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[573] サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
日時: 2010/09/30 03:10
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・一番大切なこと
・わたしのお尻は喋らない
・Knockin' On Heaven's Door

です。
八月の企画、九月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です(これ、ずっと書くのだ
ろうか 。八月九月十月十一月十二月一月……)。

今月中には、インフォシークiswebライトのサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイ
の幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画もありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願
いします。

では、どうぞ。

以上、ほぼコピペ(爆)。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.4 )
日時: 2010/10/06 22:53
名前: JUN

一番大切なこと






 ――どう、しよう……

 レイは鏡を見つめながら、溜息を吐いた。あまりに見慣れすぎた、自分の姿。

 血のように紅い眸、普通はいない青い髪、異様に白い肌――

 それらを好奇の目で見られることは、特に何も思わなかった。慣れていたからだ。電車に乗れば聞
こえてくるひそひそ声、中学校に入ったばかりの頃は染毛を疑われたりもした。
 だが、それを不快に思ったことはない。生徒指導は多少煩わしかったけれど、NERVの名を敵に回
そうという物好きな手合いもそういないのだ。

 ――でも

「碇くんが……」
 自分とシンジは、最近恋人同士と言われるような間柄になった。嬉しかった。自分が想いを告げ、
シンジがきつく抱き締めてくれた時は、これ以上の幸せなどないと本気で思った。神様は本当にいる、
と――。シンジはあまり積極的でないせいか、普段は手をつなぐのがやっとだ。まだキスもしていな
い。だが、それでも別に構わなかった。急ぐことはない。あの時と違って時間は沢山ある。ゆっくり、
関係を深めていけばいい。
 今、レイの心を悩ませているのは、今まで何も考えることのなかったその容姿だった。シンジが自
分と一緒にいれば、シンジもその目線にさらされることになる。不快に思うかもしれない。それは嫌
だった。不用意に注目を集めるのは彼の良しとする所ではない。
 なら、髪を染めよう。カラーコンタクトをつけよう。白い肌だけはどうしようもならない。日焼け
しようにも、先天的なアルビノ体質のせいで、メラニン色素が存在しない。ついでに紅い目もそのせ
いだ。日焼けしたところで赤くなるのが関の山だろう。
 でも、それでシンジにかかる好奇の目線は幾分押さえられるはずだ。白い肌だけならさして珍しい
ものでもない。もしだめなら長袖を着込めばいいのだ。暑さなら耐えられる。伊達にラミエルに茹で
られていないのだから。
 そうと決まれば眼科とデパートだ。その程度の出費、痛くも痒くもない。一生遊んで暮らせるくら
いのお金が、今のレイにはあった。
「いってきます」
 誰も居ない部屋にそう声をかける。シンジに言われてついた習慣だ。「ちゃんと帰ってくる、ってい
う意思表示なんだよ」というのはシンジの弁だ。

 ――碇くん、待ってて……すぐに――

「あなたに相応しい人になる、から」




■△■△




「あれ、綾波?」
 夕食の買出し中、見慣れた青い髪を見つけたシンジは、嬉しそうに声を上げた。声をかけられたレ
イの肩が一瞬ぴくんと跳ねる。
「い、碇くん……」
「どうしたの、珍しいね。一人で買い物なんて」
「う、うん……」
 後ろ手を組んで語尾を濁らせるレイに、シンジは少しだけ訝しげな表情をした。
「綾波、どうしたの?」
「え、えっと……」
 嘘はつけない。無表情といわれる自分でも、シンジの前ではどこまでも正直になってしまう。
「それ、なに」
 後ろ手を覗き込まれそうになり、レイは狼狽した。慌てて隠そうとすればするほど、レイの表情は
強張ってゆく。
「こっ、これは――」
 ごとっ、と無情な音を立てレイの手からこぼれ落ちたその箱を見て、シンジは目を丸くした。
「綾波、それは……」
 美しい笑顔の女性と、その黒髪が印刷されたパッケージ。シンジも見かけることはあったが、当然
手にとって見るようなことはなかった。腰をかがめて拾い上げ、レイに言う。
「これ、買うの?」
「う、うん……」
 どもりつつ、レイは言った。黙っていたことへの微かな後ろめたさが、どうしても申し訳ないよう
な気持ちにさせてしまった。勝手にそんなことを決めたから怒られるかもしれないとも思った。
「そっか、はい」
 伏し目がちなレイにそれを渡し、シンジはすたすたと歩き出す。あまりに素っ気無く、レイが想像
していたどんなものとも違っていた。
 思わず後を追ってしまう。半ば無意識の行動だった。怒ってしまったのかと思うが、シンジの背か
ら感じる雰囲気は負のものではなかった。
「い、碇くん」
「ん?」
「その、ごめんなさい」
「――どうして謝るの?」
「あの、だまってて……」
「いいよ、事情があるんでしょ?」
 シンジはにこりと笑ってみせると、レイを連れ会計を済ませた。

