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1111111ヒット記念企画
日時: 2010/05/14 20:26
名前: tamb

 というわけで、このスレは1111111ヒット記念ぷち企画ということで、1111111ヒットにか
こつけて何か適当に書いてみませんかというスレでございます。

 お題は「1111111」から連想されるものなら何でもOK。単に1でも問題なし。綾波レイが7人
行進して来るでもOK(笑)。とにかく何でもOK。

 サイズ等の制限は基本的になし。それこそ100文字でもOK。ただし読むのに五時間とかかか
るような大長編はご遠慮ください(笑)。あと連載もダメ。書き上げて一気に投下してください。
ゲンレイもダメ(笑)。18禁もアウトです。

 感想とかの反応もこのスレで。結果的に割り込みになっても気にしなくてOK。

 一見さん歓迎です。お気楽にどうぞー。もちろん常連さんも歓迎。

 これはという名作が出てきたらサルベージも考えます。異常な盛り上がりを見せたら通常企
画に変更もありえるかも!

 締め切りは、そうだな、2000000ヒットまでかな。一日平均350くらいだから……ま、そのく
らい先です(笑)。

 こんなもんかな? 何か質問とかあればこのスレでお願いします。

 というわけでよろしくお願いします。盛り上げましょう。私もこれから考えます。

 最後に、提案してくださった名も無きROM氏に感謝を。

-------------------------
締め切り修正します。2000000ヒットまでだと長すぎるんで、10周年記念企画発動までに変更です。
ま、だいぶ先ですよね(笑)。

メンテ

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Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.1 )
日時: 2010/05/14 22:41
名前: JUN

おおお。初企画です。僕にとっては。
完成したらこのスレッドに投下すればよいと。
頑張ります。或いは複数になってしまうかもしれません。
メンテ
Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.2 )
日時: 2010/05/14 23:12
名前: タピオカ

レイは畳に寝転がっていた。


「シンちゃんまだかなぁ……」










(帰って来たらすぐキスしてあげよ)

悪戯っぽい笑みを浮かべるレイ。








(私はやっぱり、シンちゃんが“一番”好きなんだ)

そしてまたニヤニヤするレイであった。



《あとがき》
どーも。タピオカです。
この度は記念企画という大層な企画に投稿させて頂き、ありがとうございました!この作品は、僕自身が雑談掲示板に記入させて頂いた、「100文字以内」と「 リナレイ」という無謀なお題を片付ける為に書きました。書いてみて初めて、“書く”という事の大変さが分かりました。変な事言ってすみませんでした。m(__)m

さて作品についてですが、やっぱり「100文字以内」が厳しく、密度の薄いほのぼの系とも呼べないような作品になってしまいました。しかも101文字だし……ww
でもまあ、これからの、作品フルコースの前菜と考えて頂ければ嬉しいです。101文字の方も“1”って事で許して下さい。(笑)

これからも宜しくお願いします。

メンテ
Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.3 )
日時: 2010/05/15 19:48
名前: JUN

Rami Written by JUN

非日常というのは往々にして突然訪れるものである。音信不通だった父からの突然の呼び出し然り、使徒襲来然り。
 しかしながら、そういう出来事の前にはシンジの身にも何かしらの予感めいたものがあった。他人との接触を避けた人生の中で、そういったことを予期する能力を無意識に身に着けていたのかもしれない。
 だが、そんなシンジも、今回の件については全く予想だにしなかった。思いがけない事態に、阿呆の如く口をぱくぱくさせるしかなかった。五分後の再起動の後、シンジの口からようやく飛び出した言葉は、
「どういう、こと……?」
 当然の帰結といえる。作者もそう言う。仕方なかろう。
「……みゃあ」
 玄関先に正座する、猫耳レイの前では。








 事態は昨日に遡る。シンジとレイは偶然帰り道で出会い、肩を並べて下校していた。そんな折、シンジは道端に小さな影を見つける。
「あ、猫だ」
 シンジは嬉しそうに言って、抱きかかえる。猫が「なー」と可愛らしく声を上げた。
 クリーム色をしたその猫は、赤い首輪をつけており、シンジの喉に小さな頭をこすりつけていた。
「かわいいね」
 そう言って細い毛に指を絡ませられる猫を、レイはどこか恨めしそうに見つめる。
「碇くん、猫、好きなの?」
「うん、犬も好きだけど、猫の方が好きだな。癒されるし。犬みたいに一緒にお風呂に入れないのが残念だけど、一緒に寝られたら気持ちいいし」
 照れくさそうに言うシンジに、レイはさらに質問を続ける。
「飼ってたの?」
「いや、そういうわけじゃないけどね。飼えたらいいなとは思うよ。けど、あのマンション、ペット禁止だし」
「そう……」
「ほら、捕まえてごめんね。元気でね!」
 シンジが捕まえた手を放すと、猫はすばやく道端の塀を飛び越え、消えていった。
「ごめんね綾波。待たせちゃ――って?」
 
レイはもう、いなかった。






 そして現在に至る。黒い猫耳、肉球のついたこれまた黒色の大きな手袋。大きな段ボールに正座し、首にはこれも段ボールで出来たカードをぶら下げている。それにはマジックで
『飼ってください。躾のよく出来た猫です。噛みません。一緒にお風呂も入れます。よろしくお願いします。どんな飼い主にもよく懐きますが、短い黒髪でS-DATを聴くようなエヴァンゲリオンパイロットに特によく懐きます』
 
他でもない、綾波レイの筆跡だった。

「どうしたの?あやな――」
 
ギロッ

氷の目線が、シンジを射抜く。こめられたメッセージは、“その名で呼ばないで”

「……ね、ネコちゃん」
「にゃあ!」
 何の冗談だ、これは。またリツコが何かしたのか。いや、多分違う。リツコなら完全にネコにするだろう。だがこのレイ――もとい猫はシンジの言葉を理解している。詰まるところ、コスプレに分類される行為である。
 固まったシンジを見て、レイは不満げに頬を膨らませ「なー!」と声を上げる。シンジは我に返った。
「あ、ああ。ごめん。で、何?これ」
 レイ――ネコちゃんは答える代わりに、カードに書かれた“飼ってください”の文字を指でなぞった。
 
