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サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月
日時: 2010/12/01 18:31
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・悪女になるなら
・うさぎさんとくまさんが恋をしました
・胸いっぱいの愛を

です。
八月〜十一月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

お題の困難さに拍車がかかってますが、頑張ってください。私も頑張ります。
では、どうぞ。

以上、例によってほぼコピペ(笑)。だって書くことないもん。

メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.8 )
日時: 2010/12/25 06:10
名前: tamb

■悪女になるなら/ねも
( No.7 )

おおっ! 絵だ!
自分をプレゼントではなく、シンジを強制的に自分へのプレゼントにしてしまうという図か。
このレイはまさに悪女。というより、もはや悪魔に近い(笑)。きっと逆棘のしっぽがあるに違
いない。しかし両手を縛ってはシンジ君に何もしてもらえないのではないだろうか。待てよ。
シンジがあらぬことをしたから縛ったのか?

などと果てしなく妄想は広がりますが、ねもさんはじめまして。綾幸編集人のtambと申します。
諸々の事情により反応の鈍くなっている昨今ではございますが、ひとつ今後ともごひいきにど
うぞ。

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.9 )
日時: 2010/12/28 23:54
名前:

ねもさんの悪女になるなら


はじめまして。
こういう独占欲全開のレイが私は好きです。

個人的にはいっそシンジにリボン付きの首輪を付けて欲しかったりもしました(苦笑)
レイなら、そんなびっくりしてしまう事も無表情でしれっとしてくれそうで…。
でも、あんなかっこうしてたらリボン解いたらシンジに即押し倒されてしまいそうな気がします(笑)

また何か絵が見られることを期待しています。
疲れていて逆にテンションの高い中ですので一部変態なコメント申し訳ありません。
失礼しました。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.10 )
日時: 2010/12/29 22:23
名前: ねも

ご感想に感謝〜。

>tambさん
思うに、捕獲後のことは何にも考えていなかったのではないでしょうかね?捕まえてクリスマス一緒に過ごす!!という考えのみで行動した結果というか。
ご賛同いただけるかは定かではありませぬが、彼女は劇中でも屈指の猪突猛進思考な気がしましてww

>楓さん
首輪ですか!!それは思いつかなかったですねぇ。
ぶっちゃけた話、綾波さん描くので力尽きた感があってシンジくんは少々手抜k…いやいやなんでもありません。
さて、シンジくんに彼女を押し倒すだけの根性がありますかどうかww

というわけで、お二方ともこれからよろしくお願いいたします。しがない流れもの絵師の私ではございますが、また何か描けた暁にはご笑覧くださいませ〜。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.11 )
日時: 2011/01/01 17:07
名前: JUN

悪女になるなら





 くしゃり、とそれを握りつぶし、力を込めてくずかごに叩きつけた。これで五枚目だった。レイは無感動にそれを見つめ、深い溜息を吐いた。





 ――名も無き少女の想いの丈は、遂に日の目を見なかった。





 いつの間にか習慣になった作業だった。ある日、ふとした衝動に駆られ、シンジの下駄箱を覗き込むと、数枚の薄い封筒がその中からレイの足元に散らばった。
 シンプルな白色のものから、洒落た桃色のものまで。宛名書きも“シンジ君へ”“碇先輩へ”など、さまざまだった。しかし唯一全てに共通していたのは、その手紙にこめられた想いだった。


 初めてそれを見たレイの感情は、何よりも焦りだった。だめ、取らないで。私から碇くんを取らないで――





 気づけば、それを捨てていた。きっと沢山考えた文面が収まっているのだろう。途方も無い勇気を必要としたのだろう。そんな気持ちを、シンジの感情を一切無視して、レイは踏みにじったのだ。
 
 当然、尋常でない自己嫌悪が、レイを襲った。しかし、どうしてもやめられなかった。やっと、やっとシンジと一緒になれたのに、いまさら手放すことなど出来ない。シンジの笑顔が、温もりが、優しい手が自分以外のものになるなど、絶対に考えたくなかった。





