Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.19 ) |
- 日時: 2010/10/17 08:48
- 名前: 何処 ID:05PT5KJnZDE
- 「イインチョおかわり!」
鈴原は空になった丼を私に最高の笑顔で差し出した。
【もっと高く…】
「鈴原君、もうあたし委員長じゃないんだから…」
苦笑しながら丼を受け取り、艶々に輝く御飯をよそう。
「あ!いやスマンスマン、でもな、どーも碇みたいに“洞木さん”って呼ぶのも何や他所〃しいし、惣流風に“ヒカリ”って呼ぶのは何や抵抗あるねん。」
…心臓が止まるかと思った。
鈴原に“洞木”なんて呼ばれたら綾波さんみたいに顔を赤く染めて“何?鈴原君”なんて… ましてや“ヒカリ”なんて呼ばれたら…
駄目!絶対駄目!“トウジ”なんて言えないし“トウジさん”なんて無理!絶対恥ずかしくて呼べっこ無い!
「…はい、特盛にしておいたわ。」
うっかり御飯を盛りすぎたのをごまかして鈴原に丼を渡す。
「うはぁ!?イインチョオオキに!…ってイインチョ、自分食べとらんやん?」 「あ、いいの鈴原、あたしそんなに…」
…何でこのタイミングで私のお腹が鳴るの?
全身が熱い。耳まで熱い。今の私は正しく茹でダコ状態。碇君にお弁当渡された綾波さん並みに。
「あ…イインチョ、どうもワシ食いきれそうにないんで半分喰ってくれんか?」 「え?で、でも…」 「ええからホレ。」
鈴原が私の手ごとお茶碗を引き寄せ、丼から御飯を移す。その手が熱くて力強くて…
「…あー、お兄ちゃん、ヒカリお姉さん?私も御飯食べてんねんけど…」
「え?」「あ、な、何や居たんかい!?」
ゴン!
「ガクぅッ。そらないでお兄ちゃん…」
「な、何言ってるのよ鈴原!さ、最初からヤヨイちゃん居たじゃない!も、もうやだな鈴原ったら!」 「え、あ!そ、そうやそうや、な、何ワシ惚けとるねん。はははは…」 「ば、馬鹿ね鈴原ったら、あはは…」 「そ、そやな、ま、全く馬鹿やな、あはは…」
「「あははははは。」」
…ごめんなさい。私もすっかり忘れてました…
「…で、お兄ちゃん。いつまでヒカリお姉さんの手握っとるの?」
「「?」」
私と鈴原は弾かれたみたいに離れ、自分の座布団の上に腰を据え直した。
「ほ、ほらこのお味噌汁はヤヨイちゃんお手製よ!?」「ん?あ、そ、そうやな、こら出汁が効いて少しからいのがええな、御飯がようけ進みよる。」
必死になって話題を振る私。返す鈴原。
…碇君と綾波さんの事言えないわ…
「…何や新婚家庭にお邪魔した小姑の気分や…」
「ウグッ!」 「や、ヤヨイちゃんな、何言い出してるの!?」
慌てる私ににっこり微笑み、“御飯冷めちゃうで”と彼女は言い、食事を再開した。
…その通り。早く食べちゃおう。
少女に促された私はむせる鈴原にお茶を渡し、自分の食事を再開した。
鈴原の家に晩御飯を作りに来たのはもう何回目だろう? 私が進学した疎開先の女子高から再び第三新東京の共学校へ編入したのが初夏。 綾波さんや碇君との再会は驚きだった。 遺伝子治療のせいで綾波さんは髪が根元から栗色に変わりつつあり、碇君はクラスで二番目に背が高くなっていた。
少し遅れて越して来た鈴原との再会。
疎開先を離れた時はもう会えないと思っていた。 私は笑顔で鈴原と別れ… 電車が第三新東京に着くまで泣いた。そして数ヶ月後…
目の前に現れた鈴原に、私は只泣き続けた…嬉しくて。
もうあの再会から2ヶ月、私は毎週週末に鈴原の家に通い夕飯を作る様になっていた。
「さあてご馳走様でした。ヒカリお姉さん、後片付けはウチらがやるさかい。ほれお兄ちゃん、いつまでも咳き込んどらんと食器カタさんかい!」 「ゲホゲホ…お、おう判っゲホ!」 「あ、私が」「ええからええから、ヒカリお姉さんは座っててえな。」
慌てる私を押し留め二人は空の食器を手に台所へ。
