Today is another day

――後編――
Written by DRA


父さんから渡されたプリントを広げる。

【ベストパートナーコンテスト】
参加者はもちろん男女ペアでお願いします。
優勝されたペアにはステキな賞品を差し上げます。

プリントを見ながら父さんを横目で見る。
みっ見られてないよね。
父さんの態度は別段怪しいところは何も無かったから。
とっ父さんには悪いことしちゃったし出てみようかな。

男女ペアっていう事だから、誰か誘わないと。
委員長は無理だな、疲れて寝てるし。
それにトウジに申し訳ないから。
母さんも無理、父さんと一緒に参加するはずだから。

残ったのは。
ミサトさん。
リツコさん。
マヤさん。
アスカ。
綾波。

ミサトさんとは気が合いそうだけど今はお酒飲んでるからパス。
リツコさんはなんだかあんまりこういうのは興味なさそうだしパス。
マヤさんならいいかな。

そう思いマヤさんがいる部屋の隅に声を掛けようとした時、何かに見つめられていることに気付く。
今までミサトさんと一緒に部屋の隅で楽しんでいたアスカと綾波がいつの間にか僕の隣に座っていた。
ただ座っているだけじゃなくて何だか僕のほうを真っ直ぐ見ている。

あっあの目は誘って欲しいってことなのかな?
違ったら違ったで何だか僕がバカみたいだけど。
とっとりあえず僕と参加したいという事を仮定してこの後の事をシュミレーションすると。


IFアスカを誘った場合。
「それじゃアスカ、一緒に参加してくれない?」
「OK、分かったわ。それじゃねぇレイ。」
僕とアスカは仲良く手を繋いで海の家から出る。
一人取り残された綾波。
「私じゃダメなのね。碇君。」
俯き紅い瞳から涙をこぼす。


IF綾波を誘った場合。
「それじゃ綾波、僕と一緒に参加してくれない?」
「ええ。」
僕と綾波は手を繋げる距離だけど、繋がず寄り添って海の家から出る。
一人取り残されたアスカ。
「アタシを誘わなかった。シンジ、あとで絶対殴る。」
海の家の瓦を剥ぎ取り、それを易々と片手で砕くアスカ。
蒼い瞳に復讐の炎を纏いながら僕の帰りを待つ。


どっちもイヤだ。
綾波を泣かせるのはものすごく気が引ける。
アスカを怒らせると殴られるから痛い。
いや、でも二人とも僕と参加したいなんて一言も言ってない。
そうだよ、一緒に参加したいんだったら僕に声を掛けるはず。
やだなぁ僕って、自信過剰だよ。
ここはやっぱりマヤさんを誘おう。

「マヤさん、僕と参加してくれませんか?」
「えっ私なの?やっやだーもうっシンジ君ったらお姉さん困っちゃうじゃない。」

口ではイヤだと言っているが頬を真っ赤に染めて手をブンブン振っているので全然イヤそうではない。
むしろ嬉しそうに見える。

「だれを誘ってるのかなぁ?バカシンジ君。」
うぅ・・・振り向きたくないよぉ。
振り向かなかったことが悪かったのか、何かに服を引っ張られる。
アスカだと思い恐る恐る振り向くと綾波だった。

「あっ綾波・・・そのっ間違ってたらごめんね。綾波ももしかして僕と参加したいの?」
白い頬が徐々に赤く染まっていく。
そして小さく頷いた。
うっ可愛い・・・。


「ほらっ二人とも、シンジ君が困ってるじゃない。」
リツコさんが助け舟を出してくれた。
「こういうときはジャンケンで決めればいいでしょ。それとシンジ君はこっちに来て。」
「はい。」

僕は二人から離れてリツコさん達の近くに座った。
残されたアスカと綾波。
でも綾波はジャンケンを知らなかったようで、アスカに教えてもらっている。
僕のとなりでマヤさんが持ってきたノートパソコンを構っている。
リツコさんがタバコに火をつけマヤさんのパソコンを覗き込む。

「マヤ、MAGIの回答は?」
「はい、グーが33%、チョキが33%、パーが33%、残り1%は回答を保留しています。」
「ふっ、ジャンケンはロジックじゃないか・・。」

えっ?マヤさん、それどう見ても普通のノートパソコンなんですけど・・。
あんなバカでかいMAGIを移植したんですか?
移植した理由は?
それよりも何でジャンケンをMAGIでシミュレートしてるんですか?