■ △■△


「髪、染めるんだ」
 レイの荷物を――染毛剤だけだが――代わりに持ったまま、レイは言った。
「…………うん」
 あまりにシンジが普段どおりで、どうしても不安が拭えないレイは、曖昧な声を上げた。
 その実、安堵してもいた。こんなに反対しないということは、シンジもそれを望んでいたのだろう。
人前で妙な注目を浴びることもなくなるのだから。どこか複雑なものを抱えながら、レイは少しだけ
腑に落ちた。
「理由とか、訊いてもいい?」
 一瞬迷う。シンジのために、という言い方をすれば、どこか恩着せがましく感じさせてしまう。シ
ンジに変な負担をかけたくはない。あくまで自分が勝手にしたこと、という体裁にしたい。
「気分転換に、しようと思って」
「……そっか」
 カラーコンタクトはまた今度にしよう、とレイは思った。急に色々変えると怪しまれる。
「綾波、ちょっといいかな。寄っていく所があって」
「どこ?」
「そこ」
 そう言ってシンジは側にあった公園を指差した。あまり人のいない所で、シンジたちはよく学校帰
りに立ち寄ってはとりとめもない話をしていた。
 レイもその場所が大好きだった。シンジと二人きりで、シンジを独り占めできるその時間、その場
所が大好きだった。話が途切れたら、シンジの肩に頭を預けてうたた寝をし、お腹が空いてきた頃、
シンジに揺り起こされて目覚め、手を繋いで帰って夕食を共にする。少しだけ夜更かしをして、シン
ジに送られて家に帰る。その日の輝ける思い出を胸に抱いて眠る。夢には愛しいシンジの笑顔がある。
それが一番の幸せだった。

 いつものベンチに腰かける。シンジの口数は多くないが、それでもその話には確かな内容と、レイ
の知らない沢山のものがある。料理の作り方、日常のちょっとした雑学、そんなものを聞くのが好き
だった。今日はどんなことを話してくれるんだろうと、レイは高揚した気分で考えていた。
「綾波」
「なに?」
「気にしなくて、いいと思うよ」
「……何を?」
「これ」
 言うとすぐに、シンジはレイを抱き寄せた。思いもがけないことに、レイは焦る。
「えっ――」
「分からないと思った?」
「な、なんのこと――」
「髪の毛のことだよ」
 あくまで落ち着いた声で、シンジは言う。右手はレイを抱き寄せ、左手はその柔らかな髪を梳きな
がら。
「隠さないで、綾波。違ってたらごめんだけど、綾波、悩んでたんだよね?」
「…………」
「誰かに嫌なことでも言われたの?」
「そうじゃ、ない、けど……」
 ぐぐもった声で、レイは言った。
「じゃ、どうして?」
「碇くんが――」
「僕が、なに?」
「私と一緒に居ると、碇くんまで変な目で見られる。私は慣れてるから、大丈夫だけど」
「…………」
「碇くんに、迷惑かけたくない」
「……僕はさ、綾波と一緒に居て迷惑だと思ったことなんてないよ」
 優しく諭すように、しかしどこか寂しげに言うシンジ。出会った頃から変わらない匂いが、レイの
心の強張りをほぐした。
「もし綾波がその髪で辛いことがあるって言うなら、僕は止めないよ。好きにしたらいいと思う。僕
には綾波のそういうことは理解出来ない。けど、綾波が僕の迷惑を考えて髪を黒く染めるって言うな
ら――」
 そこで一瞬間をおいて
「そんなこと、気にしなくていいよ」
 優しく、どこまでも柔らかく、シンジはレイに言った。
「で、も――」
「綾波、何をそんなに、怖がってるの?」
 なおも言葉を紡ごうとしたレイを、シンジは不意に遮った。レイの声が詰まる。
「綾波、言ってみて。きっと――相談にくらい、乗れるから」
 抱き寄せる腕に、シンジは力を込めた。その腕に衝き動かされ、レイの奥底に眠る想いが、声を上
げる。


