Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.16 ) |
- 日時: 2013/02/17 00:20
- 名前: 何処 ID:WVD1WJ3mfgU
- 遠くの高層建築群の間に紫色の機体が繭に包まれた様に存在している。
「…あれ、やーっぱどう見ても対使徒戦用装備ってより対エヴァ用兵器って感じよねー。」
迂闊な事に、私はふと感想じみた台詞を誰にともなく口に出していて。
事の重大さに気付き私は慌てて周囲を見渡し、今洩らした台詞が誰かに聞かれてはいないだろうかと様子を伺った。
この場はナントカ事業部やカントカ協会やナンタラ委員会への初号機回収作業説明会会場、そして私は今、主催者側責任者代理として正にその立ち会い参加真っ直中。 もしこんな台詞が他の面々に聞かれたらドえらい騒ぎになるのは目に見えている。
…幸い他の監査員は現場監督の説明を聞く為に離れていて、周りを眺めながら皆より少し遅れて歩いていた私の呟きは誰にも聞かれていなかったようだ。 ホッと胸を撫で下ろし、再び工程表を眺める振りをしながら私は皆が説明を受けている現場へと足早に近付いていった。
【外伝−父と子−】
「皆さんお疲れ様でした〜。… … … ……はぁー――っっ、やぁれやれぇー、やあぁっっと終わったぁあー―っ!」
解散した一同の乗った観光バスの出発を見送って長い長い説明会の立会が終わり、漸く私は黄色いヘルメットを脱ぎ額の汗を拭った。
「あー疲れたぁ、にしてもお偉方はいーわよねーあれで給料貰えるんだからぁ。大体概要書いてあるんだから一寸は資料読みなさいよ頓珍漢な質問ばっかしてないでさぁ、そもそもあたしの胸のサイズが何の関係あんのよ全くぅ…」
ヘルメット片手に愚痴りながら作業ツナギのジッパーを下げ、風通しを良くする。
「さぁて、とっとと帰って早めに報告書書こ。そいで今夜は久しぶりに家でお風呂ーっ!やぁっと職場泊まり込み生活脱出かぁ…最近湯船がペンペン専用になりつつあるもんねー。」
周囲に誰も居ないのを幸い背伸びしながら独り言を口に出して、配布資料の束の裏に書き込んだ周辺地図を眺める。
「さて、日曜には修理工場から車引き取り行かなきゃなー。…はぁ、又ローンか…止めヤメ!気持ち切り替えて前向き〃、さって最寄りの直通エレベータはっと…あっちか。」
ネルフ本部直通エレベータ-への最短ルートは通行規制地区…瓦礫撤去が未だ終わっていない区域…を横断する。 ま、歩く分には支障無い筈だ。更に時間短縮の為回収作業現場の真ん中を突っ切るコースを選び私は歩き出した。
独り無人の街を歩く。 足元には採石場の如く瓦礫が散らばり、建物の間は所々歯欠けの様に更地が拡がる。 工事の喧騒が無ければ僻地の廃墟と見紛うばかりだ。
…あの南極基地の様に…
ふと気付けば私の歩みは無意識の内に足早になっていた。
通行規制地区を抜け初号機回収作業現場に差し掛かる。 …使徒撃退後、暴走した初号機はアンビリカルケーブル切断後、特殊兵装ビルから射出されたアモルファスメタル製ワイヤーケーブルにより活動限界−内蔵電源の電力が尽きる時間−まで拘束され、停止した。
今、私の目前では初号機を数時間前まで拘束していた特殊ワイヤーの束が重機のアームで解されている最中だ。 その傍らでは解されいたワイヤーの一本〃が各々地上に仮設置された大型巻取機のボビンに慎重に巻き取られていく。
不意に響く轟音と振動に振り返れば、剥き出しになったエヴァ発進口から専用エレベーターがせり上がって来る処だった。
工程表によればこれからこのエレベーター付属の機体固定装置へ特殊クレーンに吊り下げられた初号機がロッキングアームで固定され、簡易整備点検の後メンテナンスドックへ回収される予定…の筈だ。 冷却作業の終了したエヴァがクレーンで持ち上げられ正立状態になっていく。
「…『帰れ』…か…」
足を止めその初号機回収作業を眺めながら、私は一人愚痴た。
今、ジオフロント本部の医療施設には訳も判らず半ば強制的に呼び出され、戦自の対使徒戦闘に巻き込まれ危うく死にそうな目に逢った挙げ句に殆ど説明も無くいきなりエヴァに放り込まれて即実戦投入され、文字通り生死の境をさ迷いながらも生還した少年が入院中だ。
