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サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月
日時: 2010/11/02 04:40
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・息も絶え絶え
・こんにちは、使徒です。いつもお世話になってます。
・雨を見たかい

です。
八月〜十月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

お題の困難さに拍車がかかってますが、頑張ってください。私も頑張ります。
では、どうぞ。

メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.1 )
日時: 2010/11/02 20:32
名前: 何処

【ラブラブ仕様】


碇君がフィフスとキスをしていた。
夕暮れの教室で二人の影が重なる。その姿を見送り私は学校を出て部屋へ帰った。

日常。普段と何ら変わる所のない、普通の1日…

制服を脱ぎ、クローゼットに仕舞う。

空調は節電モードのまま。下着姿で過ごすには丁度良い。

宿題を解く。いつも通りテキストの簡易応用問題。
さして難しくはないが、果たしてこれにどれ程の意味があるのかは判らない。

いつも通りの食事、栄養強化ビスケットとミネラルウォーター。
規定量を食べ、行動維持カロリーを摂取する。

処方薬を飲めばミネラルウォーターは空。
その空瓶に水道水を入れカルキ抜き。セカンドから貰った金魚の泳ぐ水槽の隣に置く。

後はシャワーを浴び、睡眠を取るだけ…
替えの下着を持ち浴室へ。

歯を磨き、脱衣場で脱いだ下着を洗濯機に入れ、洗剤を規定量入れる。
電源を入れスイッチを入れ、作動を確認。

シャワーを浴びる。熱目の湯が肌を叩く刺激が心地良い。

水着の跡が最近気になる。赤木博士は遺伝子治療の効果だと説明していた。
通常の保護代謝反応なので気にする必要は余り無いと言ってくれたが、やはり気になると言うと赤木博士はUVカットクリームを処方してくれた。

“…貴女も女の子ね…”
“?”

赤木博士の台詞に私は困惑した。遺伝子的に間違い無く私の性別は女だが…どう言う意味だったのだろう。

液体石鹸で体を洗う。皮膚の保護クリームを洗い落とすとさっぱりした気分だ。。

頭を洗う。シャンプーはリンスインタイプ。

碇司令の使っているトニックシャンプーの香りが好きでそれを買おうとしたら碇君に男性用だと指摘されたから、これにした。
コストも安い。だがセカンドには不評だった。

“女のたしなみって奴を持ちなさいよ!”と言っていたが…

そう言えばフィフスはシャンプーとリンスとトリートメントリキッドまで購入していた。

…ふと碇君とフィフスのキスシーンを思い出す。

…もやもやする。

少し頭を洗う時間が長かった様だ。浴室を出ると洗濯機は停止していた。

浴室に洗濯物を干し、換気扇を回す。

下着を着けていると携帯が鳴った。
表示は…

「…はい、綾波です。」

『…綾波、碇だけど…今時間大丈夫?』

冷蔵庫の上に置いた赤木博士に頂いた時計の針は漢字の八を描いている。

「…問題ないわ。」

『…あのさ、今から出られる?その…渡したい物があるんだけど…あ、いや急ぎじゃ無いから別に綾波が出れないなら又でも…』

「いいわ、どこに行けばいいの?」

…考えるより先に私は答えていた。

碇君の指定した場所は近くの公園。

通話を切り、ふと私は気付いた。

…急ぎの用じゃ無いと碇君は言っていた。
なら別に今夜じゃ無くても…

それより、私は何故行くと即答したのだろう。

…脈拍が早くなった気がする。ポカポカしてる。

クローゼットを開ける。伊吹さんから頂いたピンクのワンピースと葛城三佐から頂いたジーンズとデニムのジャンパー、学校の制服が並ぶ。

習慣で制服に手を掛け、ふと赤木博士の台詞を思い出す。

“制服はプライベートでは着ない方がいいわね。”

ジーンズを手に取り、伊吹さんの台詞を思い出す。

“男の子と会う時はスカートの方がいいかもね”

ピンクのワンピースを手にして、ふと私は気付いた。





…未だブラジャー着けて無い…




***



下着を身に付けながら頭の中を過る皆の台詞を反芻する。

“鏡くらい見なさいよね!”
“リップなんか付けるといいわよ”

“髪に櫛通すぐらいはしなさい。身嗜みよ。”

“ちょっちアクセサリーなんか付けると可愛いわよん”



服を持ち洗面所へ行き、鏡の前に立つ。
私の目前には青みがかる髪と赤い瞳の女が一人。
その女の行動を私は観察する。

もう一度歯を磨く。
髪をとかす。
顔に乳液を塗る。
服を着る。
チョーカーを着け、リップを塗る。
腕時計を巻き、服にブローチを付ける。
何かを確認する様に右を向き左を向き背を向け首だけ振り返りながら背中を見ている。