 玄関でシンジを待つ。一緒に帰るために。自分のものであることを見せ付けるために腕を組んで帰っても、シンジへの手紙は減らなかった。それが彼女達の想いの強さを知らしめるようで、かえってレイは辛かった。
 シンジ特有の軽い足音が廊下の奥から近づいてくる。足音だけでシンジの気配が分かる。シンジに言うと、犬じゃないんだから、と笑われた。
「ごめん綾波、待った?」
「平気」
「……どうかした?」
 気遣わしげに覗きこまれ、レイは慌ててかぶりをふった。
「大丈夫」
 シンジの目線に射止められ、レイは無意識のうちに視線をそらした。気づかれたかもしれない……
「……そっか。じゃ、行こうか」
 少し頬を染めてシンジが言う。中性的な顔立ちに非常によく映えた。そういう顔をするから惹かれる女の子が多くなるのに、とレイは少し不満だった。二人きりの時だけにして欲しい。
 自然に手を握る。これで何度目だろう、と昔は数えていたのだが、三十を超えた辺りから分からなくなった。だがそれを当たり前にしてはならないことぐらい、レイも重々承知の上だった。崩れるのは一瞬だ。千年かけて築き上げた絆も、小さな亀裂から瞬時に瓦解する。
 厚かましく思われない程度にそっと握り返しながら、シンジと肩を並べてレイは歩いた。必要以上のスキンシップを、シンジは辟易してしまう節がある。
「今日のお弁当、どうだった?」
「美味しかった、すごく。玉子焼きがいつもより甘かった」
「綾波、薄味が好きって言ってたから。あのくらいでよかった?それとも、もうちょっと薄い方が好きかな」
「あのくらいが好き」
「よかった」
 他愛の無い話をしながらでも、シンジは自分の歩く早さに合わせてくれる。長身なので歩幅はレイより遥かに広いのだが、それでもレイを引っ張ったり置いて行くようなことはしない。無意識のうちなのだろうが、レイはシンジのそういった部分が大好きだった。
「今日は、上がっていくの?」
 シンジとレイの家を分ける交差点で、レイは訊いた。
「え、ああ、どうしようかな。綾波はどっちがいい?」
 回答など決まっていた。握っていた手をそっと自分に引き寄せる。それで十分だった。
「分かりました、お姫様」
 シンジは悪戯っぽく言って、レイのマンションに向かった。



※※※





 一時期は誰も住んでいないと言っても通りそうだったマンションも、今では改装されて小奇麗なものになっている。レイしか住んでいなかったその場所も、今となっては八割方部屋が埋まっていた。
 レイの部屋も相応のものになっている。二人で出かける時のための服が入ったクローゼット、洒落た食器、レイが自分で選んだ下着が入った――当然シンジは知らないが――引き出しの中。
 簡素なパイプベッドには水色のシーツが敷かれ、コンクリート打ちっぱなしの壁には純白の壁紙が貼り付けられていた。
「お邪魔します」
 鍵のついた扉を開いて、シンジは靴を脱いだ。レイは奥にかけてゆき、紅茶を淹れ始める。シンジはくすりと笑って、
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「慌ててなんか無い」
 言いつつ、マグカップを取り落としそうになってしまった。からかわれるのが嫌で、それを済んでのところでキャッチする。
 いつもはもう少し手際がいいのに、とレイは溜息を吐いた。先ほどの後ろめたさが原因かもしれない。
 とにもかくにもアールグレイを淹れ、シンジの元へと持っていく。一杯目はストレート、二杯目からは気分で。
「ありがとう。綺麗な色だね」
「もう何度も見てるわ」
「あはは、そうだね」
 シンジがカップを傾け、レイもそれに合わせた。
「美味しい?」
「うん。もう綾波のほうが上手だね」
 率直に褒められ、レイの頬が熱くなった。
 ぶるり、とレイの身体が震えた。四季が戻ってきたので、日に日に寒くなるばかりである。
「あ、暖房つけようか」
 側にあったリモコンのスイッチを入れると、微かな起動音と共に備え付けられた暖房が動き出す。
「暖かくなるまで、これ着ててよ」
 シンジが着ていた――最近復刻したばかりの――長袖の学生服を着せると、レイは戸惑ったように呟いた。
「碇くんが寒いわ」
「平気だよ、これくらい」
 シンジはそう言うが、薄いワイシャツだけでは寒いことくらいレイも分かっている。もともと華奢な体格のシンジならなおさらだ。
「じゃ、じゃあ」
 躊躇いがちにレイが自分と一緒にシンジを包むように学生服を羽織らせた。シンジは驚いたようにレイを見たが、その内、
「優しいね、綾波は」


 無意識かもしれないが、むしろ悪意が無い発言だったからこそ――その言葉は、レイの深層心理を、ちくりと刺した。
 


 私、優しくなんてない……――



 その言葉は、当然ながら声にはならなかった。今そんなことを言う勇気も、そしてそんなことを言えるだけの白さも、レイには存在しなかった。


「部屋も暖かくなってきたし、帰るよ、僕」
 不意にシンジが言い、立ち上がった。こういう時は名残を残さない。躊躇えば帰りづらくなる。それはレイとの間にある共通認識だった。
「……気をつけて」
「うん。綾波もちゃんと鍵閉めるんだよ」
「昔とは違うわ」
「……そうだね、ごめんごめん」
 全く反省していないシンジの表情に、レイはぷう、と頬を膨らませてみせる。
「じゃあね、綾波」
 最後にくしゃくしゃと頭を撫でて、シンジは玄関を出た。


「優しくなんて、ない……」


 最後まで言えなかった言葉を、レイは今になって口にした。




                  ※※※








 ――優しいね、綾波は…………




 想像以上に、その言葉はレイの心の深い部分に突き刺さった。どこか自分のしたことを見透かされているかのような、そんな言葉だった。無論、そんなものはレイの主観でしかない。
 自分はシンジの恋人だ。それは中学校全体に浸透した共通認識といっていい。それでもシンジは人気があった。

