世界を包み込んでいるかのように広がる紅き海は、人々が融け込んだ誰もが分かり合える喜びの野
その、何処までも続くかに見える紅い海の向こう側には、巨大な白いレイの頭が見える
サードインパクトの起こった世界に残る傷痕
それは、生命を一つも感じさせる事の無い、薄暗い空と荒涼とした大地
風さえも吹くことの無い、海が波立つ事も無い、ただ静寂だけが支配する世界
だが、そんな世界に一人だけ生ける者が居た
それはサードインパクトで依代とされた少年
彼は人との触れ合いを恐れたため、全てを拒絶した
その心の奥底では人の温もりを求めていた筈なのに・・・・・
全ての人がいなくなった世界に一人放り出された孤独
寂しさに苛まれた少年は、砂浜に蹲って涙を零す
母の面影を無意識に追ってしまった少女は女神となって姿を消し
姉のように思えた女性は自分を庇って命を落とした
もう一人の家族のようだった少女も、紅き海に融けて行った
少年が首を締め、彼女自身が生きることを拒否したが為に
少年は激しく後悔する
己の心が弱かった為に、こんな世界にしてしまった事を
そして、自分が何処か安堵の気持ちを持っていることに
少年は紅い死の世界を見渡す
だが、何処にも生を感じさせるものは存在しない
己の罪を改めて認識する少年
湧き上がってくるやりきれなさに少年の心は何時しか破綻の兆しを見せ出す
まるで自分を傷つける事が贖罪になるとでも思っているかのような少年の行動
壁に拳を、頭を打ち付け自分を傷つける
それだけでは足りないのか、心の暴走は遂に死を選択させる
紅き海に飛び込んで自殺を試みる
L.C.Lで構成されている為か、息が出来てしまい死ぬことが出来ない
何処から見つけてきたのか、手に拳銃が握られている
ゆっくりとこめかみに当て引き金を引くが、弾は撃ち出されない
死を望んでいるのに死ねないことで、少年の心は打ち砕かれたようになる
バラバラになった心を狂気が蝕んでいき
いつしか自分に向けていた破壊衝動を外に向け始める
無性に破壊の衝動に駆られた少年は、手近にある物を壊し始めた
溜まりに溜まった鬱積を吐き出すように
少しずつ、破壊の範囲を広げ始める少年
物が壊れていく様を見て
少年は破壊する事に快感を覚え始める
狂気が少年を支配し始め、心が暴走し始める
その狂気の暴走は、ある物に向けられた
そう、この世界を導いたもう一つの元凶である女神の抜け殻に
少年は女神の抜け殻に怒りをぶつける
己が罪をすべて擦り付けるように
手に嫌な感触を残しつつ、破壊されていく抜け殻
破壊された場所からは血のようなL.C.Lが流れ出す
肉を抉るように破壊していく少年
狂気の赴くままに
少年がある一点を破壊すると、突然噴出して来た大量のL.C.L
少年は押し流されない様にL.C.Lの奔流に耐える
それが収まった所で、少年は先に進む
目の前に広がるのは巨大な空洞
少年は、その中央部分にしっかりと固定されたカプセルのようなものを見つける
その中には人影があった
そう、見覚えのある、未だ恐怖と戸惑いを感じさせる少女の姿をした人影が
遠くからもその少女の髪の色が蒼銀である事が見て取れる
少年はカプセルに恐る恐る近寄る
少女は眠っているのだろうか、ピクリとも動かない
カプセルを軽く叩いてみると、簡単に弾け、中に居た少女が下に落ちる
だが、それでも目を覚まさない
少年は少女の口に手を持っていってみる
微かに、だが、確かに感じられる少女の呼吸
恐怖にかられ、少女の喉に手を伸ばす少年
もう一人の少女の時と同じように首を絞めようとする
だが、首を絞めようとした手に人の暖かさが伝わってくる
久しぶりに触れた人の暖かさに
少年は手を離して後じさりする
何か触れてはいけないものに触れた気がして
それでも気を落ち着け、そっと少女の頬に触ってみる
久しぶりに感じる人の温もりに、涙を流し始める
こんな状況だからなのだろうか、少年の中に有った少女への畏怖の気持ちが次第に薄らいでいく
それと共に、昔のように少女に対して淡い気持ちが湧き上がり始める
そっと少女を抱き寄せる少年
身体全体に暖かさが広がる
それは凍え乾いていた少年の心を溶かすとともに潤し、再び生きる為の活力を与えた
少年は姉の最後の言葉を思い出す
死を賭しても自分を救おうとしてくれた姉の言葉を無にするような今までの自分の行動を、少年は恥ずかしく感じる
そして、少年は少女と共にこの世界でしっかりと生き抜く事を心の中で姉に誓う
たった二人だけの、この世界に生きる生命として
新しい世界のアダムとイヴとなって
後書き
新しい連載のスタートです
EOE後の二人だけの世界がこれから展開していきます
月一の連載ですが、皆さん宜しくお願いします
お気付きの人もいると思いますので予め言っておきます
これは、別のサイトで公開させていただいた短編をリニューアルしたものです
ただし、似て非なるストーリーですが・・・・・
それでは
タッチでした