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[563] サイト開設十周年カウントダウン企画・九月
日時: 2010/09/02 05:15
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・ごはんがおいしすぎて
・空の高さは
・Higher

です。
八月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中、十月中には、インフォシークiswebライト
のサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイの幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画も
ありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願いします。

では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.3 )
日時: 2010/09/05 10:55
名前: JUN

「やっと、会えたね……」
 そう言った碇くんの声は、なんだかとても久しぶりだった。


higher vol.1




「いかり、くん……?」
「そうだよ」
 碇くんの笑顔は、昔と全く変わらず、暖かかった。しかしそれはどこか捉えどころがなくて、私の
心を不安定に揺らした。
「ここは……?」
 私が訊くと、碇くんは困ったような表情をした。私の頬を抱き締めたままそっと撫でて言う。
「ここは……なんだろうな、すごくすごく、高い所だよ」
「たかい、ところ」
「うん」
 それだけ言って、碇くんは黙り込んだ。私の――あるかどうかも分からない――後ろ髪を梳いて、
額にキスをした。
「ずっと、待ってたんだ……」
「いかりくん、わたし、どうなったの?」
「どうなったと、思う?」
 逆に碇くんは聞き返した。それは多分、私がその答えを理解していることを、知っていたからだと
思う。確信をこめた視線が、私に向けられた。
「私、死んだの」
「…………」
 それは質問というより、確認だった。碇くんは黙ったまま、私の頭を撫でていた。
「僕はここで、綾波が来るのを待ってた。僕と綾波は、夫婦だったんだよ」
 碇くんの言葉は私のとても深いところに潜り込んで、無くなった記憶をつつく。水墨画のように薄
ぼんやりと、しかし確かに想い出は掘り返されていった。

 私と碇くんは結婚して、一緒の会社に入社して、子供がいて、それから――

「碇くんも、死んだ……」

 憶えてる。とても悲しくて、碇くんの後を追おうとも思ったけど、碇くんはずっと、死んじゃだめ
と言ってくれてたから、私は頑張ってこらえた。子供は自立していて、孫もいた。でも、碇くんだけ
いなくて……

「とても、寂しかったよ……」

 碇くんの腕は、わたしのそれと見紛う程に真っ白だった。もっとも、その腕が本当にあるそれなの
か、私には確信がもてない。そんなに重要なことでもないと思う。今、碇くんに抱かれている。それ
だけは確かなのだから。

「私も、寂しかった。碇くんがいなくて。でも――」
「これからは、一緒にいるからね、綾波……」
「どれ、くらい?」
「分からない。でも、永遠じゃない」
「なんで……?」
 私が死んだのだとしたら、ここはきっと天国というやつなのだろう。いっそ地獄でも構わない。碇
くんがここにいるなら、そこが私の理想郷だ。
 でもその理想郷すら、永遠じゃなくて。
「人は……生まれ変わるんだ。新しいヒトとして。僕も……綾波も」
「…………」
「だから、いずれまた、ここを離れなきゃいけない。僕の方が先にここに来た。だから、僕の方が先にここを離れると思う」
「いや……」
 私は力の限り碇くんにしがみついた。しかしその手ごたえはあまりに小さく、かえって私を不安に
する。碇くんのいない世界で独りきり。耐えられないと思った。
「でもその時が来るまでは、ずっと一緒だよ、綾波」
「…………」
 答えられなかった。永遠じゃない。生まれ変わるということは、恐らく記憶もなくなる。もう一度
碇くんに逢える確証もない。仮に逢ったとしても、私が気づける保証もない。
「目を閉じて」
 私の沈黙をどう受け取ったか、碇くんは言った。私は言われたとおりにした。

 そっと、碇くんの唇と私のそれが触れ合った。曖昧な感覚ではあったけれど、それでも嬉しかった。
飽きることはなかった。碇くんが旅立つその時まで、私はこうしていたい。










 そして、一瞬の永遠が過ぎた。





















 碇くんが、そっと私を放す。寂しそうな、切なそうな、そんな表情を湛えて。
「もう、行かなきゃ……」
 眸の奥から涙がこぼれる。碇くんが教えてくれた嬉しい涙とは程遠くて、胸の奥が痛くて――
「まだ、行って欲しくない……少ししか、経ってない…………」
「ごめん、綾波……」
 碇くんが私を抱きすくめる。でもその腕はどんどん色を失って、感覚はぼやけていた。
「生まれ変わったら、今度こそ誰にも邪魔されない幸せな生活をしよう。エヴァなんてない、平和な
世界で。お店をしてもいい。僕の料理、みんなに食べてもらって。綾波みたいにかわいい子がウエイ
トレスさんをすれば、きっと一杯のお客が来るよ。たまには休暇をとって、二人で旅行に行こう。温
泉とか、外国とか。混浴とか入って、美味しいもの沢山食べて、それから、それから――」
 不意に、碇くんの声が詰まる。私がここに来てはじめて見せた、碇くんの涙だった。
「いかり、くん……」
 もう、碇くんの腕はほとんど色を失っていた。私の身体を――魂を――抱く力は弱くて、自ずとこ
れから起こることへの予感を感じさせた。
「次、生まれてくるときは、名前も、顔も、国籍すら違うかもしれないけど、綾波がもう一回、僕と
一緒になりたいと思ってくれるなら、きっと、逢えると思うから、だから――」
「わかってる……」
 そっと抱き締め返す。もう、感触はほとんどなかった。
「わたし、いつまでだって待ってるもの…………」
「ありがとう、綾波――」

 そして、碇くんはいなくなった。










 そして、永遠の一瞬が過ぎた。


















 私の身体もぼやけてきた。永い永い時間が、ようやく過ぎたのだと思った。碇くんの一年後に、私
はここにきた。だから碇くんがここからいなくなってから、一年しか経っていない。
 でもその一年は、私にとって碇くんとの百年より永い一年だった。

 でもそれも、もうすぐ終わる。

 あの時の碇くんの言葉は、今でもはっきり憶えている。二人でお店をしたい。温泉にだって行きた
い。私の初めては次も、碇くんにもらって欲しい。
 体が透ける。怖くはなかった。喜びだけだった。私が消えるその瞬間まで、私は碇くんのこと想っ
てる。

 ――今、行くから…………!

 そして、レイはいなくなった。
























「お母さん、新しい家庭教師の人ってどんなひと?」
「大学生だって。イケメンらしいわよ?」
「顔はどうでもいい。興味ないもの」
「またまた、リンも年頃なんだから、彼氏の一人くらい居てもいいんじゃない?」
「恋人なんて、作る気しない。どうしてか、分からないけど……」
「…………そう。まあいいわ。家庭教師の人、リンの一つ上なんだって」
「一つ!?大丈夫なのそれ?」
「飛び級で、もうすぐ大学卒業すんのよ。すごいじゃない」
「ちょっと待って。それ、日本人?」
「そうよ。でも国籍はアメリカ。色々複雑らしいわ」
「ふぅん。でさ、名前はなんていうの?」
「えっと、確か、あれ、なんていったっけ」
「ちょっと、しっかりしてよ」
「ええっと…………そう!」
 母さんはぱちんと手をたたき、
「六分儀――」

 変わった名前だな、とその時私はそんなことしか思わなかった。


            おしまい
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