「チーン!あ、鼻から米粒。」 「うわ嫌やわ!何やっとんねんお兄ちゃんは!きったないなあもう!ほれとっととんなもんほかってんか!」
仲睦まじい兄妹がお皿を洗いながら漫才のような会話を交す。 姉妹しか知らない私に二人の会話はいつも新鮮に聞こえる。 少し乱暴で遠慮の無い、それでいて愛情溢れたやり取りを聞いていると、いつも私はあの中学時代を思い出す。
昔の碇君とアスカの子供じみたやり取り…今思うとあれは兄妹の会話だったのかも知れない。 そんな事を思って私は台所のやり取りやテレビから流れて来るお笑い芸人の甲高い声を聞いていた。
「じゃ、あたしこれで…」 「あ?なんやもう行くんか?」
…そう、もう帰らないといけない。これ以上居たら私帰れない。帰りたくない気持ちに負けてしまう。
「あのなお兄ちゃん、あまり遅うなってヒカリお姉さんの親御さんに心配掛けたらアカンやん。」
…うちのコダマお姉ちゃんと印象がだぶるのよね… ノゾミと同い年でこれだけしっかりしてるなんて…はぁ。
「おお、そない時間かいな。気い付けて帰れや!」
「うん。じゃヤヨイちゃん又ね。」
鈴原に返事をして席を立とうとすると、ヤヨイちゃんに肩を掴まれた。
「お兄ちゃん何惚けとるねん!折角ヒカリお姉さんがうちらの為に晩御飯作りにわざわざ来てくれてるんや、感謝込めてお見送りぐらいせんかい!」
「ん〜、そやな〜」
「あ、いいのよヤヨイちゃん、そんな気を使わなくても…」
「あかんあかん!何言うとるねんヒカリお姉さん。いっつも美味しい御飯作ってもろうて只返す訳いかへん!」
「え…でも…」
「大丈夫や、ここの無駄にでっかいのに送らせるさかいに。ほれお兄ちゃん、ちゃーんとヒカリ姉おさんエスコートするんやで!義足だからちゅうて怠けるんやない!」
「ちょ、一寸ヤヨイちゃん!?」
…私の顔が青くなる。 だが二人は平気な顔だ。
「あ、ええからええから。これがうちらのコミュニケーションやけん。大体うちより早く走れて義足もへったくれも無いわ!」
「あぁ、お兄ちゃんは悲しいわぁ。なんでこない家の妹は口ばかり達者になりよったんか…」
大袈裟に嘆くフリをする鈴原に思わず私は吹き出した。
「アホいうとらんと早う送り行かんかい!」
ヤヨイちゃんの声が響いた。
「おー、ちょい着替えてくるわ。」
鈴原が二階へ着替えに上り、私は鞄を手に立ち上がる。するとヤヨイちゃんが私に話しかけてきた。
「しっかし妹から見てもヒカリお姉さん、正直趣味悪いわ〜。ほんまあんなんでかまへんの?」
「え?ええ?えええ!?ななな何言ってるのヤヨイちゃん!?」
…碇君か私は。
「照れんでええ照れんでええ、ま、どーか一つ長ーい目で見たってえな。あんなんでもうちのお兄ちゃんやさかい。」
「あ…あんなんってヤヨイちゃん…」
「あんなんやから仕方無いわ。あ〜あ、うちも綾波お姉さんみたいに碇お兄さんみたいな彼氏欲しいわほんま…うちの中学ろくなのおらへんねん。相田の兄ちゃんは海外やし。」
相田君は海外の専門学校で撮影や放送の技術を学んでいる。
「ああ、うちもヒカリお姉さんみたいな家庭的なええ女とか嫁に欲しいわホンマに。」
「ヤヤヤヤヨイちゃん!?」
「ま、冗談はさておき、ええ女にならんと男も寄らんしな…綾波お姉さんみたいに謎めいた美人やアスカお姉さんみたいなげーのー人ぽい雰囲気の美人ならなんぼでも男寄って来るやろうし、なら選り取り見取りやな〜、一丁そこらへんのトコ狙うて…」
アスカは一度ドイツに帰り、今は第二新東京大学の院生だ。週に二日講義とゼミに第三新東京からリニアで通っている。
「アホ、おまいが綾波みたいになれる訳あるかい。ましてや惣流みたいなじゃじゃ馬になったらわしゃ死んだ母ちゃんに顔向けできんわ。」
「げ!お兄ちゃん居たんか!?でもま、確かにあの二人は目指すだけ無駄やし、やっぱヒカリお姉さんみたく家庭的なトコをアピールせんとあかんなぁ…はよ彼氏作りたいわぁ。」