…彼女は一体何をしているのだろう。
鏡から目を反らし、私は碇君から貰った腕時計を見る…

…急がなきゃ…

靴を履こうとして、ふと思い立ち霧島さんが薦めてくれたミュールを靴箱から出す。

…靴下履き替えないと…



***



公園にはもう碇君がいた。
私は碇君を視認して足を早め…。

何故私は足を早めたのだろう。さして時間は変わらないのに。

「碇君お待たせ。待った?」

「あ、うん。」

碇君はジーンズにワイシャツ姿だった。ベンチから立ち上がり私の方へ体を向ける。
碇君は最近背が伸びてミュールを履いた私と視線が同じ位にある。

「…」

「…」

…碇君は何故か驚いた様な表情で私をじっと見ている。
私も碇君を見る。久々に視線の位置が同じ高さ。
…何故そんな事が嬉しいのだろう。良く判らない。

「…どうしたの?」

「え?あ!う、うんそのあの…」

口籠る碇君。

「な…何かその…せ、制服しか見た事なかったから…つ、つい見とれちゃって…」

「…何を言うのよ…」

…湯冷めしたのかしら?風邪を引いたみたい。何か熱っぽい。脈拍も上がっている。
暫く碇君は下を向いていた。だけれど私は風邪薬を帰って飲まなければいけない。要件を早く聞きたくて私は碇君に問い掛けた。

「…で、何の用?」

「え?あ!あ、そ、そうだ、そ、その…こ、これ…」

「…これは何?」

手にした二枚の紙片の一枚を私に渡した碇君に私は質問した。

「ゆ…遊園地のチケット。ら、来週の日曜日もも、もし良かったらいいい一緒にどどどどどうかなって、あ、あは、あははは…」

「…あ、有難う…」

熱い。身体中が熱い。

「じ、実はカヲル君にその…相談したらこれがいいって…」

「…そう…」

急に熱が消える。

「でも酷いんだカヲル君、してもいないコンタクトがずれたなんて言って『見てくれないかい』って…で見たら何故か洞木さんは『不潔よ!』って騒ぐしトウジとケンスケは挙動不審だしマリさんは『気持ち悪いけど…面白いから良い!』なんて意味不明な台詞吐くし脇で話聞いてた筈のアスカは爆笑してフォローしてくれないし全く…」

「…大変だったわね…」

…何だろう?胸につかえてた何かが消えた気分。

「これ有難う。じゃ、私これで帰るわ。」

風邪薬を帰って飲まなければ。熱っぽいし。

「え?あ、う、うん、そ、そうだね、も、もう時間も遅いし、し、仕方無いよね、うん。」

…何が仕方無いのだろう?もう用件は済んだ筈だ。

「じゃ、おやすみなさい碇君。」

「あ!そ、その綾波…あ、あの、じ、時間も遅いしお、お、おお送ってくよ!」
「…何故?」

「何故って…ほ、ほらもう遅い時間だし女の子一人は危ないしその…」

「そう…じゃ、送って。」

…おかしい。護衛が付いている私達はさほど危険は無いのに。

でも私はその疑問を口に出さず碇君の申し出を受け一緒に帰る事にした。
安全策ならば取るに越した事は無い。

…やっぱり風邪ね。ぽかぽかする。

…あら?碇君、右手と右足が同調して…左手と左足も…どうしたのかしら?

おかしいのは私もだ。何故かしら?顔が変。おかしな位置の筋肉が動いて表情が歪む。

不思議な事に私達は十分の道程を二十分も掛けて歩いていた。



***



…そんな事が昨日あった。どうやら風邪は引かずに済んだようだ。

…ならばもう少し碇君と話していても良かったとふと思う。

何故かしら?

カレンダーの上に赤いマジックで印をつけながら私はそんな事を思っていた。



…でも何故だろう、今日私はほぼ五分間隔でカレンダーを眺めている。

良く判らないが私はカレンダーを見る度胸がポカポカする。

カレンダーの上、来週の日曜日の上に自分で書いた赤くて丸い印。

何度も見直し、印を指でなぞり、又暫くすると同じ事を繰り返す。

長期予報で来週の日曜日の天気予報を確認する。

電車の時間を確認する

チケットの通し番号を確認する。

部屋の中一人歩き回る。
そして又カレンダーを見る。近づいて赤い印を指でなぞり、又私はポカポカしながら同じ行為を繰り返す。

時間の進み方がやたらと長く感じる。

碇君の携帯に電話をかけようとして、話す事が無い事に気付く。

ベッドに横になる。
目を瞑る。
何故か碇君の顔を思い浮かべる。
寝返りをうつ。
時計の秒針の歩む音がする。

…眠れない…


時計を見れば未だ五分も経っていない。又起き出してチケットを…

そんな日曜日。
そんな日曜日。
私はどうしたのだろう。
私はどうしたのだろう。
私は…


…少し人間に近付いたのだろうか?

