< 10万Hit&二周年記念: K02−B Part >

少年は望んだ―――この世界を。みんながいるこの世界を。


「 祭りのあと (1) 」


シンジの目前には大海原が広がっていた。見渡す限りの、赤い海。
(ここは・・・・・あの海・・・・?)
シンジはこの世界を知っている。ここが今まで自分がいた世界の成れの果てだということも。
赤く、僅かに波の音だけが聞こえる静かな海。そこには、すべての人々が溶け込んでいる。
(いつの間に僕は、ここへ流れ着いたんだろう・・・・?)
シンジはたった一人、砂浜に立っていた。まわりには誰も居ない。
(綾波もアスカもみんな、どこへ行ったんだろう・・・・?)
シンジを残して、どこかへ消えたのだろうか?
それとも、すべては儚い夢だったのだろうか?
(やだよ・・・・・・独りに、しないでよ・・・・・・。)
シンジはフラフラと海へ向かって歩いていく。あそこにいれば、少しは孤独が和らぐかもしれない。
独りは、耐えられなかった。


シンジが目を覚ましたとき、まだ夜は明けきってなかった。
すっかり見慣れた天井が視界に入る。いつものベッド。いつもの自分の部屋。馴染みのある、自分の居場所。
(・・・・・またか・・・・・。)
身体が冷たい。汗でぐっしょり濡れたパジャマが体温を奪うかのようにへばり付く。
(・・・・・なんで最近、あの夢ばかり・・・・・。)
その夢はサードインパクトが起こった直後の世界。たしかに自分はあそこにいた。
(・・・・もう、忘れよう。いまの僕は、この世界にいる・・・・。)
シンジはあの赤い海よりも、この世界を望んだ。そして今はもう、独りじゃない。
(もうあの世界にはいないんだ・・・・・・。)
なのに何故こうも、あの時の夢を見てしまうのか。

シャワーを浴びて着替えたシンジは、いつものように朝食を用意し始めた。
半年ほど前に同じマンションに越したレイも、今では一緒に朝食をとるようになったので四人分準備する。
味噌汁を沸かしていた鍋のふたが揺れ動く。コトコト鳴る音が、しんと静まった台所に活力を取り戻す。
一通り準備が済むと、シンジはアスカを起こしに部屋へと向かった。
「アスカぁ、準備出来たよ〜。そろそろ起きないと。」
軽く部屋の扉をノックする。普段はこの程度では起きないが、今日は珍しく反応があった。
「う・・・・ぅん・・・・。」
「?・・・・・・。アスカ、起きてるの?」
「う・・・・ぁあ・・・・。」
返事、というより唸るような声。シンジはさっきよりも強く、扉を叩いた。
「ねえ!?どうしたんだよ?」
だが返事はない。何かにうなされているような声だけが漏れてくる。
一瞬迷ったが、そっとノブを廻し中に入った。
「アスカ・・・・・。」
アスカはマクラを抱きしめたまま、苦しそうに寝返りを打つ。汗ばんで血の気を失った肌がことのほか青白い。
悪い夢を見ているのかもしれない。シンジは今朝自分が見た夢を思い出し、不安になった。
「アスカ・・・アスカ・・・!起きてよ、目を覚ましてよ!!」
細い肩を強く揺さぶり、ゆり起こす。うっすらと彼女の瞼が開いた。
「・・・・・シンジ・・・・・。」
安堵したのか、アスカの顔が僅かにほころんだ。
「大丈夫?うなされてたみたいだけど・・・・。」
「あたし・・・・・・。」
だるそうに身体を起こす。マクラを離すとパジャマのボタンがはだけ、胸がきわどいところまで露わになった。
「い!?」
思わず釘付けになったシンジの視線を感じ、アスカの表情が徐々に鬼の形相へと変わる。
「バ ・ カ ・ シ ・ ン ・ ジぃ〜〜ッ!?」
両腕で胸元を隠したまま立ち上がる。静かだが、燃えるように揺れる金髪から殺気がヒシヒシと伝わる。
「あ、あの・・・・・ハハ・・・・・。ね、寝るときって、ブラジャー付けないんだね・・・・・・。」
プツン。
「くうぉ〜〜〜の、ド変態っっ!!!」
胸を隠しながらの回し蹴りが見事に決まり、シンジは後方へ吹っ飛んだ。