 ――何か言っても無駄なんだろうな、多分……

 シンジは重いため息を吐き、無理に笑顔を作った。
「じゃ、じゃあおいで。ネコちゃん」
 ネコちゃんはにこっと笑って立ち上がり、シンジの手を取った。
 
 ――二足歩行しちゃってるし……

 律儀に心の中で突っ込みを入れる。が、口には出さない。賢明な判断だ。





 ――さて、これをどうしようか……
 
 畳の上にちょこんと正座したネコちゃん――以下レイ――を見下ろしながら、シンジは悩んだ。アスカの帰りがこれほど待ち遠しかったのは初めてかもしれない。
 そもそも何をしに来たのかが謎だ。泊まる気……なのだろう。段ボールの中には替えの制服があった。
「そ、それでネコちゃん。……名前がいるな」
 その考えに至った時、騒々しく玄関の扉が開いた。
「たっだいま〜」
「あ、アスカ。待ってたよ……」
「あん?何よシンジ。珍しい。いつもはうるさいって――え?」
「……にゃあ」
 
時が、止まった。


「こっ、これは、何の冗談なの?」
 シンジと全く同じ時間を費やした後、アスカはやっと口を開いた。
「……こっちが訊きたい」
 力のないシンジの言葉に、アスカは座ったままのレイに声をかける。
「ちょっと、レイ――」

 ぎろっ

「う……」
 
 すごい、アスカをたじろかせた。シンジは意味もなく感動する。
「あの、ネコって設定らしいんだ。だから、名前を呼ぶと怒るんだよ」
「は?設定?」
「と、とにかくそういうわけだから、名前をつけなきゃ」
「あんたばかぁ?考えるべきはそこじゃないでしょうが!」
「そ、そうなんだけど、とりあえず、ね?だって絶対帰らないよ。このあや――……ネコちゃん」
「……はあ。そうね」

 アスカも納得する。それでいいのか。
「……で、なんにしよう」
「“レイ”はだめよね。もちろん」
「“綾波”もね」
「じゃあ、Rei Ayanamiで頭文字取って、“ア○エ”なんてどう?」
「なんだか怒られそうな名前だね。アーティストに」
「じゃあ……」
 うーん、とアスカが考える人のポーズを取る。なかなか絵になっているのはアスカだからであろう。
「“ラミ”なんてどう?」
「ラミ?なんで?」
「ほら、あんたたちが仲良くなったのはあの、ほら、なんだっけ?ああ、そうそうヤシマ作戦がきっかけなんでしょ?あの時の使徒の名前は?」
「ラミエル……あっ」
「そういうこと。まあ、どうせ暫定的なものなんだし。すぐ、れ……ラミだって正気になって帰ってくわよ」
「だと、いいんだけどね……」
 シンジがそう言うとアスカは優雅に玄関へと身を翻す。
「あれ、アスカ。何かあるの?」
「ごめん、今日から暫くヒカリの家に泊まるから。よろしく〜」
「えっ!?ちょ、アスカ――」
「じゃね!」
目にも止まらぬスピードでアスカが玄関を出る。ばたん、と扉が非情な音を立てて閉まる。シンジには何故かその音が、死刑判決に聞こえた。

――逃げた

これが共に使徒と戦ったものに対する仕打ちなのか。仮にもファーストチルドレンが異常事態だというのに。シンジはがっくりと肩を落とした。これからどうしよう、そんなことを考えながら振り向くと、やはり先ほどと同じように、レイはその場にちょこんと正座していた。


【case1:碇シンジの場合】

――どうしよう……

シンジは途方に暮れた。レイの頭についた黒い猫耳、先ほどは見えなかった黒い尻尾、黒く肉球のついた手袋。猫耳は心なしかぴくぴくと揺れているように見える。どんな仕組みなのか。
 するとレイは正座したまま器用にすすすっとシンジの足元によってきて、
「……にゃあ」

 う。

 ――かわいい……

 演技なのか何なのか、その手袋で顔を洗ってみせる。小さな舌を出して肉球をなめている。

 そしてこれがまた――シンジのツボにド真ん中ストライクだったりするのだ。

 元々猫は大好きなシンジである。そして同じく――伝えてはいないが――大好きなレイが猫耳をつけているのである。可愛くない筈がない。だが――

 ――だめだだめだ

 シンジはぶんぶんと首を左右に振った。ここで甘やかしてはいけない。家に帰ってもらわなければ。シンジが覚悟を決めて声をかけようとすると――

「にゃおん……」
 
 レイは立ち上がると、こともあろうにシンジに頬擦りを始めたのである。

「あっあっあっあややややややや」

 レイの滑らかな頬がシンジの頬に寄せられる。同年代の中学生にあって然るべき、にきびが一つもない。吸い付くような、そして滑らかな感触に、シンジは一瞬陶然となる。
 それでも僅かに残った理性と自制心をかき集め、シンジは踏みとどまる。しかし、
「そ、その、家に、帰って――」
 

 じいっ

 穴を開けんばかりの勢いでレイがシンジを見つめる。先ほどの攻撃はシンジに対して抜群の効果を発揮した。シンジ内部で激しい葛藤が繰り広げられる。

 ――かわいい、飼いたい。でもここで甘やかせたら、いや、でも僕だって嫌なわけじゃ……いや、アスカもいないんだ。普通の男子中学生と女子中学生は同居すべきではないんだ。そんな関係じゃないんだ。いや、待てよ?僕はアスカとも同居してて、いや、あれは任務の延長なんだ。そもそも綾波と一緒に暮らして万が一間違いでも起こるようなことがあったら、僕は舌を噛み切ってしまうかもしれない。ここは、やっぱり――

「そ、その、やっぱり、帰って――」

 ぽろっ

 レイの眸から、大粒の涙が一粒、こぼれ落ちた。下唇をきゅっと噛み締め、肩が震えている。シンジの心はこの上なく痛んだ。ぽすん、とシンジの胸に倒れかかり、ずずっ、と鼻をすする。
 
