遠回りwritten by yo1
並んで洗い物を済ませた後に、レンタルしてきた映画を観ながら一緒に紅茶を飲むのが二人のお気に入り。 愛する人と過ごす大切な時間。 半月程前から、映画が再生される事が無くなり、シンジとレイが寄り添って紅茶を飲む姿も見なくなった。 お揃いのエプロンを外すと、「お疲れ様」と声を掛け合い、それぞれの自室へと向かってしまうのだ。 −−−−−−−−−− シンジは、机に向かうとパソコンの電源を入れた。ブラウザを起動すると、お気に入りから何時ものサイト に飛んでログインする。チャットラウンジに入室すると…。 「今日は僕の方が早かったか…」 そう呟くと、挨拶文を入力した。 >S:こんばんは。今日は僕が早かったですね。待ってます −−−−−−−−−− レイは、ムクムクの水色のパジャマに着がえると、ベットに横になりノートパソコンの電源を入れた。 「あ…もう来てるのね…」 そう呟くと、挨拶文を入力した。 >R:こんばんは。遅くなって、ごめんなさい −−−−−−−−−− >S:謝らないでよ。僕も来たばかりだから >R:そう >S:あの… >R:何? >S:えっと、その、今日も言えなかったんだ… >R:なぜ? >S:何故って…やっぱり、その、一生の問題だしさ、もし断られたらって考えると勇気がさ… >R:S君の意気地なし >S:意気地なしって…酷いよ… >S:Rさんの方はどうなの? >R:私は…私も言えなかったわ >S:お互い様だね^^ >R:そうね >S:でも不思議だな… >R:何が? >S:偶然ここで知り合ってさ、もう半月でしょ? >S:お互い好きな人の相談し合ってさ、何時の間にかRさんにだと、何でも話せるんだ… >R:… >R:私も同じ >S:これってさ… >R:何? >S:僕ってさ、もしかしてさ、Rさんの事… >R:… >R:私も…何時もS君の事考えてる…気がする… >S:Rさん… >R:S君… >S:ごめん!!変なこと書いちゃって…ごめん >R:私こそ、ごめんなさい >S:やっぱり僕は、彼女が一番好きだよ。愛してるだ >R:私も…彼の事を愛してるわ >R:S君の彼女って…どんな人なの? >S:どんなって…とっても可愛くてさ、綺麗な瞳と髪でさ、言葉数は少ないけど、何時も僕の側に居てくれる >S:前にも書いたけど、僕って料理得意でしょ? >R:ええ >S:彼女も料理が上手になろうと頑張ってるんだよ >R:…同じ >S:何が? >R:私の彼もお料理が上手で、早く私一人で作れる様になって、彼に食べてもらいたいの… >R:美味しいって言ってもらいたいの >S:そうなんだ。大丈夫だよ!Rさんの作った料理を、彼氏も美味しいって食べてくれるよ。頑張って! >R:ありがとう >S:Rさんの彼氏って、どんな人なの? >R:… >R:優しい人… >R:几帳面な人… >R:何時も私を気遣ってくれるわ >S:素敵な彼氏だね。きっと幸せになれるよ >R:うん >S:歩く時ってさ、手、繋いだりするの? >R:うん >R:彼に手を繋いでもらうと…嬉しい >S:僕もだよ。彼女とよく手を繋ぐんだ。彼女と手を繋ぐと、なんて言うか…幸せを感じるんだ >R:私も >S:僕もRさんも、相手をこんなに愛してるのにさ、結婚を切り出せないって切ないね >R:うん >S:何か良い方法無いかな…? >R:… >R:手紙… >S:手紙? >R:そう…手紙に書くの >S:手紙か… >S:ん〜…そうだね。例えばさ、Rさんなら「私をお嫁さんにして下さい」とか?書くとか? >R:お嫁さん!… >R:恥ずかしいわ >S:恥ずかしがってちゃダメだと思うよ… >R:そうね…。S君なら「僕と結婚して下さい」かしら? >S:うっ!…恥ずかしいよ >R:約束して…私も今から手紙を書くわ、だからS君も書いて >R:そして、今日中に渡すの >S:い、今から!? >S:うん…僕も書くよ、そして彼女に渡す。約束するよ >R:… >R:もう…ここでお別れ >S:…うん…そうだね >R:今まで、ありがとう >S:僕の方こそ、ありがとう >S:何だか寂しいな… >R:そうね… >R:彼女を幸せにしてあげてね >S:うん。必ず幸せにするよ。Rさんも、彼氏と幸せになってね >R:うん >S:…じゃ… >R:さよなら −−−−−−−−−− レイが、居間に向かうとシンジが座っていた。半月間座らなかったソファーを暫く見つめてから、シンジの隣 に腰を下ろす。 「あ、綾波!?」 急にレイが隣に来たので、シンジは驚いて何かをポケットに隠した。 「碇君…」 レイは頬を桜色に染めて俯く。 「何?」 シンジがレイの顔を覗き込むと、レイは益々頬を染め瞳が潤み始めた。 「…」 レイがモジモジと腰を動かす。 「あ、綾波。あのさ…その…渡したい物があるんだけど…」 「!?…わ、私も…碇君に渡したい物が…あるの…」 「そ、そうなの?」 思わずシンジの声が裏返る。暫く沈黙した後に、シンジは意を決して言った。 「じゃぁさ。同時に渡そうよ」 レイはコクンと頷くと、シンジを見つめた。 「12の3で、渡すからね? いくよ…1、2、の3!」 シンジとレイは、互いに持っていた物を渡し受け取った。 「…」 「…」 シンジはレイから受け取ったピンクの封筒を凝視した。 レイはシンジから受け取った茶封筒を凝視した。 <なんで?どうして?綾波も手紙くれるなんて…凄い偶然だよ…> <碇君…私と同じ事…考えてた…ドキドキが止まらない…> 「綾波…開けても…いい?」 「碇君のも…いい?」 「も、もちろんだよ。あ、開けるね」 「うん…私も…」 −−−−−−−−−− 並んで洗い物を済ませた後に、レンタルしてきた映画を観ながら一緒に紅茶を飲むのが二人のお気に入り。 愛する妻と過ごす大切な時間。 愛する夫と過ごす大切な時間。 もう決して無くならない時間。 |