睡眠を取る必要を感じ、睡眠導入剤を手にして私はそんな事を考える。

明日は碇君に改めてお礼を言おう…そう思い私は錠剤を飲み下した。






あ、ご飯食べてな…



***



『あ、どうも。』

『…あなた誰?』

『こんにちは、使徒です。いつもお世話になっております。』

『…は?』

『あ、今晩はでしたね、失敬〃。いやぁこの度は私のペルソナが…あ、いやタブリスがご迷惑おかけしまして。』

『?…良く判らない…』

『あ、お分かりにならない。そうですか、いやそれは失礼しましたな、いきなり人様の夢に入り込んで』

『待って…貴方“使徒”と名乗ったわね?』

『ええ、私使徒です。仮にミカエルとでも名乗りましょうか…どうも口調が固いな、砕けて話していいかしら?』

『?ええ、構わないけど…』
『はあ、助かるわ〜、固い台詞は駄目なのよね〜、あ、説明しなきゃあかんね。使徒っちゅうのは単一存在にして不滅なもんで魂の記憶が永遠に積もるんですわ。ま、それだと記憶容量が大変なんで肉体得る毎にペルソナ作りましてな、その仮想人格に記憶の管理させとるんですわ。』

『はぁ…』

『で、私はその統括管理ペルソナのミカエルと申します。いや、統括と言っても只の図書館司書ですがね。お蔭で記憶も曖昧で言葉使いも色々まじってますが、ま、笑って許してくださいな、あはははは…』

『…で、その司書が私に何故謝るの?』

『いや、貴女と融合しかけた記憶から貴女が碇シンジと言う存在に抱く感情をあのダブリスが』
『待って…ではダブリスはセカンドの心を覗いたあの使徒の記憶も…』

『はあ、一緒に弐号機もですが。ですんでそちらに伺った時同調など簡単に出来た訳で。おまけに何やあの嬢ちゃんに何やえらい肩入れしてもうて、こら当分他のペルソナ出る幕ありませんな、あはははは。』

『…そう…』

『あ、いかんもう朝やな、じゃこの辺でおいとましますよって。』

『いえ…なんのお構いもせず…』

『あんた…ええ娘やな。そや、一つ教えてあげまひょ、昨日のあんたさん、うちのダブさんに嫉妬しとったんや。』

『嫉妬…あれが…嫉妬…』

『で、今日のあんたさんは、好きな相手に誘われて浮かれとったと。ま、所謂“ラブラブ仕様”つーか“恋愛ボケ”やな。』

『…何を言うのよ…』

『さて、これで消えますけん、又うちのダブさんアホやりますけどま、一つおっきな心で見守ってくんなまし、ほいでは失礼〜』

『さよなら…』



***



ピピピピピピピピ…


朝…


今の…夢?


変な夢…


だけど…


夢が本当なら私…


「ふふっ…うふふっ…」


私、ちゃんと感情有るのね…人間の…


そう…これが『嬉しい』って事なのね…


…危うく遅刻しそうになったけど、私は一日笑みが止まらなかった。


そう、私、人の心があるんだ…


使徒さん、教えてくれてありがとう。



ED【恋するボーカロイド】初音ミク ライブ映像
http://www.youtube.com/watch?v=T3XpslAXA8k&sns=em



『わてミカエルでっせ〜…ってあらいやだわ又口調が変ね』
YouTube 動画ポップアップ再生
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月 ( No.2 )
日時: 2010/11/04 09:22
名前: タン塩

「雨を見たこと、ある?」
こういう質問には、どう答えたらいいのだろうか。風にそよぐ髪を掻き上げなが
ら、私は結局、いつもの答えを返すほかなかった。
「…わからない」
「あれだよ」
碇くんが指差す、その彼方。大平原の向こう、地平線の間際の雲塊の下が、暗く
煙る。雲から滴り落ちるような、灰色のカーテン。
「あれが雨さ」
「そう…」
雨は雲から降る。知識として知っていても、実際に見ると不思議な光景だった。
「…なぜ知っているの?碇くん」
「知らないよ。僕も初めて。でも、多分あれって雨だよね?」
「…そうね。多分」
「やっぱり旅に出ると、いろんなものが見られて面白いね」
「ええ」
確かに、面白い。いろんなものが見られるからじゃなく、いろんなあなたが見ら
れるから。未知の世界に目を見張るあなたが新鮮で、面白い。
彼がハンドルを握る車は、平原の中のただ一本の道を滑るように走る。
「スピードを出し過ぎだわ。免許を取ったばかりなのに」
「ああ、ごめん。つい、楽しくてさ」
「楽しいの?」
「楽しいさ。空飛んでるみたいだろ」