 恋文、呼び出し、電話、メール――

 およそ考えうる全てのコミュニケーションツールを介して、シンジは想いを伝えられてきた。シンジは隠していたし、何より全て断っていたが、それでも情報は伝わってくる。
 嫉妬と、何より焦燥。レイが感じたのはまずそれだった。胃がきりきりと痛み、頭の中が激情に燃え上がる。そして下駄箱の恋文を捨てるという最低の行為に出たのだ。
 許されることではない。たとえシンジが断るとしても――少なくとも、レイはそう信じている――想いを伝える権利は誰もが有している。比較的ステレオタイプの手段であるが、手書きの文章を相手に送ることがどれだけの勇気を必要とするか、それは人の心の機微に疎いレイでも理解できた。

 それを一方的に遮断する。それがいかに下劣な行為か、そんなことはレイが一番知っていた。

 ――死ねばいい、私なんて……

 本気でそう思う。悪女になりきれない、それが自分の弱さだった。少なくともそれに希望を見出せる状態ではなかった。悪女になるなら、開き直ってしまえばいい。何が悪い、と。自分の恋人を奪われる可能性は最大限減少させる、それのどこがいけないんだと――……

 そうもなれない。ただ奪われることに怯え、自分に自信も持てない。奪われたくなければ、奪われないだけの人間になればいい。そんな当たり前のことが、レイには出来なかった。
 たまたま自分がパイロットだった。だからシンジと近づくことができた。自分より魅力的な人間など、この世に掃いて捨てるほどいる。まして恋文を書けるほど積極的な人間ならば、その人間性は容易に察することが出来る。
 もし自分が、元々シンジと何の関係も無い人間なら、自分の想いの丈を綴った手紙を勝手に捨てられたら――――素直に、憎い。
 殺意、とまではいかない。しかし少なくとも、いなくなって欲しいと思うくらいには憎いだろう。その憎しみを向けられる対象に、自分は成り下がった。

 シンジは優しい。自分と一緒にならなくとも十分に幸せになれる器と人格。財もある。誰もが足を止める容貌とはいかなくとも、初対面で相手に好印象を持たせるくらいには整った、中性的で端整な顔立ち。人の心を慮れる、心優しい性格。

 自分には――何も無い。せいぜい、NERVからの収入のみ。それが何になるだろう。見た目も、初対面の相手が尻込みしてもしかたがない異質なもの。無口な性格は相手に居心地悪い思いをさせる。つい最近感情を手に入れたばかりの自分に、人の感情など量れるはずがない。唯一持っているのは、シンジがくれた温もりだけだった。そしてもしシンジを失えば、それも価値を為さない。


 端的に言えば――つりあわない。


 シンジは、とても自分によくしてくれる。些細な表情の変化を見抜き、悩みがあるときはいつでも聞いてくれる。何の見返りも求めず弁当を作り、たとえ学校でも街中でも、手を握ってくれる。人前でそれをすることは、相応の羞恥を伴うことであるのに。
 シンジとどんなに親しくなっても、キスを未だにしていないのは、ひとえにシンジの気遣いによるものだった。二人きりの部屋で抱き締められ、頬をそっと撫でられる。その時レイが首をすくめると、シンジはそこで行為をやめてくれた。どんな状況下にあっても、レイが怖がるようなことはしない。

 ここまで自分を大事にしてくれる彼なら、自分なんかより、ずっと――

分かっている。そして自分は今となっては、シンジに愛してもらえる権利どころか、シンジの側にいていい資格さえ怪しい。少なくとも恋文を捨てるような自分は、そんな価値のある人間――その人間であるということすらも定かでないのに――ではない。
それでも、どうしても離れられなかった。乾ききった旅人が砂漠の中で泉に出逢えば、恥も外聞も無く飛びつく。他にその水を必要としている人間のことなど気にも留めない。
それ自体は間違ったことではない。しかしその水を求めてきた旅人を無下に排除するのは――


今までは、そんな気持ちに蓋をしていた。しかし、もう限界だった。罪悪感で張り裂けそうな心は、隠し通すことを拒否していた。

――碇くんに、話そう……

きっと嫌われるだろう。別れを切り出されるに違いない。その時自分が正気でいられる確証はない。だがせめてシンジにだけは迷惑をかけたくない。もし自分がそれで命を絶つようなことがあったら、シンジは傷つく。それは耐えられない。だから、死だけは回避してみせる。

心の準備をしよう。元より一度消えた命だ。いまさらどうなろうと――

眸を固く閉じ、レイは朝が来るのを待った。






 今日は、シンジの下駄箱を見ることはなかった。普段は洗って返す弁当箱も、今日は引き取ってもらっている。――もう、弁当の交換もなくなるかもしれないのだ。

シンジは一度帰ってから来るそうだ。どうやら買い物があるらしい。そう珍しいことでもなく、放課後に来て欲しいというレイの頼みにも、シンジは比較的違和感を持たずに承諾した様子だった。
すう、と軽く息を吸って心を落ち着ける。胸にそっと手を当てると、心臓が普段とは比べ物にならないほど高鳴っていた。


「お邪魔します、綾波」
 優しく扉を開け、見慣れた優しい顔が入ってくる。これで最後かもしれない、と思うとどうしようもなく寂しい。ベッドに座るレイの隣に、自然に腰を下ろした。
「あ、ストーブ持ってくるの忘れた」
「ストーブ?」
「今の暖房は古くて効くのに時間かかるからさ。古いストーブをミサトさんがもらって来たの、いいかなって。次来る時持って来るね」
 優しい声が、今は辛い。言い出せなくなる前に、レイは口を開いた。