次から次へと頭に疑問が浮かんできて、なにから尋ねればいいのか分からなかった。
そんなボケッとしている僕に構わずパソコンを操作するマヤさん。
その顔が苦渋の表情に変わった。

「先輩、どうします?このままでは本作戦に影響を及ぼしかねません。」
「しかたないわ、RESL.Exterminationへ移行。」
「了解しました。シンジ君、これでアスカを撃って。」

手渡されたのは黒光りするコルトガバメント(M1911)。
重さわずか1kgだが、その重みをズッシリと感じる。
サイレンサー、それとレーザーサイトと呼ばれる赤い光のアレが付いており射撃に適した形になっている。
「あっははは、マヤさん冗談きついですよ。」
何かのタチの悪い冗談だと思い笑いながら拳銃をマヤさんに返す。
僕なりのツッコミだったけど、この二人は別段ボケてはいなかったようだ。
なにせ二人の目は真剣そのもので、使徒戦のそれだったから。

「シンジ君、いいから撃ちなさい。」
「そっそんな無理ですよ。アスカは大切な友達ですし、それに理由が分かりません。」
「いいの?シンジ君。このままだとアスカは暴走して、シンジ君やその友達にまで被害が及ぶわよ。」
「どうしてアスカが暴走するんですか?」
「ジャンケンに負けたら暴走するわよ。」
「まっまたまたぁ、そんな大げさな。」
「事実よ、受け止めなさい。」
「あっあの・・・事実って。」
「シンジ君、ミサトから聞いてるわよ。あの旅行の露天風呂の一件。シンジ君は知ってるかもしれないけど、あの時ATフィールドの発生を確認したのよ。」
「やっぱりATフィールドだったんだ。」
「アスカは気が高ぶると暴走してATフィールドを展開させる事ができるのよ、あの時のように。幸い被害者は一人だけだったけど、今度もそうなるとは限らない。この窮地を救えるのはシンジ君だけなのよ。」
「僕だけなんですか・・・。」
「そうよ、でも安心しなさい。シンジ君に渡したのは麻酔銃。アスカを眠らせた後は記憶操作を施して今日のことは忘れさせるわ。」


そっそうだ、ケンスケがあんな大怪我したのはアスカがATフィールドを使ったせいなんだ。
ここで僕がやらないとみんなを怪我させてしまう。
僕が何とかしなくちゃ。
逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

「撃ちます、僕が撃ちます。」

揺ぎ無い決心をして、男の顔になるシンジ。
そのわきで事が上手く運んだのを密かに喜ぶマヤとリツコ。
ちなみに露天風呂でATフィールドを展開したのはレイ。
タオルを巻いており裸は見られていないが、レイを怒らせるのには十分だった。
リツコに濡れ衣を着せられたアスカだが、もちろんATフィールドなど展開することはできない。
それにあの時は髪の毛を洗っていたのでケンスケの愚行には気付いてはいなかった。


マヤさんから受け取った拳銃のレーザーサイトがアスカの首で赤く光る。

「レイ、恨みっこナシだからね。」
「・・・ええ。」
「目標をセンターに入れてスイッチ。」
「・・・フィールド展開。」

銃弾が赤い光に包まれ、やがて消える。  
見るとカヲル君がアスカと綾波を守るかのようにATフィールドを展開していた。                                                                                                                                                                                                          

「カ、カヲル君。どうして?」
「シンジ君、君には悪いけどアスカを撃たせるわけにはいかないんだ。」
「なんでだよ?」
「これまで僕はあまり出番がなかったんだよ。」
「そんな出番がないことくらいで・・・そんなの関係ないよ。」
「それにアスカのことは好きだからねぇ。」
「お願いだよカヲル君、そこをどいて。アスカを撃たなくちゃ、みんなやられちゃうんだ。」
「それは出来ない相談だよ。」

どうすれば、どうすればいいんだ。
この拳銃でカヲル君のATフィールドを貫通させることはできない。
それにカヲル君は関係ないし、友達だから撃ちたくない。
幸い、アスカたちはジャンケンのことで頭がいっぱいみたいでさっきのことに気付いていない。

「シンジ君、これを使って。」
白衣の内ポケットから黒いフォークのようなものを僕に投げ渡すリツコさん。

これで一体どうしろと?

フォークを握り締めた状態で無限ループに陥りそうになったが、リツコさんがこれを渡した理由は一つしかない事を思い出す。

「当てる。」
カヲル君を目がけて思いっきり投げる。
「ロンギヌスの槍・・・・その複製か。」
僕の読みどおりカヲル君はそのフォークをよける。
よし、隙ができた。

「「ジャンケン・・・・。」」
「当てる。」
カヲル君とアスカの間にできたわずかな隙間。
照準を合わせて引き金を引く。
見事にアスカの首筋に命中。
カッと目を見開いた直後、すぐにその目が閉じていく。
そしてアスカは綾波にもたれかかった。