これが演技ならオスカーものだ。シンジは思った。仮に演技だとしても、彼女の涙など見たくはない。だから――
「……じゃあ、ここに、住む?」
 レイは顔中口にして笑顔を見せ、頷いた。
「じゃ、じゃあ、君の名前は“ラミ”。いい?ラミだよ」
 レイ、もとい“ラミ”はこくりと頷いた。



 ラミ――例によって以下レイ――は満足げな表情で、シンジを見つめる。何かを待っている、彼女の表情研究家を自負しているシンジは思った。
 シンジがその意図を考えていると、レイはそっとその手をとり、自らの頭に乗せた。

 ――ああ

 シンジが優しく頭を撫でると、レイは目を細め、ごろごろと喉を鳴らした。

 たまらん。

 作者、もといシンジの素直な感想である。シンジの手がレイの頭の上を往復するたびにぴくぴくっと黒い猫耳が揺れる。心が和む。時折尻尾がひゅんっ、と揺れる。シンジが喉元に手を這わすと、猫じゃらしを得た猫のように、レイがその手にまとわりつく。シンジの頬はこの上なく緩んだ。

 ――ああ、いいな……

 かくて――

 碇シンジ、あっけなく陥落。









「たっだいまぁ。今日のご飯は何かいな〜♪」
「あ、ミサトさん、お帰りなさい。それで、あの――」
「なあに?どもっちゃって。あ、レイ、いらっしゃい。ん?何よその…ねこ…・・みみ……」
 レイの目線に射すくめられ、ミサトの声が尻切れトンボと化してゆく。シンジはまたも感動した。

 ――すごい、ミサトさんまで

 きっと怖いお嫁さんになるだろう。そして僕は尻に敷かれつつ――

「シンちゃん、あれ、何?」
 早くも妄想ファイルを展開させようとしたシンジが、ミサトの声で我に返る。
「あ、あれはですね、どうも飼い猫になろうとしてるらしくて……」
「は?」
「いや、飼えって…・・あれに」
 シンジが指差した先には、冒頭のカードがあった。ミサトは唖然とする。
「何考えてんだか……」
「それで、ですね。名前が決まりまして、その“ラミ”っていうんです」
「ラミ?ラミエルの?」
「そ、そうです。よく分かりましたね」
「なんでまた…・・」
「それでですね、アスカの部屋が空くらしいんで、そこに、とりあえず……」
 ミサトははあ、と息をつき、天を仰いだ。
「もう、いいわ……疲れた。シンちゃん。ご飯」
「分かりました」


【case2:葛城ミサトの場合】
 
シンジが夕食の準備をしていると、居間からはミサトの声が聞こえてくる。
『レ――ラミ。どうしてここに来たの?』
『……にゃお』
『それ、なんとしても譲らないつもり?』
『にゃあ!』
『……仕方ないわね。シンちゃーん』
「は、はい!」
『この子の晩御飯、鰹節だけでいいわよ〜』
「え!?」
『だって、そうでしょ?猫なんだから……な、何よラミ、その目は』
 レイの誘惑が始まる。
『も、文句あるってえの?だったらちゃんと人間らしく……え、ラミ、何すんのよ、ちょっと』
『にゃおん……』
『そ、そんな目しないでよ、ちょっと……泣かないで、ラミ。し、シンちゃん!スパゲッティ作ったげて!』
「は、はい」
『にゃあ!』
『ふう。それにしても……かわいいわね……あ、耳が生身、やわらかい……ほら、おいで』
『なー……』
『ああ、あったかい。お父さん、あたし、寂しくないよ……』

――葛城ミサト、陥落

――はあ

天賦の才かもしれない。よもやミサトを落とすとは。スパゲッティを口に運びながら、シンジは思った。アスカももう少しこの場にいれば、ああなっていたのかもしれない。

「それじゃ、洗い物します」
「ありがとうシンちゃん。それで、おビール……」
 はあ、とシンジがため息をついた。今日何度目だろうか。
「ほどほどにしてくださいよ。あや――ラミもいるんですから」
「は〜い」
 シンジが冷蔵庫から“えびちゅ”を三本取り出し、トンと居間のテーブルに置いた。

 手早く皿を洗っていく。レイが残さず食べてくれたので、シンジは何気に上機嫌だ。またミサトの声が聞こえてくる。
『かぁ〜、くうぅ……やっぱ人生、この時のために生きてるようなもんよね〜』
『……』
『ラミが後十年早く産まれてたらねえ。一緒に呑めたのに。惜しいわ〜』
『……にゃあ』
『お、ラミ、行く気?』

 ――ちょ!

 シンジが慌てて出て行くと、ニヤニヤと笑うミサトと、

――顔を赤くした、レイがいた。

「みっみっみっみっミサトさん!何呑ませてるんですか!?」
「やあねえ、ラミが勝手に呑んだのよん」
 けらけらと笑うミサト。もう酔っている。
「止めてくださいよ!大丈夫?」
「ふにゃあ……」
 立ち上がったレイがよたよたと歩みを進め、うろたえているシンジの胸元に顔を埋める。
「いかりくん……」

 ――しゃべった

「あ、綾波――」
「ちがうわ、わたしはらみ。いかりくんのねこ……・」
 レイがシンジの手を取る。
「だから、いかりくん……」
 顔を上げたレイ。赤く染まった頬に、普段にはない淫靡な魅力が垣間見え、シンジはどきりと胸を高鳴らせた。
「あたま、なでて……」
 言われるがままにシンジが小さな頭を撫でると、レイは恍惚とした表情で目を細め、シンジの背中に腕を回した。
「もっと……」
 シンジもここまで来たらヤケである。レイは酔っているのだ。いっそ自分も酒を呑んでやろうかとも思ったが、流石にそれは思いとどまった。
「きもち…いい……」
 シンジの脳は沸騰しそうになる。違う違う、そういう意味じゃないんだ。変な風に考えちゃいけない。
 