その後アスカがシンジを追っかけ回すドタバタはあったが、レイが迎えに来てひとまず騒ぎは終わった。
朝食を食べ終わると揃って登校する。2017年の夏を迎えた今は、三人とも同じ高校に通っていた。
すでに一学期も終わりに差し掛かり、明後日の終業式が終わると学校も夏休みにはいる。
「・・・・ほんとケダモノね!信じらんない!」
今朝の事で不機嫌なアスカは怒声を浴びせるが、それでもシンジと肩を並べ一緒に歩いていた。
「そ、そんな・・・・・。あれはタダの不可抗力で・・・・・。」
言い訳しようとするシンジをアスカがギロッ!と睨む。
「シンジぃ〜、罰として放課後付き合いなさい。」
「な、なんでだよ?」
「ふ〜ん、じゃあ今朝アンタに変な真似されそうになったって、学校中に言いふらされたんだぁ〜?」
「べ、別に下心があったわけじゃ・・・・・わ、わかったよう・・・・・。」
シンジが後ろをチラリと覗く。レイに変な誤解をされなかったかとヒヤヒヤする。
レイは少し離れた後ろにいる。アスカが居るときは、いつもこの位置だった。
彼女は三人で居るときはいつも、二人から一歩引いた場所にいた。

学校が終わるとアスカは、シンジを無理矢理買い物へ引っ張っていった。
一人残ったレイは書店で少し時間を潰した後、自宅へと帰路につく。
道を歩いていると、不意に後ろから車のクラクションが鳴らされた。
振り返ると、ミサトが車の窓からにこやかに顔を出していた。
「レイ〜っ!いま帰り?・・・・あら、アスカとシンちゃんは?」
「アスカは買い物。碇くんもそれに付き合って行きました。」
「はっは〜ん、アスカの奴、なんだかんだ文句言ってシンちゃんにおねだりするつもりね。」
今朝の騒ぎを思い出し、ミサトはクスリと笑う。
「ちょうどいいわ、乗っていきなさい。」
「ありがとうございます。」
こういうときレイは、きちんと御礼を言うようになった。今の生活のなかで、彼女が学んだことだ。
レイを助手席に乗せ、ゆっくりと車を走らせる。最近はミサトもずいぶん安全運転をしている。
「まったく、アスカは相変わらずだけどシンちゃんもシンちゃんよね〜っ!レイを放ったらかして。」
「私は別に・・・・。用事は無かったから。」
「レイもシンちゃんに甘えなさいよ。『おねがぁい、今日は私の傍にいてぇん』 だとか、『あれ買ってくんなきゃ、いや〜ん』 だとか。」
「言えません、そんなこと・・・・・。」
首すじまでほんのり朱に染め、恥ずかしそうに俯くレイを見てニヤニヤしながらも、ミサトは感慨深かった。
(ほんとうにまあ・・・・可愛くなっちゃって・・・・。)
表面にでる変化はまだ控えめだが、昔の彼女からすれば驚くほど感情表現が豊かになった。
以前と違って人の輪の中で生活し、人と触れ合うことがこの少女に大きな影響を与えている。
「ぬふっ、女の子にわがままを言われるのは、男の子だって悪い気しないのよ。かえって喜ぶかも〜っ?」
「・・・そういうものでしょうか?」
訝しげに応えながらもどこか甘い響きがあるのは、少し期待したのかもしれない。
「ところで、お夕飯どうする?先に買っちゃいましょうか。」
「え?でも、碇くんたちがまだ・・・・。」
「お寿司買いましょ。あとお惣菜も。ちょこっと寄り道するだけだから。」
そういってミサトはハンドルを切った。