「目標、沈黙しました。」
「よくやったわ、シンジ君。」
マヤさんに拳銃を返し、すぐにカヲル君の元へいく。
カヲル君は何故かすごく疲れたような顔をしており、だるそうに座っていた。
「カ、カヲル君・・・ごめん。」
「いいんだよ、僕がアスカを守れなかった。ただそれだけさ。」
「カヲル君。」
「シンジ君。すまないが少し休ませてくれないか。フィールドを展開して疲れてしまったようだ。」
「うん、お休みカヲル君。」
そのまま横になり、すぐに寝入った。
綾波にもたれていたアスカも、カヲル君のとなりに寝かせてあげた。

僕の成すべきことは全て終わった。
そう思い、僕自身疲れていたからカヲル君のとなりに寝転がろうとした。
「・・・碇君。」
「なに綾波?」
「行かないの?」
「へっ?・・・・あっそっか。」
思わず間抜けな声が出てしまった。

特設会場となっているその場所は僕らのいた海の家から歩いて2分くらいのところにあるらしい。
父さんと母さんはすでに行ってしまったみたいだ。
時間までまだ余裕があるから僕たちはゆっくり歩くことにした。


ふと左隣の綾波を見ると右手をそわそわさせている。
その右手が僕の腰の辺りをさまよっている。
もしかして・・・手を繋ぎたいんじゃ。

『綾波、手を繋ぎたいんだったら言えばいいじゃないか。僕はいつでもOKなのにさ。』

首をかしげながらウインク+白い歯を見せて親指を立てる。
なんてカヲル君ならできるかもしれないけど僕には絶対ムリだ。
繋ぎたくないわけじゃないけど、僕から言うのは恥ずかしい。
それに僕の勘違いって事もあるし。
あーっでも・・・僕がただ臆病なだけか。
綾波もイヤじゃないよね。
さまよってる白い手をつかみ、そのまま握り締める。

「あっ・・・・。」
聞き取れるかどうかの小さな声。
でもイヤがられていない。
その証拠に僕の手をしっかりと握り返してくれたから。
綾波の手って意外と温かいんだな。
白いから冷たいって思ったんだけど。
なんてまた失礼なこと考えちゃったよ。



「さぁ今年もやってまいりました。BPコンテスト。ルールはいたってシンプル。3つの競技を勝ち抜いたカップルが優勝です。」
「ウオォォォォォォォォォォォォッ。ヒューヒュー。」
会場に着いてみると壇上で主催者らしい人が挨拶をしていた。
そして、その近くで父さんがバカみたいに一人で騒いた。
少し頭痛を覚えながらも父さん達の近くに行く。
何がそんなに嬉しいのさ、まったく子供として恥ずかしいよ。
父さんのとなりにいる母さんも剣呑な顔つきになってるし。

「父さん、恥ずかしくないの?」
「ウオォォォォォォォッ。なんだシンジか。」
「あらレイちゃんと一緒なのね。」
「母さんも大変だね。」
「ええ。そうだシンジ。これが終わった後ちょっと話したい事があるから、黄色い屋根の海の家に来て。」
「うん、あのさ母さん。なんか夫婦とかカップルとかが多いんだけど。どうして?」
「それはそうよ。だってこのコンテストそいういう人たちを対象にしてるんですから。」
「そうだったの。それなら・・・・・」

「それなら・・・・なに?」
なんだか強く握られてるような気がする。
隣の綾波を見ると少し怒った顔をしていた。
「あっあのね、けっして綾波がイヤだっていうわけじゃないんだよ。」
まだ強く握ってくる。
「ツッゥゥ・・・・・。」
強く握られるのはガマンできるけど、綾波の爪が僕の指に食い込むのはガマンできない。
いっ痛いよ。このままじゃ血が出るって。
あまりの痛さに繋いだ手をほどこうとしたけど、綾波の握力がそうさせてくれなかった。
このままじゃ血が出ちゃうよ、そんなに怒らないでよ。
泣きそうになりながらも必死に許しを請う。
「あっいやーー。その・・うん。綾波と一緒にこのコンテストに出れて嬉しいなぁ。」
少し握る力が弱くなってきた。
「うん、たぶんアスカとなら出る気はしなかったと思うよ・・・うん。」
さらに力が弱くなる。
「なんか綾波と一緒じゃなきゃダメだったと思う。」

うわぁ、こんな事言うなんて。
なんか恥ずかしいな。
でも、そう思う反面で自分が今まで隠してきた思いが消化されていく爽快感もあった。
だから次の言葉も自然と出てきた。
「それにそういう事がはじめから分かってたら迷わず綾波を誘ってた。」
「・・・ありがとう。」
よかった、綾波が機嫌直してくれて。
先ほどまで痛かった手が今は温かく感じた。