その少年の父親とはネルフ総司令・碇ゲンドウその人であり、即ち私の上司に当たる人物。 その人物が実の息子との…何と数年振りの…再開の際告げた台詞が…『帰れ』。 正確には
『乗るなら早くしろ、乗らないなら帰れ!』
…これ、実の息子に親が掛けた台詞。
「…可哀想に…」
そうとしか言えない。 疎遠な親にロクに説明すら受けず呼びつけられた彼は未だ14歳だ。 その少年に父親が掛けた言葉がこれでは同情するしかないではないか。
…ま、かく言う私も人の事を偉そうにどうこう言える立場に無い事は間違い無い。 何しろ作戦部長として少年にエヴァに乗れとお願いと言う名の強要をした上、更にこれからも彼を乗せて戦わせようと言うのだから、我ながら図々しいにも程が有る。
ふと彼の…どこか線の細い少年の横顔が浮かび、最初に彼…シンジ君の話を聞いた時の事を思い出す。 司令から説明を受けた時は色々な意味で正直意外だった。エヴァのパイロットは現在認定済みの二人は共に性別は女だったからって事もあったし、それより…
…あの髭ですら…衝撃の事実って奴ね。
あの髭もとい司令が結婚してたとは知らなかった。と言うより良く結婚出来たなぁ、しかも子供までいたとはねぇ… て言うかさ。あれ本当に実の息子な訳ぇ?皮肉屋なのは確かに髭おっと司令似かもしれないけどさ。
まさかその日程が使徒来襲と重なった上、その進行ルート上の地点でリニアが止まり、戦自の迎撃に巻き込まれるとは運が悪いと言うか間の悪いと言うか…本当酷い偶然もあったものだ。 まるで使徒が彼を目指していたような…訳無いか。
しっかしあの緊急事態に搭乗拒否された時は焦ったわー。 も、どうしようかと思ったけど…
「…当然よねー。折角三年振りだかに肉親に会えばいきなり‘エバに乗れ’じゃあ…おまけに‘乗らないなら帰れ’ですってぇ?」
足元に転がる小さな瓦礫を蹴り飛ばしながら改めて少年…シンジ君に同情する。 冷静に考えればあの状況下でなければ久し振りの親子対面て場面。で、あの対応なら… そりゃ反抗と言うか拒否反応を起こさない方がおかしいでしょ?
…ま、作戦部長としてはそんな事言える筈無いけどさ。でもねぇ…
それに可哀想なのは少年だけではない。他のチルドレン達…特にもう一人のパイロットの事を思えば未だしも彼は恵まれている…
ファーストチルドレン・綾波レイ。マルドゥク機関により最初に見出だされたエヴァンゲリオン搭乗適格者。
身寄りが無い(らしい)彼女は完全にネルフの道具…エヴァの附属部品扱いだ。何でも幼少の頃からエヴァに関わっていたそうだが、詳しい事は不明…所謂機密の壁の向こう側だ。
…彼女も未だ入院中なのよね…
他に適格者が居ない以上仕方ないとは言え、起動実験中の事故で重傷を負っていながらも彼女はエヴァに乗せられ戦う筈だったのだ…少年が来なければ。 あの怪我でもエヴァに乗る以外無いそんな彼女に比べ…
そこまで考えた時、私はあの時スピーカーから微かに聞こえた司令のもう1つの…決定的な…台詞を思い出し、ゲンナリしながら自分の感想を否定した。
『…イ、予備が使えな…った……う一度だ…』
…予備って、実の息子の事よ?あの時は聞き流したけど“予備”よ“予備”! どう思う!?息子を、態々こっちの都合で呼び付けた息子を“予備”扱いよ! 思い出す度に腹が立つわ呆れるわ…
…シンジ君…辛いわよね…
良く解った。女の子だろうが息子だろうがあの髭は基本人を道具にしか見てない。 貴重なチルドレンを完璧消耗品扱いよ全く…ま、確かに戦場において兵士は或る種消耗品である事は事実だけどさ、如何にそれを消耗させない様にするかが指揮官の役目であり仕事じゃないの! …まぁ、自分もその消耗品にカウントされてるってのも有るけど、そうでなくとも14歳の子供を使う事すら色々問題だし、ましてやブチブチ…
今の自分が端から見れば独り言をブツブツ呟く危ない女だと気付き口をつぐむ…見る人なぞ居まいが。
照り付ける日差しに汗を拭い、ヘルメットを再び被り、止めていた足を前に進め出す。
