冬の贈り物

Written by JUN 



 サードインパクトが過ぎ、みんなが還ってきた。碇くん、弐号機パイロット(今はアスカと呼んで
いる)、葛城三佐、赤木博士、そして、私。
 あの時、私はリリスとしての役目を終え、無へと還るはずだった。だけど、碇くんが願ってくれた
から、そして、私が願ったから、私は還ってくることができた。
 そして、この世界に再び還ってきたものがあった。それは、四季。
 サードインパクトの影響で、曲がっていた地軸が元に戻り、四季が戻ってきたらしい。
 「あなたのおかげよ」と赤木博士が言ってきたが、私はそんなことをした覚えはないので、よく分
からない。
 あの後、碇くんの住んでいるあの家に、私も住むことになった。碇くんが葛城三佐に頼んでくれた
らしい。私もあの冷たい部屋に暮らすのは寂しかったので、嬉しかった。何より、碇くんと同じ空間
に暮らすことができる・・・それが、たまらなく嬉しかった。
 この前、碇くんの家に引越しをした。私が一緒に住むことに、アスカは一瞬複雑な顔をしたが、み
んな快く迎え入れてくれた。葛城三佐は「新しい家族の歓迎会よ!」といいながら、ずっとビールを
飲んでいた。碇くんは「ほどほどにしてくださいよ!」と言いながら、それでもどこか嬉しそうに、
料理を作っていた。アスカは、「全くオヤジ臭いわね〜」と言いながら、碇くんの作った料理をおい
しそうに食べていた。私は、時々話しかけてくれる碇くんに相槌を打ちながら碇くんが私のために作
ってくれた肉なしの料理をずっと食べていた。こんなにおいしい料理は初めてで、そしてこんなに温
かい食事は経験したことがなくて、涙が出そうになるのをこらえながら、楽しい歓迎会を終えた。




 「どうしてこんなに寒いのかしら、嫌になっちゃうわ」
 最近、葛城三佐はいつもぼやいている。四季が還ってくると、今まで経験したことのない寒さが、
日に日に強くなっている。赤木博士に聞いたところによると、『冬』というものらしい。セカンドイ
ンパクト前にはこの季節には、サンタと呼ばれる人がプレゼントをもってやってきたり、二月のバレ
ンタインデーには、好きな男の子に女の子がチョコレートを渡したり、色々なイベントがあったそう
だ。今まではそんなイベントを楽しむこともなかったけど、これからはそういったことにも興味を持
ってみよう、と思った。
 「洗濯物が乾かなくて、嫌になっちゃいますよ」碇くんもそういっている。葛城三佐と一緒に決め
た当番表も、今は意味を成していないらしい。その内洗濯も手伝えるようになったらいいと思う。
 「ドイツはいつもこんなかんじだったわよ」アスカはそういって寒がっている葛城三佐を笑ってい
る。こんなに寒くて、大丈夫だったのだろうか。
 「綾波は寒くないの?」碇くんがそういって、あの優しい微笑みを見せてくれる。
 「少し寒い・・・でも、大丈夫」私は、最近は自然に浮かべられるようになった笑顔でそう答える。
碇くんは笑っている私が好きと言ってくれたから。
 「そう、それならよかった」碇くんは少し安心したように微笑んだ。
 「今夜あたり暖かいものが食べたいわ〜」葛城三佐はそういって、お願いするような目で、碇くん
を見た。
 「じゃあ、今夜はお鍋にしましょうか」少し苦笑しながら、碇くんは言う。
 「鍋?私、食べたことない」興味深げに、アスカが話に入ってくる。あんなふうに自然に話しかけ
ることができたら、もっと碇くんに近づけるだろうか。
 「今までは暑かったから、食べることなかったよね。僕も初めて作るけど、おいしいと思うよ。そ
れじゃ、土鍋とかないから、買ってきます」
 「は〜い、いってらっしゃい」
 どうしよう、私もついて行きたい・・・そう思ったときには既に口が動いていた。
 「あ・・・あの、私も・・・一緒に・・・」
 こんなに積極的になることは珍しくて、私は思わず頬を赤らめた。
 「綾波、ついてきてくれるの?嬉しいな」
 碇くんは嬉しそうに言う。私は安心して、思わず小さく息を吐いた。




