Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.67 ) |
- 日時: 2015/06/22 22:49
- 名前: 何処 ID:7ZXI7EqjrAw
何時もの天井
何時もの音
瞼を開いた時、私を迎える2つのモノ。それが今は少し違う。
天井も、音も、違う
ふと、当然の事を理解する
そう、ここは病院
今、私は入院していた。
【都合と思惑Y】 【FACE】 http://www.youtube.com/watch?v=aCnoiUlgc1c
私は火傷治療の為に入院している。
息を吸い込む 喉に感じる違和感、胸の奥、肺からの微かな痛み。
目を閉じてゆっくりと息を吐き、再び目を開ける。
日常とは違う、だけど見慣れた景色
ここは、病室。
普段と違うこの天井とこの音が、個室病床で横たわる私の把握出来る世界。 ふと、火傷した時の状況を思い返す。
あの時…
仮設したLCL冷却機能を遥かに超えてエントリープラグに流入した膨大な熱量は、プラグスーツの金属部分から自動体温保護調節機構を破壊しながら逆流。 その熱は逆流経路…プラグスーツ内の冷却配管や各種センサー、電気配線…沿いに私の肉体、主に気道粘膜や表皮細胞にダメージを与えた。
その代償に任務は果たし、作戦は無事遂行され成功した。 結果、私は生存し、回収された。
火傷自体は軽微だが、面積が広く且つ多位に渡り点在する為、治療促進と感染症防止の観点から私は入院する事となり、点滴による抗生物質と麻酔の投与が先週まで行われていた。
現状を確認し、瞼を閉じる。 それが私に求められている行動。 私は傷を治さなければならない。
その為の、最善の行動。
それが、睡眠と休息。
それは、大切な治療行為。
眠り、休息し、時間の経過を待つだけの治療行為。
治療…そう、治療
これは新陳代謝…体細胞の再生、自然置換による治癒を待つだけの療養と呼ばれる治療行為、『待つ』と呼ばれる行為。 『待つ』為に造られた私に相応しい行為なのだろう
私は待ち続けている 『生産』された『目的』を果たすまで 終わりの始まりまで 『無』に還る刻まで 私は待っている 私は待つ 私は… そう…
…ふと感じる肉体の違和感に、再び目を開ける。
身動ぎ…動きにくい状態の肉体を、ゆっくりと僅かに動かし体位を変える。
動きにくい理由は2つ
鎮痛剤を処方されていても、慎重に動かないと火傷跡が刺激され疼痛が起きる事
感染症を防ぐ為に薬液に浸されたガーゼが複数箇所の火傷部分…体表を覆い、更にその上から厳重に包帯で包まれていて、それが関節の自由度を妨げている事
体位を変え終わる。
慎重に動いたつもりだが、やはり身動ぎしたせいか、包帯の下でガーゼと擦れたであろう部位が疼く。
包帯と油紙に抑えられた薬品を含んだガーゼ。薬液に保護されたその下に存在しているのは、熱に破壊された細胞壁が神経を刺激し続けている皮膚。
ふと左手を見る。 包帯に包まれたその下に存在していた筈の軽度熱傷、そこからの疼痛は
…無い。
常に痛みの電気信号を発信していた部位、赤く腫れ上がった皮膚は今存在していない。
何故なら碇司令の命令で左手の火傷は修復したから。この包帯の下には既に完治した皮膚が存在している。
つまり、私の左手にこの包帯は必要無い。
なのに何故私は包帯を付けたままにしているのだろう。
記憶保存作業時の定期肉体メンテナンスでもこの程度の負傷ならば修復に充分だろう。
もっと簡単な方法もある。この肉体を破棄し、新たな肉体へ記憶を移し変えればいい。
そう、私はレギオンの一部にしてレゴの一つ、多数の私の中の一体に過ぎない。私の名は綾波レイ、エヴァンゲリオン素体にしてリリス制御の試験体、そしてエヴァンゲリオンパイロットとして生産された交換可能な存在、それが私。 予備とも言える他の肉体はある、手間を掛けこの肉体を保持する必要はあまり感じない。
