Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.6 ) |
- 日時: 2010/09/17 14:07
- 名前: のの
- 悪ふざけ!悪ふざけ!悪ふざけ!
叫ぼうか!叫んだら!叫ぶとき!
そうそうそうだ、和を以って、尊しと成す!
Day Tripper!!
出張版第3話
「Higher!!」
スティックの砂糖を入れてかき混ぜた紅茶にポーションミルクを垂らした時のように教室に同級生たち の声が渦巻いていた。6限目の授業が終わってから先生が来るまでの数分間。必殺のビームを撃たずに決 着をつけようとする変身ヒーローを彷彿とさせるぜ、と相田君が呟いた。わたしにはよく分からない。
「どういう意味?」 わたしが訊ねると、相田君は肩を竦めて「綾波にはわかんないよ」と、確信に満ちた諦観を吐き出した。 そういうものかしら、とわたしはなんとなく腑に落ちて、対角線上の、騒々しい教室の中でも一際騒々し いはずの塊が、今日に限っては静寂を保っている様子を窺った。この騒々しい声も、スラップスティック がお似合いの集団の異変をかき消さんとするためのように見えなくもない。わたしは日誌を書き終えてそ の塊に足を運んだ。
「では昨日、調子こいた私渚カヲルの『スベ・テ・セミーマル』がもたらした災禍を償うべく、これより 反転の儀を執り行います。皆さん、くれぐれも本日家賃を振り込むために早退するという偉業を成した霧 島様には「渚カヲルは自腹で買ってきた」と吹聴していただき、私の庶民性と気配りを流布していただけ ればと思います」
最終的には顰蹙を買う言い回しにも、皆黙って見守っている。さっき言ったようにマナは早退している し、アスカは体育で跳び箱を飛んだ際に足を挫いて病院に寄っている。クラスの女王様と騎士がいないと あれば、昨日の不思議は素直にもう一度見てみたいものよ、という好奇心を優先させた山岸さんの提案に より、不肖の義兄の愚兄が、表情に一切の波風を立てずに百人一首(だった一人一首×100)を両手に 包み込んだ。
「ハァー、フゥー、ハァー……」
「なんや、エロ本記事にある呼吸みたいやなあ……」 もう一人の本能の奴隷関西人が益体もない冗談で委員長に睨まれた。無様ね、という赤木博士の言葉が 頭の中で再生された。ちらりと見ると、碇くんも同じことを考えているらしい顔をしている。わたしには わかるんです、不思議と。フフフ、ウフフフフ。
「ハイヤーーーーッ!」
閉じた眼を大げさなほどに見開いてカルタの束を握りこむ。すると百枚分の紙を握りこむ手がどんどん 縮こまり、最終的に指を組めるまでになっていった。
「「「「「おおおおおお!?」」」」」
「んんん…………ハーーーイアーーー!!!」
力いっぱい握りこんだ両手を大きく掲げ、同時に百枚のかるたが天井を舞った。騒いでいた皆も集まっ て百枚分のかるたを拾うと、芥子色の着物を着たおじいさんは一人に戻り、確かに色とりどりのかるたに戻っていた。
「ふはは、見たかい僕の奇術を!これが秘奥義『デウス・エクス・マキナ』さ!!」 「今度はかっこいい名前なんだな、名前は……おーすげ、ほんとに戻ってるんじゃね?」 実はわたしたちの中で最も冷静な相田君がカメラをぶらさないよう気をつけながらファインダーから視 線を外して覗き込んだ。
「でも、元に戻りきらないのもあったりして」 碇くんは拾い上げながら、首をかしげて笑っている。それとなくこっそり優しくないご意見に、愚兄は 露骨に肩を落とした。 「そんなはずないよ、完璧さ。シンジ君、君は僕を信じてくれないのかい?」 「そ、そういうわけじゃないよ、カヲル君」 「そんなに近づかないで」 わたしは素早く彼に近づけまいと手を振る。
「碇くんの言うとおりだわ、あなたのことだから実は戻りきってないかもしれない」 「そんなはずがあるもんか。大体元に戻した事についてもっと賞賛してしかるべきじゃないのかな」 「わたしには確かめようもないわ、知らないから。だから永久に疑わしいの」 渚カヲルは大げさに顔に手を当て、困惑と悲哀を同居させたわざとらしい顔を作った。
「あの……全部合ってましたよ、綾波さん」 極細ポッキーのような声だったので聞き逃すところだったけど、うっかり耳に飛び込んできた声にびっ くりしたと同時に、大きな口をこれでもかと横に広げた渚カヲルが眼に入った。
「山岸さん、わかるの?」 碇くんの質問に遠慮しながら頷く。 「いま全部チェックしましたけど、確かにどれも戻ってました」 「この僅かな時間でこれだけの量をか。山岸、バッチリ収めさせてもらったぜ」 「いやぁ、恥ずかしいです……」 わいわいわい、と山岸さんを絶賛する風が吹いた。
「いやいやいや、世の中は厳しいね。人の上に立つ英雄は常に俗人に打ち倒されるということか」 「握りつぶされたじゃない、あなた」
「はぁ……いやあ…………風が寒いねぇ……」 吹いてもいない風を感じた彼は、そそくさと席に戻っていった。肩をすぼませすぎてお箸みたいな後ろ 姿に、誰かが呟いた。
「いや〜、平和だねえ」
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