 「え〜っと、土鍋にお豆腐にネギ・・・綾波はお肉が食べられないから、タラがいいかな?」
 「えぇ・・・ごめんなさい、気を遣わせてしまって」
 私は申し訳なくなって、そういってしまう。
 「別に大丈夫だよ、でも、栄養が偏るといけないから、少しずつ食べられるようにしたほうがいい
かもね」
 「分かった、努力してみる」
 「じゃあ鶏を少し入れてみようか、癖も少ないし」
 「えぇ・・・」
 この気遣いが今まで他人と接触することのなかった私にとってとても暖かいものだった。私の心の
中にわだかまっている氷をいともたやすく溶かしてくれる、この暖かい微笑み。
 多分これが、私が碇くんに惹かれる、一番の理由だと思う。
 碇くんと一緒に生きたい――そう思い始めたのは、最近のことではない。
 多分こんな気持ちを『恋』と言うのだろう。心がざわついて落ち着かない、それでいて心地いい気
持ち・・・
 毎日碇くんと一緒に過ごして、頭を撫でてもらって、ぎゅっと抱きしめてもらって、そんな風にな
れたら――!
 「――なみ、綾波?」
 はっと我に返る。どうやら少し立ちどまっていたらしい。
 「なんだかぼーっとしてたよ、大丈夫?もしかして具合悪いの?」
 「いっ、いえ・・・問題ないわ、碇くん」
 頬を赤らめながら答える。あなたのことを考えていた、とは言えない。
 「でも、なんだか顔も赤いし・・・」そう言いながら、私のおでこに手をあてる。
 碇くんに触られている――そのことを思ったとたん体中から力が抜ける、呼吸が荒くなる。体の芯
が熱くなって、もうだめと思ったそのとき、碇くんが手を離した。
 「う〜ん、熱はないみたいだね。けど、やっぱり寒いから、早く帰ろう?」そういって優しく微笑
む。
 「えぇ・・・」
 碇くんの動き、言葉、表情、その一つ一つが、私にとって温かいもの、私を変えてしまうもの・・・
 それに気づいているのかいないのか、碇くんはいつもこうして、思わせぶりな態度をとる。
 ひどい人、だけど、大切な人。




 碇くんと二人で、もうすっかり暗くなった道を歩く。碇くんはその間積極的に私に話しかけてくれ
る。学校のこと、NERVのこと、私のこと・・・サードインパクト前の事には触れないようにしているの
が分かって、彼が気を遣ってくれるのが嬉しくて、それでいて気を遣わせてしまうのが、悲しかった。
 それでも碇くんと一緒に過ごす時間はたとえようもなく暖かかった。これも絆だと思う。私も積極
的とまではいかないが話すことができる。もっともっと話せるようになりたい、だけど、なかなかう
まくいかなかった。
 そうして話しながら歩いていると、何かが目の前に落ちてきた。白くて小さくて、冷たい。
 「あれ?雪みたいだね」
 「・・・ゆき?」
 「うん、雲が空の上で冷えて固まって落ちてきたものだって聞いたけど、今までは雲が凍るほど、
寒くなかったしね」
 「綺麗・・・」私は自然と、そうつぶやいていた。
 「うん、そうだね・・・」碇くんも、どこかうっとりしたように、魅入っていた。
 「けど、どんどん寒くなってきたね、風邪ひくといけないから、早く帰ろう」そういって私の手を
とり、少し歩調を速めて歩き出した。
 「あ・・・」小さく声を漏らす。
 「ん?どうかした?」
 「・・・問題ないわ」
 確かに寒かった。だけど、碇くんに握られている手だけ、燃えるように熱かった。






 「ただいま〜」
 「遅いわよ、バカシンジ!お腹すいた〜」
 「はは、ごめんごめん。すぐ作るから」
 そういってエプロンをつける。やっぱり主夫だと思う。
 「い、碇くん、私も手伝う」勇気を出して言ってみる。
 「ホントに?ありがとう」そう言いながらエプロンを手渡してくれた。