僕達の前には【イス】【テーブル】【羽織】【カップのアイス】が置かれる。
「それでは第1回戦、二人羽織アイス。」

二人羽織か・・・やったことないから上手くできるかな。
僕と綾波のどっちが前で後ろになるかを決めなくちゃ。
周りのペアを見るとほとんどが男性は後ろになっていた。
僕も後ろでいいかな。
周りに流されかけたが、重大な事柄を忘れていたことに気付く。
ダッダメだ。
もし僕が後ろで膨張なんかしちゃったら。

軽蔑される。
冷たくあしらわれる。
僕が話しかけても無視をする。

そんな事にでもなったら今までの計画が全て水泡に帰してしまう。
母さんとマナに申し訳ないよ。
それに綾波にはもっと申し訳ない。
そう考えた僕は前になることにした。

「綾波、羽織ってくれない?」
「分かったわ。」
綾波は普通に羽織を纏る。
ある程度予想できた事とはいえ、それに直面してしまい慌てる。

「あっあの、綾波、僕も羽織るから。それに綾波はそういう羽織方じゃなくて。頭を隠すようにやってくれない?」
「それだと前が見えないわ。」
「あのっそれがルールだからさ。」
「わかった。」
頭を羽織に隠し、僕の入れるスペースを作ってくれた。
「そっそれじゃ僕も羽織るから。」

綾波を後ろに感じながら羽織り始める。
前は前でヤバイ・・・・・綾波の体を思いっきり感じてしまう。
海に行くなど考えてもいなかったので学生服のままだが、それでも膨張は完全に隠れることはなかった。
これがもし水着だったら立派なピラミッドが出来てるよ。

「うわっ。」
急に白い腕が僕の体を縛ってきたのでびっくりした。
いったい何だ?これは綾波の腕か?
何故こうなったのか分からず軽いパニックに襲われる。
そんな僕の耳にか細い声が入る。
「前が見えないから怖いの。このままでいい?」
「あっあっあっ・・・・・あの・・あやなみ。抱きついたままだとアイス食べれないからさ。」
ギュッと僕を抱きしめる力が強くなる。
離さないで欲しいって言ってるみたいだ。
「ダメ・・・・なの?」
綾波の吐息が首にかかる。 

もうこのままでいいかなぁ。
可愛いし。
甘えられるの嬉しいし。
抱きしめられるの嬉しいし。
綾波の意外なところが見れて嬉しいし。
なんだか頼られてて嬉しいし。

いや、このままじゃダメだ。
このままだと理性が飛んじゃうよ。
必死に自制心を保つ。
「そっそうだ、帯で結べばいいんじゃないかな?それなら僕と離れないからさ。」
「分かった・・・そうする。」
少し、残念そうに呟いた綾波は白い腕を僕から離す。
離したのを確認して僕は帯を締めた。
ちょっとだけきつく締めた。

出遅れた僕たちは急いで競技に戻る。
綾波はアイスのカップを左手に持ちスプーンを右手に持った。
シャリッとスプーンでアイスをすくい、そのまま僕の口があるところまで持っていく。
用意されたイスは使わなかった。
座って食べているペアもいたけど、綾波の上に乗るのは気が引けたから。


「碇君、はいアーンして。」
「うん。」
しかしいくら待ってもスプーンが動かない。
いいかげん口を開けているのが辛くなる。
「綾波、どうしたの?」
「こういうときは『うん』じゃなくて『アーン』じゃないの?」
「えっ・・でも恥ずかしいよ、そんなの。」
「・・・アーンでしょ。」
「あっ綾波って・・・あのっ・・けっこう冗談とか好きなんだ。」
「・・・アーンでしょ。」

スプーンですくったアイスが溶け始めてきた。
まったく動かない綾波の腕。
恥ずかしいけど、僕の知り合いは誰もいないはず。
周りを確認すると、父さんと母さんしかいない。
その二人も今は競技に夢中だ。
僕は覚悟を決めた。
「あっ・・・あっ・・・・アーン。」
「はい。」
言っちゃったよ。めちゃくちゃ恥ずかしい。
口の中に広がる冷たさとは反面に僕の顔は火が出るほど赤くなった。
あまりにも恥ずかしくなり頭の痛さなどお構いなしに僕はアイスを食べ続けた。
それが功を奏して僕たちは1回戦を勝ち抜くことが出来た。




「第2回戦、以心伝心クイズ。ルールは二人の回答がぴったり同じであることです。それではシンジ君、レイちゃん用意はいいですか?」
なぜか日向さんが2回戦の司会を担当していた。
そういえば父さん達のところの司会は青葉さん似の人がやっていたような。
カヲル君と同じで出番が少ない事を嘆いたのかな。
まぁ深く考えるのはよそう。
なるほど、僕と綾波の答えが同じだったら得点が入るのか。
全部で10問あるみたいだ。


