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ゲロ甘ベタベタLRS企画
日時: 2011/03/18 23:40
名前: tamb

 東北地方太平洋沖地震の被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。
 2011年3月11日14時46分に発生したこの地震は、東北地方のみならず北海度や関東地方にも
甚大な被害をもたらし、多くの死者、行方不明者を出す戦後最悪の自然災害となっています。
一週間を過ぎた今も被災地での生活は極限状態にあり、原子力発電所は危機的状況にあります。
 幸いにも大きな被害に遭うことのなかった私たちにもできることがあります。節電もそうで
すし、募金もそうです。無理をする必要はありません。できることをすればいいのです。コン
ビニの募金箱にわずかなお金を寄付することも、立派な行為だと思います。個人にできること
は小さくても、全体でみれば無視できない大きさになります。

 そのできることをするために、私たちは元気を出さなければいけません。この企画はそうい
う企画です。
 一人でも多くの人が、この企画でほんのわずかでも慰めを得ることができ、暖かな気持ちに
なって、被害に遭われた方々の力になれることを願っています。

 詳細は「謎の企画」内の「ゲロ甘ベタベタLRS企画」をご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/earthquake/earthquake.htm

メンテ

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Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.6 )
日時: 2011/03/29 15:05
名前: JUN

>tomoさん
感想、ありがとうございます。この企画は僕にしてみればある程度やりやすいかな
甘いキスのお約束ですね。糸は(爆)
どの位書けるか不明ですが、いけるところまでいきたいです。
メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.7 )
日時: 2011/03/30 00:33
名前: aba-m.a-kkv








