ライバル復活
EVA外伝第壱話
全ては終わった…人類補完計画により、多くの者が他人との付き合い方の間違いに気づき、それなりに成長し、それぞれ新たな生活を営んでいた。しかし、完全に心の補完を完了させたものは少なく、1億人に1人も居ないといわれている。その中で、シンジ、アスカは完全に補完を完了させていた。それが何故かは誰にも分からなかったが、シンジは1人の人間として立派に成長していた。舞台は人類補完計画が終わってから1ヵ月後の、1月から始まる…
「シ・ン・ちゃん。朝よ、起きなさい」
ユイがシンジを起こしている。ほとぼりが冷めたので、今日から学校が始まるのだ。ちなみに、ユイは2度に渡るサルベージによりヒトの姿に戻り、現在はシンジ、ゲンドウとともに暮らしていた。
「ふぁー、おはよう母さん」
「おはよう、シンちゃん。今日から学校でしょ」
「あ、そうだった。母さん、今何時?」
「まだ7時半だから、そんなに慌てなくても大丈夫。仕度したら降りてきてね、朝御飯出来てるから」
「分かった。すぐ行く」
仕度をしながらシンジはこんなことを考えていた。
(しかしこの生活にもなかなか慣れないな)
今までは誰よりも早く起き、寝起きの悪いアスカとミサトを起こし、家事全般を一人でやるという主婦のような仕事をしていたシンジが、いきなり何もしなくて良い普通の男子中学生の生活に慣れろと言うのも無理な話であった。シンジが仕度を済ませて台所に行くと、ゲンドウはもう起きており、新聞を読んでいた。
「起きたか。おはよう、シンジ」
「お、おはよう。父さん」
「どうだ、よく眠れたか?」
「うん。まあね」
「そうか。あと1年ちょっとで中学校も終わりだ。頑張れよ」
「うん。頑張るよ」
(父さんと会話するのにも慣れないな)
今まではネルフの司令という役職のせいか、シンジに迷惑をかけたくなかったせいか、それとも、ただ単に照れくさかったせいか、ゲンドウはシンジと会話をした事はほとんどなかった。しかし、ユイが戻ってきてからは、普通に会話をするようになっていた
「あら、シンちゃん、もう支度できたの?じゃ、朝御飯にしましょうか?」
「そうだな」
「「「いただきます」」」
(いつも思うけど他の人に作ってもらうご飯はうまいよなぁー)
中学生でこんなことを考えられるものはいないであろう。本当にかわいそうな少年である。世界で一番不幸な少年と言っても過言ではないだろう。
「そういえば、シンちゃんって彼女はいないの?」
シンジは飲んでいた麦茶を噴出してしまった。
「げほっ、ごほっ、いきなり何言うんだよ!母さん!」
「あれ、シンちゃん、母さんてっきりアスカちゃんかレイちゃんのことが好きなんだと思ってたわ」
「ち、違うよ!」
「なんだ、そうだったの。じゃあ母さんはまだシンちゃんの彼女の顔を見れないのね、悲しいわ?」
大げさに悲しんで見せるユイを見ては、シンジは何も言えなかった。
「そ、そんな事言ったって…」
(やれやれ、ユイも相変わらずだな)
ゲンドウはユイとシンジのやり取りを、苦笑いしながら見ていた。
「ふふ、冗談よ、冗談」
「か、母さん、僕をからかってたんだね。酷いよ」
「ごめんごめん。もうしないから許して。ね?」
「もうからかわないでね」
「分かってるわよ」
これを見れば分かるように、ユイはシンジをからかうのが大好きなのだ。ユイはこんな調子のいい事を言っているが、3日後には、似たような事をやっているだろう。シンジにはまだそれがわかっていなかった。もう1週間もすれば分かるかもしれない。
ピンポーン
「はーい、ちょっと待ってくださいね。あら、アスカちゃんじゃない。おはよう」
「おはようございます、おば様!シンジ君居ますか?」
「シンちゃんを迎えにきてくれたのね、ありがとう。シンちゃーん、アスカちゃんが迎えに来てくれたわよー」
「分かったー。今行くー」
「じゃあ行ってくるね、父さん」
「ああ、また後でな」
シンジは2階から荷物をとると、急いで玄関に向かった。
「おはよう、アスカ」
「おはよう、シンジ」
「じゃあ行ってくるね。母さん」
「行ってきます。おば様」
「2人とも頑張ってねー」
シンジとアスカが家を出ると、ユイはゲンドウとなにやら話し始めた。
「2人とも行ったわよ。あなた、あの子はちゃんとあの学校に入れたんでしょうね?」
「うむ、問題ない」
「あの2人もきっと焦るわね」
「そうだろうな」
2人が怪しい会話をしている間にアスカとシンジは学校に着いていた。
「学校に来るのも久しぶりだね」
「そういえば、そうね」
「あと少しでこの学校に通うのも終わりなんだね」
「そうね。まさに光陰矢のごとしね」
(てことは、シンジを彼氏にするチャンスもあと1年しかないって事じゃない。早くシンジを彼氏にしないとね。それにはまず…)
「アスカ、ねえアスカってば…だめだ、完全に自分の世界に入っちゃてる」
シンジは妄想を広げるアスカを置いて、教室に向かった。教室では久しぶりの学校という事もあり、朝から騒がしかった。
「おはよう、ケンスケ、トウジ」
「おはよう、シンジ」
「おはようさん、センセ」
「なあシンジ、今日うちのクラスに転校生が来るらしいぞ」
「え、本当?」
「使徒って言ったっけ?そいつらが居なくなったからここももう安全だろ。もともとは首都だしな。こっちに引っ越してくる人も多いらしいぞ」
「ケンスケの情報によると、女らしいで」
「可愛いかったら良いなぁー」
そのシンジたちの会話を、妄想から抜けて教室に来たアスカとレイが聞いていた。
(何?何でこんなに胸騒ぎがするの?)
