あなたのココロ、わたしのカラダ
前編「昼も夜も」
written by タン塩
もしかしたら、碇くんは夜が強いほうなのかもしれない。中性的な外見や、おとなしい言動からは想像も付かないけれど。一度始めると、最低三回は私の中に精を注がないと、私の躯を離してくれない。
彼に求めてもらえるのはうれしいし、私自身も彼の誘いを待ち望んでいるのだけれど、二回絶頂に達すると三度目は体がつらくなる。体力が尽きてボロ切れのようになった私を、それでも彼は貪り続ける。彼がそれほど私を求めてくれるのはうれしいけれど、私の躯は軋み、悲鳴をあげる。心の悦びと、体の辛さと。彼の愛の貪欲さに私は喜び、苦しむ。
今夜も私を求めてきた。少し強引に唇を重ねて、舌を入れてくる。彼の舌が私の舌を存分に味わい、私の口内を蹂躙し、私の唾液を啜る。それだけで、私の意識は混濁し、私の躯は溢れ出すほど濡れていく。彼が私の全てを求め、私の全てを見つめ、私の全てを貪っている。その事実を突き付けられた私に、抵抗などは思考の外になる。もっと私を求めて。もっと私を見つめて。私の全てを貪り食って。そして私と身も心もひとつになって。私のココロの欲望は、彼のカラダの欲望とひとつになる。
彼の執拗な愛撫が私の躯を苛み、容赦なく追い詰める。私の胸の尖端の桜色を味わっていた彼の唇が、やがて私の股間を這い纏わり、私の核を玩弄すると、私の躯は喜びの叫びをあげ、もういきたいと哀願する。私は必死にそれを抑え込む。
だめ。いってはだめ。今いったら、またカラダがつらくなる。
「お願い、碇くん…もう、欲しいの…」
「もうちょっと。綾波のここって、甘酸っぱくて美味しいんだもん」
無邪気な笑顔で私の懇願を拒絶して、彼は私の股間を味わいつづける。うれしそうに、おいしそうに、陰核から膣口を経て肛門までしゃぶり尽くす。私の躯は彼の舌の求めに応じて芳醇な果汁を溢れさせ続け、彼はそれを一滴残らず飲み干そうと、私の股間を吸い上げる。ひどい。ひどい。碇くん、ひどい。
普段の彼は優しくて、私の小さな我が儘を笑顔で受け入れてくれる。でも、ベッドの上の彼は残忍な専制君主。私を支配し、虐げ、搾取する。私はありったけの歓喜と悦楽とを彼に差し出し、彼はそれでも足りずに私の躯からこれでもかと快感の贄を搾り取る。
「あ…だめ……だめ…」
彼の指が侵入してくる。私の潤った躯はそれを安々と奥まで受け入れる。その指は私の体内を隅々まで探り、私の中に潜んでいた、私の知らない快感を引きずり出す。その指が、私の中のある一点を探り当てると、私の意識は砕け散り、私の躯は蒼白い焔に焼き尽くされる。
「あ…あ…あああっ!!」
私の膣の収縮を、彼はその指で存分に楽しみ、残酷な天使のように微笑む。
「よかった? 綾波」
「あ…ああ………あ」
私は白く濁った意識の中で、彼の肉塊が私に入ってくるのに気付く。
「だめ……だめ……休ませて」
私の哀願を無視して、彼は容赦なく私の奥の奥まで入り込む。やけどしそうなその熱さに、私の躯は震え愕く。
しばしの間、私の膣肉の柔らかさを楽しむように静かな動きを繰り返した彼が、突然激しい律動を繰り出す。私はたちまち翻弄され、彼の腕の中で、彼の嵐に押し流される。ついさっき達したばかりの私の躯は、彼の力強いリズムにたやすく屈して、どす黒い快感を搾り取られる。なんて弱い私の躯。
私は彼の下で、貫かれ、揺さ振られ、貪られる。やがて私の躯の輪郭がぼやけ、消え失せてゆく。私は女性器だけの存在となり、ただ彼の男性器だけが私の全世界となる。私はその世界を浮遊し、漂流する。そして世界は終末を迎え、破裂し、崩壊する。私の躯は砕け散り、四散する。
「…………なみ…綾波」