それは、始めて見る、冷たい白い欠片が、傷だらけの世界を覆い尽くした、そんな夜。

でも、手元にあるマグカップの中身に、その白が落ちても、その中身は白くも冷たくもならなかった。

それは、私たちの、心の中のように。







ココア     aba-m.a-kkv     Pray4TOHOKU







「どうしたの?」


私がふと零した微笑に、キッチンで洗い物をしていた彼が首を傾げた。

対面式のキッチンとはいえ、窓の外を眺めていた私の表情を良く見ているものだ。

可笑しさ半分。

私をいつも見ていてくれているそのことに胸の奥が熱くなった。

あのときの約束は今も続いているのだ。


「雪」


私は少しだけ彼のほうを見て、誘うように窓の外へ視線を向けた。

青闇色の暗幕を背景に、踊り巡る白い踊り子たち。


「ああ、今夜半から降り出すって、天気予報で言ってたけど。

 降り始めたんだね」


最後の食器を乾燥棚に立てて、彼は蛇口を捻る。

私たちのいる空間に音が消えて、窓の外の無音の演劇の音が聞こえてきそうだった。

タオルを手に取りながら、彼がエプロンを着けたまま私の隣に座る。


「それで、雪の降り始めるのを見て、何を笑ったの?」


彼の二度目の問いに、私は姿勢を低くして彼に擦り寄った。

そして、彼の漆黒の瞳を見上げ見つめながら甘えた。


「ココアを入れてくれたら、教えてあげる。

 お願い、インスタントのでいいから」


彼が頬を染めながら頷いて再びキッチンに向かうのを少し見送って、私は大きなブランケットを取りにいった。

持っている中で一番大きなブランケットを引っ張り出し、テーブルに戻って耳を澄ませば再び部屋の中に音が満ちていく。

お湯を沸かす音。

食器棚から二つのマグカップを取り出す音。

そこにインスタントのココアパウダーを落とす音。

沸騰したお湯を注いでそれを溶かす音。

そのどれもが、昔は何も感じなかった、今では愛しくてたまらない音だ。

最初は無感覚に掌を滑り落ち。

次に崩れて消えていくそれを握り締められず。

そして形を汲み上げていけることに気がついたときから、その大切さを、その愛しさを育んでいけたもの。

でもそれは、私に新しい始まりがあったから。

私が私であったから。

独りではなかったから。

彼が一緒にいてくれたから。


「おまたせ、淹れたよ。それで――」


白い煙をくゆらす二つのマグカップを持って彼が私の所に戻ってくる。

私はブランケットを広げてその片側を自分に羽織りながら彼を迎えた。

それからすぐ傍に寄り添って、もう片側を彼の肩に掛ける。

そして促す。


「ありがとう、じゃあ、いきましょう」







見渡す限り一面に広がる瓦礫の平原。

隙間なく爆撃を受けたかのように要塞都市の名残さえ何一つない。

戦禍がまさに地上を嘗め尽くして消え去った痕だ。

その中央にくず折れる神々の亡骸があった。

そして骸だけに成り果てた九つの残骸に囲まれるようにして、ただ一つだけ巨人が立ち尽くしている。

だがその眼にもう光はない。

すべてが過ぎ去ったのを顕すように。

その足元に二つの影があった。

瓦礫の中に埋もれたであろう学校の制服を纏った二つの小さな影。

その二つが寄り添うように巨人の足元で火を囲んでいた。


「地上部隊が来るまでは、ここにいてくれってさ」


世界を満たしていた赤い海が引いて幾許かして、軍用のヘリが伝令と物資を落としていった。

その中にあったガスコンロで水を沸かしながら黒髪の少年が明るく言う。


「よかった

 人も、自らの形を自ら思い出すことが出来ているのね」


伝令を付した手紙を読みながら蒼銀の髪を纏う少女が呟いた。

そこには良く知る人たちのメッセージも添えられている。

少女の欠片が海へと誘ったものたちも、少年と少女の願いの元に戻ってきているのだ。


「僕たちが、生きることを望んでシナリオをねじ曲げたように、生きることを諦めなかった人たちは強いよ。

 大丈夫、人は滅びたりしない」


少年が少女の手に指を絡めて握りしめた。

少女も頷くように刻み込むように握り返す。


「そうね、行きていこうと思えば、どこだって天国になるのよね。

 例え傷を帯びていても、幸せになる機会は無限に広がっているのだから」


少女が少年の肩に身を委ねる。

少年はその髪に頬を寄せて頷いた。


「うん、そうだね。

 自分で進む道は自分達で切り開いていかなきゃならない。

 でも僕たちはまず一歩を切り開けたんだ。

 この世界を天国にするのも、生きていれば必ず出来るよ」





天が開ける。

蒸発していく海を集めた天上から混じり気のない真っ白な欠片がゆっくりと落ちてきた。


「これ、なんだろう」


少年が手を伸べてそれに触れる。

とても小さい独特な形をしたそれは少年の掌で瞬く間に消えていく。


「前、本で読んだことがあるわ。

 雪っていうもの」


少女が呟いた。

