絆……
「私には、エヴァに乗る以外、何もないから」
……そう。私には、エヴァに乗って、戦って、そして、あの人の計画のために消える。


それでいいの?

私は、そのために生まれてきたのだから……

なら、運命だからって、命令だからって、すべて諦めるの?

そうするしかないのだから。

本当に?

えぇ。
『綾波、自分にはほかに何もないって、そんなこと言うなよ…』
碇君……?

レイがラミエルからシンジを守ったのは、あくまで「命令だから」である。
そこに個人的な感情は一片たりとも無い……はずだった。
そう、昨日までは。

何故?
何故なの碇君?
頭の中に碇君の言葉が響く。
目を瞑ると碇君のことばかり浮かぶ。
なのに……ちっとも嫌じゃない。
この気持ち、何?

碇君のことを思っている気持ち。
それは消えたくない証。


あなた……ダレ?

あなた……ダレ?


Together

プロローグ 絆

「あなた……ダレ!?」

 自分でもびっくりするほど大きな声で呟いて、レイは目が覚める。

≪夢……?≫

 違う。夢のような気がするけど。
 夢じゃない。夢のようにぼぅっとしていない。
 今でも、はっきりと思い出せる。

≪本当に?≫

 分からない……。
 それでもレイに、考える余裕はない。
 時計を見ると、すでにギリギリだった。

「後2分18秒で出発しないと……」

 授業に間に合わない。
 今までなら、全くそんなこと気にもとめなかった、学校に行けなくてもいっこうに構わなかったレイだが、今日はなるべく早く行きたいと思っていた。
 それは、『碇君に会いたい』とかいう動機だったりするのだが、今のレイには分からない。

 何とか間に合った。


「おはよう、碇君。」
「あ、おはよう。」

≪今日の綾波…なんか…変?≫

 シンジは思った。なぜだか分からないけど、今までと何かが違う。

「先、行ってるから……」
「あ、うん……」

 その疑問は、一緒に歩いていたケンスケによって氷解する。

「おい、碇。お前綾波と何かあったか?」
「べ、別に?」
「だってよぉ、綾波が用もないのに自分から挨拶するなんて、今まで無かったじゃないか。」

 それで、だったのか。
 今日の綾波、なんかいつもと話し方が違うっていうか、なんかほんのちょっと頬も赤かったし。
 そんなレイのわずかな変化を見極めることができるのは、シンジだけである。
 しかも、本人はそのことに気づいていない。

「いったい、何があってん!」

 トウジが吼える。嫉妬の視線を込めて。

「いぃなぁ、ミサトさんのような美人と暮らしてるだけでは飽きたらず…」
「碇ばっかり、うらやましいやっちゃ。」
「そんなぁぁぁ」

 隠し事ができないタチのシンジにとって、このような状況はヤバい。
 口を滑らせて何を言い出すか分からない。
 もっとも、それが彼らの狙いだったのだが……

「あの、その……」
「キーンコーンカーンコーン……」
「そうだ、遅刻するよ!!」

 何とか話題を逸らすことに成功したシンジ。



 ―― その日の午後 ――

「レイ、今日は初号機とのシンクロテストよ。落ち着いてやりなさい。」
「はい……」

≪初号機……碇君の匂いがする……≫

 ぽっと頬が赤くなるのを感じたレイ。
 しかし、ドキドキしているのも収まり、次第に落ち着いていく。


「今日は、シンクロ率が良好ね。特にレイ。」

 手にしたコーヒーをすすりながらつぶやくリツコ。

「ですね、先輩。普段より4〜5%も上がっていますから。」
「不思議ね。この前の戦闘で、肉体的にはまだ本調子じゃなさそうだったのに。」
「何か、あったのかしら?」

 ミサトが何気なくを装い、しかし存分に悪戯っぽい笑みを浮かべて呟く。

 ブッッッ!!

 リツコは思わずコーヒーを吹いてしまった。

「リ、リツコォォ……はしたないわよぉ。」

≪ミサトにいわれるとは…人生最大の不覚ね。≫

 と心の中でつぶやいたものの、実際マヤは目を丸くして、『信じられない』といった面もちで見ている。

「え、あ、う〜ん、レイに限って、それはなさそうね。」
「そう?レイだってお年頃なんだから……」

≪ま、無いとは思うけどね。≫

 さすがミサトも冗談のつもりである。レイにそんな感情があるとは思いもしない。
 実際、今まではなかったのだ。


 テストが終わっても、レイは帰らなかった。
 ジオフロントから上がったところで佇んでいる。
 誰かを待って……いるのだろうか。
 いつもと違い、一見無表情そうでもわずかに困ったような、嬉しいような顔をしている。
 そのとき。