【Have you ever seen the rain?】


やがて日が傾く頃、車は寂れた街に滑り込み、一軒のドライブインに止まる。と
いうか、そこが街でただ一軒のドライブインだったのだけれど。
「えーと、僕はチリバーガーにコーラ。綾波は?」
「…これ、何かしら?」
「どれ? "Fried Green Tomato"? なんだろ?」
「私、頼んでみるわ。それとコーンブレッドと、ペリエ」
「わかった。Excuse me, we want a…」
注文はいつも彼に任せる。私だってレストランで注文ぐらいできるけれど、彼が
『僕に任せてよ』という時の顔がとても輝いているので。
「綾波、ペリエはないって。クリスタルガイザーでいい?」
「ええ」
ウエイトレス、というほどの服装もしていない中年女性が注文を受けて立ち去る
と、彼はほっとしたようにため息をつく。やっぱり、無理してる。
「綾波、疲れた?」
「いいえ。碇くんこそ、疲れてない?」
「僕は全然平気だよ!ほら、この通り」
「……かわいい」
「か、かわいいって何がさ!?」
「碇くんが」
「ぼ、僕のどこがかわいいって…!」
「Excuse me, here's a…」
Fried Green Tomatoは青いトマトをスライスして塩胡椒して、フライパンで焼い
たものだった。こんな料理法があるなんて知らなかった。おいしかった。

「この先にモーテルがあるってさ。そこ一軒だけだって」
食事を終えて、私たちは今夜の宿となるモーテルに向かった。部屋が空いていれ
ばいいけれど、という心配をするまでもなく、モーテルはガラガラだった。
「シャワー浴びてくれば?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
これもいつものこと。彼に言わせると『女性が先にシャワーを浴びるのが当然』
らしい。なぜなのか、よくわからないのだけれど。譲り合って押し問答になって
しまうので、結局私が先に浴びるのが習慣になった。
シャワーを浴びると、彼はすぐに寝てしまった。やはり疲れたみたい。その寝顔
を少し眺めてから、私も眠ることにした。

彼が旅に出ると言い出したのは高校卒業も間近い頃。意外だった。彼はどちらか
と言えば保守的で、あまり旅好きとも思えなかった。『世界を見てみたい』とい
うセリフの似合わない人が、そのセリフを口にした。
私もついて行く、というと、今度は彼が意外そうな顔をした。いや、危ないよと
か、綾波が旅好きとも思えないとか、そのままお返ししたいことを言って何とか
諦めさせようとするので、私はだんだん腹が立って来て、とうとう彼をひっぱた
いてしまった。彼をひっぱたいたのは久しぶりだった。あの時は後で後悔したけ
れど、今度のは多分後悔しないと思う。

翌朝目覚めると彼はまだ寝ていたので、シャワーを浴びた。シャワールームを出
ると、彼も起き出して来た。
「…おはよう、綾波」
「おはよう、碇くん。まだ眠そうだわ」
「ごめん」
「なぜ謝るの?」
「ごめん」
まだ謝ってる。

モーテルをチェックアウトして昨夜のドライブインへ。夕べと違って、地元民ら
しいお客がちらほら見える。皆老人だ。入って来た私たちをちらりと見ただけで、
後は無視。私たちが白人ではないから?いや、多分違う。私たちが『よそ者』だ
からだろう。田舎の街はこういうものらしい。碇くんはホットドックとコーヒー、
私はパンケーキとコールスローと100%オレンジを頼んだ。
「やあ、どこから来たんだい?」
若い白人男性が声をかけて来た。どこにでも物好きはいる。
「日本です」
「へえ。日本て例のangelとかで大変だったんだろ?」
「ええ。僕らの住んでた街も、使徒のせいで壊滅して住めなくなりました」
「そりゃ災難だったな。ここも、街が一つ消えたんだぜ」
「…!」
「とにかく物凄い火柱みたいなのが上がってよ、それが収まったら何一つ残って
なかったんだ。angelの仕業だとか、新兵器が暴発したとか噂になったけど、政
府のステイトメントは何もなしさ」
「……」
「俺が思うに、連邦政府が廃棄をごまかして、核兵器をあそこら辺に隠匿してた
んだろうな。ほら、N2兵器が開発されて、ニュークリアは全部廃棄ってことにな
っただろ?あそこには軍の研究施設があったけど、多分そこに隠したんだ」
「……」

「知っていたの?」
私たちは街を出て、変わらぬ平原の中の一本道を走っていた。
「知らないよ。だいたいアメリカのエヴァ建造施設なんて、どこにあるのか知ら
なかったし。綾波は知ってた?」
「エヴァ四号機の建造施設はカンザス州クリアウォーターにあったわ」
「知ってたの!?」
「…でも、ここがカンザス州だなんて知らなかった」
「……綾波らしいや」

