Re: 箱の名前/のの ( No.1 ) |
- 日時: 2021/11/13 05:55
- 名前: のの
- ども、ののです。
ということで公開してもらいました『箱の名前』。 あとがきでは最近知り合った仲魔(祝・メガテン5)の名前を出すにとどまりましたが、 ここからは変わらぬ勢いの自作語り大好き人間のおしゃべりが始まります。 もしも『読後感』『余韻』のようなものをお持ちの方がおりますれば、一旦そっと閉じるというのもアリです。
さて。 今回はあとがきにも書いた通り、貞エヴァを書くにあたりまして、わかりやすく『紅茶』を使うことにしました。 なにしろ、わかりやすいので。 でもね、紅茶を飲むって話、ゴマンとあるじゃないですか。 それを僕がなぞるだけになってもつまらないし、それだったらモチベーション上がらず絶対書ききれないし。 そう思いながら、出張中の機内で、その翌日にお会いする予定のB市さんの『エレメント』(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15113650)を読んでいて、 紅茶を淹れる練習をしているレイ、というのは健気でよき〜、からの『使い切った缶』というアイテムにたどり着きました。 B市さんには感謝感謝。
『紅茶の缶を捨てるに捨てられない』って、いいですよね。 その対象が「物」ではなく「具現化された思い出」になっているということなので。 思い出という、変容してしまう大切なものを、物質に仮託したくなる気持ちが素敵だなと思います。 そしてこの「紅茶の缶をとっておく」綾波レイの話というのは、今まであんまりないアプローチかも、そしてこれはかなり綾波レイ向けの話になりそうだぞ、というところから筆を取りました。
ただ、話の相手役がアスカやヒカリですと、エヴァという「閉じた世界」から脱出できないし、貞エヴァはその「庵野的閉鎖的でコラージュされた世界」ではない世界だよね、 というところから、もう少し開放的な世界でコミュニケーションが成り立っていると捉えて書いていきました。 そこで出てきたのが、今回の相手役、カナメちゃん。 多少のアウトローでないと、綾波レイとコミュニケーション取ろうと思えないでしょう、ということで肉付けしていきました。 結果『クラスからやや浮き気味だけど、存在感がある』という位置づけ。 彼女のバックボーンには相当気を遣いましたが、それの出力先は教室会話劇としての立ち振る舞いに注力。 具体的には「惣流」「相田」/「碇君」「綾波さん」などの呼び方の違い、口調の出し方やアスカに中指立てる程度には過激派、 それを受けて立つアスカの度量と彼女を認めてる感、不愉快男子を懲らしめるのに「耳打ちした言葉」で仕留める何かを知ってるただものじゃない感。
この辺は朝井リョウさん的と言いましょうか、端的に映画版『桐島』の影響ある気がします. それと『青のフラッグ』ね。クラスの雰囲気的にも、テーマ的にも近いです。
エピソード自体の着地点はわりと最初に「紅茶のエピソードで、なくなった紅茶の缶には思い出が詰まってることを認めて大切にすることにした」でまとめるつもりでした。 だけどこのカナメちゃんがとても良い感じにドライブしてくれて、最後は「彼女と一緒に空を見上げて笑う」でゴールイン。 ここまで突き進めて嬉しい。 途中から『これ、でーちゃんとtambさんの書いたモブ小説やん』と気づけたおかげで書けました。 先人のお二人に感謝。
お話のテーマ的には、国語の授業で出てきた漢文がすべてです。 中学生そのものじゃん、と思ったので。 そこにかもめのジョナサンをマッシュアップしたラストシーンは我ながら満足度高し。
たぶんカナメちゃんと綾波はこのまま仲良くなるとかはないんだけど、彼女が教室に入ってきたら普通に挨拶くらい交わすと思います。 そんで10年後に『久々に飲もうぜ』とかカナメちゃんから誘われて、そっから年1〜2くらいで会う飲み仲間になるんだと思います。 途中からそう思いながら書きました。 この程度の距離感の知り合いというか友達というか、実は大好きみたいな関係性ができてたら、補完計画後に「自分のいない世界で『あなた(だけ)を待つ』」なんて 思わないし、そんな世界にはならないんじゃないか、という願い。 その関係性については先日モーニングに掲載された読み切り漫画『時間跳躍式完全無劣化転送装置』を思い出しながら書きました。
