいいなと思い始めた段階で周囲のあらゆる女性に何もかもがバレバレだ
と思うと、想いを行動に移すのは困難だ。男と女ってのは理解しあおうという方向に進むもん
だと思うが、それが鋭い勘を武器にした腹の探り合いからのスタートになるんだからな。

 まあそんなことはいい。話を戻そう。

 アスカちゃんっていう二番目の女の子が弐号機と共に来て、おれたちの忙しさには拍車がか
かった。だってそうだろう? 担当する機体が増えたのに人間の数は変わらなかったんだから。
だが弐号機はさすがにプロダクションモデルだった。実装が曲芸的だったり構造に複雑怪奇な
部分がほとんどなかったんだ。メンテナンス性も考慮されていたよ。おれたちは胸をなでおろ
した。これならなんとかなるってな。もっとも、できなくてもやるしかなかったんだが。
 アスカ派が形成されたのはこの頃だ。余裕が出来たんだな、おれたちにも。機体が増えれば
戦力は上がるんだし、子供たちが生き延びる可能性も上がるってもんだ。
 おれか? もちろんレイ派だよ。あの儚げな雰囲気がたまらなかったね。ほとんど笑顔を見
せないのもいい。だから碇司令に笑顔を見せた時には実験場内がどよめいたよ。あの時はまだ
アスカちゃんはいなかったからアスカ派なんて無かったけど、レイちゃんに関心のないやつら
や女性スタッフまで手を止めてたからな。ま、おれたちがどよめいたことに司令もレイちゃん
も気づいてなかったみたいだったけどな。シンジ君は気づいたのかな?

 アスカちゃんの話だ。なんでも高飛車で高慢なところがあるって噂だったし、美少女すぎて
おれは敬遠してた。なんてったって金髪碧眼だからな。
 弐号機と共に来日してしばらくたったころ、おれたちはアスカちゃんが時々キャットウォー
クからこっちを見てるのに気づいた。おれはどうでもよかったしアスカ派の面々は恐れ多いっ
て感じだったけど、中間派のやつ等が何とも気軽に声を掛けたんだよ。「アスカ、こっち来い
よ」なんてな。呼び捨てだぜ。おれは怒鳴りつけられるんじゃないかとびびったし、アスカ派
の連中もアスカちゃんと言え馬鹿ご機嫌を損ねたらどうするとか小声で怒鳴ってたよ。でもア
スカちゃんは「はい!」とか元気に返事して降りてきたんだよ。「アスカ、スパナ取ってよ」
とか言うと、「スパナってどれ」とか言いながら取ってくれるんだ。可愛かったね。おれもど
こが高飛車で高慢なんだ、噂なんていい加減だなって思ったよ。
 次の日から、つなぎにヘルメットで(作業中は一応それが決まりだったからな)ポットにコ
ーヒーと手作りのクッキーかなんか持って来るようになった。そうするとおれたちは休憩に入
るんだ。クッキーはちょっとばかりしょっぱかったりしたけど、うまかったよ。正直、おれは
泣いたよ。アスカちゃんには「おじさんなに泣いてんの」とか言われたけどな。別におれだけ
のために作ってくれてるわけじゃないってわかってはいたけど、手作りのクッキーなんて食べ
るのは生まれて初めてだったんだ。思いやりってやつを感じたよ。思わずアスカ派に転びそう
になったね。実際、相当数の奴らがアスカ派に転向したよ。

 食堂で遅い晩飯を食ってると、実験だかテストだかを終えた彼女が姿を現す事もあった。ト
レイを持ってあたりを見回して、おれたちの姿を見つけると嬉しそうな顔をするんだよ。で、
こっちに来て座って「男ばっかでむさくるしいから来てやったわよ」なんて言うんだ。可愛い
よな。で、今日はこんなことがあった昨日はあんなことがあった、ファーストのこんな態度が
気に入らないけどこんなとこはちょっと可愛い、バカシンジのあんなとこがムカツクけどあん
なとこはちょっと素敵かも、リツコがどうミサトがどうととにかくよく喋るんだ。おれたちも
笑ったり突っ込んだりしながら聞いてるんだけど、結局淋しかったんだろうなって、今にして
みればそう思うよ。