何故…
…今までそんな事を考えた事は無かった。
疼きが脈打つ
そう、完治しているのは左手だけ。他の部分はケロイドにはなっていないものの、軽度…部分的には中度の…熱傷を負ったまま。
しかし、私は司令の命令がなければ自己再生を行う事が出来ない。 そう、命ぜられている。
左手を眺めたまま、思いを馳せる
この程度の熱傷、回復…表皮から真皮までの再生…程度ならば、私自身の意思で代謝を加速させる事で容易く治癒出来る。代償はあるが。
私の肉体構成物質はエヴァと人間とリリスのハイブリッド、人の遺伝子を組み込んだエヴァンゲリオンの人造細胞製の肉体に遺伝子操作したリリス細胞を種痘し生産された。 使徒に等しいエヴァの再生能力を持ってすれば代謝を加速させこの肉体を補修するのは簡単だ、現在の熱傷を負った表皮や真皮を再生する程度の事は問題無く行える。
しかしその場合、補修箇所のリリス化は進行する。 ヒトの遺伝子に在るテロメア…自死因子のカウントも進むだろう。
怪我の修復や軽い火傷の回復程度ならばリリス化した部位の成長は今服用中の薬剤で充分抑えられる。 だが、欠損部位の完全再生となれば話は別だ。 遺伝子操作により劣化したとは言え、再生された部位のリリス化は進行し、それは他の肉体を侵食し始め、仮面を以てしても成長を止められないリリス本体の覚醒を呼ぶ。 リリスの目覚めは私に与えられたリリス細胞への去勢…人為的遺伝子操作など容易く無効化するだろう。 リリスの成長を完全に止めるロンギヌスの槍、それが今だ届かない現状で本来の力を取り戻したリリス細胞の侵食が進行すれば… …考えずとも答えは簡単に出る、旧東京の使途汚染被害者の結末がそれだ。私は完全にインフィニティ化し無への帰還…リリスへの融合を求めるだけの存在になると予測できる。
そして…
『コンコン』
私の思考はノックの音に中断される。
『…』
ドアに視線と意識を向ける。
医師の定時検診や看護師の見廻りには未だ時間がある。赤木博士や葛城三佐ならばノック後に入室を伝える声が聞こえる。碇司令ならそもそもノックをしない。ならば誰が
再びノックの音
『…どうぞ…』
返答をしながら、ふと疑問が浮かぶ。 私は今までにノックに返答をした事があっただろうか?
ドアが開く
何故か少し遅れて声が聞こえた
『し…失礼します…』
この声を、私は知っている。
ゆっくりと何かを警戒するように入室してきたのは、黒髪の少年。 その姿を見て私は自分の記憶に間違いは無いと確信した。
碇司令の息子、私の同級生、私と同じチルドレン、3人目のエヴァンゲリオンパイロット。
『あ…ひ、久しぶり。寝てるのかとお…あ!ご、ごめん、ひょっとして起こしちゃったかな?それともお、起きてた?』
何故彼が来たのか理由が解らない。そう言えば以前彼は学校からのプリントを持って来てくれた事が有る、何か連絡事項があるのだろうかと思考しながら、発言内容に質問があったので返答する。
『…ええ。起きていたわ。』
『そ、そうなんだ、良かった、起こしちゃったかと…ってあ、いや、その、ご、ごめん、入院してるのに良かったは無いよね、あは…。』
?彼は何を言っているのだろう?
『…』
早口気味に喋る彼の発言の意味を考えていると、彼は何故か慌てた様子で頬を紅潮させながら又早口で話し出す。
『あ!いや、違うんだ、その、決して悪気があって笑った訳じゃ無くて、で、でもお、思ってたよりげ、元気そうで良かった。』
よく意味の解らない発言に困惑しながらも、意味を理解できた言葉に返答する。
『…そう?』
『う、うん。じ、実は何度か綾波のお見舞いに来てたんだけど面会禁止だって…あ、いや、面会謝絶だったから、その…。』
聞き慣れない単語に、思わず問いを返す。
『おみまい?』
おみまいって…何?
