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[573] サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
日時: 2010/09/30 03:10
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・一番大切なこと
・わたしのお尻は喋らない
・Knockin' On Heaven's Door

です。
八月の企画、九月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です(これ、ずっと書くのだ
ろうか 。八月九月十月十一月十二月一月……)。

今月中には、インフォシークiswebライトのサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイ
の幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画もありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願
いします。

では、どうぞ。

以上、ほぼコピペ(爆)。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.10 )
日時: 2010/10/27 22:18
名前: JUN

一番大切なことvol.2


さようなら、綾波……

碇くん……?

もう、逢えない

碇くんが言ってくれたのに。さよならなんて言っちゃ駄目って……

僕は、綾波とは一緒に生きられないよ

どうして?約束、したのに……

だって、綾波は…………











 ――――ヒトじゃないんだから






「――――っ!」

 苦しみに耐えかね、レイの意識が覚醒した。見慣れた、簡素な天井が見える。月の光は不気味な程
いつも通りに、窓から差し込んでいた。
 自分の中身を整理する。今の幻は何だったのだろう。多分夢、というやつなのかもしれない。もし
そうなら、初めての夢は最悪だった。異常にリアルだった。そして恐ろしいほどに――レイの恐れそ
のものだった。
 去ってゆく彼。追いかけられない自分。いくら幻と言い聞かせてみても、その幻影はなかなか消え
なかった。
 気持ちを落ち着けようと深呼吸をしようとしても、歯の根が合わず、上手くいかない。かちかちと
歯が震える。夢の映像が脳内に反芻される。

 大丈夫、碇くんは約束してくれた。ずっと一緒にいるって……

 幻を追い払おうと、レイは頭まで布団をかぶった。寒い。ストーブを買っておくべきだった。頭の
中でシンジの笑顔を思い浮かべようとしても、上手くいかない。靄がかかったように、シンジの笑顔
がぼやける。代わりに浮かんでくるのは、シンジの“さようなら”だった。
 いても立ってもいられなくなり、レイは枕元においてあった携帯電話をひったくった。アドレス帳
の一番上にあるシンジの名前を呼び出す。しかし右上に表示された時刻に、レイの指が止まった。
 こんな夜中に電話をかけるのは余りにも迷惑だ。シンジは早起きして皆のお弁当を作らなければな
らないのに。

 それに――

 もし電話をかけて、シンジが出なかったら。それどころかもし、シンジにあの言葉を投げかけられ
たら、自分は――どうすればいいのだろう。

 何も考えずに寝るべきなのはとうに分かっていた。現に今、そうしようと努力している。しかし、
それが出来ない。本当に夢だったのか。もしかしたら、何かの予兆なのかもしれない。思考は悪い方
悪い方へと転んでいく。シンジがいなくなり、残りの人生をこの部屋で独りきりで過ごす。そんなこ
とはしたくない。できない。

 碇くんに、会いたい――

 
 ベッドから起き上がり、寝巻き代わりのワイシャツに、学校のスカートを見につけ、鍵もかけぬま
ま、レイは玄関を飛び出した。
 真っ暗の夜道を、レイは必死に走った。走ってシンジの家まで十分ほど。耳が裂かれんばかりに痛
い。息が切れる。月明かりがレイを照らしていた。その表面に、うっすらと紅い帯が見える。

 私の血だ。リリスだった頃の。

 こらえきれなくなり、涙が溢れてくる。喉の奥が引きつり、思わず咳き込んだ。


 シンジのマンションが見えてきたときは、思わず安堵で座り込みそうになった。持ってきたセキュ
リティカードで、部屋の扉は開く。軽く深呼吸し、今になってここに来た意味を考える。迷惑だろう。
当然だ。完全に夜中。シンジが寝静まっていない筈はない。

 それでも、碇くんに逢いたい

 あの温もりがほしい。手を握ってくれるだけでいい。いっそ、顔さえ見られればそれでいい。

 カードを挿しこみ、扉を開く。足音を忍ばせ、シンジの部屋に向かう。暗いので普段と勝手が違う
が、それでも壁伝いにシンジの部屋の前にたどり着いた。
 音を立てないように襖をゆっくりと開く。シンジは――そこに、ちゃんといた。

