Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.62 ) |
- 日時: 2014/08/31 11:10
- 名前: 何処 ID:BMXKjqVIeGs
- 【−都合と思惑− 外伝 】
私の名は山本ケンゾウ、故有って今は首相直属秘書官の1人として働いている。
首相秘書官になれた理由はずばり縁故だ。 私の祖父は政治家…それも与党の重鎮として君臨した大物だった…らしい。
“らしい”と言うのは私自身が祖父との血縁関係を知らなかったからに他ならない。
名も顔も知らぬ“自称”親戚達から祖父や父の事を知らされたのは両親の葬儀の時。 そしてその時知った事だが、父は祖父と絶縁していた。
父が何故自ら祖父と絶縁したのか詳しくは判らないが、当時の大まかな状況や背景は口些俄無い親類縁者と言う他人達が(恐らくかなりの)脚色と(これまた相当の)誇張混じりに説明してくれた。 聞いてもいないのに。
孤児となった孫の顔を見る事無く既に祖父は他界しており、何の気兼ねも遠慮も必要無くなったからだろう。 親戚を名乗る彼(彼女)等は今更ながらにと言いながら(どう控え目に見ても)嬉々として祖父と父の過去を語ってくれた。
非難めいた口調で祖父の元を出奔した父を批判する人も、祖父と父との確執を控え目に父を擁護しつつ(恐らくは)かなり大げさに語る人もいた。
最も、今の今まで普通のサラリーマン家庭だと思っていた私にはそんな事はまるで実感の無い…寧ろどうでも良い話だった。 と言うより事故で両親を亡くしたばかりで只途方に暮れていた私には、そんな突拍子の無い話より先ずは目先の事が重要だった。
今更死んだ両親が甦る訳も無い、残された物は少しの蓄えにローンの残る我が家。 学費の支払いに葬儀の費用、両親の墓は、税金は、保険は、今後の身の振りは…考えなければならない事は山積みだ。
だが、そんな私の心情などお構い無しに次々と現れる自称縁者の方々と弔問客の皆様方が口々に述べる上辺きりの弔辞と同情の裏に見え隠れする邪推と好奇心には正直辟易した。
既に祖父の顔色を伺う必要も無くなり、口唆俄無い連中が此幸いと明け透けな程に父と祖父の確執を図々しくも厚かましく好き勝手に(想像で補強して)咎起てるのだから辟易するのも当然だろう。
だが、肝心の私の今後については皆口を濁し、お互いを伺うだけで一向に今後の私の身の振りに関する話が出て来る様子が無い。
まあ、そうだろう。
わざわざ財産も殆ど無い遠縁の、加えて成人も間近い人間をわざわざ進んで引き取る酔狂な人間は中々居ない。 最も、祖父の遺産は既に父の相続権放棄により他の親戚達に分けられていて、遺産を巡るいざこざを避けられたのは救いだったかも知れない。
“普通の”家系ならそれで終わっただろう。
だが、私の祖父は俗に言う処の“大物政治家”だった。
つまり親類縁者の大半が政界に片足を突っ込んでいる訳だ。 加えて祖父の後継者となった父の弟…叔父は夭逝し、父の妹…叔母が婿を貰いその選挙地盤を守っていた。 そこへ不意に直系の男子が現れたのだ、皆にとってみれば私の存在自体が不発弾だっただろう。
幾ら絶縁したとは言え直系の血筋となれば未だこの国では重要だ。 私を担ぎ出せば選挙にどれ程影響が出るか…当時の私にも簡単に理解出来る話だ。 加えて父の妹に男子が恵まれなかった事も事態を更に複雑にした。
彼等の慇懃な態度と表向きの同情、その下に潜む打算と欲と妬みと蔑みを私は肌で感じていた。 私を取り巻く確執、剥き出しの欲望や蠢く野望。 私を如何に取り込むか、或いは排除するか。 私の存在は私自身が預かり知らぬ所で将棋の駒の様に政界の盤上を彼方の手、此方の指先と転がり、果てには…皆が投げ出した。
結局、私を引き取ったのは私の叔母であり、彼女は父の腹違いの姉…つまり祖父の妾腹の娘だったそうだ。
