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[591] サイト開設十周年カウントダウン企画・一月
日時: 2011/01/07 20:19
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・好きだと顔に書いてある
・肉が足りない
・クロスロード

です。
八月〜十二月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

Cube-Web.net終了騒動でスレ立てんの忘れてたぜよ(爆)。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.4 )
日時: 2011/02/11 17:57
名前: JUN




 好きだと顔に書いてある/ Written By JUN





 外には雪が降っていた。段々と薄暗くなっていく窓の景色は、なんとも心を綻ばせてくれる。窓が
曇っているのが、外と中との温度差を感じさせ、今の自分の幸福を実感できた。目の前に注がれたホ
ットココアが眠気を誘発する。普通のココアではなく、ネットを介して注文した高級品なのだと、こ
れを購入した人間はどこか誇らしげに語っていた。
 文字通り遺物となっていたコタツは再び役目を得て、長い憂さを晴らすように煌々と利用者の足を
暖めていた。
 その恩恵を享受する人間が二人。向かい合って脚を伸ばして座る彼らの表情は、決して笑顔な訳で
はない。しかしそこから醸し出す温かい雰囲気は、無言の空間に似つかわしくない。それでいて、ど
こまでも似つかわしかった。

「ね、綾波」
「なに……?」

 穏やかな表情は、今となっては全ての戦いを終えたことを端的に表していた。常に氷のような鋭さ
を放っていた彼女の眸も、今は柔らかく温かい光を湛えていた。
「今日は、泊まってく?」
「うん」
「じゃあ、布団しくよ」
 シンジはもぞもぞと立ち上がって、自分の部屋に向かった。レイはさながら親についていくアヒル
のように、その後をついてゆく。その初々しさたるや、クラスメートが見れば驚愕するだろう。
「結構頻繁に来てるから、そろそろお客さん用じゃなくて綾波専用の布団買わなきゃね」
「私は、別に……」
「だめだよ」
 不意に遮ったシンジに、レイは首を傾げる。
「どうして?」
「綾波が寝た布団で他の誰かが寝るなんて、僕、耐えられないよ」
「……ばか」

 シンジが動く前に、レイはシンジの胸にしがみついた。シンジは狼狽したが、それが紅くなった顔
を隠すためだということを悟った瞬間、シンジは悪戯っぽく微笑んで、
「明日にでも行こうか」
「…………うん」
 弱々しい声。恥らうようなその態度に、シンジはたまらなく愛しい気分になった。前髪をかきあげ、
額に優しいキスをすると、レイは瞬時身を固くしていたが、その内シンジの頬に唇を寄せた。
「ミサトさんとかがいないと、楽でいいね」
 本人がいれば著しく機嫌を損ねるに違いない台詞に、レイはくすくすと笑みをこぼした。実は結構
毒舌、そんなことも最近知った。想いを告げたその日から、シンジは自分の知らない様々な面を見せ
てくれる。当然その中には多少黒い部分もあるものの、幻滅するようなことはなかった。幻滅させて
くれなかった、と言う方が適当かもしれない。彼の優しさの前では、そして彼と乗り越えてきた日々
を思えば、好きになるなという方が、無理な注文に思えた。
 告白しようと決めた日は、この上なく緊張した。あの緊張に比べれば、ヤシマ作戦の方がまだまし
だと思うくらいに。







 校舎の裏だった。今思えば大胆だったと思う。急に呼び出したレイに、シンジは少し不安げな表情
だった。ちょうどNERVがサードインパクトの事後処理でごたついていた時だったので、何かあった
と思ったのかもしれない。
 でも、それはかえってよかったのかもしれない。呼び出すときに不要なクラスメートの視線を浴び
ずに済んだから。
「どうしたの?綾波」
 ややもすると女性のそれと聞き違えてしまいそうなほど柔らかく、高めの声。本人はもう少し男ら
しい声になりたいらしいが、それがシンジらしいとレイは思う。
「あの――」

 想いを告げている間、シンジはじっと黙っていた。普段沈黙に気まずい表情を見せるのは彼のはず
なのに、その時沈黙を辛く感じているのは間違いなく自分だった。
 何か言って欲しい。肯定か、あるいはそうでなくとも、シンジの答えを聞かなくては、胸が張り裂
けてしまいそうだった。
 断られる可能性は十分に理解していた筈だった。しかしいざその段になってみると、それはとても
耐えられそうになく、今すぐ逃げ出してしまいたかった。

 これ以上の沈黙には耐えられない、そう思った時、シンジは重々しく口を開いた。
「ごめん、綾波……」
 申し訳なさそうなその声を聞いた瞬間、息が止まった。喉の奥が焼け付くように痛くなり、涙が溢
れそうになるのをぐっとこらえる。優しい彼に、これ以上の負担をかけてはいけない、最近やっと覚
えた笑顔で、このまま踵を返して――そう思った時だった。


