Tumbling Dice

Written by tamb

 やあ、シンジ君。いま帰りかい?
 そうか。毎日大変だな。
 誰か待ってるのかい? じゃあそれまでコーヒーでも飲むか。
 いいさ、そのくらい僕がおごるよ。どうせ自動販売機だしな。

 前から気になってたんだけど、君はいつも何か思いつめたような顔をしてるよね。何か悩みでもあるのかな。

 当ててみようか。「僕がここにいても良い理由」って奴だろ。

 そんなに驚く事はないよ。誰だって君くらいの歳の頃にはそんな事を考えるもんさ。僕? もちろん君と同じだよ。まぁ僕の場合は女の子の事を考えている時間の方が長かったけどね。
 …そんなにあきれたような顔をするなって。事実なんだからしょうがない。君だって女の子の事を考えないわけじゃないだろう?

 まぁいいさ。結論? 結論なんかないっていうのが、僕の結論だよ。
 見下したような目で見るなって。こんなのは考え方次第なんだよ。

 じゃあ聞くけど、ここにいてはいけない理由って、何かあるかい? そんな事はないと思うけど、もし君が誰からも必要とされていなくても、誰からも認められていなくても、それがいてはいけない理由にはならないんだよ。君がここにいたいと思うならね。

 納得できないみたいだな。僕はね、自分が生きている意味なんてないって思ってるよ。「僕がここにいても良い理由」なんて知った事かって思ってる。
 驚いたかい。じゃあなんで生きてるのかって? それは僕が生きたいと思っているからだよ。
 いいかい? 生きる意味がなければ死ぬ意味もないんだ。ここにいて良い理由がないならいてはいけない理由もない。だったらいてもいいじゃないか。

 僕はずっとね、人生っていうのはバイクみたいなもんだと思ってた。バイクは走り続けていなければ倒れてしまうんだ。目の前にコーナーがあって、バイクを降りたくなければクリアするしかないじゃないかってね。

 でも最近は思うんだ。たとえ止まっても、足を出せば倒れなくて済む。また走り出せばいいんだ。もしバイクが倒れても、起こせばまた走れる。一人で起こせなければ、誰かの手を借りてもいい。そういうもんじゃないかってね。

 シンジ君のバイクは、きっと止まってるんじゃないかな。それで、もうダメだと思ってバイクを降りてしまった。もしかするとバイクは倒れているのかもしれないよね。でもまだ走れるんだよ。君にその気があればね。

 走っていった先に何があるかなんて誰にも分からないし、そんな事は関係ないんだ。分からないんだからね。分からない事をあれこれ考えて悩むより、走る事を楽しめばいいと思うんだよ。

 …ガラにもなく説教くさい事を言っちまったな。すまないね。まぁ忘れてくれていいよ。僕は人生について思い悩むよりも、可愛い女の子の事を考えている方が好きだからね。
 好きな女の子の事を考えたり隣に座っていられるだけで、人生捨てたもんじゃないって、僕は思うけどね。

 シンジ君は恋をしていないのかい? なんだよ、隠す事はないじゃないか。

 待ち人が来たみたいだよ。彼女は可愛いよね。赤くなるなよ。シンジ君も可愛いぜ。彼女に優しくしてやれよ。彼女の倒れたバイクを起こしてあげられるのは君しかいないんだ。僕はそう思うね。

 彼女によろしく言っといてくれ。今度は恋愛の話でもしよう。同居のお姉さんと気の強い女の子にもよろしくな。



end


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