夕食を買った二人はミサトの自宅へと帰る。レイは一旦自分の部屋に戻り、私服に着替えた。
食事はシンジとアスカが戻ってきてからと待っていたが、一向に帰ってくる気配がない。
「遅いわねぇ〜、先に食べちゃおっか?」
「私はもう少し待ちます。ミサトさんはお先にどうぞ。」
「ん〜っ、まあアタシは、これさえあればいっけどね。」
そう言ってまた缶ビールを手に取る。カシュッと蓋が開く音と、バタンとドアの閉まる音が重なった。どうやら帰ってきたようだ。
「たっだいま〜っ!」
アスカの弾んだ声。少し遅れて、シンジの声も聞えてくる。
「・・・もうアスカぁ、ドア閉めないで開けててよ。」
「あによぉ〜?アンタがさっさと入ってこないから閉まったんじゃない!」
「だ、だって、荷物が多くてさ。」
バタバタと賑やかに入ってきたアスカを、ミサトが少しジト目で見る。
「二人とも、おっそ〜い!せっかくお夕飯買ってきたのに〜。」
「え?あたしら外で食べちゃったからいらないわよ。」
「ちょっとお!あたしもレイも待ってたのよ。食べるなら食べるで連絡ぐらいしなさい。」
「・・・別に頼んだ憶えないけど。ファーストにも。」
アスカはチラリとレイを見ただけだった。大荷物を抱えたシンジも入ってきて、その様子に気付いた。
「ご、ゴメンね綾波、待ってたなんて知らなくて。」
「・・・・いえ、私が勝手に待ってただけだから。」
アスカと二人で食事を済ませたことに失望しながらも、そう答える。
そのまま自分の部屋へ入ろうとするアスカをミサトが注意する。
「アスカ、ちゃんと 『レイ』 って呼びなさいって、何度も云ってるでしょ。」
瞬間アスカはぷぅっとむくれたが、しれっとした声で聞いた。
「べっつにファースト、あんた気にしてないでしょ?」
「・・・・・・ええ。」
アスカがほらみろと言わんばかりにミサトを見る。
ミサトが困った顔になる。最近のレイは聞きわけが良すぎるというか、反論するということをしない。
何故かは分からないが、自分を抑え過ぎているように感じる。

食事を終えたレイはミサトの自宅でしばらく過ごした後、自分の部屋へと戻る。
出来ればミサトの所で引き取りたかったが、空き部屋がないので同じマンションの一室を借りていた。
彼女の新しい住まいはミサト達の部屋から四室ほど離れる。戦後は入居者が増えた為、すぐ隣の部屋は既に埋まっていた。
「じゃあ綾波、おやすみ。」
シンジはレイを部屋の前まで送ると、既に習慣となった挨拶を交わす。
「ええ・・・・・・。」
その日、いつもとは違い、レイの返事は云い辛そうに途切れた。
こうしていつも送ってはくれるが、部屋の前止まり。挨拶を交わすとすぐ、彼はまた自分の住まいへと戻る。
ミサトが、そしてアスカがいる、あの部屋へ――――。

『女の子にわがままを言われるのは、男の子だって悪い気しないわよ』

言ってみたい。少し、ほんの少しだけ、わがままを・・・・・。
(やっぱりダメ・・・・・言えない。)
不意に鎌首をもたげるその欲求を振り払う。何かに怯えるように。
「あの・・・・本当にゴメンね。今日、食べてきたりして。」
レイが何か云いたそうにしているのは、食事のことを怒っているのだと早合点した。
「う、ううん、そんなことない・・・・・。何でも無いの。おやすみなさい、碇くん。」
「うん・・・・おやすみ。」
シンジはちょっと気になったが、微笑んで挨拶を返した。
徐々に遠ざかるシンジの背中をレイは黙って見送っていた。
部屋の前でシンジは気付いて手を振った。レイも僅かに手を振る。
シンジがドアの向こうへ消えても、レイはまだ見つめていた。
レイのいるここからあの場所へは、間に三室隔てている。
シンジとアスカの部屋とは向かい合わせ。普段も四六時中、顔を合わせている。
レイがこのマンションへ引っ越した当初は、彼の近くに住めると単純に喜んでいた。
でも今は、家が近くなってもかえって距離が遠くなった気がする。
自分とアスカ、二人の距離の差を見せつけられているような気がする。
さっき振り払った筈の嫌な感情が、胸の奥底でザラリと甦った。