 ひたすらレイの頭を掻き撫でていると、不意に体に不自然な重みが圧し掛かる。弛緩したようにぐったりとレイの体が力を失った。
「あ、綾波?」

「すー、すー……」
 整った呼吸を立てながら、レイは眠っていた。
「……寝ちゃいましたね」
「本当、かわいいわね」
「ミサトさん、ちゃんと見といてくださいよ」
「ごめんごめん」
 シンジがクッションを枕にしてレイを寝かせると、ふう、とミサトが急に物憂げな息をついた。
「それにしても……どうしたのかしら?」
「ですよね……」
 急に押しかけてきたのである。そしてよく分からない迫力がある。頑として帰るまいという意志が見え隠れしている。
「一人が寂しい、とか……」
「だったら言うでしょう、レイのことだから。こんな回りくどいことしなくても、泊めてって言えば断りなんてしないのに」
「でも綾波は、妙に思い込むところがありますから、変な勘違いをしてるのかも」
「あり得る話ね。でも、まあ、いいじゃない。……かわいいし」
「……結局それですか」
「だってえ、かわいいじゃない。この耳。シンちゃんもそう思うでしょ?」
「ま、まあ、そうですけど……」
 改めてレイの姿を見直してみる。蒼銀の髪に黒色がよく映えている。そのコントラストが可愛らしい。スカートのウエストを押しのけて生えているこれまた黒い尻尾は、時折ひゅんひゅんと大きく揺れている。根元の方に白い布が見えた気がして、シンジは慌てて目をそらした。黒い手袋は正直扱いづらそうである。先ほどもフォークに苦戦していたから。箸系統は辛いだろう。白い肉球が見るからに柔らかそうだ。隙あらば触ってしまいそうになるほどに。
 そしてそれらの要素が、レイの整った容姿によって、正直反則な域に達している。抱き締めれば壊れてしまいそうな危うさとかわいらしさ、僅かな妖しさがせめぎあって、どうしようもなく魅力的だった。
「なあに、シンちゃんっ!見とれちゃって」
「い、いや、別にそういうわけでは……」
「いいじゃないの、素直になっちゃえば」
「ミサトさんとは違うんです!」
 顔を真っ赤にして抗議するシンジに、ミサトはくすくすと笑みをこぼした。
「ぼ、僕、お風呂入りますんで」
「は〜い」


 ――はあ……

 なんだかどっと疲れてしまった。色々な方面に気を遣う。これもまた非日常なのだろう。使徒の襲来などとは比べ物にならないほど平和な非日常ではあるが、だからといって歓迎できるものでもない。シンジが望んでいるのは日常なのだ。

 ――でも、かわいかったな……
 
 なんだかんだ言っても中学生である。猫耳は文句なしにかわいかった。頬に血が結集するのを感じる。世間の目が無ければずっとあのままの姿でいて欲しいくらいだ。そう、目の前に立っているような一糸纏わぬ姿で――……え?
「あ、はやにゃみ!?」
 呂律の回らない舌で叫ぶ。慌てて背を向けるも、瞼の裏にはしっかりその姿が焼きついていて、細部まで脳味噌に記憶されていた。心臓が爆発しそうだ、そんな例えがしっくりくるような状況に、シンジはこの上なく狼狽した。
「どっ、どうして!?」
 待ってましたと言わんばかりにレイは扉の後ろに取って返す。暫く後、シンジの目の前にレイのカードが掲げられた。

 “噛みません。一緒にお風呂も入れます。よろしくお願いします。”

「だっだからって!いいから戻って!一人でいいから」

 レイは暫し立ち尽くしていたが、渋々といった様子で扉の後ろへと消えた。

 ――素直だったな?
 
よかったと思う。流石にここは妥協できない。泊めるのとは訳が違うのだ。しかし――

「うっ、くっ、うう…ひくっ、うっうっうっ、うえぇ……ぐすっ」

 すりガラスを通してレイがうずくまっているのが見える。恐らくは一糸纏わぬ姿で。そしてそのガラスを通して聞こえるのは――――レイの、止め処ない嗚咽だった。またも葛藤が始まる。

ダメだダメだ。こればっかりは譲れない。お風呂なんて絶対だめだ。いや、嫌じゃないけどさ――いや、そんな話じゃない。大体おかしいのは綾波なんだ。お風呂なんて入ったら僕はどうにかなってしまう。でも、綾波の肌、綺麗だったな……いや、だから、ここは、断らなければならない。心を無にしろ、無に。僕には何も聞こえていない。今ここで聞こえているのは、そう、そうだ。猫の鳴き声だ……

「う、うぅ……お風呂……」
 
――猫の……

「うっ、うっ……」

 ――猫……

「…………………………うっ」

 



 ――逃げちゃダメだ

「ああ、タオルを巻いた猫とお風呂入りたいな〜」

ここで無視するのは鬼畜だと思わないか。反則だ、あれは。僕は悪くない。やましい気持ちなんてこれっぽっちもない。いや、うん……うん、ないよ。
 シンジは心の中で涙を流した。


 からり、と扉が開いた。ヤシマ作戦を思い出すような満面の笑みで、バスタオルを巻いたレイが立っていた。出来るだけその姿を直視しないように努めながら、シンジは自分の腰にもタオルを巻いた。
 
 じいっ

「……何?」
 レイはその(肉球をつけた)手にスポンジを握り締め、何かを期待するような目でじっとシンジを見ている。

 いや、まさかね。いくらなんでも、それはね。

 そんなシンジの淡い憶測を砕け散らせたのは、レイのスポンジを手渡す動作だった。

 ――背中、流して……

 結局折れてしまうのだ。情けない。シンジはレイの背中をこすりながら明日の夕食について考える。現実逃避ともいう。出来るだけ視線を上に固定し、レイの姿を見ないように努めた。時折どうしても視界に入ってしまう黒い猫耳と白いうなじにどきりとする。自分でも思いの外冷静でいられることが不思議だった。意外と僕は度胸があるのかもしれないな、そんなことを考えながら、シンジは無心にレイの背中を流した。
「出来たよ、ら、ラミ」
 シンジの油断はここにあった。失念していたのだ。レイは――

 ――羞恥心が、決定的に欠如していたということを。

 はらり、と理想的な構図で、レイのタオルが地に落ちた。

 




――ああ、きっと僕は、幸せなんだろうな……

 薄れてゆく意識の中シンジが最後に見たものは、絹のように滑らかな肌、美しい曲線を描く胸と、レイの尻尾の、根元だった。

 ――生身、か……








 そして今、またもシンジは固まっていた。どのくらい固まったかというと、液体窒素に浸かった豆腐の如く、といった具合だ。
 しかし液体窒素との相違点が一つある。それはシンジの体は冷たくなっているのではない。熱くなっているということだ。