 そのうち、レイちゃんとシンジ君も連れてくるようになった。シンジ君はおばさん――失礼、
女性のスタッフに取り囲まれて笑顔が完全に固まってたし、レイちゃんはどうしたらいいかわ
からないみたいで、最初はシンジ君にくっついてたけど、おばさんたちに弾き出されてアスカ
ちゃんの後ろに隠れるみたいにしてたよ。アスカちゃんはおれに「おじさん、ファーストのフ
ァンなんでしょ? 連れてきてやったわよ」なんて言ったよ。おれは完全にバレてるなって思
ったけど、みんな娘みたいなもんだから生き延びて幸せになって欲しいんだ、みたいなことを
言ったよ。アスカちゃんは一瞬顔を歪めたけど、おじさんたまにはいいこと言うじゃんって笑
ってた。でもちょっと泣いてたな。
 おれたちもそうだけど、たぶんあの子たちも幸せに生きていくっていうことが現実として感
じられなかったんだと思う。目の前の闘いに対処するので精一杯だったからな。その日その日
を暮らしていくだけで、今日と違う明日が今日の続きにあるなんて考えられなかったんだ。

 みんなで写真を撮ったのもこの頃だった。そういうアイディアを出すのはいつもアスカちゃ
んだ。その日は司令も副司令もいなくて、葛城さんは非番、赤木博士は徹夜明けで帰ったばか
りだった。アスカちゃんはおれたちにリクエストを求めて、結局プラグスーツに着替えようか
ってことになった。闘いが終わったらプラグスーツなんて着ることもなくなるんだから、平和
な時代から今を振り返ってあの頃は辛かったねって笑い合えるようにってね。おれたちは勝手
にエヴァを移動して三体並べた。完全な越権行為で、バレたら始末書じゃ済まないが、そんな
ことは知ったことじゃなかったね。
 三体のエヴァを背景におれたちがずらりと並び、最前列には子供たち三人だ。シンジ君が真
ん中で、左右にアスカちゃんとレイちゃん。シンジ君は両手に花だななんて言われて顔を赤く
してたよ。

 でもそんな束の間の平和も長くは続かなかった。零号機は自爆し、九死に一生を得たレイち
ゃんはまるで別人のようになっていた。アスカちゃんも使徒の精神攻撃が元でシンクロ率が低
下したまま戻らず、結局入院してしまった。おれたちは見舞いに行くことも許されなかった。
せめてとみんなで花束を山のように買って贈ったけど、それも届けられなかったみたいだった。

 そこに戦自の突入だ。なんなんだと思ったよ。子供たちは、そしておれたちだって、お前ら
みんなを守るために命を賭けてたんじゃなかったのか。何かの間違いだと思ったよ。
 でもそうじゃなかった。アスカちゃんが弐号機に乗せられて地底湖に隠され、ロストしたレ
イちゃんと自己を失いつつあるシンジ君を守るために必死になってるって情報が断片的に入っ
て来て、もう信じるしかなかった。
 非戦闘員の白兵戦は極力避けろなんていう命令が入ったけど、冗談じゃない。おれたちは動
ける。そして大人だ。もう人類なんて知ったこっちゃない。子供たちを守る、それだけの理由
でおれたちは走った。
 だが相手はプロ、こっちはしょせんメカニックで戦闘は素人だ。月に一度のおざなりみたい
な訓練で扱った程度のサブマシンガンなんか撃ったってあたるわけがない。必死で応戦しなが
らも後退するしかなかった。
 だれかが「パレットガンだ!」と叫んだ。そうだ、おれたちにエヴァは扱えないが、武器な
らあった。とんでもなく強力な武器だ。人間が直接扱える代物じゃないが、おれたちには手術
用のマニュピレーターがある。
 おれにやらせろって、生体部品班の奴が叫んだ。そいつは筋金入りのアスカファンで、ひ弱
な奴だったがマニュピレーターの扱いに関しては超一流だった。おれたちは格納庫に走り、マ
ニュピレーターをキャリアに乗せて、パレットガンを積んで前線に戻った。
 戦自の奴らはでっかいパレットガンを見て慌ててたよ。おれたちにはもう人を殺すんだって
意識はなかった。そのアスカファンの奴はろくすっぽ狙いもせずに撃ちまくったよ。地獄のよ
うな轟音と振動で失神しそうになったが、戦自は一目散に退却だ。奴は「やったぜ」とマニュ
ピレーターの上で歯をむき出して笑ったが、次の瞬間には眉間を撃ち抜かれていた。退却なん
て見せかけだったんだな。もちろんパレットガンはそれなりの損害を与えたはずだが、やっぱ
り奴らはプロなんだ。
 おれは死んだ仲間を押しのけてマニュピレーターに取り付いたが、狙いをつける間もなくス
タングレネードを投げ込まれた。音響閃光手榴弾ってやつだ。おれたちは凄まじい閃光と轟音
に目も耳も麻痺させられ、棒立ちになったところを撃たれた。おれも右肩と左足を打ち抜かれ
て気を失ったよ。戦自の濃密な弾幕に包まれても即死しなかったのは、おれがパレットガンの
影になっていたからだと思う。運が良かったんだな。

