ある日のけだるい、午後の授業の時間
その時間もレイは、窓に映るシンジを見ていた
シンジが真剣に黒板に向かっているさまに、まるで魅了されたかのように一心不乱に
そんな中、シンジが少し下を向いた
シンジは携帯のディスプレイに視線を走らす
そこに表示されているのは
「非常召集」
シンジは手を挙げると
「先生、急用の為早退します」
と、授業をしていた教師に告げる
ただ頷くだけの教師
そう、既にシンジがエヴァのパイロットである事は公然の秘密となっていた
「綾波、行こう」
荷物を片付けず、自分を呆然と見ているレイを促すシンジ
だが、レイから返ってきた言葉は
「私は呼び出されていないから・・・・・」
だった
驚くシンジ
自分が呼び出されたのだから、当然レイもと思っていたのだが、どうやらそうでも無いらしい
釈然としないまでも、緊急である以上此処で考えていてもしょうがない
シンジは荷物を持つと、ネルフへと向かった
シンジを追う、レイの視線
顔には、誰も気付かない程度の寂しさと困惑が浮かんでいた
それはレイにとって重要な変化
レイは自分を襲う感情に困惑していたのだ
シンジが居なくなった事に切なさを感じる
シンジが居なくなった事に胸が苦しくなる
シンジが居なくなった事に涙が出そうになる
そんな感情を一纏めにして何と言えば良いのか分からない
自分の内から湧き出してくる感情に翻弄されるレイ
「・・・この感じは・・・何？」
思わず呟くレイ
それは余りにも小さかったため、殆ど誰も気付かなかった
だが、一人だけ気付いた者が居た
「今、何か言った？綾波さん」
ヒカリがレイに言葉を掛ける
だが、答える必要が無いと判断したレイは、ヒカリを無視してそのまま思考の海へと沈んでいった
それは、レイが初めて行った己の感情を理解しようとする行動
それが今の自分から脱する一つの楔となることに気付かずに・・・・・
レイは学校が終わると、急いでネルフ本部へと向かった
シンジに早く会いたいという思いを胸に
胸の中に沸き起こる不可解で、嫌な感情
それを抑える為にはシンジの傍に居るのが一番良いと思ったが為に
今までの、他人に興味を示さなかった少女には考えられない行動
それは、レイの変化を如実に表すものだった
本部に着いたレイは、発令所では無く、更衣室に向かう
そこにシンジが居るような気がして
その勘は正しかった
更衣室前で鉢合わせるシンジとレイ
レイの目にシンジの驚いた表情が飛び込んでくる
「お帰りなさい」
頭が真っ白になっていたレイは、何とかその言葉を搾り出す
他にも何か言いたいのだが、言葉が出てこない
だが、シンジの驚いた顔はやがて笑顔へと変わる
シンジの笑顔に安堵と共に、動悸が速くなるのを感じる
目が合わせられなくなって俯くレイ
そんな自分の心に戸惑いながら
シンジは驚いた
更衣室を出ると、目の前にレイが居た事に
シンジの耳に飛び込んでくるレイの言葉
それは別にこれといって大した言葉ではないのだが
レイが掛けてくれた言葉ということになれば違ってくる
誰も寄せ付けなかった少女に少しは近付けた証
驚きはやがて嬉しさへと変わった
まだまだ無表情だし、声を掛けてくれた真意は掴めない
だが、着実に距離が縮まっている事を感じて
シンジは俯いているレイに手を差し出す
もっと少女に近付くために
その手に重ねられるレイの手のひら
それをシンジは優しく握り締める
戸惑っていたレイは、何かを感じて顔を上げる
目の前にあるのは手のひら
それを辿っていくと、シンジの笑顔にたどり着く
その笑顔に心が浮き上がるような感覚を覚えつつ
差し出されている手に恐る恐る手を重ねるレイ
何故だかそうしないといけないような気がして
優しく握り締められた手のひらから感じるシンジの温もり
その事にレイは嬉しさも感じ、困惑も感じる
連れられるように歩き出したレイは、シンジとの間の絆を強く意識した
まるで、細かった絆が今、しっかりと結ばれたかのように
それはレイの錯覚かも知れなかったが、心に広がる暖かさに心地良さを感じていた
レイは気付かなかった
学校で感じていた様々な感情が、シンジと会った事で消えている事に
そう、レイが考えていた通りに・・・
感情を理解するにはまだ時間が掛かりそうなレイだが
それはまだ、新たな一歩を踏み出したに過ぎないから
その心はまだ、成長を始めたばかりなのだから
後書き
リニューアル版、第２話です
思ってた以上に変わりました
如何でしたでしょうか？
タッチでした