 ――腕の中で眠る、綾波レイのせいで。

 なんだか甘い夢を見ていた。そうシンジは思った。夢の内容は明瞭ではないが、何か温かいものに包まれているような、そんな幸せな夢。
 正確には包まれているのはシンジではなく、レイであったが。

 レイの全裸に気を失って再び目覚めてみれば、今度はそのレイが腕の中ですやすや眠っているのである。苦労の多いことだ。
「……」

 当然ながら、シンジは動けない。眠ろうと努力もしてみたが無理だった。
 シンジに背を向けて眠っていたレイがころんと寝返りを打ち、シンジと向き合う。どうも着ているのはシンジのワイシャツらしい。これは誘っているのか?シンジの脳裏に邪な考えがよぎる。そして本日三度目の内部葛藤が始まった。

 据え膳……いや、そんなことを綾波は考えちゃいない。ただ単純に一緒に寝たかっただけなんだ…………それはつまり据え膳じゃないのか?いや、綾波はきっと何のことか分かってない。こうして男子中学生と一緒に寝て何をされるかなんて、綾波はきっと何も知らないんだ。そんなところがまた保護欲を刺激して……結局僕はこんな幸せな状況にいながら我慢しなきゃいけないんだ。ああ、でも綾波、細くて柔らかいな……きっと僕のお腹に当たってる二つの柔らかいモノは、さっきの……ああ、だめだ。意識しちゃだめだ意識しちゃだめだ意識しちゃだめだ……

 いつしかシンジは念仏のように同じ言葉を脳内で唱え始めた。軽く上を向く、ぷっくりとした桜色の薄い唇から目が離せなくなる。蒼銀の髪にはまだ少し水分が残っている。こめかみに張り付いた髪がなんとも艶めかしい。華奢な体格のせいで失念しがちだか、レイの体は確かに女性の兆候を見せていた。

 ――綾波、綺麗だ……

 半ば無意識に、シンジの唇はレイの唇へと近づいていった。熱に浮かされたように朦朧としたシンジは、どこかで冷静な判断力を欠いていた。まさに唇が重なろうとしたその時――

「温かい……」

 吐息にも似た、レイの唇から僅かに漏れた声に、シンジははっと我に返った。

 ――僕は、なんてことをしようとしていたんだ。

 それは卑怯だ。綾波の意志を何も考えていない。ただ僕自身のエゴで動いていただけだ。綾波は僕にとって何より大事な人だ。そんな人を、僕のせいで傷つけてはいけない。こんなに細くて、壊れてしまいそうなほどに脆くて儚い存在を、僕が傷つけるなんてあってはならない。綾波は、幸せにならなくちゃいけない……


 シンジは緩くレイの背に腕を回し、後ろから頭を撫でた。猫耳がぴくぴくと揺れる。

「う、ううん……」

 そんな声を漏らすレイを見て、シンジの頬が自然と緩む。不思議とシンジも眠りの海に落ちていった。







【case3:2−Aの皆の場合】

 次の日、シンジとレイは無事中学校へとたどり着いた。起床時、驚いたシンジがベッドから落ちたことは言うまでも無いだろう。

「おはよう」
「おはよう、碇」
「おはよう、センセ。お?綾波も一緒か?珍しいのお」
「あ、うん……」


「……みゃあ」


 ――時が、止まった。慌てて宿題を済ませているものも、友人と談笑していたものも、たった今教室に入ってきた女生徒も、同時に固まった。ざわついていた教室が水を打ったように静まり返る。
 レイは何がなんだか分からないのか、きょとんとしている。つんつんとシンジをつついた。
「…………な、何?」
 レイがこてんと首を傾げる。“どうしたの?”だろう。少なくともシンジはそう解釈した。
「さ、さあ。どうしたんだろうね。あはは……」
 乾いた笑い声が虚しく教室内に木霊する。いたたまれなくなったシンジは、思わず俯いてしまう。見かねたアスカが助け舟を出した。
「れ、ラミ。皆はね、どうしてあんたが猫耳つけてるのかが気になってるのよ」
 何でこんなこと説明しなくちゃならないんだろう、小さく溜息を吐いた。
 レイは一瞬考え込むような表情になって、鞄の中から段ボール製のカードを取り出した。昨日のとは違うらしい。

『碇シンジの飼い猫、ラミ』

  

「………………………………」



ぷらぷらとカードを首にぶら下げたまま、レイはその場に佇んでいる。恐らく状況を全く理解できていない。そして何を思ったか、その場にぺたんと正座をしてネコ手を作り、



「にゃおん……」




 ――2−A、陥落




【case4:碇ゲンドウの場合】

 そして2−Aを壊滅させた後、シンジとレイはNERVに向かっていた。目的は他でもない、この猫耳の撤去である。シンジが強引に連れてきた。このままでも悪くはない。ないが、世間体なるものの問題がある。中学生が同級生に猫耳のコスプレをさせているなどという噂が立てば、シンジは表を歩けなくなってしまうだろう。
 この猫耳、やはりというかなんというかレイの頭皮から直接生えているらしい。あまりじっと調べると変な気持ちになりかねないので、観察は手早く済ませた。

「すいません、リツコさんいますか」
「ああ、ごめんねえシンちゃん。リツコ、今日は休みなのよ」
「そうですか……てゆーか!ミサトさん、昨日は何でお風呂を許可したんですか!僕がどれだけ苦労したと――」
「シンちゃん、そう言うけどね、れ、ラミのお風呂を許したのは最終的にシンちゃんよ」
「そ、そりゃそうですけど、でも、ミサトさんがちゃんとしてれば――」
「シンちゃん!」
 急に大きな声を上げるミサト、シンジは思わず背筋を伸ばした。
「は、はい」
「私だって止めたわ。普段茶化してるようだけど、私だって保護者。流石にまずいと思ったわよ。でも、シンちゃん。私が“だめよ”って言った時のラミの顔、シンちゃん見たら、泣くわよ?この世の終わりみたいな顔してるんだもの」
「う……・」
「それでもシンちゃんは私が悪いってえの?」
「………………すいません」
 なんだか上手く丸め込まれた気がしなくも無い。が、攻める気にもなれなかった。
 そんな賑やかなやり取りを繰り広げていると――

