Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.1 ) |
- 日時: 2010/07/28 18:31
- 名前: tamb
- 日時: 2010/07/27 12:07
名前: yo1
蝉時雨
作:yo1
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今年も夏が来た… 巡る時に思い出は色あせ、何時かは忘れてしまう… 忘れられた思い出は、どこに行ってしまうのだろう…
今年も夏が来た… また君に会える季節が来た… 僕は永遠に忘れない、君の事だけは…
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「綾波、麦茶でいいかな?」
シンジの問いに、レイはコクンと頷いた。
和室の中央に置かれた円卓、向かい合わせに座布団が置かれ、窓を背にした方にレイが座っていた。開けた窓から入る風で、少しでも涼しい様にと、シンジが気をつかったのだ。純白のワンピースを着たレイの後ろに、夏の青空が見えている。時折入る風が、レイの美しい蒼い髪を揺らした。
シンジが麦茶を準備して運んでくるのを、レイは微笑みながら眺めている。
「お待たせ」
レイの前に冷えたグラスを置くと、「よいしょ」っと、シンジは自分の座布団に座った。すると、レイがクスクスと笑う。
「ん?どうしたの?」
「碇君、まるでオジサンみたいよ」
「えー!酷いなー 綾波」
レイは、またクスクスと笑う。 シンジは、頬っぺたを膨らますと、怒ったふりをした。
「怒ってる碇君も素敵よ」そう言って、レイは麦茶を一口飲んだ。
「もー!からかわないでよ〜」そう言って、シンジは楽しそうに笑った。
暫く無言で見つめ合う二人。窓は大きく開けてあるのに、とても静かだった。
「綾波…とても綺麗だよ」
シンジが頬を染めて言った。
「ありがとう…碇君…」
レイも頬をピンクに染めて、嬉しそうに目を細めた。
二人一緒に麦茶を一口飲むと、シンジが話し始めた。
「昨日トウジから聞いたんだけど、洞木さんにプロポーズしたらしいよ」
「そう…ヒカリさん、喜んだでしょうね、二人には、幸せになってほしいわ」
「うん、そうだね。トウジの奴、凄く緊張したって言ってよ」
レイがクスリと笑った。
「ケンスケはさ、未だに軍艦とか追いかけてるんだよ」
「そう」
「だからね、いっその事、入隊したらって言ったらね、『趣味は仕事にしたくない』って、言うんだ」
「相田君らしいわね」
「そうだね」
シンジとレイは、視線を合わせると、楽しそうに笑った。
「碇君、笑ったら、相田君に失礼よ、ふふ」
「あはは、綾波だって笑ってるじゃないか」
レイは目じりの笑い涙を拭くと、澄ました表情で「笑ってないわ」と言って、また笑った。
「アスカは、ドイツの研究所で頑張ってるみたいだよ、時々メールくれるんだ」
「そう、惣流さんなら、きっと成功すると思うわ」
「そうだね、アスカは頭がいいから、何時か凄い発見とかして有名になるかもね」
「そうね、楽しみね」
苦しい時期を、共に戦った三人は、かたい絆で結ばれていた。どんなに遠く離れて会えなくとも、心は繋がっている。永遠の絆…
グラスの氷が、カランと音を立てた。
シンジとレイは、時を忘れて、おしゃべりを楽しんだ。
気が付くと、窓から見えていた青空は、夕焼けに変わっていた。
「碇君…もう…時間だわ」
「………」
シンジは、俯いて何も言えなくなった。
「碇君…顔を見せて…わたし、碇君の笑顔が好きよ…」
シンジは、両手を握り締め、気力を振り絞って顔を上げ、この時のために練習してきた、最高の笑顔をレイに見せた。
「…ありがとう…碇君…」
「…綾波…」
レイは、優しく微笑むと、少しかすれた声で言った。
「…碇君…さよなら…」
シンジの肩が震え始め、我慢していた涙が頬を流れ落ちた。
「…さよなら…なんて…悲しいこと…言う…なよ…」
今まで座っていた所にレイの姿は無く、空になったグラスの前に置かれた、小さな写真たての中で、蒼い髪の少女が笑っていた。何時の間に鳴き出したのか、ヒグラシの鳴き声が蝉時雨となり、一人残されたシンジを包んだ。シンジは泣いた、声を上げて泣いた。年に一度だけ…そう、一度だけ会いに来てくれる彼女を思い泣いた。
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