呼んでいる。私を呼んでいる。私が心も命も魂も捧げた人が呼んでいる。
「ん……いか…り…くん」
「綾波? よかった、気が付いた?」
重い瞼を持ち上げると、彼の微笑みが私を捉える。私の魂を貫き、私の心を紅い十字架に打ち付ける槍のような、残酷な微笑み。
「一分ぐらい気を失ってたよ。大丈夫?」
「………ええ」
「よかった」
もう一度微笑んで、彼は私の唇を小鳥のように優しく啄む。私も彼の唇を啄み返す。愛しい。彼のなにもかもが愛しい。
ふと気付くと、彼がまだ私の中にいる。彼が抜かずにいてくれた。うれしくなった私は両足を彼の腰に回して、彼をしっかり繋ぎ止めた。
「綾波?」
「お願い。もうしばらく、ひとつになっていたい」
「うん」
彼はまた唇を求める。舌が入って来る。私は彼の舌を夢中で吸う。私たちは今、上も下も繋がっている。私たちの躯は、なぜこんなにピッタリ重なるのかしら。あなたはたぶん、遠い昔に私が無くしたピースの一片。私の魂にぽっかり空いた穴にピッタリ嵌まるピースがあなた。私の心の鍵穴にピッタリ嵌まる鍵があなた。だからあなたの指が触れただけで、私の肌は熱くなる。あなたの唇が触れただけで、私の躯は濡れ始める。
彼の手が私の背中を這い、やがてお尻を撫で回す。私の中にいる彼が、また逞しさを取り戻し、私の膣を押し拡げる。まだ欲しいの? 私を見る彼の目が情欲に燃えている。こんな時、私は決して断れない。彼のココロを全て受け入れてあげたいから。彼のカラダが尽き果てるまで充たしてあげたいから。彼の想いを一滴残らず私に注いで欲しいから。………彼に嫌われるのが怖いから。
「いい?」
彼が私の顔をのぞき込む。もう躯がつらいのに、私は頷いてしまう。彼が緩やかに動き出すと、もう私は彼という快楽の海に沈み、溺れてしまう。底無しの快感と、息苦しさと。このまま続けると、絶頂の瞬間に私のココロもカラダも壊れてしまうかもしれない。それでいいと思った。壊れた私を、それでも彼は犯し続けるだろう。それでいい。それならば、同じことだから。
壊れたまま、彼に際限無く犯され続ける自分を想像した。正直な私の膣肉はまた収縮し、彼は眉をひそめ、切なげに呻いた。
カチャ、カチャ……音がする……何の音…? 硬質の物体が触れ合うような音。やがて私はそれが食器の音だと気づく。
その時、私の意識の中に雷鳴のように走るものがあった。今日の朝食当番は私!
「綾波、起きた?」
「い、碇くん、私……」
「朝ごはん出来たから、顔洗ってくれば?」
少しすまなそうに笑う彼。私はまたやってしまった。
「ごめんなさい、私……」
「い、いや、たまたま目が早く覚めちゃったからさ。き、気にしないでよ」
私はまた寝坊してしまった。最近、ちゃんと朝食を作れた覚えがない。
「ごめんなさい……」
「ぼ、僕こそごめん! 綾波を起こそうと思ったんだけど、気持ち良さそうに寝てたから……」
「あやまらないで、私が悪いの。ごめんなさい」
「そ、そんなに落ち込まないでよ。たいしたことじゃないんだからさ」
彼の優しさがつらい。彼と共に生きようと決めた時から、こうした日常の細かなことをきちんとやろうと誓ったのに。
「綾波さ、最近疲れ気味?」
はっとして顔を上げると、彼の不安げな眼差し。
「いや、何となくそんな気がして」
「そんなことないわ」
私は慌てて取り繕う。
「……僕のせいかな」
「違う! 違うわ碇くん」
「ごめん。自分でも度が過ぎてるとは思うんだ。だけど……」
彼の目が澱む。暗い目。虚ろな目。
「……怖いんだ。自分が自分でなくなりそうな気がして。でも、綾波を抱いてる間は、自分が自分でいられる気がするんだ。……おかしいよね、こんなの」
私は理解不能の情動に襲われていた。激しい心の痛み。そして、狂おしいほどの喜び!