僕と綾波は少し間隔を置いた即席の回答席に座る。
ちょうど綾波とは向かい合う形になった。
小さなホワイトボードとマジックペンが目の前のテーブルに置いてあった。


「第1問・・・・・シンジ君はレイちゃんの事をどう呼んでいますか?」

【綾波】
【綾波】

意外と簡単な問題なんだな。
これなら10問正解することも出来るよ。


「第2問・・・・2人が初めて会った場所はどこですか?」

ミサイル、サキエル、蜃気楼。
それらが頭に浮かぶ。
第参使徒戦闘中、ミサトさんが迎えに来てくれる前に綾波に似た人が目の前にいたんだけど、あれは本人っていう確証がないし。
紫色の初号機、包帯。
次にそれらが頭に浮かぶ。
会ったというのであれば、やっぱり初号機の前になるのかな。
チラッと綾波を見る。
彼女にしては珍しく肘をテーブルにつき何かを考える仕草をしていた。

【第参使徒戦闘時、初号機の前】
【第壱拾六使徒戦闘後、病院の廊下】

「綾波・・・・。」
水槽、涙、拳銃。
それらが頭に浮かぶ。
その答えは予想できていたのだが、やっぱり悲しい。
「間違いではないわ。」
「そうかもしれないけどさ。僕にとって綾波は・・・そのっなんて言うのかな、2人目とか3人目とかは関係ないんだけど。」
たどたどしく自分が思っている事を口にする。
黙ったままそれを聞いてくれる綾波。
理解してくれたのだろうか小さく頷いてくれた。



こちらは別の回答席。
ユイが青筋を立ててゲンドウを睨みつけている。
「あなた、警察署の前って何ですか。」
「違うのか?」
「私達の出会いはそこじゃありません。」
「すまんな、ユイ。憶えていない。」
薄っぺらな謝り方をするゲンドウ。
それがユイの神経を逆なでしてしまったようだ。
「罰として晩御飯ヌキです。」
「ひどい、ひど過ぎるぞ。あんまりだ。」
「ハッ、何か言いましたか?」
「フッ・・・・ユイは昔から冗談が好きだからな。」
「私がそれくらいの事で晩御飯ヌキを言うとでも思ったのですか?」
「なに?」
「シンジの参観日で私を遺影あつかいしてくれたそうですね。リッちゃんから聞きましたよ。」
「・・・・ユイ。夫婦とは話し合うこと、理解しあうことで絆を深め合うものだ。」
「そうですね。」
「だから今度のことも話し合えばきっと分かり合える。」
「話し合うことが大切というのはよく分かります。」
「そうか、ならば。」
これが終わった後で海に沈む綺麗な夕日を肴に二人で飲もう、そう誘おうとしたゲンドウ。
しかし、その願いは叶わないものになった。
「しかし、付き合い始めて最初のデートのときの写真を遺影に使うとは言語道断です。」
「ユ・・・ユイィィィ。」
「本当ならシンジを連れて京都へ帰りますけど、私はそこまで子供ではありませんしシンジにも迷惑を掛けたくありません。ですから罰として晩御飯ヌキです。いいですね!!」
「ユイィィィィィ、俺はいらない夫なのかぁぁぁぁぁぁ。」
「はっきり言います、いりません。」
「ユ・・ユイィィィ。」
ゲンドウのゴーグルの中にどんどん溜まっていく涙。
自業自得とはいえ哀れ。



「第3問・・・・二人の間で一番驚いた出来事はなんですか?」

僕と綾波が一緒にいる時に驚いたことか。
必死に普段あまり使っていない脳を稼動させる。

お、思いつかないよ。

僕はここに来てから数え切れないくらい驚いたことはあるけど。
綾波って何事にも動じないから。
何かなかったっけ・・・・。
キョロキョロと周りを意味なく見る。
偶然、その目が父さんを捕らえた。
父さん?・・・・あっそういえばIDカードの時。
綾波の表情が変わったのって確かあの時だ。
あれが驚いた顔かどうかは分からないけど、あの顔くらいしか思いつかないよ。
またチラッと綾波を見る。
どことなく頬が赤くなっていた事に疑問を感じたけど。

【父さんが信用できないって言ったら怒られて叩かれた事】
【押し倒されて胸をつかまれた事】

「うわぁーーっ。ちょ、ちょっとそれは・・あれは事故で僕は押し倒したい気は全然なくて、だから・・・・って綾波あの時驚かなかったじゃないか。」

うわぁー、あいつ大人しそうな顔してて意外とやるんだなぁ。
ホントよねぇー。

見物している人たちがそんな事を言ってくる。
なんだか泣きそうになってきた。

「いいえ驚いたわ。あまりのことに声が出なかったから。」
「そっそうなの・・?」
「そうよ、それに父さんの悪口を言った時ってなに?」
「その綾波とアレがあった後にエレベーターで僕を叩いたじゃないか。たぶんあれかなって思って。」
「別に。」