 地震みたいな振動でおれは意識を取り戻した。戦自の奴らはもういなかった。撃たれたとこ
ろはめちゃくちゃ痛かったけど、弾は貫通してたみたいだし、出血も激しかったけど動脈はそ
れてたみたいだった。戦自の使ってた弾は恐らく被甲弾だったんだろう。ハーグ何とか条約っ
てのを守ってるってわけだ。ホローポイントだったら背中にすりばちみたいな射出口を残して
まず即死だ。まあこっちのパレットガンは劣化ウラン弾なんだけどな。
 やっとの思いで上半身を起こしあたりを見ると、仲間が死んでたよ。つい何日か前まではみ
んなで写真を撮ったり笑い合ってた仲間だ。もうみんな口もきけないし笑うこともできない。
これが戦争なんだって思ったよ。命の奪い合いだ。でも敵は使徒じゃない。同じ人間なんだ。
たしかにおれたちは生き延びるとは思ってなかった。でも同じ人間に殺されるとも思ってなか
った。
 でも、とおれはもう一度思った。おれたちも人を殺した。パレットガンで、戦自の人間を。
 おれは地上を目指し、痛む足を引きずって歩き出した。子供たちに戦自の人間を相手にでき
るだろうか。アスカちゃんならためらいなくやるだろう。あの子はそういう子だし、それは正
しい行動だ。それでもおれは彼女を止めたかった。アスカちゃんが手を汚す必要なんかないん
だよ。責任はおれたち大人が取らなきゃいけない。最後の最後で互いに争うような人間なんて
生きるに値しないのかもしれない。でも子供たちは違う。子供たちには未来がなければいけな
いんだ。
 地上は果てしなく遠かった。おれは一歩ずつ階段を昇り続ける。薄れてそうな意識を必死に
奮い立たせる。長くは持たないことはわかっていた。でも一歩ずつでも歩き続ければ前に進む
ことができる。それはまだ生きているということだ。そうだろう?
 意識が混濁し、目的と手段が混乱しているのはわかっていた。それでもおれは歩みを止める
つもりはなかった。
 そしておれは最後のゲートを渾身の力で押し開き、地上にたどり着いた。だがそこまでだっ
た。おれは力尽き、そのまま倒れこんだ。でもここまで来たんだ。
 アスカちゃん、レイちゃん、シンジ君、おれの姿が見えるかい? ようやくここまで来たぜ?

 おれは最後の力であおむけに転がった。

 空がとてつもなく高い。考えてみれば、もう何ヶ月も地上に出たことなんてなかった。ずっ
とジオフロントの作られた天井ばかり見て暮らしてきた。本物の青空が高いのは当たり前だ。
でもこんなに高いなんて思わなかったな。なあ、見てみろよ。空が高いってのは、こんなに素
敵なことなんだぜ。
 ……レイちゃんじゃないか。無事だったんだな。良かったよ。本当に良かった。
 なあレイちゃん。おれは、おれたちが君たちのために何かできたなんて思わないよ。でもひ
とつだけ聞かせてくれ。幸せになれそうかい?