それは記録に残る事象に重なるけれど、二人ともそれを見たことがなかった。


「これが雪。

 なんだか冷たいね。

 空気も冷えてきたし。

 ちょっと待って」


繋いでいた手を離して少年が投下された物資を探る。

一瞬、少女の口唇から声にならない声が漏れた。

少年は一枚の大きな毛布を引っ張り出して広げて片方を少女にもう片方を自分にかけてくるまった。

そして、少し遠慮がちに、でも確実に、その距離を縮めて寄り添う。


「これに、くるまっていれば暖かいよ、それから――」


がさごそとステンレスのカップを取りだし、いくつかある銀色の袋に入った粉をその中にあける。

それから携帯式ガンコンロで沸かした湯をそこに注いで溶かしていく。

チョコレート色の渦がステンレスのカップの中に生まれ、疲れきった体を溶かすような薫りが二人を包んだ。


「ココアだ。温まるよ」


熱いから気を付けて、そう囁きながら少年が手渡す。

ありがとう、と少女はそれを受け取り、暫くその水面を見つめてから一口飲み込んだ。


「……甘い」


少女が驚いたように見つめ、そして目を細めた。

それから少年にもカップを差し出して勧める。


「それに、暖かいわ……」


少年は少し頬を染めながら、カップをその少女の掌と共に包み込んで傾ける。

そしてぬくもりに溶けるように笑みを称えた。


「うん、そうだね。暖かいな」








巨人の影の下にあって二人の上に雪が積もることはない。

けれど目の前の世界は、まるでそれが失われたものへの手向けの花束のように白く白く見渡す限りに覆われていく。

崩れ果てるところまで崩れきった世界。

凪の海のように残骸が広がる光景は、少年と少女が知っている全てだった世界が終わったことを顕すようだった。

この地面から上は、子供たちがまだ知らない子供たちのための世界。

そしてその上に、雪が白く白く覆う光景は、まだ何も描かれていないページのようだ。

自分達の血で洗って白くした新しい本。全ては終わり、歩き出すための全てが整い始める。


「生きて、いこうね」


覆われていく世界を見渡して少年が呟いた。


「ええ」


少女がその言葉を刻み込む。


「今度は、もう君を離したりしないから」


少女は目を見開いて少年を見つめた。

少年が、一度は離しかけてしまった少女の掌に自分のぬくもりを重ねる。

その言葉の意志を込めて。


「君が君であることを、僕の中に刻むから。

 僕が僕であることを、君の中に刻むから。

 ずっと君の隣にいるから」


少年が少女の紅い眸を覗き込む。

雫に揺れるその眸の奥の、欠けた心を優しく撫でるように。

それぞれの失ったものを、それぞれの持っていなかったものを、結い合わせて。

月の道を辿る言葉をのせて。


「だから、一緒に、生きていこう」

「うん……うん……」


少女の紅い眸から雫が落ちる。

少年の瞳からもまた同じく。

それは、世界を始まりに染める白よりももっともっと純粋だった。

それから互いに涙を拭い、互いに指を絡め、笑顔を交わしあって、荒廃した世界を二人で見通した。

何もない世界、何もないから新しく建て始めることのできる世界。

切り開いていく世界。

それを見つめて。


「いつか、この終わりと始まりがあったから、今の幸せがある、そう思えるだけの世界になるように、生きていきましょう」


火を灯す、ココアを飲み込んだ胸の中のように熱い火を。

生きていくと決めた意志を、幸せになると決めた意志を灯す。

切り開き、築き上げて行くために。

この世界を、この新世紀を。





「あの時の続き、ね」


私は、今でも鮮明に思い出せるあの時のことを思い浮かべながら、彼の淹れてくれたココアを飲む。

ベランダの欄干に寄りかかり、彼と二人ブランケットにくるまって寄り添いながら。

あの時と同じで、ココアはとても甘く、とてもあたたかい。


「そっか、あの時も、雪の降る日だったね。

 初めて雪だった」


彼が息を白く凍らせながら懐かしそうに言う。

今、目の前に広がるのは雪景色、白い欠片たちが優雅に舞い降りる。

部屋の中の電気を消してベランダに出てきたから、外の景色も良く見えた。


「これが、私が笑顔になった理由よ」


雪の薄霞の向こうに、街の明かりが見える

私たちが生きる街

私たちが生きる世界

始まりから、築き上げてきたもの。


「覚えている?」そう訪ねようとして、聞く必要なんてなかったことに気が付く。

寒さからくるんじゃない組む腕と繋ぐ手に伝わる震えと、隣を見上げた先にある彼の笑顔が私のそれと同じだから。


「ほんとだね

 ここは、天国じゃないけれど、人は生き続けることを形に出来ていってるんだ」


海から帰れない人も、帰らなかった人も少なからずいる。

でも帰ってきた人たちは皆生きようと、幸せになろうと、ここまで頑張ってきた。

その証が今ここに見える景色だった。


「そう、あの時、この終わりと始まりがあったから、今の私たち、人がいると言えるような世界を願った。