「第4問・・・・レイちゃんはシンジ君がした事で一番悲しかったのは?」

何だかさっきのことで綾波の事が分からなくなってきた。
まさかアレが驚いたこととは夢にも思わなかったよ。
あっいや・・でも綾波も女の子なんだし。

気持ちを切り替えて。
綾波ってあんまり表情を顔に出さないから、これも難しい問題だな。
悲しむ・・・悲しむ・・・・あっ確か先月の終わりごろ、綾波に料理を作ってあげた時。
あの時の綾波の顔はちょっと悲しそうだった。

【ちょっとした冗談でラーメンにチャーシューを入れた時】
【ウソをつかれた時】

純粋そうに見えるヤツほど腹の中でなに考えてるのか分からないよなぁ。
そうだよなぁ、あいつもそのクチらしいなぁ。

見物しているサーファーの兄さん達の声が耳に入る。

そんなんじゃないんだよ。
そう叫びたくなったがグッと堪えた。
けど、綾波に思いっきり見つめられたのには堪えきれず視線を外した。
「この前ウソついたでしょ。」
「べっべつに・・・ウソなんてついた覚えないよ。」
ジッと僕を無言で見つめてくる。
このままだと喋ってしまいそうだったので話題を買えることにした。
「ところで綾波、チャーシュー入れたこと怒ってないの?」
「この前、あなたが作ってくれた時の事かしら?別に怒ってないわ。こっそり碇司令のラーメンに入れたから。」


「第5問・・・・シンジ君の口癖は?」

ふぅー、なんだかすごく疲れた。
まだ5問目なのか。
熱くなった額をぬぐう。
これは簡単な問題だな。
僕の口癖って言ったら・・・もうアレしかないから。
まぁあんまりいい口癖じゃないんだけどね。

【逃げちゃダメだ】
【笑えばいいと思うよ】

「なに、その逃げちゃダメだっていうの?」
何だか呆れているような、バカにしているような声の綾波。
その声が僕の心にグサッと突き刺さる。
なにも呆れなくてもいいじゃないか、傷つくよ。
「いつも言ってると思うんだけどな。」
さりげなく同意を求めてみる。
「私のこれじゃないの?」
「それは綾波にしか言ったことないよ。」
「・・・・・そうなの?」
「えっと・・うん。」
普段より少し強い声にちょっと気おされてしまった。


「第6問・・・・レイちゃんに似合う服と言えばなに?」

綾波っていつも制服しか着てないから似合う服なんて思いつかないよ。
でも制服は似合う服とはいえないし。
綾波が着ていたモノと言えば。
白いプラグスーツ、体操服、水着、包帯。
これくらいしか思いつかない。
どれにしようかなぁ。

【包帯】
【制服】

「あなたってそういう趣味があったのね。」
肘をテーブルにつき手のひらを頬に当てる綾波。
その目は半開きでいかにもバカにしたような顔をしていた。
「そういう趣味って?」
何のことか分からず聞き返す。

あいつ腹黒いだけじゃなくて、ソッチ系の趣味もあったのかよぉ。
いや俺はその趣味もあると思ったけどなぁ。

見物しているテキ屋の兄さん達の声が耳に入る。

ソッチ系?

ソッチ系。

まっまさか・・・・。

ハッとなり自分がとんでもない答えを出したことに気付く。
「ちっ違うよ。なに勘違いしてるんだよ。」
「そういうのを包帯フェチって言うのよ。」
「違うよ、誤解だよ。」
「いいのよ、隠さなくても。そういう趣味を持つ人もいるとユイさんから聞いたから。」
「だから違うんだよ。僕の趣味じゃなくて、綾波に似合う服はこれかなぁって思っただけで。」
「そうかしら?制服のほうが似合うんじゃないの。」
「制服なんて誰でも着てるじゃないか。」
「包帯は服装ではないわ。」
「あっそっか・・・。」

妙に納得してしまった。
なんか今の綾波って昨日みたいによく喋るよなぁ。
一瞬、関係ないことが頭をよぎる。
あっ昨日・・・そういえば綾波って洋服買ってたっけ。

「あっそういえば昨日買ってた白いワンピース。あれすっごく似合ってて可愛かった。」
「そっそう・・・ありがと。」
少し頬が赤くなる綾波。
やっぱり昨日の綾波よりこっちの綾波のほうが可愛いかな。
ついついそう思ってしまう。


