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[583] サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月
日時: 2010/11/02 04:40
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・息も絶え絶え
・こんにちは、使徒です。いつもお世話になってます。
・雨を見たかい

です。
八月〜十月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

お題の困難さに拍車がかかってますが、頑張ってください。私も頑張ります。
では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月 ( No.2 )
日時: 2010/11/04 09:22
名前: タン塩

「雨を見たこと、ある?」
こういう質問には、どう答えたらいいのだろうか。風にそよぐ髪を掻き上げなが
ら、私は結局、いつもの答えを返すほかなかった。
「…わからない」
「あれだよ」
碇くんが指差す、その彼方。大平原の向こう、地平線の間際の雲塊の下が、暗く
煙る。雲から滴り落ちるような、灰色のカーテン。
「あれが雨さ」
「そう…」
雨は雲から降る。知識として知っていても、実際に見ると不思議な光景だった。
「…なぜ知っているの?碇くん」
「知らないよ。僕も初めて。でも、多分あれって雨だよね?」
「…そうね。多分」
「やっぱり旅に出ると、いろんなものが見られて面白いね」
「ええ」
確かに、面白い。いろんなものが見られるからじゃなく、いろんなあなたが見ら
れるから。未知の世界に目を見張るあなたが新鮮で、面白い。
彼がハンドルを握る車は、平原の中のただ一本の道を滑るように走る。
「スピードを出し過ぎだわ。免許を取ったばかりなのに」
「ああ、ごめん。つい、楽しくてさ」
「楽しいの?」
「楽しいさ。空飛んでるみたいだろ」


【Have you ever seen the rain?】


やがて日が傾く頃、車は寂れた街に滑り込み、一軒のドライブインに止まる。と
いうか、そこが街でただ一軒のドライブインだったのだけれど。
「えーと、僕はチリバーガーにコーラ。綾波は?」
「…これ、何かしら?」
「どれ? "Fried Green Tomato"? なんだろ?」
「私、頼んでみるわ。それとコーンブレッドと、ペリエ」
「わかった。Excuse me, we want a…」
注文はいつも彼に任せる。私だってレストランで注文ぐらいできるけれど、彼が
『僕に任せてよ』という時の顔がとても輝いているので。
「綾波、ペリエはないって。クリスタルガイザーでいい?」
「ええ」
ウエイトレス、というほどの服装もしていない中年女性が注文を受けて立ち去る
と、彼はほっとしたようにため息をつく。やっぱり、無理してる。
「綾波、疲れた?」
「いいえ。碇くんこそ、疲れてない?」
「僕は全然平気だよ!ほら、この通り」
「……かわいい」
「か、かわいいって何がさ!?」
「碇くんが」
「ぼ、僕のどこがかわいいって…!」
「Excuse me, here's a…」
Fried Green Tomatoは青いトマトをスライスして塩胡椒して、フライパンで焼い
たものだった。こんな料理法があるなんて知らなかった。おいしかった。

「この先にモーテルがあるってさ。そこ一軒だけだって」
食事を終えて、私たちは今夜の宿となるモーテルに向かった。部屋が空いていれ
ばいいけれど、という心配をするまでもなく、モーテルはガラガラだった。
「シャワー浴びてくれば?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
これもいつものこと。彼に言わせると『女性が先にシャワーを浴びるのが当然』
らしい。なぜなのか、よくわからないのだけれど。譲り合って押し問答になって
しまうので、結局私が先に浴びるのが習慣になった。
シャワーを浴びると、彼はすぐに寝てしまった。やはり疲れたみたい。その寝顔
を少し眺めてから、私も眠ることにした。

彼が旅に出ると言い出したのは高校卒業も間近い頃。意外だった。彼はどちらか
と言えば保守的で、あまり旅好きとも思えなかった。『世界を見てみたい』とい
うセリフの似合わない人が、そのセリフを口にした。
私もついて行く、というと、今度は彼が意外そうな顔をした。いや、危ないよと
か、綾波が旅好きとも思えないとか、そのままお返ししたいことを言って何とか
諦めさせようとするので、私はだんだん腹が立って来て、とうとう彼をひっぱた
いてしまった。彼をひっぱたいたのは久しぶりだった。あの時は後で後悔したけ
れど、今度のは多分後悔しないと思う。

翌朝目覚めると彼はまだ寝ていたので、シャワーを浴びた。シャワールームを出
ると、彼も起き出して来た。
「…おはよう、綾波」
「おはよう、碇くん。まだ眠そうだわ」
「ごめん」
「なぜ謝るの?」
「ごめん」
まだ謝ってる。

モーテルをチェックアウトして昨夜のドライブインへ。夕べと違って、地元民ら
しいお客がちらほら見える。皆老人だ。入って来た私たちをちらりと見ただけで、
後は無視。私たちが白人ではないから?いや、多分違う。私たちが『よそ者』だ
からだろう。田舎の街はこういうものらしい。碇くんはホットドックとコーヒー、
私はパンケーキとコールスローと100%オレンジを頼んだ。
「やあ、どこから来たんだい?」
若い白人男性が声をかけて来た。どこにでも物好きはいる。
「日本です」
「へえ。日本て例のangelとかで大変だったんだろ?」
「ええ。僕らの住んでた街も、使徒のせいで壊滅して住めなくなりました」
「そりゃ災難だったな。ここも、街が一つ消えたんだぜ」
「…!」
「とにかく物凄い火柱みたいなのが上がってよ、それが収まったら何一つ残って
なかったんだ。angelの仕業だとか、新兵器が暴発したとか噂になったけど、政
府のステイトメントは何もなしさ」
「……」
「俺が思うに、連邦政府が廃棄をごまかして、核兵器をあそこら辺に隠匿してた
んだろうな。ほら、N2兵器が開発されて、ニュークリアは全部廃棄ってことにな
っただろ?あそこには軍の研究施設があったけど、多分そこに隠したんだ」
「……」

「知っていたの?」
私たちは街を出て、変わらぬ平原の中の一本道を走っていた。
「知らないよ。だいたいアメリカのエヴァ建造施設なんて、どこにあるのか知ら
なかったし。綾波は知ってた?」
「エヴァ四号機の建造施設はカンザス州クリアウォーターにあったわ」
「知ってたの!?」
「…でも、ここがカンザス州だなんて知らなかった」
「……綾波らしいや」

「…あ、また、雨」
どこまで走ってもドライブインが見つからず、道端に車を止めて、前の街で買っ
ておいたチーズクラッカーとオレンジジュースで昼食を取っていた時、私はまた
雨を見た。薄汚れたレースのカーテンみたいな雨が、泥混じりの雪玉みたいな白
と灰色と黒の雲にぶら下がっていた。
「…anyway the rain fallsかな」
「今何て言ったの?碇くん」
「なんでもないよ」
話しかけるな。彼の横顔がそう言っていた。だから私は黙って彼の横顔を見つめ
た。ただ風が吹いていた。

【終わり】
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