 気付くと、私は碇くんの腕の中にいた。


「僕が先に、言ってあげなきゃだめだったのにね…………」


 安堵と、そしてこの上ない嬉しさ。そして先ほどの発言が彼の悪戯心だったことを悟った私がやっ
と口に出せた言葉は、たった一言だけだった。

「ばか……」


 このことを最初に伝えたのはアスカだった。驚いてくれるだろうと胸躍らせていたのだが、いざ報
告すると案外素っ気無かった。不満に思って理由を尋ねると、
「アンタばかぁ?そんなのアンタ以外全員知ってたわよ。好きって顔に書いてあったわ。アンタも、シンジもね」
「碇くんも?」
「そーよ。あのバカ包丁は乱れるし、意識は携帯ばっかりに行ってるし、アタシが発破かけてもでも
でもって動かないし、もう鬱陶しいったらなかったわよ」
 少し言いすぎだ。そう思ったとき、アスカは不意に優しく笑った。
「おめでと、レイ。あのバカ優柔不断だけど、優しいのは確かよ。大事にしてもらいなさい。もし襲
いかかってくるようなことがあったら蹴り上げてやるといいわ」
「何を?」
「言わせないでよ」
 アスカは言って、そのまま会話を中断してしまった。どうやら深追いしてはいけないらしい。それ
以来、レイは何かあるとアスカに相談するようになった。無二の親友である。





 うとうとと舟を漕ぎ始めたレイを、シンジは布団に寝かせた。干したばかりなので、ふかふかと柔
らかい。眠りの渦に引き込まれんとするレイの眺めながら、シンジも自分の布団に入った。
 アスカもミサトもいない時、二人はこうして同じ部屋で眠る。布団の裾からレイが手を伸ばすと、
シンジはそれをそっと握った。
「……あったかい」
「アスカに見つかったら踏み潰されちゃうよ、きっとね」
 レイはぷっと吹き出した。笑顔がすぐに出てくるようになったのは、ひとえにシンジの功績と言え
る。もっともその貴重な笑顔を鑑賞できるのは、シンジを初めとしたレイの身の回りにいるごくごく
僅かな人数ではあったが。
「でも、アスカだってきっと渚君に同じことしてもらってるわ」
「アスカが?イメージ湧かないな、それ」
「二人きりの時は、色々話すもの。渚君のこととか、洞木さんのこととか……」
 レイの声が小さくなる。眠いのだろう。
「私から渚君のこと話すと、少しふて腐れるの。特にアスカが知らないようなこと話すと」
「……きっと、綾波はアスカが僕のこと話すとふて腐れるんだろうね」
「……少し」
「なんか嬉しいな、それって。嫉妬とかされると、この人は僕のこと好きなんだな、って思うよ」
「……碇くんは、渚君が私のこと喋ったらふて腐れてくれる?」
「まあ、喋らないと思うけどね。けどまあそうかな。あんまり僕の知らない綾波のこと喋られたら、
気分よくはないね」
「……嬉しい」
 また笑う。本当によく笑うようになったと、シンジは思った。この笑顔を教えたのは自分だという
自負も多少はあったが、それでもきっと、自然に笑顔が出るようになったのはアスカやミサトや、大
勢によるところもあるのだろう。
 この笑顔を自分は護る。そう決めた。その決意は揺るいだことはないし、これからもないだろう。
 天井から垂れた紐を引くと、部屋の中が暗くなった。レイの手を握り直そうとすると、その手は不
意に強く引かる。手のそれとは違う温かい感触が手の甲を走る。すぐにそれが、レイの吐息だと気が
ついた。
「今日は、こうしていて」
 首筋の辺りにシンジの手をかき抱きながら、レイは呟くように言った。シンジは暗闇の中にっこり
と微笑む。
「物足りないよ、こんなんじゃ」
 シンジが虚を衝いてその細い身体を胸元に抱き寄せると、レイの身体はびくりとわなないた。
「あっ……」
「この方があったかいよ。違う?」
「違わない、けど……」
 耳まで紅くなっていることが、暗闇でもはっきりと分かる。少し前までの凛とした彼女も好きだが、
今のレイが、シンジは好きだ。愛しいと思う。
「朝まで、このまま?」
「嫌?」
「ううん。嬉しい……」

 きっと明日はアスカの罵倒で起こされるのだろう。ミサトにはからかわれ、言い訳をするシンジの
側で、レイはきっとほんのり頬を染めるのだ。そんな当たり前の、しかしありふれていない日々を、
自分は護りたい。
「おやすみ、綾波……」

 辛いことばかりだった彼女を、精一杯幸せにするために――


Fin…
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