「……いいの」
「綾波?」
私は動かない口を必死に動かして、声を搾り出した。
「いいの。碇くんがそれで癒されるなら、私を好きなだけ抱けばいい。碇くんの心を守れるなら、それだけで私が還って来た意味がある。だから、いいの」
赤い海から還って来た私は、以前の私とは違う。今の私は二人目でも三人目でもない全ての綾波レイであり、ひとりのリリンの女。
あの日リリスに還った私は全ての綾波レイの記憶をリリスから受け取り、全ての人を補完した。そして依り代たる碇シンジの願いによって、ヒトとして自らの肉体を再構成した。
赤い海から還った私を、碇くんは抱きしめてくれた。息苦しいほど強く碇くんに抱きしめられながら、私は想像もつかなかった幸福感に震えていた。かつて彼のために死んだ私が、彼と共に生きていい。もう彼を求める気持ちを殺さなくていい。碇くんを抱きしめるのに誰の許しもいらない。
この世界に還った私は碇くんに溺れた。常に碇くんに寄り添い、密着し、日に何十遍も唇を求めた。毎晩彼と体を重ね、彼の腕枕で眠り、空っぽな自分を碇くんの愛とぬくもりと情炎で満たした。
そんな時期が数ヶ月は続いただろうか。今考えても、私にはその時期が必要だった。餓えた者が食を貪るように私は碇くんの愛を貪った。人形だった私がヒトになるには、たくさんのぬくもりが必要だった。それが私の補完だったのだろう。そして碇くんにとっても、私を抱くことが、傷ついた心の癒しになっていたのだと思う。それはもちろん私の望むところでもあった。彼が私の乳房にむしゃぶりつき、無我夢中で乳首を吸うのを、私は喜びに震えながら受け入れた。それが私の望んだことだから。
私は彼から受け取るだけの存在にはなりたくなかった。私が彼を必要としているように、彼にも私を必要として欲しかった。そして彼の傷ついた心さえもが、私の望みだった。
その望みが叶った私は、彼の底無しの欲望を許した。何度私の中で達しても、また復活する彼を拒まず迎え入れた。そして溢れるほどの欲望を私の中に吐き出して、ようやく満足した彼の安らかな寝顔を眺めるひと時が、私の至福の時間になった。
だけど、心とはうらはらに、私の躯は悲鳴をあげた。私が得たヒトの肉体は、彼の過剰な欲望には耐えられそうになかった。
やがて私は気づいた。彼がいつの間にか、私を抱くことに依存するようになってしまったことに。
気がつくと彼は、少しでも私と離れると不安げな表情を見せるようになっていた。そして私の躯を、昼も夜も際限無く貪るようになってしまった。それでも私は彼を拒むことができない。私を抱いている時だけは、彼があの暗い目にならないから。私を抱いた後だけは、うなされることなく穏やかに眠ってくれるから。彼の底無しのカラダの欲望は、私の底無しのココロの欲望と同じだから。
夜だけでなく、彼はしばしば朝早くから求めてくることがある。躯に走る甘い感覚にふと目覚めると、まだ薄暗い寝室のベッドの上で、彼が私の両脚の間にいて、私の股間に顔を埋め、私の秘肉を拡げ、私の核に優しく舌を這わせていたりする。たちまち私の心は震え、私の躯は燃え上がる。朝に弱い私は、起きぬけの朦朧とした頭で躯に火を付けられると抵抗できない。知らないうちに躯を弄ばれていた戸惑いと、それでも躯の奥から沸き上がる悦びと。やがて入って来る彼を私の躯は滑らかに迎え入れ、軟らかく包み込み、しなやかに締め付ける。
「……動いていい?」
いまさらのように聞く彼。狡い人。
答えない私に耐え兼ねたように彼は腰を引いた。私の股間から響く水音。私の背筋を貫く快美感。
「……く」
私の口が、私の気持ちを裏切って声を漏らす。彼の腰は、その声に確信を得たみたいに勢いを増す。
彼の獰猛な腰遣いに、私はとっくに降伏してしまっている。私の躯は、彼の腰の動きを勝手に快感に変換して、遠慮会釈無く脳に送り込んでくる。
私は犯されている。抱かれているんじゃない。犯されているんだ。なのに、心が沸き立つ。体を蹂躙される感覚が、私を狂わせる。
「ん……あ……ああっ!」
狂った私の口から、流し込まれた快感が声になって洩れ出す。一度声を漏らしてしまえば、あとは押し流されるだけ。私は、心まで彼に犯された。
