レイの心模様

第1話     変化


「綾波レイ・14歳。マルドゥックの報告書によって、選ばれた最初の被験者・ファーストチルドレン。エヴァンゲリオン試作零号機専属操縦士。過去の経歴は白紙、全て抹消済み」

ミサトから教えられたレイの情報を思い出しながら、シンジはプールサイドに視線を送る

そこには一人で座り込んでいるレイの姿があった

同じ、エヴァのパイロット同士、しかし、自分はレイの事を何も知らない

どうしてあんなに無表情なのか

どうして人と接触しようとしないのか

別に経歴がわかったからといって仲良くなれるとは限らない

だが、それでも何か切欠が掴めるのでは?と思っていたのだが、予想以上に難しい環境

それがシンジに困惑をもたらした

考え込んでいた為であろう、近くににじり寄る危険を感じ取れずにいたシンジに、魔の手が伸びた

トウジとケンスケに冷やかされるシンジ

からかいの言葉を慌てて否定する

トウジ達はそんなシンジを見て、本当の所を訊ねる

それに答えるシンジ

曰く

「どうして綾波って、いつも一人なんだろう?」

それを聞いて、転校当初からであることを答えながら、シンジの方が知ってるんじゃないかと質問するトウジとケンスケ

それに対してシンジは寂しそうに

「余り話さないから」

と答えた

遣り取りは聞こえなかったものの、ずっとシンジの視線を感じ取っていたレイは、一瞬シンジに視線を走らせると、すぐに元の位置に戻す

だが、その心の中では

(どうして彼の視線が気になったのだろう?私にはどうでもいい事のはずなのに)

そんな思いが渦巻いていた





ラミエルとの決戦後、病院のベッドの中でレイは今日の事に思いを馳せていた

自分に下された命令は「初号機」を護ること

その為、ラミエルからの反撃に対して逡巡せず初号機の前に出た

「私には替わりが居るもの」

その想いを胸に・・・・・

ラミエルの加粒子砲の威力は凄まじく、持っていた盾は予想より早く融解してしまった

命令を完遂する為に本体で防御に入るレイ

襲い掛かってくる熱さに、レイは意識が朦朧とし、気絶してしまった

深い闇に漂うレイの耳に届く

「綾波!大丈夫か!?綾波!」

と、自分を呼ぶ声

その声に連れ戻されるようにレイの意識が浮上を始める

ゆっくりと瞼を開くレイ

その瞳は未だはっきりと像を結ばないものの、そこに誰か居ることだけは判った

像がはっきりと結ばれ、その人物を鮮明に捕らえる事が出来たとき、レイはその人物が誰だか悟った

ゲンドウの息子で同僚の、サードチルドレン・碇シンジであることを

シンジはレイが生きていた事に安堵を覚えた

別れ際に聞いた言葉

「さようなら」

それが現実にならなかった事に

我知らず流れ出す涙

それをシンジは隠そうとしなかった

「自分には・・・・・、自分には他に何も無いなんてそんな事言うなよ。別れ際にさよならなんて、そんな悲しい事言うなよ」

涙を流しながらレイを諭すシンジ

「何泣いてるの?」

どうしてシンジが泣いているか判らず、問い掛けるレイ

こんな時、どんな表情をすれば良いのかレイには判らない

だからレイはシンジに素直に謝る

「御免なさい、こんな時、どんな顔をすれば良いか判らないの」



そんなレイの答えに驚きつつもシンジは答える

「笑えば良いと思うよ」



その言葉にシンジを見つめるレイ

シンジの顔に浮かぶのは笑顔

あのときのゲンドウと同じような・・・・・

それはレイの心に変化をもたらす

(この少年を護れて良かった)

それが今のレイの心境

護った対象が「初号機」から「碇シンジ」に替わっている事にレイ自身さえ気付いていない

そして、その想いがレイに笑顔を浮かべさせる

少年の心を虜にするような笑顔を・・・・・

レイの心に起こった変化は更なる変化を促す

無に還ることが望みだったレイ

だが、ゲンドウから与えられる「計画」という絆に縋る自分

死んでも替わりが居る自分、という存在を希薄に感じていた

だが、自分の為に涙を流し、喜んでくれる少年にレイはゲンドウにも感じたことの無かった何とも形容しがたい感じを覚え、確信した

この少年と新たな絆が結ばれたと・・・・・

それは初めてレイの中に生まれた希望

ヒトとの繋がりを求めながらも、無に還る事を願ってきた少女が生きていく事を誓うための

そしてレイは、希望の火を灯してくれたこの少年を護る

そう、心に決めた

そこまで思い出した時、レイは呟いた

「そう、碇君は私が護る・・・・・」







翌日からのレイに表面上の変化は別に無かった

だがそれは、余りにもその変化が小さく普段の彼女となんら変わりないように見えたからであり、実際は変化の兆しを見せていた

レイは授業中、よく窓の外を見ている

だが、今のレイは窓を見てはいるが、外は見ていない

なぜなら、窓の一部にシンジが映っているからだ

何時も通り窓の外を見ていた時にふと、その事に気付いたレイ

すると、シンジから目が離せなくなってしまった

更に、偶にシンジが自分の方を見る事があるのに気付く

その発見に鼓動が早くなり、そんな自分の変化にレイは戸惑う

シンジと窓を介して目が合ってしまった時など、周りに気付かれない程度に混乱する

更に早まる鼓動

頬が少し熱くなるのも感じる

あの時感じた何かがまた心の中に湧き上がってきて、レイはそれを持て余す

それがどんな感情なのか未だ知らないが為に

だからこそ、その答えを求めようとシンジに近付こうとする

それが正しい事なのだと思い込んで





シンジはレイの事をちらちらと盗み見る

あの時彼女が見せた笑顔

それが頭から離れなくなってしまったが為に

偶にレイが窓の外を見るような仕草をする事があるのにすぐ気がついたシンジは、レイが見ているものを見てみたいという思いに駆られた

だから、レイの視線を追いかけて窓の外を見てみた

だが、その目に映るのは青空ばかり

シンジは望んだ

何時かレイと同じものを見る事が出来る事を





あの時のシンジの笑顔が、一言が、レイの凍った湖面のような心に少しの皹を入れた

それはほんの些細な皹かもしれない

だが、蟻が巣を作っただけで堤防が決壊してしまうことがあるように

この些細な皹が凍った湖面を解かすための一石を投じたのは確かだった



【次話】

後書き


リニューアル版第1話、完成です。

シャムシエル戦後のエピソードを入れて、シンジがレイを気にする理由としてみました

ほんの少しだけ本文にも手を加えてみましたが如何でしたでしょうか?

リニューアル版では、レイの心の成長を書いてみるつもりです

そこで、元の文のようにその時のレイの心境を書いていくわけでは無いのでテーマも変更します

それでは

タッチでした




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