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[583] サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月
日時: 2010/11/02 04:40
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・息も絶え絶え
・こんにちは、使徒です。いつもお世話になってます。
・雨を見たかい

です。
八月〜十月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

お題の困難さに拍車がかかってますが、頑張ってください。私も頑張ります。
では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十一月 ( No.5 )
日時: 2010/11/08 17:54
名前: のの

 手で打った感触。

 手に触れた感触。

 その残滓。



【Have you ever seen the rain?】(裏)



 涙を溜めながら歩く小さな女の子を見た日の夕方、わたしは偽りの黄昏時に包まれたジオフロントを歩
きながら、その女の子のことを思い出していた。必死に表情を保ち、まるでまばたきをしたら死んでしま
うかのように必死で目を開き続けていたその子は、どうして涙を流すのをこらえていたのだろう。

 戦闘の爪痕が嫌と言うほど残るジオフロントには死の匂いがする。それを感じるのはなにもわたしだけ
ではなく、前はよく見かけた、休憩する職員の姿や、時間をかけても庭園を回ってからリニアへ向かう人
を見なくなった。倒れた石造やひび割れた石畳を好んで見たがる人はいない、と副指令が司令室からジオ
フロントを見下ろしながら言っていたことを思い出す。

 偽りの調和を望む人には耐えられない光景。死の臭い。

 わたしにとってはわたしの戦いの、弐号機パイロットの戦いの傷跡そのものになる。だからそれ自体は
何も珍しくないので、わたしはいつものように噴水のある庭園に行っている。さっきも行ってきた。

 ネルフの人たちは戦いに対して淡白と言えるほど自然に受け入れていると思っていた。

 それは間違いだった。この人気のなさが物語っている。唯一生命力を感じさせる家庭菜園を守ろうとす
る二人の人間を思うと、なんとなく、気分が落ち着いた。生命に対して向き合っていると感じたからかも
しれない。

 さっき別れたばかりの碇くんは、入院中なのにそれを気にして外に出てきていた。わたしはその時のこ
とと小さな女の子のことを思い出しながら、リニアに乗って地上へと上る。


『土で汚してはいけないわ』
 わたしはサンダルで畑に上がろうとする彼を見つけて声をかけた。あのとき、どうしてわたしの声はあ
んなに高かったか、あんまりよくわからない。何故だか妙に声が高かった気がする。
『別にいいんだ、そんなこと』
 彼は、とても珍しく、きっぱりと言い切って、本当に畑に入って、落ちていた如雨露を使って水やりを
始めた。
『尊敬する人からお願いされたんだ』
 ていねいなのか雑なのか、容量悪そうに水やりを終えた彼は、土で黒くなった足を水飲み場で洗って、
濡れた足を投げ出してベンチに腰掛けた。わたしは黙って、噴水の水に手をつけた。水はぬるく、体温よ
りは低く、わたしの手にまとわりつく。冷静になれば奇妙に感じるその感触。この手を熱くさせたのは、
この手が温かいと感じ取ったのは、碇くんに触れたからだった。叩いたからだった。
『ごめんなさい』
『え、なにが?』
 顔だけ彼に向けたわたしに、彼は水をまく前の土の色をした顔を向けた。自分が何について謝罪したの
か、わたし自身が言葉に出来なかったので、それからわずかな間、心地の良くない沈黙が生まれた。何分
間にも感じた。
 碇くんが握ってくれた手だった。
碇くんを叩いた手でもあった。
それを思い出してしまった。カメラのフラッシュのように一瞬思い出し、怒りに身を任せた自分を思い
出し、顔が熱くなった。言葉にするには思い出した時間は短かった。ほんとうに、ほんの一瞬で頭の奥
に押し込めてしまったから。
『綾波が謝るようなこと、何もないよ』
 碇くんはいつも以上にくたびれた表情で微笑んだ。こんなわたしなんかに。
『じゃあ、僕、戻らなくちゃいけないから』
 わたしは彼と同時に立ち上がって、病院の入り口まで勝手についていった。彼は何も言わず、わたしの
右手と触れそうになるほど近づいた方の手の指を、所在なさそうに折り曲げては伸ばしていた。握られる
事も開かれることもない彼の手と近づいていたわたしの手は、距離を少しでも離さないよう、ほとんど前
後に揺れることなく垂れ下がったままだった。


 ――明日は、碇くんに会えない?
自分の予定を思い出しながら改札を出ると、湿気を多く含んだ空気を感じた。床が滑りやすくなってい
るので、少し気をつけながら階段を上がる。階段の下からわずかに見えた空は灰色ではなかった。雨音も
ないので安心して地上へ出ると、相変わらず静かな、とても静かな再開発地区の十字路に出た。見渡して
も誰もいなかった。会社もほとんどない中止された再開発地区なので当たり前のこと。歩き出すと同時に、
ネルフと繋がるリニアの階段を振り返った。通りの奥に広がる空は晴れていると思っていたのに、実際に
は濃い灰色混じりで、虹がかかってもいない。それどころか、やんだはずの雨粒が落ちてきた。

 わたしは構わず、いつも通りの速さで歩いた。雨の擬音があんな表現をすることにとても納得させられ
る音が水溜りから聞こえる。
ぽつん。
ぽつり、ぽつり、ぽつりと。
ぽつん。
その空の下を歩いて帰るわたしを誰ひとりとして知らない。それならせめて、わたしが家路の途中で雨
に降られていることを碇くんに知って欲しかったけれど、そんな贅沢は考えてはいけないような気がした
ので、軽く頭を振って、少し早足で帰る事にした。
メンテ

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