「第7問・・・・シンジ君の一番好きな食べ物は?」

好きな食べ物か。
特にコレっていうものはないんだけど、あえて言うならカレーライスかな。
でも綾波には教えてないから答えは合わないだろうな。

【カレーライス】
【カレーライス】

「あれ綾波、僕の好きなものよく知ってるね、教えてないのになんで?」
「ユイさんに聞いたから。」
「母さんに?でもそれなら僕に聞いたほうが早いと思うんだけど。」
「あなたを驚かせようと思って聞かなかったの。」
「そっそうなんだ。」
「今度作るから、食べてくれる?」
「あっありがとう、喜んで食べるよ。」
嬉しい、綾波が僕のために料理を作ってくれるなんて。


「第8問・・・・レイちゃんのイメージは?」

【お母さん】
【ウサギ】

あいつ、とうとうボケたかぁ。
そんな事言うなって、亡くなったお袋さんをあの子と重ねてるだけだよぉ。
それにしてもヤバくない?それってマザコンじゃないのぉ?
あっはははは、そりゃそうだよなぁ。

見物しているビーチボールを持った4人の兄さん、姉さんたちの声が耳に入る。
違うのに、母さんはまだ死んでないのに。

でも、これ以上その事を考えると参観日の事を思い出しそうなのでやめた。
俯いた顔を上げて綾波を見ることにする。
「綾波ってお母さんのような感じがするって言わなかったっけ?」
「そうだけど・・・あなたにお母さんって思われるのはイヤ。」
「えっと何で?」
訳が分からず聞き返す。
「お母さんじゃ・・・・ダメでしょ。」
「・・・あっ・・えっと・・・。」
まだ分からない。
でも綾波の頬がかなり赤くなっている。

「お母さんじゃ・・・・ダメ・・・・でしょ?」
「・・・・うん。」
俯き上目遣いになる綾波。
なんとなくだけど、分かったような気がした。


「第9問・・・・シンジ君のここは直して欲しいと思うところは?」
なんかたくさんありすぎて一つに絞れないよ。
綾波って僕のこと普段からどう見てるのか知らないし。

【内罰的な所だと思う、アスカに言われたから。】
【隠し事をしている所】

あいつ、ウソをつくだけじゃあきたら隠し事までかよぉ。
きっとアスカって子のことだなぁ。
ってことは二股かよ、あいつどう見ても中学生にしか見えないのにやるなぁ。

見物しているライフセーバーの人たちの声が耳に入る。

違うよ、二股なんかじゃないよ。
それだったらボードにアスカなんて書かないよ。
それに必死に目で訴えかけるが、全く気付いてくれなかった。

「さっきの続き、そろそろ喋ってくれないかしら?」
「あっ・・・えっとその・・別に隠し事は・・・。」
「あるの?ないの?」
かなり強めの口調の綾波。
その声と目が真剣だったから、僕は誤魔化すことができなかった。
「えっと・・・・・そのっ・・・・ごめん、まだ言えない。」
「あるのね・・・・そう、隠し事はしないで欲しいのに。」
なんだか寂しそうな顔をする綾波。
やっぱり言っておけばよかったかな。
でも、ここでは言いたくないし。
綾波には申し訳ないけど言わずにおくことにした。


「最終問題・・・・二人っきりで行って見たい場所は?」

まさにさっきの隠し事のことなんだけどね。
どうしようかなぁ。
本当のこと書いてもいいけど、綾波が気付いたらさっき黙ってた意味がないしな。

【沖縄】
【別にない】


「沖縄?」
「あっ・・いや・・ほらっ僕たち修学旅行にいけなかったじゃないか。」
結局、本当のことは書かなかった。
気付かれたら困るからね。
「・・・そうなの。」
納得してくれたのかどうかよく分からない綾波の顔。

最終問題を終え、あまり正解することができなかった僕たちは2回戦で敗退した。



海の家に戻ってみると、テーブルがなく代わりに布団が4つ敷いてあった。
アスカ、トウジ、委員長、カヲル君。
みんな気持ちよさそうに眠っている。

トウジ、委員長・・・そうとう疲れてたんだね。
アスカ、カヲル君・・ごめん、ゆっくり寝てね。

その布団のそばにマヤさんとリツコさんが座っていた。
僕と綾波は二人のそばに行く。

「マヤさん、他の人たちは?」
「みんな泳ぎにいったから、私達はお留守番。」
「そうなんですか。」

暑かったでしょ、はいジュース。

マヤさんからオレンジジュースを受け取り飲む。
乾いたノドがうるおう。

ノートパソコンを構っていたリツコさんがタバコの煙を吐きながら僕を見てくる。
「シンジ君。コンテストのほうはどうだったかしら?」
「すいません、途中で負けちゃいました。」
「そうなの、残念ね。」
そう言って視線を僕から外して、ノートパソコンに向かわせる。