「…あ、また、雨」
どこまで走ってもドライブインが見つからず、道端に車を止めて、前の街で買っ
ておいたチーズクラッカーとオレンジジュースで昼食を取っていた時、私はまた
雨を見た。薄汚れたレースのカーテンみたいな雨が、泥混じりの雪玉みたいな白
と灰色と黒の雲にぶら下がっていた。
「…anyway the rain fallsかな」
「今何て言ったの?碇くん」
「なんでもないよ」
話しかけるな。彼の横顔がそう言っていた。だから私は黙って彼の横顔を見つめ
た。ただ風が吹いていた。

【終わり】
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月 ( No.3 )
日時: 2010/11/06 19:10
名前: 何処

ジオフロントを出ると外は雨だった。


【雨を見たかい】


「うわぁ本当だ、雨…」

碇君は右側の助手席で感嘆している。

「綾波良く判ったね…外が雨だなんて…」

私は軽く微笑みながらギヤシフトしてFRPボディを加速させた。
青い車体は文字通り雨を切り裂きアスファルトを駆けて行く。

ここ数日ジオフロントに籠りきりの私と碇君は漸く一段落したマギ-2ndの調整作業から解放された。
明日は二人揃って公休日、残業も奇跡的に一時間で済み私達は久々の解放感に浮かれていた。
留守の続いた新居へ帰るべく本部棟から一歩出た私は隣を歩く碇君に傘を用意する様に進言し、怪訝な顔の碇君に外は雨だと告げたのだ。

「凄いな、予知能力?」

「内緒。」

ジオフロントは数百万本の光ケーブルで採光している。雨天時等に点灯する補助照明の微かな黄色が外界の様子を伝えるのだ。
これを教えてくれたのは碇司令だった。


***


『今日は雨か…』
『あめ?』

私の前を歩く男はジオフロントの天井を眺め呟く。
私の倍はある体躯の男を見上げ私は質問した。

『雨って何?』
『大気中に含まれる水分が飽和状態となり上空で塵などを核に水滴になる。これが地上に落ちる事を雨と呼んでいる。』
『雨…天から落ちる水…判らない…』
『息に手を当ててみろ』
『…ハー…』
『呼吸にも水分は含まれるのが判るな?』
『はい。』
『気温が低ければ吐いた息に含まれる水分を視認できる。これが高空に発生する雲の正体だ。』
『雲…』

…考えてみれば碇司令は真面目だったのだろう。子供へ論理的に正しく説明する姿は他人から見れば滑稽だった筈だ。


***


フロントガラスを覆う水流はワイパーの意味を無くしつつある。私は碇君に休憩の意図を伝えウインカーを出した。
駐車場へ入り車を停めると、傘を差し助手席から降りた碇君が運転席側へ周りドアを開ける。
青のFRPボディを雨粒が激しく叩く中、車から降り立ち私は後ろ手にドアを閉め、碇君の傘を持つ右手に腕を絡めた。
二人向き直り車に施錠しながら私は左上の横顔を見る。
碇君はやはり碇司令に似て来たなと思う。施設見学の子供にも真っ直ぐ向き合う姿はまるであの日の碇司令だ。

碇君にエスコートされながらパンプスで水溜まりを蹴破りファミレスの入り口へ向かう。
傘を叩く雨音は激しく、もっと一つになりたくて私はそっと彼に身を寄せて首を傾け頭を凭れ掛けた。


***


熱い珈琲は覚醒と安堵を恵らしてくれる。二口をブラックで楽しみスティックシュガーを一本。夫婦になってすっかり私は碇君の習慣に染まったと思う。
別姓にした理由は“綾波レイ”と言う私を規定する名前が私の矜持だから。

『私は人形じゃない』

アスカに告げたあの時、私は本当に人になったのだろう。
“綾波レイ”と言う存在を己と認識し、人と規定した私は“碇”と名乗る事を拒んだ。
たかが名前だ。私は“私”、喩え姓を変えても何の問題も無い。だが私は人として、“綾波レイ”としてこの世界に留まる事を決めたのだ。

リリスから別れた私が肉体を再構成した時、私は髪も瞳も以前通りにする事を決めた。
赤い瞳も、蒼い銀髪も皆私を構成する要因。もし変えるにしてもそれは私“綾波レイ”が人として自ら選択しなければいけない。

向かいに座る碇君と同じ動作でカップの中に入れたスプーンを動かしながら、私は窓の外を眺める。窓ガラスを滑る水滴に私は初めて雨を見た時を思い出していた。


***


『雨を見たか』

唐突に司令は言った。
私の倍はある高さから降りて来る言葉に私はその声の主の顔を見上げながら“否”と首を横に振る。その仕草は研究員の人達が交わすやり取りを見て覚えた。