(嫌な予感がするわね)
レイも補完を完璧に終えた数少ない人間であり、神経などは非常に敏感になっていた。(シンジは鈍いまま)シンジにとっては単に余計な事だったかもしれないが。
「はい、皆自分の席に戻って」
「起立、礼」
「皆さん、お久しぶりです。いきなりですが、転校生を紹介します。転校生といっても皆さんが知っている人ですが」
「うそ……」
シンジは自分の目を疑った。しかし、そこに居るのは紛れもなくマナだった。茶色で少し癖のある髪、緑がかったような不思議な目の色、その綺麗な笑顔も何も変わっていなかった。
(マナは死んだはずなのに……?)
しかし、前に立っているは紛れもなくマナだった。シンジの頭にはまだマナの事が強く残っており、今でもシンジはマナの事が好きかもしれない。それぐらいシンジはマナのことが好きだった。その死んだはずのマナが、シンジの目の前に立っているのである。シンジのショック相当のものがあった。
「また皆さんのお世話になります。霧島マナです。宜しくおねがいします」
「あの娘って死んだんじゃなかったけ?」
「うん。確かそうよね」
「でも、あれ霧島さんだよね」
「ええ、静かにしてください。じゃあ、前と同じく碇君の隣の席に座ってください」
「久しぶりね、シンジ…」
「………」
「どないしたんやセンセ、お前、霧島のこと好きやったんやないのか」
「そういや、あの2人ずっと仲良かったよな」
「あの2人が付き合っててもそんなに不思議じゃないよな」
「シンジ、どうしたの?」
「ああ、ごめん。ちょっとボーっとしちゃって。生きてたんだね。本当によかったよ…」
「積もる話もあるでしょうから、本日はこれで終わりにします。掃除が終わり次第家に帰ってください。それではさようなら」
HRが終わると、クラスメートがマナの所に詰め掛けて、口早に質問していた。マナはその質問を1つ1つ手短に答えると、席を立ち掃除に入った。それを見た他の生徒も掃除に入った。掃除が終わると、マナは真っ先にシンジのところに来て、マナとシンジは一緒に帰っていった。レイとアスカはそれを面白くなさそうに見ていた。
「ねえ、シンジ」
「何?マナ」
「何でさっきから私のことを避けるの?」
「べ、別に避けてなんかないよ」
「嘘よ。シンジが嘘ついてると、顔に出るもの」
「う…」
シンジは観念したのか自分の思っていた事を話し始めた。
「あの時、マナは僕じゃなくてムサシ君を選んだだろ。それなのに今更なんで…」
「それは違うわ!私はシンジに迷惑かけたくなかったから…」
「え?」
「だって私がシンジのところに行ったら、シンジもきっと殺されていたわ。だから私はムサシを選んだの。ムサシなら死んでも良いって訳じゃないけど、シンジが私の為に死ぬなんてことだけは絶対に嫌だったの。だから私は…」
(僕は何て心が狭いんだ。マナは僕のことを考えて、自分の死んでもいいと考えてたんだ。それなのに僕は…)
シンジはぽろぽろ涙をこぼしていた。拭いても拭いても涙は止まることがなかった。
「どうしたの、シンジ?」
「だって僕は自分の事しか考えてなかったのに、マナは…」
(むー、おもしろくなーい)
(このままではまずいわ)
その2人をレイとアスカがジトーっとした目で見ていた。はてさて、誰がシンジのハートを射止めるのか。それは神のみぞ知るといったところである。