それを見ていて再び浮かんできた疑問。
それはマヤさんから拳銃を受け取る少し前のことだった。

「ところでリツコさん。あのRESLとかって一体なんだったんですか?」

キュピーン。

その効果音が一番適していると思われる。
それほどリツコさんの目が妖しく光ったから。

「あれはね、Rival(ライバル)、Elimination(排除)、Shinji(シンジ)、Love(ラブラブ)っていう事で。つまり『ライバルを排除してシンジ君とラブラブになりたい作戦』ってことよ。」

「ぼっ僕とですか?そっそんな・・・。」
「ふふっ勘違いしないでね。私じゃないわよ。」
「えっ?・・・じゃあ誰なんですか?」
「それは教えられないわ。」
「そうですか・・あっちょっと出てきます。」

気にはなったが教えてくれそうにないので、ここを出ることにした。
母さんとの約束があったから。
立ち上がる時、綾波に服を掴まれた。
「なに綾波?」
「・・・何でもない。」

名残惜しそうに僕の服から手を離す。
「そっそう・・・それじゃちょっと出てきますね。」


コンテスト前に母さんと約束した僕は黄色い屋根の海の家に入る。
そこは休憩所になっており、一番奥に母さんがいた。
手招きで僕を呼ぶ母さんのところへ行く。

「シンジ。」
「あっ母さん。ところで父さんはどうしたの?」
「ごめんなさい、ロストしちゃった。」
「そうなんだ。」
「そんな事より、アレは渡したの?」
そんなことで片付けられてしまった父さんを少し哀れに思った。
「アレってなに?」
「とぼけちゃって。ネックレスのことよ。」
「ああ、アレね。」


かんざしをマナと一緒に買った次の日。
僕は一人で繁華街に来ていた。
理由は新しい洋服を買うため。
割と自分に似合いそうな服が見つかり買う。
その帰り、何気なく見つけたネックレス。
なんとなく綾波が付けたら似合うかなと思った。
しかし、手持ちがなく諦めた。
後日、母さんに頼んだら買ってきてもらった。


「まだ、渡してないよ。」
「シンジ、頑張ってね。あなたに今回の計画の全てがかかってるから。」
「そんな大げさな。」
「なに言ってるのよ。先月の初めからここまで頑張ってきたじゃない。もしかしてふいにするつもり?母さん怒るわよ。」
顔は笑ってるけど目は全然笑っていない母さん。
それが怖いのでとにかく否定する。
「まっまさか・・・分かってるよ。ちゃんと綾波に言うから。」
「そう、よかった。」


母さんと僕が秘密に計画していたもの。
それは綾波を夏祭りに誘うというもの。
そのきっかけは先月の初めころにマナの呉服店に客として入ったこと。
マナが奥の母屋から顔を出す少し前、僕は置いてある一つの浴衣を見ていた。
「綾波って浴衣とか着たら似合いそうだな。」
どうやらその言葉を母さんは聞いていたらしい。

呉服店からの帰り道。
「シンジ、レイちゃんを夏祭りに誘うわよ。」
「なんで?」
何の脈絡もなく突然そう言う母さんに驚く。
「ほらっレイちゃんってそんなのに行ったことないじゃない。だからよ。」
何となく母さんが何故そう言ってきたのか理解できた。
「それってさ、霧島さんの店にある浴衣を見て決めたんでしょ。」

「それだけじゃないけどね。そうと決まったら色々と準備しなくちゃね。もちろんシンジも手伝いなさい。」
いつの間にか綾波を夏祭りに連れて行くことが決定してしまった。
このままでは母の口車に流されてしまうと感じた。
「えーっ、いいよ僕は。綾波だって行きたいなんて思わないかもしれないし。」
「残念ねぇ、きっとレイちゃんの浴衣姿って可愛いと思うんだけどなぁ。」
「・・・浴衣姿。」
かっ可愛いかも・・・・。
少しグラッと来た。

「それにちょっと薄化粧したりなんかしちゃって。」
薄い朱色の口紅を塗った綾波。
かなり可愛いかも・・・。
かなりグラッと来た。

「しょっしょうがないなぁ。母さんの頼みだし、手伝うよ。」

はじめは綾波の普段とは違う姿を見たいと思う気持ちだけだったけど、いつの間にか祭りを一緒に楽しみたいという思いが強くなっていた。
だから、かんざしやネックレスなど元の計画には含まれていないものまで含めてしまった。


まだ、夏祭りまで2ヶ月もある。
来月の終わりごろになった時、僕の口から言えばいい。
その時にネックレスを渡そう。
きっと喜んでくれるはずだ。

そんな事を思いながら母さんと取り留めのない世間話に花を咲かせた。

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