 ザァァァァァァァッ


 滝のような夕立である。

≪雨……?≫
≪夕立なら、自然にやむわ。≫

 が、その夕立はなかなかやまなかった。
 そのとき。

「あ、綾波…?」
「碇君……?」
「どうして、帰らないの……?」

≪待ってて、くれたの?≫

 その言葉を言えるほど、シンジも丈夫ではない。



 しばし沈黙。

「あ、別に、無理していわなくてもいいんだけど……その……」
「待っていたから。」
「だ、誰を?」

 焦るシンジ。

「碇君……」
「え、あ、ありがとう……」

……

 再び沈黙。
 そこで、シンジは大きな過ちに気づいた。
 傘を、忘れたのだ。

「あ、あの、綾波……」
「何?」

 レイ本人は意識していないが、シンジは2段ほど階段の上に立っているので、上目遣いに見るような格好になるレイ。

≪可愛い……≫

 思わず顔に血が上るのを感じたシンジ。
 しかし、そういう場合ではない。決してそういうつもりで呼んだのではない。

「あ、あの……傘、忘れたんだ。」
「それで……もし2本持ってたら、1本貸してほしいんだけど……」

……

 またもや沈黙。

「ごめんなさい、私、1本しか持っていないから。」
「ならいいや。とんでもないことを聞いたね、綾波。ごめん。」

 すまなさそうな顔のシンジ。

「じゃあ、僕帰るから。」

≪まさか、相合い傘なんては言えないしね……≫

 走って帰ろうとするシンジ。
 しかし、レイは突然シンジに飛びつくような格好で引き留める。

「綾波!?!?」
「私の傘に、一緒に入ればいいわ。」

≪ええぇぇ!≫

「いいよ。そしたら、綾波が濡れちゃうし。」
「問題ないわ。」

≪私の傘、二人くらいは入れるもの。≫

そういうと、傘を広げるレイ。

≪あれ…?≫

 レイは内心首を傾げていた。
 確か、自分が持ってきたつもりの傘は、人二人分ぐらいは入れそうな傘。
 しかし、今持っている傘は、どう見ても一人が精一杯である。

≪問題……無いわ。≫

≪いいの? 綾波。≫

「行きましょ。」
「う、その……」

 また上目遣いのような格好でシンジを見るレイ。
 このような状況で、シンジに選択肢はない。

「うん……」

 レイは、ほんの少しだけ、嬉しそうな表情を見せると、傘の中にシンジを入れて、歩き出す。

 さすがに一人用の傘では、相合い傘をしてもお互いになかなか濡れる。
 しかも、世間一般の相合い傘ほどお互いの距離が近くないので、なおさらである。

「あの……綾波?」
「何?」
「このままじゃ……二人とも濡れると思うんだけど……」

 本心から綾波を心配しているから言える言葉である。

「風邪……引くんじゃない?」

「問題ないわ。」

 そういうとレイは、シンジの方にすり寄ってきた。
 お互いの頬がふれ合うほど、お互いの吐息、いや心臓の鼓動すら聞こえそうなほどで近づいていた。
 もう傍目から見ればどう見てもカップルである。

≪あ、あ、あ、あ、あ、綾波ぃぃぃ!!≫

 シンジはもう真っ赤であった。

≪綾波は、一般常識と少しずれてないかな…?≫

 シンジは少し心配になったが、二の腕から伝わるレイの体温を感じて、もう半分以上は上の空だった…。

 それから先はもうシンジは断片しか覚えていなかった。
 レイの部屋まで行って、「さよなら」の挨拶をして、
 レイの部屋を出た頃には雨はすっかりやんでいたことぐらいしか。
 もう気持ちがどっかいっちゃったので、ミサトに「何嬉しそうな顔してんのよ? ははーん、何かあったわねぇ?」などとからかわれても完璧に記憶に残っていなかった。
 そのまま、ふらふらふらっと自分の部屋に入って寝てしまった。

「綾波……」

 くぅぅぅぅぅぅ…すぴぃぃぃぃぃぃぃ……

 紅に染まっていた空は、いつの間にかすっかり暗くなり、
 穏やかに月と星が輝いていた。


To be continued


【次話】

あとがき

 柳井です。
 初めて書いた作品ですね。
 シンジ、うらやましいぞ。いや、ホントに。(^-^;




ぜひあなたの感想を柳井ミレアさんまでお送りください >[yanai_eva@yahoo.co.jp]


【Together目次】   【投稿作品の目次】   【HOME】