ふと、気付いた。
碇司令以外の人に疑問の答えを求め、問い掛ける。そんな事は今までに無い。 その事実に驚くが、そんな私の思考に関係無く彼は話し続ける。
『う、うん。心配で…』
『心配?何故?』
入院してはいるが、軽傷であり回復は順調。現状でも任務復帰可能な私に心配する意味が解らない。
『あ、いや、その…ぼ、僕の為に怪我したみたいなものだし、その…あ!こ、これお見舞い!』
?任務を果たしただけなのに何を言っているのだろう?それより差し出された紙に包まれたこの籠は一体…
『これが…お見舞い?』
『え?あ、ああ、こ、これはその、前の果物屋で買ったフルーツバスケットなんだけど、あ!ご、ごめんこんなので、気に入らなかったかな?その、じ、実はさ、まさか今日面会出来るなんて思わなくてシンクロテストの後ここに来たんだけど、今日面会出来るって知らなかったからさ、慌てて急いで適当に、あ!い、いや適当ってそう言う意味じゃなくって、ま、まああちこち探してお見舞い品買ってきたんだ、で、その、急にあれだったんでお小遣いもあれだったし、て言うか良く見ないで買っちゃったんで中身は良く見てなくてさ、ひょっとして気に入らないかもしれないけど一応気持ちなんであのそのええと…あ、こ、これがパイナップル、こっちが梨とオレンジに…キウイだね、傷まないうちに早目に食べちゃったた方がいいと思うから…あ!もしかして食べちゃ駄目なのかな?アレルギーだとか考えてなかったし、その…邪魔とか嫌いとか食べたくないもの有ったらそれ捨ててくれて良いからさ、あ!ここで捨てたら怒られないかな?これどうしよ…その…ごめん、つい勢いで何も考えてなくって…!そ、そう言えば綾波好き嫌いある?もし嫌いな物有ったら言って、それ僕が持ち帰ってミサトさんと片付けるから。綾波はキウイ好き?』
早口で捲し立てる台詞の幾つかが聞き取れない。
『…良く解らない…』
『え?綾波キウイ知らない?』
漸く意味の解る台詞が聞き取れた。
『知らない』
『あ…そ、そうなんだ…』
表現し難い難い表情を浮かべ何故か言葉に詰まった様子で彼は下を向き沈黙した。
『?』
『…』
『…』
『…あ!も、もし良かったら綾波今からキウイ食べてみない?知らないものを初めて食べる訳だから不安かも知れないけど、味見しないとどんな物か解らないだろ? 気に入らなかったら次から食べなければ良いし、美味しければ又買えば良いし、その…』
『…それ、皮剥く必要有る?』
『え?あ、うん。』
『この部屋に刃物は無いわ。』
『え?あ、そ、そうか…ええと…その…じ、じゃあ、その…あ!こ、こ、これ、こ、ここに置いておくからさ、あ、後でその、だ、誰かに剥いて貰って食べてみて。その…あ!今日食事当番僕だ!急がないとタイムセールに間に合わない!そ、それじ、じゃあぼ、僕これで…あ、そうだ!その、ク、クラスの皆も心配してたからさ、た、多分後で誰かがクラス代表してお見舞いに来るかも知れないよ、うん。そ、それからええと…あ!い、いつまでも長居しちゃ悪いよね、き、傷に障るといけないし、じ、じゃあ又!』
『じゃ…又…』
慌てた様子で立ち去る彼を横目で見送った後、病室で再び一人になった私は無意識に感想と言う思考を台詞として口に出していた。
『…変な人…』
…こんな時も、笑えばいいのだろうか…
今度碇君に聞いてみよう。
ゆっくりと慎重に体位をずらす。今度は上手くいった。目を閉じて眠りに入る。
…笑顔、練習した方が良いかしら…退院したら手鏡を買おう…
意識が黒に塗り潰されるまで、私はそんな事を考え続けていた。
http://www.youtube.com/watch?v=7ZXI7EqjrAw
 |
|