桜舞う中で


「あ!ミサトさん!」

シンジがお重を開けるや否や、箸を伸ばすミサト

他の人達はただ失笑するばかり

辺りには、リツコが創り出したホログラムの桜が、満開といった感じに咲き誇っている

「ん〜〜〜!!!やっぱりお花見にはシンちゃんのお弁当よね!」

等と桜を見上げながら訳の分からない事をのたまい、ビールのプルタブを開け、一気に喉に流し込むミサト

「ぷっは〜〜〜!!く〜〜〜!!!この為に生きてるって感じよね〜〜〜」

何時もの親父臭さを発揮しつつ、何時ものセリフを吐くその姿に、シンジは仕方ないなーと言った表情を送る

彼にとって、この姉のような女性の行動は当たり前の事なのだ

ただ、分かっていても言ってしまうだけで、それを本気で注意する気などさらさら無い

有耶無耶の内に始まる「お花見」と称した宴会

それはシンジにとっても忘れえぬ物となった





大人達、特にミサトの飲みっぷりを呆れた様に見ながら、自分の作った弁当に箸を伸ばすシンジ

ウーロン茶の入っていたコップが空になった為、新たに注ごうとすると、隣から

「碇君」

そう、レイの自分を呼ぶ声が聞こえてきた

振り向くと、ウーロン茶のペットボトルを持ったレイがそこに居て、シンジのコップをじっと見つめている

シンジはレイの気持ちを悟り、コップを差し出す

トクトクと注がれるウーロン茶

何故だか、レイの表情が嬉しそうに見える

ご返杯とばかりにレイからボトルを受け取ると、レイのコップにウーロン茶を注ぐシンジ

二人は桜を見上げながら穏やかな一時を一緒に過ごす

だが、当然穏やかな時が長続きするはずが無い

二人の所に強力な刺客が差し向けられてくる

紅い髪を翻し、その刺客は二人に最初の一声を放つ

「アンタ達馬鹿〜!?折角花見に来てンのに何ウーロン茶ばかり飲ンでんのよ」

そう言いながら二人からウーロン茶の入ったコップを奪い取り、缶ビールを渡すアスカ

「ア、アスカ!僕達まだ未成年なんだから!」

そう言ってシンジが諌めようとするが

「な〜に〜?シンジ!アンタこのアタシに説教しようって〜の?」

酔ったアスカの言葉と鋭い視線に

「い、いや、そんなこと無いけど」

と、もごもごと答えるシンジ

「・・・・・セカンド、碇君を困らせないで」

毅然とした態度でアスカを諌めるレイ

「何よファースト。アンタ、アタシの酒が飲めないって〜の?」

シンジからレイに標的を変えるアスカ

アスカの視線にも動じた様子を見せず、コックリと頷くレイ

「ほほぅ!良い度胸ね」

アスカの目がキラリと光る

「それじゃ、実力行使よ!」

そう言って、レイに無理やりビールを飲ませるアスカ

レイは目を白黒させながらも飲み込まないように懸命に耐えるが、遂に飲み込んでしまう

一気に赤くなるレイ

色白のレイがほんのりと朱色を帯びる

それが何故か桜と重なって見えてシンジはレイに目を奪われた

だが、それが運の尽きでもある

嫉妬したアスカにこちらも無理矢理ビールを飲まされるシンジ

一気飲みに近い状態で飲んだため、アルコールに不慣れなシンジはすぐに酔いが回った

「ヒック!」

横隔膜の痙攣でしゃっくりが飛び出す

そんな事に子供達三人は爆笑する

なんでもないような事なのに、何故だかそれが非常に面白い事のように感じる

戦闘の繰り返しで荒んだ心が潤うように

お互いの中に生まれていた小さな歪みが修復されていく

アスカと話をしていた時、袖を軽く引っ張るような感じを受けて振り返ると、目の前にはレイの顔があった

重ねられるレイの唇

「い、いきなり何をするんだよ!綾波」

シンジは驚いてレイを引き離す

だが、レイはそのまま笑顔を浮かべると、シンジに抱きついて眠りに就く

余りの事にあっけに取られたシンジが、アスカの怒りに気付かなかったとして、誰が責める事が出来よう

「アンタ!このアタシを差し置いてファーストとキスするなンて良い度胸ね!」

そんな声が聞こえた瞬間、顔を手で挟まれ、強引にアスカの方に振り向かされるシンジ

「覚悟は出来てんでしょうね?」

余りのアスカの剣幕に、シンジは目を固く瞑る

何時までも訪れない痛みの代わりに感じる、唇に触れる柔らかい感触

驚いたシンジが目をあけると、アスカの顔が間近にあった

アスカにもキスをされている事を悟ると、シンジの思考は混乱をきたした

そんなシンジに悪戯っぽい視線を送ると、レイと同じようにシンジに抱きつき、眠りに就くアスカ

左右から伝わる温もり

それはシンジの混乱を静めると共に幸福感を運んでくる

二人の肩に手をかけると、シンジはその暖かさに身を委ね、何時しか眠りに落ちていった

アルコールの力が手伝ったとはいえ、初めて見せる彼らの子供らしさと大胆さに、大人達も驚きながらも束の間ではあるが罪悪感から開放され、リツコが創り出したホログラムでの、とはいえセカンドインパクト後初めてのお花見に、羽目を外して息抜きをする

延々と続く酒盛りの中、子供達は肩を寄せ合って眠る

ほんの一時の楽しさの余韻を引き摺りながら

そんな彼らを包み込むように、ホログラムの桜が花びらを散らす




浅い眠りから浮上し始めるレイ

だが、右側から感じる暖かさに、目覚めることを拒否しようとする本能が働く

無意識の内に、もっと温もりを感じたくて

温もりを与えてくれているであろうものを抱き寄せる

更に己の中に広がる暖かさに、レイは抱き寄せたものに頬擦りをしながら、また浅い眠りへと落ちていく

その寝顔に安らいだ笑みを浮かべながら


後書き


競作企画第2弾、「お花見」です

毎度毎度短いですね(^^;

他の方達と比べて出来上がりこそ早いものの、内容は薄っぺらいかも(−−;

それでは

タッチでした




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