 還る? いや、いいよ。やることはやったつもりだ。できることは、と言うべきかな。思い
残すことはないよ。……いや、ひとつだけあるな。葛城ミサトの乗ってたオリジナルのガソリ
ンエンジン、左ハンドルのルノーA310をいじってみたかったよ。あれのメンテにはちょっとし
たコツがあるんだぜ……。


 男の話はそれで終わりだった。男の魂は沈黙し、もう何も語ることはなかった。
 ぼくはため息をついて男の魂をなで、目を閉じた。

「ラミちゃん、なにうるうるしてんの?」
「う、うるうるなんかしてないよ」

 イロウル君のからかうような声にぼくはあわてて反論した。

「あと三日で全部終わらせないといけないんだ。感傷に浸ってる暇はないよ?」
「わかってるってば」
「でもいいよな。ラミちゃんたちは哺乳類担当でさ」

 イロウル君は微生物担当で、何を言っているのかわかりにくいっていつもこぼしていた。
 ぼくたち使徒――正しい意味での神の使いの今の仕事は、あらゆる生物の意向を聞き取り、
それを叶えることだった。つまり、還るのかどうか。
 あと三日で全てを終わらせる。それが神様たちの命令だったんだ。絶望的な仕事量だけど、
がんばるしかない。

「せめて手伝ってくれないかなあ、神様たち。ちょっとだけでも」

 水中生物一般を担当しているガギエル君がぼやく。

「無理だよ。人間として生きるための準備で忙しいんだから」

 鳥類担当のアラエル君が諦めたように言う。ぼくたちの神様たちは、しばらくは人間として
生き、その寿命が来たら神様としての仕事をするって言ってる。そのくらいのわがままはしょ
うがないかなって思う。だって、神様だし。

「それにしてもよぉ、タブリスの野郎は何やってんだよ?」

 一番口の悪いレリエル君が言う。

「たまたまヒトの姿してるからって、仕事もしないでアスカ様といちゃいちゃしやがってよ。
許せねぇぜ」
「みんな、頑張ってる?」
「あっ、アスカ様!」

 ぼくたちの神様たち――アスカ様、レイ様、シンジ様と、自分も神様みたいな態度のタブリ
ス君が来た。ぼくたちは姿勢を正したけれど、タブリス君の態度にはちょっとむっとなった。

「ラミちゃん、調子はどう?」
「はい。大丈夫です」

 アスカ様がぼくの方に来て声を掛けてくれた。アスカ様とぼくは直接の出会いがなかったか
ら、ぼくはちょっと緊張する。アスカ様もそれを知っていて、ぼくを気にかけてくれる。

「無理しないでね」
「ありがとうございます」

 優しい言葉にぼくは感動した。

「あ、このひと……」

 アスカ様はぼくがさっきまで話を聞いていた人の魂を見て驚いたような声を出した。

「ファースト、シンジ、ちょっと来て」

 アスカ様はその魂の名を言って二人を呼んだ。

「どうするって言ってるの?」
「はい。ガフの部屋に……」
「そう……」

 ぼくは出来たばかりのレポートをアスカ様に提出した。アスカ様はレポートを読み、顔を伏
せてレイ様に回した。うつむいていて良くわからなかったけれど、泣いているのかもしれない
なと思った。レイ様もシンジ様もレポートを読んで押し黙ったままだった。

「大丈夫ですよ」

 だからぼくはそう言った。

「きっと幸せになれます」
「ありがとう」

 レイ様が小さな声でそう言った。
 ありがとう。なんて素敵な言葉なんだろう。
 ぼくは他の魂たちにしているのと同じように、虹の欠片をその魂に添えた。こうしてガフの
部屋に送り出すとその魂は幸せになれるって言い伝えがあったんだ。

「さあみんな、休憩にしましょう! 今日は焼きいもパーティよ!」
「ブラボー!!」

 気を取り直したようなアスカ様の声に、ぼくたちは歓声を上げた。ぼくたちは焼きいもが大
好きなんだ。焼きいもの王道はサツマイモだけど、何人かはジャガイモ好きもいる。ぼくもそ
の一人だ。もちろんバターも欠かせない。見ると、タブリス君は大量のジャガイモとサツマイ
モを持たされていた。荷物持ちってわけだ。そのくらいはしてもらわないとね。もっとも、シ
ンジ様も持たされていたけど。
 とにかくぼくは、神様たちがぼくたちの好みを憶えていてくれたのが嬉しくてしょうがなか
った。

