匂い 第2話
「フェロモン」


「レイ・・・」

「あうっ」

もう記憶は白く甘い声の煙の中
何からはじまったかなんて
もう突き刺す快感に消されてしまった

ぼくはだれなのか
もう僕の中のメモは快楽の声に飛ばされてしまって
ただ・・・ただ・・・

「おにいちゃん・・・」

と僕を呼ぶ一人の女性で埋められていた

彼女が僕に触れる、彼女が僕の名を呼ぶ

彼女が

いま、僕の鼓動が彼女の中へ・・・




「・・・はぁ」


ぼくはなんて夢を見ているんだろう・・・
妹の・・・妹の


「あぁ・・・あぁ・・・」

レイの・・・

「ちくしょう・・・」

自分は何も悪くない
だけど、どこか苛立ちというかストレスというか・・・
そんなものが

ガンッ

右手の痛みと・・・

「オニイチャン・・・」


欲望への快楽を与えた

ぼくは自分の迷いの元を抜き出して捨てるのだと
そう、そう自分に言い聞かせて
欲望を丸め込んだティッシュを投げ捨てた


暑い・・・
もう今年は無いと思っていた夏の蒸し暑さ
僕の汗はシーツに吸われていた

きっと、これも妹のおかずになるだろう
また、みだらになるだろう妹の姿が思い浮かぶ

胸が・・・くるしかった・・・


「いってきます」

そそくさと逃げるように家を出て学校へ
途中何度も後ろを振り向き確かめた
追いかけてるかもしれない妹を・・・

期待してるわけでも、おびえてるわけでもないけど
どっちか、なにか・・・
わからないぶん、来てくれない方が楽だった
実際、妹はこなかったのだけど

なにか・・・今日のぼくはぼーっとしてて
中途半端な出来事と
中途半端な自分の心に
今日一日の僕の心は・・・そう霧がかってるようだった



「ちょっと、シンジ。私の話聞いてるの?」

「ん?うん、聞いてる」

赤い髪の彼女が僕を呼び覚まそうと引っ張り込む
ぼくは気づくようにそれに答える、まだ霧がかかっているのに

「そう、、、でさ、ヒカリ用事ができちゃって券余っちゃったのよ 
でね、今度の日曜日・・・」

彼女は僕のことを好きだという
僕も彼女のことが好きなのだけど・・・

「ねぇシンジ」

映画雑誌を見せるために体を密着させてきた彼女・・・
彼女の甘い匂いが僕の鼻をくすぐる
オレンジのような甘酸っぱい匂い
きもちいい匂い

でも

胸が苦しかった・・・




「ただいま・・・あれ・・・」

「おかえり、シンジ」

「母さん、レイもう帰ってるの?」

「そうなのよ、レイなんか調子悪いみたいで
学校休みって言って休んじゃった・・・」

そう、考えてみれば
昨日あんなことあったわけだし
休んでも仕方なかったよね・・・


「お父さんもお母さん今日は研究室の日だから夕飯は用意したのレンジでチンするのよ!」

母親の言葉も背中で流しながら
自分の部屋へ・・・

重くはないかばんをずっしりと机の上において
「はぁ・・・」とため息一つはいてベットに倒れこみ
気づいた

「シーツが・・・あっ・・・」

いつもと違うシーツ
いや、洗い立てとか、そういう意味じゃなくて

レイの匂い

あまく、切なくて
胸の奥からなにかが飛び出しそうな
甘い、とても甘い・・・匂い

答えは1+1のように簡単だった
そう・・・こたえはすぐ隣りで・・・

何も考えないように
何も邪魔が入らないように

ぼくはズボンのファスナーを開け
隣りで行われているであろう淫らを胸に
ぼくは・・・


カチャカチャカチャ・・・
無機質に音が流れる夕食
何も言わないまま食事をする

僕と・・・妹・・・

なんか気まずさにたえられなくなって

「レイ、もう大丈夫?体・・・」

「うん・・・」


カチャカチャカチャカチャ・・・
カチャカチャカチャカチャ・・・

「お兄ちゃん・・・」

「えっあっん?、ななに?」

「・・・フェロモン」

「え?」

不意打ち

「顔や声で好きになるように、匂いで好きになることもあると思うの」

「いきなり、何を・・・」

「お兄ちゃん・・・」

そういうと・・・レイは立ち上がり,椅子に座るぼくの頭を抱きしめた

「お兄ちゃんの匂いが好き・・・」

その妹の行為と言葉が
ぼくに何を求めているのかわかっていたけど
もう味のしない夕食を捨て

「あっ・・・」

「・・・ごめん」

逃げた

自分の部屋に逃げ帰ったぼくは
布団に顔をうずめて
心の中にある、なにかわからないものでできているモヤモヤを消し去ろうとしたのだけど
妹の匂い残る布団は僕を追い詰めて、苦しめた
逃げられない渦の中、ぼくは壊れかけのファスナーを理性で押さえつけるのにせいっぱいで
背後に見える影に気づけなかった

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