Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.52 ) |
- 日時: 2014/07/07 12:28
- 名前: 何処 ID:-fJVMDMZcc0
- 「…何故なの…」
碇司令の後ろを只ぼんやりと附いて歩いていた筈の私は現状を未だ把握出来ずにいた。
【−月光Z−】
「親父、醤油豚骨ネギ抜きとニンニク豚骨チャーシュー抜き、それと…赤木君は何にする?」
「あ、味噌野菜で」
「味噌野菜一つだ。」
「あいよ。お姉さん七味は要るかい?あ、嬢ちゃん紅生姜と高菜は自由にそっから取っとくれ。」
「はい。」 「あ、はい、七味下さい。」
…改めて現状を説明しよう。 有り体に言って薄汚い屋台の長椅子に私達三人は並んで座っている。
現実に圧倒され何も考えられず只司令の後を附いていた私は司令が地上への直通高速エレベーターに乗り込んだ時にも何の疑問も抱いていなかった。
…おかしいと疑念の一つすら抱けなかったのだ。
気が付けばもう暗い街角で街灯に照された屋台の前に私達は立っていた。
流石に異常な状況に気付いた私の口から思わず零れた台詞は端的だった。
「…どういう事なの…」
少し考えれば判る事だ、本来ネルフ総司令の立場上例え極秘でも地上に出るなら必ずSPの2〜3人は附けなければならない筈であろう。 これは保安規則に違反した行動だ、司令は規則を破る事などしないと言う私の認識は間違いだったのだろうか?。 否、そんな事より他に…
…有り過ぎてどれから考えれば…
湧き上がる色々な疑念や何やかやを混乱した私の頭脳は処理出来ない。 思考を纏める事も出来ず、只混迷の底に居た私はその場の雰囲気に呑まれ周りに釣られてつい注文をしたものの、今私に食欲は無い。
こんな事は大学の実習以来だ。
…否、献体解剖実習の方が未だマシだった…
ふと目の前になみなみと水を湛え汗をかいたタンブラーが差し出される。
差し出されたタンブラーを掴んでいたのは包帯に覆われた白い…
慌てて横を向く。
そこには慣れた様子でピッチャーから皆のお冷やをタンブラーに注ぎ各々の前へ並べているレイの姿。
猛烈な違和感に襲われる。 これではさっきまでの光景が…
…嘘な訳は無い。
現に差し出されたタンブラーを握る手に巻かれた包帯はいかにも素人の巻いた乱れ様で
…それともあれは幻覚で私は質の悪い悪夢を見ていたのだろうか?
私の思考は現状を理解する努力だけで既に許容範囲を超えかけていた。
改めて隣の司令とその隣の少女を眺める。
…この男は一体何を考えているのだろう。
悪辣な程に非情な人間である事に間違いは無い。 何しろ幾ら対使徒戦の為とは言え、人間を量産するなどと倫理の欠片も無い、正しく神をも畏れぬ行為を平然と行い、それを人に伝えながら微塵も臆せず恥ずる事すら無い様子が全てを物語っている。
挙げ句その量産した人間を文字通り道具に使い、人体実験の贄に…リリス細胞に故意に汚染させるなど贄以外何だと言うのか?…使用した挙げ句、最後の手段とは言え何時でも処分出来る様に爆弾…それもN2どころかわざわざ水素熱核反応弾…を仕掛けておくなど…
…この男なら意外でも何でも無いか。
合理性の極みなこの男ならどんな人間であれ不要となれば簡単に切り捨てる。 私とて例外ではあるまい。 現に男は自分の息子ですらエヴァに乗らぬなら不要と言い切ったではないか。 あの強烈な台詞は未だはっきりと覚えている。
“乗らないなら帰れ”
これを非情と言わずに何と呼ぶ?
…その男がSPも附けず薄汚れた屋台でエヴァの実験体とマギの為の道具を引き連れて食事を…食事?ここで?
改めて辺りを見回し、理解し難い現実を漸く把握した私の脳裏には疑問符しか出てこない。
何で屋台?何でラーメン?しかも何でよりによって屋台な訳?
一体何の冗談だろう?
他に幾らでも考えなければならない事もあるだろうに、そんな的外れな思索に耽るしか無い私の嗅覚に不意に濃厚な豚骨とニンニクの薫りが無思慮に浸入してきた。
不意に誰かのお腹が鳴る。
「おや嬢ちゃん、そんなに腹空いてるのかい?」
「はい。」
…一寸待って。
…誰のお腹が鳴ったんですって?
「そうかい。じゃあ特別にモヤシとメンマサービスだ。」
「…有難うございます…」
「良かったな、レイ。」
「はい。」
「…へいお待ち、ニンニク豚骨チャーシュー抜きと醤油豚骨ネギ抜きね。」
2人のやり取りを聞いている内に、何だか全てが馬鹿らしくなってきた私の前に湯気を立てて味噌野菜ラーメンが現れた。
「…はいお待たせ、こっちのお姉さんは味噌野菜だね。」
「あ、どうも。」
受け取った丼から湯気と共に立ち上る味噌の薫りと炒めた野菜の彩りに、私は自分が空腹な事を認めざるを得なかった。
「では、頂こう。」 「頂きます。」 「…頂きます。」
一切が煩わしく面倒になり、私は思考を放棄し生存本能の発露たる食欲に身を任せる事にした。
…悔しい事に、味噌野菜は美味しかった。何が悔しいのかは分からないが。
食事を終え、屋台を出た所でレイが小さくゲップをしたので慌てて私は手持ちの口腔消臭剤を渡す。
「レイ、ニンニク臭い息はエチケット違反よ。」
「?ニンニクは臭いのですか?」
「他人の口臭は特にね、親しき仲にも礼儀は必要よ、迷惑になる可能性は減らすに越した事は無いから。」
「…司令、私の口臭は迷惑でしたか?」
「プライベートなら問題無い。他者との関わりが有る時は気を付けろ。」
「…了解…」
2人のどこかおかしいやり取りに何とも言えない気持ちになり、ふと見上げた空では煌々と輝く月が口を開けて私を笑っていた。
―――
その夜、私は悪夢を見た。
あの屋台で前掛け姿の司令と学生服に前掛け姿のレイがラーメンを出していて、何故かOLの私とミサトが酔っぱらいながら素面の後輩OLマヤを引き摺りそこに入りビールと餃子を頼み… 散々飲み食いしながら上司の愚痴が始まり… …挙げ句財布を忘れたミサトと酔い潰れたマヤの為にリョウちゃんを携帯で呼び出そうとした所で私は目覚めた。
携帯の呼び出し音が目覚ましのアラームだったのだ。
…最悪な目覚め。
しかし凄い現実味の有る夢だった…余りのリアルさに暫くは自分がOLだと言う意識が抜けなかった程だ。 朝の珈琲を入れ、今日の予定を確認して漸くあれが夢だったと気付いた時の屈辱感と言ったらもう。
お陰でその日1日私の機嫌は最悪で、絡んで来たミサトに相当冷たく当たったのは単なる憂さ晴らしだった事は当面内緒にしておく。
【FLARE】 http://www.youtube.com/watch?v=-fJVMDMZcc0&sns=em
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