「騒がしいな」


 一瞬にして、空気が鋭さを取り戻す。今となってはエヴァがないとはいえ、それでも世界の命運を担っていた施設。その司令ともなれば、威圧感は尋常でない。
「父さん……」
 シンジもどこか落ち着かなさげだ。少し目が泳いでいる。
「シンジか、何の用だ」
「あの、リツコさんに会いに……」
「赤木博士は今日休暇をとっている。体調を崩したと聞いているが。何か用でもあるのか?あるなら私から伝えておくぞ」
 ぶっきらぼうだが、言葉の端々にはシンジに対する気遣いが見て取れる。しかし肝心のシンジに中々気づいてもらえないあたり、道程は遠そうだ。
「あの、この猫耳を……」

 それまでシンジの背中に引っ付いていたレイが、ひょこんと身を出す。

「にゃん」

 ――ザ・ワールド

「レイ、か……?」
「…………今はラミって言うんだ。それで呼ばなきゃ怒るよ。ラミ」
「んにゃ」
 ゲンドウが固まっている。そうそう見られるものではない。シンジは目を丸くした。

「……シンジ」
「な、何?」
「戻さなくていい」
「は?」
「葛城三佐。今すぐ赤木博士にコンタクトをとり、この猫耳を長持ちさせる方法を調べさせろ」
「は、はい」
「父さん、何言ってんだよ!」
「自分の欲望とはあらゆる方法を使って手に入れるものだ」
「このままじゃダメに決まってるじゃないか!」
「猫耳はロマンだ。問題ない」
「父さん、父さんが何を言ってるのか分からないよ」
「シンジ、大人になれ」
「僕には、何が大人か分からないよ。そんな大人ならなりたくない!」
「シンジ、お前には失望した」
「僕は父さんに失望したよ!」
「親に対してその口の利き方は何だ」
「これまで親らしいことしたことあるのかよ!?」
「シンジ、そう熱くならずラミを見てみろ。癒されるだろう」
「――父さん。まさかは思うけど、猫耳萌え?」
「……………………………………問題ない」
「大有りだよ!がっかりだよ!」
「何を言っている。お前だって気に入っているのだろう」
「そ、そりゃ、少しは……」
「ならば問題ない。それに、ラミ」
「にゃん」
「お前は、そのままで問題ないのか?」
「にゃ」
「ふ、ラミもこう言っているではないか」
「父さん……」




 ――碇ゲンドウ、歴代の中で最もあっさり、陥落

【case5:NERVオペレーターズの場合】

――割愛


 








ゲンドウの意外な一面を垣間見てしまったシンジは、失意のままにNERVを出た。正直、心が折れる寸前だ。ちょこんと袖を摘んで後をついてくるレイがいなかったら、とっくに膝を折っているかもしれない。自分も将来ああなる可能性があるのか。そうは思いたくなかったが、昔のゲンドウを知る人間――冬月コウゾウや赤木リツコ――はシンジに対してしばしば“似ている”という評価を与えてくることがある。それが一層シンジの気を重くしていた。





 ベッドに倒れこむ。さも当然のようにその腕の中にレイが収まった。細かく揺れる猫耳がシンジの首筋をくすぐる。不思議なことに動揺はなかった。沈んでいた心がゆっくりと引き上げられるのを感じる。そしてレイの髪から感じる微かな匂い。それが不思議とシンジを和ませた。
「ラミ……」
「にゃぁ……」
 レイの声が小さくなっていく。彼女も眠いのだろう、きっと。
 不思議に冷静な自分に気づいて、ふっと笑みをこぼす。なんだかんだで適応力が強いのかもしれない。それに、きっと僕だけだよな。綾波にこんなことさせてもらえるのは。
 彼女の意図がどこにあるのかは分からなかった。けれど確かなことは、レイは自分に心を許してくれている。それだけは自信を持って言えた。
 段々と柔らかくなっていくレイの体を感じながら、シンジは腕に力を籠めた。この位は許されていいと思う。自惚れではない筈だ。





 









そうしてシンジも段々うとうとしてきた頃、

「……ごめんなさい、碇くん」

「――え?」

 唐突に、本当に唐突に、レイが口を開いた。シンジが慌てて腕に籠めた力を緩めようとする。しかし腕に不思議な引力を感じる。そちらに目を向けると、レイがそこに手を絡ませていた。
「綾波……」
 不思議と“ラミ”と呼ぶことは全く考えなかった。レイも気がついているのかいないのか、何も言わなかった。
「迷惑、かけた」
 あるいは疑問系だったのかもしれない。しかしそのレイの声は抑揚に乏しく、判断する術はなかった。
「迷惑?」
「急に、おしかけたりして」
「……気にしなくていいよ。でも、気になることがある」
 シンジはそこで言葉を切った。無言のレイの背中が、いつもにも増して弱々しく見えてしまう。
「どうして、急に来たの?」
 純粋な疑問だった。何故急に、というのがシンジの中での一番の謎だったから。
「……分からない」
「分からない?」
「すぐ、帰るつもりだった。一晩ここで過ごしたら、すぐに帰るつもりだった。碇くんが猫を好きってことを知って、喜んでもらえると思ったから。碇くんの喜ぶ顔が見たかったから」
 それなら成功しているといえる。シンジは人知れず苦笑した。
「でも――」
 レイが口をつぐんだ。喉の奥に何かが詰まったかのような沈黙だった。

「碇くんと一緒に寝て、離れたくなくなった。ずっとここに居たくなった。碇くんの腕が、とても、とても、怖いくらいに、暖かくて……」
 レイの声は震えていた。シンジは無意識のうちに、緩めかけていた腕に力を籠めた。
「独りの部屋に、帰りたくなかった。ずっとずっと、碇くんの腕の中に居たかった。だったら、ずっとこのままでいい。碇くんの猫でいれば、碇くんは一緒に寝てくれる。頭を、撫でてくれる。それが、すごく幸せだった。碇くんの温もりを、誰にも渡したくない。碇くんの腕の中にいていいのは、碇くんが抱き締めるのは、私だけでいい。だから――」
「綾波……」
「碇くん。私を、碇くんのものにして欲しい。碇くんだけものにして欲しい。お願い、碇くん、お願いだから、私のこと、好きにしていいから、私はもう、独りきりのあの部屋に戻りたくない――」
 レイがシンジの方へと向き直る。眸には一杯の輝く涙を湛えていた。