「碇くん、わたしは――」
「うん」
「碇くんに、嫌われたく、ない……」
「うん……」
 すう、と一筋、レイの頬を涙が濡らした。



 そう、怖いのだ。シンジに嫌われるのが。だから、シンジの求める自分でありたい。一点の濁りも、
綻びもない、完璧な自分でないといけない。でないと――

 碇くんが、いなくなる。

 それだけは耐えられない。自分にとって唯一にして無二の絆たる、碇シンジ。それはどんなものに
も代えられない。
 だからこそ、綻びを探してしまう。シンジがいなくなる可能性から必死で目をそらしながら、その
実その可能性を探さずにいられない。そんなパラドックス。
 自分の特異な容姿が、いずれシンジに不快な思いをさせてしまうかもしれない。もしそんなことに
なったら、シンジが自分から離れていくかもしれない。その恐怖は――ある意味死の恐怖よりも――
途方もないものだった。
 変わらないといけない。シンジを離さないために。女性からの人気は、自分もよく知っている。幾
度となく告白されているのも、知っている。その度に、怖かった。
 自分なんかよりずっとずっと魅力的な女性が、世の中には沢山いるのだ。シンジが告白されたと聞
くたび、レイは危機感に襲われた。
 料理を学び、お洒落にも気を遣い、服装の全ては、シンジの好みに合わせた。他の人間のがどう思
うかなど二の次だ。自分の全ては、シンジのためにあるのだから。自分の命絶えるその時までシンジ
が側に居てくれるのなら、どんな犠牲も、惜しくはない。偏愛と呼ばれようと、依存と呼ばれようと、
独占と呼ばれようと、それが自分の全てだった。心も身体も、シンジのためにあった。全てを捧げて
よかった。――側にシンジが、いてくれるなら。
 初めて出来たそれ以外の友人も、見るようになったドラマも、シンジがいなくなれば、それは等し
く無価値なのだった。

 シンジと乗る電車の中で、確かに聞こえる忍び声。

――すげえ色。
――染めてんのかな、あれ。
――気持ち悪い。

 今までは全く気にしなかった。興味のないことだったから。けれどその声は、きっとシンジにも聞
こえていた筈だ。
 必死に笑顔を見せて、気にしていないように振舞う。慣れない声を張り上げて。
 シンジは寂しげに笑っただけだった。その日は少しだけレイの部屋に長くいて、抱き締めてくれる
力はいつもより強かった。
 シンジが帰った後、普段より大きな恐怖を感じた。自分はいい、だがシンジが好奇の目線に晒され
るようなことがあってはならない。そんな事態に陥ったら――
 決断は早かった。黒い髪に染めればそんなことはなくなる。最初は見慣れないかもしれないが、き
っとそのうち慣れる。どこにでもいる女の子として、シンジとずっと一緒にいられるのだ。そう――

 ずっと、ずっと、ずっと、一緒に――――









 考える内に、涙が溢れてくる。止め処なく、限りなく。体が強張っていたことに、今になって気づ
いた。激しく嗚咽を漏らし、しゃくりあげ、レイは泣き続けた。
「いかりくん、いかりくん、いかりくん――」
 自分がいるこの場所など、自分が思っている以上に脆弱なものでしかないのだ。自分とシンジの心
がすれ違えばそれだけで、それは致命的な亀裂になりかねない。
 優しく背中をさすられ、その度に嗚咽が溢れ、髪の毛を撫でられ涙が零れる。その手の温かさが、
レイを惹きつけたものに他ならなかった。レイの不安を溶かし、優しく抱き締めてくれる。その温も
り。