御義理程度の僅かな祖父の遺産で慎ましく暮らしていた叔母には家族がいなかった。 セカンドインパクトで亡くなった叔母の家族、その仏壇に祀られた位牌の隣には、優しげな男と確かに私との血縁を感じさせる面影の子供が写真立ての中で笑っていた。
叔母との生活が始まり、口嗟俄無い親類縁者も数年経たぬ内に皆足を遠ざけ、二人の静かでささやかな暮らしは大学卒業後も続いた。 地方の小さな出版社に就職して数年、叔母との穏やかな生活は突然終わりを告げる。 難病に倒れた叔母、その見舞いに来たのは次期首相と目される人物で。 私は叔母の治療費に頭を悩ませる必要が無くなった…有り体に言えば、私は政界に拾われたのだ。
サラリーマンから政治家秘書に転身して1年後、叔母は治療の甲斐無く呆気ない程簡単に亡くなった。
叔母の葬儀から数年、未だ政界には慣れない。 この世界独自の常識に疎い私は未だ諸先輩方に顎で使わ…鍛えられている。
だが、今回は参った。
私は不意に首相(そう、次期首相候補は見事首相となり、今や二期目なのだ。)から出された“宿題”に直面したのだ。 さて困った。これは体の良い“選別”だ、ここで点数を稼がねばいい加減秘書官を馘になりかねない。 だが教科書通りの回答では“その程度”に見られる、迂闊には答えられぬ。
そもそもこの“宿題”の意図するものは一体…
散々悩んだ末、私はある男に電話を掛けた。
彼とは高校からの友人だったが、両親の件以来一時疎遠になっていた。 しかし人の運命とは判らないものだ。 そう、あれは私が秘書官に採用されたばかりの頃の事。 風の噂に防大に進み念願のパイロットになったと聞いていた彼と久々に再会した場所は何故か官邸で、その時彼の身分は内閣府公安調査官、そこで私と彼は政界を揺るがしかねない大事件に…
…まあその時の騒動は又別の機会に語るとしよう。
その騒動以来、私と彼は不定期に連絡を取り合う程度に友人付き合いを再開していた。
“そうだ、今はネルフに出向している彼ならば…”
善は急げ、私は彼に連絡を取るべく卓上の電話に手を伸ばした。
―――
「?ちょい待て、何でこれが囮なんだ?どうしてこいつの失敗が上陸地点や時期と繋がる?」
私の疑問に受話器の向こう側から嘆息が答えた。
『あ〜…そこから説明しないと駄目か…口頭だと説明が少し長くなるぞ、時間は大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ。」
『よし、んじゃま説明するか。
元を糺せば連合軍が緒戦で敗北し大陸に反攻の足掛かりを無くした事が原因だ。 連合軍は大陸からの退却時、苦労の末殆どの人員を無事脱出させたが装備の大半は放棄せざるを得なかった。 その影響は甚大でな、一時は深刻な兵器不足から骨董品級の旧式兵器を引っ張り出して第一線に配備しなければならない程だったんだ。』
「成る程、読めた。 その流れで手当たり次第物になりそうな兵器計画に飛び付いた結果が…」
『そう、その一つが“パンジャンドラム”さ。』
「そこまでは解った。だが…」
『これから説明するよ。連合軍が大陸から撤退した先は複数の国から成り立つ王国だったってのは判るな?』
「ああ、それは知ってる。」
『IRAの独立運動も知ってるよな?』
「IRA?IRA、IRA…ああ、思い出した。そう言えば最近は下火らしいが一部は未だ活動していたな。」
『報道されないだけで合法活動は活発だよ。 で、その連中は大戦前から独立を目指し活動していた。 彼等にとって王室は敵だ。そして敵対存在の敵とは言わば仲間。つまり…』
「ちょ、一寸待て。じゃあ何か?撤退した先にも潜在的に敵の仲間が居たって事か?」
『そうだ。現に戦況が悪化していた時その地域では諜報員を乗せた敵潜水艦の寄港を黙認し補給までしていた…連合国が負けた時の保険だったんだろう。 戦況が連合国側有利になると潜敵水艦を追い払っているからな。』
「…成る程…」
『て訳で、常に身内を気にしなければならなかった王国はその身内を利用しようとしたんだ。』
「利用?」
『スパイに偽の情報を掴ませようとしたのさ。幾つか例を挙げてみるか?