「ただいま。」
ほんの数分程度の外出だが、戻ったシンジは律儀に挨拶する。ダイニングでアスカとすれ違った。
「・・・遅いじゃないの。」
「遅いって・・・・ほんのちょっと立ち話しただけだよ。」
「―――どうだか。」
それだけ言い残してアスカはバスルームへと曲がった。
(・・・・なんだよ?あの言い方。)
後ろ暗いことをしていたように言われると気分は良くない。
ダイニングを抜けリビングを横切ろうとしたとき、寛いでテレビを見ていたミサトが缶ビールを掴んだ手を上げた。
「おっかえり〜。」
「・・・ミサトさん、横になってビール飲んでると、また寝てしまいますよ。」
「いいわよん、そうなったらシンちゃん運んでくれるもんね?」
「もう・・・・、面倒見ないですよ、僕は。」
そう答えながらもミサトと共に寝っ転がる空き缶達を半ば諦めたように見る。どうせアレを片付けるのは自分だろう。
「差別〜っ!シンちゃんてば、レイだったら優しく介抱するくせに。」
「あ、綾波はそもそも、そんなことしませんて!」
キャミソールにトランクスというミサトのだらしない艶姿に目のやり場を困らせ、赤くなった。
「うふっ、やっぱレイの部屋に入り浸っているだけあってよく知ってるわね〜〜。」
「い、入り浸ってなんか無いですよ!今だってすぐ戻ってきたじゃないですか。」
「も〜〜っ、早過ぎるわよ。あ、でもキスぐらいなら十分な時間よねん。」
「あ、あのですねぇ・・・・・・。」
(遅いだの早過ぎるだの、どっちなんだよおっ!?)
心の中の叫びを酔っ払いに向けても詮無いことである。
「も、もういい加減にして下さいよ。別に綾波とはそういう関係じゃ・・・・・。」
「違うの?」
真顔で切り返され、シンジは言葉に詰まった。
「・・・あの子の気持ちからすれば、むしろそれを望んでいると思うけど。」
酔っ払いの目ではない。かつて司令室でシンジが何度も見た、あの目だった。
「やめて下さい。僕はまだ―――。」
自分が云いかけた言葉に気付いたシンジは、たまらず視線を逸らした。
「そう―――。ご免なさい。」
ミサトもそれ以上、追求はしない。シンジは黙って自室へ戻った。
(まだ・・・・・なのね。)
多分、一番辛いのはシンジだろう。それは十分、解っているつもりだ。
だが彼を慕う少女達の気持ちを考えると、つい口出しをしたくなってしまう。妹のように可愛いと思う二人だから―――。
いつの間にか力が入ったのだろう。手に握った空き缶がペキリと悲鳴を上げた。

暗い自室へ入り、机の上の蛍光灯だけを点ける。青白い光が、シンジの影を薄く照らしだす。
椅子に腰掛け、机の引き出しから紅茶の空き缶を取り出す。以前レイの引越しのとき、彼女の部屋から持ってきたものだ。
蓋を開ける。中は空っぽ。だが、丁寧に洗われたその中身には、シンジの想いが詰まっている。
ここ最近、この空き缶を眺めることは無かった。淡く切ない記憶と共に、引き出しの奥に眠っていた。
自分が惹かれたのは初めて遇ったレイだった。初恋、そういっていいだろう。
はっきり自覚したのは、皮肉にも彼女が死んだ後だった。自分は痛みと共に彼女のことを一生忘れまい、そう誓った。
現在のレイに以前の面影を重ねていた事もある。それを責めるのは酷な話だ。彼女は紛れも無く、本人なのだから。
それでもいまのレイを好きだと、自分は思う。
人との触れ合いが深まるにつれ、硬い花の蕾が綻ぶように柔らかな表情を見せてくれる彼女を、愛しいとおもう。
だからもう、吹っ切れたと思った。以前のレイを忘れた訳じゃない。忘れることなんて出来はしない。
でも昔の彼女と同じように、いまのレイもかけがえの無い存在だ。
だから自分は、彼女を守る―――そう決めた筈だ。
だがその決意は、本心では、昔の初恋がまだ続いているのだろうか?
空っぽの空き缶の底を、じっと見つめる。そこに答えが有るわけじゃない。在るのは正直な、自分の想い。
(まだ―――。そう・・・・・まだなんだ。)
まだ迷いがある。以前のレイも、今のレイも大切にする―――。それが具体的にどういうことなのか、まだ見えない。
(・・・・・ご免。逃げるわけじゃないけど、もう少し、時間が欲しい。)
これは自分自身の問題だから。自分が納得しないと、先へ進めないから。
だから自分の心に折り合いがつくまで、あと少しだけ、見守っていて欲しい。
静かに、蓋を閉めた。また一つ想いが込められた小箱の重さを感じながら、そっと引き出しへと導いた。


