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[615] 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ
日時: 2011/10/25 23:53
名前: 何処 ID:yvTZnxm7u-I

【ゲンドウ・心の向こう側−残渣−】


夢を見た。


懐かしい夢だった。


夢と言うより思い出か。

…否、夢物語の様な思い出だから夢かも知れない。

あれは何度目の事だったか、私が妻と映画館へ行った時の夢だ。

夢の中私は妻と映画を見ている。
妻と二人、ポップコーン片手に益躰も無い…いや、他愛ないストーリーを眺める。

隣には空虚な在り来たりの子供騙しを楽しむ妻。幸せに満ち日々の暮らしに充足した日常に育った女…

私は何故ここに…この女の隣に居るのだろう。

…自ら望んだ筈の存在になり居場所を得ながら、苛立ちを抑えられずに居心地の悪い椅子の上に身動ぎして一人背を伸ばす。

ふと掌を眺める。

何時でもこの掌が私を現実へ…過去へと引き戻す。
…あの地獄こそが私の現実だったから。

治療の甲斐無く倒れ行く飢えた難民、痩せ衰えこの手の内で息絶える子供、意味無く撃たれる市民、僅かな水と食糧の為身を売り盗み奪い殺し合う民衆、それを助長する狂信者共…

只一欠片の食糧が、只一錠の薬品が、只一本の注射が無いだけで目の前の死を避けられぬ人々を一体何人看取ったのだろう。

僅かな食糧の為子を売る親、援助物資を横流しする役人、薬品の注文書を書き換える上司、援助額を水増しする政府、支援の成果を吹聴する団体、これを機会に領土を狙う隣国、子供達を兵士に徴収する軍隊、利権に群がる企業…人間不信にもなろう。

…だが、私は彼等を笑えまい。自らの幸せこそが一番だと知った今となれば。

この手に残る死の感触を、私は忘れる事無く生きて来た…ユイの手を取るまで。
…良いのだろうか、このまま流されて…
今の私は…


気が付けば既に映画は終わっていた。
立ち去る人々を見送りながら私は座り心地の悪い椅子に沈んだまま。
その時、妻が私の耳許に囁いた。

妻は告げた…彼女が母になる事を。

その瞬間、私の掌は過去を取り落とした。

気が付けば、周囲の目も忘れ私の手は今を…妻ともう一人…二人かもしれないが…抱き上げていた。


▲▽▲



「夢か…」

仮眠室のベッドに靴も脱がず倒れこんだ姿のまま、一人呟く。
私を眠りから引き戻した原因…枕元の携帯端末機が呼んでいる…

身を起こし眼鏡を掛け携帯端末を開く

「…私だ。」

『お早うございます司令、現在06:07です、申し訳ございません指定時間より二分遅くなりました。』

「…構わん。誤差範囲内だ。本日のスケジュールは予定通りだな?」

「は。メインの零号機起動試験は1045予定変わらず。レイの体調も万全です。」

「…ご苦労…1015にはそちらに向かう、準備を頼む。」

「は。」


…一瞬、ユイと赤木君がだぶって見えた。

端末を切り、頭を振りながらシャワーを浴びる為浴室へ向かう。

「…男ならシンジ、女ならレイ…か…」

無意識に私は呟いていた。
…つい力が入った様だ。浴室の扉が音を立てた


△▼△


「レイ!?」

気が付いた時にはもう射出されたエントリープラグへ走り出していた。

非常口開閉ハンドルに手を伸ばす…余りの熱さに手を放しかけ、再びハンドルを握る。

掌が、焼ける。

苦痛が、襲う。


やっと開けたプラグの中…レイは生きていた。

一瞬、掌の痛みを、思い出を忘れた。



…眼鏡を無くした事に気付いたのは暫く後だった。



初音ミク 【VOiCE】

http://www.youtube.com/watch?v=yvTZnxm7u-I&sns=em
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.11 )
日時: 2012/08/19 22:28
名前: calu

 気が付くとショーウィンドの前に立っていた。
 幾筋もの水滴がしたたるガラスの向こうに飾られたティーメーカーを睨み据えてどれほどの時間が経つのか。
 そうだ、あの日もこの場所でレイとこのショーウィンドの向こうを眺めていたのだ。
 水滴が途切れ、ガラスに映しだされたのは、濡れそぼった幽鬼のような男の姿。
 何もかも失い、心を欠いた一人ぼっちの男の姿だった。
 何かに憑かれたように私は店内に足を踏み入れる。呼び鈴が絶望的な音を周囲に撒くと、店内の空気が変質した。
 硬い靴音が紅茶が陳列された嗜好品コーナーへと近づいていく。
 士官服の袖から滴る水滴が床を打ち、幾つもの小さな水の溜りをつくった。
 暫くの沈黙の後、目を細めていたゲンドウが手を伸ばしたのは、黒いリーフティーの缶だった。