廃墟のごとき街中を独り、口をつぐみ黙々と歩きながらも思考は巡る。
それでもやっぱり考え様によっては彼は未だマシなのかも知れない。レイなぞ拒否のしようが無いのだから…
何しろエヴァンゲリオンパイロット…チルドレンとして彼女が見出だされたのは八年も昔だと言うのだから呆れる。セカンドチルドレンが見出だされたのはその数年後…
チルドレン…幼少の頃既にエヴァとのシンクロ適性を見出だされていた、正にエヴァの申し子達…か。
教官として出向していたユーロの特殊戦闘訓練センターで初年兵達に交じり赤味掛かった金髪を揺らして走っていた少女を思い出す。
出向前に渡された基礎資料によれば、彼女の母親はエヴァに心を壊され彼女の目の前で命を絶っていた…正直、半年限りとは言え彼女の教官に指名された事を当時は悩んだものだ。
ふと思い出す。大人に混じってのミーティング中でも必死に背伸びをして自己アピールを繰り返し、強がっていた未だ幼さの抜けない少女のあの青い目を。 その激しく鋭い視線に窺えるのは熱情と決意を秘めた意志の強さ。だが、寧ろ私にはその強さこそが、その熱情こそが、正にそれこそが少女の持つ弱さ(…トラウマに起因する本質的な臆病さ…)、或いは怯えの裏返しだと感じた。
基礎訓練中、新兵達に混じり走る少女のあの姿…事情を知った私にはまるでトラウマから必死に逃げているかの様に見えた…
…にしても皮肉よね、マルドゥクが散々探して現在まで世界中に二人しか正式認定されてないチルドレン…エヴァンゲリオンパイロット候補者の三人目が碇司令の息子だったとは。 しかし自分を幼少時に他人に預け殆ど顔すら会わせなかった親に呼ばれて来ちゃう辺り…
「…あ。」
瞼の裏、父と、司令の姿が重なる。 少年と15年前の私が重なる。
「…そっか。似てるんだ…あの頃のあたしと…」
…ああ、私も司令が苦手な筈よね…父さんもあんな感じだったし…
「父さん…か…」
父が提唱した超螺旋理論…次元間エネルギー時空循環経路解析から見出だされた二つの相剋する螺旋状モデルからSS−スーパーソレノイド−と名付けられた…は、学会からは疑似無限機関の可能性を指唆する現実離れした異端理論であり荒唐無稽と酷評されていた…あの日までは。
ムルロア環礁で新型爆弾−相剋するスーパーソレノイド同士を対消滅させるN2反応爆弾−が、その発生したエネルギーを理論通り十字爆炎として…反応時間の差により指向性を持ち放出する…発生させた瞬間から、父と私を取り巻く環境は激変した。
在りふれた只の父子家庭は一転し父はしがない大学講師から新世代エネルギー研究所所長へ、私は家事から解放されると同時に家族から単なる被保護者…否、娘から只の同居人になっていた。
父の代わりに行っていた家事一切は家政婦に一任され スケジュール管理や事務手続きの類いは秘書と司法書士に引き継がれ 論文校正の手伝いは父の部下が代わり 父と顔を合わせる事が日に一から三日置き、週一、月一となり
役割も居場所も無い家に独り、滅多に顔も合わせなくなった父の帰りを唯待つだけの生活に耐えられず、私は全寮制の学校へ転校した。 そして数年後、私は父と共に南極へ行く事になる…
父が何故学校を休学させてまであそこに私を連れて行ったのかは判らない。 そもそも部分記憶喪失症になり、失語症は克服出来たものの未だ一部の記憶…主に南極の…が無い。 …この十字架の苦い思い出以外は。
「…あたしと同じ…か…」
空を振り仰ぐ。 相変わらず太陽は燦々と輝き、そのエネルギーは降り注ぐ地表の総てを容赦無く焼き炙っている。
だが、私の心に差した影にその光は届きそうに無く
溜め息を吐き、再び私は奈落の底ならぬ地下の人工迷宮へ落ち行く極秘直通エレベーターへの入口がある立体駐車場へ重い足を向ける。
灼熱の中、この計画都市に響き渡る破砕機と重機の騒音が今の私には救いだった。
http://www.youtube.com/watch?v=WVD1WJ3mfgU&sns=em
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