 その願いはたぶんずっと続くものなんでしょうけど、いま、この世界を見て笑顔を浮かべられるまでにはなったんだと思うわ」


幸せになる機会を人は切り開いていっている。

例え罪があり、傷があり、心を隔てる壁がいまだ人の心を遮っていたとしても。

今は、過ぎ去っていった世界より力強いと言えるかもしれない。

ほんの少しだけわかりあえるようになったと、言えるかもしれない。


「それが、私は嬉しかったの」


世界がそうなら、私たちはどうだろう。

口には出さない。

私たちもまた道の途中。

でも、この世界が新しい形を持ったのと同じ、否、それ以上に、私たちの絆はあの時よりも強くなっている。

私がここにいて、彼がここにいる。

彼の中に私の象が刻まれ、私の中に彼の象が刻まれていっている。

命を保てるのかも分からなかった私が、自分を保てるかも分からなかった彼が、やはりあの時終わりを迎え始まりを受け入れ、そしていま共に生きて歩んでいる。

一緒に生きていこう、その言葉を繋ぎ続けられている。

それは、この世界がいまここにある以上に嬉しい。

私の想いが伝わったように、彼は私を見つめて微笑んで、そして優しく抱き締めてくれた。





雪を見つめ、世界を見つめて、私は彼に寄り添う。

彼の存在を感じ、それを通して私自身を感じる。

それから私はココアを口に含む。

甘味を食み、あたたかさを飲み込む。


「どうかな、あの時みたいに甘かったかな」


彼が愛しい笑顔で尋ねてくれる。

その問いに私は一瞬考える。

あの時のココアと、今の自分を。

それから私は胸を熱くしながら答えた。


「ええ、とても、甘いわ

 けれど、今ではそれ以上のものを持っているから」


そうでしょ、そう心をのせて私は瞼を閉じた。

重なるそれはココアよりも、ずっと甘く、そしてずっとずっとあたたかかった。








メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.8 )
日時: 2011/03/30 15:53
名前: tomo  <arionemoon@yahoo.co.jp>

>aba-m.a-kkvさん

 綾波さんが幸せそうです。
 こういう雰囲気の二人をすっきりと描けるのはすごいと思いました。
 改めて尊敬します。

 あと,最後のシーンはやらられたと思いました。
 同じ行為同じ甘さを描いていても,これだけ差が出るんですね。当たり前ですけど。
 私は,直球より婉曲な表現の方が好きなので,ラストの表現はとても好きです。

メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.9 )
日時: 2011/04/04 01:12
名前: aba-m.a-kkv

tomoさん、感想ありがとうございます。
褒められすぎて、照れてしまいます。
でも、最後の一文は、このお話のすべてを架けた部分だったので、好きと言っていただけて嬉しいです。

tambさん、投下に当たってはいろいろお世話になりました。

tomoさんもJUNさんも何処さんも、テーマどおりとてつもなく甘いお話を書かれているので、なんだか読んでいて溶けてしまいました。爆
逆に私のは甘さ控えめで、しかもある意味直接的なのでどうかな、とも思ったのですが。
でも、どちらにしても、この企画のお話を読んだ人たちが、甘さだったり温かさだったりで、ふと口元が緩んでくれたらいいなあ、と思います。
メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.10 )
日時: 2011/04/06 22:19
名前: tamb


 ***** A Day in the Life *****

「綾波のこと、思い出さないよ」

 碇くんは乾いた目でそう言った。

「だって、忘れないから。ずっと憶えてるから。忘れないから思い出さないんだ」

 わたしは文庫本に目を落としたままでいた。碇くんの顔を見れば、きっと泣いてしまう。

「そろそろ行くよ」

 またね、とわたしは小さな声で言った。
 さよならは言わない。それは彼との約束だったから。
 またね――。その小さな声は、彼には届かなかったかもしれない。

「じゃあね」

 でも、彼もさよならは言わなかった。

 そして彼は出て行った。

 わたしは顔を上げ、彼の出て行ったドアを見つめた。

 もっと彼の顔を見ておけばよかった。もっと彼の声を聞いておけばよかった。
 もっと彼に見て欲しかった。もっと彼に声を聞いて欲しかった。
 もっと彼に触れて、彼に触れてもらって、キスもたくさんして――。

 今すぐ外に飛び出して、彼の背中にすがりたかった。
 ただ隣にいてくれるだけでよかった。行かないで、ここにいてと叫びたかった。
 でもそれは出来なかった。してはいけないことだった。
 わたしに出来ることは、ただ涙をこらえることだけだった。