 膝が崩れそうになるのをこらえながら、シンジの枕元に座り、布団からはみ出した手を握ろうとす
る。すると、
「誰……?」
 とても小さな声で、シンジは言った。閉じられた瞼が、薄く開かれる。
「綾波…………?」
「いかりく――」
 求めていた声に、レイの眸から涙が零れた。
「あ、綾波?」
 突然の事態に、シンジは狼狽し、布団から起き上がる。
「どうしたの、大丈夫?」
 優しい声に、レイは力の限り、シンジに抱きついた。
「碇くん…………!」
 シンジの匂いと温もり。堰を切ったように涙が流れる。温かい胸に顔を埋める。シンジはしばしう
ろたえていたが、その内レイの背中を優しくさすってくれた。

 碇くん……









 シンジはレイを同じ布団に入れてくれた。そっと背中を抱き締めたまま、シンジは言った。
「何があったの、綾波」
「碇くんが…………夢の中で、いなくなって、さよならって、一緒には生きられないって――」
 喉の奥が詰まって、そこでレイの言葉は途切れた。
「大丈夫、大丈夫だよ。約束したじゃない、一緒に生きていこうって」
「でも、私、ヒトじゃないのに、碇くんと、違うのに……」
「綾波……」
 シンジはレイの手を、そっと握った。
「冷たくなってる」
 いたわるようにそっと手をさすりながら、シンジは言う。指先に、微かに霜焼けが出来ていた。
「こんなに薄着で着たんだ」
 レイは、小さく頷いた。
「駄目だよ、綾波。綾波は綺麗なんだから、怖い人に襲われたらどうするの」
 その口調は茶化すようなものでなく、真剣だった。レイは思わず俯く。
「……だから、今度会いたくなったら、夜中でもなんでもちゃんと電話して。迎えにいくから」
「迷惑じゃない?」
「いまさら何言ってんの」
 シンジはくす、と笑って、レイのほっぺたをつねった。
「ひたい」
「僕、めちゃくちゃ眠いんだよ。今何時?三時だよ」
「ごへんなさい」
「でも、さ……」
 レイの頬を放して、ほんのり紅くなったそこにキスをした。
「あ……」
「嬉しいよ、僕。綾波が会いに来てくれたこと」
「ほんとう?」
「だから、お返ししなきゃね。してほしいこと、ある?」
「…………ぎゅって、して」
「いいよ」


 シンジは優しい。この上なく優しい。シンジの上に覆いかぶさるようになりながら、レイはそのこ
とを思った。抱き締めてくれる腕も、握ってくれる手も、全てが、レイの心を溶かしてゆく。
「僕はね綾波。綾波がヒトかどうかなんて考えたことないよ。難しいことはよく分からないけど、で
も、こうして綾波は僕の側にいてくれてる。それを嬉しいと思ってるのは、僕も綾波も、きっと一緒
だと思うんだ。違う?」
「…………」
「僕は、それで十分だよ。僕が綾波の側にいたいって思う理由は、それで十分だから」

 自分にそんなことを言ってくれる人が、果たしてどれ位いるだろうか。電車に乗っていても、街を
歩いていても好奇の目線にさらされ、クローン体ということでパイロットの中で唯一マスコミにも公
表されず、腫れ物扱いを受けてきた自分に。
 シンジは自分に沢山のものをくれた。初めて、パイロットとしてでもなく、人類補完の鍵としてで
もなく、自分の“命”そのものを重んじて、手を握ってくれた。生きるための道具でなかった食事に、
確かな意味をくれた――初めて、温もりをくれた。
 だから、自分はシンジが好きだ。誰にも渡したくない。正直に言えば、シンジを見る女の子全ての
目をくりぬいてやりたくなるような、そんな暗い想いも、自分の中には確かにあるのだ。
 もちろん、そんなことはしない。しかし、出来ることなら首輪を付けてでも、シンジを手放したく
ない。
 そんな自分が嫌いだった。シンジは自分に無償の愛を注いでくれているのに。自分が不安になった
時、そっと抱き締め、温めてくれるのに。自分はだらしない独占欲で、結局シンジに何もしてあげら
れていない。
 せめてシンジに最後の一線を越えさせてあげたいとも思う。しかし、まだ少しだけ怖かった。結局
シンジに依存することしかできないのだ。
 シンジとそうなるのが嫌、というのではない。むしろ、自分の全てを捧げたいと思っている。だが、
怖いのだ。


 唇を軽く触れ合わせるだけでも、脳髄の奥まで甘くとろけてしまうのに。


 もし余計なもの全てを取り払って、素肌で抱きあって、全身でシンジの温もりを感じて、シンジの
ものになって、今以上に深い口付けを交わしたら、――そして、キス以上のことをされたら、自分は
どうなってしまうのだろう。考えただけで恐ろしくなるほどに、それは途方もない悦楽だった。今こ
うして抱き締められるだけでも、身体の芯が熱くなっているというのに。
 シンジの前で乱れるのが怖かった。だらしない女の子だと思われたくなかった。必死で取り繕って、
シンジの前で自分を作る。シンジを放さないために。
 きっと、シンジは自分のそんな仮面などお見通しなのだろう。根拠はないが、そう感じた。