 シンジは内心、心が痛んでいた。思えばレイの部屋のことなど、今まで気遣っていなかった。レイのことを想うなら、シンジが自分から隣の部屋にでも誘うべきだったのだ。自分を恥じた。
「あや、なみ……」
 かすれる声を、喉の奥から絞り出す。
「独りぼっちには、させないから。綾波に、寂しい思いなんて、させないから。僕で、僕でよければ、ずっと、ずっと側にいるから。だから……」
 シンジがレイの頭を撫でる。猫耳が小さく揺れ、レイは目を細めた。
「でも、僕で、僕なんかで……いいの?だって、僕なんて、弱虫で臆病で、卑怯で――」
「碇くんがいい。碇くん以外の人なんて、考えられない……他の、他の男の人なんて、絶対、嫌……碇くんじゃなきゃ、ダメなの……私は、碇くんが、碇くんだけが……」
 シンジもいつしか、涙を湛え始めていた。ここまで強く自分を求めてくれた女性が、今までいただろうか。目の前の彼女は誰よりも強く、健気に、自分のことを想ってくれていた。そんな彼女が、愛しくてたまらなかった。
「綾波、僕も……」
 だから、伝えよう。逃げるのは、もう終わりだ。
「綾波と、ずっと一緒にいたい。綾波を、僕のものにしたい。だから――」
 その頬にそっと手を伸ばす。白磁のように滑らかな頬は、しっとりと濡れていた。そうっと、細い首筋を抱き寄せる。昨夜も目の前にあったぷっくりとした桜色の唇が、またもシンジのすぐ目の前にあった。思わず生唾を飲む。
「いい、かな……?」
 レイはきょとんとする。
「何が?」
「そ、その、キス、しても……」
「――キスって、何……?」
 レイの不安を含んだ声に、シンジは愕然とした。十四歳の女の子が、キスも知らない。それは今までの彼女の人生を端的に表していた。
「キスって、いうのは……」
「……何?」
「好きな人同士が、することなんだ……だから……」
「だったら、する……」
 その声は、か細いながらも決意に満ちていた。シンジは残りの数センチを、思い切って抱き寄せた。
「ん……」
 触れるだけの、穏やかなキス。未知の感覚に、レイは身を震わせた。シンジは目を閉じなかった。その顔を、間近で瞼に焼き付けたかったから。
 レイの顔が、女性としての悦びに蕩けていく。どこか夢のような非現実性を孕んだ感覚の中、シンジはそれを見た。
「どう、だった?」
「……分からない。だけど、碇くんの唇、温かかった――」
「綾波っ――!」
 シンジがレイを抱きすくめる。レイもその背に手を回した。
「碇くん、碇くん、碇くん、いかりくん、いかりくん、私、わたし――」
 うわ言のように、シンジの名を呼んだ。背中に回した手に、力を籠める。
「離さないよ、綾波。もうずっとずっとずっと、離さない。絶対、幸せにするから、もう二度と綾波に辛い思いは、させない。綾波は、この世で一番、幸せにならなきゃ、いけないんだ……」
 
辛いものばかりを背負ってきた。代わりのある体。魂まで運命に縛られた身で、死ぬことすら許されない。それでもサードインパクトの時、自らは無へと還る覚悟で、シンジに最後の望みを与えた。そしてシンジの望みに答え、レイはもう一度、世界を創造した。その細い肩に全てを任せ、人類は綾波レイという一人の人間によって救われたのだ。
 そんなことは、許されてはいけない。十四歳の人間は十四歳の人間らしく生きる権利を持っている。その権利を剥奪する権利は、この世の誰にもない。
「碇くん、私、幸せになっても、いいの……?」
 シンジは微笑んだ。
「もう、あの頃とは、違うんだ。綾波は、幸せにならなくちゃいけない。どんな犠牲を払ってでも、僕が、絶対に幸せにする。いい……?」
 レイは頷き、笑顔を見せた。目は幾分腫れぼったくなっていたが、それでもその笑顔は、今までシンジが見た中で、一番の笑顔だった。
「碇くんが側にいてくれるなら、私は、それだけでいい……それだけあれば、私は、幸せ――」
 レイの頭を撫でる。するりと、猫耳がレイの頭を滑り落ちた。シンジが驚いた表情をする。
「もう、必要ないから……」
「綾波」
「碇くん、ぎゅって、して……?」
 シンジは強く強く、レイを抱き締めた。ややもすると折れてしまいそうなまでに華奢な体。この体に、人類の未来が懸かっていたのだ。全ての業を背負っていたのだ――自分を、救ってくれたのだ。
「暖かい、碇くんの腕、暖かい。ずっと、ずっと、このまま…………」

狂ったように、シンジはレイの背中をさすった。この世の誰より、人の温もりに飢えたレイ。人生を捧げてでも、彼女を離したくない。それほどまでに、愛しかった。胸の中で、激しく炎が燃え上がっていた。空っぽの彼女を、自分で満たしたかった。キスを知らず、愛を知らず、人の温もりを知らず。そんな人生を強要されてきた彼女に、ありったけの愛を注ぎたい。
 シンジの動きに触発されたようにレイの手もまた、シンジの背中を這い回った。シンジの体温を求め、きつく足を絡める。キスすら知らないレイが、その後に控える行為など知ろうはずもない、小さく開いた口から熱く荒い吐息を漏らしつつ、シンジの胸に顔を埋めた。
 