「ただいま」
「おかえりなさい!」

 二時間後。
 買い物から帰ってきた彼に、わたしはまるで一人でお留守番をしていたわんこのように
飛びついた。しっぽがあれば千切れんばかりにぱたぱたと振っていたことだろう。
 ひとしきりキスしたあと、わたしは彼に聞いた。

「おなか減った。今日のごはん、なに?」
「丹波産夏野菜のエスカリバーダにしてみようかなと思って」
「なにそれ」
「知らない。なんか小説に書いてあったんだ」
「ごはんのおかずなの?」
「知らない」
「どうやって作るの?」
「知らない」
「……」
「これから調べるよ。何とかなるんじゃないかな」
「美味しいの?」
「知らない」
「……」
「あ、シュークリームも買ってきたよ」
「わーい!」
「ごはんのあとね」
「……」
「わかった。先に食べよう。だからみだりにA.T.フィールドを展開するのはやめようね」
「うん!」

 わたしは飛びっきりの笑顔でうなずいた。
 彼も笑顔で、その笑顔にわたしはとろけそうになった。
 だからもう一度抱きついて言った。

「碇くん、大好き!」
「僕とシュークリームと、どっちが好き?」
「…………シュークリーム」

 ほっぺをつねられた。

 痛かった。

 痛くって、幸せだった。

メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.11 )
日時: 2011/04/07 10:32
名前: tomo  <arionemoon@yahoo.co.jp>

>tambさん
 
 とりあえず。
 
 「あんたバカ〜!! 2時間ぐらい我慢しなさいよね! バカップルぶりもいいかげんになさい」

 と,私の内なるアスカ様が突っ込んでいました。

 にやりとさせて,ぽかぽかさせるのは,さすが御大。

 私的には,シュークリームと答えるレイちゃんが可愛くてすっごく好きです。
メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.12 )
日時: 2011/04/10 22:07
名前: JUN

「あれっ」
 河原で景色を眺めていたシンジを、どこか聞き覚えのある声が捕まえた。茶色がかった髪の、眼鏡
をかけた少女。どこか大人びて、達観したような表情を見せる彼女は楽しそうに土手の坂を駆け下り、
シンジの肩に手を置いた。
 振り返ったシンジはこの世の終わりのような暗澹とした表情をしており、少女は一瞬気まずそうに
表情を歪めたが、すぐにいつもの明るさを取り戻した。
「いつかのワンコ君だよね?久しぶり」
「あ、あなたは、屋上の、えっと……」
「マリでいいよ。真希波・マリ・イラストリアス」
「あ……マリ、さん。えっと、僕は――」
「知ってるよ、碇シンジ君?結構有名人だからね」
「あ、どうも」
「で、何してるの?こんなとこで。遊び盛りの少年が一人でいるところじゃないなあ」
「あ、いや、別に――」
「なんでもない、なんて言わせないよ?そんなくらぁい顔で」
「う……」
「ウジウジしてたって楽しいことないって言ったの、覚えてるよね?こうして独りぼっちでいても楽
しくもなんともないし、それならさ……」
「な、なんですか……」
 不意にシンジの肩にマリが手をかけた。妖しい笑みは、とても同い年とは思えない色気があり、レ
イやアスカに比べて明らかに大きい胸の膨らみにくらくらした。
「相変わらずいい匂いだね……ワンコ君」
「な、なん……」
「その反応もカワイイし、どう?今夜お姉さんと……」
「だだだだだダメです!ぼ、僕にはちゃんと――」
「もうカノジョさんがいるの?」
「は、はい」
「ふぅん。誰?」
「あ、綾波っていって――」
「あ!あの零号機の娘?」
「そ、そうですよ。だから離してください!」
「……………………あはは!それでいいよワンコ君!出来るじゃん」
「――へ?」
「どうせ喧嘩でもしたんでしょ?そんなお洒落なカッコして。そこにある紙袋はカノジョに買ってあ
げたのかにゃ?で、痴話喧嘩かなんかで別れて。どーしていいか分からないからこんな所でボーっと
してる。違う?」
「………………寸分の狂いもございません」
「ここでアタシに誘惑されるようじゃあまだまだだけど、あの初号機覚醒させてまで助けた女の子で
しょ?下らない喧嘩で手放しちゃだめだよ。男はどーんと受け止めなきゃね」
「……でも、あれは綾波が――」
「ほらほら、だからダメなんだよ。どっちが悪いとかじゃないの。喧嘩になったら男はひたすら謝り
倒す!これが基本にして絶対!」
「……マリさんと付き合う男の人は大変ですね」
「いーの。今はエヴァが恋人だもん」
「はは、すごいですね」
 マリのあっけからんとした声と表情は、徐々にシンジの強張った表情を柔らかくした。この少女は
どこか心の中にするりと入ってくる節がある。そして荒らすだけ荒らして、するりとまた出て行くの
だ。その強烈な個性は、ほとんど顔をあわせたことがないシンジにも深く刻み込まれていた。