「あの、碇くん」
「ん?」
「その……今日、下駄箱の中、何か入ってた?」
 思いつめたレイの声で何かを察したのか、気遣うようにシンジは言った。
「あ……うん。手紙が少し入ってたかな。でも、本当に少しだよ。それに普段はないんだけど――」

「違うの!」
 
 レイの鋭い声が、不意にシンジの言葉を遮った。



「……違うの」
「……綾波?」

 レイの様子を見かねたように、シンジはレイの肩にそっと手を添える。するとレイの身体が怯えたようにぴくりと跳ねた。そんな挙動に、シンジは再びレイの身体を離した。
「……碇くんは、今までも手紙をもらっていたの。私が……全部、捨ててたの」
 シンジが、はっと息を呑んだ。
「碇くんが取られるって思うと、すごく怖くなって、気づいたら全部捨ててたの。やめようって思っても、どうしても止まらなかった。碇くんの気持ちも、手紙を出した女の子の気持ちも、全部無視して、私、碇くんを裏切ってたの……」
 ほとんど独白に近い形だった。シンジも、何か言おうとはしなかった。張り詰めた空気が、レイの耳にじりじりと響く。
 恐怖、だがそれに呼応するようにして、安堵に似たものもあった。隠しておく精神的苦痛、そしてシンジの前で背伸びをすることで、やはり疲れるのも事実だった。

 シンジの方を見る勇気は無かった。俯くだけで、何も出来ない。息を止め沈黙をこらえる内、不意に、レイの肩に暖かい感触が乗せられた。
「碇くん……?」
 肩に乗せられた手が首筋から頬へゆっくりと動く。いたわるような優しい動きに、レイは思わず目を閉じた。シンジの表情からは、何の感情も窺うことが出来なかった。
「いかりくん……?」
 手がうなじの辺りに伸びたかと思うと、シンジは強引にレイを胸の中に抱き寄せた。
「あ……」
「ごめん、綾波……」
「ど……して、あやまる、の……?」
 レイの柔らかい後ろ髪を梳きながら、シンジは腕に力を込めた。
「僕が……不安にさせたんだよね?」
 哀しげで、どこか涙すら含むような、そんな声。レイの独白などなかったかのようなその声色に、レイはかえって不安を煽られた。
「私が悪いの。私が碇くんを信じてなくて、碇くんがもっと優しくて可愛い女の子のほうにって……」
「悪いのは綾波じゃない。当たり前だよ。僕だって、綾波の下駄箱に手紙が入ってたら不安になるよ」
「でも、でも……」
 レイの眸の奥から、大粒の涙がこぼれた。嫌われると、本気で思っていた。しかし予想に大きく反して、シンジは優しい言葉をかけてくれる。自分なんかに――
「手紙が来たって、どうせ読まないよ。綾波がいるんだから。僕はこれから先もずっと、綾波と一緒にいたいって決めてるから」
「でも、きっとあの手紙の中には、私よりいい人なんて、いっぱい。私じゃ、碇くんは幸せになれないかもしれない。だから、私なんかより、碇くんは、もっともっといい人と――」


「……それ、僕の意思無視してない?」


 怒ったようにシンジは言って、胸の中にいるレイの顎に手を添え、上を向かせた。視線をそらし続けてきた彼女が遂に、真正面からシンジと向き合った。柔和なシンジが睨むような鋭い目つきで、レイを見つめていた。レイは反射的に首をすくめる。

「僕が誰と付き合うかなんて、綾波が決めることじゃない。僕が決める。もし世界で一番人気のある女の子が僕のこと好きって言っても、僕がそうしたいと思わなきゃ意味がないよね。綾波が僕と一緒にいたいって言ってくれるなら、僕は綾波の側にいたい」

 見るものを、レイを虜にする眼差し。真剣で、それでいて優しい。先程まで明らかに怒りの中にあったその目線も、今は一転して温かいものになっていた。
「訊くよ、綾波。すごく大事なことだから、よく考えてから答えてね」
 すう、と軽く息を吸って、


「……これからも、僕と一緒に生きて、支えてくれますか?」


 レイの喉の奥から、激しい嗚咽が漏れた。シンジの羽織ったコートで涙を拭い、整わない呼吸を必死で直そうとする。横隔膜の痙攣が止まらなかった。

「答えて、綾波……」

 答えなど、最初から一つしかない。震えない喉から搾り出すようにして、レイは声を出した。
「わたし、いかりくんと、いっしょに、いたい……」
「よかった……」
 心から安堵した声で、シンジはそのままレイの髪に鼻をうずめた。

 普段家事をしているせいか、シンジの手は多少荒れて、かさついていた。それでも頬を撫でるその感触は、全く不快ではなかった。頑張るシンジの手。レイは大好きだった。いつかはシンジのパートナーとして、伴侶として、こんな手の人間になりたい。