『…では見に行く。付いて来い。』
『何故?』
『聞いただけでは判らないからだ。見る、聞く、触る、それで初めて理解の第一歩を踏み出した事になる。』
『…良く判らない…』
『これから判る。それと“良く判りません”だ。以後気を付けろ』
『はい…』

IDパスを渡された私はゆっくりと歩き出した司令の後を小走りに追いかけた。
長い長いエスカレーターを司令と並んで昇る。

『…外に出るのは四回目です…』
『…直に毎日出る様になる。』

私の隣に立つ司令は振り向かず私に告げる。
黒い傘片手に私の隣に立つ司令の姿は遠く大きかった。


***


「お待たせいたしました、ケーキセットの苺ミルフィールとザッハトルテになります。」

「「あ、ありがとう。」」

同時に同じ台詞を口にした私達は顔を見合せ、同時に吹き出した。制服も仕草も可愛らしい店員まで笑顔をトレイで隠している。

「ご夫婦ですか?」

「ええ、もう二年になります。」

未だ笑っている碇君の代わりに私は答える。

「いいなぁお二人仲良さそうで。」

「そう?ありがとう。」

未だ少女らしさの残る店員は“私もあんな車で迎えに来て欲しい”と私の向かいに座るペーパードライバーを眺めながら言う。
夢を壊さぬ様に私は笑顔で“でも車のローンで大変だから”とそっと話題をすり替えた。
暫く話をして彼女が去り、ケーキに向かった私の向こう側には…

「碇君、笑いすぎ。」

「ごめんごめん、何か可笑しくってさ。」

「もう…」

私は目の前にある碇君のミルフィールから苺を奪取して自分の口に入れた。


…碇君、その情けない顔は止めて…


***


『これが雨だ。』

司令の傘の中、私は初めて雨を見た。

そっと傘の外に手を伸ばす。その冷たさに私は思わず手を戻した。

『冷たい。』
『雨に濡れるとはそう言う事だ。雨に濡れた冷たさは体験しなければ判らない。』
『…はい。』
『傘の存在理由も判ったか?』
『…濡れない服は無いのですか?』
『ある。雨合羽と言う。だがその服を脱ぐ事を考えれば傘の方が簡便だ。』
『…そうですか…』

傘から一歩外へ、雨粒に叩かれながら空を見上げる。司令は何も言わず私を見ていた。

『…雲の天井から水が…不思議…』
『そうか。』

私は暫く空を見上げていた。
視界が急に黒くなる。振り返れば司令が私に傘を差し伸べていた。

『…そのままでは風邪を引く。そろそろ帰るぞ。風呂に入り服を着替えるといい。』
『…はい。』

司令は私の手を取り歩き出した。だが幼い私の手を取り歩くには司令は背が高過ぎたのだろう。
前屈みに歩くその姿が私には不思議だった。


***


碇司令が何故良く私を外に連れ出したのかは本人が行方不明の今では知る術も無い。
だけれど、私は覚えている。あの雨を、あの空を、そして私の手を引く碇司令の姿と掌の熱さを。
これから先も私はあの雨の記憶を忘れる事は無いだろう。

「そろそろ行こうか。」
「ええ。」

会計を済ませ外へ。雨脚は弱まったが相変わらず止む気配は無い。
私達は一つ傘の下、身を寄せ合い車へ向かう。

「子供…未だ作らないで欲しいみたい…託児所の拡張計画が来期まで伸びたみたいで…」

そう告げると碇君は“未だ子供は早いんじゃ無いかな”と苦笑混じりに私に言い、言葉を継いだ。

「…出来ちゃえば関係無いけどね。カヲル君の処みたいに。」

「…そのせいで私有給消化出来ないのよ?」

今日の残業だって本来は彼女の領分の筈だったのだ。

「…産休から彼女が帰るまで半年か…」

「…ねえ碇君、雨は好き?」

「うーん洗濯は乾かないし」「そう言う事じゃ無くて」

わざとらしく言う碇君を睨む振りをする。

「…今は好きだな。こうして相合い傘が出来るし。」「私も。」

傘の中は二人の世界。雨のカーテンの下、私達はお日様に内緒で唇を交わした。





…新居への帰宅が次の日になった事は秘密。



【レインフィッシュ】初音ミク
http://www.youtube.com/watch?v=pDRwy0smo0o&sns=em
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.4 )
日時: 2010/11/07 18:42
名前: 何処