「綾波、一緒に、住もう」
 レイは胸に顔を埋めたまま、小さく頷いた。
「部屋が足りないけど、そんなのどうにだってなる。壁をぶち抜いて一つの部屋にしてもいいし、アスカの部屋に住んでもいい。どうしたい?綾波」
「私は、どうだっていい。碇くんが、碇くんさえ永遠に、私の側にいてくれるなら」
 レイがぐぐもった声を上げる。
「……約束するよ、綾波。僕はずっと、君の側にいるから」
「嬉しい、碇くん……」
「綾波……」
「何?」
「……もう一回、キスしていいかな」
「――いい」
 今度は、目を閉じた。意味が分からないなりにも、レイはその意を察し、目を閉じた。
 
 唇に感じる温もりと柔らかさだけが、この世の全てだった。シンジにとっても、そして当然、レイにとっても、そう感じた。
 自然にとがった顎にそっと手を添える。親指に軽く力を入れて、レイの口をこじ開けた。
「ふ……」
 レイの口から甘い吐息が漏れる。驚かせないように気を遣いながら、シンジは舌を滑り込ませた。
「んん……」
 レイの柔らかい舌を自分の舌先で探り当て、控えめに絡ませる。甘い唾液を吸う。頬の形を確かめるようにして、シンジの舌がその内側をそっとなぞった。
 シンジの頭を抱きかかえるようにして、レイもそれに応えた。頭がぼうっとして、まとまったことを考えることが出来ない。しかしだからこそ、今自分の中に感じる幸福だけは、レイの中の唯一確実なものだった。シンジの匂いに包まれている。心が和み、途方もない安心感に、思わず涙が溢れた。
 ――碇くん、碇くん……!

 幸せなど、自分には縁遠いものだと思っていた。なぜなら自分は“レイ”であり、“零”だから。マイナスになることは無い。しかし、決してプラスにもならない。それでいいと思っていた。無へと還る自分にとって、それは理想的なことだったからだ。
 しかしある時、それに僅かな綻びが見られた。ヤシマ作戦。今まで自分が経験したことのない、異質なものだった。碇ゲンドウとは全く違う。初めての温もり。
 いつしか、自分はそれを求めるようになっていた。自覚のないままそれを求め、結局自分の命を捨てることになってしまった。
 しかし三人目になっても、それは止むことを知らなかった。それでもその時は、自分の使命を全うしようとした。頭の中から欲望を追い払い“零”で自分を満たそうとした。できる筈もないのに。それは“零”だから。
 結局、自分はシンジを求めた。それは土壇場のことだった。そして自分自身は、“零”へと還ろうとした。それを止めたのは、他でもない、シンジだった。

 ――そして、今……


 とうとう、自分の望みは叶ったのだ。些か予想しない形ではあったがそれでも、自分は満足だった。今の自分は“零”ではない。“壱”なのだ。シンジが自分を満たし、自分を変えたのだ。
 それは決まっていたのかもしれない。陳腐な言葉を使えば、運命という言葉で語ることも可能だろう。
 しかし、そんなことはどうでもよかった。今、シンジの一番近くに自分がいる。それだけでいいのだから。
「いかり、くん……わたし、おかしくなりそう、なの……いかりくんが、ほしくて、ほしくて……わたし、へん、なの……?」
 シンジは微笑み、かぶりをふった。
「変なんかじゃないよ、それでいいんだ……僕をあげる、綾波。僕でよければ、だけど」
「ほんとう?本当に、いかりくん、わたしのもの……どこにも、いかない?」
「行かないよ、綾波。一つだけ、約束してくれれば」
「何……?」
「もう、絶対に、自爆なんかしたら、許さないからね……?」
 レイの頬をまた涙が流れた。止まらなかった。
「しない、ぜったい、しないから、だから、いかりくん……」

「だったら、いるよ。綾波の、側に、ずっと……」
「碇くん……」



――君は僕が、護るから……

















――Epilogue――



「そういえば綾波、あの猫耳、どうやってつけたの?」
「赤木博士の研究室にあった薬を借りたの。忍び込むのに苦労したわ」
「え、それってまずいんじゃあ……」
「問題ないわ。赤木博士にはあの時の記憶がないから」
「それってどういう……」
「記憶を消す薬を赤木博士が作っていたところで、何の不思議もないでしょう?」

 そう言ってニヤリと笑う綾波はなんというか……とても、怖かった。




                  ――FIN――
〜あとがき〜
済みません、長くなりました。
壱はこじつけ。もともと投稿しようとしていたやつですが、折角なので。のっけからデザートですな(笑)甘さ的には

メンテ
Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.4 )
日時: 2010/05/15 20:42
名前: タピオカ

ばかぁ――――!(*´∇`)
前菜の次がデザートなんてダメでしょうが!しかもゲロ甘すぎだよ!マジ溶けそう…wwいや、マジでATフィールドが溶けそうだ(*´∇`)


メンテ
Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.5 )
日時: 2010/05/17 20:14
名前: JUN

タピオカさん、どもです。
ゲロ甘が快感になりつつあるんで、この路線は続けてゆくでしょう。その時はまたよろしくお願いします。
メンテ
Re: 1111111ヒット記念企画 ( No.6 )
日時: 2010/05/18 02:30
名前: tamb

■タピオカさん
 なにげに「畳」というのが新鮮だったりしました。101文字でよく書いた! といった所で
すが、やっぱ100文字じゃ無理なんですよ(笑)。

■JUNさんの「Rami」
 溶けるw
 が、壱があまりにこじつけだ(笑)。

 しっぽ。名前を出していいのかどうか一瞬迷ったので、出していけない理由は見当たらない
けど本能に従って名前を隠しますが(見てたら出てきてー。感想メールも出してます)、とあ
る人の作品のLAKものでアスカにしっぽが生えるってのがあったんですよね。設定としては犬
で、ネタバレを避けるとこれ以上は書けないんですが。
 それを読んだ時に思ったことを、ここにも。
 服を着ててしっぽが生えてるとすると、パンツはどうなっているのだろうかと。もともと半
ケツ状態の極小パンツなのか、それとも穴でもあけてるのか。あるいは若干ずり下ろしてるの
かー!(爆) そしてしっぽをピンと立てるとスカートががが!!
 肉球のついた手袋にスポンジを持って。もしその手袋にスポンジ機能が内蔵されていて、す
なわち肉球でちょくせつせなかをながされたらしんじくんはいってしまうであろう。

メンテ

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