 優しく、また上を向かされる。決してレイにその動きを強制するような力でなく、羽毛のようにやんわりとした力だった。
 脳の奥が甘く溶けるような感覚がして、レイは気づくと目を閉じていた。怖くない。今まで自然と首をすくめてしまっていたのは、そうされる価値が自分にあるのか、その潜在的な不安によるものだった。
 優しく、だが少しだけ強引に奪われる。どんな風に応えていいのか分からない。だが精一杯それに、レイは応えた。昨日はあんなに恐怖に震えていた自分が、今こんなにも温もりに溢れている。これを幸せと言わずして、何を幸せと言うだろう。
「碇くん、だいすき……」
 ごく弱い力で肩を押されると、ほとんど抵抗がなく、背中から倒れこんだ。
「あ……」
 何度も何度もキスされる。唇だけでなく、頬、瞼、額、首筋――今までしなかった分を取り戻すかのように、およそ考えうる全ての場所にキスされた。その度に熱い息が漏れるのが自分でも分かる。嬉しい。その上、どうしようもなく気持ちいい――

 頭が霞み、思考が働かなくなっていく。ほとんど骨抜きになった身体で、レイはシンジのことだけを考えていた。欲しいものは、今や全て手に入ったと言っていい。ありのままの自分を、綾波レイを、シンジは受け入れてくれたのだ。


 もし、まだ欲しいものがあるとするなら――


「いか、いかりくん……」
 もはや何度続いたか分からなくなったキスを遮って、レイは口を開いた。
「ん……?」
「私、碇くんと――だから……」

 声が出ない。情けなくなる。温もりをくれ、優しさをくれ、ココロをくれた。ヒトにしてくれた。せめて最後の一線くらい、シンジに負担をかけないようにしたいのに。シンジの望むようにして欲しいのに。世界でたった一人しかいないシンジに、全てを捧げたいのに。力の入らないお腹に力を入れて、



「今日は、帰らないで……」



 か細く、その声は薄暗くなった部屋に響いた。優しい笑顔を湛えていたシンジの表情が、一転して迷うような表情になる。心の内を探るようなシンジの目線を、レイは正面から見返した。
「あや、なみ……」
 迷いはない。レイは元々潔癖な方である。男性を無意識に避け、一人でいることを選ぶ。シンジ以外の男性に触れられるなど耐えられない。しかし、シンジだけは特別なのだ。
 何でもしてあげたい。何でもして欲しい。絶対に手放したくない。その感情は、シンジがくれた“恋”であり、“愛”だった。それを護るためなら――シンジを自分のものにしておくためなら――悪女になることも厭わない。
「大好きだから、碇くんのこと。手紙捨てたり、嫉妬したり、どうしようもない私だけど、それでも、私は、碇くんと……」



「……僕さ、綾波を護らなきゃ、っていつも考えてたんだ。キスを途中でやめる時、本当はすごく我慢してたんだけど、それでも綾波のため、綾波のためって、そればっかり考えてた」
 恩を着せるような口調ではない。ただ、慈しみをこめて頬をそっと撫でた。
「でも、それじゃ違うんだよね。いつだって綾波は、僕を護ってくれた。僕を支えてくれた。今のこの世界があるのも、綾波のお陰なんだよね」
「碇くんが、望んだから」
「その望みを形にしてくれたのは綾波だよ。だからね、綾波――」

 シンジはそれを最後に、長い時間口をつぐんだ。レイの顔をじっと見つめ、時折思い出したように頬を撫でる。レイはその一つ一つの挙動に何も言わず、ただそれを見守った。やがて決心するように目を閉じて、


「……痛かったら、すぐ言うんだよ」


 痛みなど些細な問題だ、レイは思った。むしろ痛いほうがいい。より多く彼を感じられるから。彼と一つになれるのなら――

 レイの表情が歓喜に溢れ、力強く頷いた。
「大丈夫、だから……今、あんまりかわいい下着じゃないけど……」
「そんなこと、気にしないよ」

 シンジはレイのブラウスに手を伸ばし、一つ一つ丁寧にボタンを外していく。恥じらうようにレイが視線をそらすたび、シンジは優しく口付けた。
「十分かわいい下着じゃない」
「もっとかわいいの、たくさん買ってあるのに――」
「じゃあ、それは次の機会だね」
 シンジが微笑んで言うと、レイの表情も少しだけ緩んだ。
「怖く、ない?」
「碇くん、だから……」




 シンジは深くレイに口付け、きつく身体を抱き締めた。耳元でそっと、レイの一番欲しがっている言葉を囁く。レイは、初めて笑ったあの時と同じような、美しい微笑みを浮かべた。