書き終えて思ったんですけど『空っぽが気がつけばいっぱいになってた』話は、完全にBUMP OF CHICKENの『orbital period』にある『arrows』ですね。 無意識に染み渡っている。こわ。
◆モチーフ ・エレメント ・モブ小説 ・桐島、部活やめるってよ ・かもめのジョナサン ・井蛙不可以語於海者、拘於虚也 ・青のフラッグ ・arrows ・時間跳躍式完全無劣化転送装置(モーニングに掲載された読み切り漫画。『箱の名前』読んだ人は必読です!) ⇒URL:https://comic-days.com/episode/3269754496432828238
自作語りは、ひとまずこれにて。 読んでもらえてうれしいかぎりです。
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Re: 箱の名前/のの ( No.2 ) |
- 日時: 2021/11/13 06:46
- 名前: のの
- ◆tambさん
校正、公開、感想ありがとうございます。 いや、本当に、貞とか庵とか、全然意識してこなかったし、今でもそのレイヤー構造には首を傾げる時もあるのですが、そもそもその見方自体が新鮮なので、今回は面白かったです。 僕も自分がシンジ君を描くときは、完全に自分のためのシンジ君に変換してしまいますし。その結果、相当庵寄りだとは思うのですが。
綾波レイに人間味があるのは貞エヴァ最大の特徴なので、今回はそこを最大化してみました。 そのために生み出したある種の泥臭い人間味のあるカナメちゃんという人間が、レイを人間として、クラスメートとして扱ってくれたことでそれを引き立てられていたら嬉しいかぎり。
アスカやヒカリじゃないよなあ、というのは、ありますね。 『離れていても、どこにいても』や『Kimiの名は』を読んでいたころに、何故みなさんがオリジナルキャラクターを立てるのか、ようやく理解できた気がしました。おせえー!
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Re: 箱の名前/のの ( No.3 ) |
- 日時: 2021/11/13 09:55
- 名前: 史燕
- 執筆お疲れ様です。すてきな作品を拝読できて幸せです。
みなさんの感想と同じ話をしてしまいますが、本作の相川カナメさんというのがとても魅力的で、レイとも、シンジやアスカとも、他のクラスメートとも違う価値観と自己主張をしている存在で、だからこそ綾波レイという、同級生でも少し特殊な立ち位置にいる彼女を気に掛けて、行動に移してくれたのかな、と思いました。
ラストの >そして、一緒に笑った。 これが、読了後にも私の中ですごく効いていて、一緒に笑える存在が彼女に出来たこと、そして彼女自身が誰かと笑えるようになったこと、それが、本編(貞・庵共通して)で自分自身をあまりに省みなかった彼女にとって、大きな大きな変化なのだと思います。とても喜ばしいことだと思います。
>レイは手に持った缶の蓋を開け、香りを嗅いだ。頭の中にしまってあっ記憶が宇宙に散らばり輝いた。それらを拾い上げて抱きしめる。 その様子が、想いが、頭の中で再生されました。 この部分を何度も読み返しました。 彼女の記憶が、思い出が、そしてそれに対する彼女の愛おしさが、如実に、明白に、これでもかというくらいに、突きつけられていたので。
大海を知らずとも空の青さを知った彼女は、きっと大きく羽ばたいていく、羽ばたいてくれる、そう思わせていただけました。
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Re: 箱の名前/のの ( No.4 ) |
- 日時: 2021/11/13 10:17
- 名前: のの
- ◆史燕さん
いつも感想ありがとうございます。幸せ!