「ん……ん……ああ……」
墜ちる。暗く深い穴の奥底に墜ちていく。でも、この穴の深さは、彼の心の闇の深さ。この闇の底に本当の彼がいる。抱えた闇の深さに怯え、震える彼がいる。
「あ、あ…ああああっ!!」
「綾波……」
目を開けると、間近に碇くんの顔があった。私はまた意識を失っていたらしい。
「……いかり、くん」
「大丈夫? あの、ごめん、無理矢理しちゃって」
「……いいの」
「綾波……」
「忘れないで。あなたの心は私が守る。心の壊れた碇くんを見るぐらいなら、死んだ方がまし」
「……ごめん!」
ベッドに横たわる私の胸に縋る彼。その頭を抱いて、髪を撫でる。
「…ごめん。こんなんじゃいけないってわかってるんだ。でも……怖いんだ」
私の胸に顔をうずめている彼の目は見えない。でも、多分彼は今、あの目をしている。
「僕は……僕がいなければ、サードインパクトは起きなかったのかな……僕がいなければ、誰も死ななかったのかな……僕は……僕は……」
「そうね」
彼の肩がビクッと震える。私の胸から顔を上げようとする彼を私は抱き留める。
「碇くんがしっかりしていれば、鈴原君は傷付かなかったかもしれない。弐号機パイロットは壊れなくて済んだかもしれない。量産機を倒して、サードインパクトを阻止できたかもしれない」
彼の震えが激しくなる。私は彼を強く抱きしめる。
「……でも、碇くんでなければ使徒に負けていたかもしれない」
「……!」
「第四使徒の鞭に切り裂かれて負けていたかもしれない。第五使徒の加粒子砲に焼かれて負けていたかもしれない」
「……」
彼の震えが治まった。私の胸が、碇くんの吐息で暖かい。
「第拾四使徒戦では、私も弐号機パイロットも負けたわ。碇くんが戻って来てくれなかったら、あの時点で人類は滅亡していた」
「……」
「だから『碇くんがいなかったら』なんて、意味がないの。あなたはいた。使徒を全て殲滅した。サードインパクトは起きた。それだけのこと」
「でも、僕が……僕が逃げなければ」
「無理よ」
「……!?」
「あなたは弱い人。目の前の壁を、最初から越えられないと決め付けて逃げる人」
また震える肩。
「あなたはそういう人。逃げ出しておきながら、後で自分を責めるふりをして、自分の弱さから目を背けている人。……卑怯な人」
「あ、綾波……綾波まで僕を……僕を!?」
「……でも、そんなこと、どうでもいいこと」
「……!」
「弱くても卑怯でも、それがあなた。あなたはあなたにしかなれない。あなたはあなたでいればいい。弱い自分を受け入れればいい。弱い自分が嫌なら変わればいい。……したいようにすればいい」
「……僕は」
「私は弱いあなたを受け入れる。変わるあなたを受け入れる。たとえ世界中の人があなたを憎んでも、私だけはあなたを許す」
「……」
「だから、自分の心を見つめて。汚さも醜さもありのままに。私が、汚いあなたも醜いあなたも受け止めるから。それが私の役割だから」
「綾波……うっ……うう」
泣きじゃくる彼の頭を抱きしめて、天井を見上げる。この気持ちは何だろう。彼の痛み、苦しみまでが愛しい。
そう、彼が私の躯を蹂躙したのは、彼が心を蹂躙されたからなのね。彼はその痛みを私に分けてくれたのね。だから私は狂わされたのね。
「綾波……そばにいてくれる? ずっとそばにいてくれる?」
「いるわ。この世が終わるまで、ずっと」
そう。私はあなたを死んだ後も離さない。あなたの魂を取り込み、融合し、世界が終わる日まで一緒。それが赤い海で交わした約束だから。
そこにあるのは、カラダの快感もココロの快感も超えた、魂の快感。
『私とひとつになりましょう。それはとても気持ちのいいことなのよ』
【後編】>
タン塩氏はメールアドレス非公開のため、感想は
この作品はbbspinkエロパロ板が初出のため、該当スレに感想を書くという手もあるかもしれませんが、スレ住人にスレチと罵られても作者もtambも責任は取れませんのでご了承ください。ちなみに該当スレは作品公開時点では現行スレです。
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