「ほら、分かったら行っといで!謝るんだよ、カノジョに」
「分かり――」

「碇くん!」
「え……」
 坂の上からかかった美しく透き通った声に、シンジとマリは同時に反応した。


「綾波……」
「ほら、ヒロイン登場だよ。いいタイミングじゃん」
 マリは立ち上がって、スカートについた枯れ草のくずを手で軽く払った。
「綾波、ごめんね。僕が悪かったんだ」
「ううん。私こそ、ごめんなさい。どっちが相手のことを好きかなんて、本当はどうでもよかったの
に……」
「僕だって、綾波の気持ち、分かってた筈なのに――」




「ちょい待ち!」
「へ?」
「話の腰を折ってごめんね。でも、お姉さんにちょっと状況教えて。喧嘩の原因はなに?」
「原因って……」

 レイとシンジは顔を見合わせ、涙をこらえるような、なんともいえない表情をした。
「その、僕と綾波、どっちが相手のことを好きかっていう……僕の方が好きな気持ちは上だって言っ
たのに、綾波が違うって……」
「だって、私のほうが好きなのは本当だもの。それなのに碇くん……」
「違うよ!僕の方が!」
「私の方が!」
「……………………」





 ぶちっ





「「ぶち?」」


「よそでやらんかこのバカップルがあああああああああああああ!」




 ドボ―――――――――ン!



「いかりく―――――ん!!」





 高々と上がった水柱に、レイの絶叫が木霊した。


 シンジを軽々と投げ飛ばしたマリは、肩での息をいつまでも繰り返していた。


FIN

メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.13 )
日時: 2011/04/14 19:00
名前: tomo  <arionemoon@yahoo.co.jp>

>JUNさん

 マリ来た!!!! これで勝てる(爆)
 いいです。このマリ,可愛い。
 好きになりそう(汗) 

 私,マリってよくわかんないんですよね。私の中だと,どうしてもアスカとダブってしまう。

 でも,嫌いなキャラじゃなくて……むしろ好き。

 だからこのお話は好きです。
 きっとマリはこんな娘な気がする。 

 シンジとレイのバカップルぶりよりマリに気持ちが行ってしまいました(汗)
メンテ
Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.14 )
日時: 2011/04/15 02:27
名前: calu