 シンジは変わらず、自分を抱き締めてくれる。



 自分は何をしてあげられただろう。料理も作れない。服に気の一つも遣えない。シンジが辛い時、
困っている時に、果たして自分が支えになれたことがあっただろうか。
 シンジは自分の支えだ。いなくなってしまったら、自分は崩壊する。
 だが、自分はシンジの支えだろうか。自分がいなくなっても、シンジは一人で生きていけるだけの
力がある。恋人だって、その気になればすぐ出来る。それは呆気ないほどに簡単なことなのだ。

 自信がない――

 シンジを自分のものにしておけるだけの魅力が、自分にあるだろうか。


「綾波」
 急に声をかけられ、我に返る。耳元に息を吹きかけるようにして、シンジは囁いた。
「僕さ、昨日告白されたんだ」
「――――っ!」
 心の奥から声にならない悲鳴が上がる。表面上は平静を装いつつ、それでも、腕は細かく震えてし
まった。
「そ、それで?」
 思いきり動揺が声色に出る。気づいているのかいないのか、シンジは答えた。
「校舎の裏で、下級生だったよ。付き合ってください、って」
 その後が尋ねられない。もし受け入れたのなら、ここでこんなことはしていないだろうというのは
分かっている。けれど、もしかしたら――
「断ったよ、もちろん」
 あっけからんと、シンジは言った。
「僕には綾波がいるから、君とは付き合えませんって。そしたら、なんて言ったと思う?」
「…………分からない」
 シンジは優しく笑った。
「綾波先輩なら仕方ないですね、って」
「え?」
 意図が掴めず、レイは首を傾げた。
「綾波は美人だよ。綺麗だよ。それに、すごく優しい。綾波は自分のことを、もしかしたら魅力的じ
ゃないって考えてるのかもしれないけど、綾波は誰よりも魅力的だよ。他の誰から見ても。もちろん、
僕から見てもね」
 どうしてシンジは、自分の心を全て見通しているのだろう、とレイは思わずにいられなかった。そ
して、どうしてこんなに――
「いかり、くん。いかり、くん――――!」

 自分を、安心させてくれるのだろう…………




 また泣きそうになる。いつの間にここまで泣き虫になってしまったのだろう。それは、シンジが泣
く場所をくれたからだ。

「だから、これだけは覚えておいて。一番大切なことだから」
「なに……?」
「綾波だけが、僕にいて欲しいって思ってるんじゃないんだ。僕も、綾波にいて欲しいって思ってる
んだ。普段あんまりこういうこと、恥ずかしくて言ってあげられないけど……いなくなっちゃ――だ
めだよ」
「うん、うん……」
 ありがとう、という言葉は、声にはならなかった。言葉などでは表しきれない。それほどまでにか
けがえのないものを、シンジは与えてくれるのだ。

「それさえ覚えててくれるなら、僕は一生側にいるよ。胸まで触っちゃったんだから、責任取らなきゃね」
 少し冗談交じりにそう言うと、レイの表情も幾分綻んだ。
「駅前にクレープ屋さんが出来たの、知ってる?」
「……アスカが言ってたわ」
「明日、食べに行こうよ。二人で。奢るからさ」
「でも……」
「ん?」
「甘いものを食べると太るって、アスカが……」
 シンジは、思わず吹き出した。
「どうして笑うの?」
 レイの咎めるような目線にも、シンジはたじろかない。
「綾波は、少々太っても大丈夫だよ。むしろもっとちゃんと食べなきゃ。間違ってもダイエットなんてしちゃだめだからね。それとも食べたくない?」
「……たべたい」
「よろしい」
 シンジが微笑みながら頭を撫でると、レイはゆらゆらと首を揺らした。
「もう、寝よっか」
「うん」

 レイの右手と指を絡めて、シンジは目を閉じた。ふとした衝動に駆られ、レイは躊躇いがちに一度
だけ唇を重ねる。
「おやすみなさい、いかりくん…………」
 レイが眠りにつくのに、さしたる時間はかからなかった。世界で唯一安心できる場所、それはシン
ジの腕の中。
 シンジが自分を求めてくれるなら、自分はそれに応えよう。焦らなくていい。少しずつ、受け取る
だけでなく、シンジにも受け取ってもらえるようになりたい。

 やっと手に入れたこの絆を、決して手放さないために――




                    FIN
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