 愛してるよ、と――





 目覚めると、いつもより温かい気がした。重い瞼をこじ開けてみると、見慣れた天井がそこにあった。そういえば天井もその内綺麗にしないと、と思い出した。綺麗になったこの部屋の中で、唯一浮いている部分だ。
 軽い引力を感じたと思うと、自分にかかっていた毛布が少し引っ張られた。剥き出しの肌に少々くすぐったい。下腹部には鈍い痛み。その時になって初めて、自分の置かれている状況を思い出した。
 寝返りを打つと、自分の想い人はまだ眠っているようだ。端整な顔立ちは、薄暗い中でもやはり魅力的だった。短めの前髪をそっとかきあげてみると、男性のそれとは思えないほど滑らかに指の間を流れた。
「ん……」
 小さく声を立てて、シンジが目を開く。割に浅い眠りだったのかもしれない。まだ寝惚けているだろうと、一度だけ唇を合わせた。すると今まで虚空を漂っていた眸が、急に光を宿した。キスを返してくれるだろうか、と期待したが、シンジはレイの肩に手を添えて距離をとった。少し冷淡な態度にがっかりする。レイが理由を問おうとすると、シンジはそれを制して、
「朝からそんなことされたら、止まらなくなっちゃうでしょ?」
 その声にレイはぶうたれたように頬を膨らませて、
「別に止めなくても……」
「こら」
 レイの不平を遮って、シンジはレイの額を弾いた。
「いたっ」
 レイが睨もうとすると、シンジは急に耳元に口を寄せて、

「二回目は、優しくしてあげられないよ……?」

 さあっ、とレイの顔が朱に染まった。視線を逸らそうとするレイの腰をそっと抱き寄せて、優しく微笑んだかと思うと、

「すっごく、綺麗だったよ……」
「…………っ!」


 声にならない叫びを上げて、レイは強引に寝返りを打った。背後からシンジが首に腕を絡めてくる。

「……綾波、この部屋にどの位住んでるんだっけ」
「…………生まれてから、ずっと」
「この部屋の家具、一緒に選んだんだっけね」
「そう」
「愛着とか、ある?」
「……よく、分からない」
「……もし、よかったらなんだけど」
「なに?」
「僕とアスカとミサトさんが住んでる部屋の隣、空いてるんだ。だから……」
 言わんとすることを察して、レイは胸の前にさがった腕に手を添えた。
「一緒に住むとかそんなのは色々難しいと思うんだけど、隣なら大丈夫だと思うからさ。だから――」
「素敵……」
 もう一度寝返りを打って、シンジの方に向き直る。嬉しげな笑みを湛えて。
「どうして、急に?」
「……あの――やっぱり不安にさせちゃいけないと思って。変な言い方だけど、一緒にいる時間が増えたら、なんて言うんだろう、目の届く場所も多くなるから。それに女の子の一人暮らしは危ないし。えっと、それにさ……」
「なに……?」
 先ほどのレイが伝染ったように顔を紅くして、鎖骨のあたりに鼻先をこすりつけた。
「ぼ、僕も、出来るだけ一緒にいたいからさ……」
 はっとしたようにレイが息を呑んで、シンジの背を抱き締めた。そうだ、この人も私を求めてくれている。それを、さっきまであんなに感じていたのだから――
「朝は、毎日起こしに行くよ。綾波は低血圧だからね。お弁当は――」
「一緒に作りたい」
「……分かった。一緒に作ろうね」
 ふと会話が途切れ、シンジはレイの髪を梳いた。レイはシンジのこの動きが好きだ。どこまでも安心させてくれる。


 その時、シンジの携帯が鳴った。ベッドの下に落ちた制服のポケットから、NERV支給のそれを取り出す。
「うわ、やば……」
 携帯の液晶画面に表示された名前は“葛城ミサト”。シンジは苦笑する。
「何の連絡も入れずに泊まっちゃった……」
「どうしよう……」
 そんなことを言う間にも携帯電話は鳴り続ける。苛立つミサトの姿が見えるようで、シンジは渋々通話ボタンを押した。
「もしも――」
「しんちゅわん?ごきげんよう♪」
「あ、あの、ごめんなさい。連絡入れようと思ったんですが――」
「いいのいいの。シンちゃん。今一人ぃ?」
 分かってて訊いている。シンジは思った。なら隠し立てしても無駄だろう。シンジは重い溜息を吐いた。
「綾波が、います……」
「そう。さぞかしほっぺがツヤツヤしてることでしょうねぇ?」
「つやっ――……」
「照れなくていいわよ。NERV諜報部を舐めちゃいけないわ。全部お見通し」
「まっ、まさか」
「ああ、大丈夫大丈夫。途中で音声切らせたから。ホンバンはセーフよ」
「そういう問題じゃないです!」
 シンジは憤慨した。冗談じゃない、と。隣ではレイが顔を真っ赤にして俯いていた。自分達にプライバシーは無いのかと思ったことは、一度や二度ではない。
「まあいいわ。それでねシンジ君。レイの引越しなんだけど――」
「な、何で知ってるんですか!?」
「やあねえ、夜が明けたら監視再開よ。歯の浮くような台詞も全部記録済み」
「ななな――」
「で、レイの引越しなんだけど、今日にでもやろうかなって」
「きょ、今日ですか?」
「ええ、実は明後日から第二東京まで出張でね。忙しくなるから」
「わ、分かりました。家具は?」
「とりあえずレイの家放置。近いうちに業者に取りに行かせるから」
「はい」
「で、今リツコが迎えに行ってるから。あと五分くらいで着くわ」
「ご、五分?」
「そ、いい?」
「は、はい……」
 シンジは携帯を耳に当てたままでレイにアイコンタクトを送り、いそいそと着替え始めた。『活動限界まで、後五分!』というマヤの声が聞こえた気がした。
「じゃ、よろしく。後でね」
「はい」