 ……僕は。



 
 ……僕は。

 
 ……僕は、バカだ。ほんとうにバカだ……。

 …なんで。

  …なんで。


    …なんで……。


 
         …なんで……。




                …なんで……こんなことで。






  間に合わないかもしれない、なんて。



 コンフォート17のエレベーターから吐き出されたように飛び出したシンジは、目的の部屋に向かって駆け

だした。宵闇が足を忍ばせるいつもの廊下は、まるで漆黒に飢えたトンネルのように思えた。

 視線の先にぼんやりと浮かんだその部屋のドア――まるで黄色い鱗粉を撒いたようにライトがあてられた―

―は、近づくにつれ一層不吉な、無機質さをその光沢の中から顔を覗かせた。

 何者かにいきなり襟首を掴まれたかのように目を剥いたシンジは、汗ばんだカードキーを殆ど出鱈目にスリ

ットに通した。



                  「綾波ーーーー!!」




               ■□  Believe In Life - calu  ■□
 
 
「綾波ぃ!」

「碇くん、おかえりなさい」

 玄関に飛び込んできたシンジは、ぱたぱたと羽のようなスリッパの音を立てながら出迎えたエプロン姿のレ

イを何の脈絡もなくかき抱いた。

「い、碇くん!?」

「綾波、綾波っ!」

 百年前の呪文を引出しから拾い上げるようにレイの名を繰り返し、そのうなじに鼻先を這わせたシンジは、

体の中をレイの匂いでいっぱいにした。シンジの腕のなかのレイは、体温の調整さえ覚束ない雛のように、そ

の華奢な肢体を捩らせた。

「…碇くん」

「綾波綾波!」

「…碇…くん」

「綾波、綾波っ」

「…碇くん、痛い」

「綾波、あや…あ、ご、ごめんっ」 

「碇くん、優しくして欲しい」 

「ご、ごめん。で、でも、綾波が、その、切れそうだったんだ」 

「…きれそう?」

 少し目を丸くして小首をかしげる仕草を見せたレイに反応したのか、むしゃぶりつくようにシンジはレイを

抱く腕に力を籠め、耳たぶにキスをした。レイの体が、何かのスイッチを押されたようにビクンと震えた。
 
「…その、綾波がさ…僕の中で、切れそうだったんだ」

「…碇くん、のなかで?」

「そうなんだ。だから…こうしてチャージしないといけないんだ」

「い、碇くん、耳たぶのところで喋らないで…」

「え、何?」

「…嫌」

「綾波が悪いんだよ」

「…ど、どうして?」

「ずっと綾波でいっぱいじゃないと、ダメになってしまったんだ」

 緑深き森のなかでするように、ふたたび顔を埋めたレイの首筋でシンジは深呼吸を繰り返す。腕の中でいや

いやをして身を捩らせていたレイからは、やがて力は抜け落ち、とうとうフローリングの床にぺたんとお尻を

ついてしまった。

「あ、綾波、大丈夫!?」

「大丈夫、じゃない」

「あ綾波、ごごめんよ」

「碇くんのせい」

 そ、そんな、綾波、ごめんよ、と慌てふためくシンジは、しゃがみこんで幼女のように顔を俯かせてしまっ

たレイの背中に手を添え、その顔を覗きこむ。





 ちゅっ。





 いまシンジの目に映っているのは、レイの雪原のように白く艶やかな肌。シンジを魅了して止まない印象的

に深い紅に揺れる眸は、扇のように閉じられ、長い睫が風に撫でられては微かに身を躍らせていた。

 その唇の例えることの叶わないほどに柔らかな感触に、シンジはゆっくりと視覚の門を狭めていった。 

「……わたしも」

 躊躇いがちに唇から離されたその感触と、入れ替わるようにして、鈴をひとふりするようなレイの声が鳴った。

「…綾波」

「……碇くんが、切れそうだったから」

 薄っすら頬を染め目を逸らせたレイは、透き通るような美麗さを際立たせている。森の陽だまりに咲いた春

を告げにきた妖精。悟られないように、逃げ出さないように、そっと掌に包みこむように、シンジは白磁のよ

うなレイの頬に手を添えた。
 
「…綾波」

「……だから」

「綾波」 

「碇くん、ダメ」

「あ、綾波?」

「ごはん、もう出来るもの」

 え? と、上げた頭に降ってきたのは無粋なキッチンタイマーの音。何て奴だ、と真剣に思う。
 
 それでも諦めることの出来ないのは思春期まっただ中の男の子の証。で、でも、もう少しだけ、とレイの背

中に不器用に回そうとした腕を、レイはダンスを踊る魔女のようにするりと抜け出した。

「嫌。碇くん、優しくないもの」

「え? そ、そんな……綾波ぃ」

「嘘。また後で、……だって」

「へ?」