 「じゃあ、白菜とネギを切ってくれる?僕は出汁を作るから」
 「分かったわ」
 そういって手際よく作業する碇くんに、しばし目を向けてから、私も作業を始める。最近は割と出
来るようになった。
 いつかこうして料理を作って碇くんに食べてもらいたいから、練習している。私がもらった暖かい
気持ちを、少しでも返してあげたいから。
 おいしそうな匂いがする。鰹節と醤油の香り。
 「出来たわ」そういって切り終えた材料を碇くんに渡す。
 「ありがとう。じゃあ、むこうで待っててくれる?もうすぐ出来るから」
 「えぇ」
 リビングに戻って、料理している碇くんを見ていると、葛城三佐とアスカが嫌な笑みを浮かべなが
ら話しかけてきた。
 「ねぇねぇレイ、最近シンちゃんといいかんじじゃな〜い?一緒に買い物にいったり仲いいじゃな
い」
 「そうそう、見せ付けてくれちゃって、やんなっちゃうわ〜」
 言われて思わず顔を赤らめる。
 「よく、分かりません・・・」
 「またまた照れちゃって、かわいいわよ?レイ」
 「ホント、あの無表情で人形みたいだったレイがね〜。バカシンジとはね〜」
 いつもからかわれている碇くんの気持ちが分かる気がした。
 「できましたよ、あれ、何の話ですか?」
 「いや、シンちゃんとレイが仲いいな〜って話をね。ね、レイ」
 たちまち碇くんの顔が真っ赤になる。
 「なっ、何言ってるんですか!?そんなことないです!」
 「そんなこと言っちゃって、レイがかわいそうよ?シンちゃんはレイのこと嫌いなの?」
 「え、いや、そうじゃなくて、その・・・あう」
 「ふふっ」
 碇くんがよく分からない声を上げると、私も思わず声をたてて笑ってしまった。
 「ひ、ひどいよ綾波ぃ〜」
 「ほらほら、お腹すいてるんだから、早く鍋持ってきて」
 葛城三佐がそういうと、碇くんは不満げな顔をしたまま、暖かそうな湯気をたてる土鍋を持ってき
て、カセットコンロにセットした。
 「おいしそ〜さすがシンちゃんね」
 「それじゃあ・・・」
 「「「いただきます」」」
 「・・・いただきます」
 やっぱり私の声は小さい。
 「おいしぃ〜セカンドインパクト前を思い出すわね」
 「ま、まあまあってとこね」
 「まだありますから、たくさん食べてください。綾波、おいしい?」
 「・・・ええ、おいしいわ、碇くん」
 「そう、よかった」
 「ちょっとちょっと、なに目の前でいい雰囲気になってんのよ」
 「な、何言ってるんですかミサトさんっ」
 「ほ〜んと、独り身には辛いわね、ね、ミサト」
 碇くんが真っ赤になって俯く。





 そうして暖かい食事を満喫していると、箸の先にさっき買った鶏肉が引っかかった。
 どうしようか――そう思ったのは一瞬で、食べてみようと思った。お皿にのせて、少し緊張しなが
ら、鶏肉をみつめる。
 「あ、綾波、無理しなくてもいいよ?」碇くんが気づいた。
 「いえ、食べてみるわ」
 皆が見守ってくれる中、恐る恐る鶏肉を口に入れる。
 その刹那――
 「お・・・」「「「お?」」」
 「おいしい・・・」
 「すごいじゃないか、綾波!!」
 「やったわね、レイ!」
 「ほ〜んと、バカシンジがレイに与える力は偉大ね〜」
 「本当においしい・・・血の味がしない」
 「そういえば、綾波は何で肉が嫌いだったの?」
 「昔、碇司令と食事に行って、そのとき碇司令が食べさせてくれたお肉が、血の味がしたから・・・」
 「普通、ちゃんと火を通してあれば、血の味なんてしないよ。だから、安心して食べてね、綾波」
 「えぇ・・・ありがとう。碇くんのおかげ」少し頬を赤らめながら答える。
 「え・・・あの、その、どういたしまして」碇くんも赤くなりながら答えてくれる。



 「・・・私たち、いないほうがいいかしら?」
 「完全にお邪魔虫状態よね、これじゃ」
 葛城三佐とアスカが、少しうんざりした、それでいて楽しそうな声で言った。
 「え?あ、すいません・・・・・・」碇くんが真っ赤になりながら呟いた。「いいのよ〜、私たちは。で
も、お邪魔なようだったら隣の部屋空いてるから、アスカと一緒に引っ越そうかしら?」にやにやし
ながら葛城三佐が言う。
 「だめだめ、この二人を残して行ったりなんかしたら、バカシンジのことだから、レイのこと押し
倒しちゃうかもよ?」
 「・・・どうして知ってるの?」