【ごちそうさま】

「あ、ヒカリこっちこっち。」

「ごめんお待たせ!綾波さん、アスカ、はいチョココロネと苺クリームサンド。」

「んふ〜、ヒカリのバイト先のパンはこの時間の楽しみなのよね〜」

「…朝御飯又抜いたわね…あら?綾波さん…大丈夫?顔色悪いわよ?」

「大丈夫…」

「でも…」

「ほっときなさいよ…あ、メール。レイったら朝までシンジとパソ通してただけだから。」

「あう…」

「あら…碇君元気だった?」

「ええ、その…」

「…ルームメイトとして言わせて貰うけどさ…」

じろり

「夜中に『好きって言って』とか『碇君より私の方がずっと好き』なんて台詞聞かさ」「きゃあっ!アアアアスカあ!?」

「…相変わらず実にバカップル…」

「あう…」

「ヒカリ…最近突っ込みきっついわね…」

「やだ!トウジさんの影響かしら、気を付けないと。」

「アスカ…聞いて…たの?…寝てなかった?」

「起きたのよ。甘〃トークで。同じ部屋で聴かれ無い訳無いでしょ?時差だから仕方無いにしても向こうだ…又メール!?」

「綾波さんて…結構…」

「言わないで…」

「大体夜10時に始めた会話が起きてみたら未だ続いてて時計見たら夜中の2時よ2時!?課題の相談だって話じゃなかった?」

「ゔ」

「それは駄目でしょ…」

「全く…ん?…でも今朝課題提出…してたわよね?」

「その…課題は最初の一時間で終わってて…」

「「?」」

「それから…その…」

「甘〃トークが」「始まったと。」

「あう…」

「見える…見えるわ、馬鹿シンジが息も絶え絶えな状態でリツコにコキ使われてヒーコラしてる姿が。」

「はうっ!?」

「ぷっ!ご、ごめんなさ…ぷぷっ!」

「そして今頃はロケットの中のレイを眺めてにへらにへらしてマヤとミサトにからかわれてるのよ…あ、又メール…しっかた無いわねぇ…」

「…渚君?」

「そ。お昼御飯一緒にどうだだって。『三人分奢りならおK』っと。」

「あ、あたしも!?」

「愛しの鈴原は明日まで千葉のバイト先よね?」

「うっ!」

「さっきから私ばっかりからかわれて…次は貴女の番。」

「ひっ!?」

「おーい綾波ぃ惣流ぅ、教授が探してたぞぉ、綾波のは課題論文名前抜けてるって。アスカのは題名抜けてるらしいぞ。」

「「嘘ぉ!?」」

「あれ?相田くんバイトは?鈴原と千葉じゃ…」

「トウジは未だ向こう。俺とトウジの課題提出に来ただけ。これから又千葉だよ。」

「仕方ないわね…あら?2人は?」

「今走っていったけど…」

◆◆◆


「フンフンフン…豚骨はいいねぇ…」

「…まさかお手製の豚骨ラーメンとは…」
「思わないわよね…」
「て言うか…渚君エプロン似合いすぎ。」

「うん、これでよし…しかし光栄だね、そんな息堰切って来る程楽しみにしてくれたなんて…」

「…息も絶え絶えっていうのよ…」
「書き直し一時間で終わらせたのは奇跡ね…」
「…走るアスカの後追いかけるの大変なんだから…」

「?アスカさんはチャーシュー増し増し、レイさんはチャーシュー抜き麺固め、ヒカリさんは味玉子一個と…さ、召し上がれ。」

「「「頂きます!」」」


◆◆◆


『で、どうだったの?』

「…今度三人で渚君に弟子入りする事になったわ。」

『ああ、カヲル君は凝るとプロ並みだから…課題は?』

「課題はなんとか…碇君のお陰よ。」

『いや、綾波の実力だよ。』

「ううん、碇君のお陰。お礼をしたいからその…早く帰って来て…」

『綾波…』

「碇君…」


「あんたら…いい加減にしなさい!連日のピロートークもどきで私の睡眠時間奪わないでよね!」

『うわっ!?ア、アスカ居たの!?』「碇君…ボケ過ぎ。」

「はぁ…はいはいごちそうさま。明日は朝からカヲル先生のお料理教室よ、寝坊すんじゃないわよ!お休み!」

「『…ごめんなさい…』」


【とりぷるばか】歌・初音ミク、重音テト、亞北ネル
http://www.youtube.com/watch?v=MNZ__Lx4b9I&sns=em
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メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月 ( No.5 )
日時: 2010/11/08 17:54
名前: のの

 手で打った感触。

 手に触れた感触。

 その残滓。



【Have you ever seen the rain?】(裏)



 涙を溜めながら歩く小さな女の子を見た日の夕方、わたしは偽りの黄昏時に包まれたジオフロントを歩
きながら、その女の子のことを思い出していた。必死に表情を保ち、まるでまばたきをしたら死んでしま
うかのように必死で目を開き続けていたその子は、どうして涙を流すのをこらえていたのだろう。