「みんな、着たもの」

 キッチンタイマーなど比較にならない位に大きく響いた無粋なチャイムに、やはり僕は、何て奴だ、と真剣に思う。



  ■□
  □■
                    

「へー、これファーストが一人で作ったんだ」

「これは美味しそうだね。何というプレートなんだい?」

「夏野菜のエスカリバーダ。碇くんレシピの」

「うん。て言っても、僕もこないだ何かの小説で読んで、初めて作ったんだけどね。でも綾波が作ってくれた

これって…」

 食欲をそそらせるあんばいに焦げた茄子に、雨上がりの庭園のようにオリーブオイルの打たれたパプリカが

その黄色い瑞々しさを浮かびあがらせている。

「ほんとうに、美味しそうだ」

 レイを振り返ったシンジは、健全な女子であれば誰もが赤面するような笑顔を浮かべていた。

「…いつも碇くんに、教えて貰ってるから、少しは改善してるんだと思う」

 やはり頬を染め視線を下げてしまったレイに、微妙な間を感じ取ったのは惣流・アスカ・ラングレー。その

顔に意味深な笑みが刻まれた。

「アンタたちって進歩しないように見えるんだけどさ、二人っきりで料理作ってるときって、なんかえげつな

いスキンシップしてんじゃないかなって、偶に思っちゃうのよねー」

「な、何言ってんだよ、アスカ!?」

「…さっきもあったわ」

「うへえっ!? そ、そんな、綾波!?」

「ほーらね。レイ、気を付けたほうがいーわ。このバカ、気はてーんで弱いくせにエッチなんだからさ、油断

しちゃダメよ」

「うん……碇くん、痛くするもの」
 
「あ、あ綾波ぃぃーー」

「…あんたってヤツはー、ほんっとに、さいっていのウルトラバカね!」 

「シンジ君、その行動力は尊敬に値するよ」

 いつも通りのお食事会っぽくなってきたところで、…でも、とレイの言葉がウォータークーラーの水滴のよ

うにポトリと落ちた。

「大切なものを買ってくるのを忘れたの」

「なに?」

「エスカリバーダといえば切り離せないものがあるわ」

「なによ、それ?」

「シュークリーム。エスカリバーダとはお友達だって碇くんが教えてくれたの。それなのに…」

 哀しげに顔を俯かせたレイに、寒がりの妹の背中をさするようなカヲルの声が平和に響いた。

「大丈夫だよ。そんなこともあろうかと買っておいたか――」

「わーい!」

「アスカ。それ、わたしの台詞」

「はぁ? あんた、なに言ってんのよ?」

「すごいや、カヲル君、どうして解ったんだろう」

「君たちにはスイーツが必要だからね」

「でも、あんたねー、それってどこにあんのよ、カヲル?」

「お隣の葛城さんのダイニングテーブルの上に置いたよ。食事が終わったら、取りに行けばいいさ」

「あんたバカぁ? 餓鬼道に堕ちた雑食ペンギンがいんのよー、そんな悠長なこと言ってたら、食べられちゃ

うに決ってんじゃない!」

「それじゃあ、いま取ってくる事にするよ」

「ちょっとカヲル、あんた、鍵持ってないじゃないのよ!?」

 スッと立ち上がって、図書館に入るように涼しげな顔でスタスタ行ってしまったカヲルの背を慌ただしく追

いかけるアスカ。エアロックの音にアスカの意味不明な言葉が噛みつくようにリビングになだれ込んできた。

「はは。相変わらずだね。あのふた――」




 ちゅっ。




 シンジの目に映っているのは、レイの陶磁器のように白く艶やかな肌。扇のように閉じられた眸は、長い睫

をペンライトのように揺らせている。すこし焦げたオリーブオイルの味だった。

 ……すぐに切れてしまうの、と幻のようにシンジの耳を通り過ぎたレイの声の遥か上方では、千個のシュー

クリームが弧を描いている。

 ふたたび世界中に鳴り響いたエアロックドアの音に、やっぱり僕は、何て奴だ、と真剣に思う。 





                        The End

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Re: ゲロ甘ベタベタLRS企画 ( No.15 )
日時: 2011/04/19 21:52
名前: JUN

tomoさん
感想どうもです。マリは難しいですなあ。楽しいけど。
三回位書き直したんですが、結局こんな感じです。彼女の得体の知れなさがそうさせるのでしょうか。
ただQが出たら「こんなのマリじゃないやい」と言われてしまうので、書いたもん勝ちですね。
ありがとうございました。
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