偽の情報を国内に発信し、さも重要な機密だったかの様にその情報を慌てて打ち消す真似をしたり、
偽物の作戦計画書を死体に持たせてわざと中立国の海岸へ漂着させたり、
相手の暗号を解読している事を気付かせないため町一つ見殺しにしたり。』
「酷いな…戦争中とは言え、そこまで…」
『勘違いしているようだから教えておくぞ、戦争中“だから”その程度なんだ。平時ならもっと凄い。 諜報の世界に平時も戦時も敵味方も無い、寧ろ戦時国際法と言う厳格なルールに縛られない平時こそが諜報活動の本番だからな。 何か騒動が起きれば奴等はたちまち現れあちこち嗅ぎ廻り、跡も残さずこっそり悪戯をして廻る。 事故に大規模災害、反戦運動に極右活動、音楽活動や演劇、それが凡そ無関係な事案でも一切関係無く調査対象さ。 どれもこれも大衆煽動や組織中核への潜入工作…諜報活動には最適だからな。』
「そ、想像以上だなおい。」
『工作対象は数え上げれば切りが無い、マスコミ、組合、環境保護や教育、宗教等の各種団体、法人や一般企業と多岐に渡る。 個人も対象さ、軍人官僚政治家科学者技術者、役立つとなれば芸能人から一般人まで老若男女例外は無い。』
「…解った、もう例は良いよ。しかしまぁ…知られぬから諜報活動なんだよな、一般人が知る訳がない…」
『その通り…と言いたいが場合によってはわざと大っぴらな諜報活動を行う時もあるぞ? 連中の工作活動には際限無いからな、場合によっては騒動の火種に油をくれたり火種そのものをでっち上げたり…っと、話が逸れたな、元に戻そう。』
「ああ、宜しく頼む。」
『何処まで話したか…そう、偽の情報だ。 つまり、秘密兵器パンジャンドラムは開発に失敗したが、その失敗を利用された訳だ。 そして故意にリークされたこの開発計画は幾つもの役割を果たしていた。
第一に敵と味方に膠着した戦線を突破する為の切り札の存在を匂わせ、敵の注意を引き付けなら味方の士気を高揚させた事。
第二に公開試験で失敗した事で敵に開発の成功まで反攻作戦実施は無い…つまり間近な上陸作戦は無いと思わせた事。
そして第三に、その秘密兵器を使用しなければならない程防備の固い場所へ更に敵の警戒心を引き付け、真の上陸地点付近を手薄にさせた事。
どうだ?こいつが上陸予定場所隠匿に使われたと言う意味が解ったか?』
「…はぁ…しかしこれは又…もう嘆息しか出ないよ…成る程、そうか… いや、それにしても急な話にわざわざ答えてくれて有難う、助かった。この礼は近い内に。」
『期待してるよ。じゃあな。』
電話を切り、私は今の会話の内容を脳内で反芻する
「…囮…か…」
首相はJAを推してはいなかった そしてJA計画への私の失言には触れずパンジャドラムの話を振った
彼はパンジャドラムを囮と言った 最初から囮の訳では無く、失敗作故に囮に使われたとも言った
…開発失敗した新兵器か…
その時思考を或る連想が過り、何気無くその連想を口に出した瞬間、私はその意味に驚愕し…恐怖した
「JAも…失敗作?」
一寸待て。先走るな落ち着け、発想が飛躍し過ぎだよく考えろ、成算があるから公か…
…その公開試験でパンジャドラムは失敗した…
「とすれば…JAは失敗が確定している?では何故、何の為に?」
脳裏を疑問が渦巻く
営利企業が何故失敗する事業へ投資するのか
失敗を知りながら何故国防省は計画を推進するのか
そして、何故首相はJAの失敗を予期しているのか
受話器に手を掛けたまま思案する私の前には一卓のスケジュールがびっしりと書き込まれたホワイトボード だがその水性マーカーで書かれた記号の羅列は眼に映らない
今、私の目前には社会の影、裏世界の暗部、そしてそれらすら呑み込む政界の闇が広がっていた
《パラジクロロベンゼン》 http://www.youtube.com/watch?v=BMXKjqVIeGs&sns=em
「♪」
「あら貴方、ゴルフですの?」
「ああ、来週だ。コースに出るのは久しぶりだな。」
「あら?先週…」
「練習場だよ練習場、君こそ…」
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