最後の戦いが終わってもNERVはまだ存続していた。たとえ使徒が来ないにしろ、人類最強の兵器エヴァンゲリオンを保有している。
当然各国から干渉は受けたが、現在のところ特定の政府には依存しない、一種の独立状態を保っている。
それにはサードインパクトの危機を防いだというプロパガンダの影響も大きい。世論を味方につけたことが随分有利に働いた。
NERVは現在は、以前のような半軍事組織ではない。むしろそれより前の研究所という性格に近くなっていた。
ミサトは作戦部長の任を解かれ、現在は政府との対外的な交渉が主な職務になっている。
『まだ使徒相手の方がやり易かったわね。殲滅すればよかったから』 とは、現在の彼女の仕事を評した本人の弁。
ミサトは今、リツコの研究室で友人と雑談をしている。忙しい仕事の合い間で息抜きする、貴重なひととき。
今の話題は、彼女の大事な三人の家族について。
「なんか見てて歯がゆいのよねぇ〜、あの子たち。」
「シンジ君の事?」
「レイもね・・・・・シンちゃんを好きなのがミエミエなのに、奥手っつーか・・・・・。」
「仕方ないわよ。・・・レイはね、急激に成長している自分の感情を持て余しているんだと思う。」
珈琲を一口啜ったリツコは、少し感傷的に声を潜めた。
「あの子にとっては未知の感情ばかり。”好き” という事がどういうことか、それさえも解ってないかもしれない。」
「でもさ、傍目にみれば絶対そうなのに。まどろっこしいったら・・・・。」
「だったらシンジ君がリードしてあげなきゃ。そもそも男の子の役目でしょ。」
「シンちゃんもねぇ〜っ。なんか一歩踏み込めないっていうか、大事にし過ぎているっていうか・・・・。」
連鎖的に加持の顔が浮かび、少し赤くなった。
(・・・・・あまり大切にされ過ぎても、かえって伝わらないのよね・・・・・。)
シンジの心はレイに傾いている。レイもシンジだけを見ている。にも関わらず二人はどこか距離を置いている。
「二人とも宙ぶらりんだから、いっそのことシンちゃんとアスカがくっついちゃえばって思う時もあるけど・・・・。」
「あなたねぇ、単に面白がっているだけじゃないの?」
リツコの咎めるような言葉に、ミサトは真面目な顔で応えた。
「そうじゃなくてさ・・・・。アスカもシンちゃんが好きなのに、こっちは意地張ってばっかで・・・・・。」
「消極的と意地っ張りか・・・・本当にレイとアスカは対称的よね。月と太陽みたいに。」
リツコは以前、自分が言った比喩を持ち出した。ミサトは薄く笑ったが、元気の無い笑みだった。
「・・・・・でも、アスカだって・・・・・。ああ見えてもあの子なりに、一途なのよ・・・・・。」
アスカもまたシンジを見ている。だが当の本人がはっきり認めようとしない。
誰も傷つかなければ良いんだけど、とミサトがふぅっと溜め息をついた。
「ひょっとしてミサト、アスカと自分を重ねてるんでしょ?加持君にずっと、素直じゃなかったものね。」
少しばかり落ち込んだミサトに対して、リツコが軽く揶揄するような口調で言う。
その視線は、ミサトの左薬指に輝く指輪に注がれていた。つい先日、彼女は加持と婚約をしたばかりだ。
赤くなったミサトは、ワザと嫌味っぽく返す。
「ア、アンタね〜〜っ!自分こそ他人のことばかり言ってないで、サッサといいひと見つけなさいよ。」
リツコがチラリと写真立てを見た。そこに写っているのは自分、両親、そしてゲンドウ。
ミサトが何も知らないわけではない。だからこそ、今の二人はこうした事も通じ合える。

「そうね・・・・・。そうしようかしら。」
リツコは何ともいえない微笑みを見せた。


< 続 >



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