   ビキッ

 その瞬間、部屋の空気が変わった。凍りついたと言うのかもしれない。
 「え、レイ、あんた、シンちゃんに押し倒されたの?」
 「あ、いやそれはちょっとした事故で・・・」
 碇くんがあわてている。どうしてあわてているのだろう。
 「シンジ(シンちゃん)は黙ってて!で、どうなのレイ?」
 きれいにユニゾンしながら聞いてくる。
 「はい、碇くんがまだ来たばかりのとき、シャワーを浴びた後の私を押し倒して、胸を・・・」
 「わ〜〜〜〜〜〜〜!!!・・・ムグッ」
 「「胸を?」」
 「触りました」
 「・・・し、シンちゃん、あなたって結構手が早いのね・・・」
 「バカシンジ、最低」
 「ち、違うんです、あれはホントに事故で・・・そ、そうだよね?綾波ぃ」

 碇くんが困ってる。その困った顔が可愛くて、もっと困らせてあげようかなとも思ったけど、この
位でやめておく。
 「はい、私が『どいてくれる?』といったら、すぐどいてくれました」
 「な〜んだ、つまんないの。そのままいっちゃえばよかったのに」
 「いっちゃうって、どこに?」
 「きっといつかシンちゃんがつれてってくれるわ、ね、シンちゃ〜ん?」
 「つれていってくれるの?碇くん」
 「な、何言ってるんですか、そんなのまだダメにきまってるじゃないですか!」
 碇くんが慌てたように言う。
 「まだ?ってことはいつかレイとそういうことをするつもり・・・いや〜シンちゃんも隅に置けない
わね」
 「え、いや、その・・・そうじゃなくて・・・」
 さっき以上に真っ赤になって碇くんがどもっている。
 どこに連れて行ってくれるのかは分からないけど、碇くんがつれていってくれるなら、きっといい
ところなのだろう。
 「いつかつれていってね、碇くん」
 小さい声で聞こえないようにそういった。碇くんと一緒に生きていくことができれば、どこにだっ
ていけると思うから。





 鍋の中身もなくなって締めのおじやに突入していた。
 鍋のお出汁がよく出ていて、とてもおいしかった。
 「いや〜おいしいわぁ、やっぱりシンちゃんの料理は天下一品ね」
 「ありがとうございます。それじゃあ、片付けようか」
 「私も手伝う、碇くん」
 「あ、ありがとう」
 さっきの話が後をひいているのか、少し顔が赤い。多分、私の顔も赤いのだろう。




 手際よく鍋を洗う碇くんを見ながら、私は思う。この思いを伝えたい、碇くんを自分のものにした
い、碇くんのものになりたい・・・
 「いか――」
 「ありがとう、綾波。手伝ってくれて。助かったよ」
 「え、えぇ・・・」
 だめ、やっぱりいえない。やっと手に入れた絆を、拒絶されるのが怖い・・・
 「それじゃ、あと僕やっておくから、綾波は休んでて」
 「えぇ・・・」




 シャワーを浴びながら、私は思う。
 このままでも、いいのかもしれない・・・
 昔のことを考えたら、今の生活は幸せとしか言いようがない。
 一緒に温かい食事ができる人がいる、挨拶をしたら、返してくれる人がいる、碇くんが、いる――
 せっかく手に入れた絆を、手放したくなかった。昔の冷たい暮らしに戻るのは嫌だった。碇くんと
離れたくなかった。
 想いを伝えたい、その気持ちは本当だった。だけどそれ以上に、この生活を手放したくなかった。
 少し辛いけど、大丈夫。今までのことを考えれば、幸せだから――




 お風呂から出ると碇くんが一人で紅茶を飲んでいた。私も大好きな、アールグレイ。
 「あ、綾波、でたんだ」
 「ええ」努めて明るい声で、私は言う。
 いつもならそこで少し話をするのだけれど、今日は碇くんの顔を見ているのが辛い。
 少し早足で部屋を出て、碇くんが家具を買い揃えてくれた部屋に行く。窓の外を見ると、大きな月
が出ていたが、少しだけ欠けていた。
 私みたい――大きく普段より明るいはずなのに、どこか欠けた私の心。
 その月に惹かれるように、私は窓に近づいて、ベランダに出た。
 とても寒かった。しかし、外に出ずにはいられなかった。
 月を見ていると、自然と涙が出てきた。でもこれは、碇くんが教えてくれたような、嬉しい涙とは
違うと想う。悲しく、冷たい涙。