 ぼくたちは芦ノ湖の湖畔に移動し、結界を張った。こうすれば先に還った人間たちからも姿
は見えない。鬼門は湖の方になるようにしたからまず安心だ。

 盛大に焚き火を起こし、シンジ様が野菜スープを作り始める。レイ様が隣で玉ねぎを切りな
がら涙を流している。この二人の神様をみていると心が和む。レイ様の言葉を借りれば、ぽか
ぽかするって感じかな。
 アスカ様はアラエル君の隣に座って、いつものように何やらからかっている。アスカ様はア
ラエル君をからかうのが好きみたいだ。アスカ様らしいといえばらしいし、アラエル君もそれ
を喜んでいるみたいだ。ちょっとマゾっぽいよね。
 タブリス君は愛想笑いを浮かべながらレリエル君と話をしている。なにか言い訳をしている
みたいだ。

 平和だな。ぼくはそう思いながら、寝っころがって空を見上げる。

 焚き火から上がる煙が、青くどこまでも高い空に吸い込まれ消えていった。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.25 )
日時: 2010/11/29 23:28
名前:

tambさんの『青くどこまでも高い空に』の
アスカが可愛かったです。
ということと、
色々と感情移入しすぎたせいか携帯を片手に涙目になってしまいました…。

と、いうことをお伝えしたくて書き込みさせていただきました(苦笑)

失礼しました。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.26 )
日時: 2010/12/02 21:31
名前: tomo

>tambさん

 素晴らしいです。泣きました。職場だけど、関係なく泣きました。

 こんな大人に、私もなりたいと思いました。

 感動をありがとうございました。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.27 )
日時: 2010/12/04 08:37
名前: tamb

 ひこにゃんマジックを使わずして楓さんの召還に成功したということだけでも、この話は成
功であったといえるのではないだろうか。書いてよかった。

 でもこの話を読んで泣いてはいけないのです。笑わないと。アスカみたいにね。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.28 )
日時: 2010/12/04 11:23
名前: calu


■tambさん *****青くどこまでも高い空に*****

名も知れぬ男のその真摯な生き様に心を打たれました。
チルドレンやネルフの仲間との関わり合いのなかで、いちメカニックからまるで家族のような時を
過ごした男は、悲愴な最期にも悔いを見出さなかったのですね。
十四歳の子供が日々の闘いのなかで心も身体もボロボロになっていくのを目の当たりにしたとき、
取り巻く大人達はどのように感じ、行動したのか。命令に従っての退却や投降ではなく、身体を張って
子供たちを守ろうとした彼らは、大人としての責務に覚醒したのだと思います。
前作、『BLUE MIDNIGHT』に続き底辺に一貫したテーマが流れているように思えます。
良かったです。原作のストーリーでは決して光の届くことの無い、チルドレン達が関わり合いを持った
人々の懸命に生きた証でしょうか。名も知れぬメカニックがルノーを汗を流しながら整備する姿が浮か
んでくるようです。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.29 )
日時: 2010/12/07 10:16
名前: tomo

 あの青い空に溶けてしまって消え入りたくなるときが俺にだってあるのだ。

 それはちょうど,こうやって屋上で大の字に寝転がって,果てしなく高く広がる空をぼおっと眺めているときなんかによく湧き起こる。

 どれだけおセンチなんだと自分で自分に突っ込みを入れながら,でも,生じている感情自体は紛れもない事実だったりするわけで。

 そして,こういうときは必ず思い出す。

 俺の中で一番起伏に富んでいた,あの中学2年生の日々とあのころのあいつらを。










Title : 空の高さは









 不思議なことにサードインパクト後の世界は,前とほとんど変わらない様相を示していた。

 全世界の人類がいきなり一緒くたに溶け合って海を赤く染め上げるという前代未聞の経験をした割には,人類に進歩は無かったようで。

 しばらくの混乱期を抜けると,いつものように大人は会社へと向かい,子供は学校へと行かされ,世界の片隅では今日もどこかで誰かと誰かが戦って,夏の日差しはじりじりと俺の肌を焼いていた。

 3年近くもたつと,人々は,まるでサードインパクトなど無かったかのように振るまっていた。

 そのように振舞いたい気持ちはわからなくもないし,実際に世界はあまり変わっていないのだろう。彼らにとっては。

 だが。

 当然のことながら,世界には変わった部分だってある。少なくとも,俺にとってみれば確実に変わっていた。

 トウジもシンジも綾波も惣流も。
  
 エヴァとシンクロした者は,まるでそれが世界の理であったかのように誰一人帰ってこなかった。

 最初は,そのうち帰ってくるだろう,なんて気楽に思っていた。

 赤い海から帰ってくる時期については個体差があったし,なんというか,俺はあいつら,すぐに帰ってくるのが忍びないと思っているんじゃないかと思っていた。

 サードインパクトは,あの時現存していたエヴァが原因となって引き起こされた,というのが,ネットのアングラ界での定説だ(もっとも,具体的にどのエヴァがどういう経緯で起こしたのかはまったく不明だけど)。
 