 暗くなった空が店の中に影を落とす。一層強くなった雨の中、主を諦めたベントレーのボンネットは冷え切っていた。
 


           ■□  My Foolish Heart - calu  ■□
 


「それで、どうするのだ?」

 頭を上げると、冬月が怪訝な表情を貼り付けている。

「…すまんが、もう一度頼む」

 微かに溜め息を洩らした冬月は、リツコに視線を流す。

「レイの準備ですが」
「………」
「…最終プロセス……記憶のリカバリを残すのみとなりました。直近のバックアップは、先週末の定期検診時
のものですので、今週に入ってからの記憶、つまり第16使徒戦の記憶は存在してはいません」
「………」
「それでも、直近の状態にまでリカバリを実行すれば、少なくとも記憶の齟齬から発生するリスクを回避する
ことは出来るのでは無いかと」

 ゲンドウは微動だにしない。組んだ手の上に据えられたサングラス越しにその眼が向けられている先さえ判
然としない。

「…赤木博士、記憶の齟齬から出てくるリスクなど有るのかね? 『その日』は近い。学校に行くことも無け
れば、共有する記憶を試されることも無いのだ。レイの役目を考えると、逆に余計な過去の記憶など戻さない
方が良いのではと思うのだがな。なあ、碇よ」
「………」

 唐突に鳴り響いた甲高い電子音に顔をやや顰めた冬月が受話器を取り上げる。

「何だ?」語調が強くなる。

 リツコの視界の中、いつものポーズを崩さないゲンドウ。いつもの肌を刺し貫くような視線は影を潜め、
そこにあるのは或いは人形の虚ろさに似たものにも思える。一層濃くなったサングラスは一切の意思の交換を
拒絶しているようにも見える。音を立てて受話器が戻された。冬月にしては珍しい。

「何かあったのですか?」
「いや、たいした用事じゃあ無い。二課が面談を申し入れてきよったが、今は取り込み中だからな。引き取ら
せたよ」
「諜報二課? 若竹三佐ですか?」
「二課長だったら会わんわけにはいかん。ガード班だ――」  

 軋みを上げた椅子にゲンドウを見返る二人。ゲンドウは机についた両手で体を支えるように腰を上げている。

「…赤木博士」
「はい」
「レイに記憶のリカバリは不要だ」
「え?」
「今次のオペレーションでは最終プロセスはスキップする。明日0800までにレイの準備を終わらせ司令室
に出頭させるように頼む」
「し、しかし――」
「碇、賢明な判断だな。それともう一つ、これを機にレイのアパートも引き払ってはどうだ? セントラルド
グマに住まわせるのが得策だと思うがな」
「碇司令、私は賛成しかねます」

 何を言いだすのだと言わんばかりにリツコに向けた顔を歪ませた冬月。眉間の皺がその陰影を濃くした。

「シン…サードチルドレンへの影響が懸念されます。ここ直近、シンクロテストの結果も芳しくない状況下で、
更なるシンクロ率の低下は今後の使徒戦を考えると致命的なものとなりかねません」
「その点においては既に手は打っておるよ。ユーロからな、追加の予備が届く」
「二号機パイロット…アスカの代わりですか?」
「赤木博士」
「はい」
「今一度言う。レイにリカバリは不要だ。そして住居は現状のままで構わん。今般ガード班のタスクを大幅に
減らしたこともある。よって特別な監視なども必要は無い」
「……はい」

 分水嶺は既に越えていた。
 これでネルフ究極の計画は発動される。
 ただひとつ懸念されていた障壁は、失われたのだ。


                 △▽▲▽△


 白い壁紙で覆われた部屋の中で、舞台セットのようなプリンターが身を震わせ帳票を次から次へと吐き出し
ている。見る人から距離感を剥ぎ取る病室のようなその中央で、赤木リツコは執務机の上で両腕を枕にして、
顔を伏せている。恐らく昨晩は夜を徹した作業になったのだろう。プリンターが動きを止めると、室内に静寂
が澱のように降りだしてきた。視線を上げた先の壁面に埋め込まれた大型モニターには、蒼い髪の少女が画面
いっぱいに映し出されている。
 色々な機材をかき分けて部屋の奥へと歩を運び、壁の半分ほどを占めているガラス越しに隣室のベッドへと
視線を注いだ。質素なパイプベッドの上では、蒼い髪の少女が純白のシーツにくるまれて、その体を微かに上
下させ静かな寝息をたてている。深い眠りなのだろう。目覚めの時を推し量ることさえ叶わぬほどに。或いは、
この世界の役割に準じたコンディションを創り上げるために、相応の負担に耐えているのかも知れない。
 知れず強張っていた顔を誤魔化すように右手でサングラスを持ち上げ息を継ぐ。
 紛れも無くレイだ。少なくとも外見、そして既に定着させた魂といわれるものは。だが、しかし――。