 戦闘の爪痕が嫌と言うほど残るジオフロントには死の匂いがする。それを感じるのはなにもわたしだけ
ではなく、前はよく見かけた、休憩する職員の姿や、時間をかけても庭園を回ってからリニアへ向かう人
を見なくなった。倒れた石造やひび割れた石畳を好んで見たがる人はいない、と副指令が司令室からジオ
フロントを見下ろしながら言っていたことを思い出す。

 偽りの調和を望む人には耐えられない光景。死の臭い。

 わたしにとってはわたしの戦いの、弐号機パイロットの戦いの傷跡そのものになる。だからそれ自体は
何も珍しくないので、わたしはいつものように噴水のある庭園に行っている。さっきも行ってきた。

 ネルフの人たちは戦いに対して淡白と言えるほど自然に受け入れていると思っていた。

 それは間違いだった。この人気のなさが物語っている。唯一生命力を感じさせる家庭菜園を守ろうとす
る二人の人間を思うと、なんとなく、気分が落ち着いた。生命に対して向き合っていると感じたからかも
しれない。

 さっき別れたばかりの碇くんは、入院中なのにそれを気にして外に出てきていた。わたしはその時のこ
とと小さな女の子のことを思い出しながら、リニアに乗って地上へと上る。


『土で汚してはいけないわ』
 わたしはサンダルで畑に上がろうとする彼を見つけて声をかけた。あのとき、どうしてわたしの声はあ
んなに高かったか、あんまりよくわからない。何故だか妙に声が高かった気がする。
『別にいいんだ、そんなこと』
 彼は、とても珍しく、きっぱりと言い切って、本当に畑に入って、落ちていた如雨露を使って水やりを
始めた。
『尊敬する人からお願いされたんだ』
 ていねいなのか雑なのか、容量悪そうに水やりを終えた彼は、土で黒くなった足を水飲み場で洗って、
濡れた足を投げ出してベンチに腰掛けた。わたしは黙って、噴水の水に手をつけた。水はぬるく、体温よ
りは低く、わたしの手にまとわりつく。冷静になれば奇妙に感じるその感触。この手を熱くさせたのは、
この手が温かいと感じ取ったのは、碇くんに触れたからだった。叩いたからだった。
『ごめんなさい』
『え、なにが?』
 顔だけ彼に向けたわたしに、彼は水をまく前の土の色をした顔を向けた。自分が何について謝罪したの
か、わたし自身が言葉に出来なかったので、それからわずかな間、心地の良くない沈黙が生まれた。何分
間にも感じた。
 碇くんが握ってくれた手だった。
碇くんを叩いた手でもあった。
それを思い出してしまった。カメラのフラッシュのように一瞬思い出し、怒りに身を任せた自分を思い
出し、顔が熱くなった。言葉にするには思い出した時間は短かった。ほんとうに、ほんの一瞬で頭の奥
に押し込めてしまったから。
『綾波が謝るようなこと、何もないよ』
 碇くんはいつも以上にくたびれた表情で微笑んだ。こんなわたしなんかに。
『じゃあ、僕、戻らなくちゃいけないから』
 わたしは彼と同時に立ち上がって、病院の入り口まで勝手についていった。彼は何も言わず、わたしの
右手と触れそうになるほど近づいた方の手の指を、所在なさそうに折り曲げては伸ばしていた。握られる
事も開かれることもない彼の手と近づいていたわたしの手は、距離を少しでも離さないよう、ほとんど前
後に揺れることなく垂れ下がったままだった。


 ――明日は、碇くんに会えない?
自分の予定を思い出しながら改札を出ると、湿気を多く含んだ空気を感じた。床が滑りやすくなってい
るので、少し気をつけながら階段を上がる。階段の下からわずかに見えた空は灰色ではなかった。雨音も
ないので安心して地上へ出ると、相変わらず静かな、とても静かな再開発地区の十字路に出た。見渡して
も誰もいなかった。会社もほとんどない中止された再開発地区なので当たり前のこと。歩き出すと同時に、
ネルフと繋がるリニアの階段を振り返った。通りの奥に広がる空は晴れていると思っていたのに、実際に
は濃い灰色混じりで、虹がかかってもいない。それどころか、やんだはずの雨粒が落ちてきた。

 わたしは構わず、いつも通りの速さで歩いた。雨の擬音があんな表現をすることにとても納得させられ
る音が水溜りから聞こえる。
ぽつん。
ぽつり、ぽつり、ぽつりと。
ぽつん。
その空の下を歩いて帰るわたしを誰ひとりとして知らない。それならせめて、わたしが家路の途中で雨
に降られていることを碇くんに知って欲しかったけれど、そんな贅沢は考えてはいけないような気がした
ので、軽く頭を振って、少し早足で帰る事にした。

メンテ

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