 ピッ


「…………」
「…………」
「…………急ごう」
「そうね」











 後五分、というのはどうも短く見積もったらしい。思いの外時間がかかっているようで、シンジはベッドに腰かけて、安堵の息を吐いた。
「なんか、ごめんね。ばたばたしちゃって」
「ううん。私、嬉しいから」
 申し訳なさげなシンジにも、レイは笑顔で答えた。シンジもほっとした表情をする。
「……綾波は、いつでも優しいんだね」
「そんなこと」
「で、いつでも自分を低く見ちゃうんだよね」
「っ…………」
「あ、いや、嫌味じゃないんだけど。でもね」
 レイの後ろ髪を梳く。夜にも沢山された動き、とレイの顔が少し紅くなった。
「もうちょっと自信を持ったって、罰は当たらないよ」
「でも、わたし」
「ん?」
「……碇くんが分かってくれれば、それでいい」
「……そっか」
 シンジが優しくレイを抱き締める。互いの匂いを感じることが出来る距離。理性が溶けるのを感じたが、状況故に自重した。



 ちょうどその時、下の階から車のクラクションの音が鳴った。
「来たよ」
「…………………………ざんねん」
「え、何か言った?」
「何も」
 シンジは立ち上がって、玄関の鍵を取った。折角直した鍵も、もうすぐお役御免だ。
「行こう」
「うん」
 シンジが扉を出ようとすると、レイは落ちていたコートを取って、シンジに羽織らせた。


「やっぱり優しいね、綾波は」


 反射で否定の言葉が口をついて出そうになったが、その前にシンジが目線でレイを制した。その目が、レイにとって一つの答えを導き出す足がかりをくれた。




 少しは、優しくなれたのかもしれない――



 結局悪女になることも、真っ白な自分でいることも出来なかった。だけど、それでいい。今、私は確かに幸せなのだから――

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.12 )
日時: 2011/01/02 00:16
名前: calu

■ねもさん −悪女になるなら−

こ、これはとても扇情的な絵ですね…。私には肉体を武器にシンジを捕縛したレイが、これからどのように料理しようかと
小悪魔的に思案しているような、そんな妄想が一気に膨らんで――いや、感動しました。

はじめまして、caluと申します。またの投下を楽しみにいたしております。

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.13 )
日時: 2011/01/02 00:19
名前: calu

■JUNさん −悪女になるなら−

願いが叶ったようなタイミングでのJUNさんの投下。ゲロ甘度は抑え気味ですが、優しく流れるような文章がGOODです。
レイの下駄箱にも入っている筈であろう男子生徒達からのお手紙については妄想が広がりますが、あの寛容さ、やっぱシンちゃんが……。
有難うございました。またの投下を楽しみにしています。

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.14 )
日時: 2011/01/02 17:42
名前: JUN

ねもさん
初めまして、JUNと申します。
いや、こういう扇情的な絵は妄想が膨らみますね。手の拘束を解いた瞬間シンジがどういう行動に出るか……等々
楽しませていただきました。またの作品お待ちしておきます。

caluさん
感想、ありがとうございます。レイの下駄箱にも手紙は当然ある筈なのですが、それは果たしてどこへ行ったのか、その辺りは脳内設定があるんですが、それについては機会があれば。
今書きたいなと思ってるのは甘さ的に微妙ですが、何かしらの衝動で意味不明なのを書くこともあるでしょう(笑)
その時はまたよろしくお願いします。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.15 )
日時: 2011/01/25 05:46
名前: tamb

■悪女になるなら/JUN
( No.11 )

 かつてはよく「こうしないと女の子にもてない」「もっともてないとダメ」と言われていた。
今にして思えばその女の子はアスカタイプだったのかもしれない。その子がもし私の下駄箱に
その手の手紙が入っているのを発見したとしたら、これ入ってたわよと私に手渡すであろう。
その時のその子の表情も想像できる。非情に恐ろしい。やはりアスカだ。私の話をしていても
仕方がない(爆)。

 レイがシンジの下駄箱に手紙を発見したとして、もしその時にわたしには関係ないとは「思
わない」という感情(私から碇くんを取らないで)を身に付けていたら、「尋常でない自己嫌
悪」と共に手紙を捨てるという行為に及ぶ事はありえるかもしれない。凄まじいまでの独占欲
で、それは悪女と呼ぶにふさわしいかもしれない。だが最後のところで「碇くんに、話そう」
素直になってしまうのがレイらしいともいえる。月夜だったわけだ。悪女というのを「悪い女」
と定義するなら、やはり彼女は悪女にはなれない。この話はこういう話だと思う。

 だが実は、この話の素晴らしさは

> 「二回目は、優しくしてあげられないよ……?」

 ここにあるのではないだろうか。優しくしてあげない、即ち乱暴にするということで、女の
子に乱暴な事をするのは基本的には悪い男だ(乱暴にされたいというケースも世の中には存在
するが、ここでは除外させていただきたい)。このセリフは一回目がいかに優しかったかとい
うことの対比としてあり、読者の、というか私の妄想をかき立てる。もしかするとこんなとこ
に反応するのは私だけかもしれないとも思うが(爆)、レイに対してはいい男でありたいという
シンジの気持ちとお題の「悪女」とのコントラストはなかなかいいんじゃないかと。

 フレーズとして美しいのは

> そしてそんなことを言えるだけの白さも

 ここで、もしかするとミスかなとも一瞬思えるような微妙な表現だけど、ラストに「真っ白
な自分でいることも出来なかった」とあるので、意図だと思われる。こういう表現をするのは
勇気がいると思うけど、ニュアンスは伝わるし美しいと思う。

> 「そう。さぞかしほっぺがツヤツヤしてることでしょうねぇ?」

 ワロタ(笑)。

 あとあれだ。同居したら二回目以降はどうするの?