>他のクラスメートとも違う価値観と自己主張をしている存在で、だからこそ綾波レイという、同級生でも少し特殊な立ち位置にいる彼女を気に掛けて、行動に移してくれたのかな、と思いました。
そうですね。彼女は形成されつつあった学内ヒエラルキーに嫌気がさしてそこを脱してその結果苦手に入れた自由と孤独に苦しんでもいます。 その中で、ヒエラルキーなんぞどこ吹く風の綾波レイに対する何らかの思い入れがあるようです。 結果、そうしたヒエラルキーはアスカという女王によって「等しく皆下民」となってしまい、彼女もそのことについてアスカに対して一定の感謝があるようです。
>>そして、一緒に笑った。 >これが、読了後にも私の中ですごく効いていて、一緒に笑える存在が彼女に出来たこと、そして彼女自身が誰かと笑える用になったこと、それが、本編(貞・庵共通して)で自分自身をあまりに省みなかった彼女にとって、大きな大きな変化なのだと思います。とても喜ばしいことだと思います。
そうですね。綾波レイの笑顔って作品世界の象徴とも言えるもので、物凄く貴重なだけに軽々しく扱えない、みたいなことを思っているのですが、 今回はあえてそこを崩して、むしろ新劇のアスカが言うとところの「そうか、アタシ、笑えるんだ」に近いかもしれません。 なんとなく「レイの笑顔=シンジに向くもの=シンジのためのもの」という図式がうっすら成立しているのも、2021年の世の中においてどうなのよ、という風にも思いまして。 なにより、彼女の笑顔は彼女のためにあるので、クラスのアウトローと通じ合う、という、これもまた一種の形式ですが、そこでも適用されていいのではないか、と思いました。
>>レイは手に持った缶の蓋を開け、香りを嗅いだ。頭の中にしまってあっ記憶が宇宙に散らばり輝いた。それらを拾い上げて抱きしめる。
>その様子が、想いが、頭の中で再生されました。 >この部分を何度も読み返しました。 >彼女の記憶が、思い出が、そしてそれに対する彼女の愛おしさが、如実に、明白に、これでもかというくらいに、突きつけられていたので。
とにかく感情めいた表現を抑えに抑えた(というか、発生しない)状態が続いていたんですけれど、どこかで何かが生まれる話であってほしくて。 そのひとつが、元々のクライマックスとして想定していた「ただの空き缶に別の意味が付与されていることを自覚する」この点でした。 捨てられない時点で思いはあるのだけど、それが何かわからない。 それが、香り一つで、名前も言葉も言わずとも、すべて彼女の宇宙に彼が生まれて消えることができる。 記憶と結びつきがちな「香り」が持つ魔法だなと思います。
>大海を知らずとも空の青さを知った彼女は、きっと大きく羽ばたいていく、羽ばたいてくれる、そう思わせていただけました。
空の青さを知れるのは、大海を知らない中学生の特権だと思います。 今回は、それを味わってもらいました。 大人になった時に、上手に淹れられなかった紅茶の香りと共に、思い出してくれたらなあ、と思います。
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Re: 箱の名前/のの ( No.5 ) |
- 日時: 2021/11/13 15:54
- 名前: tamb
- 誤字誤変換後入力の類を修正してバージョンアップしましたーはぁはぁ。
ま、細かい話っす。大勢に影響はありません。神は細部に宿る、と言いますが、ありとあらゆる細部に神が宿っているわけではないのではないかと。
しかしこういう作業をしている時に他の部分に目が行って、結果的に物語の強度が上がるということもあるので、軽視してはいけないのです。はい。
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Re: 箱の名前/のの ( No.6 ) |
- 日時: 2021/11/13 17:05
- 名前: aba-m.a-kkv
- ののさんの新作読みましたあ。
やはりさすがですな! もうどうしようもなく素敵な物語でした。
まず感嘆するのは、ちゃんとののさんの物語の箱を作り上げていること。 二次創作は原作という世界観の箱が存在しているゆえに土台がしっかりしているものだから、もうひとつクローズアップした描き出したいところの世界観があいまいでも小説として成り立つのですが、 やはり描き出したい部分の箱というものをしっかり作り上げられると物語のコントラストが上がるように思います。 そしてののさんはその箱の作り方がすごい。 エヴァの世界観という大枠の箱の中に、ののさんが描き出したい世界の箱というものがしっかり作り込まれている。 それが伝わってくる丁寧さや精緻さが文章に現れているからさすがとしかいえないです。 そして自作語りを見て納得します。 裏側を語れるだけのものがあるからこその強固さ。