「綾波、大丈夫だよ。僕が綾波を嫌いになることなんて、絶対にないから」
「でも、でも、碇くんのことを好きな人は沢山いて、素敵な人も沢山いて、でも私には、何も、何も、
何も――」
「……綾波、顔を上げてくれる?」

 言われるがままに、レイは顔を上げた。目はもう幾分腫れていた。シンジの目線に射止められ、身
体が動かなくなる。
 シンジの手はレイの下あごに添えられ、自然に上を向かされる。何をされるか、レイも理解した。
 恋人になってからもシンジが照れてしようとしなかったこと。それを、たとえ人通りが少ない公園
だとしても、今ここで――屋外で――してくれる。レイにとって、それが嬉しくない筈がなかった。
「目を閉じて、綾波……」
「いかりくん……」

 溶け合わんばかりの幸福。しっとりと濡れたそれは、これ以上ないほどレイを満たした。自分の初
めてのキスは、シンジのものになったのだ。
 シンジのキスが初めてでないことを、自分は知っている。アスカに聞いたことだ。しかしそんなこ
とはどうでもいい。今シンジがキスしているのは、

 ――わたし……

シンジの掌がレイの腰を撫でる。身体が熱くなる。吐息が漏れ、頭がぼうっとして、何も考えられ
なくなる。
必死で勇気を振り絞り、シンジの手を取る。いやらしい、はしたない女だと思われるかもしれない。
それでも、それは自分の望むことだ。
シンジの手を自分の胸と重ねる。薄手のブラウスには、うっすらと汗が浮かんでいた。奇しくも、
シンジを想いながら選んだ水色の下着だった。そこに初めて触れられた時は、正直少し気持ち悪かっ
た。けれど、今のその感覚は、心地よさ以外の何物でもなかった。躊躇いはない。大好きなシンジな
ら、どんなことでも赦せたから。この後のアパートでその行為をしたいと、心の底から思ったから。
他の誰でもない――シンジだから。
 しかしシンジは、その手をゆっくり腰に戻した。耳元に唇を寄せ、
「ごめん、まだちょっと、勇気ない」
 シンジが離れる。幾分目が潤んでいるのは、きっと気のせいではない。自分もそうであるから。
「綾波」
 レイを胸に再び抱き寄せ、シンジは言った。
「ごめん、もうちょっとだけ、気持ちを固める時間が欲しいんだ。馬鹿みたいだけど、まだ、少し怖
いんだ」
「……大丈夫。私のほうこそ、急にごめんなさい」
「ううん。ごめんね。でもいつか、綾波と、その、したいと思うから…………」
「嬉しい……」
「ね、綾波」
「なに?」
「僕にとって一番大切なことはさ、他の女の子がどんなかとかじゃなくて、綾波が他の女の子をどう
思ってるかとかでもないんだ」
「じゃあ――」
「一番、大切なことは……」
 腕に力をこめ、レイの耳元でシンジは言った。
「こうして僕の腕の中にいてくれる綾波を、僕が世界一好きだ、ってことだよ」
「碇くん……」
「綾波が髪を染めたいって思うなら、僕は止めないよ。どんな髪をしてたって、綾波は綾波だ。それ
以外の何物でもないよ」
 にこりと笑って、シンジは抱き締めた腕をといた。
「碇くん?」
「帰ろう。遅くなったから」
 レイの手を取って、シンジは立ち上がる。
 歩き出したレイに、不安はなかった。シンジはちゃんと、自分を見てくれている。そう、私にとっ
て一番大切なことは――ありのままの、綾波レイでいること。

 夕暮れ時の公園にはたった一つ、不要になった箱だけが残った。

      


 
                ――FIN――
メンテ

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