 中島みゆきさんの「悪女」はアルバムバージョンの方が好きです。

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.16 )
日時: 2011/06/06 21:17
名前: tamb


 *****悪女になるのは困難です*****


 悪女になってみようとふと思い立った。
 今までのわたしはまっすぐに生き過ぎていたように思えたのだ。これでは人間に幅というも
のがない。いつまでも純情可憐とか純真無垢とか天然とかいうキャッチフレーズに甘んじてい
るわけにはいかない。時にはわがままを言ったり無茶な甘え方をしたりして碇くんを困らせて
みるのだ。怒られたらすねればいい。
 こうして人間に幅ができれば、きっと碇くんも今よりもっと好きになってくれるに違いない。

 これはとてもいい思いつきのように思えたので、もう夜も遅かったけれど友だちに電話して
みることにした。

「もしもし」
「はいはい」

 彼女は電話に出ると必ず「はいはい」と言う。

「あのねアスカ、わたし、悪女になってみようかと思うの」
「悪女?」
「うん」
「万引きでもするの?」

 予想外の反応だった。
 そもそも悪女とはなんだろうか。基本的には悪女というのは悪い女のことだろう。万引きは
悪いことだから、万引きをする女は悪い女、つまり悪女には違いない。
 何を万引きしたら面白いか、定番は文房具か漫画かしら、などという話をし、それからとり
とめのない話になって電話を切った。いい友だちだと思う。

 万引きをしたとして、二つのケースを考えた。

 まずはバレた場合。

 問答無用で警察に通報されるだろう。初犯かどうかなど関係ない。警察から家に連絡すると
いっても家にはわたししかいないので意味がない。すると学校に連絡され、その線からネルフ
に連絡が行き、赤木博士と恐らくは碇司令もすっ飛んでくるだろう。警察の人はネルフ総司令
が来たことに驚愕するかもしれない。想像するとちょっと面白い。司令は微動だにしないかも
しれないが、赤木博士はぺこぺこと頭を下げ、涙を流して必死に許しを乞うだろう。そしてわ
たしは本部に連行され、もの凄い勢いで怒られることになる。やっていい事と悪い事の区別が
つかないのか、あたしはあなたをそんな風に育ててきた覚えはない、と。
 碇司令は無言だろう。だが碇司令の無言のプレッシャーは恐ろしい。激怒する赤木博士と同
じくらい恐ろしい。これをダブルで喰らうことになるのだ。想像しただけで泣きそうになる。

 続いて、バレなかった場合。

 話の流れからして万引きしてつかまらなかった良かった良かったでは話が進まないので、碇
くんに言うことになる。
 碇くん、あたし、万引きしたの。
 碇くんは激怒し、悲しむだろう。わたしを連れて店に行き、商品のお金を払った上で土下座
せんばかりの勢いで謝り倒すだろう。本当にすいません、許される事ではないとわかっていま
すが、どうか今回だけは見逃していただけませんか。この子は本当は真面目ないい子なんです。
魔が差しただけなんです。どうか、どうかお願いします。

 泣きそうになる。

 どちらも最悪だ。

 万引きは却下だ。

 そもそも万引きというのは窃盗という犯罪なのだから、これは悪女というより悪人あるいは
犯人なのではないだろうか。

 悪女への道は深く険しい。

 原点に立ち戻り、「わがままを言ったり無茶な甘え方をしたりして碇くんを困らせる」とい
う方向で考えてみる。
 今はもう午前三時だけれど、碇くんを呼び出してみよう。もう寝てるはずだし、とんでもな
いわがままなことは間違いない。

 やはり寝ていたのだろう、彼が出るまでに十数回のコールを要した。

「綾波、どうしたの」
「すぐに来て」
「何かあったの?」
「ううん。何も。ただ会いたいの」
「すぐ行くよ」

 碇くんはわたしを甘やかしすぎなのではないだろうか。
 切れた携帯を見つめ、わたしはため息をついた。

 悪女への道は深く険しい。

 しょうがないから善女になってみよう。でも葛城さんあたりにバレると「ぜんじょ? 全日
本女子プロレス?」とかわけのわからないことを言われるのは目に見えているから誰にも内緒。
碇くんにも内緒。

 碇くんが来た。フルーチェを持っている。

メンテ
偽物時計 ( No.17 )
日時: 2021/12/28 17:45
名前: 0855  <nphkuibmb@goo.ne.jp>
参照: https://www.kopi66.com/product/hot.aspx-page=4&id=4.htm

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0855
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