「何い!?彼氏ぃ!あかんあかん!んな奴兄ちゃんがパチキ咬ましておっぱらったる!」
「あ、あかん。先にこのお兄ちゃんどーにかせんと。なんとかしてーなヒカリお姉さん。」
私は返事に困って笑顔で固まっていた。
「お邪魔しました〜」 「ヒカリお姉さん又ね!ほれお兄ちゃんさっさと行かんかい!」 「お、おう。じゃ行こか。」 「う、うん…」
二人夜道を無言で歩く。 ふと空を見上げ私は思わず感嘆した。
「うわぁ…凄い星空…」 「…そやな…」
星空を見上げ、蒼く輝く星に私はアスカの瞳を思う。
アスカとの再会… 碇君と綾波さんに連れられて彼女と再会した私は目を疑った。 アスカは変わった。大人になった。 以前の子供が背伸びしている印象は無くなり、何と言うか…同性の私にまで“女”を意識させる程に魅力的になっていた。 私が思うにアスカは“少女”を卒業したのだろう。
紫色になった瞳の左目とケロイドの残る右腕を「私の勲章だから」と隠す事無くジーンズに半袖で歩く彼女は格好良かった。
綾波さんの隣で堂々としていた碇君も大人だった…相変わらず素直だけど。
綾波さんは…
何と言うか、人間らしくなった。美しい人形が魂を得た神話を思い出す。
あの神話の星座ってあったかしら…
そんな事を思い星を眺めていると、鈴原が肩にジャンパーを掛けてくれた。
「…ありがと…」
「なあイインチョ、わしな、この義足になってホンマ良かった思うねん。」
「え?」
「…わしな、馬鹿やから自分の目でしか物事計って見れんねん。やからこう、足無うなって初めて色んな物の見方知った気がするんや。」
「鈴原…」
「それにわしゃ恵まれとる。今付けとる義足、タダで貰うた上に世界初なんや。良う解らんのやが自律成長型義足ゆうて人間の成長に合わせて長さとか自動的に調整してくれるんやが、わしらの歳ならホンマは年に何回かは義足を成長に合わせて交換せなあかんねん。」
鈴原は義足を叩く。
「おまけにエヴァンゲリオンの技術流用したゆうて特別な訓練せんとも使えおる。普通の足如く感覚も有るし関節もこう動かせる。」
片足立ちで義足を動かす鈴原。 確かに歩いている姿は健常者と変わらないし、半ズボンを穿いてもよく見ないと義足とは判らない。
「わしな、役に立っとるらしいわ。わしの使うとるこの義足の使用記録の情報で開発が順調に進んどるらしゅうてな、じきにこの義足市販されるちゅう話やねん。」
誇らしげな鈴原の横顔。
「それに足だけやのうて腕や指にも応用できる技術やさかい、義手や義指も体の成長に合わせて買い換える必要が少のうなるし、性能も触る感触やらまで解るようになりおる。ワシの足が色んな人の手やら足やらになるんや。どや?凄い思わんか?」
その視線は遥か先、高みを追っている。
「…でな、イインチョ。」 「え?あ!は、はい!な、何鈴原?」
「その…もうちょい自分、しっかりせんとあかんなぁ思うねん。で…自分、もう少し自信もったら…イインチョの事ヒカリ呼んでええか?」
…意識が遠くなりそう…
「は…はい…トウ…ジ…さん…」
「え?あ…その…いや…あ…うん…」
「…」「…」
「「…」」
***
その夜、帰り道で私は空に輝く沢山のお星様にお願いしてた。 今夜の事、夢じゃありませんようにって…
目標も出来た。 “ヒカリ”って呼ばれる日に“トウジさん”って咬まないで返事出来るようになる事。
志が低いけど、手の届く場所から先ずは一歩。 頑張るわよヒカリ!
家に帰り二つのお弁当箱を洗いながらそんな事を考えていて、私はふと嫌な事まで思い出してしまった…
今日も予定以上に食べちゃった… …来週のお弁当…カロリー押さえないといけないわよね…
体重計が怖い洞木ヒカリ17才でありました。
ED【bpm】歌・初音ミク http://www.youtube.com/watch?v=iWjKFmO-5es&sns=em
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