「何故、レイの記憶を戻さなかったのですか?」

 意識を持ち上げると、リツコの影がガラス窓に淡いシルエットを作っていた。

「…………」
「……私には理解できますわ」
「赤木博士」 
「…………」
「無理に目覚めさせることは無い。司令室への出頭日時は多少ずらしても構わん」

 リツコはその顔を冷笑気味に歪ませた。

「お忘れですか? 意識が覚醒半ばであろうが、例え体が不自由であったとしても、レイはあなたの命令であ
れば、どこにでも行きますし、どのような事でも実行しますわ」
「…………」
「…心を、定められたのでは無かったのですか、碇司令?」

 トーンを落としたリツコの声が地底から湧出したように響いた。ふたたびサングラスを直したゲンドウは、
蝋人形のように青白い顔をしたリツコと視線を交わすこともなく、その部屋を後にした。
 玄関に出ると、どこからともなしに現れたベントレーが黒い筐体を車寄せに滑りこませた。後部座席に体を
沈めると、ヘッドレストに後頭部を預けて目を閉じる。目的地を口にする必要など無い。行き先などはとうに
定まっているのだ。
 私は瞑目を続ける。私は私の中心を暗闇の底に置く。


 私が絶望の底で手にしたただ一つの手順。究極にして禁断の奥義。
 それを知らしめる偶さかなる産物であり、その計画を発動させる為の鍵。
 それがレイだった。
 ただ…ただひとつの誤算は、レイは心を持って産まれてきたのだ。
 心。それはレイに本来備わっていてはならないものだった。
 そして、決して育まれてはならないもの、だったのだ。
 やがて時を経、今に至り、かつて私の胸に去来した予感は的中した。
 レイはシンジに出会い変わった。心を育んでいったのだ。
 シンジと共に過ごすレイを見ている私自身が、自分の新たな感情の発露に驚いた。
 己が計画への執着が希薄になっていた……何のことは無い、私自身がレイに対してその役割を超えた感情を
 持ってしまったのだ。
 しかし、そんなことは長くは続かなかった。
 脈々と地下に根を張り巡らすように、あの計画は生きていたのだ。
 ブービートラップ。転轍された歯車は全てを始まりに戻した。言葉通りレイを始まりに戻すことによって。
 レイの心は、無に還った。絆という名のもとに交わした皆の心を道連れにして。 
 なんと愚かなことなのだ。私は…あろうことか同じ過ちを繰り返してしまったのだ。
 赤木博士、君なら理解できたろう。
 三人目のレイには、失われた二人目の心そして共に有った我らの心は存在しない。
 記憶を戻したところでどうなるというのだ?
 レイに触れるたびに失望し、そして嘗て交わした己が心は二度と取り戻せないのだと思い知るだけなのだ。
 であれば、記憶など戻さない方がよい。 
 そして、記憶を戻すことが三人目の心に作用することがあってはならないのだ。
 繰り返してはならぬ。今度こそは。
 もはや、二度とぶれることも無い。
 なんびとたりとも、波風さえ立てることも叶わぬ。
 定められし無限の軌道をなぞるのみ。迷いはせぬ。惑わされはせぬ。
 レイ。その心の覚醒の兆しさえ見えぬうちに、今度こそ我らが約定を成就させよう。
 世界が終焉を迎え、全てが始まりに戻った暁に、乾ききった虚ろな心を持った私は、ユイとふたたび見える
 ことで私は私の真心を取り戻すことが出来る。
 そして、その役目を全うしたした後に、レイ、おまえの願いは叶うのだ。
 その身も魂も無に還り、永遠の安息を得ることができるのだ。


「碇司令、恐縮ですが…」

 重い瞼を開くと視界が曙の地平線のようにひらけた。先ほどから少し気にかかっていることを私は口にする。

「ドライバーは初めてだな、君は?」

 まだ若い、あどけなさを残した女性は、的確にステアリングを操作しながらルームミラーの中でニコッと
微笑んだ。

「今日はピンチヒッターなんです。先の下知をお受けしガード班員も手が空いてまいりましたので」 
「…そうか」そうだったな。「それで、どうしたのだ?」 
「お許しいただけるのでしたら、少しお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…………」
「…だめ、でしょうか?」

 真摯な眼差しが眩しい。私は視線を車窓へと逸らせる。

「……構わん」

 タバコが欲しい。アームレストを開けソフトパッケージをまさぐると指先にあたった別の感触に気が付いた。
 綺麗にラッピングされたテイラーズ オブ ハロゲイト。
 その黒いリーフティーはゲンドウにとっては特別な意味を持つ。



 それでも、
 若しや、とどこかで信じている私が存在するのだ。
 一縷の望みを託し、試みずにはいられない私がいるのだ。
 ……おまえの心は、もはやこの世に存在しないのか?
 ………レイ。
 


  


メンテ

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