 それが本当なら(俺はそうじゃないかと思っているが),シンジや綾波や惣流は,サードインパクトを引き起こした張本人となる。

 トウジは直接の関係は全然ないし,惣流がそんな風に思うイメージは無いけど,シンジなんかは絶対そう思っているに違いないだろう。

 しかし。

 予想に反して,世界のほぼ全ての人間が,それこそ,パイロット以外のネルフ関係者が帰還したにもかかわらず,あいつらはまったく帰ってこなかった。

 そうやって,時間は過ぎて,いつの間にか俺は高校三年生になっていたわけだ。

 原因は良くわからないらしい。

 エヴァにもっとも詳しい赤木博士ですらわからないそうだ。まして,たかだか高校三年生の今の俺にわかろうはずはない。

 ミサトさんは彼らを帰還させる方法を賢明に探っているらしいけど,どうなのだろう。

 ひょっとしたら,あいつらはもう帰ってくるつもりは無いのかもしれない。

 エヴァもない,戦いもない,こことは違う世界で――そう,ちょうど,あのどこまでも高く高く,蒼く蒼く澄んだ空の向こうのどこかにあるかもしれない世界で,彼は面白おかしくやっているのかもしれない。
 
 最近,そんな風に考えるようになった。

 ただ,一つ。

 唯一つだけ癪に障ることがある。

 ぎりぎりと俺の中にくすぶり続ける小さな黒き炎が,いつまでたっても消えうせないのだ。


「相田君」


 不意に名前を呼ばれて,俺は体をゆっくりと起こした。


「山岸か……」
 
   
 確認しなくても大体わかっていたし,何より,名前を呼ぶ必要なんてまったく無いのに,俺はなんとなく彼女の名前を呼んでみる。

 トレードマークの黒髪ロングヘアーは,成長して女性らしくなった彼女の魅力をよりいっそう引き立てる。

 
「洞木さんが呼んでるわよ。もうすぐ,相田君の番だから……」

 
 相変わらず,委員長は委員長なんだなと苦笑する。

 高校三年生の二学期。儀式のように行われる進路相談。

 フけてしまおうかと思っていた俺の心を見透かすかのような周到さ。


「……山岸が来なくてもいいだろうに」

「……たのまれたから。それに――断る理由も無いしね」


 それがもっとも適格な人選だろう。俺にとっても,たぶん,山岸にとっても。


「……わかった。今行くよ」

 
 さもおっくうに体を起こし,俺は山岸がいる扉のほうに向かって歩き出す。

 山岸の隣を横切ったとき,彼女の淡いシャンプーの香りをかいだような気がした。


「ねえ?」

 
 俺の後に続いて扉をくぐったところで,山岸が急に声を掛けてくる。


「……相田君は,進路,どうするつもりなの?」

「……知りたい?」

「……よければだけど」


 控えめだけど,意思はしっかりこめている口調。俺は,幾度となく話しているうちに,彼女が実は意外と意志が強い人物だと思い知らされていた。 
 

「進学するよ。ありきたりだけど」

「どこに?」

「たぶん,山岸と一緒だよ」

「でも,学部は違うでしょう?」

「そうだな。山岸が理系に転向すれば,同じ学部になれるかもな」

「無理よ,いまさら。もともと私は文系だもの」


 言って山岸はクスッと笑った。女子というのはどうしてこう,わけのわからないところで笑えるのだろうか。


「ねえ,もう一つ聞いてもいい?」

「……何を?」

「……理系の,どの学部に行くつもりなの?」


 俺が理系の学部に行くことは,履修している授業を見れば一目瞭然。
 
 たぶん,山岸が本当に聞きたかったのはこっちの方なんだろうとなんとなく予想する。

 
「……形而上生物学」

 
 別に隠していたわけではない。ただ,言う機会と,言おうと思う気持ちが今まで無かっただけだ。

 だから,俺はすぐに答えた。


 ……………………


 山岸の返事は無かった。

 しばらくして,階段を下る足音が一人分しかないことに気づいた俺が後ろを振りかえると,山岸はなぜか階段の中央で歩みを止めていた。

 4,5段上にたたずむ彼女の顔は,光の加減でよく見えなかった。

 
「……ずっと,引きずるつもりなの?」

 
 振り向いた俺に掛けられたその言葉は,たぶん,叱咤と激励が半分くらい混ざっているのだろう。


「……勘違いすんな」


「……なら,なんで,『形而上生物学』なの?」