 そんな風に月を見つめながら、どれくらいの時が流れただろうか。
 数分かもしれないし、数十分だったのかもしれない。
 ふと気づくと後ろに碇くんが立っていた。
 「碇くん・・・」
 「綾波・・・泣いてるの?」
 心配そうに尋ねてくる碇くんを見て、私の中で何かがはじけた。限界だった。
 「碇くん・・・私、碇くんが好き・・・碇くんと一緒に生きていきたい」
 言ってしまった。もしかしたら、もう碇くんと今までのように暮らせなくなってしまうかもしれな
い。そんなことを考えると、耐えられなかった。激しく泣きじゃくりながら、碇くんの返事を待った。
 「サードインパクトのあの時、みんな還ってこなくていいと思ってたんだ。誰も僕を傷つけない、
僕も誰も傷つかない・・・そんな世界はたまらなく魅力的だった」
 碇くんの声がそこで止まる。時間が止まっているかのように感じる。
 「だけど、僕はこの世界を望んだ。アスカや、ミサトさんや、トウジや、ケンスケや、委員長・・・
皆と生きていきたいと思ったから」
 不意に、碇くんは私を抱きしめた。体が熱くなる。心臓の鼓動が聞こえる。それが碇くんの心臓の
音なのか、私のものなのかは分からないけど。
 「そして・・・綾波と生きていきたいと思ったから」
 私の息が止まる。
 「僕、怖かったんだ。綾波に拒絶されるかも知れないって。もし綾波に拒絶されたら、せっかく手
に入れたこんな暖かい生活もなくなってしまうかもしれない・・・そんなことを考えたら、怖くてたま
らなくなった」
 私と、同じ――
 「馬鹿だよね、僕。そんなことばっかり考えて、今まで綾波に近づけなかった。想いを伝えること
が・・・できなかった。僕は今でも、ずるくて、臆病で――」
 「そんなこと、言わないで」
 碇くんが始めて私を見る。あの、優しい眼差しで・・・
 「碇くんは私に温かい心をくれた。他人を拒絶してばかりだった私の心に光をくれた。・・・碇くん
にもらった温かい心を、少しでも返したい・・・」
 「綾波・・・」
 「だから、私と生きていってくれる?」
 「・・・僕でよければ、だけど、いいの?」
 「碇くんじゃなきゃ、嫌」
 ゆっくりと碇くんの顔が近づく。何をしようとしているのか気づく。
 キス、恋人同士がすること。恋人は、私と、碇くん――
 目を閉じて、そっと応える。初めてのキスは、さっき碇くんが飲んでいた紅茶の味がした。
 また涙があふれる。けれど、これはさっきとは違う涙。嬉しく、暖かい涙。あの時、碇くんが教え
てくれた、涙――。
 さっきまで欠けてあんなに寂しく見えた月も今は寂しくなかった。月は一度欠けても、きっとまた
満月になるから・・・
 身を切るような寒さも、今は感じない。碇くんの体温を感じるから。




 私はヒトではなかった。だけど、碇くんが望んでくれたのなら、ヒトになれているだろう。碇くん
の子供も産めるかもしれない。
 これから先の道は、楽ではないだろう。元チルドレン同士が共に生きていくとなれば世間はいい顔
をしないだろう。けれど、そんなこと今はどうでもよかった。碇くんと一緒に生きていけるのなら、
どんな事だって乗り越えられるだろう。
 こんなに満ち足りた気持ちになったのは初めてだった。とにかく嬉しかった。


 「・・・ねぇ、碇くん」
 碇くんに包まれたまま、私は声をかけた。
 「なに?」
 「私ね、幸せよ」



               【Forever】Next>

〜あとがき〜
はじめまして、JUNです。これが処女作になります。
僕の実年齢が16歳なので、やはり文章の幼稚さは否めません(汗)
これから精進していきたいと思いますので、よろしくお願いします。


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