そしてみなさん感想に述べられているのに続きますが、相川カナメという人物がまたいいですね〜。 一人の人間を創造しなければならないオリキャラというのは私個人はすごく難しいと思っているんですが、このカナメはストーリーの中にあってすごく自然。 そしてエヴァにはいないキャラクターとレイを結びつけるのがまた素晴らしい。 レイはこれまで限られた人としか接点を持たないまま生きてきたので、こうやっていろいろな人と触れ合いを持ちながら未来の可能性を広げていってほしい。 その第一歩、ひとつの可能性の転換点をこの物語で見ているような気がしました。 ののさんがBUMP OF CHICKENのarrowsをモチーフにのせていましたが、奇しくも私はこの点で同じアルバムのflibyを思い出しましたよ。 歌詞の内容というよりタイトルの単語そのものからだと、レイが遠くに飛んでいくために重力を貸す星々のひとつがカナメなのかなと。 そして、いつか、ののさんが書いているように、年に数回必ず会うような友人関係になる時に、歌詞の内容のようになるのかな、と。
しかして、シンジ君が添え物程度にしか出てこないのに、「もういっぱいになってるから」の一文でちゃんとLRSになっているのが素晴らしい。
さて、気に入ったフレーズ。 「今も水筒と当たってカタカタしてんじゃん」 「違う色のボトル同士がぶつかり合って、金属同士の音が鈍く響く」 なんだか音が想像できて心地よい。 音が聞こえてくるってすごい。
「頭の中にしまってあった記憶が宇宙に散らばり輝いた。それらを拾い上げて抱きしめる」 この一文は、もう、ほんとすごい。
ケンスケの写真の場面からの、ラストの青空への繋がりとかもいいですよねえ。
素敵なお話をありがとうございます。
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Re: 箱の名前/のの ( No.7 ) |
- 日時: 2021/11/15 20:14
- 名前: のの
ここまでベタ褒めされるともはや怖い! しかもオリジナルキャラクターでお褒めいただけるとはなあ。年食ったぶん蓄えた知見を活かせた気がして、生きててよかったって思います。割とマジで。
◆aba-m.a-kkvさん 感想ありがとうございます! 作品の解像度が異常に高い感想で戦慄しています。 こわこわ、そんな強度あるかな、大丈夫かな。
> エヴァの世界観という大枠の箱の中に、ののさんが描き出したい世界の箱というものがしっかり作り込まれている。
おお……そうなのか。自覚していないので新鮮でした。 確かに、短編を書くときはとりわけ、切り取り方が大事だと思ってます。 「途中から始まって、途中で終わる」のが短編なので。 そういう意味では2次創作の「どのへん相当の話」っていう基本設定ってめちゃくちゃ重要ですよね。 アフターもの書く時も「原作のまんまってこと?どうなん?」てのがあるわけで、そのへんはそれこそabaさんの『ワールド〜』が上手いと思ったところです。 今回はカナメちゃんという女の子が、特別ではないけれど、何か色々あったんだろうなと思わせてくれる女の子だったので、読み手の方には「ここに至るまで、この年なりに色々ある」ことを大前提として話を進めることについて概ね合意が取れたのが良かったんだろうな、と、こうして書いてて思いました。
> 奇しくも私はこの点で同じアルバムのflibyを思い出しましたよ。 >歌詞の内容というよりタイトルの単語そのものからだと、レイが遠くに飛んでいくために重力を貸す星々のひとつがカナメなのかなと。 >そして、いつか、ののさんが書いているように、年に数回必ず会うような友人関係になる時に、歌詞の内容のようになるのかな、と。
あのアルバム全般「関係性と距離感」について歌われているので、通底しているものがありますよね。 その中でもFlybyは、確かにこのふたりの、なんてことのない関係性(0ではない)の、緩い引力で紐づいている関係性にぴったりだと思います。 だからって、三次小説書いてくれるとは思わないですよ!?笑
> シンジ君が添え物程度にしか出てこないのに、「もういっぱいになってるから」の一文でちゃんとLRSになっているのが素晴らしい。
今回のお話はレイ×カナメにほぼ終始しているんですけど、これも切り取り方がそうなっているだけで、シンジは出てこなくても、原作通り2人は互いのことを思い合い始めているので、それが表出するのは自然のことだなと思いました。 個人的には「レイが大切にする紅茶の缶」について、カナメが追認するという形でナチュラルにレイのシンジへの思いを補強する役割を果たせたのは、人間関係の妙味って感じがしてよかったですね。それでいて、カナメが「そのための人物」にはならずに済んだことも含め。
> 「違う色のボトル同士がぶつかり合って、金属同士の音が鈍く響く」
デショ
> 「頭の中にしまってあった記憶が宇宙に散らばり輝いた。それらを拾い上げて抱きしめる」
デショデショ. こことラストの「空だ」からの3行だけは、はっきりと情念を描写しました。
そして『Flyby』ですが、これはまだ嬉しすぎて頭が追いつかないから、また明日!!
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