 形而上生物学。エヴァを生み出し,エヴァの運用を可能にした学問。

 そして。

 たぶん,あいつらを戻す方法を唯一生み出すことのできる技術。

 山岸のいいたいことは,半分当たって,半分はずれている。

 何の説明も無ければ,しょうがないことといえるけれど。  
 
 
 「……答え…られないの?……」

 「……まあ,まて。とりあえず,俺の話を聞け」


 そういって一呼吸。俺は間を取った。

 誰だって自分の気持ちを語るのは恥ずかしいものだ。山岸が相手ならなおさらのこと。


 「俺には昔から,一つだけ腑に落ちないことがあってな」

 「…腑に…落ちないこと?……」

 「ああ……で,なんというか,俺が形而上生物学を目指すのは,そのへんをすっきりさせたいと思ってのことなのだ」

 「……??」

 
 雰囲気から山岸が理解していないことが良くわかる。わかっている。こんな説明じゃだめなことぐらい。

 だから,もうちょっと待ってくれ。


「……つまり,だな……俺はいつも,あいつらの戦いを見てるだけだった。遠くから見てるだけの傍観者。芝居の役でいったら,村人その1,みたいなもんだ。けど,な」

「けど……?」

「もし,将来俺があいつらをこっちに帰還させることができたなら,俺は,初めてあいつらと対等になれたと思うんだ。つまり――」

「つまり……?」

「その,なんだ……俺だって,一生に一度くらい主役になったっていいんじゃないかってことだ」

  
 思いというのはどうしてこう,言葉に出してしまうとひどく滑稽に聞こえてしまうのだろうか。

 一度空間に投げかけられた言葉は戻らない。戻らないながらも,心はそれにひどく動揺させられる。


「………………」

 
 無言の山岸。笑われなかったことは僥倖といえるかもしれない。

 もっとも,相変わらず表情はよめないため,どんな顔をしているのかはわからないが。


 やがて,充分すぎるほどの間をおいて。

 長い黒髪が,宙に漂いほのかな甘い香りが一瞬だけ空間に充満する。

 同時に,ストンというひどく軽い音が俺の隣でこだまする。


「………………」


 再び,無言の山岸。
 
 蒼い眼鏡はふちが無く,山岸の幼さといたずらっぽさを引き立てる。
  
 俺と同じ身長で俺を見つめる黒い瞳は笑っているようにも,羨望を向けているようにもみえた。


 「かっこいいじゃない」


 一瞬だけ絡み合った視線の先で,山岸は一言だけそうつぶやくと,すたすたと階段を下りていった。

 山岸の予想もしない言葉にあっけにとられる俺。

 だが。

 この瞬間だけは,誰がなんと言おうと俺が主役だと思うことができたのだった。     
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.30 )
日時: 2010/12/07 22:38
名前: タン塩

まさかのケンスケ×マユミとは!やられた!
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.31 )
日時: 2010/12/21 03:40
名前: tamb

■caluさん
 ありがとうございます。
 彼には、古いだの扱い難いだの文句を言いながら、でも笑顔でルノーの整備をしてもらいた
いと、そう思います。それがきっと彼の幸せだから。
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.32 )
日時: 2010/12/21 03:40
名前: tamb

■空の高さは/tomo
( No.29 )

 これはかなりすごい。マユミっていうのは私は良く分からなくて、だからちゃんと扱ったこ
とはないんだけど、こういう女の子かなっていう気がする。
 自分が主役になれるっていうのは結果であって、やっぱりケンスケは納得できなかったんだ
と思う。彼らが還って来ないということがどうにも腑に落ちない。同時に、ようやくオレの出
番だな、という感情もあるように読める。
 いずれにせよ、女の子にかっこいいとか言われると男は主役になれるんだよね。
メンテ

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